東アジア歴史文化研究会

日本人の素晴らしい伝統と文化を再発見しよう
歴史の書き換えはすでに始まっている

中国共産党大会後に不穏な変化の兆候 強権体質の習氏に安易な妥協は禁物(櫻井よしこ)

2017-12-13 | 中国の歴史・中国情勢
「産経新聞」北京支局の藤本欣也記者が11月29日付紙面で、中国軍元高官の自殺を報じた。自死したのは中国人民解放軍(PLA)上将の張陽氏で、先に拘束された徐才厚、郭伯雄両軍人の事件に関連して取り調べを受けていた。

張氏は軍の人事や政治・思想部門のトップを務めていた。このような重要な地位にあった人物の自殺が大きな衝撃を与えていると、藤本記者は報じた。

右に名前を挙げた軍人らはいずれも胡錦濤前国家主席派である。習近平国家主席の下で、胡錦濤派軍人の受難が続いている。

2014年には徐氏、15年には郭氏が、そして16年には田修思氏が、いずれも重大な規律違反の疑いで拘束された。徐氏は起訴手続き中に既に死亡、郭氏は収賄罪で無期懲役が確定済みだ。

田氏は胡錦濤派ではないが、習氏の軍の制度改革に反対したことで逮捕されたらしい。

さて、右の4氏は全員、PLAの上将だ。PLAの最高階級は元帥で、その下に大将がいる。元帥と大将は日中戦争と国共内戦に参加した軍の指導者20人にだけ授与されたが、現在は全員が鬼籍に入っているために空席だと、産経新聞の元北京特派員、矢板明夫氏が解説している。

つまり、大将の下の階級である上将が、現在のPLAの最高階級なのだ。約30人がこの階級を与えられているが、習体制の下で、軍最高位指導者の1割以上の4人が既に失脚している。異常事態だと言ってよいだろう。

中国出身の評論家、石平氏が行った「習近平観察」が興味深い。10月の第19回中国共産党大会で党総書記に再任されて以降、習氏はわずか10日間でPLAの活動に4回も参加したという。

11月4日には迷彩服姿で全軍の指揮を執る演出もしてみせた。翌5日には軍の最高組織、中央軍事委員会が全軍に「軍事委員会の主席負責制を全面貫徹させる意見書」を出した。軍事委員会の全業務は習氏の独占的決裁権と命令権の下で行われるという意味であり、これはPLAを中国共産党の軍から習氏個人の軍隊へと変質させようとしているのだと、石氏は解説しているが、そのとおりだろう。

中国は10月の共産党大会以降、不穏な変化の兆候を見せている。原因は、軍事、政治、経済の全分野で全権力が習氏に集中する構図ができたことだ。

共産党大会での3時間20分の演説で、習氏は党、政府、軍、民間、学校の全分野の隅々に党の考えを徹底させなければならないとしつこく繰り返した。党の考えとは、習氏自身の考えだ。個人の考えと権威を全国民、全組織、中国で活動する外資系企業、外国人を含めた全てに徹底させようとする姿勢は、北朝鮮の金正恩氏と全く同じである。

習氏の考えを中国の国民や中国企業を超えて、外国企業とその社員にも徹底させるために、習政権は外資系企業も含めて全企業の内部に、共産党の「細胞」を置くことを求めている。

細胞とは共産党特有の表現で、企業をはじめ、共産党が狙いをつけた組織の中につくられる先鋭部隊のことだ。その設置目的は党の考え方を広め、党の意向を経営や人事、方針に反映させることだ。西側社会では当然の自由な企業経営や発想は、許さないという意味でもある。

21世紀とは思えないこの時代錯誤の要求に、中国内で活動する外資系企業の既に7割が応じているとの報道がある。その一方で米国通商代表部のライトハイザー代表は9月時点で中国共産党の要求する指針は「WTO(世界貿易機関)の大地殻変動につながる」と警告した。

在中国のドイツ商工会議所も11月、中国市場からの撤退を含めた警告を発した。日本はまだ明確に反応していないが、強権体質の習氏の中国に安易な妥協は禁物である。

『週刊ダイヤモンド』2017年12月9日号

最新の画像もっと見る

コメントを投稿