漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「赤セキ」<大きな火>と「赦シャ」「嚇カク」

2021年10月29日 | 漢字の音符
  セキを追加しました。
 セキ・シャク・あか・あかい・あからむ・あからめる  赤部

解字 甲骨文から篆文まで「大(おおきい)+火(ひ)」の会意。隷書レイショ(漢代)で、第1字は、大⇒土に、火は、灬(烈火)に変化した。第2字は土の下の灬(烈火)の真ん中の二本が長くなって、現在の赤の字になった。
 意味は、大きな火から、火が大きくあかあかと燃えている形で、あかい色を表す。大きな火が燃えたあとは何も残らないので、何もない、転じて「まるはだか」の意となる。赤は部首となる。
意味 (1)あか(赤)。あかい(赤い)。あかるくなる。「赤面セキメン」「赤信号あかシンゴウ」「赤銅色シャクドウいろ」(黒みをおびた紫色) (2)ありのまま。何もない。「赤裸あかはだか」「赤子あかご」 (3)まこと。まごごろ。「赤心セキシン」「赤誠セキセイ」(いつわりのない心)
参考 赤は部首「赤あか」になる。文字の左辺に付いて赤い意味を表す。しかし部首「赤」に属する常用漢字は部首の赤しかない。常用漢字以外の主な字は、赫カク、赭シャ、赩キョク・あか、など。なお、赦シャは部首「攵のぶん」に属する。

イメージ 
 「赤い火」
(赤・赫・嚇・螫)  
 「形声字」(赦)
 「その他」(赭)
音の変化  セキ:赤・螫  カク:赫・嚇  シャ:赦・赭

赤い火
 カク・あかい・かがやく  赤部
解字 「赤(赤い火)+赤(赤い火)」の会意。二つの赤を並べた形で、火がさかんに燃えて輝いているさま。転じて、顔を赤くして怒る意味もあるが、これは主に「嚇」が受け持つ。
意味 (1)あかい(赫い)。かがやく(赫く)。燃えあがる火のように真っ赤なさま。「赫灼カクシャク」(赤々と光り輝くこと)「輝赫キカク」(赤々と輝く) (2)いかる。かっとなる。「赫怒カクド」(=嚇怒カクド
 カク・おどす  口部
解字 「口(くち)+赫(いかる=赫の意味2)」の会意形声。赫カクは真っ赤なさまであるが、転じて、顔を赤くしていかる意がある。嚇は、赫に口をつけ、口でどなって怒ること。
意味 (1)いかる。怒ってどなる声。「嚇怒カクド」(はげしく怒ること) (2)おどす(嚇す)。「威嚇イカク」(威圧しておどす)
 セキ・シャク  虫部

解字 篆文は「虫(むし)+赤(あか)+攴ボク(うつ・たたく)」の会意形声。この字の発音は、シャク・セキであり、赤シャク・セキと同じである。従って、この字の赤は「赤い色」を表す。「赤+攴」は打たれて皮膚が赤くなること。これに虫が付いた螫は、虫に刺されて皮膚が赤くはれること。[説文解字]は「虫毒を行う也(虫が毒を刺し入れる)」とする。現代字は、攴⇒攵に変化した螫になった。
意味 (1)さす(螫す)。毒虫が刺す。「螫手セキシュ」(手を毒虫がさす)「螫齧セキゲツ」(さすことと喰いつくこと) (2)虫の毒。害する。「螫虫セキチュウ」(毒虫)「螫針セキシン」(蜂の尾などの毒針)

形声字
 シャ・ゆるす  攵(攴)部のぶん・ぼくづくり
解字 「攵(=攴ボク。うつ)+赤(シャ)」の形声。シャは捨シャ(すてる・放り出す)に通じる。攴ボクは攵の古い形で、手に木の枝や棒をもち打つ意。赦は、罪人をムチで打ってから放り出すこと。すなわち、刑罰を終えて、ゆるす意となる。
意味 ゆるす(赦す)。「赦免シャメン」(赦も免も、ゆるす意)「恩赦オンシャ」(国王の恩で赦す。国家的慶事などで、政府が犯罪者の罪をゆるすこと)「容赦ヨウシャ」(ゆるしを容れる)

その他
 シャ・あかつち・あか  赤部
解字 「赤(あか)+者の旧字(シャ)」の形声。シャは砂シャ・サ(すな)に通じ、赤色をした砂や土をいう。音符は者シャだが、ここに収録した。部首「赤」の主な漢字は、赤・赫カク・赭シャなので、このページで部首と音符の、赤に関する主な字をそろえた。
意味 (1)あかつち(赭)。酸化鉄を主成分とする赤い色の土や砂・石。顔料となる。「代赭タイシャ」(中国山西省代県から産する赤褐色の土や石。顔料となる)「代赭石タイシャセキ」(赤鉄鉱の石。顔料や薬用となる)「赭山シャザン」(赤土が見えている山で、はげ山をいう)(2)あか(赭)。あかいろ。「赭顔シャガン」(赤ら顔)「赭衣シャイ」(罪人が着るあか色の衣服。また、罪人)
<紫色は常用漢字>
            





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部首の占める位置とその12区分

2021年10月27日 | 特殊化した部首
    部首と音符の関係を追加しました。
これまでの部首の占める位置についての説明
 部首の位置については、これまで「偏旁冠脚ヘンボウカンキャク」、あるいはそれに「構垂繞コウスイニョウ」をつけた「偏旁冠脚構垂繞」という言葉であらわされてきた。そして、多くの解説書は「偏旁冠脚構垂繞」の一字一字の解説を行なって済ませている。それによると、
 偏(へん) :左側に位置する部分
 旁(ぼう) :右側に位置する部分
 冠(かんむり):上部に位置する部分
 脚(あし) :下部に位置する部分
 構(かまえ):三方や四方などを取り巻くように位置する部分
 垂(たれ) :上部から左側かけて位置する部分
 繞(にょう):左側から下部にかけて位置する部分
 と説明している。このうち、構(かまえ)を除く各部分は視覚的にもイメージしやすく直感的にわかる。しかし、構(かまえ)は、いろいろな部首を包括しており分かりにくい。

部首の占める位置の12区分を提唱する
 今回、私は構(かまえ)のなかに含まれるいろんな部首を分析した結果、構(かまえ)を5分割し、さらにこれまであまり触れることがなかった「わりごろも」(衣の上下がわれる)を加え合計12の区分を提唱することにした。
 以下がその表である。部分の欄で図示しているように、部首が全体のどの部分に属するかが視覚的に分かるのが特徴である。

以下に各々の名称とその説明を簡単にさせていただく。
(1)偏(へん)
 漢字の左側に位置する部分に置かれる。扌(てへん)、犭(けものへん)、氵(さんずい)といった特殊化された部首にはじまり、山や川、田、言など多くの字が偏になる。最も多く用いられる位置が偏(へん)である。
(2)旁(つくり)
 漢字の右側に置かれる。特殊化した刂(りっとう)、阝(おおざと)をはじめ、攵(ぼくづくり)、頁(おおがい)などが含まれる。なお、阝は偏にもなり、その場合は阝(こざと)と呼ばれる。
(3)冠(かんむり)
 文字通り漢字の上部に置かれる。特殊化したものに、亠(なべぶた)、宀(ウかんむり)、癶(はつがしら)などがあり、一般的な字では竹(たけかんむり)、雨(あめかんむり)などがある。
(4)脚(あし)
 文字通り漢字の下部に置かれる。特殊化したものに、㣺(したごころ)、灬(れっか)、半特殊化の儿(ひとあし)、それに一般の字である、心、皿、衣なども下部に着くことが多い。
(5)行がまえ
 今回、構(かまえ)から独立させた。中央の文字をはさんで左右両側にある。行が代表的な部首で、これで衛エイ(韋をはさむ)、衝ショウ(重をはさむ)、街ガイ(圭をはさむ)、術ジュツ(朮ジュツをはさむ)、衙(吾をはさむ)、衡コウ(角+大をはさむ)などがある。しかし、行は木偏について桁コウという字にもなる。
(6)衣(わりごろも)
 衣が上下に分かれることは知られているが、これまで上下に分かれた衣を独立させることはなかった。今回、全体の部分図を作成する中で、行がまえに対し、上下の両側から文字をはさむ、衣(わりごろも)を独立させ、分かりやすくした。裏(中に里がはいる)、衷チュウ(なかに中がはいる)、褒ホウ(中に保がはいる)、表ヒョウ(古代文字は中に毛が入っている)、哀アイ(中に口が入る)、褻セツ(中に埶が入る)などがある。
 衣(わりごろも)となる字は少ないが、これを独立させることにより、特に外国人の漢字学習者に部首の配置を説明する際の理解を深めることになると思う。なお衣は偏に位置するときは、衤(ころもへん)になり、脚(あし)に位置するときは、裂レツ・襲シュウのように衣のままである。
(7)垂(たれ)
 上部から左側にたれる形。よく使われる部首に、厂(がんだれ)、广(まだれ)、尸(しかばね)、疒(やまいだれ)などがあるが、一般の字である、戸、などもよく用いられる。
(8)繞(にょう)
 左側から下部へのびる形。特殊化された、辶(しんにょう)、辶(二点しんにょう)、 廴(えんにょう)などがある。なお、走ソウ(はしる)が部首になるとき、起・越エツ・趣シュのように走の下部が伸びるので「走そうにょう」と呼ばれるが、字を書く時の体裁から下側に伸ばした筆が走った字である。
(9)勹(つつみがまえ)
 上部から右側を占める形。これも名称が「かまえ」と付いているので、明確な位置づけがされてこなかったため、今回独立させた。分類から言うと、垂(たれ)や、繞(にょう)が向きと位置を変えた形で同じ類である。勹に代表される包ホウ、および匍・勺シャクなどが代表的な字である。この他に、气(きがまえ)があり、気の部首となっている。また、弋ヨク(しきがまえ)と呼ばれ、式シキに代表される部首もある。
(10) 門(もんがまえ)
 上部と左右の側からなる。門に代表されるが、三方を囲んでいることから冂ケイ、 鬥トウ(たたかう)も含める。しかし、門から成る字が大部分である。
(11) 匚(はこがまえ)
 左側と上下部で構成される。区、医、匠ショウ、匿トクなどの字がある。
(12) 囗(くにがまえ)
 周囲を取り囲んでいる形。国の字に代表される囲いなので「国がまえ」と呼ばれる。図、囲、固、園エン、囚シュウ、など結構ある。
 なお、厳密に言うと、匚(はこがまえ)の向きを上にした凵カン(かんがまえ)がある。
 しかし、この部首は不完全な部首なのです。どうしてかというと、凵とその中の文字は分離できないのです。漢和字典で部首凵を調べると、主な字は、凹オウ・凸トツ・出シュツ・函カン・凶キョウ、の5字があります。このうち、凹オウ・凸トツ・出シュツは、文字が一体化されており分離できません。また、函カンは凵の中の字が分離できません。最後の凶キョウは「×+凵」に分離できますが、×という字は漢字ではありません。似たような字の乂ガイは刈カイ・かる、の原字で、凶の中の×とは意味が違います。つまり凶の字は分離できないのです。
 ですから一番下に部首凵に言及する場合は、これは音符と結びついている一人前の部首でなく、漢字を分類するための部首だと説明する必要があります。なお、この部首の5字のうち、凶・出・函は音符となります。


 以上、これまであまり注目されていなかった部首の位置について、新たに12区分を提唱させていただいた。こうした区分を設けることにより、特に留学生や外国で日本語を学ぶ方にとっては、部首がどんな位置につくか明確になるので、部首についての理解がより深まると思われる。

第2表の追加 ペトリチェンコ・イリーナさんからの提案
 この項を私の所属するJSL漢字学習研究会のメールを通じて配信させていただいたところ、会員のペトリチェンコ・イリーナさん(ウクライナ)から次のような提案をいただいた。
 「中国由来の伝統にとらわれず、完全に視覚的に把握できる[部首の位置12区分]を見て感動しました。留学生にはこちらのほうが分かりやすいことには間違いないですが、伝統的な区分におなじみの方にも納得しやすくするには、区分の並び順を(1)(2)(3)(4)(7)(8)(9)(10)(11)(12)(5)(6)にすればいかがですか。つまり、「へん」「つくり」「かんむり」「あし」「たれ」「にょう」に「かまえ5個」と「わりごろも」がつく順番です。いかがでしょうか。」
 という提案である。私は最初、区分の配列順序を考えたとき、偏旁の次に「行がまえ」を入れ(タテの区分がそろう)、冠脚の次に「衣わりごろも」を入れたらどうか(横の区分がそろう)、と思ったことがある。しかし、偏旁冠脚という馴染みのある言葉を分離させるのは忍びなく、そのあとに配置した。
 イリーナさんの提案は、偏旁冠脚につづく垂繞構も分離せずに、構のあとに分割した構や独立させた衣(わりごろも)を入れたらどうかというもので、しごく真っ当な提案である。そこで、第1表はインパクトがあると思うのでそのまま残し、これまでの学習者が抵抗なく納得できるように第2表を作成することにした。どちらを選ぶかは自由です。自分の好みで選び、表をコピーして使ってください。



      部首と音符の関係
 上記表の部分の欄で斜線でしめした部首の位置以外の白い部分に入るのが音符となる。音符「非ヒ」をこの表で表すと以下のとおりとなる。「非」に、偏(へん)・冠(かんむり)・垂(たれ)・脚(あし)・構(匚はこがまえ)が付いて文字が成立していることがわかる。また、匚はこがまえが付いた匪ヒは、さらに旁(つくり)となって榧ヒ(かや)が出来ている。

 なお,音符「非」は,部首も「非」となる。約220ある部首のうち音符になる字は160字ほどある。

音符字の部首について
 「部首の位置の12区分」の表は「部首+音符」の組み合わせとなる漢字を対象に作成したものである。しかし音符字については、この表を適用できない。これについて以下のような「問題と解答」の形式で例をあげて説明したい。

問題 次の漢字の部首を答えてください。
  問題1 丘キュウ 問題2 亜ア   問題3 兼ケン  問題4 世セイ  
  問題5 五ゴ    問題6 兆チョウ 問題7 率リツ  問題8 半ハン

正解 正解は以下のカッコ内。
  問題1 丘キュウ(部首:一いち)  問題2 亜ア(部首:二に)
  問題3 兼ケン (部首:八はち)  問題4 世セイ(部首:一いち)
  問題5 五ゴ  (部首:二に)    問題6 兆チョウ(部首:儿ひとあし)
  問題7 率リツ (部首:亠なべぶた)問題8 半ハン(部首:十じゅう)

 丘や亜や兼などの字は、漢字辞典で調べるとき、画数索引か発音で調べれば見つかるので、無理に部首を覚える必要はない。これらの漢字の部首を覚えても役にたたないか、かえって有害である。
 ここに挙げた問題の漢字は音符字である。漢字の音符字は基本的に分解不可能な字であり無理に部首を作っても、部首以外の部分はまったく意味のない漢字の体をなさないものになっている。なぜ、こんな部首を作ったのか。それはすべての漢字を部首別に配列する字典が一般的だからである。部首別の字典は漢字の構造を示すには有意義だが、収録するすべての漢字に部首を付けるため、分解できない漢字にも無理に部首を設定することになる。

画数のすくない部首には、どこにも分類できない漢字が集中している。
部首「一いち」の主な漢字(太字は音符)
 一:丁・七・三・上・下・丈・万・不・与・丙・世・且・丘・丞・両・並

部首「二に」の主な漢字(太字は音符)
 二:互・五・亘・亜・井・云・些・

部首「八はち」の主な漢字(太字は音符)
 八:共・兵・具・典・其・六・兼・公

部首「十じゅう」の主な漢字(太字は音符)
 十:廿・協・博・午・卒・卓・升・千・半・卑・南

部首「亠なべぶた」の主な漢字(太字は音符)
亠:亡・亢・亦・亥・交・京・享・亭・商・率

部首「儿ひとあし」の主な漢字(太字は音符)
 儿ジン:イン・元・兄・光・充・先・兆・克・児・兎・禿・免・党

以上、部首を見るとき、音符字の部首は本来の部首ではなく、便宜的につけた部首ですので、注意が必要です。

お知らせ
 漢字をすべて音符順にならべた、『音符順 精選漢字学習字典 ネット連動版』石沢書店(2020年)発売中です。
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音符「丘キュウ」と「岳ガク」

2021年10月21日 | 漢字の音符
 キュウ・ク・おか  一部

解字 甲骨文は山が二つならんだ形で、山よりひくく小高い「おか」の象形。金文と篆文は、横線の上に人が背をむけたような形に変化した。隷書レイショ(漢)は第一字(左上)で、コと逆向きのコが下の線でつながった形。第2字(下)で線上にイ+「 になり、第3字(右)で「線上にイ+丁」になった。現代字は横線上のイと丁がくっついた丘になった。おかや土を盛った墓を表わす。
意味 (1)おか(丘)。小高いところ。「丘陵キュウリョウ」(起伏のなだらかな小山)「段丘ダンキュウ」(階段状の丘)「砂丘サキュウ」(2)大きく土を盛った墓。「墳丘フンキュウ」「丘墓キュウボ

イメージ  
 「おか」
(丘・岳)
 「形声字」(邱・駈・蚯)
音の変化  キュウ:丘・邱・蚯  ガク:岳  ク:駈

お か     
[嶽] ガク・たけ  山部
解字 「丘(おか)+山(やま)」の会意。丘と山を合わせ、高い山を表わす。旧字の「嶽ガク」に当てた。旧字については、「獄ゴク」を参照。
意味 (1)高大な山。「山岳サンガク」「富岳フガク」(富士山のこと)(2)妻の父母の呼称。「岳父ガクフ」「岳母ガクボ

その他
 キュウ・おか  阝部おおざと
解字 「阝(=邑:まち・むら)+丘(キュウ)」の形声。キュウという名の町や村。また姓。
意味 (1)地名。姓。「大邱タイキュウ」(韓国の地名)「邱永漢キュウエイカン」(人名:作家)(2)おか(邱)。孔子の名が「丘キュウ」であるため、これを避けて同音の邱を用いた(学研漢和)。「邱山キュウザン」(丘や山)「邱園キュウエン」(丘や田園)
 ク・かける  馬部
解字 「馬(うま)+丘(ク)」の形声。クは駆(かける)に通じ、馬がかけること。駈は駆の異体字。駆が常用漢字のため、かける意は駆を使うことが多い。駆と駈を使い分ける場合は、駆が全速力でかける(疾駆)のに対し、駈は、乗馬でゆっくりかける意(駈け足)に用いることが多い。
意味 かける(駈ける)。馬に乗って走る。人が走る。「駈足かけあし」「駈け落ち」(①ひそかに逃げて行方をくらます。②結婚の許しを得られない男女が、ひそかに他所へ逃げ隠れること。=駆け落ち)
 キュウ  虫部
解字 「虫(むし)+丘(キュウ)」の形声。キュウという名の虫(細長い小動物)。「蚯蚓キュウイン」に用いられる字。
意味 「蚯蚓キュウイン」とは、環形動物門貧毛綱に属する動物の総称。目がなく手足もない紐状の動物である。名称は「目見えず」からメメズになり、転じてミミズになったと言われる。「蚯蚓書みみずがき」(ミミズがはいまわった跡のような文字の書き方)「蚯蚓腫(ば)れ」(皮膚がミミズのように長く赤く腫れること)
<紫色は常用漢字>

   バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。



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音符 「委イ」 <女が身体をなよやかに下に向ける> 「萎イ」と「魏ギ」

2021年10月18日 | 漢字の音符
 イを追加しました。。
    イ <女が身体をなよやかに下に向ける>
イ・ゆだねる  女部

解字 「禾(穂先がなよやかに垂れたイネ)+女」の会意。女が身体をなよやかに下に向ける形で、力なく他人に身をまかせる女の意。ゆだねる、まかせる意味を表わす。
意味 (1)ゆだねる(委ねる)。「委任イニン」「委託イタク」 (2)まかせる(委せる)。「委員会イインカイ」「委譲イジョウ」 (3)くわしい(委しい)。こまかい。女がしなやかに下向くさまが、こまやかな美しさを表す語から転じたとされる。「委細イサイ」(細かくくわしい。くわしい事情)

イメージ
 女が身体を下に向ける形から「身をゆだねる」(委) 
  「曲がって低い」(萎・痿・倭・矮)
  「その他」(魏・巍)
音の変化  イ:委・萎・痿  ギ:魏・巍  ワ:倭  ワイ:矮

曲がって低い
 イ・なえる・しおれる 艸部
解字 「艸(くさ)+委(曲がって低い)」の会意形声。草がしおれてしんなりと曲がって垂れる意。
意味 (1)なえる(萎える)。しおれる(萎れる)。しぼむ(萎む)。しなびる(萎びる)。ぐったりする。「萎縮イシュク」「枯萎カイ」(枯れてしおれる)
 イ・なえる  疒部
解字 「疒(やまい)+委(=萎なえる)」の会意形声。萎は草がなえること、痿は身体が、なえる病気。
意味 (1)なえる(痿える)。身体の力が弱くなる。また、身体の一部がしびれて動けなくなること。「痿弱イジャク」 (2)しびれる(痿れる)。足がしびれて動かない。「痿疾イシツ」(しびれやまい)「痿痹イヒ」(①手足がしびれて動けない。②政治がしっかりしていない)「痿蹶イケツ」(足がしびれて倒れる)
 ワ・イ・やまと  イ部
解字 「イ(ひと)+委(曲がって低い)」の会意形声。背が曲がって低い人。倭は長江流域を原住地として各地に移動した民族に対し、漢族が卑称として名付けたもので、古代中国には倭族が各地にみられる[鳥越健三郎「倭人・倭国伝全釈」]。古代中国で、日本も倭とよばれた。
意味 昔、中国で日本人を指したことば。やまと(倭)。日本。「倭人ワジン」「倭寇ワコウ」(明代に中国の沿岸を倭人の海賊が掠奪した行為をいう)「倭名ワミョウ」(日本名)
 ワイ・ひくい  矢部
解字 「矢(みじかい矢)+委(曲がって低い)」の会意形声。背が矢のように短く低いさま。矢がつくので曲がる意味はとれる。
意味 ひくい(矮い)。みじかい。背丈が低い。「矮小ワイショウ」(背が低く小さい)「矮屋ワイオク」(高さの低い小さい家)「矮鶏ちゃぼ」(小形で脚が短く翼が地面に接するほど低い鶏)

その他
 ギ  山部

  上は巍、下は魏
解字 「委+嵬カイ・ガイ・ギ(たかい・おおきい)」 の会意形声。意味は、山が高く大きいさまであるから嵬カイ・ガイ・ギと同じである。しかも発音のギは嵬にもある。では、どうして委をつけて巍の字を作ったのだろうか。後漢の[説文解字]は、「高也(なり)。嵬に从(したがい)委の聲(声)。と説明したあと「今の人、山を省くに从(したがい)魏國の魏と為す」と述べている。つまり、「巍は高い意だが、今は山を省いた魏を国名に用いている」という。
 しかし、巍の字は最初から委をつけて国名や姓に用いたのではないだろうか。つまり、国名・姓を表す字として巍を作ったと思われるのである。[字源](中国)は「魏国、魏姓の魏は本来、巍と書いていた。のち山を省き魏としたが、その過程で国を表す巍は、上部の山を下部におくようになり、さらにこの山を省き、しかもアクセントを去声(上から下へWèi)とし魏が成立した」と述べている。
最初の魏姓図 山が下にきた魏姓図
 では何故「委」をつけたのか? 中国のネットによると「魏姓の源は西周の初期、周の成王が分封した姬(姫)姓伯爵諸侯国の魏国」に由来するようである。姬(姫)姓は女偏がつき母系氏族社会に起源をもつ姓とされる。その姬(姫)姓諸侯国のひとつが母系氏族を表すために女の字が入った委をつけて姓や国の名としたのではないだろうか。
 なお、巍の音符は「委イ」とする説(説文解字)と、「嵬カイ・ガイ・ギ」とする説(字統)がある。日本語の発音からは「嵬」説が納得できるが、現在の中国語は委(wěi)と同じ発音(巍wēi)である。本稿ではとりあえず音符「委」に含めた。
意味 (1)たかい。山がたかく大きいさま。抜きんでるさま。「巍峨ギガ」(高くそびえけわしい)「巍巍ギギ」(高く大きいさま)「巍然ギゼン」(高くそびえるさま。人物がひときわすぐれているさま)「巍闕ギケツ」(宮城の門外に設けられた二つの台。上に物見やぐらがある)
 ギ  鬼部
解字  巍を参照のこと。
意味 (1)姓のひとつ。 (2)国名。①戦国時代七雄の一つ。現在の山西省西部に建国。のち秦に滅ぼされた。(前403-前225)②三国時代、曹操の子・曹丕が建てた国。(220-265)「魏志ギシ」(『三国志』のうち魏の歴史を記した部分)「魏志倭人伝ギシワジンデン」(「魏志」の東夷の条に書かれている日本についての記述) (3)たかい。高く大きい。(=巍)
<紫色は常用漢字>


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紛らわしい漢字 「季キ」と「李リ」

2021年10月15日 | 紛らわしい漢字 
 の下に子がついたのが季、木の下に子がついたのが李、どんな違いがあるのか?
  キ <穂に子(たね)ができる>
 キ  子部             

解字 「禾(穀物のたれた穂)+子(こども・タネ)」の会意。イネ科の植物の穂に子(タネ)ができて穀物が実った形。甲骨文字では穀物に関する神の意で祭祀対象になっているが、詳細は不明という[甲骨文字字典]。のち、実った穀物を収穫する時期や、実るまでの期間を表す。また、収穫するのは一番最後なので終わりの意もある。また、終りから兄弟の末っ子の意味にもなる。
意味 (1)とき。期間。ある一定の期間。「季節キセツ」(そのおりおり。時節)「乾季カンキ」(一年で雨の少ない季節。⇔雨季ウキ)(2)三カ月の間。「四季シキ」「春季シュンキ」「冬季トウキ」 (3)春夏秋冬の終わりの月。また、時代の終わり。「季春キシュン」(春の末。陰暦3月)「季世キセイ」(世の末)(4)兄弟の末っ子。「季子キシ」(末っ子)

イメージ 
 「実った穀物」(季)
 季の意味(4)の「末っ子」(悸)
音の変化  キ:季・悸

末っ子
 キ・おそれる  忄部
解字 「忄(こころ)+季(末っ子)」の会意形声。兄弟の末っ子は幼く、初めての所に行くと心がどきどきすること。転じて、おそれる・むなさわぎする意となる。幼児にかかわらず、おそれる意でもちいる。
意味 (1)おそれる(悸れる)。おそれや驚きで胸がどきどきする。「悸悸キキ」(おそれ驚き胸騒ぎがするさま)(2)心臓の鼓動が速い。「動悸ドウキ」(心臓の鼓動が普通より激しいこと=心悸シンキ

     リ <木になった実)
 リ・すもも  木部

解字 「木(き)+子(こども⇒実)」の会意。リという名の木の果実。すももを言う。
意味 (1)すもも(李)。バラ科の落葉小高木。春、白い花が咲く。桃より小さく酸っぱい果実をつけるので「すもも」とよばれる。「李下リカ」(すももの木の下)「李下に冠(かんむり)を正(ただ)さず」(スモモの木の下で冠をかぶりなおそうとして手を上げると、実を盗むのかと疑われるから、そこで直すべきではない)(2)「行李コウリ」に使われる字。行李とは、古代中国で同音の行理と書かれ、外国へって自国の事を管する外交官の意。外交官はよく旅行し荷物を運ぶので、旅行の荷物、また荷物入れの意となった。「柳行李やなぎごうり」(コリヤナギの枝で編んだ荷物入れ)(3)姓。「李白リハク」(中国・唐代の詩人)「李斯リシ」(秦の宰相。始皇帝に仕えた。)「李朝リチョウ」(朝鮮の王朝の名。李成桂が立てた。1392~1910年)
<紫色は常用漢字>





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日本漢字の綴音一覧表

2021年10月13日 | 漢字音
 私は今年(2021)6月28日のブログで、「漢字音の五十音図表」と題して、漢字の発音を中心に表す五十音図表を作成して公開した。この表は、基本的な五十音表に「濁音」「拗音」を追加して、一つにまとめた以下のような表です。

 特に、拗音ヨウオンをイ段の横に組み込んだのが、特徴といえる。拗音とは、い段の発音で語頭音のうしろにヤ・ユ・ヨがつづくとき、母音のい(i)が略されて発音され、表記が小さな「ゃ・ゅ・ょ」になることで、例をあげると、「き[ki]+や[ya]=きゃ[kya]」となる現象である。もともと、拗音は漢字の伝来とともに、その発音を表現するために生み出された音であり、漢字音と切り離すことができない。

日本の漢字音は、五十音表が基本となって構成される
 さて、日本の漢字音は、この五十音表が基本となって構成されている。例えば、この表の一字だけでも漢字音となる例として、清音のア(阿)やカ(可)、濁音のガ(我)、ザ(座)、拗音のジャ(蛇)、ニョ(如)のようなもあるが、この表のすべてが漢字音となるわけではない。例えば、清音のヘ、濁音のゾ、拗音のキュなどは漢字音とならない。また、パ行もすべての音が漢字音になっていない。(日本では「北京ペキン」と発音するが、現在の漢字字典で、ペは採用されていないので省いた)
 そして、圧倒的な漢字音は、この表の発音が結合して形声される。この結合した漢字音を綴音テツオンと言っている。(綴音は綴りの音と書く。綴りとは「つなぎあわせる」という意味であり、綴音とは基本となる最小単位の音がつなぎあわさり、一つのまとまった音になったもの、という意味である。綴音は漢字の最小単位の発音であり、これ以上分解することはできない。だから耳で聴くとき一つの音として聞こえるのである。(なお、五十音表のなかで漢字音となるものも綴音に含める)

日本漢字の綴音一覧表
 では現代日本の漢字綴音はいったい何種類あるのだろうか。この作業をするためには、漢字辞典の音訓索引から音の部分を抜き出してゆけばよい。しかし、音訓索引は音と訓が混じっているから作業しにくい。何かよい方法がないかと思案していたところ、『字通』の音訓索引は音と訓に分かれていることに思い至った。いつもは引きにくい字典だが、こんな時に役に立つとは思わなかった。
 作業は一日で済んだ。表にしてから通常の音訓索引のある漢字字典で最終確認した。出来上がったのが下記の表である。綴音のカタカナの後ろの ( ) に、その発音の漢字を入れていて分りやすくした。
 以下がその表である。上記の五十音表の配列に沿って綴音をならべている。


日本漢字の綴音は323音
 一覧表を見ていただくと分かるように、日本漢字の綴音は323音となった。これは多いといえば多いが、普通の漢字辞典に収録されている約1万字の発音が320余の綴音でまかなわれていると考えると少ない気もする。特に、カンやコウの字は多すぎるほどある。しかし、これは音の配分が偏っているせいでもある。
 ところで中国の漢字を表す綴音は、いくつあるのだろうか。現代中国の字書の発音はアルファベットを用いたピンインで表されている。約13,000字を収録する『中日辞典』(小学館)には、巻末に「中国語音節表」が付いており、声母(頭につく子音。タテ軸)と韻母(残りの母音を含む部分。ヨコ軸)に分けて、その交差点に音節(=綴音)が記入してある。その音節(=綴音)を数えると合計412音であった。日本よりかなり多い。
 しかし、中国の場合、この発音に声調といって4種類の上がり下がりの調子がある。すべての音節に4種類の声調があるわけではないが、3種類としても412×3=1,236であり、中国語の発音は日本より複雑だといえる。

日本漢字の綴音尾について
 日本漢字の綴音は最初に挙げた「漢字音の五十音図表」の中の、一音ないし二音が組み合わさって成立している。そして、上表の「日本漢字の綴音一覧表」は、いわば綴音の五十音順の表であり、先頭にくる音の順である。
 中国の漢字の発音は、声母(頭につく子音)と韻母(残りの母音を含む部分)に分けられることを紹介したが、日本漢字で二つに分けてみたらどうなるかを試したのが第2表である。


 
全体が入らないので縮小版も掲載しました。


日本漢字音の音尾は、7音と3つの拗音だけ
最初の単音は、字の頭でもあり尾でもあるので、独立した存在である。次の綴音の音尾が、漢字音の最後の音になる。これを見ると、漢字音の音尾が、イ・ウ・キ・ク・チ・ツ・ンのわずか7音と、3つの拗音(ャ・ュ・ョ)だけだったのは意外であった。この表は思いついて作ってみたので、結果が何を意味するのか、まだ分からない。
 今後は、①音尾が、イとウの母音で終わるもの。②音尾が、キ・ク・チ・ツで終わるものの起源。③音尾のンの存在に、注目して調査してみたい。(石沢誠司)







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音符「奴ド」<どれい>と「努ド」「怒ド」

2021年10月10日 | 漢字の音符
  ド・ド・ド・ダ、を追加しました。
 ド・ヌ・やつ・やっこ  女部    

解字 「女(おんな)+又(て)」の会意。手で女を捕らえ、不自由化して奴隷にする意。女だけでなく男女の奴隷につかう。
意味 (1)しもべ。召使い。使用人。「奴隷ドレイ」(領主に隷属して労働などに従事した者)「農奴ノウド」(領主に隷属して農業を行なう農民)「奴婢ヌヒ・ドヒ」(①律令制の賎民の一つ。奴は男、婢は女。②召し使いの男女)「奴虜ドリョ」(捕らえられて奴隷になったもの) (2)[国]やっこ(奴)。武家の下男。大名行列にお供の先をつとめた。「町奴まちやっこ」(江戸市中の侠客)「奴凧やっこだこ」 (3)やつ(奴)。他人をいやしめていう語。「奴等やつら」「守銭奴シュセンド」(金銭欲のつよい者)

イメージ 
 「どれい」
(奴・努・駑・孥・拏)
  奴隷の労働が「はげしい」(怒・弩・呶)
 「形声字」(帑)
音の変化  ド:奴・努・駑・孥・怒・弩・呶・帑  ダ:拏  

どれい
 ド・つとめる  力部
解字 「力(スキ)+奴(農奴)」 の会意形声。力は農具のスキの象形。農奴がスキで黙々と農作業をすること。
意味 (1)つとめる(努める)。はげむ。「努力ドリョク」 (2)ゆめ(努)。「努努ゆめゆめ」(けっして)
 ド  馬部
解字 「馬(うま)+奴(他人をいやしめる言葉)」 の会意形声。奴に、他人をいやしめていう意味があり、相手を軽蔑したり低い者とみなして「やつ」「やつら」「こやつ」などと言う。駑は、その意味を馬をつけて表した字で、馬にかこつけて人の能力が劣るさまや、人を軽蔑する意味で用いる。
意味 (1)にぶい馬。「駑馬ドバ」(①のろま馬。②才能のない人) (2)のろい。にぶい。おろか。「駑鈍ドドン」(才がにぶく知恵がたりない)「駑劣ドレツ」(にぶく劣る)
 ド・ヌ  子部
解字 「子(こども)+奴(どれい)」の会意形声。女の奴隷とその子。家の代表である戸主(父)に対し、その家中の妻子を総称する。妻子を家中の奴隷になぞらえることば。([漢字源]を参考にした)
意味 (1)つまこ。妻と子。「孥戮ドリク」(罪を妻子にまで及ぼして殺す)「孥属ドゾク」(家族) (2)こども。「孥稚ドチ」(幼児)(3)しもべ。
 ダ・ナ・ひく・つかむ  手部
解字 「手(て)+奴(女を手でつかまえる)」の会意形声。奴は女を手でつかまえる意味であり、それに手をつけて、つかむ意味を強調した字。拿の異体字。
意味 (1)ひく(拏く)。ひっぱる。 (2)とらえる(拏える)。つかむ(拏む)。「拏雲ダウン」(雲をとらえる。高い志)「拏獲ダカク」(捕獲する)「拏捕ダホ」(つかまえる=拿捕ダホ

はげしい
 ド・ヌ・いかる・おこる  心部
解字 「心(こころ)+奴(はげしい)」 の会意形声。荒々しく激しい気持ち。
意味 (1)いかる(怒る)。おこる(怒る)。「激怒ゲキド」「怒号ドゴウ」「憤怒フンド・フンヌ」「奴髪ドハツ(かんむり)を衝(つ)く」(怒りのあまり髪が逆立ち冠を突きあげる) (2)勢いが盛ん。「怒張ドチョウ」(①はちきれるようにふくらむ。②筆力の勇ましいさま)
 ド  弓部
解字 「弓(ゆみ)+奴(はげしい)」 の会意形声。普通の弓よりはげしい威力をもつ弓。
 弩の図
意味 おおゆみ。横倒しにした弓の中央部と直角に木製の台座をつけ、弓弦を張って引き金に止めた装置。台座に矢をおき、発射するとき引き金を引く。普通の弓にくらべ矢の速度が速く威力がある。なお、いしゆみ(石弓)は石落としの装置であり、弩に、いしゆみの訓は正確でない。弩は兵馬俑坑から発見され、秦の始皇帝時代から使われていたことが判明した。「弩弓ドキュウ」「弩手ドシュ」(弩を扱う人)
 ド・ドウ  口部
解字 「口(くち)+奴(はげしい)」の会意形声。はげしく大声をだすこと。かまびすしい意となる。
意味 かまびすしい(呶しい)。やかましい。「呶呶ドド」(やかましい。多言する)「号呶ゴウド」(やかましいさけび)

形声字
 ド・トウ  巾部
解字 「巾キン(=帛・幣)+奴(ド)」の形声。巾(きれ)はここで、帛ハク(絹)や幣ヘイ(貨幣)の略体。ドという名の帛(絹)や貨幣を蔵する所をいう。[字通]によれば、「奴は犯罪者のほか外蕃(異民族)であり、古くは異族の虜囚などを聖所に属して使役させたものであろう。これらを神の徒隷とすることに宗教的な意味があったものと思われる」としている。したがって奴には古く神事に供する意があり、帛・幣を神に供する意からでた字と思われる。また、孥に通じ、妻子をいう。
意味 (1)ぬさ。たから。 (2)くら。かねぐら(帑)。「帑金ドキン」(庫の金)「帑蔵ドゾウ」(かねぐら。官府の庫)「帑幣ドヘイ」(かねぐらにある金銀) (3)つまこ。「妻帑サイド
<紫色は常用漢字>

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音符「古コ」<祝詞の器を盾で守る> と「枯コ」「故コ」「苦ク」

2021年10月07日 | 漢字の音符
  コ・コ・コを追加しました。
 コ・ふるい・ふるす・いにしえ  口部

解字 甲骨文は、「盾たての形+口(祝詞をいれた器)」の会意。神への祈りである祭礼の祝詞を入れた器を盾で大事に守るかたち。この結果、祝詞はその内容がずっと保たれるので、「昔から」の意となる。一方、内容は昔のままなので、古い意となる[字統]。篆文から盾の形が十になり現在の古になった。
意味 (1)ふるい(古い)。むかし。いにしえ(古)。「古代コダイ」「古人コジン」「懐古カイコ」 (2)ふるい(古い)。ふるびた。「古参コサン」「古豪コゴウ」「古色コショク

イメージ 
 「ふるい」
(古・枯・姑・詁)
  原義の「祝詞の器を盾で守る」(故・做)
 「形声字」(沽・估・辜・苦・鈷・罟・蛄・鴣)
音の変化  コ:古・枯・姑・詁・故・沽・估・辜・鈷・罟・蛄・鴣  ク:苦  サ:做

ふるい
 コ・かれる・からす  木部  
解字 「木(き)+古(ふるい)」の会意形声。年を経て古くなって衰えてきた木。最後にひからびて枯れる。
意味 (1)かれる(枯れる)。ひからびる。水がかわく。「枯渇コカツ」「枯山水カレサンスイ」(水を用いず石や砂で山や川を表現した庭園) (2)おとろえる。「栄枯盛衰エイコセイスイ
 コ・しゅうとめ  女部
解字 「女(おんな)+古(ふるい)」の会意形声。ふるい(歳の経た)女。
意味 (1)しゅうとめ(姑)。しゅうと(姑)。夫の母。また、妻の母。「舅姑キュウコ」(しゅうとと、しゅうとめ)「小姑こじゅうと」(夫または妻の姉妹) (2)(仮借カシャ・当て字の用法)しばらく(姑く)。とりあえず。「姑息コソク」(①しばらくの休息。②転じて、一時の間に合わせ、その場のがれ)
 コ・よみ  言部
解字 「言(言葉)+古(ふるい)」の会意形声。古い言葉や文字をいい、その言葉を読み解くこと。
意味 よみ(詁み)。ときあかし。古い言葉を読み解くこと。古い言葉の意味やよみ方・解釈。「訓詁クンコ」(古言の字句の解釈)

祝詞の器を盾で守る
 コ・ゆえ  攵部

解字 金文第一字は、古。第二字および篆文は、「攴ボク(=攵。手に棒をもってたたく)+古(祝詞の器を盾でまもる)」の会意形声。盾で守っている器を攴ボクでたたくこと。攴ボクで、たたいて仕掛けるので、「故意に・わざと」となり、仕掛ける理由である「なぜ」となり、しかけた結果、盾と攴で争いが始まるので、「事故・わるいできごと」の意となる。現代字は攴⇒攵になった。
意味 (1)(古い・昔の意を強めて言う)昔から。もとから。「故事コジ」「故実コジツ」 (2)わざと。「故意コイ」 (3)わけ。ゆえ(故)。「何故なぜ」 (4)さしさわる。悪いできごと。「故障コショウ」「事故ジコ」 (5)しぬ。「故人コジン」「物故ブッコ
 サ  イ部
解字 「イ(ひと)+故(サ)」の形声。サは乍(つくる)に通じ、これにイ(ひと)がついた做は作る意。中国で近世になって作の俗語としてできた字。なぜ発音がサに変化したかは不明。現代中国では作る意で広く使われている。日本ではあまり使われないが、なす意から「見做す」などと書かれる。
意味 (1)なす(做す)。作る。やる。する。 (2)なる(做る)。成る。 (3)なす意から、「見做す」「看做す」と書かれる。

形声字
 コ  イ部
解字 「イ(ひと)+古(コ)」の形声。コは賈(売り買いする)に通じる。売り買いする商人。
意味 (1)うる。あきない。あきんど。「估価コカ」(ねだん。売買の価格) (2)ねうち。あたい。「估券コケン」(沽券とも書く。①人の値打ち。体面。②土地や家の売り渡しの証券。)
 コ  氵部
解字 「氵(水)+古(コ)」の形声。コは賈(売り買いする)に通じる。水上交通での売り買いをいう。
意味 (1)うる。かう。売り買いする。「沽酒コシュ」(酒の売買。また、その酒) (2)あたい。ねうち。「沽券コケン」(估券とも書く。①土地や家の売り渡しの証券。②人の値打ち。体面)
 コ  辛部
解字 「辛(刀)+古(コ)」の形声。コは固(固定する)に通じる。辛は針の意であるが、宰サイ(廟で刀を持ち犠牲獣の肉を切る人=主宰する)のように刀の意味にもなる。辜は人を固定し刀で切り裂く刑で、重い罪をいう。
意味 つみ(辜)。重い罪。はりつけや八つ裂きにされる重罪。「無辜ムコ」(罪のない)
 ク・くるしい・くるしむ・くるしめる・にがい・にがる  艸部
解字 「艸(くさ)+古(ク)」の会意形声。クという名の草。食べるとにがいので、苦い意となる。また、苦いものを食べて苦しくなること。
意味 (1)にがな(苦菜)。キク科の多年草。食べられるが苦味がある。 (2)にがい(苦い)。「苦汁クジュウ」 (3)にがにがしい。「苦言クゲン」「苦笑クショウ」 (4)くるしい(苦しい)。くるしむ。ほねおる。「苦境クキョウ」「苦労クロウ」「苦心クシン
 コ  金部
解字 「金(金属)+古(コ)」の形声。コという名の金属製のインド仏具の名。
意味 インドの護身用の仏具の名。基本的な形は棒状で、中央に柄があり、その上下に槍状の刃が付いている。「独鈷トッコ・ドッコ」(独鈷杵ドッコショの略。両端の突き出た刃が分岐していない法具)「三鈷サンコ」(両端の刃がフォークのように三本に分かれたもの)
 コ・ク・あみ  罒部   
解字 「罒(=网あみ)+古(コ)」の形声。コは固コ(周囲を囲みかためる)に通じ、周囲を囲んで魚をとる網をいう。 
意味 (1)あみ(罟)。うおあみ。「罟師コシ」(網で魚をとる漁師)「数罟ソウコ・サクコ」(目の細かな網)「罟網コモウ」(あみ)「罟目コモク」(網の目) (2)法のあみ。おきて。「罪罟ザイコ」(法のおきてにより罪(つみ)となる)
 コ・ク  虫部
解字 「虫(むし)+古(コ)」の形声。コという名の昆虫や甲殻類に用いられる。
シャコ(蝦蛄)
ブログ「ふぃっしんぐっど!」より
意味 (1)「蝦蛄シャコ」に用いられる字。「蝦蛄シャコ」とは、シャコ目の甲殻類の総称。「青竜蝦シャコ」とも書く。体長は12~15cm前後。多くは、内湾や内海の泥底や砂泥底に生息し、海底の砂や泥にU字形の巣穴を掘って生活する。(2)「螻蛄ロウコ」に用いられる字。螻蛄ロウコとは昆虫の一種で、「けら・おけら」をいう。バッタ目ケラ科のコオロギに似た昆虫。前肢は大きく、土を掘るのに適している。(3)「蟪蛄ケイコ」に用いられる字。「蟪蛄ケイコ」とは、夏蝉なつぜみをいう。短命のたとえ。「蟪蛄は春秋を知らず」
 コ・ク  鳥部
 コモンシャコ(ウィキペディア)
解字 「鳥(とり)+古(コ)」の形声。コという名の鳥。「鷓鴣シャコ」に用いられる字。
意味 「鷓鴣シャコ」とは、キジ科の鳥のうち、ウズラとキジの中間の体形をもつ一群。中国ではこの中の一種コモンシャコをいう。「鷓鴣斑シャコハン」(陶釉の一つ。釉(うわぐすり)中に鷓鴣の羽毛の斑紋に似た模様が表れているもの)
<紫色は常用漢字>

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音符「比ヒ」<右向きの人が二人ならぶ> と「批ヒ」「陛ヘイ」

2021年10月04日 | 漢字の音符
  ヘイ・ヒを追加しました。
 ヒ・くらべる  比部  

解字 右向きの人が二人一緒にならんでいる形の象形。ならぶ、ならべる、(ならべて)くらべる意味になる。比は部首になるとともに、音符ともなる。なお、左向きの人が二人ならぶ形は、从ジュウで、したがう意となり、そのかたちは従(したがう)の旧字「從」に含まれている。
意味 (1)ならぶ。ならべる。「比肩ヒケン」(肩をならべる) (2)くらべる(比べる)。照らし合わせる。「比較ヒカク」「比類ヒルイ」 (3)したしむ。たすける。

イメージ 
 「くらべる」
(比・批) 
 「ならぶ」(陛・庇・毘)
 「形声字」(屁・砒・枇・琵・秕・妣・篦・蓖) 
 
音の変化  ヒ:比・批・庇・屁・砒・秕・妣・蓖  ビ:毘・枇・琵  ヘイ:陛・篦

くらべる
 ヒ  扌部
解字 「扌(て)+比(くらべる)」 の会意形声。物事を手でならべ比べて良し悪しを見極めること。また、悪い点を指摘すること。
意味 (1)良し悪しを判定する。品定めする。「批評ヒヒョウ」「批判ヒハン」「批点ヒテン」(詩文などのたくみな所、重要な所のわきに点を打つこと) (2)(良し悪しを判定したのち)君主が書類を認める。「批准ヒジュン

ならぶ
 ヘイ・きざはし  阝部こざと  
解字 「阝(神が降りてくるハシゴ)+比(ならぶ)+土(つち)」 の会意形声。「比+土」の坒ヒ・ヘイは、きちんと並んだ土の意で階段のこと。これに阝を付けた陛は、神がそこに降りたつ階段の意。
意味 (1)きざはし(陛)。天子がいる宮殿にのぼる階段。「陛見ヘイケン」(天子にお目にかかる)「陛下ヘイカ」(天子の尊称。直接天子を指さず、階段の下を指して暗示した言葉)
※同じような用法。「殿下デンカ」(皇太子などの敬称)「閣下カッカ」(高位高官に対する敬称)
 ヒ・かばう・おおう・ひさし  广部
解字 「广(片やね)+比(ならぶ)」 の会意形声。片屋根の下に人が並んでいる形で、人々をおおって保護する意。また、日本では、ひさしの意になる。
意味 (1)おおう(庇う)。かばう(庇う)。保護する。「庇護ヒゴ」(かばいまもる) (2)[国]ひさし(庇)。「雪庇セッピ」(山の稜線に庇のように張り出した雪の吹き溜り)
 ヒ・ビ  田部
解字 「田(田畑)+比(ならぶ)」 の形声。田畑がならぶ意で地勢がつらなる意だが、古くから発音のビが梵語の音訳字に用いられる。
意味 (1)つらなる。「毘連ヒレン」(つらなる)(2)梵語の音訳字。「毘沙門天ビシャモンテン」(仏教の四天王の一つ。日本では七福神の一つ)「荼毘ダビ」(火葬。また葬式)「毘舎ビシャ」(インドの第三番目の階級。庶民階級。バイシャ)

形声字
 ヒ・へ  尸部
解字 「尸(=尻。しり)+比(ヒ)」 の形声。お尻からヒッという音を出してもれる屁。
意味 へ(屁)。おなら。「放屁ホウヒ」(屁をひる)
 ヒ  石部
解字 「石(鉱物)+比(ヒ)」 の形声。ヒという名の鉱物。砒素をいう。
意味 ひそ(砒素)。非金属元素の一つで、化合物は猛毒。農薬・医薬の原料となる。元素記号はAs。「砒石ヒセキ」(砒素・硫黄・鉄などからなる鉱物)
 ヒ・ビ  木部
解字 「木(樹木)+比(ビ)」 の形声。ビという名の木。中国南西部原産のビワ(ビハ)という木とその果実を表す字として使われる。
意味 枇杷ビワとは、バラ科の常緑高木で果樹。初夏に黄橙色の実がなる。ひわ。
 ビ  王部
解字 「琴の略体+比(ビ)」 の形声。ビという音の琴に似た弦を張った楽器。ペルシャから伝わった楽器・ビワ(ビハ)の音訳に使われる。
意味 「琵琶ビワ(ビハ)」に用いられる字。琶ハも同じ用法。琵琶とは、弦楽器の一つで、大きなしゃもじ形の胴に4本(5本)の糸を張り、バチで鳴らす。「琵琶法師ビワホウシ」「琵琶湖ビワコ」(滋賀県にある琵琶の形をした湖)
 ヒ・しいな  禾部
解字 「禾(イネ)+比(ヒ)」 の形声。ヒは非(あらず)に通じ、実がないイネ。
意味 (1)しいな(秕)。よく実がはいらない穀物。「秕糠ヒコウ」(しいなとぬか。役立たない残り物)(2)粗悪。実質がともなわない。「秕政ヒセイ」(悪い政治)
 ヒ  女部

解字 「女(おんな)+比(ヒ)」 の形声。ヒは、ヒ(女性の祖先)に通じる。甲骨文字は腕を曲げている人の側面形。甲骨文では二世代以上前の女性祖先の意味で使われている[甲骨文字辞典]。金文第2字で女がついた「女+ヒ」の字があらわれ女性祖先の意味をはっきりさせた。篆文から、死去した母親の意となり、ヒが同音の比に変化した妣となった。なお、女偏のつかないヒは、仮借カシャ(当て字)され、さじや、匕首(あいくち)の意になっている。<参考>音符「ヒ」
意味 なきはは(亡き母)。はは。「先妣センピ」(亡き母)⇔先考センコウ(亡き父)。「考妣コウヒ」(亡き父と母)「祖妣ソヒ」(亡くなった母と先祖)
 ヘイ・ヒ  竹部
篦子ヘイシ
https://twgreatdaily.com/hFIglXIBiuFnsJQVcbZ_.htm
解字 「竹(たけ)+囟シ・シン(ひよめき)+比(ヒ)」の形成。囟シ・シン(ひよめき)とは、幼児の頭の骨がまだ完全に縫合していない形で、頭蓋骨に隙間がある泉門のこと、此処では細い隙間の意(なお、「糸+囟」は現在の細の字になっている)。竹製の細い隙間のあるヒという名の櫛(くし)をいう。日本では、へらの意味で用いられる。発音は、ヒ⇒ヘイに変化。
意味 (1)すきぐし。髪を梳く櫛。櫛の歯の細かいもの。「篦子ヘイシ」(すきぐし) (2)[日本]へら(篦)。「竹篦チクヘイ・たけべら」「靴篦くつべら」「篦棒べらボウ」(異常なさま。当て字) 
 ヒ・ヘイ  艸部
ヒマ・蓖麻とその種子
http://mat-test.com/Post/Details/PT181113000017DaGcJ
解字 「艸(植物)+囟シ・シン(ひよめき。細い隙間)+比(ヒ)」の形成。実にクシの歯を連想させる細かい針状の突起が一面に生えているヒという名の植物。見た目は小さな栗のイガに似ている。
意味 「蓖麻ヒマ」に用いられる字。蓖麻とはトウゴマで、トウダイグサ科の一年草。種子(蓖麻子)から、ひまし油をとる。「蓖麻子油ヒマシユン」(粘性の不乾性油。下剤とする)
<紫色は常用漢字>

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音符「巨キョ」<へだてる> と「拒キョ」「距キョ」「炬キョ」「渠キョ」「矩ク」

2021年10月01日 | 漢字の音符
  苣キョ・秬キョを追加しました。
 キョ・おおきい  工部         

解字 金文第一字は、工型の定規に手で持つ取っ手のついた形の象形。矩の原字。金文第二字は、この定規を持つ人を表す。大の字形の人と比べるとかなり大きいことがわかる。通常の定規より大きいので、おおきい意を表わす。篆文は工に取っ手の形。現代字は匚に取っ手に変化。部首はもと工型なので工。
意味 (1)おおきい(巨きい)。「巨人キョジン」「巨大キョダイ」 (2)多い。はなはだ多い。「巨額キョガク」「巨万キョマン」 (3)すぐれた。「巨匠キョショウ」「巨星キョセイ

イメージ
 「おおきい」(巨・苣) 
 巨は定規のかたちなので「定規」(矩)
 定規は工型で両端のあいだが離れているから「へだてる」(拒・距・炬・渠)
 「形声字」(秬)
音の変化  キョ:巨・苣・拒・距・炬・渠・秬  ク:矩

おおきい
 キョ  艸部
解字 「艸(くさ)+巨(おおきい)」の会意形声。大きな草で、葉の大きい野菜である「ちしゃ(萵苣)」を表す字に用いられる。
意味 「萵苣ちしゃ」(現在のレタス。古くから日本でサラダ用に栽培されていたが、明治以降に結球性のタマヂシャが普及した。萵は、くぼんだ葉の意、萵苣ワキョは葉がくぼんだ大きな野菜の意) 

定規
 ク・さしがね・のり  矢部
解字 「矢(や)+巨(定規)」の会意形声。矢と同じほどの長さの定規。巨の金文第二字は、定規を持った人の形で、その大きさが分かる。巨は工形の定規だが、現在はL形の曲尺を言う。
意味 (1)さしがね(矩)。L字形の定規。曲尺。かねじゃく。「矩尺かねジャク」(①直角に曲がったものさし。②長さの単位で約30.3cm) (2)直角。「矩形クケイ・さしがた」(四隅が直角の方形。長方形) (3)のり(矩)。おきて。きまり。「規矩キク」(規はコンパス、矩はものさし。人の行為の基準)「矩(のり)を踰(こ)えず[論語]」(人の行為の基準をはずれない)

へだてる
 キョ・こばむ  扌部
解字 「扌(手)+巨(へだてる)」の会意形声。手を前にだして相手との距離をつくる。
意味 こばむ(拒む)。ことわる。「拒絶キョゼツ」「拒否キョヒ
 キョ・へだてる  足部
 鶏距
解字 「足+巨(へだてる)」の会意形声。鶏などの脚の少し上にある蹴爪(けづめ)のこと。他の爪より離れていることから、へだてる意となる。
意味 (1)けづめ(距)。「鶏距ケイキョ」 (2)へだてる(距てる)。へだたり。「距離キョリ」 (3)ふせぐ。こばむ。(=拒)
 キョ・コ・たいまつ  火部
解字 「火+巨(へだてる)」の会意形声。まわりからへだてて管理された火。
意味 かがり。かがり火。たいまつ。「炬火キョカ」(①たいまつ。②かがり火)「松炬ショウキョ」(たいまつ)「炬燵コタツ」(炭火を入れた炉の上にやぐらをおき、ふとんで覆った暖房具)
 キョ・みぞ  氵部
解字 「氵(水)+木+巨(へだてる)」の会意形声。木を両側にへだてて置いた水路。
意味 (1)みぞ(渠)。ほりわり。「溝渠コウキョ」(水を通すみぞ)「暗渠アンキョ」(覆いをした水路)「河渠カキョ」(河と堀割り) (2)(巨に通じた用法)かしら。「渠帥キョスイ」(賊などのかしら)

形声字
 キョ・くろきび  禾部

解字 金文第一字は「巨(キョの音)+夫(おとこ)+鬯(においざけ)の略体」の形成。鬯チョウは酒の一種で、秬(黒黍)で醸造した酒に香草の鬱金ウコンを混ぜた香酒を指す。 古代中国の祭祀において神を降ろすのに用いられた。 おとこが鬯(においざけ)を供える祭祀のかたちで、巨キョはこの字の発音を表す。キョという名のにおいざけは、黒キビから作るので黒キビの意味がある。金文第2字は、鬯(においざけ)の横に発音を表す巨がついた形。篆文第1字は、「矢+夫+鬯(においざけ)」だが、金文の夫を矢に間違えた字。篆文第2字は「禾(イネ科)+巨(キョ)」で、キョという名のイネ科の植物で黒キビの意。現在の字もこの字形を受け継いでいる。
意味 (1)くろきび(秬)。実の黒い黍(きび)。「秬酒キョシュ」(黒キビで作った酒)「秬鬯キョチョウ」(黒キビとウコン草をまぜて作った酒。祭礼に用いた) (2)地名。「秬谷きびたに」
<紫色は常用漢字>

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