漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「于ウ」 <曲がる> と「宇ウ」「芋ウ」「迂ウ」「汚オ」「樗チョ」

2023年02月25日 | 漢字の音符
  増補改訂正しました。
 ウ・ク・ここに・ああ  ニ部

解字 甲骨文第一字は曲がる形の象形だが、何の象形か不明。第二字は于の右側に沿って描かれた線が走る繁体の字で呼気が走る形とされる。意味は、曲がる意でなく仮借カシャ(当て字)され、対象や所在を示す助辞として用いられている。繁体は呼気が走る形であり、口から呼気がもれる感嘆や嘆息の意味となる。しかし、両者が特に区別されて用いられる訳ではない。金文も甲骨文字と同じで2種類ある。篆文で亏の形になったが、現代字は于に戻った。于を音符に含む字は「曲がる」イメージをもつ。
意味 (1)ここに(于に)。語調をととのえる語。(2)~に。~において。~より。「于役ウエキ」(①役に行くこと。②君命で他国に使いする)「于越ウエツ」(越の国において」 (3)ああ。詠嘆や歎息の声。「于嗟ウサ・ああ」(嘆息や感嘆の声) (4)姓のひとつ。于姓は黄河流域から全国に拡がった姓氏の一つ。西周初年に西周姬姓の周武王の子・邘叔ウシュクが 于邘ウウ国(河南省)を封じられ以後その子たちが于姓を名乗った。
于姓のマーク(ネットの検索画面から)
鳥が羽ばたくような形の中に繁体の于を入れ、横に立ち姿の人を描く。

イメージ
 「于の繁体(息をはく)」(吁)
 「まがる」(于・盂・迂・紆・汚・雩・樗)
 「おおきい」(宇・芋)
 「形声字」(竽)
音の変化  ウ:于・吁・宇・盂・迂・紆・雩・芋・竽  オ:汚  チョ:樗

于の繁体(息をはく)
 ウ・ク  口部
解字 「口(くち)+于(息をはく)」の会意形声。口から息をだして、嘆いたり、感動・感嘆したりする。繁体の于の代わりに口をつけて息をはく意を表した。
意味 (1)なげく声。「吁嗟ウサ」(①なげく声。②嘆息する声)(2)感嘆の声。「吁吁クク」(①感嘆の言葉。②仕事の掛け声)

まがる
 ウ  之部
解字 「辶(ゆく)+于(まがる)」の会意形声。まがって行くこと。
意味 (1)まがる。とおまわりする。「迂回ウカイ」(まわり道する)「迂遠ウエン」(遠まわし。まわりくどい)「迂曲ウキョク」(うねうねと曲がる。=紆曲) (2)うっかりする。にぶい。「迂闊ウカツ」(うっかりする)「迂鈍ウドン」(うとくてにぶい)
 ウ・まがる  糸部
解字 「糸(いと)+于(まがる)」の会意形声。糸がまがりくねる状態をいう。
意味 まがる(紆がる)。まげる。めぐる。「紆曲ウキョク」(うねうねと曲がる)「紆余ウヨ」(紆は、まがる。余は、あまる。曲がりくねってはみだす)「紆余曲折ウヨキョクセツ」(まがりくねること)
[汙] オ・けがす・けがれる・けがらわしい・よごす・よごれる・きたない  氵部

解字 正字は汙で、「氵(水)+于(=亏。まがる)」の会意形声。この于は、くぼんでまがる意で、汙は窪んだ水たまりの意。水たまりは、よどんできたなくなることから、よごれる意となる。現代字の汚は、汙の異体字であったが、新字体で正字となっている。
意味 (1)よごす(汚す)。よごれる(汚れる)。「汚染オセン」 (2)けがす(汚す)。けがれる(汚れる)。「汚職オショク」 (3)きたない(汚い)。「汚水オスイ
 ウ・はち  皿部
解字 「皿(食べ物を盛るうつわ)+于(まがる)」 の会意形声。内側が上から曲がりこんでいるうつわ。曲がりこんだ深みのある皿で、飲食物を盛る器をいう。
意味 (1)はち(盂)。わん。飲食物を盛る器。わんの形。「盂方水方ウホウ スイホウ」(容器の盂が方形ならば、そこに入れた水も方形になる)「腎盂ジンウ」(腎臓で生成された尿がまず集まる袋状の部分) (2)梵語「ullambanaウランバナ」の音訳字に用いる字。「盂蘭盆ウラボン」(「倒懸トウケン(さかさにかける)」の音訳。祖霊を死後の苦しみの世界から救済する仏教行事。日本の民間行事では祖霊祭の要素が強い)「盂蘭盆会ウラボンエ」(陰暦7月13日~15日に行なわれる死者の霊をとむらう仏教行事)
 ウ・キョ  雨部
解字 「雨(あめ)+亏(=于。まがる)」の会意形声。雨の中に曲がってかかる虹。転じて、あまごいの意となる。
意味 (1)夏の雨ごいの祭り。雨ごい。「雩祭ウサイ」(雨ごいの祭り)「雩帝ウテイ」(天を祭り雨ごいをすること)「雩禳ウジョウ」(雨ごいしはらう)(2)にじ。 
 チョ  木部 
解字 『說文解字注』は、「樗は悪木也(なり)」とし、「今之(の)臭椿シュウチン樹、是(これ)也。木に從(したが)い、雩聲(声)。発音はチョ(丑居切)とする。しかし、樗は臭椿とされるものの、この木に限定されるのでなく大木という意味がつよい。それは、雩が雨乞いの意味をもつことと関係している。日本で雨乞いの木として知られる木には「雨乞のイチョウ」(宮城県柴田町)や「雨乞いの楠(くす)」(今治市大山祇神社)などの大樹が多い。中国ネットで「祈雨樹」で検索すると、楡(にれ)・榕樹(ガジュマル)・梧(あおぎり)・橡(くぬぎ)などの大樹が出てくる。要するに樗チョとなる木は、木材などに適しないため伐採されず大きくなる。大樹となり信仰を集め、またこうした木には毛虫があつまり蚕や繭(まゆ)となり蛾となって飛び回る。「樗櫟チョレキ」という熟語もある二字は大樹を象徴する。

樗蚕チョサン(「立足植保 服務園林」より)
樗の木に付く毛虫・幼虫(上)と成虫になった蛾(下)。蛹(さなぎ)から羽化すると茶色模様の蛾になる。この虫がつく樹は写真の説明によると臭椿以外に銀杏・槐樹エンジュなど合計13種類を挙げている。
意味 (1)臭椿シュウチンの木。日本で二ワウルシ。臭椿は成長が早く、庭木、街路樹、器具材などに用いられる。根皮や樹皮を樗白皮(ちょはくひ)の名で漢方薬(解熱・止瀉・止血)とする。「樗蚕チョサン」(樗の木に付く蚕。特に成虫になった蛾をいう) (2)材木として役に立たないことから。散木。雑木。無用の木。「樗材チョザイ」(無用の木)「樗朽チョキュウ」(無用のもの)「樗櫟チョレキ」(樗の木と、くぬぎの木。いずれも役に立たない木)「樗散チョサン」(役に立たないもの。散は散木サンボク=材木として役に立たない木の意)(3)「樗牛チョギュウ」とは、樗木(役に立たない木)と斄牛リギュウ(雲のように大きな牛)で役に立たない大木の樗と、大牛である斄牛のこと。大にして無用なもの。「高山樗牛チョギュウ」(明治時代の文芸評論家。小説家。)

おおきい
[㝢] ウ・のき・いえ  宀部

解字 甲骨文字は建物の中に于がある形で[甲骨文字辞典]は、「祭祀を行う場所として記されている」とする。金文第一字は「 宀(建物)+于」の形、第二字は「宀(建物)+禹」の形。于と禹は同音であり、同じ意味で使われた。金文は、①居住(すまい。建物)、②宏大(ひろく大きい)の意味に用いられている。禹は古代中国の夏王朝を開いた伝説上の王の名で、「禹域ウイキ」といえば禹王が治めた国土の意から中国の別名とされており、これに宀(建物)が付いて、大きな建物のほか、天下・天地四方という意味が生まれたものと思われる。この字は篆文まで残ったが、以後は宇に統一された。㝢は異体字となっている。
意味 (1)のき(宇)。ひさし。やね。いえ(宇)。おおきな屋根で覆われた家。「屋宇オクウ」(いえ。家屋)「堂宇ドウフ」(堂・殿堂。また、堂ののき)「玉宇ギョクウ」(大理石の大きな建物)「廟宇ビョウウ」 (祖先や貴人の霊をまつる建物) (2)<転義> 天下・天地四方。すべての空間。「宇内ウナイ」(天下・世界)「宇宙ウチュウ」 (3)空間的な広がり。大きさ。「気宇キウ」(心のひろさ。気がまえ)(4)「器宇キウ」とは、風采・風貌のこと。「器宇軒高キウケンコウ」(堂々たる風貌)
 ウ・いも  艸部
 大きなサトイモの葉
解字 「艸(草)+于(大きい)」の会意形声。大きな草の意でサトイモの葉を指し、その地下部分(塊茎)を食用とするサトイモをいう。
意味 いも(芋)。特にサトイモ。また、ジャガイモ・サツマイモ・ヤマイモなどの総称。「里芋さといも」(畑で作るイモ。葉は大きく葉柄は太く長い)「芋茎ずいき」(サトイモの茎)「薩摩芋サツマいも」(中南米原産の芋。日本へは17世紀に中国・琉球をへて薩摩に伝わった)「焼き芋」(焼いたさつま芋)「芋粥いもがゆ」(さつま芋などを小さく切って入れた粥)「じゃが芋」(「ジャガタラいも」の略称。慶長年間にジャカルタより渡来したという。)

形声字
 ウ  竹部

解字 甲骨文字は吹き口のついた笛を描き、中に「于」を入れた字。于という名の笛を意味する。甲骨文字の時代から文字があるので、よほど知られた笛だったのだろう。墓から出土の実物は湖南省博物館に保存されている。金文は「ふえ」の意味である龠ヤクの横に于をつけた形になった。篆文は「竹+亏」の形になり現在は「竹+于」の竽となった。従ってこの字は「竹に従い于声」の形声字で、ウという竹製の管楽器の意。竹の楽器である笙ショウが何本もえているような形の管楽器)より一回り大きく音も低い。
 竽(湖南省博物館)
意味 笛の一種。笙ショウの大きなもの。後漢の[説文解字]は36管とする。前2世紀の馬王堆(マオウタイ)漢墓出土の竽は高さ78㎝で、竹の管が22本ある。管が長いため音が低い。日本の正倉院所蔵の笙・竽はともに17管で、この竽の音域は笙より1オクターブ低いものであった。[ウィキペディアによる]。
「竽笙ウショウ」(竽と笙。ふえの意)「竽瑟ウヒツ」(竽は笙より大きい、瑟は琴より大きい。ともに低音を担当する楽器)「吹竽スイウ」「鳴竽メイウ」「濫竽充数ランウジュウスウ」(濫りに竽を吹き、数に充当する。多くの竽を吹奏する場に、うまく吹けないのに数合わせで参加すること。転じて、実力の無いものが地位についていること)
<紫色は常用漢字>

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