漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

隠されていた音符 「此シ」 の暗号と「雌シ」「紫シ」

2020年01月19日 | 漢字の音符
   シを追加しました。
 は、「これ・この」の意で用いられるが、雌(めす)・嘴(くちばし)・眦(まなじり)・髭(ひげ)・貲(あがなう)の字に使われる此には、隠れた暗号があった。 

     シ <背をむけて立つ人>
 シ・これ・この  止部

解字 甲骨文から現代字まで、 「止(あし)+ヒ(背をむけた人の形)」の会意形声。ヒは北ホク(二人が背を向けた形。北を参照)の右辺と同じで、背を向けた人を表す。これに止(あし)をつけた此は、背をむけてじっと立つ人の意。しかし、もとの意味でなく、之と同声のため「これ・この」を示す助字に仮借カシャ(当て字)された。
意味 (1)これ(此れ)。この(此の)。ここ。近くの事物をさす語。「此岸シガン」(この世)「此処ここ」「此方こちら」 (2)かく(此く)。このように。「此くの如し」

イメージ 
 「この・これ」
(此・些) 
 「背をむける」(雌・觜・嘴・眦・髭・貲)
 「同音代替」(疵・茈・紫・砦・柴)
音の変化  シ:此・雌・觜・嘴・眦・髭・貲・疵・茈・紫  サ:些  サイ:砦・柴

この
 サ・いささか・すこし  二部
解字 「ニ(ふたつ)+此(この)」の会意形声。この二つのもの。すくない。すこしの意。
意味 いささか(些か)。わずか。すこし(些し)。「些細ササイ」(細かく小さい)「些事サジ」(つまらない事)「些少サショウ」(すこし)

背をむける
 シ・め・めす・めん  隹部
解字 「隹(とり)+此(背をむける)」の会意形声。オスの鳥に背をむけて交尾するメスの鳥。
意味 (1)めす(雌)。「雌鶏めんどり」「雌雄シユウ」 (2)かよわい。「雌伏シフク」(しばらく他人の支配に服してたえる)⇔「雄飛ユウヒ
 シ・スイ・くちばし・はし  角部 
解字 「角(つの)+此(背をむける=逆向き)」の会意形声。角に対し、もう一つ逆向きの角が合わさる意で、猛禽類のように角が向きをかえて合わさっている形の鳥のくちばしをいう。
意味 (1)くちばし(觜)。はし(觜)。鳥のくちばし。「觜距シキョ」(鳥のくちばしと、けづめ。戦うときの武器にたとえる) (2)くちばしのような形。「觜鼻シビ」(くちばしのような鼻。とがってみにくい鼻)「砂觜サシ」(=砂嘴) (3)とろきぼし。二十八宿の一つ。「觜宿シシュク」(とろきぼし。オリオン座の北部) 
 シ・くちばし・はし  口部
解字 「口(くち)+觜(くちばし)」の会意形声。觜(くちばし)に口をつけ、くちばしであることを、分かりやすく示した字。
意味 (1)くちばし(嘴)。はし(嘴)。鳥の口さき。「嘴太鴉はしぶとがらす」 (2)くちばしのような形。「砂嘴サシ」(沿岸流や波浪によって運ばれた砂が海岸から鳥のくちばしのように突き出た地形をいう)
眥[眦] シ・サイ・まなじり  目部
解字 「目(め)+此(背をむける=反対側)」の会意形声。目もとの反対側にある目尻。
意味 (1)まなじり(眥)。眦とも書く。目の尻。目尻をいう。「目眦モクシ」(まなじり)「眥(まなじり)をあげる」(緊張した面持ちで目を見張ること)「眥(まなじり)を決する」(眼を大きく開き、決意したときのさまにいう)「眥裂髪指シレツハッシ」(眥は裂け髪は上を指す。眼を大きく見開き、髪の毛が逆立つ。激しくいきどおる) (2)にらむ。「睚眥ガイサイ」(睚も眥も、にらむ意。にらむこと)
 シ・ひげ  髟部  
解字 「髟(髪の毛)+此(背をむける=反対側)」の会意形声。髪の毛に背をむけたほう(反対側)のあごの近くに生える毛。
意味 ひげ(髭)。あごの近くに生えるひげ、とくに口ひげをいう。「髭鬚シシュ」(口ひげと、あごひげ)「髭根ひげね」(ひげのように生える根。イネやムギなどの根をいう)
 シ・あがなう  貝部
解字 「貝(財貨)+此(背をむける=反対側)」 の会意形声。財貨で罰を反対側(罰を受けない)にすること。後漢の[説文解字]は「小さい罰、財を以て自ら贖(あがな)うなり」として、財貨を払って罰を受けないようにする意が原義。転じて、財貨で官職を買う意や、さらに財産・資材の意で使う。 
意味 (1)あがなう(貲う)。金品を代償として出し罪をまぬがれる。「貲贖シショク」(貲も贖も、あがなう意) (2)金品で地位や官職を買う。「貲郎シロウ」(金銭をおさめて官職を買い役人になった者) (3)財産。資産。たから。「貲財シザイ」(=資財)「貲産シサン」(=資産)

同音代替
 シ・きず  疒部
解字 「疒(やまい)+此(シ)」 の形声。シは刺(さす)や、茨(いばら)に通じ、イバラのとげなどに刺された傷をいう。
意味 (1)きず(疵)。きずあと。あやまち。欠点。「小疵ショウシ」(少しのきず。わずかな欠点)「瑕疵カシ」(過失) (2)やまい。病気。 (3)そしる。悪口をいう。
 シ・サイ・むらさき  艸部 
解字 「艸(くさ)+此(シの音)」の形声。シという名の草。
意味 (1)むらさき(茈)。植物の名。ムラサキ科の多年草。根は染料として用いる。 (2) 「茈胡サイコ」とは、多年草の名。ミシマサイコ。薬草となる。
 シ・むらさき  糸部
解字 「糸(いと)+此(シ)」 の形声。シは茈(むらさき草)に通じ、この根を乾燥させ煮出した液に漬けて紫色に染めた糸。
意味  むらさき(紫)。赤と青の中間色。「紫雲シウン」「紫衣シイ・シエ」(紫色の僧衣。日本では以前、天皇が高僧に下賜した)「紫煙シエン」(タバコの煙)「紫電シデン」(①むらさき色の電光。②鋭い光、また刀の光)
 サイ・とりで  石部
解字 「石(いし)+此(サイ)」の形声。サイは寨サイ(とりで)に通じ、石を積んで出来たとりでをいう。
意味 とりで(砦)。敵をふせぐ小さな城。「山砦サンサイ」「砦柵サイサク」(敵を防ぐ柵)「城砦ジョウサイ」(とりで)
 サイ・しば  木部
解字 「木(き)+此(サイ)」の形声。サイは細サイ(ほそい)に通じ、細い雑木をいう。
意味 しば(柴)。山野に生える雑木。また、それを切ったもの。「柴門サイモン」(柴で作った門。粗末な家)「柴山しばやま」(小さな雜木の生えている山)「薪柴シンサイ」(まきと、しば。たきぎ)
<紫色は常用漢字>

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音符「庚コウ」<きねでつく>と「康コウ」

2020年01月12日 | 漢字の音符
  庚コウと康コウの解字をやり直しました。
 コウ・かのえ  广部 
      
解字 甲骨文は楽器の象形。下が開いた鐘の象形とするのが妥当であろう。意味は、十干の七番目、人名、祭祀名。[甲骨文字辞典]。金文は甲骨とほぼ同じ形。篆文[説文解字]は「キネのような形+両手」になり両手でキネを持ち(臼を)つく形になった。現代字は、途中の隷書(漢代)を経て「庚」へと大幅に変化した。意味は甲骨文字からある十干の七番目の「かのえ」のほか、とし・年齢の意味で用いられる。なお、篆文以降の形の変化が、意味の変化をともない、音符字である康の意味に影響を与えている。

十干の読み方(オンライン無料塾「ターンナップ」より)
意味 (1)かのえ(庚)。十干の七番目。「庚申コウシン」(かのえさる。十干と十二支とを組み合わせたものの第五七番目。また、それに当たる年、月、日など)「庚申待コウシンまち」(庚申の夜、寝ないで徹夜する習俗)「庚申塚コウシンづか」(路傍などに庚申さん[青面金剛]を祀ってある塚) (2)とし。年齢。「同庚ドウコウ」(おないどし)

    コウ <米をついてカラが飛び散る>
 コウ・やすい  广部 

解字 甲骨文は楽器の象形である庚に小点を加えた形で、楽器の音を表現した指示記号であろう。庚は発音も表す亦声(声符)の部分。意味は王の名として使用されている[甲骨文字辞典]。
 金文は甲骨とほぼ同じ形で、人名、宮の名、および和楽の意に用いられている。篆文は、[説文解字]にこの字がないが、穅コウ(=糠)の字があるので、ここから康を抜き出した。両手でキネのようなものを持ち、(臼を)ついている形と思われ、ついた米のカラが飛び散っているさまを点で表している。庚の字でも分かるように、篆文から脱穀の意味に変化したようである。隷書(漢代)から形が大きく変化し、現代字は康となったが、甲骨文字と見比べると同じ字とは思えないほどの変化である。意味は、やすらかの意で金文と同じであるが、解字としては「庚(キネでつく)+とびちるカラ」の会意形声で、脱穀または精米を表す形だが、転じて、お米が実り臼でついて食事ができて、生活がやすらかの意と解釈したい。
意味 (1)やすい(康い)。やすらか。「安康アンコウ」(安全でやすらか)「康楽コウラク」(やすらかにたのしむ)「小康ショウコウ」(しばしのやすらき) (2)じょうぶ。たっしゃ。「健康ケンコウ」 (3)太い道路。「康衢コウク」(康は五達した道路、衢は四達した道路で)都のちまた。大通りの意。

イメージ  
 「米をついてカラが飛び散る」
(康・糠)
 「同音代替」(慷)
 「コウの音」(鱇)
音の変化  コウ:康・糠・慷・鱇

米をついてカラが飛び散る
 コウ・ぬか  米部
解字 「米(こめ)+康(米をついてカラが飛び散る)」の会意形声。康がやすらかの意となったので、米をつけて本来の意味を表した。ここでのカラは玄米を搗いたカラ、すなわち米ヌカを意味する。
意味 (1)ぬか(糠)。玄米を精白するとき出る粉状のもの。「糠味噌ぬかみそ」(野菜などを漬けるため米糠に塩をまぜて発酵させたもの。) (2)ぬかのように細かいもの。「糠雨ぬかあめ」 (3)粗末な食べ物。「糟糠ソウコウ」(酒かすと米糠。粗末な食べ物)「糟糠の妻」(貧乏な時から苦労を共にしてきた妻)

同音代替
 コウ  忄部
解字 「忄(こころ)+康(コウ)」の形声。コウは亢コウ(たかぶる)に通じ、社会の不正義などに心がたかぶること。いきどおりなげく意に使う。正字(篆文)は忼コウで、慷は同音代替字。
意味 なげく。気がたかぶる。いきどおりなげく。「慷慨コウガイ」(いきどおりなげく)「悲憤慷慨ヒフンコウガイ

コウの音
<国字> こう  魚部
 鮟鱇(ウィキペディアより)
解字 「魚(さかな)+康(コウ)」の形声。コウという名の魚を表す国字。
意味 鮟鱇アンコウに用いられる字。鮟鱇とは海底にすむアンコウ科の海魚。体は平たく口は大きい。背びれに突起があり、これで小魚を誘引して呑みこむ。「あんこう」の語源は、口をあんぐり開けるから「あん口コウ」という説がある。日本語の「あんこう」という名の魚に、魚へんに安康をつけて表したもの。「鮟鱇形アンコウガタ」(鮟鱇のように太って腹の出ている力士。あんこ形)
<紫色は常用漢字>

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音符「系ケイ」<つなぐ・つながる>と「係ケイ」「孫ソン」「遜ソン」

2020年01月05日 | 漢字の音符
 ケイ・つなぐ  糸部

解字 甲骨文・金文は糸と糸を手でつなぐ形で、つなぐ意味を表す。篆文は糸を一つにし、手をノに簡略化した。現代字はその流れをくむ。
意味 (1)つなぐ。つながり。「系図ケイズ」「系統ケイトウ」「系列ケイレツ」「直系チョッケイ」 (2)血のつながり。「家系カケイ」「母系ボケイ」 (3)まとまりや組織。「体系タイケイ」「太陽系タイヨウケイ

イメージ 
 「つなぐ・つながる」
 (系・係・孫・遜)
音の変化  ケイ:系・係  ソン:孫・遜

つなぐ・つながる
 ケイ・かかる・かかり  イ部
解字 「イ(人)+系(つながる)」 の会意形声。人がいろんな事と関わりを持つこと。
意味 (1)かかる(係る)。かかわる。「関係カンケイ」「係争ケイソウ」(かかわり争う) (2)つなぐ。つながり。「係留ケイリュウ」(つなぎとめる)「係船ケイセン」 (3)かかり(係)。仕事の受け持ち。「係員かかりいん
 ソン・まご  子部
解字 「子+系(つながる)」 の会意。自分の子と血がつながっているまご。
意味 (1)まご(孫)。子の子。「曾孫ソウソン」(ひまご) (2)しそん。まご以下の血筋のもの。「子孫シソン」 (3)分かれ出たもの。 (4)[国]まご。自ら直接関わるのでなく関接的に行なうこと。「孫引まごびき」「孫請まごうけ」「孫の手」(手の届かない背中を掻く棒)
 ソン・へりくだる・ゆずる  辶部
解字 「辶(ゆく)+孫(まご)」の会意形声。本人から見ると、孫は二代目の子孫。孫から見ると二代上は祖父母になる。孫は祖父母を敬うので、辶(ゆく)を付けた遜は、敬う状態を表す。相手をうやまうことは、自分をへりくだることでもあり、遜はこの意味で用いられる。新指定の常用漢字のため二点しんにょう。一点しんにょうで書いても可。
意味 (1)へりくだる(遜る)。「謙遜ケンソン」「不遜フソン」(思い上がる) (2)ゆずる(遜る)。自分をあとまわしにして他人をすすめる。「遜位ソンイ」 (3)おとる。およばない。「遜色ソンショク」「遜色がない」(見劣りしない) (4)のがれる。逃げ去る。「遜遁ソントン
<紫色は常用漢字>

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