カヤックと過ごす非日常

大人は水辺で子供に返ります。男は無邪気に、女はおバカに。水辺での出来事を通してそんな非日常を綴っていきます

974. 初漕ぎ水郷 ― 龍神様の初詣

2022年01月19日 | Weblog

声をかけてもらうまで、「カヤック」なんて言葉があった事さえ忘れてしまいそうなほどにご無沙汰している。週一で出かけた年もあったがそれも今は昔。そんな時代があったねと語り合う友も会ってまず第一声は「お久しぶり! 元気だった?」。

そんなメンバーが集っての初漕ぎは龍神様への初詣。その年初めてどの神様でも良いので神様にお参りするのが初詣なのか、その年初めて「その神様」に詣でるから初詣なのか。面倒な講釈はおいておいて、びわ湖に続く水郷の神様にお参りに行くことになった。そんなある日の記録。

 

初漕ぎの場所の候補はいくつかあったが、今の時季、風や雪の事を考えると水郷が一番無難だ。なんてことを言っては罰が当たるか。いやいや、本当の理由は、今年一年の水辺の安全を願うには龍神様を置いては他にはない、ここが一番、ここしかない! と言う理由で水郷漕ぎとなった。

集合場所への道々、田畑には真っ白に霜が降りている。水郷の雪、残っているかな、雪見カヤックできるかな、と期待して行く。久しぶりのカヤック、集合時間よりだいぶ早く行ったのだが、すでにファルトを組み立てているメンバーがいる。気合の入れようが違う。別のグループの人も2人漕ぎ出すようだ。挨拶すると同じ街の人たちだった。スーパーで、郵便局で会っていたかも知れないと思うと、初めてあいさつした人が顔馴染みのように思えて来る。

そうこうする内にメンバーが揃い、今回は漕がないがカメラマンとして来てくれたメンバーに見送られ、今年の初漕ぎ初詣に漕ぎ出した。

  

思いの外暖かく、つるりと穏やかな湖水。皆、寒いと思ってかなり着込んできたが、漕ぎだして程なく、着す過ぎた、と後悔の声が上がる。 水に浮かんで、さてどっちに行くか。まずは龍神様だろう。

お馴染みの、しかし久しぶりの水路に入る。まだヨシ焼が済んでいないヨシ原は迷路の雰囲気を作り、龍神様のお社も隠している。あの先にあるのだが。

お久しぶりです、龍神様。前回お会いしたのは去年の4月でしたね。お変わりなくお過ごしのようで、何よりです。

初めてこの龍神様を知ったのは15年前。以来春に、夏に、秋に、冬に、何度となくお参りした。お社も、デッキも、傍に立つ木も、赤い幟も、少しずつ変わって来た。一番大きく変わったのはあの木だろうか。

以前の木が枯れ、新しく細く弱々しい木が植えられてから9年だろうか。今では立派な守木となって来た。頼もしい。

変わったと言えば赤い幟旗も。15年前、初めて見た時は「よしの大竜神」と「竜」の文字だった。それから何年かごとに「龍」の幟になりまた「竜」になったりしてきた。そして今は「龍」の大龍神でいらっしゃる。その移り変わりもまた水郷の歴史なのだろう。

と、おや? あそこが光っているのだが・・

雪見をするには物足りない雪だったが、思いがけず氷が張っている。厚さ5ミリほどだろうか、パドルで叩くとパリン、ジャキジャキ、と割れる。カヤックで割るにはいい塩梅の氷だ。

氷と見たら、割らない訳にはいかない、当然だろう。ジャリジャリー、ガリガリ―、バリバリ―と小気味いい音を立てて割れていく。メンバーが口を揃えて、子供の頃は氷は必ず割っていた、と言う。人は、氷は割るものだと言う潜在的な意識が、大人になっても消えてはいないようだ。

水郷の氷はパリンと割れるが、以前精進湖でガツンと言わせて割ったこともある。いや、この厚さは私が割った物ではないが。

思いがけずの砕氷カヤックは今回の水郷ツーリングで3か所もあった。ファルトの人は指を咥えて残念がった事だろう。それとも、「カヤックで氷割り」なんてどこが面白いのか、訳わからん。と思って見ていたか。そんなこんなの砕氷カヤックも水路を進めばまた穏やかな水面。

今日は観光船に一隻も出会わない。船頭さんの漕ぐ櫓の軋みも聞こえず、ヨシキリの声も聞こえず、氷を割る音がしなくなると、パドルから滴る水音さえもしなくなる。

小さな橋の下で何かが動いている。

光と水とが作るこんな網目模様、ひとときも止まることなくユラユラ、ザワザワと動いている。波紋、風紋、水紋・・。この水模様に正式な名前があるのだろうか。

こんな模様が好きな人は結構いる。私もその一人。いつだったか、もうずいぶん前の事になったが、ある人に、カヤックのステップアップ講習をお願いしたことがあった。何回かの講習の後に終了証が出たのだが、言い出しっぺの私はその第1号。公の講習会ではなく、ちょっとしたお遊び(と言っては担当者に失礼か)のつもりでお願いしたことだったのだか、その後の私のカヤックライフに大いなる宝を残した。その時の修了証の模様が心に響き、今も大切な思い出の一つとなっている。 その後、第2号、3号が出たのかどうか、定かではないが。

「頭隠して尻隠さず」の木。芽吹きなどまだまだ先の事だが遠目にも枝先の膨らみが感じられる。年々見事な扇形になる。沈船も変わりなく沈み、青葉の茂る頃には水郷の名所の一つとなるだろう。

お馴染みの太鼓橋。ここにも氷が張っていた。当然割って行くが、あきれ顔のメンバーもいて、砕氷カヤックは未練を残して去ることにした。

屋形船が通る時はローカルルールのようなものに配慮してコース取りするが、今日は休業のようだ。いつもと違うイレギュラールートで戻る。戻れば早速にぜんざい休憩。

あったかぜんざいをすする頃、風が出てきた。午後も漕ぐつもりでいたが、波立ち始めた水郷を前に、午後の部却下、と言い放って帰り支度となった。

 

漕いだ距離は短かったが、暖かな穏やかな日に、初漕ぎと初龍神詣と初砕氷と、今年のカヤック初めをめでたく終えた日だった。 今年はきっと良いカヤックの年になるだろう。