漕ぎの予定の前の日、明日の風予報を見ていた人が
「7とか8とか・・」と言う。風速7メートルとか8メートルとかの予報が出ているというのだ。小さな入り江の中なら8メートルの風ではうねりもないし白波も立たない。しかし突風と言う風が吹く。漕げない風ではないがこんな日には漕がない。
翌朝、昨日漕いだ海に風が走り足跡が残る。やっぱり今日は漕がない。
静かな様に見えていて
本当は風のブレイクダンス
あっちでクルリ
こっちでサササー
こういう風も沈するのです
サミット会場まではほんの一漕ぎ。もうじきこの辺りの警備も厳重になるだろう。こんな風の日にあえて海に出ると「職務質問」にあうかもしれない。それはそれで面白い?
いや、警察のお仕事増やしてはいけないな
と言うことで、今日は陸漕ぎとする。
小さな岬の先端は、知る人ぞ知るのビューポイント。
ドローンを持った人がいた。この辺りならきっと素晴らしい景色が撮れるだろう。しかし、景色だろうか、警備だろうか、それとも・・
この日から何日かして、この辺りでのドローン飛行は禁止となる。その前の駆け込み撮影だったのかもしれない。
久しぶりの道を通って初めての海辺から懐かしい景色を見る。
アオサの網が干してあります
この海のアオサは
もう収穫が終わったようです
きっと香ばしく生まれ変わって
いることでしょう
向こうに見えるのは渡鹿島。去年巡った岸、あの大きな建物も懐かしい。その島を臨むこの岸には初めて来た。あの島を漕いだ時、必ず見ていたはずのこの岸を、全く思い出すことができない。
「見れども見えず」、そんな事がどれだけあるだろう。「行けども思い出せず」、そんなことも多くなってきた・・・
山の路を走る。山とは言っても山中ではない。見晴らしのいい、スカイウェイの道だ。途中に路肩の展望所やレストランのある展望台もある。眼下には白波立つ太平洋、地球が丸いと知る水平線が広がる。
そしてこんな景色が現れる。
海のあおさ、空のあおさ、山のあおさ、木々のあおさ。 青、藍、碧、蒼、紺、それぞれの「あお」にはどの字が相応しいのだろう。際限のない色の数に当てはめるには字が足りない。
高台の展望所は飛ばされそうに強い風。その風が白波となって飛び跳ねる。向こうに見える島のむき出しになった山肌から煙のように土埃が舞い上がる。風が唸る。
更に道を進むにつれ、あちこちに「牡蠣食べ放題」・「カキ詰め放題」・「かき定食」・「かき・・」
と看板。それで初めてこの地が牡蠣の産地と知る。
牡蠣? それは食べなくては! と、今日はカキフライ定食に焼きガキのランチ。
ジュ、ジュワジュワ~
いい匂いがしてきます
おまけがたくさんついて
おじさん、
どうもありがとう!
店のあるじが解説しながら焼いてくれる。このカキも今月で終わりとのこと。最後の良い時期に来た。口の中に、喉の奥に、カキのとろりとした感触がいつまでも消えない。
そんな余韻を残して、車を進めると、こんな神社が見えてくる。
浦神社
そびえ立つ大岩を屏風にして
海辺に建つ神社です
鳥居の奥の階段には
草履があります
ここは下足禁止の神社なのでしょう
時々あるが、社の前の石段に草履が置いてある。こういう時は「この先は、素足あるいはこの草履で行くように」と言う意味だ。私たちも靴を脱ぎ石段を上る。上がった先には小石が敷かれ、歩き始めは足裏を突く小石が気持ち良かったがじきに、あいたたっ!と声が上がる。
その先に岩から滴る水。「目薬の水」とのこと。ご利益やいかに。
伝説、民話、もっと昔の神話。「水質検査」など言う言葉が存在しなかった昔には「ご利益」と言う言葉がこの水の効能を保証するものだったのだろう。 化学分析機器が発達した今でもその神がかり的な言葉に惹かれて人が訪れるのは、薬学では説明のできない不思議な効能があるからか、そうあってほしいと願うからか。
それは神の領域なのだろう。私が立ち入る所ではない。 私はただ手を合わせ「今回の旅も無事に終わりますように」と、お門違いのお願いをする。
良く晴れた風の強い日、こんな日には空も海も一段と青くなる。
今日見た海はいつか漕いだ海でありこれから漕ぐ海でもあった。陸から見た海を海から見る日までしっかり記憶の引き出しにしまっておこう。
今日の最後の出し物としてオオシマザクラを見に寄った。このところの暖かさ、きっと咲いているに違いない、と期待していったのだが、大木に数輪が開くのみだった。あと3日後ならきっと見事に咲いていただろうに、と残念至極だった。
あぁあ、また来年か・・
残念桜の前で今日のイベントは解散となった。 家路の途中、海辺の喫茶店に入る。何度も通ったが時間が合わず、ずっと気になっていた店だった。 今日はまだ陽も高い、ちょっと偵察がてら寄ってみよう。
一風変わった、と言っては失礼だろうか。しかし店のあるじが「よく入れましたね、怖くなかったですか。初めての人は入るのをためらった、と言うんですよ」と言う。
そう言われれば、そうかもしれないが、私好みの、ちょっと秘密の隠れ家的な店だった。 「廃校になった小学校の机」を思い起こさせるテーブルで、あるじが私のためにかけてくれた曲に聞き入って貸し切りの時間に浸った。「秘密の隠れ家」、また1つ増えた。
朝、向こうの湾で暴れていた風は、夕方、この入り江の中にも押しかけている。
右往左往している風
見えないと思ってか
好き勝手に暴れている
丸見えですよ、風さん
そう言えばこの道、前にも通ったことがあるなと言う道、
こんな所にこんな道があったとは、と初めて通る道、
知っていはいたけれど、勇気が出なくで通れなかった道、
まさかこんな道、通る車はいないだろうと思われる秘境道、
両側の枯れ枝が車体の横をシャーと鳴らして行く極細道、
まぁ、いいっか、すでに傷だらけだし・・
今日も又いろんな道を行った。4年で10万キロを走った「マロン」にはもはや怖い道などないのだろう。
あ、片道3車線以上の道と、ジャンクションが続く道と、車線変更できなかった道と、右左折専用レーンに入り損ねた道と、横から合流のある道と、踏切の手前に上り坂がある道と、
そんな道は、さすがのマロンでも、苦手なようだが・・
いい日だった。 風の日の海辺の過ごし方、こういう過し方もカヤック旅。