つい先日行ったばかりの海へ、「まだ見に行きたい所を残していたので」と言う名目にして、また、その海に漕ぎだした。もう、当分は行かなくてもいい、と言う海を漕いだ日の記録。
前日の晩は、久しぶりにテントを張った。いつもは屋根付き、エアコン付きの建物で寝るのだが、このところ夜はめっきり涼しくなり、海辺のテント泊も快適な気候となって来た。それならば、と久しぶりにテント泊にした。
夜、小雨が降ったがテントに当たる雨音も優しい子守歌のようで、快適な一夜を過ごした。
夜明け前に起きようと思っていたが、ぐっすり眠った朝は気がつけばすでに明るく、モヤもだいぶ晴れていた。
靄(もや)、ガス、霧、それらひっくるめた気象用語もどきの判別は専門家に任せるとして、ここの海と山と木が雨上がりの白い綿に覆われる様子は誰をも一端の写真家にする。そんな光景に出会うため早起きしようと思っていたのだが、テントの誘惑に負けて、寝坊してしまった。私としたことが・・
まぁ、それは良いとして、今日は今年最後となるかもしれないシュノーケリングをしようと、海中公園のような水辺に行くことにした。
したのだが、さて移動の時になり何と、相方さんの車が不調の事態。動くことは動くのだが無理はしない方が良いので、ならば、「また!」この湾となった。
また、とは言うものの、前回も前々回も行きたいと思いながら行かず終いの所があるし、だいぶ前に行ったきりで久しぶりに行きたい所もあるし、「また」の海も良い海だと漕ぎだす。
ほんの一漕ぎで最初の目的地に着く。
どこにでもある、ありふれた浜。ここにいったい何があると言うのだろう。この海を漕ぐカヤック乗りは大勢いるが、ここに上がる人はおそらくいないだろう。誰もが知っているが、誰も知らない秘密の浜。
アマゾンの密林を思わせるハマゴウの藪。こんな藪に分け入る人がいるのだろうか。いや、ここにいる。相方さんと密林攻防のルートを探り行けば、あ、見えてきた!
2年ぶりの懐かしい石碑。藪の奥は少し開けた林。覚えておいでだろうかこの石碑。昔、神社がここにあったと言う記録の石碑。
私が初めて見たのは6年前だが、この石碑が立てられたのは大正3年とあるので100年以上前の物。神社はさらに昔にここにあったようだ。最寄りの集落からもだいぶ離れ、ここに来る道も今は定かでないが、林の奥には鳥居跡かと思われる礎がある。
どうってことのない、地元の古老でさえ知らないどこぞの神様の神社跡。これもまた大切な古い友人である。静かな眠りを邪魔しても悪い、そっと挨拶をしまた来ますと振り返りながら後にした。
林からは、今漕いで来た、先日漕いだ、何度も漕いでいる、お馴染みの海が見える。多くのカヤックがこの岸を通るが、この林から突然手を振ったら、驚くことだろう。あの石碑を知ったら、さぞかし驚くだろう。
と、
思うのは私だけのようだ。他の人に話しても、誰も興味を持たない。もったいない話だと思うのだが、かえって私だけの秘密の宝にできて、良いのかもしれない。郷土史研究家が詳しく聞きたい、と言うのであれば、明日にでも飛んで行ってお話しするのだが。
灯台の見える岸から灯台を目指し、これもまた久しぶりに真下から見上げ、次の目的地へ。そして「塞の神」
小さく祀られた神様だが、入り江の入口に、これ以上はっきりとした場所はないと言わんばかりの岩場においでになる。どうぞ、港の、町の、海の災いを塞いでくださいと手を合わせる。
シュノーケルをしようと目指した岸は、外海に近い割には水が濁っている。おかしいな、と言いながら湾に戻れば、あちこちにウニの大群。
正しくはこれがウニなのか、ガンガゼなのかわからないが棘が短いのでウニだろうか。いずれにしてもウニの仲間であることは間違いない。しかし小さい。 ウニやサザエ、アワビなどは勝手に獲ると密漁となるが、その場所にもよる。以前、とある河口で橋脚に付いているウニについて地元漁協に聞いたことがある。食べられないことはないが身が少なく、食べても美味しくはない。だから漁師は獲らないのでほしかったら持って行って良いとのこと。この海はどうだろう。これだけうじゃうじゃいると言う事は、やはり誰も食べようとは思わないようだ。
そう言えば、何かに似ている、何だろう。そうか、「まっくろくろすけ」にそっくりだ。まっくろくろすけは食べられない。
ここのガンガゼは大きい、今までにない程大きい。食べ応えがありそうだ。ガンガゼも意外とおいしいと言うが、それもまた、「食べた」と言う話を聞かない。毒針の危険を冒してまで食べる価値がないということか。
それにしてもここのガンガゼは威勢がいい。目(私は目と言っている光る点)がギンギン・ガンガン光るだけではない。赤や青の光がチカチカ点滅し、いや、ぐるぐる回り、まるでパチンコ店の看板のようだ。これは動画に撮らなくては。とカメラのスイッチ入れようとしたが・・
ここで重大事件勃発! 愛用のカメラが作動しなくなった。せっかくのガンガゼが。その後のシュノーケリングの時には、熱帯魚のようなカラフルな魚の大群もいたのだが、全くもって残念なことになった。
漕ぎ終わり、何度もスイッチを入れてみたが、やはり動かない。おまけにバッテリーも抜けなくなった。そして修理代がべらぼうに高いと知った。
4年ほど使ったGPS付きGショック防水カメラ。ちょっと重いが使い慣れたカメラ。カヤックの軌跡にも水中撮影にもこれがないと非常に困る。後日、思案して、中古だが同じ機種を手に入れた。
その機能を使いこなせていなかったが、落としても海に浸けてもタフなカメラだった。本当にお世話になった。古いカメラに、これまでありがとう、お疲れさまでした。 新しい?カメラに、これからがんばってください、よろしく。と言って記念写真を撮る。
別れと出会い、いろいろな場面であることだが、今回はちょっと高くついた。さて、次はどこで撮ろうか。