漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「彝イ」<ニワトリを両手でつかみ、その血をふりかける>

2020年10月29日 | 漢字の音符
 イ・つね  彑部

解字 甲骨文字はニワトリの羽を紐で結び、鳥の脚と身体を両手で持つかたち。祭祀名として使われているのみで詳しい意味は不明。金文はニワトリの羽に糸をたらし羽を結ぶ形とし、ニワトリの左横に血をあらわす彡をつけ、下に両手を描く。血(彡)はニワトリの首の血管を刃物で切ったのであろう。金文の意味は[字統]によると、「ニワトリの血で宗廟(祖先のみたまや)の祭器や礼器を清めて祭祀に用いるので、その器を彝器イキという。また、この清める行為は儀礼となっており常におこなわれたので「つね」の意味になり、さらに転じて「のり(法)」の意味ともなった。(大意)」としている。
 字形は篆文で上部が彑(けいがしら)の前身に変化し、血を表した彡と鳥の下部が一体化して米となり、現代の字は下部の両手が廾となった彝になった。彝を分解すると「彑+米+糸+廾」になる。
 なお、彝は中国の少数民族の名を表すが、これは蔑称(さげすんだ呼び名)である「夷」が通称で、そのほか「烏蛮ウバン」などとも呼ばれ主に雲南北西部と四川に住む少数民族の名を、中華人民共和国成立以降に同じ音である「彝」に統一したためである。
意味 (1)儀式用の器物。「彝器イキ」(宗廟ソウビョウに常に供えてある儀式用の神聖な器物の総称。尊ソン(酒器)・鼎かなえなど) (2)つね(彝)。のり(法)。人のつねに守るべき不変の道。「彝訓イクン」(常に人の守るべきおしえ)「彝憲イケン」(人として守るべき不変の法則)「彝倫イリン」(常に守るべき道理・倫理) (3)少数民族の名。「彝族イゾク」(主に雲南北西部と四川に住む少数民族)「彝語イゴ」(彝族の言語)
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音符「廷テイ」<祭祀のおこなわれるにわ>と「庭テイ」「艇テイ」「挺テイ」「梃テイ」「霆テイ」「鋌テイ」「蜓テイ」

2020年10月26日 | 漢字の音符
 テイ  廴部          

解字 金文は、「(区切り)+土(大地の神格)+人」の会意。区切られた区画で、土地の神をまつる人を表し、宮中の中庭でおこなわれる祭祀の形。篆文は、「廴イン(えんにょう)+𡈼テイ(土盛り上の人)」の形に変化した。ここで廴イン(えんにょう)は、ひく・移動する意でなく、場所を区切る意味で使われている。意味は宮中祭祀のおこなわれる場所から転じて、政務などの行なわれる所の意となる。現代字は𡈼テイ⇒壬ジンに変化した廷になっている。
意味 (1)にわ。政務をおこなう場所。「朝廷チョウテイ」「廷臣テイシン」 (2)裁判を行なう所。「法廷ホウテイ」「廷史テイシ

イメージ 
 政務などを行なう「にわ」(廷・庭)
 壬テイの意味である「ぬきんでる」(挺)
 壬テイの意味である「まっすぐ」(艇・梃・霆・鋌)
 「形声字」(蜓)
音の変化  テイ:廷・庭・挺・艇・梃・霆・鋌・蜓

にわ
 テイ・にわ  广部
解字 「广(やね)+廷(にわ)」 の会意形声。屋根がついたにわ。政務や裁判を行なう屋根つきの建物がもとの意味。それが屋根のない庭園へと意味が変化した。ちなみに、中国では原義を保っており、日本の「法廷」を「法庭」と書く。
意味 (1)役所。「法庭ホウテイ」(=法廷)「掖庭エキテイ」(宮殿わきの殿舎。皇妃・宮女のいる後宮。掖エキは、わきの意) (2)家のホール。広間。家族がともに生活する場所。「家庭カテイ」「庭訓テイキン」(家庭での教育) (3)にわ(庭)。門から玄関までの空地。物事を行なうひろびろとした所。「校庭コウテイ」「庭燎テイリョウ」(庭のかがり火) (4)にわ(庭)。草木を植え築山や池を配した所。「庭園テイエン」「庭師ニワシ」(庭を造り手入れする職人)

ぬきんでる
 テイ・ぬきんでる  扌部
解字 「扌(手)+廷(=𡈼テイ。ぬきんでる)」 の会意形声。手の動作で人よりぬきんでること。廷(=𡈼テイ。ぬきんでる)の意味を手をつけて確認した字。
意味 (1)ぬく(挺く)。ぬきんでる(挺んでる)。人より先にでる。「挺進テイシン」(先にたって進む)「挺身テイシン」(身を投げ出して事を行なう)「挺然テイゼン」(ぬきんでているさま)

まっすぐ
 テイ  舟部
解字 「舟(ふね)+廷(=𡈼テイ。まっすぐ)」 の会意形声。先がとがってまっすぐ伸びた小型の舟。
意味 こぶね。はしけ(本船と陸とを結ぶ小舟)。ボート。「競艇キョウテイ」「漕艇ソウテイ」(ボートをこぐ)「艇身テイシン」(ボートの全長)「艦艇カンテイ」(大小各種の軍艦)
 テイ・てこ  木部
解字 「木(木の棒)+廷(=𡈼テイ。まっすぐ)」 の会意形声。まっすぐな木の棒。杖や棒の意であるが、日本では、棒を物の下につきさして重いものを動かす「てこ」の意に使う。
意味 (1)つえ。ぼう。こん棒。「梃杖テイジョウ」(つえ)「木梃モクテイ」(木の棒)「梃撃テイゲキ」(棒でうつ) (2)[国]てこ(梃)。梃子とも書く。重いものを手でこじ上げるのに用いる棒。「梃入(てこい)れ」「梃子(てこ)ずる」(もてあます)
 テイ・ジョウ・かみなり  雨部
解字 「雨(あめ)+廷(まっすぐ)」の会意形声。雨の中をまっすぐ伸びるカミナリ。
意味 (1)かみなり。いなづま。「霆雷テイライ」(はげしい雷)「霆撃テイゲキ」(いなづまのような素早い攻撃) (2)(かみなりの音が)とどろく。「霆駭テイガイ」(遠くまでとどろく)「霆震テイシン」(とどろく雷鳴)
 テイ  金部
解字 「金(金属)+廷(まっすぐ)」の会意形声。金属を溶かしてまっすぐな板状にしたもの。
意味 (1)のべがね。銅や鉄を溶かして長い板状にしたもの。「鉄鋌テッテイ」(短冊形の板に規格化された鉄素材。日本の古墳から出土し、朝鮮半島から導入された鉄素材。古代日本の鉄の製錬と鉄器の生産に大きな変革を起こした)(2)あらがね。(3)鏃やじりで矢の竹柄にさしこむ部分。「箭鋌センテイ」(箭は矢、鋌は鏃やじりのさしこみ部)

形声字
 テイ  虫部
解字 「虫(むし)+廷(テイ)」の形声。テイという名の虫。
意味 (1)「蜻蜓セイテイ」に使われる字。「蜻蜓セイテイ」とは、とんぼをいう。 (2)「蝘蜒エンテイ」に使われる字。「蝘蜒エンテイ」とは、やもりをいう。
<紫色は常用漢字>

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同訓異字「おかす」 侵す・冒す・犯す

2020年10月22日 | 同訓異字
問題 に上の漢字を入れてください。
(1)罪を
(2)国境を
(3)危険を

 「オカ-す」の語源は諸説があり定まったものはないようです。意味は「定めらた基準や範囲をこえて踏み込む」です。具体的には、①法律やおきてなどを「おかす」。②人の領土や権限などに入り込む「おかす」、③あたりをはばからず無理やり物事をおこなう「おかす」があります。漢字字典で「おかす」を引くと主なもので6字ありますが、今回は代表的な3つに限定して紹介します。

 ボウ・おかす  曰部

解字 金文から旧字まで「目(め)+冃ボウ(ずきん)」の会意形声。冃は頭衣(かぶりもの)で、冒は、かぶりものから目だけ出している形。目だけ出したカブト(甲冑)をかぶって進む意から、周囲がみえず無頓着に行動する意となる[字統]。新字体は旧字の冃 → 日に変化した冒となった。
意味 (1)おかす(冒す)。向う見ずにすすむ。無理にする。「冒険ボウケン」「冒進ボウシン」(向う見ずに進む) (2)神聖なものをけがす。「冒涜ボウトク」(神聖・尊厳をおかしてけがす)「冒名ボウメイ」(他人の姓名を偽ってなのる) (3)おおう。かぶりもの。 (4)(一番上の頭にかぶることから)はじまり。「冒頭ボウトウ」(文章や言葉の初めの部分)

 ハン・おかす  犭部
解字 金文は「犭(いぬ)+㔾(ハン)」の形声。ハンは範ハン(きまり・のり)に通じる。ここで犬は、人の悪者を犬に例えた使い方で、犯は法や道徳を破る人、また、その行為をいう。
意味 (1)おかす(犯す)。決められたのり(法・則)をおかす。「犯罪ハンザイ」(罪を犯す)「犯人ハンニン」「共犯キョウハン」 (2)道徳をおかす。「女性を犯す」

 シン・おかす  イ部                

解字 甲骨文は「牛+帚(ほうき)+又(て)」で、帚(ほうき)を手に持ち牛を追い出し他所の土地の家畜を奪うこと。甲骨文字では侵略・略奪の意味だという[甲骨文字辞典を参照した]。金文は牛が人に代わった字。家畜の他、人を奪う意と思われる。篆文は人⇒イになり、隷書レイショ(漢代)から帚(ほうき)の下部の巾を省略して又にした侵が出現して現代に至っている。意味は、[春秋穀梁コクリョウ伝](前漢)に「人民を苞(とりこ)にし、牛馬を殴(か)るを侵と曰う」とあり、この字の古代の意味を伝えている。現在は、他者の権利・権限をそこなう。特に、他国、他人の土地に不法に立ち入る(攻め込む)意で用いられる。
意味 おかす(侵す)。他の者の権利・権限をそこなう。他人の領分に入り込む。「侵害シンガイ」「侵略シンリャク」「侵犯シンパン

問題と解答 
(1)罪を
(2)国境を
(3)危険を
回答
(1)は法律やおきてを「おかす」意ですから「犯」です。
(2)は領土を「おかす」意ですから「侵」です。
(3)は無理やりことを行う「おかす」ですから冒険の「冒」です。

別の問題
(1)学問の自由をす。
(2)尊厳をす。
(3)過ちをす。
回答
(1)学問の自由という権利(自由権)をおかすので「侵」です。
(2)尊厳という神聖なものをけがすので「冒」です。
(3)過ちは法や規則をおかすこと以外に失敗の意味もありますが、いずれにしても良くない行動ですから「犯」を使います。さらに意味を拡大して「ミスを犯す」などにも使います。


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音符「廌タイ」<鹿と馬を合わせた聖獣>と「薦セン」「慶ケイ」

2020年10月10日 | 漢字の音符
 タイ・チ  广部

解字 甲骨文字は二本の角がある動物の象形でおそらく山羊のような獣であろう[甲骨文字辞典]。金文は、ほぼ同じ形で氏族名として使われている。篆文になるとかなり字形が変化し、これを基に現代字は廌タイになった。[学研漢和]はこの字を「鹿と馬を合わせたような聖獣」、[字統]は「羊に似た神聖な獣」といい、最古の部首別字典である[説文解字]は「牛に似た一角獣」とし、それぞれ異なるが、現在の字形からみると「鹿+馬」が一番イメージしやすい。では、この聖獣は何をするのか。[説文解字]は、「古(いにしえ)裁判をするとき不直(正直でない)なる者に触らせる」とし、悪者を指摘する裁判官のような役割をする、としている。

 甲骨・金文で山羊と思われる獣が、なぜ神判をする聖獣となったのか? 
 白川静氏は[字統]などで春秋時代の思想家・墨子の影響を指摘している。私なりに解釈すると、墨子は「明鬼、下」でこの世には耳目では接することのできない鬼神キシン(超人的な能力を有する存在)がおり、この鬼神は世の中を明察することができ、賢を賞し暴を罰する存在であると説く。天下が乱れたのは人々が鬼神の存在を疑うようになったからだとし、一つの説話を挙げて鬼神の存在を説明した。
 「むかし斉の荘君の臣二人が訴訟で争って三年しても決着がつかなかった。そこで斉君は羊神判を行なうことにし、各自に羊一頭ずつを神社に供えて盟(ちかい)をさせた。そのとき羊の頸ケイ(首)を切って血をとり社に注がせた。一人の臣は神への誓辞(誓いの言葉)をよみあげたが、なんの異常もなかった。ところがもう一人がその誓辞をよみ進めて半ばにもならぬうちに、羊がおきあがってその臣に触れた。するとこの臣は脚をよろけてつまずいた。すると神霊が至りこの臣を打ち殺した。」この出来事は広く人々の間に伝わり斉の春秋の書に記録されている。墨子は、この書の説くところは「神前の盟(ちか)いにおいて誠実が欠ける者は鬼神の罰を受ける」と説いた。
 羊から廌タイ
[字統]は、廌タイは羊に似た神羊であるとする。墨子の「明鬼、下」の神社に供えた羊は悪い者に触れて鬼神の役割をしており、甲骨文字で山羊のような獣とされた廌タイが鬼神の役割を兼ねた聖獣として用いられたのであろう。
覚え方 鹿の上部+馬の上部を一に略した字=廌
 解廌(解豸)
意味 神判のとき用いる聖獣。「解廌カイタイ」(神判に用いる聖獣。=解豸カイチ。豸は廌の側面形とされる)

イメージ  
 「不正を指摘する聖獣」
(廌・薦・慶)
音の変化  タイ:廌  セン:薦  ケイ:慶

不正を指摘する聖獣
 セン・すすめる  艸部
解字 「艸(くさ)+廌(不正を指摘する聖獣)」の会意。聖獣が食べる草の意。転じて、この草をきちんと揃えて聖獣にお供えし、すすめる意となる。また、草をそろえて供える形から敷物・こもの意ともなる。
意味 (1)草。細かい草 (2)すすめる(薦める)。人を選んで推挙する。「推薦スイセン」「薦挙センキョ」(人を挙げてすすめる)「自薦他薦ジセンタセン」 (3)しく。敷物。こも(薦)。「薦席センセキ」(こもを敷いた席)「薦被(こもかぶ)り」(薦でつつんだ酒樽)
 ケイ・よろこぶ  心部 

解字 金文は「心(こころ)+廌タイ(不正を指摘する聖獣)」の会意。「心」はもともと心臓をかたどった字であったが、金文では感情さらに思想や精神を意味するようになった。慶の字は、不正を指摘する聖獣である廌タイに心(感情や精神)がある意で、心をもつ廌タイは正しい側の人を指摘する聖獣の意となる。転じて、よろこばしい・めでたい意となる。字形は篆文から心の下に夂(下向きの足)がつくが、これは金文の廌の後ろ足と尻尾が変化した形。
意味 よろこぶ(慶ぶ)。いわう。めでたい。「慶事ケイジ」「慶祝ケイシュク」(慶び祝う)「慶雲ケイウン」(良い前兆の雲)「慶弔ケイチョウ」(慶び事と弔いごと)「慶應ケイオウ」(日本の元号。江戸期の1865.4.7~1868.9.8まで。次年号は明治。[文選]の「慶雲ケイウン應(まさ)に輝くべし」より命名。)(2)たまもの。ほうび。「天慶テンケイ・テンギョウ」(①テンケイ:天から授かった賜物。②テンギョウ:日本の元号の一つ。938年から947年までの期間。平安時代中期)

※なお、不正を指摘されることをホウといい、「氵(水)+廌タイ+去(さる)」の会意。ホウは、廌タイが悪者の非をとがめて水(海)に流し去ること。すなわち、聖獣による神判に敗れた人を海に追放する刑罰。刑罰を示すことで、のり・きまりの意味を表わす。現代字は、から廌を省いた法となった。
「法ホウ」
<紫色は常用漢字>

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音符 <ひしゃくからマスへ> 「升ショウ」「昇ショウ」 と 「斗ト」「料リョウ」

2020年10月07日 | 漢字の音符
 ショウ・ます  十部

解字  甲骨文字は、液体を汲むための柄杓(ひしゃく)の象形。汲んだ液体を表す小点が付いている。それがないものは後に「斗」に分化した。体積の単位を表すが具体的な量は不明[甲骨文字辞典]。金文は柄杓の中に液体を示す短線が残るかたちで、容量の単位を表す。篆文以降は誤った変化をし、現代字はさらに升になった。
 柄杓は液体を中に入れてすくいあげるので、中国で「あがる・のぼる」意で使われ、昇の原字。最初の成立ちと異なり、中国・日本とも柄のないマスの意となっており、1升の容量は時代によって変遷があるが、10合が1升、10升が1斗となる比率は変わらない。
意味 (1)ます(升)。 (2)物の容量や容積をはかる器。現代日本の1升は約1.8リットル。「升目ますめ」(①升ではかった量。②格子状のかたち)「升酒ますざけ」「升席ますせき」(四角に仕切った見物席) (3)容積の単位。1升は10合。 (4)のぼる。あがる。「上升ジョウショウ」(=上昇)

イメージ 
 「ます・容量の単位」
(升・枡・呏)
 ひしゃくは物を中に入れてすくいあげるので「あがる」(昇・陞)
音の変化  ショウ:升・昇・陞  ます:枡  ガロン:呏

ます・容量の単位
<国字> ます  木部
解字 「木(き)+升(ます・容量の単位)」 の会意。容量の単位である木製のます。
意味 (1)ます(枡)。容量をはかる正方形の器。(2)ます(枡)のかたち。「枡形ますがた」(①枡のような四角い形。②城の一の門と二の門の間の四角い空き地。敵の進撃をにぶらせる。)「枡席ますせき」(四角に仕切った見物席=升席)
 ガロン  口部
解字 「口(くちまね)+升(容量の単位)」 の会意。容量の単位である升ショウの英語・ガロン(gallon)を口まねした字。
意味 ガロン(呏)。ヤード・ポンド方法の体積の単位。1ガロンはイギリスで約4.5リットル、アメリカと日本で約3.8リットル。

あがる
 ショウ・のぼる  日部
解字 「日(太陽)+升(あがる)」 の会意形声。日が上にあがる意。
意味 (1)のぼる(昇る)。上にあがる。「上昇ジョウショウ」「昇天ショウテン」 (2)官位や序列があがる。「昇進ショウシン」「昇格ショウカク

 ショウ・のぼる  阝部
解字 「阝(階段)+升(あがる)+土(地上)」の会意形声。阝(こざと)は丘と階段の意味があるが、ここでは階段の意。陞は地上から階段をのぼる意。
意味 (1)のぼる(陞る)。高いところへあがる。あげる。上へ進む。「陞降ショウコウ」(のぼりくだり=昇降)「陞車ショウシャ」(車にのぼる) (2)昇格する。官位がのぼる。「陞叙ショウジョ」(上級の官位に叙せられる=昇叙)「陞官ショウカン」(昇任)


   ト <ひしゃくからマスへ>
 ト・ます  斗部とます         

解字 金文は、甲骨文の升(柄杓の形)から液体を表す小点を取ったかたちの象形。篆文は升の篆文から一画少ない形だが、楷書は斗へと大きく変化した。意味は升の10倍の容積を表す。また、柄のあるひしゃくの形の象形のため、北斗七星は、その七つの星の配置が「ひしゃく」の形をしているところから名づけられた。斗は部首となり、「ます」の意味で会意文字をつくる。
時代や国で違う斗の容量
 1斗は10升、1升は10合という関係は、日本でも中国でも同じである。しかし、実際の容量は国によりまた時代によって変化している。ウィキペディアの「斗」によると、日本では明治24年に1升=約1.8リットルと定められたので、1斗は18リットルとなる。(なお日本の奈良時代の1升は現在の1升の0.4升にあたると澤田吾一氏が推定している。したがって1斗は0.4升×10=4升=7.2リットル)
 一方、中国では現在、1升=1リットルと定められているので、1斗は10リットルとなる。しかし、時代によって変遷し、周代は1斗が1.94リットル、⇒秦代3.43リットル⇒後漢1.98リットル、⇒魏・西晋2.02リットル⇒隋・唐5.94リットル⇒明代10.74リットルとなっている(以上、ウィキペディア)。したがって中国の古代文献の斗は、今の日本の斗(18リットル)でなく、隋唐の前は、1斗が約2リットル(日本の1升程度)で換算する必要がある。中国古代の「斗酒トシュ」は日本の1升酒の感覚であろう。
意味 (1)容量の単位。1斗は18リットル(明治24年以降の日本)。 (2)とます。ます(斗)。液体や穀物を量る器。「斗量トリョウ」(ますで量る)「斗掻(とか)き」(升に盛った米などを平らにならす棒)「斗酒隻鶏トシュセキケイ」(1斗の酒と1羽の鶏。魏の曹操が友人の墓を祭った時の供物)「斗酒百篇トシュヒャッペン」(1斗酒を飲みながらたくさんの詩をつくること)(3)ひしゃく。(4)ひしゃくの形をしたもの。「北斗七星ホクトシチセイ」(天の北極につらなる大熊座の柄杓形の七つ星)
参考 斗は部首「斗と・とます」になる。漢字の右辺について「ひしゃく」の意味を表す。常用漢字で3字、『新漢語林』で11字が収録されている。主な字は以下のとおり。
斗(部首):斜シャ・ななめ(斗+音符「余ヨ」)・斟シン・くむ(斗+音符「甚ジン」)・斡アツ・めぐる(斗+倝の会意)・料リョウ・はかる(斗+米の会意)

イメージ 
 「ひしゃく・ます」
(斗・蚪・料)
音の変化  ト:斗・蚪  リョウ:料

ひしゃく・ます
 ト・トウ  虫部
解字 「虫(むし)+斗(ひしゃく)」 の会意形声。ひしゃくの形に似た虫(両生類)のオタマジャクシ。
意味 「蝌蚪カト」(おたまじゃくし)に用いられる字。蝌も、おたまじゃくしの意。「蝌蚪文字カトモジ」(中国の古代文字のひとつ。その書体がおたまじゃくしに似ている)
 リョウ・はかる  斗部
解字 「米(こめ)+斗(ます)」 の会意。穀物をざらざらと斗(ます)に落とし入れてかさを量ること。
意味 (1)はかる(料る)。「料金リョウキン」(はかった量に見合うお金) (2)おしはかる。「料簡リョウケン」(推しはかり考えをめぐらす) (3)もとになるもの。「衣料イリョウ」「材料ザイリョウ」「料理リョウリ」(材料を調理すること)

<参考>
 カイ・さきがけ  鬼部
解字 「斗(ひしゃく)+鬼(=傀。おおきい)」の会意形声。音符は鬼。大きな柄杓(ひしゃく)の意。大きな柄杓から天空の柄杓である大熊座の北斗七星に当て、特に枡の部分にあたる4つの星をいう。また、枡の部分の第一星を魁星カイセイと呼んだことから、さきがけの意となった。さきがけは先頭に立つ意であり、かしら・首領、すぐれる意となる。
意味 (1)大きなひしゃく。 (2)おおきい。 (3)北斗七星。「天魁テンカイ」(北斗七星)「魁星カイセイ」(北斗七星の第一星) (4)さきがけ(魁)。先頭に立つ。 (5)かしら(魁)。首領。「首魁シュカイ」(6)すぐれたもの。「魁士カイシ」(すぐれた男子)
※この字の音符は「鬼キ⇒カイ」であるが参考のため、音符「鬼」と重出した。
<紫色は常用漢字>

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音符「解カイ」<牛を解体する>と「蟹カイ」「廨カイ」「懈カイ」「邂カイ」

2020年10月04日 | 漢字の音符
 牛の解体はどのように行われるのか
「解カイ」は牛の解体を表している。そのためには牛の解体が実際にどのように行われるのかを知る必要があります。以下は、私が文献やネットで調べた牛の解体の順序です。牛の解体は手順が確立されており世界中でほぼ共通のようです。
①牛の眉間(みけん)に特殊なハンマーで打撃を与え(ノッキング)、牛を気絶させる。
②牛の首をナイフで割き動脈を切って失血死させる。
③上記で割いた箇所からナイフを横にいれ、牛の頭部を切り取る。
④牛を仰向けにし腹に軽くナイフをいれ皮を剥いでゆく。この作業の途中で、背中の皮を剥ぐために、後ろ脚を吊り上げて、すべての皮を剥ぐ。
⑤牛の腹の部分をタテに割いて内臓を取り出し、下においた容器で受ける。
⑥吊り上げた両脚の間から鋸で引き下ろしてゆく(途中から斧を使うこともある)。この作業は背割りといって、牛の背骨を二つにわけてゆく作業である。
⑦こうして背割りが完了すると、吊るされた牛の半身が二つできる。ここで屠畜の作業は完了し、屠畜場から肉屋に運ばれ、ここでさらに肉が解体されて各部分に分けられる。
 牛の解体は残酷なようですが、こうした作業により我々は牛肉を食べることができるのです。
参考文献 内澤旬子『世界屠畜紀行』、本橋成一『うちは精肉店』、インターネットほか

 カイ・ゲ・とく・とける・わかる  角部           

斧の頭(刃の反対側)で牛の眉間をたたく。ウイキペディア「屠畜」より。

解字 甲骨文は牛の角を両手で押さえている形。これは①の「牛の眉間へのノッキングの際に牛の角を両手で押さえているさま」と考えられる。甲骨文字辞典は、この字の意味を「祭祀儀礼の一種。動物を解体することか」としている。金文第1字は角と牛の横に攴ボク(手に先がふくらんだ棒状のものをもつ形)であり、これは①の「牛の眉間に特殊なハンマーで打撃を与え牛を気絶させる」ノッキングのさまであろう。金文第2字は攴ボクの代わりに刀(刃)を付けた形で、③の「ナイフを横にいれ牛の頭部を切り取るさま」である。篆文は刃⇒刀になり、配列も角の横に刀と牛をかさねる解の形になり、現代字に続いている。以上で牛の解体の③まで進行したが、④以下は解体の次の段階であり、⑥の「牛の背骨を二つにわけてゆく作業」が半である[半を参照]。
 解は牛の解体の第一段階までの字であるが、後につづく解体のすべてを意味する文字として用いられる。金文の意味は姓・地名以外に現代字の「懈カイ(おこたる・怠惰)」の意味で使われている。懈カイは「忄(心)+解(解き放つ)」であり、金文の段階で解の字に多様な意味が生じていたと考えられる。
意味 (1)牛を解体することから。わける。ばらばらにする。「解体カイタイ」「分解ブンカイ」「解剖カイボウ」「瓦解ガカイ」(一部の屋根瓦の崩れから屋根全体がばらばらに崩れる) (2)ばらばらにする意から、ときはなす。ほどく。とく(解く)。「解放カイホウ」「解除カイジョ」「解雇カイコ」「帯を解く」「緊張を解く」 (3)(ばらばらにして中身が)わかる(解る)。ときあかす。「理解リカイ」「解釈カイシャク」「解説カイセツ」「了解リョウカイ」 

イメージ 
 「ばらばらにする・わける」(解・蟹・廨)
 「ときはなす(意味2)」(懈)
 「形声字」(邂)
音の変化  カイ:解・蟹・廨・懈・邂

ばらばらにする・わける
 カイ・かに  虫部
解字 「虫(甲殻類)+解(ばらばらにする)」の会意形声。虫はここで貝類・甲殻類を表す。ハサミを含め体から出ている5対10本の脚を簡単にばらばらにして食べることができる虫(かに)。
意味 かに(蟹)。水中にすむ甲殻類。十本の脚のうち二本はハサミとなり餌の捕食に役立っている。「蟹行カイコウ」(かにの横歩き)「蟹漁かにリョウ」(網などで蟹を捕ること)「蟹工船かにコウセン」(北洋で蟹漁をし、船中で直ちに缶詰などに加工する船)
 カイ・ケ  广部
解字 「广(たてもの)+解(わける・分配する)」の会意形声。地域を管轄する部署が、その収入をもって予算を配分して業務をおこなう役所をいう。古くは郡廨・公廨と言った。古来中国において、各官署の経常的運営費は、狹義の事務費のほか下級職員の人件費まで含めて、これを国家の予算には計上せず、各官署の自弁に委ねる建前であつた。そこでは、各官署ごとになにがしかの基本財産をもつた特別会計を設定し、その会計の收入をもつて独立採算的に官署の経常費を賄わせる方法がとられていた。この特別会計が「公廨」であり、その基本財産として土地が割当てられればそれが公廨田となる。(奥村郁三「唐代公廨の法と制度」)
「廨」の参考ページ:https://minamoto-kubosensei.amebaownd.com/posts/16034989/
意味 役所。官庁。「公廨クガイ」(役所。公の物)「郡廨グンカイ」(郡役所)「公廨田クガイデン」(中国では郡などに割り当てられた土地。日本では大宰府と国司の官人に支給された土地)「廨舎カイシャ」(役所の建物)「廨宇カイウ」(官舎)

ときはなす
 カイ・ケ・おこたる・だるい  忄部
解字 「忄(こころ)+解(ときはなす)」の会意形声。心を解き放ち自由になりすぎてだらけること。緊張を解いた状態をいう。
意味 (1)おこたる(懈る)。だらける。なまける。「懈怠ケタイ・ケダイ」(なまけおこたること。懈も怠もなまける意。仏教で修業をおこたること) (2)ゆるむ。だるい。「懈弛カイシ」(おろそかになる。弛はゆるむ意)

形声字
 カイ・あう  辶部
解字 「辶(ゆく)+解(カイ)」の形声。[説文解字]は「邂逅カイコウ(思いがけなく出会うこと)。期(き)せ不(ず)而(して)遇(あ)う也(なり)。」とする。思いがけない出会いをいう。常用漢字でないため、二点しんにょう。
意味 あう(邂う)。「邂逅カイコウ」に使われる字。邂も逅も出会う意だが、「邂逅」とは、思いがけなく出会うこと。めぐりあうこと。「旧友との邂逅」「二十年ぶりの邂逅」「路上で邂逅した偶然」
<紫色は常用漢字> 

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音符「侵シン」<はいりこむ>と「浸シン」「寝シン」

2020年10月01日 | 漢字の音符
 シン・おかす  イ部                

解字 甲骨文は「牛+帚(ほうき)+又(て)」で、帚(ほうき)を手に持ち牛を追い出し他所の土地の家畜を奪うこと。甲骨文字では侵略・略奪の意味だという[甲骨文字辞典を参照した]。金文は牛が人に代わった字。家畜の他、人を奪う意と思われる。篆文は「イ(人)+帚(ほうき)+又(て)」となり、隷書レイショ(漢代)から帚(ほうき)の下部の巾を省略して旧字まで続き、新字体は上がヨに変化した侵になった。意味は、[春秋穀梁コクリョウ伝](前漢)に「人民を苞(とりこ)にし、牛馬を殴(か)るを侵と曰う」とあり、家畜や人を奪う古代の意味を伝えている。現在は、他者の権利・権限をそこなう。特に、他国、他人の土地に不法に立ち入る(攻め込む)意で用いられる。
意味 おかす(侵す)。他の者の権利・権限をそこなう。他人の領分に入り込む。「侵害シンガイ」「侵略シンリャク」「侵犯シンパン

イメージ 
 他人の領分に「はいりこむ」(侵・浸・駸)
 「その他」(寝)
音の変化  シン:侵・浸・駸・寝

はいりこむ
 シン・ひたす・ひたる  氵部
解字 「氵(水)+侵の略体(はいりこむ)」 の会意形声。水が入り込むこと。
意味 (1)ひたす(浸す)。ひたる(浸る)。水につける。「浸水シンスイ」(水が入り込む) (2)しみる(浸みる)。水がしみこむ。「浸透シントウ」「浸食シンショク
 シン  馬部
解字 「馬(うま)+侵の旧字の略体(はいりこむ)」 の形声。馬が走るように速く入りこむ意で、物事が速く進行するさま。
意味 (1)物事が速く進行する。「駸駸シンシン」「駸駸乎シンシンコ」(物事がはやく進むさま) (2)馬が走るさま。

その他
 シン・ねる  宀部

解字 甲骨文字は宀(建物)の中に婦の初文である帚(ほうき)が描かれた形。[甲骨文字辞典]によると、「夫人がいる建物」で、寝殿(天子が日常の生活をする宮殿)の意味があるという。「帚(ほうき)」は、帚で掃除する意だが、甲骨文字では夫人の意で使われることがある。帚が表す婦は、殷の王であった「武丁」の夫人名でもあることから天子と夫人が住む寝殿の意味が出たと思われる。金文は第二字に帚に又(て)がついた形が現れた。秦代になり、爿(ベット)のついた形が出現し(字中の帚は錯誤がある)、寝殿のベッドで寝る意味が出た。篆文は、さまざまな文字が現れて乱れたので省略した。隷書レイショ(漢代)にいたり第1字で下部の巾が又に替わった寝が出現し(第2字はこれまでの字)、現代にいたっている。新字体は旧字の寢⇒寝になった。
 意味は当初の意である「寝殿」。その後、爿(ベット)がついてから寝る意味がでた。この字に含まれる𠬶シンは、侵の略体でなく帚(=婦)が変化した形であり、「はいりこむ」イメージはない。
意味 (1)天子が日常生活をした御殿。「寝殿シンデン」「寝殿造シンデンづくり」 (2)ねる(寝る)。ねむる。「寝室シンシツ」「寝具シング」「寝台シンダイ」 
<紫色は常用漢字>

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