漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符 「欠ケツ・ケン」<口をひらいている人> と「飲イン」「吹スイ」

2019年11月29日 | 漢字の音符
  坎カンを追加しました。
 ケン・(ケツ)  欠部あくび          
 
解字 前に向かって口をひらいている人の側身形。甲骨文では立ち姿と坐り姿がある。口気を発し、言葉をいい、歌い、叫ぶときの形である。篆文から形が変わり、現代字は欠になった。欠は部首となる。
意味 あくび(欠)。あくびをする。「欠身ケンシン・あくび
参考 ケンは、部首「欠あくび」になる。漢字の右辺に付いて、人が口をあける意を表す。常用漢字で8字、約14,600字を収録する『新漢語林』で46字ある。主な字は以下のとおり。
  欧オウ(欠+音符「区」)・欲ヨク(欠+音符「谷コク」)・欺(欠+音符「基」)
  歌(欠+音符「哥」)・欽キン(欠+音符「金キン」)・次(欠を含む会意)・款カン(欠を含む会意)など。
このうち、次は音符となる。

イメージ 
 「同体異字」
(欠)
  「口をあける」(欠・飲・羨・盗・款)
  ひらいた口から「息をだす」(吹・炊) 
  「その他」(軟・坎)
音の変化  ケン・ケツ:欠  イン:飲  カン:款・坎  セン:羨  トウ:盗  スイ:吹・炊  ナン・軟

同体異字
[缺] ケツ・かける・かく  欠部
解字 旧字は缺ケツで、「缶(ほとぎ・土器)+夬ケツ(切り込み)」の会意形声。夬ケツは、刃物を手にもつ形で、切り込みが入る意。缺ケツは、土器の器に切り込みのような「かけ」ができること。新字体は、旧字の缺⇒欠に置き換えた。欠ケン(あくび)とは別字。この結果、欠という字は、本来のケンという音に加え、ケツという音も獲得し、現在では欠ケツを知っていても欠ケンを知らない人が大部分である。
意味 (1)かく(欠く)。かける(欠ける)。欠けめができる。「欠落ケツラク」「欠片かけら」 (2)休む。予定をとりやめる。「欠席ケッセキ

口をあける
 イン・のむ  食部
解字 正字(篆文)は、「イン(フタをした酒壷)+欠(口をあける)」の会意形声。酒をのむ意。飲は、酓(酒つぼ)が食に変わった会意字で、口をあけて飲んでいるのは酒である。のち、ひろく飲む意になった。
意味  のむ(飲む)。のみこむ。のみもの。「飲酒インシュ」「飲料インリョウ」「吸飲キュウイン」「鯨飲ゲイイン」(多量に酒をのむ) 
 セン・うらやむ・うらやましい  羊部
解字  「羊の略体(ひつじ)+氵(水)+欠(口を開いている人)」の会意。羊を前にして、口からよだれを流している人の意。羊はうまいものを表わすから、羨はうらやむ意となる。
意味 (1)うらやむ(羨む)。うらやましい(羨ましい)。「羨望センボウ」(うらやましく思う) (2)あまる。のこる。「羨溢センイツ」(ありあまる)
 トウ・ぬすむ  皿部 
解字 旧字は盜で、「皿(さら)+氵(水)+欠(口を開いている人)」の会意。皿のご馳走を前にして口からよだれをたらしている人。転じて、ぬすむ意となる。新字体は、氵⇒冫に変化したので、「覚え方」を参照。
覚え方 つぎ()のさら()をむ。
意味 ぬすむ(盗む)。ぬすみ(盗み)。「盗賊トウゾク」「盗聴トウチョウ」「盗作トウサク」「強盗ゴウトウ」「窃盗セットウ」(他人のものをこっそりぬすむ。窃も盗も、ぬすむ意)
 カン  欠部あくび          

解字 篆文第一字は、「木(き)+示(祭壇)+欠ケン(口をあける人)」の会意。「木+示」は柰ダイで、木の実を供える神事を表す。それに、口を開いて立つ人の形である欠がついた款カンは、神に供え物をして祈りの言葉を発し、丁重に神をまつる形。篆文第二字は、柰の上部の木⇒出となり、さらに現代字は士に変化した款になった。原義は、ねんごろに・まごころの意。転じて、まごころで交わしたとりきめ(定款)の意となり、その取決めを、きちんと残すために、きざむ・ほる意となる。この字は形が変遷しているのでゴロ合わせで覚えると便利。
意味 (1)ねんごろ。いんぎん。まごころ。「款待カンタイ」(ねんごろにもてなす)「款カンを通じる」(親しく交わりを結ぶ)(2)(歓カンに通じ)よろこぶ。(3)とりきめ。転じて、法令などの箇条書き。予算の文書分類の単位の一つ。「定款テイカン」(会社などの基本規則)「款項カンコウ」(条項。項目)(3)きざむ。ほる。しるす。「款識カンシ・カンシキ」(鏡や鼎かなえに刻まれた銘)「落款ラッカン」(落成の款識の意。完成した書画に筆者が自筆で署名し印を押すこと)
覚え方 さむらい()にしめす()あくび()はダメと定にあり。[漢字川柳]

息をだす
 スイ・ふく  口部
解字 「口(くち)+欠(息をだす)」の会意。口から息をはくさま。
意味 (1)ふく(吹く)。風がふく。息をはく。「吹雪ふぶき」「吹流(ふきなが)し」 (2)楽器をふきならす。「吹奏スイソウ」「鼓吹コスイ」(太鼓を打ち笛を吹く。勢いをつけ励ます)
 スイ・たく  火部
解字 「火(ひ)+欠(息をだす)」の会意。息をふいて火を燃やし、煮炊きする。
意味 たく(炊く)。めしをたく。煮炊きする。「炊事スイジ」「雑炊ゾウスイ」「炊煙スイエン

その他
 ナン・やわらか・やわらかい  車部
解字 正字は輭ナンで、「車+ゼン(やわらかくゆとりある)」の会意形声。車内がやわらかくゆとりのある仕様になっている車の意で、やわらかい意味を表わす。現代字は、耎ゼンを欠に置き換えた。
意味 (1)やわらかい(軟らかい)。しなやか。「柔軟ジュウナン」「軟化ナンカ」 (2)よわい。よわよわしい。「軟弱ナンジャク」 ※中国では、列車のグリーン座席を「軟席(やわらかい座席)」といい、原義が残っている。(普通席は「硬席(かたい座席)」)
 カン・あな  土部
解字 「土(つち)+欠(カン)」 の形声。カンは臽カン・陥カン(おとしあな・おちいる)に通じる。土がついた坎カンは、地上の落とし穴、おちいる意となる。
意味 (1)あな(坎)。おとしあな。おちいる。「坎穽カンセイ」(おとしあな=陥穽)「坎井カンセイ」(あな井戸)「坎井之蛙カンセイのかえる」(井の中の蛙) (2)(あなに落ちて)ゆきなやむ。くるしむ。「坎軻カンカ」(坎も軻も、ゆきなやむ意。①行きなやむ。②不遇である)
<紫色は常用漢字>

  バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。


コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

音符「貫カン」<つらぬく>と「慣カン」「実ジツ」

2019年11月22日 | 漢字の音符
 カン・つらぬく  貝部  

解字 金文第一字は貝を上下に連ねた形。第二字は孔のあいた銭を連ねた形と思われる。貝は貨幣の意であり、大量の銭に紐を通して束ねた銭貫(ぜにさし)を表す。篆文は金文第二字の一つを上に、下に貝をつけた形に変化した。貫とは、銭の孔に紐を通して(貫いて)1000枚を1組としておくこと。後に通貨単位としての「貫」となり、その通貨の重さの単位ともなった。また、銭を紐で通すことから、つらぬく意となる。
 銭を1000枚つらねた銭貫ぜにさし(ウイキペディアより)
意味 (1)つらぬく(貫く)。やりとおす。「貫通カンツウ」「縦貫ジュウカン」(縦に貫く)「首尾一貫シュビイッカン」(趣旨や意味が筋の通っている) (2)戸籍。「郷貫キョウカン」(本籍) (3)ならわし。「旧貫キュウカン」 (4)貨幣・重さの単位。1貫は銭1千文、重さは1千匁もんめ=3.75㎏。

イメージ  
 「つらぬく」
(貫・慣) 
 「紐で通した大量の貝(貨幣)」(実)
音の変化  カン:貫・慣  ジツ:実

つらぬく
 カン・なれる・ならす  忄部
解字 「忄(心)+貫(つらぬく)」の会意形声。心のなかに時間を貫いて続いているもの。
意味 (1)ならわし。しきたり。「慣行カンコウ」「習慣シュウカン」 (2)なれる(慣れる)。ならす(慣らす)。「慣用カンヨウ」(使いなれる)「慣熟カンジュク」(慣れてうまくなる) (3)「慣性カンセイ」とは、外からの力を受けないかぎり、物体がその運動状態を変えない性質。「慣性の法則」

紐で通した大量の貝(貨幣)
[實] ジツ・み・みのる  宀部
解字 旧字は實で 「宀(いえ)+貫(紐で通した大量の貨幣)」の会意。大量の貨幣が家の中に満ちていること。みちる・内容がある意。転じて、草木の実となり、また実る意となる。新字体は旧字の實⇒実に簡略化された。
意味 (1)みちる。内容がある。「実質ジッシツ」「充実ジュウジツ」 (2)み(実)。みのる(実る)。「果実カジツ」「結実ケツジツ」 「実入(みい)り」(①穀物などの実の入りかた。②収入) (3)まこと。まごころ。「実直ジッチョク」「誠実セイジツ」 (5)ほんとう。ありのまま。「実例ジツレイ」「真実シンジツ
<紫色は常用漢字>

   バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。


font>
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

音符 「聶ショウ」 <多くの耳>と「摂セツ」

2019年11月18日 | 漢字の音符
  ジョウを追加しました。
 ショウ・ジョウ  耳部 

解字 「耳+耳+耳」の会意。多くの耳を寄せ合うこと。 
意味 (1)ささやく。(=囁)。 (2)姓。

イメージ 
 「多くの耳を寄せる」
(聶・囁)  
 「多くの耳で聞く」 (摂)
 「形声文字」(鑷)
音の変化  ショウ:聶・囁・懾  ジョウ:鑷  セツ:摂

多くの耳を寄せる
 ショウ・ジョウ・ささやく  口部  
解字 「口(くち)+聶(多くの耳を寄せる)」の会意形声。多くの耳を寄せて、口でささやくこと。
意味 ささやく(囁く)。耳もとでそっと話す。

多くの耳で聞く
 セツ・とる  扌部  
解字 旧字は攝で「扌(手で行なう)+聶(多くの耳で聞く)」の会意形声。多くの耳で民の声を聞き、その内容を取り入れて政務を執行すること。とりいれる・とる意、および、とりおこなう・統べる・つかさどる、が原義。また、本来統べる人が幼少のとき、経験のある者が代わりに行なう意となる。新字体は、攝⇒摂に変化する。
意味 (1)とる(摂る)。とりいれる。「摂取セッシュ」(取り入れて自分のものにする)「摂受セツジュ」(受け入れる) (2)(栄養を摂り入れることから)やしなう。「摂生セッセイ」(生をやしなう。養生する) (3)とりおこなう・統べる・つかさどる。「摂理セツリ」(①統べ治める。②自然界を支配している理法) (4)代わって執り行う。「摂政セッショウ」(天子や天皇に代わって政治を執ること)「摂関家セッカンケ」(摂政と関白に任ぜられる家柄)「摂行セッコウ」(他人に代わって事を処理する) (5)かねる。「摂兼セッケン」(摂も兼も、かねる意) (6)地名。「摂津セッツ」(大阪府北部および兵庫県の一部にまたがる地域の旧国名。現在は、その一部が摂津市となっている。由来は、難波津なにわづ(大阪港)を摂セツ(管掌する・統べる)する役所の摂津職セッツシキが置かれた国のこと)
※難波津については、「人工港 難波津の成立」(日下雅義『地形からみた歴史』所収)に詳しい。

形声文字
 ジョウ・けぬき・ぬく  金部
解字 「金(金属)+聶ジョウ」の形声。ジョウはジョウ(毛抜き・ピンセット)に通じる。同じ発音のジョウも毛抜きの意に用いる。なお、ジョウが何故、毛抜きの意になるのかは不明。
意味 (1)けぬき(鑷)。「鑷子ジョウシ」(毛抜き) (2)ぬく(鑷く)「鑷白ジョウハク」(白髪をぬく)
 ショウ・おそれる  忄部
解字 「忄(こころ)+聶ショウ」の形声。[説文解字]に、「気を失うなり」とあり、恐懼キョウク(恐れかしこまる)ことをいう。
意味 おそれる(懾れる)。「懾畏ショウイ」(懾も畏も、おそれる意)「懾竄ショウザン」(おそれてかくれる)「懾伏ショウフク」(おそれてひれふす)「震懾シンショウ」(ふるえおそれる)
<紫色は常用漢字>

    バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。



コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

音符「予 ヨ」<ひ・シャトル>と「預ヨ」「序ジョ」「野ヤ」

2019年11月13日 | 漢字の音符
  野ヤの解字をやりなおしました。
 ヨ  亅部           
 
 

解字 金文は状のもの二つがずれて重なった形。篆文はがかさなり下のから糸がでている形。いずれも機織りの横糸を左右に走らせるための道具である杼(ひ・シャトル)の象形で、杼が上方から下方へ移動するさま(実際は横に移動する)を描いている。隷書レイショ(漢代の役人などが主に使用した書体)から形が変わり現代字の予につながる。現在の予のマは上の杼、下部の「㇖+㇚」は下の杼と糸を表している。予は杼の原字である。本来の意味では使われず、仮借カシャ(当て字)して、「われ」の意味を表わし、与(あたえる)に通じて、与える意を表す。
意味 (1)われ(=余)「予輩ヨハイ」 (2)あたえる「賜予シヨ」(身分の高い者から下の者に与える)「予奪ヨダツ」(あたえることとうばうこと=与奪)

イメージ 
 「機織りのひ」
(予・杼) 
  杼の動きから「行って帰る」(豫・抒・預)
  杼の糸が「横にのびる」(序・舒)
 「形声文字」(野)
音の変化  ヨ:予・豫・預  ジョ:序・抒・舒  チョ:杼  ヤ:野 
 
機織りのひ
 チョ・ジョ・ひ  木部
解字 「木(き)+予(ひ)」の会意形声。予はもと杼(ひ)の意味だったが、「われ」の意となったため、木をつけて本来の木製の「ひ」を表した。
意味 ひ(杼)。木製の舟形の中に糸を巻いた管を入れ、機の縦糸の間を左右に往復させて横糸をとおす道具。「杼機チョキ」(杼と機。はたを織るのに用いる道具)

行って帰る
[豫]  ヨ・あらかじめ   亅部
解字 旧字は 「象(ぞう)+予(行って帰る)」の会意形声。ゆっくりした象が行って帰る動作は、あらかじめ予測できる意。豫は、新字体で象が略され、予と同じ字体になった。
意味 (1)あらかじめ(予め)。かねて(予て)。かねがね(予予)。まえもって。「予感ヨカン」「予告ヨコク」「予鈴ヨレイ」(本鈴の前に、あらかじめ鳴らす鈴) (2)ためらう。「猶予ユウヨ」 (3)たのしむ。
 ヨ・あずける・あずかる   頁部
解字 「頁(あたま。人員)+予(行って帰る)」の会意形声。手伝いの人員を行って帰らすこと。一時的に人員が行くので、転じて人員を「あずける」意となった。また、予(あらかじめ)の意味でも使われる。
意味 (1)あずける(預ける)。あずかる(預かる)。「預金ヨキン」「預託ヨタク」(財産などを一時的にあずけまかせること) (2)あらかじめ。かねて。「預言ヨゲン」(=予言。ただし、キリスト教などで神託を指す場合は預言を専用する)
 ジョ・のべる  扌部
解字 「扌(手)+予(行って帰る)」の会意形声。機織りで、両手で杼を動かすように、両手で井戸のつるべを動かして行って帰らせ、水を汲むことを言う。また、汲んだ水をそそぐように心情をもらすことをいう。
意味 (1)くむ(汲む)。 (2) のべる(抒べる)。心に思うことを打ち明ける。「抒情ジョジョウ」(感情を述べ表す=叙情)

横にのびる
 ジョ・ついで  广部
解字 「广(やね)+予(横にのびる)」の会意形声。母家のわきにのびた脇部屋をいう。転じて、脇部屋と母屋の位置関係から、ならびかた・順序の意となり、また、脇部屋は端にあることから「はし・いとぐち」の意となる。
意味 (1)わきや。わきべや。母家の両側の部屋。(2)ならべかた。次第。「順序ジュンジョ」「序列ジョレツ」(3)はし。いとぐち。はしがき。「序幕ジョマク」「序論ジョロン」「序文ジョブン」(4)ついで(序で)。①同時に他のこともするよい機会。②順序・次第。
 ジョ・ショ・のべる  舌部
解字 「舎の旧字(やど・たてもの)+予(横にのびる)」の会意形声。やどの中で体をのびのびさせること。
意味 (1)のべる(舒べる)。のばす。ゆったり。「舒暢ジョチョウ」(舒も暢も、のびのびする意。心をのびのびさせる)「舒服ジョフク」(のびのびとした状態に服する(したがう)。気分がよい・快適だ)「舒緩ジョカン」(ゆったりしていること)(2)ひろげる。「舒巻ジョカン」(巻物をひろげる)

形声文字
[埜] ヤ・の  里部

解字 甲骨文字は、林と土の異体(⊥)から成り原野を表している[甲骨文字辞典]。金文は林と土からなり郊外の意。戦国は、金文と同じ形だが土が現在と同じになった埜となった。この字は野の異体字として現在も使われている。篆文は第一字が説文古文(春秋戦国時代)で、埜の林の間に予が入った字。この予は埜の発音を表すために挿入された。第二字は「里+予」の野になり、第一字の埜⇒里に置き換わった。この字が現在に続いている。意味は、郊外・野外から野原の意になり、日本では野原やはたけの意で用いられる。
野ヤと予ヨの発音変化について
 現代字の野は発音が「ヤ」であり、予の発音は「ヨ」で異なっている。しかし、上古音(漢代)の発音は王力系統の復元音で両字とも「魚部 ʎia」で同じである。(ʎiaのʎ(逆さのy)の発音はイタリア語で、gli [ʎi]と表記されるそうだが、筆者には分からない。イタリア語をご存じの方は教えてください)。一方、中古音(隋唐)になると、予は[jǐo]となり、野は[jǐa]となる。jの発音は英語のyとほぼ同じなので、予はイヨ(⇒ヨ)、野はイア(⇒ヤ)となり、中古音で発音が変化したようである。現代中国語は予が、yǔとyú、野は、yěである。
意味 (1)の(野)。のはら。「原野ゲンヤ」「野営ヤエイ」 (2)はたけ。耕地。「野菜ヤサイ」「田野デンヤ」 (3)民間。「在野ザイヤ」 (4)自然のままの。「野生ヤセイ」 (5)だいそれた。「野心ヤシン
<紫色は常用漢字>

    バックナンバーの検索方法
※一般の検索サイト(グーグル・ヤフーなど)で、「漢字の音符」と入れてから、調べたい漢字1字を入力して検索すると、その漢字の音符ページが上位で表示されます。




200
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

音符「蔑ベツ」 <よく見えない>  と 「襪ベツ」

2019年11月01日 | 漢字の音符
 ベツ・メチ・さげすむ  艸部

解字 甲骨文は「眉(まゆ)を強調した人(𦹋の上部+人)+戈(ほこ)」 の会意。眉(まゆ)を強調した人の意味は不明であるが、よく観察する人の意で戦場の情報参謀と思われる。この人を戈で捕らえる、または伐(き)る形。意味は、[甲骨文字辞典]によると、①捕虜を献上すること。②吉凶語で不吉の意などで用いられている。字形は𦹋に置き換えることもできるので、その後、意味も眉毛のついた目の働きを伐(きる)意から、よく見えない、転じて「ないがしろ」にする意となった。現代字は伐⇒戍ジュに変化したのち、さらに戌ジュツに誤った蔑ベツになっている。
意味 (1)さげすむ(蔑む)。ないがしろ(蔑ろ)。あなどる。「軽蔑ケイベツ」「蔑視ベッシ」「侮蔑ブベツ」(あなどる) (2)見えない。ない。「蔑然ベツゼン」(ぼんやりしてよく見えない。くらい)

イメージ  
 蔑の意味(2)の「見えない」(蔑・襪)
 
音の変化  ベツ:蔑・襪

見えない
 ベツ・バツ・モチ・したぐつ  衤部

中国の襪(ネットの販売品)
解字 「衤(ころも)+蔑(見えない)」 の会意形声。足をかくして見えなくする足の衣の意で足袋をいう。靴をはくとき、これを着けてはくので「くつした」の意味ともなる。
意味 したぐつ。しとうず。たび。靴下。「襪衣ベツイ・バツイ」(足袋の異称)「羅襪ラベツ」(うす絹の足袋)「襪繋ベッケイ・バッケイ」(足袋のひも)
<紫色は常用漢字>


コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする