漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「更コウ」<打ち改める>と「便ベン」「硬コウ」「梗コウ」

2019年12月29日 | 漢字の音符
  更の解字を改めました。
 コウ・さら・ふける・ふかす  日部            

解字 甲骨文は「丙ヘイ+攴ボク(たたく)」の形。丙は建物または台座の形であり、建物ないし器物を作る、あるいは修繕する様子[甲骨文字辞典]。金文は丙を二つかさね、篆文では上の丙が一になり下と連結した。隷書(漢代)になり、丙の内の部分と攴の上部が田に変化し、現代字は更になった。甲骨文の意味は人名。金文は二つの丙をかさねて、つなぐ・継ぐ意。篆文にいたり、説文解字は、「改むるなり」として甲骨文字の建物・器物を修繕する形から出る意味と近くなっている。現在の意味は、あらためる・かえる・かわる意、および金文のつぐ意。日本では、さらに・ふける意でも使われる。
意味 (1)あらためる。かえる。かわる。「更衣室コウイシツ」「更新コウシン」「更改コウカイ」 (2)つぐ。「更続コウゾク」(つづく) (3)[国]さら(更)。あらた。「更地さらち」 (4)[国]さらに(更に)。そのうえ。 (5)[国]深まる。ふける(更ける)。ふかす(更かす)。「更待月ふけまちづき」(陰暦20日夜の月。夜がふけてから昇る月)「夜更かし」

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 器物などを打ち修繕する行為から「打ち改める」(更・便・鞭・甦)
 同音の剛コウ(ゴウ)に通じ「かたい」(硬・梗・粳)
音の変化  コウ:更・硬・梗・粳  ソ:甦  ベン:便・鞭

打ち改める
便 ベン・ビン・たより  イ部
解字 「イ(人)+更(打ち改める)」の会意。人が自分の前にある障害を打ち改めて、都合のよいように変えること(便利)。その結果、道が通じることから、便り(相手と連絡できる)・お通じ(大小便)の意ができた。
意味 (1)都合がよい。ついで。てだて。「便利ベンリ」「便宜ベンギ」(①都合のよいこと。②都合のよい処置)「便船ビンセン」(都合のよく出る船) (2)たより。手紙。「郵便ユウビン」「便箋ビンセン」 (3)大小の排泄物。「大便ダイベン
 ベン・むち  革部
解字 「革(かわ)+便(人が打ち改める)」 便は人が打ち改めること。そこに革がついた鞭は、人が馬などを打って行動を改めさせる革製のムチ。
意味 (1)むち(鞭)。むちうつ。「鞭策ベンサク」(馬のむち。むち打つこと。鞭も策も、むちの意)「鞭撻ベンタツ」(①むちうつ。②いましめ励ます)「先鞭センベン」(他人より先に馬に鞭打って走らせる。さきがけ)「先鞭をつける」 (2)むち状のもの。「鞭毛ベンモウ」(微小な生物に見られる細長い毛のような運動器官)
 ソ・よみがえる  生部
解字 「生(いきる)+更(打ち改める⇒かわる)」 の会意。生きかわる、つまりよみがえること。蘇(よみがえる)の意味を表す会意文字として六朝時代に作られた。したがって発音はソ。
意味 よみがえる(甦る)。(=蘇る)。生き返る。「甦生ソセイ」(=蘇生)

かたい
 コウ・かたい  石部
解字 「石(いし)+更(かたい)」の会意形声。石のようにかたいこと。
意味 (1)かたい(硬い)。かたいもの。「硬貨コウカ」「硬骨コウコツ」(⇔軟骨) (2)つよい。てごわい。意思がかたい。「硬骨漢コウコツカン」(意思が強く権力に屈しない男子)「強硬キョウコウ」 (3)ぎごちない。「生硬セイコウ
 コウ・キョウ 木部
解字 「木(き)+更(かたい)」 の会意形声。木質のかたい木でヤマニレの意。トゲのある木で、これで通路を妨げることを「梗塞」といい、ふさぐ意となる。
意味 (1)ヤマニレ。山野に自生するニレ科の落葉高木。トゲがある。 (2)ふさぐ。ふさがる。「梗塞コウソク」(ふさがって通じない)「脳梗塞ノウコウソク」(脳の血管がふさがる病気) (3)かたい・つよい(=硬) (4)おおむね。あらまし。「梗概コウガイ」(梗も概も、あらましの意。あらすじ) (5)秋の七草の一つ桔梗キキョウに使われる。
 コウ・うるち  米部
解字 「米(こめ)+更(かたい)」の会意形声。(炊いたとき、もち米に対して)かたく、ねばりけがない米。
意味 うるち(粳)。⇔糯(もち)。粘り気のすくないふつうの米。うるごめ。「粳稲うるしね
<紫色は常用漢字>

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音符「土ド・ト」と「徒ト」「吐ト」「社シャ」「圧アツ」

2019年12月17日 | 漢字の音符
 ド・ト・つち  土部
         
土に万物を生みだす力があると認めて土をまるめて祀る
解字 甲骨文と金文第一字は土をまるめて盛った姿の象形。古代人は土に万物を生みだす充実した力があると認めて土を祀った。甲骨文字辞典によれば「単独では土地の神などの意で用いられている」という。すなわち神を祀る社(やしろ)の原字でもある。字形は、金文第二字の肥点が横にのびて現在の字となった。
意味 (1)つち(土)。「土砂ドシャ」「土地トチ」 (2)領有する土地「領土リョウド」 (3)地方。「土産みやげ」 (4)五行(木・火・土・金・水)のひとつ。

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 「つち」
(土・徒・跿・圧)
 「土地の神」(社)
 「形声字」(杜・吐・肚)
 「同体異字」(牡)
音の変化  ド・ト:土・徒・跿・吐・肚・杜  シャ:社  アツ:圧  ボ:牡

つち
 ト・かち・いたずらに  彳部 
  
解字 金文は「彳(ゆく)+土(つち)+止の変形:あし)」 の会意形声。「彳(ゆく)+止(=龰。あし)」は、足で歩いて行くこと。つまり徒は、土の上を足で歩いてゆくこと。車に乗るのではなく歩いて行くので、一般庶民・なかま・弟子などの意となる。また、土の上をはだしでぶらぶらする人に当て、役に立たない・いたずらに等の意味になる。
※徒の右辺の走は、「走ソウ(はしる)」とは成り立ちが別の字。
意味 (1)かち(徒)。歩いて行く。「徒歩トホ」「徒渉トショウ」(歩いて川を渡る) (2)なかま。ともがら。「徒党トトウ」「学徒ガクト」「生徒セイト」(日本で中学生・高校生) (3)弟子。門人。「徒弟トテイ」「使徒シト」 (4)(馬も車もないことから)何ももたない。「徒手トシュ」(手に何ももたない。素手)「徒手空拳トシュクウケン」(徒手をつよめる言葉。空拳はこぶしが空) (5)(はだしでぶらぶらする人から)役にたたない。いたずらに(徒に)。あだ(徒)。むだ(徒)。「徒食トショク」(むだに食べている。仕事をせずぶらぶらとして日々をくらす。)「徒労トロウ」(むだな苦労)「徒言あだごと」(実じつのない言葉。むだな言葉) (6)ただ(徒)。~だけ。「徒者ただもの」(普通の人)「徒者でない」(並みの人でない)
跿 ト・すあし  足部
解字 「足(あし)+徒の略体(あるく)」 の会意形声。徒は土の上を歩いて行く意で、はだしで歩く意味を含む。これに足をつけた跿は、はだし・すあしの意味を表す。
意味 すあし。はだし。はだしで土をふむさま。「跿跔トク」(すあし)。跔は寒さで足が縮こまる意。「跿跔科頭トクカトウ」(すあしで、すあたま。勇気ある兵士のたとえ。科頭とは冠や頭巾をかぶらない頭。科は蝌(おたまじゃくし)に通じ、丸いすあたまの意)
 アツ・おす  土部  
解字 「厂(がけ)+土(つち)」の会意。崖によって下の土が押さえつけられること。旧字は壓アツで、新字体は旧字の厂(がけ)と土(つち)を取りだした形。
意味 (1)おす(圧す)。おさえる。おさえつける。「圧迫アッパク」「圧力アツリョク」「鎮圧チンアツ」 (2)おさえつける力。「気圧キアツ」「血圧ケツアツ
※圧アツ音符「厭エン」にも重出した。

土地の神
 シャ・やしろ  ネ部
解字 「ネ(示:祭壇)+土(土地の神)」の会意形声。土の神を祀(まつ)ること。
意味 (1)土地の神。くにのかみ。「社祠シャシ」(土地神とそれをまつる殿舎) (2)やしろ(社)。「やしろ」は屋代(やしろ)」であり、神の代わりとなる家屋、すなわち神社の意味である。「神社ジンジャ」「社殿シャデン」 (3)神社を中心に組織される昔の社会制度。「社会シャカイ」(集落の住民の会合。のち、人の世の中の意) (4)ある目的・事業のための集まり。「結社ケッシャ」「会社カイシャ

形声字
 ト・はく  口部
解字 「口(くち)+土(トの音)」 の形声。口から物を吐く音をトで表した。
意味 はく(吐く)。「吐血トケツ」「吐瀉トシャ」(吐きくだし)「嘔吐オウト」(食べたものを吐く)
 ト・はら  月部にく
解字 「月(からだ)+土(=吐の略体)」 の会意形声。吐くものがたまっている体の胃を意味した。のち、腹の意となりこれが主流となった。文語の腹フクに対し、白話(口語)から生まれた字。
意味 はら(肚)。「肚裏トリ」(腹のうち。心のなか)「肚子トシ」(はら。おなか)「肚帯トタイ」(はらおび)「肚痛トツウ」(はらのいたみ)
 ト・ズ・ふさぐ・もり  木部
解字 「木(き)+土(ト)」 の形声。トという名の木で、中国では山野に自生する落葉果樹を指し、特に杜梨トリ(やまなし)をいう。また、堵(さえぎる)に通じ、ふさぐ意をあらわす。
意味 (1)やまなし。小さな実をつける野生の梨の木。杜梨トリ。=棠梨トウリ。 (2)とじる。ふさぐ(杜ぐ)。「杜絶トゼツ」(ふさがり絶える=途絶) (3)姓。「杜甫トホ」(唐代の詩人)「杜氏トウジ・トジ」(酒を造る職人。酒を発明したとされる中国の杜康トコウの姓から)「杜撰ズサン」(いいかげんなこと。杜が撰(つく)る。中国の詩人・杜黙トモクの詩が作詩のきまりからはずれたものが多いことから) (4)[国]もり(杜)。神社のもり。「杜(もり)の都」(宮城県仙台市の愛称)

同体異字
 ボ・ボウ・おす・お  牛部
    
解字 甲骨文の第一字は「牛+⊥(オスの性器)」で、牡牛(おうし)の意。第二字は羊、第三字は鹿にそれぞれ⊥(オスの性器)が付き、いずれも獣のオスを表す。金文から⊥→土に変化し牛のオスだけが残った。
意味 (1)おす(牡)。鳥獣のおす。対義語は「牝ヒン」。「牡牛おうし」「牝牡ヒンボ」(めすとおす)(2)ボの音。「牡丹ボタン」「牡蠣ボレイ・かき
紫色は常用漢字>

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