漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「上ジョウ」 <うえ> と「下カ」 <した> 「雫しずく」「颪おろし」「梺ふもと」「峠とうげ」「裃かみしも」

2023年12月31日 | 漢字の音符
 ジョウ・ショウ・うえ・かみ・あがる・あげる・のぼる  一部 shàng・shǎng・shang

解字 甲骨・金文は、境界を表わす横線の上に、位置を示す短い腺をつけて「うえ」を示す。篆文から横線と短い腺の間を結ぶタテ線がのびて、現在の字となった。上ジョウは物を移動する場合は「あげる」となり、移動するものが主体の時は「あがる」「のぼる」となる。
意味 (1)うえ(上)。かみ。うえのほう。あがる(上がる)。あげる(上げる)。のぼる(上る)。「上方ジョウホウ」「上段ジョウダン」 (2)よい。すぐれている。「上品ジョウヒン」 (3)たてまつる。「献上ケンジョウ

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 「境界線のうえ」
(上)
 「境界線のした」(下・雫・颪・梺)
 「上と下」(峠・裃)
音の変化  ジョウ:上  カ:下  おろし:颪  かみしも:裃  しずく:雫  とうげ:峠  ふもと:梺  

境界線のした
 カ・ゲ・した・しも・もと・さげる・さがる・くだる・おろす  一部 xià

解字 境界を表わす横線の下に、位置を示す短い腺をつけて「した」を示す。すべて「上」の字と反対の作り方である。
意味 (1)した(下)。しも(下)。うしろ。「下流カリュウ」「下段ゲダン」 (2)もと(下)。ほとり。「城下ジョウカ」「階下カイカ」 (3)くだる(下る)。さがる(下がる)。おろす(下ろす)。「下車ゲシャ」「下降カコウ
<国字> しずく  雨部 nǎ
解字 「雨(あめ)+下(した)」の会意。雨が下へ落ちる形から、落ちた水がしたたる意となる。
意味 しずく(雫)。水のしたたり。「雫石しずくいし」(岩手県の地名)
<国字> おろし  風部 guā
解字 「風(かぜ)+下(おりる)」の会意。山からふきおろす風を表す国字。
意味 おろし(颪)。山からふきおろす風。「赤城颪あかぎおろし」(冬季に群馬県の赤城山方面から北へ吹き降ろす乾燥した冷たい強風をいう)「六甲颪ロッコウおろし」(①神戸市北西の六甲山系より吹き降ろす山颪(やまおろし)。②阪神タイガースの歌。「六甲おろし」とも)
<国字> ふもと  林部 xià
解字 「林(はやし)+下(した)」の会意。山の林が茂る下のところ。山のすそである「ふもと」の意。
意味 ふもと(梺)。山のすそ。麓ロクとも書く。「梺(ふもと)の村」

上と下
<国字>  とうげ  山部 qiǎ
解字 「山(やま)+上(あがる)+下(くだる)」の会意。山道の上りと下りの境になる所。
意味 (1)とうげ(峠)。「峠道とうげみち」 (2)物事の頂点。「峠を越す」
<国字> かみしも  衣部 kǎ

裃(かみしも)「滋賀県立文化産業交流会館・ぶんさん古典芸能用語集」より)
解字 「衣(ころも)+上(うえ)+下(した)」の会意。上下そろいの衣。
意味 かみしも(裃)。江戸時代の武士の礼服。同じ染め色の肩衣と袴(はかま)を小袖の上に着るので、上下そろいになる。「裃(かみしも)を脱ぐ」(堅苦しい態度を捨てて打ち解ける)
<紫色は常用漢字>

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音符「具グ」<鼎をささげもつ>「倶グ」「惧グ」「颶グ」と「算サン」<かぞえる>

2023年12月29日 | 漢字の音符
  改訂しました。
 グ・そなわる・そなえる  ハ部    

解字 甲骨文は「鼎(かなえ)+両手」の会意。両手で鼎を奉じる形。「そなえる」や「うつわ」の意味であるが、甲骨文字の意味は祭祀名となっている[甲骨文字辞典]。金文は鼎の上部が目に略された形で意味は、①量詞(例:一具)、②ともに(=倶)[簡明金文詞典]。篆文は鼎が目に簡略化され、[説文解字]は「共(=供)え置く也(なり)」とする。鼎は儀礼のときの器であり鼎を奉ずることにより、儀礼の祭具一式すべてがそなわっていることを示す。目が下までつながった旧字を経て、新字体は目が分離した具に変化する。
意味 (1)そなわる(具わる)。そなえる。「具備グビ」 (2)そろっているもの。そなえつけの器物。「道具ドウグ」「玩具ガング」 (3)つぶさに(具に)。くわしい。「具体的グタイテキ

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 「そなわる・そろう」
(具・倶・颶)
 「形声字」(惧)
音の変化  グ・ク:具・倶・惧・颶

そなわる・そろう
倶[俱] ク・グ  イ部
解字 「イ(ひと)+具の旧字(そろう)」の会意形声。人がそろうこと。ともに・つれだつ意となる。正字は俱だが、新字体に準じた倶が通用する。
意味 (1)つれだつ。ともに(倶に)。いっしょに。「不倶フグ」(ともにせず)「不倶戴天フグタイテン」(倶に天をいただかず。この世に一緒に生存しない。敵(てき・かたき)の前につける)「倶発グハツ」(一時に発生する)「倶生神クショウジン」(<仏>人の一生をともに行動する神) (2)梵語や外国語の音訳字。「倶楽部クラブ」(英語clubの音訳語)
 グ  風部
解字 「風(かぜ)+具の旧字(そろう)」の会意形声。勢いのそろった強い風。以前の気象用語として使われた字。
意味 暴風。つむじかぜ。はやて。「颶風グフウ」(①暴風。強風。②熱帯性低気圧の旧称)
形声字
 ク・グ・おそれる  忄部
解字 「忄(心)+具の旧字(ク)」の形声。クは瞿(おどろく)に通じ、驚いたり恐れる心の状態。瞿は、「目二つ(きょろきょろする)+隹(とり)」の会意で、鳥が目をきょろきょろさせることで、落ち着かない状態を表わす。惧は懼の俗字で、日本では「危惧」のときはこの字を使うのが一般的である。新指定の常用漢字のため旧字のままだが、右辺を具と表記しても可。
意味 おそれる(惧れる)。「危惧キグ」「憂惧ユウグ」 


   サン <かぞえる>
 サン・かぞえる  竹部              

解字 篆文は「竹(たけ)+具(そろいもの)」の会意。竹製のそろった道具の意で算木のこと。現代字は下部が「廾」に変化した算となった。昔の計算は、短い割竹をいくつも用意しておき、それをタテや横に組み合わせて並べることにより数を表わし、その配列を動かすことで加減乗除などの計算を行なった。
意味 (1)かぞえる(算える)。「計算ケイサン」「算定サンテイ」 (2)はかる。はかりごと。もくろむ。損得を考える。「打算ダサン」「清算セイサン」(3)数えるのに用いる細い竹や木の棒。「算木サンギ

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 「かぞえる・もくろむ」
(算・簒)
  算木が「そろう」(纂)
音の変化  サン:算・簒・纂
かぞえる・もくろむ
 サン・うばう  竹部 
      
解字 篆文は「ム(=私の略体)+算(もくろむ)」の会意形声。自分のもの(私)にしようともくろんで、うばいとること。現代字は算の下部が廾⇒大に変化した。注:簒下部のムの左にノが付いていますが、この字は俗字とされています。正字はノがありません。私のパソコンでは正字が表示されませんでした。
意味 うばう(簒う)。うばいとる。「簒奪サンダツ」(君主を滅ぼして位をうばう)「簒位サンイ」(君主の位をうばいとる=簒奪)「簒弑サンシ」(君主を殺して地位をうばう)
そろう
 サン・あつめる  糸部
    
解字 篆文は「糸+算(そろう)」の会意形声。文章が書かれた竹簡をあつめそろえて、糸で綴じてまとめること。現代字は算の下部が廾⇒大に変化した。
意味 (1)あつめる(纂める)。あつめて整理しまとめる。書物を編集する。「纂次サンジ」(集めて順序をつける)「編纂ヘンサン」(材料を集め整理し書物を作り上げる)「纂述サンジュツ」(材料を集め文章に著わす) (2)つぐ。うけつぐ。「纂承サンショウ」(うけつぐ)
<紫色は常用漢字>

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音符「包ホウ」<つつむ>と「胞ホウ」抱・砲・庖・苞・疱・鞄・袍・鉋・泡・飽・皰・鮑・咆・雹ハク 

2023年12月27日 | 漢字の音符
 増訂しました。
 ホウ  勹部   

解字 身をかがめている人を横から描いた象形。つつみこむ意となる。単独で用いられないが、部首となり、つつむ意を表す漢字等に用いられる。
意味 つつむ。つつみこむ。
参考 勹は部首「勹つつみがまえ」になる。漢字を上から包むように付き、つつむ意味などを表す。常用漢字は包ホウ・匂におう・勾コウの3字、
勹部の主な字は以下のとおり。
つつむ意味
 包ホウ・つつむ(旧字は、巳+音符「勹ホウ」)
 勾コウ・まがる(勹+音符「ムコウ」)
 匍(勹+音符「甫ホ」)
 匐フク(勹+音符「富フ」)
 匊キク(勹+米の会意)
 匈キョウ(勹+音符「凶キョウ」)
 匀キン(勹+二の会意)
その他
 勺シャク(勹+の会意)
 匂におう(勹+ヒの会意の国字)
 匁もんめ(国字)


   ホウ <胎児を身ごもる>
 ホウ・つつむ  勹部          

解字 篆文・旧字は「巳(胎児)+勹ホウ(つつむ)」 の会意形声。勹ホウは、人が身をかがめている形の象形で、つつみこむ意がある。巳はここで胎児の形。包は胎児を身ごもるさま。つつむ意で使われ、胎児を身ごもる意は、胞であらわされる。新字体は勹の中が巳⇒己に変化する。
意味 つつむ(包む)。くるむ。つつみ。「包囲ホウイ」「包装ホウソウ」「包括ホウカツ」(包んでしめ括る)「包丁ホウチョウ」(=庖丁。①[国]料理用の刃物。②料理人)

イメージ 
 「胎児を身ごもってつつむ」
(包・胞)
 「つつむ」(抱・砲・庖・苞・疱・鞄・袍・鉋・雹)
  お腹が大きくなることから「まるくふくれる」(泡・飽・皰・鮑)
 「ホウの音」 (咆)
音の変化  ホウ:包・胞・抱・砲・庖・苞・疱・鞄・袍・鉋・泡・飽・皰・鮑・咆  ハク:雹

胎児を身ごもってつつむ
 ホウ・えな  月部にくづき
解字 「月(からだ)+包(胎児をみごもって包む)」の会意形声。胎児をみごもって包む体の器官をいい、胎児を包む皮膜や胎盤の総称。
意味 (1)えな(胞)。胎児をつつむ膜と胎盤。「胞衣えな」(出産直後に母体から出る胎児を包んでいた膜や胎盤など) (2)はら。母の胎内。同じ胎内から生まれた兄弟。同国人。「同胞ドウホウ・はらから」(兄弟姉妹。同じ国民・民族) (3)外部を膜で包まれている小さな生物体。「細胞サイボウ」(生物体の構造上・機能上の基本単位)「胞子ホウシ」(植物および菌類が無性生殖の手段として出す生殖細胞)

つつむ
 ホウ・だく・いだく・かかえる  扌部
解字 「扌(手)+包(つつむ)」の会意形声。手で包むようにかかえること。
意味 いだく(抱く)。だく(抱く)。かかえる(抱える)。「抱負ホウフ」(抱えもつ計画や決意)「介抱カイホウ」(たすけ抱く)「抱擁ホウヨウ」(抱きかかえる)
 ホウ・つつ  石部

①攻城戦,後方の石投げ機(中国のネットから)②復元された石投げ機
https://www.163.com/dy/article/FM1P42V8052386FT.html
https://www.sohu.com/a/244473059_99981111?_f=index_chan10news_60
解字 「石(いし)+包(つつむ)」の会意形声。丸い石を包んで天秤棒状の一端に吊るし、他端から伸びた縄を大勢の人がひっぱり、反動をつけて城壁の内側に石を投げ飛ばす兵器の抛ホウ石机・抛石車を言った。跳ねつるべ(天秤)井戸の原理に似ている。後に火薬を爆発させ砲弾をとばす大砲・鉄砲をいう。
意味 (1)石投げ機。包んだ石を弾き飛ばして敵に当てる武器。抛石机・抛石車。 (2)つつ(砲)。大砲・鉄砲のたぐい。炮ホウとも書く。「砲煙ホウエン」「砲声ホウセイ」「砲火ホウカ
 ホウ・くりや  广部
解字 「广(やね)+包の旧字(つつむ)」の会意形声。肉など、料理にもちいる食材を包んで保存する部屋の意。転じて、食材を用いて料理をする厨房チュウボウの意となった。
意味 (1)くりや(庖)。台所。料理場。「庖厨ホウチュウ」(庖も厨も、くりやの意。料理場) (2)料理人。「庖人ホウジン」(料理人)「庖丁ホウチョウ」(①料理人。元は料理人の丁さんの意。②[国]料理用の刃物)。
 ホウ・つと  艸部
解字 「艸(くさ)+包の旧字(つつむ)」の会意形声。ワラなどを束ね、中に物を包んだもの。

納豆を包んだ藁苞(「北山・京の鄙の里・田舎暮らし」より)
意味 (1)つと(苞)。あらまき。「藁苞わらづと」 (2)(つとにいれた)みやげ。「家苞いえづと」(家へ持ち帰るみやげ)
 ホウ・もがさ  疒部
解字 「疒(やまい)+包の旧字(つつむ)」の会意形声。膿(うみ)を包んで膨らんだ瘡(かさ)ができる病。
意味 (1)もがさ(疱)。ほうそう。天然痘。「疱瘡ホウソウ」(疱も瘡も、もがさの意。高熱を発し全身に膿疱を発する感染症。天然痘の別称) (2)とびひ。皮膚病の一種。「疱疹ホウシン」(皮膚に小さな水疱と膿疱ができること。ヘルペス)
 ホウ・かばん  革部
解字 「革(かわ)+包の旧字(つつむ)」の会意形声。物を包み込むようにいれる革製のかばん。古くは、なめし皮および皮革を製造する職人を指したが、日本では、カバンの意で用いられる。
意味 かばん(鞄)。革・布などで作り、物を入れて携帯するかばん。「鞄持(かばんも)ち」(上役の鞄を持つ者)
 ホウ・わたいれ  衤部ころも
 
旗袍チーパオ(通販の広告から)
解字 「衤(衣ころも)+包(つつむ)」の会意形声。身体を包み込む衣で、長い上衣の意。また、綿を入れた上着や、束帯や衣冠の上に着る上着をいう。
意味 (1)上衣。長い上衣。「袍子ホウシ」(長上衣)「道袍ドウホウ」(道士の着る長上衣)「旗袍チーパオ」(①チャイナドレス。もとは満族婦人の長衣。②満族の八旗からなる軍隊の長衣。乗馬のため横に切れ目がはいる) (2)わたいれ(袍)。寒さを防ぐために綿を入れた着物。どてら。ぬのこ。「綿袍メンポウ」(どてら)「縕袍オンポウ」(わたいれ) (3)束帯や衣冠の上に着る上着。「錦袍キンポウ」(錦の上着)「位袍イホウ」(位階によって色が決められた上着)
 ホウ・かんな  金部

鉋(カンナ)(「本格的な大工道具を知ってみよう」から)
解字 「金(金属の刃)+包の旧字(つつむ)」の会意形声。金属の刃を木の台に包んだかんな。
意味 かんな(鉋)。材木の面を削ってなめらかにする道具。「台鉋だいがんな」(木の台に刃を付けた鉋)「鉋掛(かんなが)け」「鉋屑かんなくず」「鎗鉋やりがんな」(穂先の反った槍形の鉋⇔台鉋)
 ハク・ひょう  雨部
解字 「雨(あめ)+包の旧字(つつむ)」の会意形声。雨を包みこんだように白い固まりになって空から降ってくるひょう。発音のハクは白ハク(白い)から来ているか。
意味 ひょう(雹)。積乱雲から降って来る氷の白い固まり。豆粒から鶏卵ほどの大きさ。直径5mm未満のものは霰(あられ)と呼ばれる。「雹害ひょうガイ」(雹による作物の被害)「降雹コウひょう」(雹が降る)

まるくふくれる 
 ホウ・あわ  氵部
解字 「氵(水)+包(まるくふくれる)」の会意形声。まるくふくれた水の泡。
意味 あわ(泡)。うたかた。「水泡スイホウ」「泡沫ホウマツ」(あぶく。はかない物の例え)
 ホウ・あきる・あかす  食部
解字 「食(たべる)+包(まるくふくれる)」の会意形声。食べすぎてお腹がふくれること。食べ飽きること。
意味 (1)あきる(飽きる)。腹いっぱい食べる。充たされる。「飽食ホウショク」(食物に不自由しないこと)「飽和ホウワ」(限界まで満ちる) (2)あかす(飽かす)。ふんだんに使う。「金に飽かす」
 ホウ・にきび  皮部
解字 「皮(ひふ)+包(まるくふくれる)」の会意形声。顔の皮膚にまるくふくれたふきでもの。にきびをいう。
意味 にきび(皰)。面皰とも書く。青年のころに顔に出るふきでもの。「面皰にきび
 ホウ・あわび  魚部
あわび
解字 「魚(海中にすむ生き物)+包の旧字(ふくれる)」の会意形声。海中の岩に、ふくれた殻をくっつけてすむ貝のあわびをいう。また、古くは魚を開いて塩で包み(漬けて)発酵させた食品をいった。
意味 (1)あわび(鮑)。鰒フク・蚫ホウとも書く。日本各地の岩礁にすむミミガイ科の巻貝。岩礁に付いて生息するため、巻貝であるが螺旋形でなく、片側のみがふくれた形をしている。貝殻は工芸品の材料、肉は食用になる。「熨斗鰒のしあわび」(アワビの肉を薄く細くはいで乾燥させたもの。進物にそえる)「鮑の片思い」(アワビが二枚貝でなく片貝であることから、自分が相手を思うだけで相手が自分を思わないこと) (2)塩漬けして発酵した魚。「鮑魚ホウギョ」(塩漬けにして発酵させ臭いを放つ魚) (3)人名。「鮑叔牙ホウシュクガ」(春秋時代の斉の大夫。管仲カンチュウの親友で二人の友情についての故事がある)「管鮑(カンポウ)の交わり」(利害を超えた親密な友情)

ホウの音
 ホウ  口部
解字 「口(口からだす声)+包の旧字(ホウの音)」の形声。ホウという叫び声を口から出すこと。
意味 ほえる(咆える)。獣がほえる。「咆哮ホウコウ」(猛獣などがほえること。咆も哮も、ほえる意)
<紫色は常用漢字>

    <国字> もんめ <文モンの草書体とメの続け字>
 <国字> もんめ 勹部

解字 「文(モン)の草書体+メ(め)」の続け字。文(モン)の草書体と片仮名のメを続けて書いた字(文の草書体を途中まで書き、つづいてメを書いたかたち)の「モンメ」で、日本の重さの単位である匁(もんめ)を表した。中国通貨の銭が日本に伝わり、一文銭の重さが一文目(一文の目方)と呼ばれるようになったのに合わせ、この字が発生した。尺貫法の時代に使われたが、1958年12月に尺貫法が禁止された結果、日常では使われなくなり、2010年には常用漢字表から削除された。※匁は勹部のため、ここに収録した。
意味 匁(もんめ)。(1)重さの単位。1貫の千文の一。3.75グラム。明治時代に銭を通貨「円」の補助通貨として採用されることに伴い、重さの単位として匁が公式に採用され、1匁 = 3.75gと定められた。 (2)江戸時代の貨幣の単位。小判の一両の60分の1。

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音符「畺キョウ」<さかい> と「彊キョウ」「疆キョウ」「僵キョウ」「橿キョウ」「薑キョウ」

2023年12月25日 | 漢字の音符
  増訂しました。
 キョウ・コウ  田部  畺[jiāng,jiàng] 

解字 田と田の上下と中間に線をいれて、田(土地)の境界を示した形。疆キョウ(さかい)の原字。
意味 さかい。

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 「さかい」
(彊・疆・橿・薑)
 「形声字」(僵)
音の変化  キョウ:彊・疆・橿・薑・僵

さかい
 キョウ・つよい  弓部  彊[qiáng,jiàng,qiǎng]
解字 「弓(ゆみ)+畺(さかい)」の会意形成。国境を弓(武器)で守ること。国境を守る兵士が強い、また、強キョウに通じ、つとめる・はげむ意となる。また、疆キョウ(さかい)の原字でもある。
意味 (1)つよい(彊い)。「屈彊クッキョウ」(=屈強)「彊冨キョウフ」(富んでいて強い)(2)つとめる。はげむ。「自彊ジキョウ」(自ら勉めて励む)(3)さかい。くにざかい。(=疆)。「彊域キョウイキ」(=疆域。境域)
 キョウ・さかい  田部  疆[jiāng]
解字 「土(土地)+彊(国境を弓で守る)」の会意形声。彊は国境を弓で守ること。そこに土がつき、守っている国境および境域・領土を示す。
意味 (1)さかい(疆)。くにざかい。境域。領土。「疆域キョウイキ」(土地や領土の境目。国境)「疆境キョウキョウ」(①辺境。②境界内の地) (2)かぎり。はて。「無疆ムキョウ」(かぎりのないこと。無限) (3)地名。「新疆シンキョウ」(清朝の新しい領土の意。中国北西端に位置する地域をいう。いわゆる西域の主要地域。清の乾隆年間(18世紀)に、中国の版図に入る。現在は新疆ウイグル自治区となっている)  
橿 キョウ・かし  木部  橿[jiāng] 
解字 「木(き)+畺(=彊。つよい)」の会意形成。材質が強くてかたい木をいう。
意味 (1)中国の古書で、材質が堅く車輪や、クワ・スキの柄にする、と書かれている木。(2)[国]かし(橿)。樫とも書く。ブナ科コナラ属の常緑高木の総称。シラカシ・アラカシなど。材質が堅い。「白橿シラカシ」(=白樫)(3)地名。「橿原市かしはらシ」(奈良県中部にある市)「橿原神宮かしはらジングウ」(橿原市にある神社で、記紀伝承の橿原宮の旧址といわれる)
 キョウ・はじかみ  艸部  薑[jiāng]
 
ショウガ(ウィキペディアより)
解字 「艸(くさ)+畺(さかいめ)」の会意形成。根茎が横に増えて数個のかたまりをなすため境目がはっきりわかる根をもつ草。
意味 はじかみ(薑)。生姜の古くからの呼び方。ショウガ科の多年草。根茎が横に数個のかたまりをなし黄色で辛味がある。根を食用・香辛料・薬用とする。「生薑ショウキョウ・しょうが」(乾燥したものに対して生のものをいう=生姜) 
※「生姜しょうが」は、正式な名を「生薑ショウキョウ」といい、薑キョウ(はじかみ。ショウガ)を同音のキョウに置き換えた字。日本では「生姜ショウキョウ」を、なまって「ショウガ」と発音した。

形声字
 キョウ・コウ・たおれる  イ部  僵[jiāng]
解字 「イ(ひと)+畺(キョウ・コウ)」の形声。キョウは、強キョウ・ゴウ(かたい・こわばる)・梗キョウ・コウ(かたい)に通じ、人の身体がかたくこわばること。[説文解字]は「偃エン(ふせる)也(なり)」とする。[同注]は「僵は仰倒(仰向けに倒れる)を謂う」とする。また[莊子·則陽篇]は「一に强に作る。傹キョウ(終わる)に通じる」とし、かたい・こわばる・おわる意味がある」とする。
意味 (1)身体がこわばる。こわばる。「僵立キョウリツ」(こわばって立つ)「僵硬キョウコウ」(身体が硬直する)(2)たおれる(僵れる)。たおれ死ぬ。「僵仆キョウフ」(①たおれ伏す。②たおれた死体)「僵尸キョウシ」(たおれた死体。=僵屍)「僵尸企業キョウシキギョウ」(中国の国有企業などで改革がおくれ死に体になっている企業。ゾンビ企業)

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音符「有ユウ」<肉を神にすすめる>と「侑ユウ」「宥ユウ」」「賄ワイ」「郁イク」

2023年12月23日 | 漢字の音符
  増訂しました。
 ユウ・ウ・ある  月部にく

解字 金文は右手に月(にく)を持つ形。右手と月(にく)が付いた形になっている。祭肉を手にもって神にすすめること。篆文は右手と月(にく)が離れた形になり、現代字は右手がナに変化した有になった。手に持つ・手の中にある意となる。本来は、肉を神にすすめる形であるが、この意味は有の音符に残っている。
意味 (1)ある(有る)。存在する。「万有バンユウ」「有無ウム」 (2)持っている。「所有ショユウ」 (3)また。そのうえにさらに。「十有五年」(15年)

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 手に肉が「ある・もつ」(有)
 「肉をすすめる」(侑・宥・鮪)
 手にもった肉を「すすめる」(賄)
 「形声字」(郁・囿)
音の変化  ユウ:有・侑・宥・鮪・囿  イク:郁  ワイ:賄

肉をすすめる
 ユウ・ウ・すすめる  イ部
解字 「イ(人)+有(肉をすすめる)」 の会意形声。人が肉をすすめる形で、食事をすすめること。
意味 すすめる(侑める)。飲食をすすめる。「侑食ユウショク」(相手のそばにいて食事をすすめる)「侑觴ユウショウ」(さかずきをすすめる。酒をすすめる)
 ユウ・ゆるす・なだめる  宀部
解字 「宀(廟のたてもの)+有(肉をすすめる)」 の会意形声。祖先を祭る廟ビョウで神に肉をすすめ、神のゆるしを求めること。これを受けて神がゆるす意となる。日本では、なだめる意でも用いる。
意味 (1)ゆるす(宥す)。大目にみる。「宥恕ユウジョ」(ゆるしてとがめない。恕も、ゆるす意)「寛宥カンユウ」(寛大なこころで罪をゆるす)「宥和ユウワ」(相手を大目にみて仲良くする)「宥免ユウメン」(罪をゆるすこと)(2)[国]なだめる(宥める)。やわらげ静める。
 ユウ・イ・まぐろ  魚部
解字 「魚(さかな)+有(肉をすすめる)」の会意形声。肉をすすめられて食べる魚の形で、肉食をする魚の意。

マグロ(「かつお・まぐろコラム」より)
意味 (1)まぐろ(鮪)。しび(まぐろの成魚)。サバ科の大形の魚。食性は肉食で、表層・中層性の魚類、甲殻類、頭足類などを捕食する。海洋の食物連鎖においてはクジラ(歯クジラ)、アザラシ、カジキ、サメなどと並ぶ上位捕食者である。和名の「まぐろ」はマグロの目が黒いことからとされる。 (2)[中国] ①サバ科の魚。②チョウザメの古称。

すすめる
 ワイ・まかなう・まいなう  貝部
解字  「貝(財貨)+有(すすめる)」の会意形声。財貨をすすめる形で、人にひそかに金品を贈って頼みごとをすること。まいなう意となるが、日本では、まかなう意味でも使う。
意味 (1)まいなう(賄う)。金品を贈与する。こっそり金品を贈って頼み込む。(2)まいない(賄い)。贈り物。頼むための不正な進物。「賄賂ワイロ」(こっそり贈る不正な金品)(3)[国]まかなう(賄う)。まかない(賄い)。家事をきりもりする。食事のしたく。「賄い付き」(下宿・寮などで食事も付いていること)

形声字
 イク・かぐわしい  阝部おおざと
解字 「阝(さと)+有(イク)」の形声。イクは彧イク(あやがあって美しい)に通じ、美しく盛んな里の意。文化が盛んなさまや、香気のさかんなさまをいう。
※彧イクは、「彡(いろどり)+或ワク(=域。地域)」の会意形声で、色どりのある美しい地域の意。
意味 (1)さかんな様子。文化のたかいこと。「郁文イクブン」(文物のさかんなさま)(2)かぐわしい(郁しい)。香気のさかんなさま。「馥郁フクイク」(よい香りがただようさま)「郁郁イクイク」(香気の盛んなさま)「郁李イクリ」(庭うめ。香気のする梅から)
 ユウ・ウ・その  囗部
解字 囿ユウは同音である𡈹ユウ(囿の異体字)に通じる。𡈹ユウは「田(区切られた土地)+四つの木」で田の中に木が植えられている苑をいう。周りを垣や柵で囲い鳥獣や家畜などを放し飼いする所で、囿も同じ意味。
意味 (1)その(囿)。かこい。にわ。周りを垣や柵で囲った苑に鳥獣や家畜などを放し飼いするところ。今日の御苑にあたる。「囿苑ユウエン」(禽獣を放し飼いにした自然庭園)「鹿囿ロクユウ」(鹿のいる自然庭園)「囿人ユウジン」(囿の管理人)。 (2)とらわれる。(見識などが)枠(わく)の内に限られて、その外にまで広がらないさま。「識不通廣曰囿」(識、廣く通じずを囿と曰う[正字通])「囿于習俗」(習俗于(に)囿(とらわれる)」
<紫色は常用漢字> 

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音符「莫ボ」<草原に日がしずむ> と「暮ボ」「墓ボ」「慕ボ」「募ボ」「幕バク」「漠バク」「貘バク」「膜マク」「模モ」

2023年12月21日 | 漢字の音符
  増補しました。
 ボ・モ・バク・マク・ない・なかれ・くれ  艸部

解字 甲骨文・金文・篆文とも、「艸(草)+日(太陽)+艸(草)」で、草のあいだに日のしずむ形の会意。太陽が草原に没するさまから、日暮れの意味を表す。暮の原字。また、太陽が見えなくなることから、「ない」の意味に用いる。転じて、はてしない・むなしい意ともなる。現代字は上の艸が艹に、下の艸が大に変化した。
意味 (1)くれ(莫れ)。日ぐれ。おそい。「莫春ボシュン」(春の末。晩春。陰暦3月)「莫秋ボシュウ」(晩秋。陰暦9月) (2)ない(莫い)。なし。なかれ(莫れ)。「莫逆バクギャク・バクゲキ」(心に逆らう莫(な)し。意気投合して親密な間柄)「莫逆之交バクギャクのまじわり」(互いに心に逆らうことのない意気投合した親友=莫逆之友バクギャクのとも) (3)はてしない。「莫大バクダイ」 (4)むなしい。さびしい。「寂莫ジャクバク

イメージ 
 「かくれる・かくす」
(莫・暮・墓・幕・膜・蟇・模・摸・寞)
  かくれると何も「ない」(漠・募・慕・貘(獏))
 「形声字」(驀)
音の変化  ボ:莫・暮・墓・募・慕  マク:幕・膜  モ:模・摸  バ:蟇  バク:漠・貘(獏)・寞・驀 
 
かくれる・かくす
 ボ・くれる・くらす  日部
解字 「日(ひ)+莫(かくれる)」 の会意形声。莫は、もともと日ぐれの意。莫が、ない意で使われるようになったので、日をつけて元の意味を表した。この字には、日が二つあることから、莫が暮の原字であることがわかる。
意味 (1)くれる(暮れる)。日がくれる。「日暮(ひぐ)れ」「薄暮ハクボ」「暮色ボショク」 (2)季節・年・人生などの終わり。「暮秋ボシュウ」(秋の終りのころ)「歳暮サイボ・セイボ」(年のくれ。歳末の贈り物) (3)[国]くらす(暮らす)。くらし。
 ボ・はか  土部
解字 「土(つち)+莫(かくれる)」 の会意形声。土のなかに亡き人を埋めてかくす墓。
意味 はか(墓)。はかば。「墓穴ボケツ」「墓参ボサン」「墳墓フンボ
 マク・バク  巾部
解字 「巾(ぬの)+莫(かくす)」の会意形声。物をかくして見えなくする布。
意味 (1)おおい布。たれまく。「天幕テンマク」(テント)「暗幕アンマク」(暗くするために張る幕) (2)仕切りに使う劇場などのまく。「幕間まくあい」「第一幕」 (3)将軍が政治を行なう所。「幕府バクフ」「幕臣バクシン
 マク  月部にくづき
解字 「月(からだ)+莫(かくす)」 の会意形声。身体の筋肉や器官をおおいかくす薄いまく。
意味 まく(膜)。身体の内部や表面をおおう薄い皮。「粘膜ネンマク」「鼓膜コマク」「網膜モウマク」「皮膜ヒマク」(①皮と膜。②わずかのちがい)
 バ・バク・マ  虫部
解字 「虫(小動物)+莫(=膜。まく)」 の会意形声。皮膚や背面をごつごつした膜でおおわれるカエルをいう。

二ホンヒキガエル(「動物図鑑・京都市動物園」より)
意味 (1)ひきがえる(蟇)。がまがえる(蟇)。「蝦蟇ガマ」とも書く。皮膚や背面がイボでおおわれ有毒の粘液を分泌する。「蟇(がま)の油」(ガマの分泌液を膏剤にまぜて練った軟膏) (2)ぶゆ・ぶよ。「蟇子バクシ」(ぶゆ・ぶよ)
 モ・ボ  木部
解字 「木(き)+莫(かくれる)」 の会意形声。木で本物そっくりの形をつくること。また、本物の型をとること。莫は、本物はその中にかくれている意。 
意味 (1)かた。ひながた。「模型モケイ」「模範モハン」(①模は木製の型、範は竹製の型、器物をつくる型。②見習う手本) (2)まねる。かたどる。「模造モゾウ」「模刻モコク」 (3)かたち。ありさま。「模様モヨウ」 (4)手さぐりする(=摸)。「模索モサク」 (4)地名。「相模さがみ」(旧国名。今の神奈川県の大部分)「相模湾さがみわん」「相模川さがみがわ」(神奈川県中央部を流れて相模湾にそそぐ川)
 モ・バク・さぐる  扌部
解字 「扌(手)+莫(かくれる)」 の会意形声。かくれているものを手でなでてさぐること。常用漢字でないため、模に置き換えるものがある。
意味 (1)さぐる(摸る)。手でなでさぐる。「掏摸トウバク・すり」(他人の金品をさぐるようにして盗むこと。掏も摸も、すりとる意)「摸索モサク」(=模索) (2)うつす。まねる。「摸写モシャ」(=模写)

ない
 バク・すなはら  氵部
解字 「氵(水)+莫(ない)」 の会意形声。水のない状態をいう。また、転じて、なにもないさまをいう。
意味 (1)すなはら(漠)。荒野。「砂漠サバク」「漠南バクナン」(沙漠の南。今の内蒙古自治区のあたり) (2)ひろい。はてしないさま。とりとめのないさま。「漠然バクゼン」「空漠クウバク」(なにもなく広い) (3)さびしい。うつろ。「寂漠ジャクバク」(なにもなくさびしい)
 ボ・つのる  力部
解字 「力(ちから)+莫(ない)」 の会意形声。足りていない力仕事をする人を求めるのが原義で、土木などの力役や軍役の人を求めることをいう。転じて、ひろくつのる意となる。
意味 つのる(募る)。広く求める。「募金ボキン」「募集ボシュウ」「募兵ボヘイ」(兵士をあつめる)
 ボ・したう  㣺部
解字 「㣺(心)+莫(ないもの)」 の会意形声。亡き父母など、現実にない人や身近にないものを心でおもうことが原義。故人に限らず、したう意となる。
意味 したう(慕う)。思いをよせる。「慕情ボジョウ」(恋いしたう心)「敬慕ケイボ」「恋慕レンボ」(恋いしたう)
貘[獏] バク  犭部
解字 「豸(けもの)+莫(ない)」 の会意形声。悪いものを無くしてくれるという想像上のケモノ。獏とも書く。

想像上のバク(貘)(「日本国語大辞典」の貘・獏より)

横浜動物園のバク(「横浜動物園ズーラシア」より)
意味 (1)バク(貘・獏)。中国の想像上の動物。人の悪夢を食うとされ、その皮を敷いて寝ると邪気を避けるといわれる。 (2)バク(獏)。バク。ウマ目バク科の哺乳類の総称。鼻と上くちびるが長く突き出し、成獣の体長は1.7-2m程度。
 バク・マク・さびしい  宀部
解字 「宀(いえ)+莫(ない)」 の会意形声。いえの中に何もないこと。さびしい。しずかの意となる。
意味 さびしい(寞しい)。しずか。ひっそりしている。「寞寞バクバク」(静かでさびしいさま)「寂寞セキバク」(ものさびしいさま)「落寞ラクバク」(ものさびしいさま)「索寞サクバク」(ものさびしいさま。索サクは牽(ひ)く意。=索莫・索漠)

形声字
 バク  馬部
解字 「馬(うま)+莫(バク)」 の形声。[説文解字]は「馬に上(の)る也(なり)。馬に従い莫(バク)の聲(声)」とし馬に乗る意とする。[同注]は「上馬は必ず捷(はや)し。故に引伸して猝(にわ)かと爲(な)すに乍(つく)る之(これ)を称す」と補足して、「にわか」の意味があることを述べている。
意味 (1)まっしぐら。たちまち。にわかに。「驀進バクシン」(非常な勢いで進む)「驀然バクゼン」(にわかに起こるさま) (2)のりこえる。「驀越バクエツ」(こえる) (3)馬にのる。
<紫色は常用漢字>
          
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音符「介カイ」<よろいをつけた人>と「界カイ」「堺カイ」「芥カイ」「疥カイ」

2023年12月19日 | 漢字の音符
  増補しました。
 カイ・たすける  人部       

解字 人の前後に短い線を加えた形。短線は左右二本(図示)と一本のものがある。甲骨文字では人名・親族呼称などに用いられている[甲骨文字辞典]。後代にはよろいを付けた形と解釈された。篆文以降、よろいの線が左右一つになり、現代字では人の下にくる。よろいのほか、魚介のように甲羅をもつ虫類(甲殻類・貝など)にも使う。また、よろいの中に人が入ることから「間にはいる」、よろいをつけて人を「たすける」意味になる。
意味 (1)かたいもの。よろい。甲羅や貝殻。「介冑カイチュウ」(よろいとかぶと)「魚介ギョカイ」(魚と貝・エビなど) (2)間にはいる。なかだちをする。「介在カイザイ」「仲介チュウカイ」 (3)たすける(介ける)。つきそう。「介護カイゴ」「介抱カイホウ」 (4)[国]すけ(介)。昔の官名。四等官で、国司の第二位。

イメージ 
 「よろいをつける」
(介) 
  よろいの前後が「両側に分かれる」(界・堺)
 「形声字」(芥・疥)
音の変化  カイ:介・界・堺・芥・疥

両側にわかれる
 カイ・さかい  田部
解字 「田(田畑)+介(両側に分ける)」の会意形声。田畑の中に区切りを入れて両側に分けた境目。
意味 (1)さかい(界)。くぎり。くぎる。「境界キョウカイ」「限界ゲンカイ」 (2)あたり。一帯。「界隈カイワイ」「世界セカイ」(①人の住む所。地方。②人間社会のすべて) (3)さかいの中。ある範囲の社会。「業界ギョウカイ」「塵界ジンカイ」(よごれた俗世間)
 カイ・さかい  土部
解字 「土(土地)+界(さかい)」の会意形声。土地の境目。区切り。界と意味は同じ。
意味 さかい(堺)。土地のくぎり。(日本では地名に使うことが多い)「堺市さかいし」(大阪府の都市。摂津国、河内国、和泉国の堺(さかい)に発展したことから)「境港市さかいみなとし」(鳥取県北西部の市)

形声字
 カイ・からし・あくた  艸部
解字 「艸(くさ)+介(カイ)」の形声。カイという名の草。からし菜をいう。菜の花とよく似ているが、食用にしたとき、からし菜はピリッと辛い。また、花はからし菜が一回り小さい。からし菜の実は小さいので、ちいさなごみ・ちりの意ともなる。

カラシナ(芥子菜)(「薬草と花紀行のホームページ」より)

カラシナのさや(「野田市HP」カラシナより)
意味 (1)からし(芥)。芥子菜(からしな)。アブラナ科の草。葉を食し、また種子を粉末にして芥子(からし)にする。 (2)[国]けし(芥子)。ケシ科の越年草。果実の乳液からアヘンを製する。本来は罌粟けし。からしなの種子が似ていることから言う。「芥子粒けしつぶ」(けしの種子。非常に小さいものの例え) (3)あくた(芥)。ごみ。ちり。くず。「芥舟カイシュウ」(水上に浮かぶ小さなごみ。舟に例えていう)(4)地名。姓。「芥川あくたがわ」(①大阪府高槻市を流れる川。②姓。芥川龍之介:小説家)
 カイ・ひぜん・はたけ  疒部
解字 「疒(やまい)+介(=芥。ちいさい)」の会意形声。皮膚に小さく赤い点々ができて非常にかゆくなる病気。
意味 (1)ひぜん(皮癬)。かいせん。「疥癬カイセン」(疥癬虫の寄生によって生ずる皮膚病)。 (2)はたけ(疥)。顔や首などに白く丸い斑点ができる皮膚病。
<紫色は常用漢字>

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音符「貝 バイ」<かい> と「買バイ」「売バイ」「唄バイ」「狽バイ」「敗ハイ」「負フ」

2023年12月17日 | 漢字の音符
  改訂しました。
 バイ・かい  貝部        

解字 子安貝のかたちの象形。かいの意味を表わす。また、子安貝は貨幣として使われたので、かね・たからの意となる。
 
子安貝の貝貨(「世界最古の貨幣-貝貨」より)
意味 (1)かい(貝)。かいがら。「貝殻かいがら」「貝塚かいづか」「法螺貝ほらがい」 (2)たから。かね。「貝貨バイカ」(貝の貨幣)

イメージ 
 「かい・財貨」(貝・敗・負・買・売・贔・屭)
 「形声字」(唄・狽)
音の変化  バイ:貝・買・売・唄・狽  ハイ:敗  ヒ:  フ:負  キ:

かい・財貨
 ハイ・やぶれる  攵部

解字 甲骨文字は手に棒などの道具をもち、貴重品である貝を壊すかたちで、「そこなう」意味を表す。金文は貝が二つ描かれ横にトと又(手)を描き多くの財貨をそこなう意。篆文は「攴+貝」の形になり、現代字は攴ボク⇒攵に変化した敗ハイになった。意味は「そこなう」のほか、戦いに敗れたとき持っている宝器を打ちこわして逃げるので、敗北する意となる。
意味 (1)やぶれる(敗れる)。「敗北ハイボク」「敗走ハイソウ」 (2)そこなう。だめになる。くさる。「敗毀ハイキ」(敗も毀もこわれる意)「腐敗フハイ」 (3)しくじる。「失敗シッパイ
 フ・おう・まける・まかす  貝部          

解字 「人(ひと)+貝(貝貨)」の会意。つないだ貝貨を人が背負う意。貝の貨幣は大量に必要とされるときは、背負って運んだ。また、財貨を背負いかつぐことから、責任などを引き受けることを負担といい、他に責任や任務を引き受けさせる(たのむ)ことを負託という。このほか財貨にたよる意も生まれた。なお、負ける・負かす意は、負債(借金)がある意から生まれた。現代字は、人⇒クに変化した負になった。

貝朋カイホウ(子安貝をつないだ束)(ネットの検索画面から)

パプアニューギニアの貝貨(「ウィキペディア「貝幣」より)
意味 (1)おう(負う)。せおう。「負担フタン」「負荷フカ」「負託フタク」(人に引き受けさせ任せる) (2)受ける・こうむる。「負傷フショウ」 (3)たよる。たのむ。貝貨を背後に置いて頼りにする。「自負ジフ」(自分の能力や仕事に自信をもつこと)「抱負ホウフ」(抱いている自負。将来の計画や決意) (4)まける(負ける)。まかす。「勝負ショウブ
 バイ・かう  貝部
解字 「罒(=网・あみ)+貝(おかね)」の会意形声。網をおおうように貝(おかね)で物を買い集めること。
意味 かう(買う)。代金を払って品物を求める。「仲買なかがい」「買収バイシュウ」「購買コウバイ」(買いいれること)
[賣] バイ・うる・うれる  士部              

解字 篆文は「出(でる。穴から上向きの止(あし)の形)+買(かう)」の会意形声。買ったものを出す、すなわち売ること。旧字で「士+買」に変化し、さらに新字体で「売」に変わった。
意味 うる(売る)。あきなう。ひろめる。「売却バイキャク」「商売ショウバイ」「売名バイメイ
 ヒ・ヒイ  貝部
解字 「貝+貝+貝」の会意。貝(財貨)を三つならべた形で、たくさんの財貨を表す。たくさんの財貨で人を援助する意の「贔屓ひいき」に使われる字。
意味 [日本]「贔屓ひいき」とは、気に入った者に特別目をかけ、力を添えて助けること。「贔屓目ひいきめ」(好意的な見方)
屭[屓] キ  尸部
解字 [日本]「尸(すわるひと)+(たくさんの財貨)」の会意。すわる人の前にたくさんの財貨を置いたかたち。たくさんの財貨で人を援助する意の「贔屓ひいき」に使われる字。屓は略字だが新字体と同じに用いられる。なお、中国では、碑文の石の下積みとなっている亀をいう。
意味 [日本]「贔屓ひいき」とは、気に入った者に特別目をかけ、力を添えて助けること。「贔屓の引き倒し」(ひいきすることにより、かえってその人を不利にすること)


形声字
 バイ・うた  口部
解字 「口(くち)+貝(バイ)」の形声。口から発せられるバイの音。梵語(古代インド語)・バイの音訳語に使う。
意味 (1)梵唄ボンバイとは、仏典を調子にあわせて歌うこと。 (2)[国]うた(唄)。民謡や俗謡のこと。「小唄こうた
 バイ  犭部
解字 「犭(けもの)+貝(バイ)」の形声。バイという狼の一種、狼は前足が長く後足は短いのに対し、狽はその逆。両者はいつも共に行動し、離れると倒れて、うろたえることから、あわてふためくこと[広辞苑]。「狼跋ロウバツ」(うろたえつまずく)と同じく平衡を失する状態をいう語[字統]。
意味 うろたえる。よろける。「狼狽ロウバイ」(うろたえること。狼はみだれる意)
<紫色は常用漢字>

参考 貝は部首「貝かい」になる。漢字の左辺や下部について、お金や財産の意味を表す。常用漢字で35字(16位)、約14,600字を収録する『新漢語林』では、117字が収録されている。主な漢字は以下のとおり。
形声(部首+音符)となるもの
 財ザイ・たから(貝+音符「才サイ」)
 貢コウ・みつぐ(貝+音符「工コウ」)
 貨カ・たから(貝+音符「化カ」)
 販ハン・ひさぐ(貝+音符「反ハン」)
 貧ヒン・まずしい(貝+音符「分ブン」)
 貪ドン・むさぼる(貝+音符「今コン」)
 貯チョ・たくわえる(貝+音符「宁チョ」)
 貸タイ・かす(貝+音符「代ダイ」)
 費ヒ・ついやす(貝+音符「弗フツ」)
 貼テン・はる(貝+音符「占セン」)
 賀(貝+音符「加カ」)
 資シ・もと(貝+音符「次シ」)
 賞ショウ・ほめる(貝+音符「尚ショウ」)
 購コウ・あがなう(貝+音符「冓コウ」)
 贈ゾウ・おくる(貝+音符「曽ソウ」)
 賦フ・みつぎ(貝+音符「武ブ」)など。
会意となるもの(字の組み合わせが発音と無関係)
 貞テイ・ただしい(貝+卜ボク
 負フ・おう(貝+人の変形)
 責セキ・せめる(貝を含む会意)
 賜シ・たまわる(貝+易)
 質シツ・たち・ただす(貝+斤二つ)
 賛サン・たすける・ほめる(貝+夫二つ)
  このうち、貞テイ・責セキ・質シツ、は音符になる。

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音符「見ケン」<みる・みえる>と「硯ケン」「筧ケン」「蜆ケン」「現ゲン」「寛カン」

2023年12月15日 | 漢字の音符
  寛カンを追加しました。
 ケン・みる・みえる・みせる  見部

解字 甲骨文は目を横に描いた形の下にひざまずく人を描く。見る・偵察する・会う意味で使われている。金文は横目に目玉を描き人は半立ち姿になった。篆文からタテの目に人の下部を付けた形になり、現代字は「目+儿」の会意になった。人が見る・人にあう・物の見方などの意味になる。見は部首となる。
意味 (1)みる(見る)。目でみる。みえる。「見聞ケンブン」「外見ガイケン」 (2)物の見方。みるところ。「見解ケンカイ」「意見イケン」 (3)人にあう。まみえる(見える)。「会見カイケン」「見参ケンザン」 (4)あらわれる。「露見ロケン
参考 ケンは部首「見みる」になる。部首での意味も見る意。常用漢字で7字、約14,600字を収録する『新漢語林』では44字収録されている。
常用漢字 7字
 見ケン・みる(部首)
 覚カク・おぼえる(見+音符「学の略」)
 観[觀]カン・みる(見+音符「雚カン」)
 規キ・のり(見+夫の会意)
 視シ・みる(見+音符「示ジ・シ」)
 親シン・おや(見+音符「亲シン」)
 覧ラン(見+音符「監カンの略」)
  このうち、覚カク・規は音符となる。

イメージ 
 「みる・みえる」
(見・現・筧・蜆)
 「形声字」(硯)
 「その他」(寛)
音の変化  ケン:見・筧・蜆・硯  ゲン:現  カン:寛

みる・みえる
 ゲン・あらわれる  玉部
解字 「王(玉)+見(みる)」 の会意形声。人が玉(たま。宝玉)を見る形。玉は美しい石の総称であり宝石の意。宝石は地球内部の高温で圧縮されたマグマが地表に出てくる過程でできた鉱物のうち、質が硬く光沢が美しい石をいう。各種の宝石()をる()と、その宝石に特有な色つやや肌理きめ(表面の細かい文様)が見えることから、あらわれる意となる。また、宝石を見ると、肌理や色つやが「まのあたりに、いま」あらわれる意ともなる。現世(この世)の意は仏教用語からきた。現の字は、楷書から現れた比較的新しい字。以前は見ケン・ゲンの字で、現の意味を表していた。例「彗星スイセイ東方に見(あらわ)る」「見金ゲンキン」(現金)「見任ゲンニン」(現任)
意味 (1)あらわれる(現れる)。あらわす。「出現シュツゲン」「表現ヒョウゲン」 (2)いま。まのあたり。「現在ゲンザイ」「現況ゲンキョウ」「現実ゲンジツ」 (3)うつつ。この世。「現世ゲンセ」「現身うつしみ」(現世の人の身)   
 ケン・かけい  竹部

筧(かけい)(「茶室を学ぶ」より)
解字 「竹(たけ)+見(みえる)」 の会意形声。地上に見えるように渡した、水を通す竹管。
意味 かけい(筧)。かけひ(懸樋)。水をひくために地上に架け渡した樋。「竹筧チッケン」「筧水ケンスイ
 ケン・しじみ  虫部
解字 「虫(ここでは貝)+見(みえる)」 の会意形声。川の浅瀬や汽水域(淡水と海水のまじわるところ)に生息し、浅いところや潮が引いた汽水域で、貝が見えることから。
意味 しじみ(蜆)。ヤマトシジミ科の二枚貝の総称。淡水域や汽水域に生息する小型の二枚貝。「蜆蛤ケンコウ」(しじみとはまぐり)「蜆汁しじみじる
 ゲキ・ケキ・かんなぎ  見部
解字 「見(みる)+巫(みこ)」の会意。巫(みこ)は神に仕えて神楽・祈祷を行ない、また神意をうかがって神託を告げる者。覡ゲキは神に祈る巫(みこ)が神を見るかたちで、おかんなぎ(男の巫)をいう。神に祈って神を見ることのできる人。特に男性のミコに用いられる。 
意味 かんなぎ(覡)。ミコ。特に男性のミコ。「巫覡フゲキ」(かんなぎの総称。巫は女の、覡は男のかんなぎ)

形声字
 ケン・すずり  石部
解字 「石(いし)+見(ケン)」の形声。ケンは研ケン(平らにとぐ)に通じ、研ぐための石。すずり石を表わす。
意味 すずり(硯)。墨をする道具。「硯池ケンチ」(硯のくぼんだ部分)「硯田ケンデン」(文筆で生活すること。硯を作物を生む田に例えた)「硯滴ケンテキ」(硯の水さし)

その他
[寬] カン・ひろい・くつろぐ・ゆるやか  宀部

 最近、ネットの[漢典]で金文の寛を見つけた。「寬兒鼎(かんじけい)」という鼎かなえと、「齊侯盤(さいこうばん)」という盤(うつわ)に刻まれていた文字である。実はもう一つ「齊侯匜(さいこうい)」という匜(把手と注口のついた器で、水を注ぐ用途がある)という水器にも寛があるが、「齊侯盤」とほぼ同じ形なので省略している。(ご覧になりたい方はネットの[漢典]⇒寛を検索してください)
 第一字の寛「寬兒鼎」は、ウ冠(屋根・建物)の下に屮(草)が四つ描かれ、中央に日(太陽)と人がいる。屋根の下に、草原と太陽と人を描き、建物の中が広い⇒ひろい意と思われる。この字は寬兒という人名になっている。第二字は中央の太陽が目のような形に変化しており、周りの屮(草)四つは同じ。この字は屋根の下が「草原と見る」になっており、草原を見渡すような広い建物の意と思われる。意味は人名かどうかは不明。この金文第二字を用いて下記の変遷図を作成した。

解字 金文は、「宀(建物)+屮(草)が四つ(草原)+見(みる)」で、建物の中が草原を見渡すように広い意と思われる。篆文の[説文解字]は「宀(建物)+目の上にトと逆ト+人に尾がついた形」になった。この字形を[説文解字]は「家がゆったりと大きい」と説明し、「宀と萈カン(上部の艹はトと逆トの省略形)」から構成される」とするが萈の意味は説明していない。おそらく説明ができずに、宀の下をまとめて一字にしたのであろう。旧字は下部の儿に点のついた寬であったが、新字体は点がとれた寛になった。旧字を使っていた人は、何故ここに点がつくのだろうと不思議に思っていたにちがいない。
 この字形は金文が見つかったことで明確な説明ができるようになった。即ち現代字の艹(艸)は草原の略体であり、宀(建物)の中が「草原を見る」ような広さがある意である。転じて心がひろい意。また、広い心で、ゆるす意となる。
意味 (1)ひろい(寛い)。①心がひろい。「寛大カンダイ」「寛容カンヨウ」「寛厚カンコウ」(心がひろく厚い) ②空間が広い。ゆったりした。「寛閑カンカン」(土地がひろく静かなこと)「寛衣カンイ」(ゆったりした衣服) (2)ゆるす(寛す)。「寛恕カンジョ」(とがめだてせず、ゆるす)「寛赦カンシャ」(大目に見てゆるす) (3)くつろぐ(寛ぐ)。のんびりする。「寛放カンホウ」(自由で束縛されないさま) (3)ゆるやか(寛やか)。
覚え方 うさ(ウサ)ばらし、み()て(くつろ)げば大に [漢字川柳]
<紫色は常用漢字>

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音符「耑タン」<長老・シャーマン>と「端タン」「湍タン」「猯タン」「揣シ」「瑞ズイ」「惴ズイ」「喘ゼン」

2023年12月13日 | 漢字の音符
 タン  而部


 上は耑タン、下は而音符「而へ)
解字 金文・篆文とも、「斜めの山形(長髪)+而(あごひげ)」の象形。長髪で、あごひげのある長老をあらわす。端の古字とされており、端には巫覡フゲキ(神と人の媒介者)の意味があり、古代において長老はまた、神託を告げるシャーマンでもあった。
意味 端の古字。長老・シャーマン。はし(=端)。

イメージ 
 「長老・シャーマン」
(端・瑞・湍・揣)
 「形声字」(喘・湍・猯)
音の変化  タン:端・湍・猯  シ:揣  ズイ:瑞・惴  ゼン:喘

長老・シャーマン
 タン・はし・は・はた  立部
解字 「立(立つ)+耑(長老)」 の会意形声。一族の長老が立ったさま。長老は「きちんとしている」、長老の坐る席は一番奥にあるので「はし・すえ」、長老から話を始めるので「はじめ・いとぐち」の意味を持つ[字統を参考]。中国で端公はシャーマンの意味がある。
意味 (1)ただしい。きちんとしている。「端正タンセイ」「端厳タンゲン」「端座タンザ」(姿勢を正してすわる。=端坐) (2)はし(端)。すえ。はた(端)。は(端)。「先端センタン」「端末タンマツ」「舌端ゼッタン」(舌のさき。転じて、口先。もの言い)「端境期はざかいき」(境のはし・はた。果物・野菜などが市場に出回らなくなる時期) (3)はじめ。いとぐち。はな(端)。「端緒タンチョ」「発端ホッタン」 (4)[はし(端)の派生義]はんぱ。はした。「端数はスウ」 (5)[中国]四川省および漢水一帯では巫覡フゲキ(神と人との感応の媒介をする者)の活動が盛んだった。「端公タンコウ」(シャーマン。神と人との媒介者)
 中国のシャーマン「端公」
 ズイ・しるし・みず  王部
解字 「王(=玉。たま)+耑(長老・シャーマン)」 の会意。シャーマンが用いる玉。シャーマンがこの玉を見て、兆しを占うこと。よい兆しを瑞という。めでたいしるしの意。
意味 (1)しるし(瑞)。めでたいしるし。「瑞雲ズイウン」(めでたい兆しの雲)「瑞祥ズイショウ」(めでたいことの起きるきざし=祥瑞) (2)[国]みず(瑞)。みずみずしい。他の語頭に付いて、美しい・清らかな意を表す。「瑞穂みずほ」(みずみずしいイネの穂)「瑞穂国みずほのくに」(日本の美称)
 ズイ・おそれる  忄部
解字 「忄(心)+耑(長老・シャーマン)」 の会意。瑞ズイはシャーマンが玉を見てよい兆しをえること。惴ズイは悪い兆しをみて、心でおそれること。
意味 おそれる(惴れる)。びくびくする。「惴惴ズイズイ」(恐れおののく)「惴慄ズイリツ」(おそれおののく)
 シ・スイ・はかる  扌部
解字 「扌(手)+耑(長老・シャーマン)」 の会意。瑞ズイはシャーマンが玉を見てよい兆しをえること。揣は、シャーマンが玉を手にとって、兆しをさぐること。
意味 はかる(揣る)。おしはかる。「揣摩臆測シマオクソク」(物事をあれこれと勝手に推測すること。あてずいりょう。)「揣知シチ」(おしはかって知る)「揣度シタク」(人の気持ちをおしはかる。≒忖度ソンタク) 

形声字
 ゼン・あえぐ・せき  口部
解字 「口(くち)+耑(タン⇒ゼン)」の形声。ゼンは息を吸うときの擬声語。速く息を吸い込んで出すとき、ゼイゼイと口からでる音を表す。
意味 (1)あえぐ(喘ぐ)。いきぎれする。 (2)せき(喘)。ぜいぜいする。せきこむ。「喘息ゼンソク」(激しい喘が出て呼吸困難になる病気)
 タン・はやい  氵部  
解字 「氵(水)+耑(タン)」の形声。タンは、灘タン(なだ・はやせ)に通じ、急流をいう。
意味 はやい(湍い)。はやせ。急流。「湍流タンリュウ」(早瀬。奔流)「急湍キュウタン」(急れの速い浅瀬)「飛湍ヒタン」(流れの激しい瀬)
猯[貒] タン・まみ  犭部
解字 「犭(けもの)+耑(タン)」の形声。タンという名のけもので、アナグマをいう。貒タンは異体字。梁の543年成立の[玉篇]は「野豬のいのしし」と書いているが、イノシシと似たところがあるが、牙がない。

アナグマ(「野毛山動物園 夏のアナグマ」より)
意味 (1)まみ(猯・貒)。アナグマ。イタチ科の哺乳類でタヌキに似るが、四肢が短く頑丈で爪が大きい。穴居生活をする。日本語の「まみ」はアナグマの異称。語源は、目見(まみ)で目をあげて見る目ツキ、目もとのこと。アナグマやタヌキは目のまわりが黒っぽいことから目ツキ・目もとを意味する「まみ」の名で呼ばれた。 (2)地名。「東猯穴ひがしまみあな」(茨城県牛久市の町名)※「狸穴まみあな」は本来アナグマの穴を言ったが、のちに狸の字が当てられた。
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