漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「昜ヨウ」<日があがる> と「陽ヨウ」「揚ヨウ」「瘍ヨウ」「場ジョウ」「腸チョウ」「湯トウ」

2019年10月17日 | 漢字の音符
  盪トウを追加しました。
 ヨウ  日部

太陽がのぼってくるさまを描いた字
甲骨文は太陽とその上昇を示す丁字型からなる形で、日がのぼる意。金文以降は太陽の光を表わす彡印をそえ「昜」の字形が整った。「日が高くあがる」意味をもつ。昜は単独で用いられることはなく、さまざまな部首と組み合わせて字が作られる。
意味 (1)あがる。日がのぼる。(2)明るい。日なた。あたたかい。

イメージ
 「あがる太陽」(陽・場)
 「あがる」(揚・楊・湯・蕩・盪・瘍)
 「形声字」(腸・暢)
音の変化  ヨウ:陽・揚・楊・瘍  トウ:湯・蕩・盪  ジョウ:場  チョウ:腸・暢

あがる太陽
 ヨウ・ひ  阝部
解字 「阝(おか)+昜(あがる太陽)」の会意形声。あがった太陽の光が丘に当たる形。太陽の光の他、丘の日の当たる側、ひなたの意味を表わす。
意味 (1)ひ(陽)。日の光。「太陽タイヨウ」「陽光ヨウコウ」 (2)ひなた。日のあたる。山の南側。「山陽サンヨウ」 (3)あかるい。あたたかい。「陽春ヨウシュン」「陽気ヨウキ」 (4)易の用語。主に男性的・積極的な性質をもつものを指す。対語: 陰。「陰陽インヨウ
 ジョウ・ば  土部
解字 「土(つち)+昜(あがる太陽)」の会意形声。あがってくる太陽を祭る儀式が行われる土地。
意味 (1) ば(場)。神を祭るための地。 (2)ところ。事が行なわれる場所。「会場カイジョウ」「劇場ゲキジョウ」「戦場センジョウ」 (3)とき。おり。「場合ばあい」「急場きゅうば」(4)劇の場面「一幕二場」

あがる
 ヨウ・あげる・あがる  扌部
解字 「扌(て)+昜(あがる)」の会意形声。手で高くあげること。
意味 (1)あげる(揚げる)。あがる(揚がる)。「揚力ヨウリョク」「掲揚ケイヨウ」 (2)勢いがある。気分が高まる。「高揚コウヨウ」 (3)地名。「揚州ヨウシュウ」(中国江蘇省の都市。長江北岸にあり大運河の出入り口。明・清時代には文化の中心地のひとつ)
 ヨウ・やなぎ  木部
解字 「木+昜(上にのびる)」の会意形声。枝が上に伸びるヤナギの木。
意味 (1)やなぎ(楊)。枝が垂れないコリヤナギなどをいう。「楊枝ヨウジ」(歯ぐきを掃除する小さな棒。もと楊材を用いたからという)「楊弓ヨウキュウ」(遊戯用の小さい弓。もと楊材を用いたからという)「楊柳ヨウリュウ」(やなぎの総称) (2)人の姓。「楊貴妃ヨウキヒ」(唐の玄宗皇帝に愛された美人) (3)「黄楊つげ=柘」とは、ツゲ科の常緑小高木。暖地の山地に自生し,また庭木とされる。材は黄色で堅く,櫛や印材として使われる。「黄楊の櫛くし
 ※「楊」は枝が上にあがるヤナギ、「柳」は枝が下に垂れるヤナギ。
 トウ・ゆ  氵部
解字 「氵(水)+昜(あがる)」の会意形声。勢いよく湯気をあげて沸きたった湯。
意味 ゆ(湯)。水を沸かしたもの。また、風呂。「湯気ゆげ」「熱湯ネットウ」「湯治トウジ」(温泉に浴して治療する)
 トウ・とろける  艸部
解字 「艸(くさ)+湯(=湯気。自由にゆれうごく)」の会意形声。草が自由に揺れ動くさまを、人や状態にたとえて言う。
意味 (1)ただよう。ゆれうごく。「蕩揺トウヨウ」(ゆれ動く、また、ゆり動かす)「震蕩シントウ」(ふるえうごく) (2)のびやか。「春風駘蕩シュンプウタイトウ」(春風のどかに吹くさま) (3)ほしいままにする。「放蕩息子ホウトウむすこ」(酒食にふけりほしいままに振る舞う息子) (4)とろける(蕩ける)。個体がとけて液体となる。怒りなどがとけ心がやわらぐ。うっとりする。
 トウ・あらう・うごく  皿部
解字 「皿(うつわ)+湯(ゆ)」 の会意形声。うつわを湯であらうこと。あらう意、また、あらうとき皿(うつわ)をうごかす意となる。
意味 (1)あらう(盪う)。あらいながす。「盪尽トウジン」(あらいながして、すっかりなくなる)「盪滌トウデキ」(あらいすすぐ。盪も滌も、あらう意) (2)うごかす(盪かす)・うごく(盪く)。ゆりうごかす。「盪舟トウシュウ」(①ふねをうごかす。②舟をゆさぶる)「震盪シントウ」(ふるえうごく)「脳震盪ノウシントウ」(頭部打撲などで生じる突発性の脳障害。失神・めまい・頭痛などが起こる)
 ヨウ  疒部
解字 「疒(やまい)+昜(もちあがる)」の会意形声。皮膚がもちあがるできもの。
意味 できもの。悪性のはれもの。「腫瘍シュヨウ」(腫も瘍も、できものの意。良性と悪性がある)「潰瘍カイヨウ」(ただれくずれること)「胃潰瘍イカイヨウ」(胃壁の潰瘍)

形声字
 チョウ・はらわた・わた  月部にく
解字 「月(からだ)+昜(チョウ)」の形声。チョウは長チョウ(長い)に通じ、細長いはらわた(消化器官)のこと。
意味 はらわた(腸)。わた(腸)。消化器官のひとつ。「大腸ダイチョウ」「小腸ショウチョウ」「胃腸イチョウ
 チョウ・のびる  日部
解字 「申(イナズマが上から下へのびる)+昜(チョウ)」の形声。チョウは長チョウ(長い)に通じ、長くのびる意。
意味 (1)のびる。のびやか。「暢達チョウタツ」(のびのびとしていること) (2)よどみなく通る。「流暢リュウチョウ」(言葉使いによどみながい)
<紫色は常用漢字>

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音符「戒カイ」<両手で戈をもつ> と 「械カイ」「誡カイ」

2019年10月14日 | 漢字の音符
 カイ・いましめる  戈部            

解字 甲骨文から現代字まで、「戈(ほこ)+廾(両手)」の会意。甲骨文は戈を左右からもつ形。金文以降は両手が下にきて戈を高く持ち上げている形。現代字は両手が廾に変化している。武器を持って用心する(警戒)する意。さらに、用心させる(戒告)意となる。戒を音符に含む字は、「いましめる」イメージを持つ。
意味 (1)用心する。警備する。「警戒ケイカイ」「戒厳令カイゲンレイ」 (2)いましめる(戒める)。さとす。「戒告カイコク」「訓戒クンカイ」「自戒ジカイ」 (3)いましめ。特に宗教上のおきて。「戒律カイリツ

イメージ 
 武器を持って「いましめる」(戒・械・誡)
音の変化  カイ:戒・械・誡

いましめる
 カイ・かせ  木部
解字 「木+戒(いましめる)」 の会意形声。罪人の手足にはめて自由を奪う木製の刑具。転じて、木製のしかけ・からくりを言う。
意味 (1)かせ(械)。枷かせとも書く。刑具のひとつ。罪人の首や手足にはめ自由を束縛する。 (2)しかけ。からくり。道具。「機械キカイ」「器械キカイ」(機械は動力による大規模なものをいい、器械は道具や人力による小規模なものをいうことが多い)
 カイ・いましめる  言部
解字 「言(ことば)+戒(いましめる)」 の会意形声。言葉でいましめること。
意味 いましめる(誡める)。言葉で注意する。「誡告カイコク」(=戒告)「訓誡クンカイ」(=訓戒)  ※「戒」が書きかえ字となっており、現在はほとんど使われない。

<紫色は常用漢字>

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音符 「二 ニ」 <ふたつ> と 「弐ニ」「仁ジン」

2019年10月06日 | 漢字の音符
  佞ネイを加えました。
 ニ・ふた・ふたつ  二部

解字 二本の横線を並べた指事文字。二つの意味を表す。また、にばんめ・別の意を派生する。
意味 (1)ふたつ(二つ)。「二枚にまい」 (2)二つにする。二つになる。「二分ニブン」「二股ふたまた」 (3)次の。にばんめ。「二次ニジ」「二世ニセイ」 (4)ふたたび。「二度目ニドめ」 (5)別の。ちがった。「二様ニヨウ

イメージ  
 「ふたつ」
(二・仁・佞・弐)
 「同音代替」(膩)
音の変化  ニ:二・弐  ジ:膩  ジン:仁  ネイ:佞
  
ふたつ
 ジン・ニ・ニン  イ部
解字 「人(ひと)+二(ふたり)」の会意。二人の人が相親しむこと。相手を人として扱うこと。
意味 (1)ひと。人間。 (2)自分と同じ仲間として、すべての人に接する心。隣人愛や同情の気持ち。「仁義ジンギ」「仁者愛人」(仁なる者は人を愛す)(3)仁の心を備えた人。「仁者ジンシャ」「仁王ニオウ」(仏法を守る神)(4)さね。果実の殻の中のやわらかい部分。「杏仁キョウニン」(杏のさねを乾かしたもの。漢方薬となる。アンニンとも)「桃仁トウニン
 ネイ・デイ  イ部

解字 「仁ジン(おもいやり)+女(おんな)」 の会意。思いやりのある世話好きの女の意から転じて、口がうまい意で用いられたが、のち表面的に思いやりを見せながら、内心はそれを口実に相手に取り入ろうとする女をいうようになった。
意味 (1)口がうまい。弁が立つ。「仁なれども佞ネイならず」(仁徳はあるが弁がたたない)「佞舌ネイゼツ」(おしゃべり)(2)おもねる。へつらう。「佞言ネイゲン」(こびへつらう言葉。おべっか)「佞臣ネイシン」(主君におもねる臣下)「佞弁ネイベン」(口先がうまく人にへつらうこと。また、その言葉)「佞人ネイジン」(口先がうまく、こびへつらう人。=佞者ネイシャ)(3)よこしま。ねじけている。「佞奸ネイカン」(口先が巧みで心の正しくないこと。また、その人)
 ニ  弋部しきがまえ
解字 「弋(くい)+二(ふたつ)」の会意形声。くいが二本でふたつを表す。二の古字。
意味 ふたつ。
[貳] ニ・ジ  弋部しきがまえ
解字 旧字は貳で、「貝(かい)+弍(二の古字)」の会意形声。貝二つで、ふたつの意を表わす。新字体は、旧字から貝を省き代わりに一を弍の上に加え、筆画を簡略にした文字。契約書などでは、二の代わりに用いる。
意味 (1)ふたつ。「弐萬円」(2)ふたごころがある。「弐心ジシン・ニシン」(そむくきもち。疑うこころ)「弐臣ジシン」(ふたごころある家来)(3)そえる。「弐車ジシャ」(そえ車。副車)

同音代替
 ジ・ニ・あぶら  月部にく
解字 「月(からだ)+貳(ジ)」の形声。ジは耳(やわらかい耳たぶ)に通じ、身体のやわらかい皮下脂肪をいう。
意味 (1)あぶら(膩)。皮膚からにじみ出たあぶら。あぶらぎる。「脂膩シジ」(あぶら) (2)なめらか。きめ細かい。「膩理ジリ」(肌がなめらかできめ細かい)「細膩サイジ」(きめが細こまかい。念入り)「瑣砕細膩ササイサイジ」(心遣いが隅々まで行き届いていること)
<紫色は常用漢字>

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音符「巣ソウ」<鳥のす> と 「卵ラン」

2019年10月01日 | 漢字の音符
  剿ソウを追加しました。
 ソウ・す  ツ部

解字 木の上の鳥の巣に雛のいる形の象形[字統]。鳥の「す」を表わす。新字体は、旧字上部の巛⇒ツに変化した。新字体で分解すると、「ツ(たくさんのヒナ)+田(すの本体)+木」となる。
意味 (1)す(巣)。鳥や動物の住む場所。すをつくる。すくう(巣くう)。「営巣エイソウ」「帰巣キソウ」 (2)かくれが。「巣窟ソウクツ」(悪者などの隠れ家) (3)あつまる。あつまる所。「卵巣ランソウ」(卵をつくる器官)「病巣ビョウソウ」(病に侵されている個所)

イメージ
 「鳥の巣」(巣)
 意味(2)の悪者の「隠れ家」(剿)
 「形声字」(勦)

隠れ家
 ソウ・ショウ・ほろぼす・かすめる  刂部
解字 「刂(かたな)+巢(隠れ家)」 の会意形声。隠れ家を襲い刀で切り、ほろぼすこと。
意味 (1)ほろぼす。ころす。「剿賊ソウゾク」(賊をころす)「剿滅ソウメツ」(ほろぼす)「剿絶ソウゼツ」(ほろぼして根絶やしにする) (2)かすめる(剿める)。「剿取ソウシュ」「剿襲ソウシュウ」(かすめとって自分の説とする)

 ソウ・ショウ・ほろぼす・かすめとる  力部
解字 「力(ちから)+巢(ソウ)」の形声。①剿ソウに通じ、ほろぼす意。②力を剿(かす)め取るので疲れる意。[説文解字]は、「勞(つかれ)る也(なり)。力に従い巢(ショウ)の聲(声)」とするが、多くは①の意で用いられる。
意味 (1)ほろぼす(勦ぼす)。ころす。「勦除ソウジョ」(ほろぼして取り除く)「勦討ソウトウ」(討ちほろぼす)「勦殄ソウテン」( 皆ごろしにして滅ぼす)(2)かすめとる(勦る)。「勦襲ソウシュウ」(他人の説を自分の説にする) (3)つかれる。「其れ以て民を勦(つか)れしむ也(なり)」(春秋伝・左伝)「勦民ソウミン」(民を疲れさせる)


    ラン <たまご>
 ラン・たまご  卩部ふしづくり       

解字 木の枝などに虫などのタマゴが産みつけられた形の象形。たまごを意味する。卵は象形なので本来は部首になる字だが、系列字がほとんどないので、卩セツ部になっている。苦しい分類である。
意味 (1)たまご(卵)。鳥・虫・魚などのたまご。「卵生ランセイ」「鶏卵ケイラン」「卵黄ランオウ」 (2)まだ一人前にならない人。「医者の卵」

イメージ  「たまご」(卵・孵)
音の変化  ラン:卵  フ:孵

たまご
 フ・かえる・かえす  子部
解字 「卵(たまご)+孚(だく)」の会意形声。卵をだいて、ひながかえること。卵という部首がないので、子が部首になっている。音符は孚
意味 かえる(孵る)。卵がかえる。かえす(孵す)。「孵化フカ」「孵卵器フランキ
<紫色は常用漢字>

※孵は、音符「孚フ」に属する字。参考のため重出した。音符「孚フ」を参照。

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