漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「冊 サツ・サク」 <並べてつなぐ> 「柵サク」「珊サン」と「典テン」

2023年04月28日 | 漢字の音符
  増補改訂しました。
[册] サツ・サク・ふみ  冂部  


解字 冊には2系統ある。ひとつは甲骨・金文の第一字で、竹簡や木簡を糸でつないだ形。二つめは甲骨・金文の第二字で防禦用や牧場のさくで「柵」の原字にあたる[甲骨文字小字典]。両者は篆文以降、同じ形になった。現代字の冊は、糸でつないだ竹簡や木簡、および、つなぐ前の竹や木のふだの意味で使われる。冊を音符に含む字は、「木や竹を並べてつなぐ」イメージがある。
意味 (1)ふみ(冊)。とじた書物。木簡や竹簡をひもで綴じたもの。これが書物の原型である。「書冊ショサツ」 (2)ふだ。書きつけ。「短冊タンザク」 (2)中国で天子の任命書。「冊封サクホウ」(冊により爵位や称号を封ほうじる(授ける)こと。=柵立サクリツ

イメージ 
 木や竹を並べてつないだ「木簡・竹簡」(冊・刪・典・腆)
 木や竹を並べてつないだ「さく」(柵・珊)
音の変化  サク・サツ:冊・柵  サン:刪・珊  テン:典・腆
 
木簡・竹簡 
 サン・けずる  刂部
解字 「刂(かたな)+冊(木簡・竹簡)」の会意形声。木簡や竹簡に書いた字を訂正するため、表面を刀で削りとり、その上に書きなおすこと。
意味 けずる(刪る)。けずりとる。不要の字句を除く。「刪修サンシュウ」(不要な字句をけずって文章を整える)「刪正サンセイ」(字句をけずり文を正す)
 テン・ふみ・のり  ハ部               

解字 篆文は「冊(木簡・竹簡=書冊)+丌(台)」の会意。上部は冊(書冊)で、下部にそれをのせる台を加えた形。台にのせた書物の意から、特に選ばれた大事な書、転じて、のり・手本の意となる。現代字は、冊と丌(台)が合体した典になった。
意味 (1)ふみ(典)。書物。「典籍テンセキ」「教典キョウテン」「古典コテン」 (2)のり(典)。手本。「典型テンケイ」「典範テンパン」(手本となる正しい事柄) (3)儀式・儀礼。「典礼テンレイ」(定まった儀式)「式典シキテン
 テン・あつい  月部にく
解字 「月(にく)+典(意味③の儀式・儀礼)」の会意形声。典は、ここで儀式・儀礼の意。肉をたくさん神や先祖にお供えした儀式の意で、神や先祖にたいして手厚い意となる。
意味 (1)あつい(腆い)。手厚い。丁重。「腆志テンシ」(手厚い心)「腆贈テンゾウ」(手厚い贈り物) (2)ゆたかな。数が多い。「不腆フテンの田」(稔り豊かでない耕作地)

さく
 サク  木部
解字 「木(き)+冊(さく)」の会意形声。木のさく。木や竹を並べて囲いとしたもの。
意味 (1)木や竹の囲い。やらい。「木柵モクサク」「鉄柵テツサク」 (2)しがらみ(柵)。さまたげになるもの。 (3)とりで(柵)。ちいさな城。「柵塁サクルイ」(柵も塁も、とりでの意)「城柵ジョウサク」(とりで)
 サン  玉部

桃色珊瑚(「宝石珊瑚について(日本珊瑚商工協同組合)」より)  
解字 「王(玉)+冊(さく)」の会意形声。木の柵のように並んで生えている海底のサンゴ。宝石となる。
意味 「珊瑚サンゴ」に用いられる字。珊瑚は、サンゴ虫の群体の骨格で装飾用などに加工される。「珊瑚礁サンゴショウ」(珊瑚が堆積した岩礁)
 サン  足部
解字 「足(あし)+冊(さく)」の会意形声。足の動きが冊にはばまれて進めず、徘徊ハイカイ(あるきまわる)すること。たちもとおる。
意味 「蹣跚マンサン」に用いられる字。蹣跚マンサンとは、行きなやむさま。「蹣跚(よろけ)る」「酔歩蹣跚スイホマンサン」(酔ってよろめきあるく)「蹣跚縞よろけじま」(経たて、または緯よこ糸を湾曲させて波状の縞模様を出した織物)
<紫色は常用漢字>

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音符「匝ソウ」<まわりをめぐる> と「箍コ」<たが>

2023年04月26日 | 漢字の音符
 ソウ・めぐる  匚部
解字 「匚(はこ)+巾(ぬの)」の会意。由来がわからない漢字のひとつだが、覚え方として、はこと、ぬのに当て、長いぬので「はこ」を巻くかたちと解釈した。転じて、周囲をめぐる意味で使われる。
意味 (1)めぐる(匝る)。周囲をぐるりと一回りする。めぐらす。「池を匝(めぐ)る」「匝年ソウネン」(年月がめぐる)「匝線ソウセン」(うずまき線。スパイラル) (2)まわりをめぐる回数を数える言葉。「三匝サンソウ」(三回めぐる) (3)地名。「匝瑳市ソウサシ」(千葉県の北東部に位置する市。名前の由来は市域の多くが千葉県(下総国)匝瑳ソウサ郡に属していたことから)「匝瑳郡ソウサグン」(平城宮出土木簡に「▢総国匝瑳▢」とみえるのが郡名の早い例。また、天平13年(741)10月「匝瑳郡磐室郷(石室郷)の大伴部足輸が調庸の白布一端を貢納」という記載が「白布」(正倉院文書宝物銘文集成)に見える[千葉県の地名(角川書店)より]

匝瑳市(「匝瑳市で暮らそう」より)

イメージ
 「まわりをめぐる」
(匝・箍)
音の変化  ソウ:匝  コ:箍

まわりをめぐる
 コ・たが  竹部
解字 「竹(たけ)+扌(て)+匝(まわりをめぐる)」の会意。桶(おけ)のまわりに割り竹を手でめぐらし締め付けること。桶や樽(たる)を締め付ける「たが」をいう。

桶の箍たが(「竹細工ー竹虎四代目がゆく!」より)
意味 (1)たが(箍)。桶や樽を締める竹製の輪。金属製のものにも言う。「桶箍トウコ」(桶のたが)「箍がはずれる」(緊張や束縛がとれて締りがなくなる)「箍がゆるむ」(年をとって鈍くなる) (2)たがをかける。「箍をしめる」(①桶などに箍をかける。②たるんだ気持ちを引き締める)

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音符「辰シン」<石製の農具>と「振シン」「娠シン」「唇シン」「震シン」

2023年04月24日 | 漢字の音符
 これまで多くの漢字字典は、辰を二枚貝がカラから足をだしている形の象形としてきた。ところが落合淳思氏の[甲骨文字辞典]は、辰を石製の農具の象形とし、これまでの説を覆した。これにより辰を含む辱ジョク・農ノウの音符字は、石製の農具説でより明快な解字が可能となった。 

 シン・たつ  辰部

 ②
①新石器時代の石製農具。②新石器時代・良渚文化の犂。
(中国のネット検索画面より) 
解字 甲骨文字は石の農具のかたち。文字に石の原文である厂の角が三角形になった形が含まれている[甲骨文字辞典]。先端の三角形から延びる二本の線は農具の柄か。金文は甲骨の第2字がさらに変化し、篆文をへて現代字の辰になった。甲骨文字の時代から仮借カシャ(当て字)されて十二支の5番目の辰(たつ)となっている。
 農具であることから、農業生産に関するとき(辰)の意味となり、さらに辰(とき)を支配する天体の日・月・星・北極星などの意味にひろがった。
 なお、石製農具である辰は、音符字のジョク(農具を手で使う)ノウ(農具で田をたがやす)の字にも用いられている。
意味 (1)たつ(辰)。十二支の第5位。十干と組み合わせて年月日を表す。時刻では午前八時ごろ。またその前後一時間。方位では東南東。動物では龍。「辰巳たつみ」(東南の方角) (2)とき(辰)。時間。時期。日。あさ。「辰刻シンコク」(時刻)「芳辰ホウシン」(よいとき) (3)日・月・星。また、その総称。天体。北極星。「辰宿シンシュク」(星座)「星辰セイシン」(ほし。星座)「辰極シンキョク」(北極星)「辰駕シンガ」(天子の車。天子を北辰にたとえていう)(4)地名。「辰砂シンシャ」(水銀と硫黄の化合物。水銀や赤絵具の原料。辰州(湖南省)に産する朱砂)

イメージ
 「たつ・北極星(仮借)」
(辰・蜃・宸・晨) 
 石製農具が「うごく」(振・娠・唇・賑・震)

音の変化  シン:辰・蜃・宸・振・娠・唇・賑・震・晨

たつ・北極星(仮借) 
 シン  虫部
解字 「虫(動物)+辰(たつ)」の会意形声。たつに似た伝説上の動物。また、オオハマグリにも当てられた。
意味 (1)みずち(蛟)。想像状の動物で竜の一種。(2)おおはまぐり(大蛤)。(3)「蜃気楼シンキロウ」とは、みずち(蛟)や、おおはまぐり(大蛤)の吐く気(息)によって生ずると考えられた現象。海上や沙漠で光線の異常屈折のため遠方の楼閣や景色が空中に現れる。「蜃楼シンロウ」(=蜃気楼)「蜃景シンケイ
 シン 宀部
解字 「宀(たてもの)+辰(北極星=天子)」の形声。北極星は北の空にあり、そこを中心として星々が巡っているように見えるので、辰は宇宙の中心と考えられ、天子に当てられた。宸は天子の住まいを表す。
意味 (1)天子のすまい。「紫宸殿シシンデン」(宮中の正殿) (2)天子に関する事柄に添える語。「宸翰シンカン」(天子が自ら書いた文書)「宸筆シンピツ」(天子の自筆)
 シン・あした  日部
解字 「日(太陽)+辰(=辰刻。とき)」の形声。日がのぼる前の時刻をいう。明け方、夜明けの意。
意味 (1)あした(晨)。よあけ。あさ。「晨旦シンタン」(早朝。晨も旦も、あさの意)「晨起シンキ」(朝早く起きる)「晨星シンセイ」(明け方の空に残る星) (2)とき(晨)。夜明けのときを告げる。「牝鶏之晨ヒンケイノシン」(メンドリが夜明けのときを告げること。ときを告げるのは雄鶏。めんどりがときを告げるとは女性が権力をもつこと。中国では王妃や皇后などが権勢を振るうと国家は乱れると考えられた)

うごく
 シン・ふる・ふるう・ふれる  扌部
解字 「扌(手)+辰(うごく)」の会意形声。手をふって動かすこと。
意味 (1)ふる(振る)。ふるえる。「振動シンドウ」「振幅シンプク」 (2)ふるう(振るう)。盛んになる。「振興シンコウ」 (3)ふり。ふるまい。「人の振り見てわが振り直せ」
 シン・はらむ  女部
解字 「女(おんな)+辰(うごく)」の会意形声。女が身ごもり胎児が動くこと。
意味 はらむ(娠む)。みごもる。「妊娠ニンシン
 シン・くちびる  口部
解字 「口(くち)+辰(うごく)」の会意形声。口のまわりを囲む柔らかい部分。ここをうごかして声を出す。
意味 くちびる(唇)。「口唇コウシン」「紅唇コウシン
 シン・にぎわう・にぎやか  貝部
解字 「貝(財貨)+辰(うごく)」の会意形声。財貨のやり取りが盛んで賑やかなこと。
意味 にぎやか(賑やか)。にぎわう(賑わう)。「殷賑インシン」(盛んでにぎやか)「賑給シンキュウ」(貧民にほどこして賑わすこと)
 シン・ふるう・ふるえる  雨部
解字 「雨(あめ)+辰(うごく)」の会意形声。雨の中をビリビリと空気をふるわせて落ちるカミナリの震動をいう。
意味 (1)ふるえる(震える)。ふるう(震う)。ゆれ動く。「震動シンドウ」「地震ジシン」 (2)ふるえおののく。おそれる。「震撼シンカン」(震え動かす) (3)「地震」の略。「震源シンゲン
<紫色は常用漢字>

参考
ジョク(石の農具でくさぎる)
ノウ(田を石の農具で耕す)

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音符「瀕ヒン」<川を歩いて渡ろうとする人>と「頻ヒン」「顰ヒン」

2023年04月22日 | 漢字の音符
 常用漢字の頻ヒンは覚えにくい字ですが、瀕ヒンと一緒に覚えると分かりやすい字です。
 ヒン・みぎわ  氵部

解字  頻と瀕はもと同字で、瀕で表された。瀕の金文は「川(かわ)+步(あるく。字は上下に分かれる)+頁(あたまを大きく描いた人)」 で、川のほとりに来た人が歩いて川を渡るかたち。篆文は、步の上下のあいだに川を横に描いた形。意味は、(1)川を渡ろうと「川のほとり」にいる。(2)川を渡るのは(橋がないので)「たびたびある」の二つがある。現在はこれらの意味を、瀕・頻が分担する。瀕は、このうち「川のほとり・ちかづく」意で使われ、「たびたび」の意は頻が受け持つ。
意味 (1)みぎわ(瀕)。ほとり。「瀕海ヒンカイ」(海辺)「水瀕スイヒン」(みぎわ) (2)せまる。ちかづく。ひんする。「瀕死ヒンシ」(今にも死にそうなこと)

イメージ  
 「ほとり」(瀕・蘋)
  川を渡るのは「たびたび」(頻・顰)
音の変化  ヒン:頻・蘋・瀕・顰

ほとり
 ヒン・ビン・うきくさ  艸部
解字 「艸(くさ)+頻(=瀕。みぎわ)」 の会意形声。みぎわの草から転じて、水面に浮かび生えるうきぐさの意。
意味 (1)うきくさ。水面に浮かぶ草の総称。「蘋萍ヒンペイ」(うきくさ。蘋も萍も、うきくさの意)「蘋風ヒンプウ」(浮草を吹き揺るがせる風)「藻蘋ソウヒン」(水草) (2)デンジソウ(田字草)科の多年草。かたばみも。水田・沼などに生える。 (3)「蘋果ヒンカ」とは、リンゴの意。蘋píng は、梵語で蘋婆píngpó・ピンバとよばれる皮の赤い木の実を指した。のち、元の時代に外来種のリンゴが伝わった時、これを蘋果と名付けた。現在は同音の苹果píngguǒ・ピングオ(ヘイカ)が主に使われる。「蘋果ヒンカ日報」(リンゴ日報、Apple Daily、アップルデイリー)は、1995年に香港で創刊された繁体字中国語・広東語の日刊新聞。中国が香港の支配力を強める中で、2021年6月24日付を最後に廃刊。

たびたび
 ヒン・ビン・しきりに  頁部おおがい
解字 旧字は「頁(あたまを大きく描いた人)+步(=渉の略体。わたる)」 で、瀕ヒンと同じ意味を表す字。意味は、瀕の意味(2)の川をたびたび渉る意から「たびたび」の意で用いられる。新字体のため、步⇒歩に変化。
意味 (1)しきりに(頻りに)。しきる。たびたび。「頻繁ヒンパン」「頻度ヒンド」「頻発ヒンパツ」「頻々ヒンピン」 (2)みぎわ。水辺。
覚え方 瀕ヒンは氵(水)があるので水のほとり、頻ヒンは歩があるので、たびたび歩く、と覚えます。
 ヒン・ビン・ひそめる・しかめる・ひそみ  頁部
解字 「卑の旧字(いやしい)+頻の旧字(しきりに・たびたび)」 の会意形声。卑しいことがたびたび起きること。そのため、顔をしかめたり、眉をひそめる意となる。
意味 しかめる(顰める)。顔をしかめる。ひそめる(顰める)。ひそみ(顰み)。眉をひそめる。「顰蹙ヒンシュク」(顔をしかめること。眉をひそめること)「顰蹙を買う」(不快感を与え嫌われる)「顰(ひそ)みに倣(なら)う」(美女が眉を顰めたのを見て美しいと思い他の女が真似をしたが、それを見た人は気味悪がったことから、いたずらに人の真似をして物笑いになること)
<紫色は常用漢字>

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音符「公コウ」<宮廷の廷前>と「松ショウ」「訟ショウ」「頌ショウ」「翁オウ」

2023年04月20日 | 漢字の音符
  鶲オウ・菘すずな、を追加しました。
 コウ・ク・おおやけ  八部

解字 甲骨文字・金文は、「八(ひろがるさま)+囗(建物)」の会意。建物とその前に広がる庭を表し、儀礼を行なう宮廷の廷前をいう[字統]。篆文から口⇒ムに変化した。公は、宮廷の廷前で行なわれる諸活動であることから、本来の意味は政治的な権力をもつ層(天子・諸侯)の活動で公権力のこと。のち、「私」の概念と対する公平・公正の意となった。
意味 (1)おおやけ(公)。①国家や政府に関すること。「公営コウエイ」「公職コウショク」 ②みなが共にすること。(⇔私)。「公共コウキョウ」「公益コウエキ」 (2)きみ。天子。諸侯。また、高位高官。「公子コウシ」(諸侯や貴族の子)「公主コウシュ」(天子のむすめ。天子が娘を嫁がせるとき、三公(高官)にその事をつかさどらせたから)「公卿クギョウ」(高位高官の人)
覚え方 「八(左右に開く)+ム(私の略体)」の会意。私有しているものを開いて公にする。

イメージ 
 「宮廷の廷前」
(公・衮・頌・松・鬆・菘)
 「おおやけ」(訟) 
 「形声字」(翁・鶲・瓮・滾)
音の変化  コウ:公  コン:衮・滾  ショウ:頌・松・鬆・訟  オウ:翁・鶲・瓮  すずな:菘

宮廷の廷前 
衮[袞] コン  衣部  ※衮の上は一に見えるが、亠である。
解字 「衣(ころも)+公(宮廷の廷前)」 の会意形声。衣は上(亠)と下に分かれている。宮廷の廷前の行事に天子や三公(高官)がまとう衣服。特に天子の衣を言う。衣の中が「八+口」(本来の公の形)の袞コンも通用する。

明の皇帝の衮衣コンイ(ウィキペディアより)
意味 (1)竜の縫いとり模様のある天子の礼服。「衮衣コンイ=袞衣」「衮竜衣コンリュウイ=袞竜衣」 (2)高官の礼服。高官。
 コン・たぎる  氵部
解字 「氵(水)+袞(コン)」 の形声。袞コンは衮コンの異体字で、公の古形を残す字。氵(水)を付け、コンコンと重ねて、豊かに流れる意の擬声語の用法に用いる。「滾滾コンコン」「混混コンコン」「渾渾コンコン」は同じ意味を表す。
意味 たぎる(滾る)。わきたつ。「滾滾コンコン」(水が湧き出て流れるさま)
 ショウ・ジュ・ほめる  頁部
解字 「頁(ひざまずく姿)+公(宮廷の廷前)」 の形声。頁ケツは、頭を強調したひざまずく人の姿。ふつう頭や顔の意で部首となるが、ここではひざまずく姿を表す。頌ショウは、公の場である宮廷の廷前で、天子に向かい、ひざまずいて声を出して祝いの言葉をとなえる儀礼をいい、となえる・ほめる意となる。音符「頁ケツ」を参照。
意味 (1)ほめる(頌める)。たたえる。「頌春ショウシュン」(新年をたたえて祝う)「頌徳ショウトク」(人の徳をたたえる)「頌詩ショウシ」(ほめたたえる詩)「頌寿ショウジュ」(長寿をたたえる) (2)となえる。「読頌ドクショウ」(読みとなえる) (3)「頌偈ジュゲ」とは、仏教経典で詩の形で仏の徳をたたえたもの。
 ショウ・まつ  木部
解字 「木(き)+公(=頌。ほめる)」 の会意形声。常緑で高くそびえるさまから吉祥の木とされ、頌詩ショウシ(ほめたたえる詩)に歌われる木である松。
意味 まつ(松)。マツ科の常緑高木。長寿や節操を象徴するものとされ、古来尊ばれる。「松籟ショウライ」(松風の音)「松明たいまつ」「松茸まつたけ
 ショウ・す  髟部
解字 「髟(かみのけ)+松(松の葉)」 の会意形声。松の葉のように隙間だらけの髪の毛の意。 
意味 (1)髪の毛が一本ずつばらばらに生える。髪のみだれているさま。 (2)ゆるい(鬆い)。あらい。隙間があいてゆるんでいる。「粗鬆ソショウ」(おおざっぱであらい。すかすか) (3)[国]す(鬆)。時期が過ぎたダイコン・ゴボウなどの芯にできる細かい穴。「骨粗鬆症コツソショウショウ」(骨に小さな穴が多発する症状)
 スウ・シュウ・すずな  艸部
すずな(「季節の花300」より)
解字 「艸(野菜)+松(松の葉)」の会意形声。常緑針葉樹である松の葉のような深い緑色の葉をつける蕪かぶらをいう。日本で「すずな」とよばれ春の七草のひとつ。
意味 (1)すずな(菘)。鈴菜すずな。青菜あおな・蕪かぶの別称。「すずな」の語源は、白い根の部分が鈴のようにまるいからとされる。 (2)とうな(唐菜)。野菜の名。つけな。

おおやけ
 ショウ・うったえる  言部
解字 「言(いう)+公(おおやけの場)」 の会意形声。おおやけの裁きの場で発言すること。
意味 (1)うったえる(訟える)。うったえ。「訴訟ソショウ」「訟廷ショウテイ」(裁判所)「訟獄ショウゴク」(うったえごと。訟も獄も、うったえる意) (2)あらそう(訟う)。「争訟ソウショウ」(訴訟を起こして争う)

形声字
 オウ・おきな  羽部
解字 「羽(はね)+公(コウ)」の形声。コウという名の鳥の羽。鳥のくび毛をいう。それが長いひげを垂らした長老との連想から老人の意となった。発音はコウkouからk が取れたオウouに変化。
意味 (1)鳥のふわふわしたのどの毛。 (2)男の老人に対する尊称。おきな(翁)。「老翁ロウオウ」「翁草おきなぐさ」(①草の名。キンポウゲ科の多年草。②書名。江戸後期の京都の随筆)
 オウ・ひたき  鳥部

ジョウビタキ(「日本の四季」より)
解字 「鳥(とり)+翁(オウ)」の形声。オウという名の鳥。中国南北朝時代の[玉篇]は「鳥の名。音は翁」とする。現在の中国では「形は小さく、上面は黒褐色で下面は淡白色。嘴くちばしは稍し扁平。害虫をたべる益鳥」とする。日本では、ひたき(鶲)と呼ばれる。
意味 ひたき(鶲)。ヒタキ科の野鳥。飛んでいる虫をとる。色彩が美しく、よくさえずる。鳴き声の「ヒッ・ヒッ」が火打石を打つ音に似ているために生じたとされる。ジョウビタキ、ルリビタキ、キビタキなど多くの種類がある。
 オウ・もたい  瓦部
解字 「瓦(土焼き)+公(コウ⇒オウ)」 の形声。公に翁オウの音がある。オウは甕オウ(かめ)に通じ、瓦(土焼き)のかめをいう。甕と同じ。
意味 もたい(瓮)。かめ(瓮)。みか。水や酒などをいれるかめ。「瓮水オウスイ」(かめの水)「一瓮村醪イチオウ ソンロウ」(ひとかめの田舎のどぶろく)
<紫色は常用漢字>

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音符「平ヘイ」<たいら> と「坪ヘイ」「評ヒョウ」「秤ショウ」「鮃ひらめ」

2023年04月17日 | 漢字の音符
  改訂しました。
 ヘイ・ビョウ・たいら・ひら  干部

解字 平の字は形と意味が単純なわりに成り立ちに諸説がある字。その理由のひとつが[説文解字]が最初の字でなく于の変化形の亏を用いて解字しているからであり、さらに、もともと「于」そのものが字源のわからない字だからである。
 そこで「覚え方」としての説明をさせていただく。字形は「于+ハ(左右に分かれる)」の会意。于は下部が曲がった形で「まがる」意味があるが、上部は二線が平行と考え、左右にハをつけて横に平らの意味とした。現代字は于のタテ線がまっすぐになり、ハが上にひろがった平になった。
意味 (1)たいら(平ら)。ひら(平)。ひらたい。「平地ヘイチ」「水平スイヘイ」 (2)ひとしい。「平等ビョウドウ」「平均ヘイキン」 (3)おだやか。「平穏ヘイオン」「平和ヘイワ」 (4)ふつう。つね。「平常ヘイジョウ」「平素ヘイソ

イメージ 
 「たいら」
(平・坪・評・秤・鮃・萍)
 「その他」(苹)
音の変化  ヘイ:平・坪・鮃・萍・苹  ショウ:秤  ヒョウ:評 
 
たいら
 ヘイ・つぼ  土部
解字 「土(つち)+平(たいら)」の会意形声。平らな土地の意。転じて、日本や台湾では土地の広さを測る単位に用いられる。
意味 (1)[中国]山地や丘陵地の局部的な平地。比較的狭い平らな土地。また地名字。「草坪ソウヘイ」(草地 )「操坪ソウヘイ」(運動場) (2)[国]つぼ(坪)。①土地の広さを測る単位。1坪は3.306㎡。(「坪数つぼスウ」「坪単価つぼタンカ」) ②古代条里制土地区画のひとつ。1町(約109m)四方の面積を基本単位とし、これを坪とよんだ。「一ノ坪いちのつぼ」(条里制の場所を示す地名) (3)なかにわ。建物あるいは垣の内側にある庭。「坪庭つぼにわ」 
 ヒョウ  言部
解字 「言(いう)+平(たいら)」の会意形声。公平に物事の良し悪しを論ずること。
意味 はかる(評る)。あげつらう。品定めする。物事の良し悪しを論ずる。「評価ヒョウカ」「評議ヒョウギ」「批評ヒヒョウ」「評判ヒョウバン
 ショウ・ビン・はかり  禾部

天秤(東洋計量史資料館コレクション)
解字 「禾(こくもつ)+平の旧字(たいら)」の会意。横棒から吊るした一方の皿に穀物をのせ、他方の皿に分銅をのせ、中央を支点に平らにして重さをはかること。
意味 (1)はかり(秤)。「天秤テンビン」(空中(天)でバランスをとる秤はかり)。「天秤棒テンビンボウ」(両端に荷物をかけ中央を肩に当てて担う棒)。 (2)重さをはかる。「秤量ショウリョウ」(秤にかけて量る=称量)
 ヘイ・ヒョウ・ひらめ  魚部
解字 「魚(さかな)+平の旧字(たいら)」の会意形声。身が平らな魚。
意味 ひらめ(鮃)。体は楕円形で平たく両目とも左側にある海魚。平目。比目魚とも書く。「左、鮃ひらめに右、鰈かれい」(腹を手前に置いて左に顔があるのがヒラメ,右にあるのがカレイである)
「キッチンtips」より 
 ヘイ・ヒョウ・うきくさ  艸部
解字 「艸(草)+氵(水)+平の旧字(たいら)」の会意形声。平らな水面に浮く草。
意味 (1)うきくさ(萍)。 (2)ただよう。さまよう。「萍水ヘイスイ」(うきくさと水。流浪するものの例え)

その他
 ヘイ・ヒョウ  艸部 

中国のリンゴ広告「青森苹果」(中国では林檎を苹果píngguǒ・ピングオという)
解字 「艸(草木)+平の旧字(ヘイ)」の形声。ヘイという草や木。苹píng ・ヘイは中国語で同音の蘋píng ・ヒンに通じる。蘋píng は、梵語で蘋婆píngpó・ピンバとよばれる皮の赤い木の実を指した。のち、元の時代に外来種のリンゴが伝わった時、これを蘋果と名付けた。現在は同音の苹果píngguǒ・ピングオ(ヘイカ)が主に使われる。
意味 (1)「苹果ヘイカ・ヒョウカ」(りんご=蘋果)に使われる字。 (2)「苹苹ヘイヘイ」とは、草のしげるさま。 (3)(萍ヘイに通じ)うきくさ。みずくさ。
<紫色は常用漢字>

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音符「亜 ア」<地下の墓室>と「啞ア」「椏ア」「錏ア」「堊ア」「悪アク」

2023年04月15日 | 漢字の音符
 椏アを追加しました。
[亞] ア・つぐ  ニ部
 
発掘された陵墓(「枕流亭ブログ」より)

解字 甲骨文は王墓の象形で、意味は王墓、および王に近い貴族[甲骨文字辞典]。地下につくられた陵墓の墓室の平面図の形。墓道を降りてゆくと、中央の部屋の左右・前後に墓室がある様子を描いたもの。金文から旧字までほぼ同じ形を継承するが、新字体は、旧字の亞⇒亜に変化する。意味は金文で氏族の徽号キゴウ(はたじるし)や官職名に用いられたが、のち、つぐ・準じる意となった。この意味について、[字通]は、墓葬を司る王に次ぐ聖職者からの意とし、[漢字源]は、墓室は地下にあるので、表に出ない下の支えの意から転じて、次ぐ意になったとする。覚え方としては、「地下にあるので表の下」がいいと思う。なお、亞の語源を知らなかった[説文解字]は、人が背をまるめた形と解釈し「醜シュウ也(なり)」と、みにくい意と解釈した。
意味 (1)次ぐ。準じる。二番目。「亜熱帯アネッタイ」「亜流アリュウ」(二流。独創性がない) (2)亜細亜(アジア。Asiaの音訳)の略。「東亜トウア」 (3)外国語の音訳に用いる。「亜米利加アメリカ」 (4)[説文解字]みにくい。醜シュウ也。

イメージ  
 「主たるものの下にある」
(亜・錏)
 「地下の墓室」(堊)
 「形声字」(啞・椏)
 「その他」(悪)
音の変化  ア:亜・錏・堊・啞・椏  アク:悪

主たるものの下にある
錏[鐚] ア・エ・しころ  金部

錏(しころ)「精選版 日本国語大辞典 」より
解字 「金(金属)+亞(主たるものの下にある)」の会意形声。金属性の兜かぶとの下にたらす「しころ」をいう。また鐚とも書く。
意味 しころ(錏)。かぶとから垂らして首筋をまもる金属の覆い。「錏鍜アカ」(錏も鍜も、しころの意)「錏屋根しころやね」(母屋の屋根から一段低く出た屋根)

地下の墓室
 ア・アク  土部
解字 「土(つち)+亞(地下の墓室)」 の会意形声。地下の墓室の壁に塗る土の意。周代の官制を記した[周礼シュライ]に墓所の牆壁(しょうへき)の部分は白く塗ることが見えており、しろつちの意がある。また、白以外の色土、および塗る意がある。
意味 (1)しろつち。しっくい。「白堊ハクア」(①やわらかい石灰岩。白墨の原料となる。②白壁=白亜)「白堊館ハクアカン」(ホワイトハウス)「堊牆アクショウ」(白土で塗ったかき) (2)いろつち。「丹堊タンア・タンアク」(赤色の壁土。赤く塗った壁)「黝堊ユウアク」(黒い壁土) (3)塗る。「堊塗アクト」(白く塗る)

形声字
啞[唖] ア・アク  口部
解字 正字は啞で「口(くち)+亜(ア)」の形声。口からアーと声を出すだけで発語ができないこと。また、アッと驚いて声を上げること。新字体字に準じた唖が通用する。
意味 (1)言葉の不自由な人。「聾啞ロウア」(耳の不自由なことと言葉の不自由なこと) (2)ああ。驚いて上げる声。また、カラスの鳴く声。「啞然アゼン」(驚きあきれて口もきけないさま)「啞啞アア」(①笑う声。②カラスの鳴く声)
 ア・また  木部
解字 「木(き)+亞(ア)」の形声。アは丫(ふたまた)に通じ、ふたまたになった木の枝の意。
意味 また(椏)。きのまた(椏)。木の枝が分かれるところ。「椏枝アシ」(ふたまたになった枝) 「杈椏またぶり」(叉またになっている木の枝)「三椏みつまた」(ジンチョウゲ科の落葉低木。枝は三つに分かれる。樹の皮を和紙の原料とする)

三椏みつまた「Awagami Factory 和紙の原材料」より)

その他
アク・オ・わるい  心部
解字 旧字は惡で「心(こころ)+亞(みにくい)」 の会意形声。亞の語源を知らなかった[説文解字]は、人が背をまるめた形と解釈し「醜シュウ也(なり)」と、みにくい意と解釈した。すると悪は、醜い心の意となるが[説文解字]は、この字を「過(あやま)ち也(なり)」としている。しかし、字書の[通論]は「醜陋シュウロウ(みにくくいやしい)也(なり)」とし、醜い意を継承している。また韻書の[廣韻]は「不善(善でない)也(なり)」としており、不善は即ち悪であることから、こうした経緯を経てこの字の意味が定まったと思われる。(なお原義が陵墓であることを理解していれば、「先祖を祀る所+心」で厚いの意味になっていただろう。)
意味 (1)わるい(悪い)。正しくない。みにくい。いやな。「悪事アクジ」「醜悪シュウアク」 (2)そまつな。へたな。「悪文アクブン」「粗悪ソアク」 (3)ひどい・はげしい。「悪戦苦闘アクセンクトウ」「悪寒オカン」(発熱のため感じるゾクッとする寒け) (4)にくむ。「憎悪ゾウオ
<紫色は常用漢字>

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音符「代ダイ」<入れかわる> と 「袋タイ」「貸タイ」「黛タイ」

2023年04月13日 | 漢字の音符
  増補改訂しました。
 ダイ・タイ・かわる・かえる・よ・しろ  イ部

解字 弋ヨクは、杙ヨク(くい)の原字であるが、単独では、いぐるみ(紐をつけた矢)に仮借カシャ(当て字)して用いられる。音符「弋ヨク」を参照。鳥の群れに、いぐるみ(弋矢ヨクヤ)を放ち、紐を鳥に巻き付かせて捕獲する。鳥を捕獲すると鳥に巻き付いている紐が矢とつながっている箇所を外し、新しい紐に代えるので、「かえる」イメージがある。したがって、「イ(ひと)+弋ヨク(かえる)」の会意は、人を新しくかえる意となり、人が交代すること、かわる・かえる意となる。
意味 (1)かわる(代わる)。かえる(代える)。「交代コウタイ」「代理ダイリ」 (2)代わりになるもの。「代価ダイカ」「代金ダイキン」「形代かたしろ」(神の代わりとなるもの) (3)王の一代の期間。年齢や年号の範囲。よ(世)。「唐代トウダイ」「上代ジョウダイ」「現代ゲンダイ」 (4)[国]しろ(代)。田地。「苗代なわしろ・なえしろ」(稲の種をまいて苗を育てるところ)

イメージ 
 「入れかわる」
(代・袋・貸・黛・玳) 
 「形声字」(岱)
音の変化  ダイ:代  タイ:袋・貸・黛・玳・岱

入れかわる
 タイ・ふくろ  衣部

解字  袋の篆文は「巾(ぬの)+代(入れかわる)」の会意形声。いろんな物を次々と入れかえて中につめる布のふくろの意。現代字は、巾⇒衣に変った袋になった。衣は体を「おおう」意味がある。「帒タイ」は異体字として残っている。
意味 (1)ふくろ(袋)。「皮袋かわぶくろ」「袋綴ふくろとじ」(冊子本の綴じ方の一つ。紙の中央を折りたたんで綴じる)「有袋類ユウタイルイ」(母親のお腹の袋で子を育てる動物) (2)[国]行きづまり。「袋小路ふくろこうじ
 タイ・かす  貝部
解字 「貝(財貨)+代(入れかわる)」の会意形声。お金(貝)を受け取り、代わりに物や場所を使わせてあげること。
意味 かす(貸す)。かし。「賃貸チンタイ」(家賃[賃料]をとって貸す)「貸与タイヨ」(貸し与える。貸すこと)「貸付かしつけ」 
 タイ・まゆずみ  黒部
解字 「黒(くろ)+代(かわり)」の会意形声。眉毛に代わって塗る黒い墨。眉毛の上に塗るまゆずみをいう。
意味 まゆずみ(黛)。眉墨。マユを描く墨。眉を墨で描くこと。「黛眉タイビ」(まゆずみで描いた眉)
 タイ  玉部
解字 「王(玉)+代(かわり)」の会意形声。玉の代わりになる貴重なもの。玉に匹敵するもの。

タイマイの剥製(ヤフオクの写真より)
意味 「玳瑁タイマイ(瑇瑁タイマイ)」に使われる字。玳瑁とはウミガメ科のカメ。甲長約1メートル。熱帯・亜熱帯の海洋に分布し背面の甲は黄褐色に黒褐色の斑紋がある。玳瑁タイマイの意味は、「玉に匹敵するものが甲羅の表面をおおっている亀」で、その甲羅は鼈甲ベッコウとして装飾品の材料になる。瑁マイは、玉が帽(冒)子のようにかぶさるさまをいう。

形声字
 タイ
解字 「山(やま)+代(タイ)」の会意形声。タイという名の山。
意味 山の名。泰山タイザンのこと。「岱山タイザン」(①中国の名山。中国の五岳のひとつ。=泰山。②高く大きな山)
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音符「出シュツ」<あしが穴からでる>と「拙セツ」「黜チュツ」「咄トツ」

2023年04月11日 | 漢字の音符
 シュツ・スイ・でる・だす  凵部かんにょう

解字 [甲骨文字辞典]は、歩行を示す、あし(止)の下部にへこみ(凵カン=穴)が描かれており、穴から出ることを表したものであろうとする。字形は最終的に、あしの部分が屮になり、これに穴を表す凵がついた出になった。でる・あらわれる意となる。
意味 (1)でる(出る)。だす(出す)。外にでる。「門出かどで」「出港シュッコウ」「出納スイトウ」(出し入れ) (2)あらわれる。「出現シュツゲン」「露出ロシュツ」 (3)でむく。「出演シュツエン」 (4)すぐれる。「傑出ケッシュツ

イメージ 
 「でる」
(出・朏・祟・黜・拙・咄) 
音の変化  シュツ:出  スイ:祟  セツ:拙  チュツ:黜  トツ:咄  ヒ:朏

でる
 ヒ・みかづき  月部
解字 「月(つき)+出(でる)」の会意。初めて月が出たことが分かる日。新月や二日目の月は見えにくいが、三日目の月は人の目ではっきり出たことが分かることから。
意味 (1)みかづき(朏)。陰暦三日目の月。 (2)新月から三日月あたりの月明かり。「朏魄ヒハク」(弱い月明かり)「朏晨ヒシン」(黎明。あけがた)
 スイ・たたる・たたり  示部  
解字 「示(祭壇)+出(でる)」の会意。神が出す罰である「たたり」。古代文字の字形がはっきり解明されておらず、現在の字体は楷書からである。
意味 (1)たたる(祟る)。たたり(祟り)。神仏が罰を与える。怨霊などが災いをもたらす。「神祟シンスイ」(神のたたり)「其鬼不祟」(其の鬼(祖霊)は祟(たたら)ず」 (2)神や霊がもたらすわざわい。災禍サイカ。「禍祟カスイ」「疾祟シッスイ
 チュツ・しりぞける  黒部
解字 「黑(くろ=わるい)+出(出す)」の会意形声。勤務実績の悪い者を出すこと。
意味 (1)しりぞける(黜ける)。官職・地位からはずす。罷免する。「黜遠チュツエン」(しりぞけ遠ざける)「黜捗チュツチョク」(功績のない者をしりぞけ、ある者を昇官させる)「黜陟幽明チュッチョクユウメイ」(正しい基準で人材の登用を行うこと。幽明は暗愚と賢明で、幽をしりぞけ明を引き上げる意)「罷黜ヒチュツ」(罷免してしりぞける) (2)へらす(黜らす)。数をへらす。
 セツ・つたない  扌部
解字 「扌(手)+出(でる・はなれる)」の会意形声。[説文解字]は「不巧也」(巧みでない)とする。手による巧みな動きから出た(はなれた)状態であること。つたない。うまくない意となる。
意味 (1)つたない(拙い)。まずい(拙い)。「拙速セッソク」「拙劣セツレツ」(へたなこと)「古拙コセツ」(古風で技巧的に拙いが、味わいがあること) (2)自分を謙遜する。「拙者セッシャ」「拙宅セッタク
 トツ・しかる・はなし  口部
解字 「口(くち)+出(でる)」の会意形声。口から出るつよい声。
意味 (1)しかる(咄る)。 (2)したうちする。また、その声。「咄呵トツカ」(舌打ちする) (3)突然なこと、意外なことにでる声。「咄嗟トッサ」(①物事の急なこと、②嘆くこえ。)「咄咄トツトツ」(おやおや。驚きを発する声)(4)[国]はなし(咄)。昔話。落語。「小咄こばなし」「咄家はなしカ」(落語家)
<紫色は常用漢字>

関連音符
 クツ・かがむ  尸部
解字 「尾の略体+出(でる)」の会意。音符「屈クツ」を参照。

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音符 「門モン」<もん>「問モン」「聞ブン」「開カイ」

2023年04月09日 | 漢字の音符
 閩ビンを追加しました。 
 モン・かど  門部

解字 両開きの扉がある門の象形。戸が片開きなのに対し、右と左から戸を二つ描いたのが門である。「もん」の意の他、家の入口でもあることから家に代わって用いられる。門は部首になるとともに音符にもなる。
意味 (1)かど(門)。もん。出入り口。「門戸モンコ」(家の出入り口)「門番モンバン」 (2)家柄・身内。「名門メイモン」「門閥モンバツ」(家の格式。家がら) (3)なかま。「門人モンジン」 (4)分野・その道。「専門センモン
参考 門は部首「門もんがまえ」になる。常用漢字で11字ある。以下のとおり。
門 モン 部首
 閉ヘイ・しまる。開カイ・ひらく。間カン・あいだ。閑カン・しずか。 閣カク・たかどの。 関カン・せき。閥バツ・いえがら。閲エツ・けみする。闇 アン・やみ。闘トウ・たたかう
門がつくが部首でない字
 モン・とうは、「口+音符「門モン」で部首は「口部」
 ブン・きくは、「耳+音符「門ブン・モン」で部首は「耳部」
 モン・もだえるは、「心+音符「門モン」で部首は「心部」

イメージ 
 「もん」
(門・問・們・開) 
 「形声字」(聞・悶・閩)
音の変化  モン:門・問・們・悶  カイ:開  ブン・モン:聞  ビン:閩

もん
 モン・とう・とい・とん  口部
解字 「口(いう)+門(もん)」 の会意形声。家の門で声を出して中の人に問うこと。発音は門モン。
意味 (1)とう(問う)。とい(問い)。たずねる。といただす。「学問ガクモン」「尋問ジンモン」「質問シツモン」 (2)たずねる(訪)。「訪問ホウモン」 (3)「問屋とんや」とは、生産者から商品を買い小売業や仲買人に売る職業。
 モン  イ部
解字 「イ(ひと)+門(もん)」の会意形声。門を入った家に一緒に住んでいる人々。発音は門モン。
意味 ともがら。複数の人を表す語。「我們ガモン」(われら)
 カイ・ひらく・ひらける・あく・あける  門部            

解字 古文(春秋戦国時代の書体)は、「門(もん)+(かんぬき)+両手」 の会意。両手でかんぬきをはずして門の扉を開く形。隷書レイショ(漢代の役人が主に使用した書体)から「+両手」が変形し开になった開が登場しその後の主流となった。会意なので門の発音とは関係しない。
意味 (1)ひらく(開く)。あく(開く)。あける(開ける)。「開花カイカ」「展開テンカイ」「開眼カイゲン」 (2)はじまる。「開始カイシ」 (3)切りひらく。ひらける(開ける)。「開発カイハツ

形声字
 ブン・モン・きく・きこえる  耳部    

解字 甲骨文字は人の上に耳がついた形で聞く意を強調し、発音はブン・モン。篆文から門がつき「耳+門(モン・ブン)」の形声となりモン・ブンの発音を示す文字に変わった。モンの発音は現在では主に臭いをかぐ意のとき用いられている。
意味 (1)きく(聞く)。きこえる(聞こえる)。聞いて知る。「見聞ケンブン」 (2)うわさ。評判。「伝聞デンブン」「風聞フウブン」「醜聞シュウブン」(スキャンダル) (3)においをかぐ。「聞香モンコウ・ブンコウ」  
 モン・もだえる  心部
解字 「心(こころ)+門(モン)」の形声。モンは懣モン・マン(もだえる)に通じ、心でもだえること。懣モンという難しい字を「門モン+心」に置き換えた。
意味 もだえる(悶える)。思い悩む。「悶悶モンモン」(思い悩むさま)「悶着モンチャク」(もめごと)「悶絶モンゼツ」(もだえて気絶する)
 ビン・ミン  虫部
解字 「虫(へび)+門(モン⇒ビン)」の形声。[説文解字]は「東南越の蛇種なり。虫に从(したが)い門聲(声)。発音は武巾切(ビン))とする。また、後漢の字書[釋名]は「越(中国の南東地方)、夷蠻(蛮)イバン(東方と南方の未開人)之(の)國也(なり)」とし、中国で南蛮と称した南の未開人の住む国とする。

赤い部分が中国の福建省(ウィキペディアより)
意味 (1)中国古代の東南地方の異民族の名。今の福建省からその北の浙江省南部の地域に住んでいた。「閩南語ビンナンゴ」(福建省北部および台湾の一部に分布する方言)「閩劇ビンゲキ」(福建方言で演ずる地方劇) (2)福建省の別称。中国東南沿海部に位置する。省都は福州市。現在は車のナンバープレートの最初に「閩」がつく。(例:閩Aは福州市)。宋代に八つの地域に分かれていたことから八閩(はちびん)とも称される。(3)旧国名「閩粤ビンエツ」(春夏・戦国時代の越国が移動して今の福建省に建てた国。漢の武帝のとき平定された。)
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