漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符 「賏エイ」<貝のくびかざり> と 「嬰エイ」 「桜オウ」

2022年03月31日 | 漢字の音符
  いま桜が満開。桜のもとの字、ユスラウメの写真を通販の苗木サイトで見つけました。
 エイ・ヨウ   貝部
解字 「貝(かい)+貝(かい)」の会意形声。貝をつなげた形で、首飾りを表す。
意味 くびかざり

イメージ 
 「くびかざり」
(賏・嬰・桜・瓔・纓)
 「あかご(嬰)」(鸚)
 「ヨウ・オウの音」(罌・嚶)
音の変化  エイ:賏・嬰・纓  オウ:桜・鸚・罌・嚶  ヨウ:瓔 

くびかざり
 エイ  女部          

解字 「女(おんな)+賏エイ(首飾り)」の会意形声。賏は貝をつなげた呪具の首飾り。これを新生児の女児の首にかけて魔除けの呪いとしたので、乳のみごの意味になる。
意味 (1)みどりご。乳のみご。「嬰児エイジ・みどりご」(2)くびかざり。(3)(嬰児が抱かれるさまから)動かない。消極的。「退嬰タイエイ」(退いて消極的。積極的な意気込みがない。⇔進取)「退嬰的な時代精神」(4)めぐる。めぐらす。
[櫻] オウ・さくら  木部
解字 旧字は櫻で「木(き)+嬰(=賏。首飾り)」の会意形声。首飾りのようにつらなって丸い実がなるユスラウメ。日本では花と実が似ているサクラの意で使われる。新字体で賏⇒ツに変化した桜になる。

首飾りのようなユスラウメの実・右下は花(苗木の通販サイトから)
意味 (1)ゆすらうめ(桜桃・梅桃)。バラ科の落葉低木。「朱桜シュオウ」 (2)[国]さくら(桜)。バラ科サクラ属の落葉樹。堤・公園・庭などに植えられ、春に一斉に咲く淡紅色の花は国花。「桜花オウカ」「観桜カンオウ
 ヨウ・エイ  王部
解字 「王(たま)+嬰(=賏。首飾り)」の会意形声。玉をつないだ首飾り。
意味 玉をつないだ首飾り。「瓔珞ヨウラク」(宝石を連ねて仏像の頭・首・胸などを飾るもの。瓔も珞も玉をつないだ首飾り、また、瓔珞は寺院や仏壇、天蓋などの荘厳具として用いられることがある)
 エイ  糸部
解字 「糸(ひも)+嬰(=賏。首飾り)」の会意形声。首飾りのように首にかけて垂らす飾りひも。転じて、首の上部で結ぶ冠のひもをいう。日本では、冠の後ろに垂らす帯状の付属具(巾子)をいう。
 立纓リュウエイの冠を付けた男雛
意味 (1)かざりひも。 (2)冠のひも。「冠纓カンエイ」(冠のひも)「纓紳エイシン」(冠のひもと大帯。貴族や高官) (3)[国]冠の後ろに垂らす付属具。「立纓リュウエイ」(冠の後ろの纓が立っているもの。江戸以降、天皇が使用した)「立纓リュウエイの冠」「垂纓スイエイ」(纓が垂れた冠。文官が使用した)

あかご
 オウ・イン  鳥部
解字 「鳥(とり)+嬰(あかご)」の会意形声。嬰児が母親の言葉をまねるように人の言葉をまねる鳥。
意味 鸚鵡オウムに使われる字。「鸚鵡オウム」(オウム科の鳥。人の言葉や他の動物の鳴き声をよくまねる)「鸚鵡返し」(言われた言葉をそのまま言い返す)「鸚鵡貝オウムがい」(オウムのくちばしに似た貝)「鸚哥インコ」(オウムと似た鳥。インは唐音)

ヨウ・オウの音
 オウ・ヨウ  缶部
解字 「缶(かめ)+賏(ヨウ・オウの音)」ヨウ・オウという発音のかめ。
 
罌粟の花と果実(ケシ坊主)検索サイトの画像から(原サイトなし)
意味 かめ(罌)。もたい。腹が大きく口のつぼんだかめ。「罌粟オウゾク・けし」(ケシ科の二年草。五月ごろ開花し花弁が落ちた果実の乳液からアヘンをとる。実がかめの形をしているので罌オウ、果実のなかに粟あわのように小さい種子があるので、併せて罌粟オウゾクという。=芥子けし
 オウ・なく  口部
解字 「口(くち)+嬰(オウの音)」の形成。口からオウという声を出すこと。「嚶鳴オウメイ」という語で鳥の鳴く声に用いられる。嬰エイに櫻オウの音がある。
意味 なく(嚶く)。鳥が声を合わせて鳴くさま。鳥が鳴き声を交わすさま。「嚶鳴オウメイ」(①鳥がたがいにさえずり合う。②友人がむつまじくかたり合う)「嚶鳴社オウメイシャ」(明治初期の政治結社。自由民権運動に参加したが、1982年政府の命令により解散)「嚶嚶オウオウ」(鳥が声を合わせて鳴く)
<紫色は常用漢字>

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音符「皮ヒ」<かわ>と「披ヒ」「被ヒ」「疲ヒ」「彼ヒ」「波ハ」「破ハ」

2022年03月28日 | 漢字の音符
 部首「皮かわ」および、ホウを追加しました。
 ヒ・かわ  皮部        

解字 金文は、けものの皮を手(又)で引き剥がしている形。上の口はあたま、それに続くふくらんだ部分は胴で、その下に又(て)がつく。篆文は、けものの部分が「尸の変形+つ」となったが、「つ」は剥がした皮か。現代字は、この部分が変化した形+又(て)=皮となった。けものの皮をはぐと、毛がついた毛皮だが、転じて、ひろく物の表面をおおっているものをいう。なお、毛皮の毛をとり、なめしたものが革となる。
意味 (1)かわ(皮)。体や物の表面をおおうもの。「皮膚ヒフ」「樹皮ジュヒ」「皮膜ヒマク」(皮と膜) (2)うわべ・表面。「皮相ヒソウ」(うわべだけの)
参考 皮は部首「皮かわ」になる。漢字の右辺に付いて皮の意味を表す。常用漢字は1字で部首の皮のみ。他の主な字は以下のとおり。
部首「皮かわ」
 クン・ひび(皮+音符「軍グン」)
 シュウ・しわ(皮+音符「芻スウ」) 
 皰ホウ・にきび(皮+音符「包ホウ」)

イメージ 「かわ」の他、皮をはぐ作業から「はぐ」、毛皮は「表面をおおう」、また薄い皮の表面にしわがよるさまから「なみうつ」、イメージがある。 
 「かわ」(皮・破)  
 毛皮は「表面をおおう」(被)
 「はぐ」(披)
 「なみうつ」(波・婆・跛・疲・簸・頗)
 「その他」(彼・玻)

音の変化  ヒ:皮・披・被・疲・彼  ハ:破・波・跛・簸・頗・玻  バ:婆  ホウ:菠

かわ
 ハ・やぶる・やぶれる  石部
解字 「石+皮(かわ)」の会意形声。尖った石が皮にあたり、皮が破れること。
意味 (1)やぶる(破る)。やぶれる(破れる)。こわす。こわれる。「破壊ハカイ」「破局ハキョク」 (2)道にはずれる。「破戒ハカイ」(戒律を破る) (3)打ち負かす。「撃破ゲキハ」「論破ロンパ」 (4)やりぬく。「読破ドクハ」「走破ソウハ

表面をおおう
 ヒ・こうむる  衤部
解字 「衤(衣)+皮(表面をおおう)」の会意形声。身体の表面をおおう衣で、寝るときに着る夜着をいった。この夜着は身体をおおうので、被う意となる。また、受身の形で用いると「こうむる」(おおわれる)となり、他から受ける害を被害というように用いる。
意味 (1)おおう(被う)。かぶる(被る)。おおいかぶさる。「被膜ヒマク」(物の表面をおおい包んでいる薄い膜)「被服ヒフク」(衣服を着ること。また、衣服をいう)「被衣かずき」(古代に婦人が外出のとき人目をさけるため頭から被った薄い衣) (2)こうむる(被る)。うける。「被害ヒガイ」「被曝ヒバク」「被災ヒサイ

はぐ
 ヒ・ひらく  扌部  
解字 「扌(手)+皮(はぐ)」の会意形声。手ではぐこと。かくれているものをひらいてみせる意となる。
意味 (1)ひらく(披く)。ひろげる。「披見ヒケン」(ひらいて見る)「披露ヒロウ」(おひろめ) (2)あばく。うちあける。「披瀝ヒレキ」(打ち明ける)

なみうつ
 ハ・なみ  氵部
解字 「氵(水)+皮(なみうつ)」の会意形声。なみうつ水。なみ。
解字 (1)なみ(波)。「波浪ハロウ」「波頭ハトウ」「余波ヨハ」 (2)なみのように伝わる。「音波オンパ」「波及ハキュウ
 ホウ・ハ  艸部
解字 「艸(くさ)+波(ホウ)」の形声。ホウという名の草(野菜)。菠薐草ホウレンソウに使われる字。菠薐ホウレンは唐音(鎌倉~江戸時代に伝わった中国音)。もとネパールの地名で、ここから伝わったことから名前がついた。
意味 「菠薐草ホウレンソウ」とは、アカザ科の一、二年草。西アジア原産。野菜として古くから栽培され、葉を食用とする。「法蓮草」とも書く。

 バ・ばば  女部  
解字 「女(おんな)+波(なみうつ)」の会意形声。皮膚がなみうつ女性。
意味 (1)ばば(婆)。年老いた女性。「老婆心ロウバシン」「産婆サンバ」 (2)梵語の音訳字。「塔婆トウバ」(墓)「婆羅門教バラモンキョウ」(古代インドの民族宗教)
 ハ・ヒ  足部
解字 「足(あし)+皮(なみうつ)」の会意形声。身体がなみうつように歩くこと。
意味 (1)片足が不自由なこと。片足をひいて歩く。「跛行ハコウ」「跛鼈千里ハベツセンリ」(鼈はスッポン。足の不自由なスッポンでも千里を歩ける。努力すれば千里の道を行くことができる) (2)かたよる。
 ヒ・つかれる  疒部
解字 「疒(やまい)+皮(ヒ=跛ハ・ヒ)」の形声。ヒは跛ハ・ヒ(片足をひいて歩く)に通じ、疲れて足をひきずること。
意味 つかれる(疲れる)。老いおとろえる。「疲労ヒロウ」「疲弊ヒヘイ」(疲れよわる)
 ハ・ひる  竹部
解字 「箕(み)+皮(なみうつ)」の会意形声。脱穀した穀粒を箕(み)に入れ、手で波打たせるように揺らし、殻(から)やくずを取り除くこと。いわゆる風選である。
意味 (1)ひる(簸る)。あおる。あおりあげる。「簸揚ハヨウ」(あおりあげる)「簸弄ハロウ」(あおるようにもてあそぶ) (2)地名。「簸川ひかわ」(島根県にあった地名。簸川郡・簸川町として続いていたが町村合併で消滅した。なお、出雲平野を簸川平野ともいう)
 ハ・すこぶる  頁部
解字 「頁(あたま)+皮(なみうつ)」の会意形声。頭がなみうつように前後にゆれる意だが、前にゆれたときに傾くので「傾く」意となった。また、「すこし」傾く意から、「すこぶる」(少し振る=すこし・いささか)の訓がついたが、中世以降、「大いに」「かなり」の意味に変化した。
意味 (1)かたむく。 (2)かたよる。公平でない。「偏頗ヘンパ」(かたよる。不公平) (3)すこし。やや。古文での用法。 (4)大いに。非常に。「頗(すこぶ)る付き」(普通の程度以上にすぐれた)

その他 
 ヒ・かれ・かの  彳部  
解字 「彳(ゆく)+皮(ヒ)」の形声。皮には、仮借カシャ(当て字)で「かれ・かの」の意の代名詞に当てる用法が古代にあり、その用法が彳をつけた「彼」の字に継承されている。
意味 (1)かれ(彼)。あの人。第三者。「彼女かのジョ」「彼奴あいつ」「彼我ヒガ」(相手と自分) (2)かの(彼の)。むこうの。「彼岸ヒガン」「彼方かなた
 ハ  王部
解字 「王(玉=貴石)+皮(ハの音)」の形声。ハという名の貴石。
意味 「玻璃ハリ」に用いられる字。玻璃ハリとは、①梵語phalia:sphatikaの音訳字で、仏教の七宝のひとつ。水晶のこと。②ガラスの別称。「玻璃器ハリキ」(ガラスのうつわ)「玻璃鏡ハリキョウ」(ガラス製の鏡)
<紫色は常用漢字>

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音符「艮コン」<後ろを向いて睨みつける>と「根コン」「恨コン」「限ゲン」「銀ギン」「眼ガン」「退タイ」

2022年03月25日 | 漢字の音符
 コン・ゴン・うしとら  艮部        

解字 甲骨文は目を大きく描いた人の形で見ケンと人の向きが反対の字。見ケンが前を向いて見るのに対し、艮コンは後ろを向いて見る形。金文は「限ゲン」から艮コンを抜き出した字形だが、目と後ろ向きの人が離れている。つまり、この人は正面を向かずに後ろ向きになって相手を見ているのである。(甲骨・金文の字形は中国の「漢字源流字典」より)。篆文は現在の目の形に後ろ向きの人が付く。隷書から形が変わり現在は目がすっかり消えた艮になった。この字形をどう解釈するのか。白川氏は[字通]で「艮は邪眼で侵入者がこれをおそれてしりぞく」としている。
邪眼とは何か?
 ウィキペディアで邪眼を検索すると、邪視ジャシが見出しになっており「邪視は世界の広範囲に分布する民間伝承の一つ。悪意を持って相手を睨みつけることにより、対象者に呪いを掛ける魔力。イーヴィルアイ(evil eye)、邪眼(じゃがん)、魔眼(まがん)とも言われる。様々な民族の間でこの災いに対する信仰は形成されている。邪視、邪眼はしばしば魔女とされる女性が持つ特徴とされ、その視線は様々な呪いを犠牲者にもたらす。邪視によって人が病気になり衰弱していき、ついには死に至ることさえあるという。」とあり、関連項目の「サリエル」には「サリエルという大天使は邪視の元祖と目されている。邪視とは一瞥で相手を害する事が出来るもので、見ただけで身動き出来なくさせたり、死に至らしめる」とある。ちなみに、邪視という言葉は博物学者・南方熊楠による訳語であり、彼が邪視という概念を日本に紹介したそうである。
 邪視の事例は中東とヨーロッパを中心に説明されており中国の事例はない。中国語で邪視とは「眼睛(め)を斜めにして看ること。淫(みだら)で邪(よこしま)な目光を用いて看ること」とある。[説文解字]は、艮コンを「很(もと)る也」(そむく・さからう・たがう意)とする。
 艮の音符字は邪視のイメージを用いると、うまく説明することができる。しかし、現在の艮は仮借カシャ(当て字)され、「易の八卦のひとつ」および方角の「うしとら(方角)」の意味で使われる。
意味 (1)とまる。とどまる。 (2)易の八卦の一つ。 (3)うしとら(艮)。北東の方角。鬼門。 (4)もとる。さからう。(=很)
参考 艮は部首「艮こん」になる。漢字の右辺につき「とどまる」意を表すが、艱カンの1字しかない。また、良リョウは形が似ているため便宜的に艮部になっている。多くの漢和辞典で、艮部は艮・艱・良の3字のみが一般的。

イメージ  
 「後ろを向いてにらむ」
(艮・限・垠・很)
 「後ろを向く」(跟・銀)
 にらまれて動けず、その場に「とどまる」(根・恨・齦・痕)
 「同音代替」(眼)
 「同体異字」(退・腿・褪)

音の変化  コン:艮・跟・很・根・恨・痕  ゲン:限  ガン:眼  ギン:垠・銀・齦  タイ:退・腿・褪  

後ろを向いてにらむ 
 ゲン・かぎる  阝部

解字 「阝(かいだん・はしご)+艮(後ろを向いてにらむ・邪眼)」の会意形声。聖所へ上がる階段の下に、邪眼を配置してにらみをきかせ、邪悪が入りこまないようにすること。金文は目が人から離れて見張っている。階段の下で、くぎる・かぎる意となる。
意味 (1)かぎる(限る)。くぎる。「限定ゲンテイ」「制限セイゲン」 (2)さかいめ。はて。「限界ゲンカイ」「限度ゲンド
 ギン・かぎり・はて   土部
解字 「土(とち)+艮(=限の略体。意味②の、はて・さかいめ)」の会意形声。土地のはて、はるかかなたのさかいめの意味となる。発音はゲン⇒ギンに変化。
意味 (1)はて。かぎり。限界。「垠際ギンザイ」(はて)「無垠ムギン」(はてがない)「一望無垠イチボウムギン」(一目でかなたまで広々と見渡されること) (2)丘の末端や続いた平地のさかい目。「垠岸ギンガイ」(そびえたつがけ)

後ろをむく
 コン・かかと  足部
解字 「足(あし)+艮(後ろをむく)」の会意形声。人が後ろを向いたとき、足の後ろは、かかとになる。また、かかとに付いて行く意となる。
意味 (1)かかと(跟)。くびす。きびす。 (2)したがう。人のあとについていく。「跟随コンズイ」(人の後について行く。=跟従)
 ギン・しろがね 金部
解字 「金(きん)+艮(=跟。あとにつく)」の会意形声。金のあとに従う銀。金の次に位置する銀の意。
意味 (1)ぎん(銀)。しろがね(銀)。「銀箔ギンパク」 (2)銀に似た色。「銀河ギンガ」(天の川)「銀幕ギンマク」(映画のスクリーン) (3)お金。「銀貨ギンカ
 コン・もとる  彳部
解字 「彳(路上)+艮(後ろをむく)」の会意形声。彳は十字路(行)の左半分で、ここでは路上の意、很は、路上で相手に対し後ろを向くことから、さからう・したがわない意となる。
意味 (1)もとる(很る)。たがう。さからう。したがわない。人の言うことをきかないでさからう。「很戻コンレイ」(ねじけさからう)「傲很ゴウコン」(傲慢にさからう) (2)あらそう。 (3)はなはだ。

とどまる
 コン・ね  木部
解字 「木(き)+艮(とどまる)」の会意形声。土の中にいつまでもとどまる木の根。
意味 (1)ね(根)。草木の根。「球根キュウコン」 (2)物のねもと。おおもと。「根源コンゲン」「根本コンポン」 (3)がんばり。気分。「根気コンキ」「精根セイコン
 コン・うらむ・うらめしい  忄部
解字 「忄(心)+艮(=根。ね)」の会意形声。いつまでも心に根をもつこと。
意味 うらむ(恨む)。うらめしい(恨めしい)。「遺恨イコン」(恨みを残す)「痛恨ツウコン
 ギン・コン  歯部
解字 「歯の旧字(は)+艮(=根。ね) の会意形声。歯の根元の意で、はぐきをいう。
意味 (1)はぐき(齦)。歯の根を含む歯肉をいう。「歯齦シギン」(はぐき) (2)かむ。
 コン・あと  疒部
解字 「疒(やまい)+艮(とどまる)」 の会意形声。身体にいつまでも残る傷の跡。
意味 (1)あと(痕)。きずあと。「刀痕トウコン」「傷痕ショウコン」 (2)あと(痕)。あとかた。「痕跡コンセキ」「墨痕ボッコン」(すみのあと。筆のあと)

同音代替
 ガン・ゲン・め・まなこ  目部
解字 「目(め)+艮(ガン)」の形声。ガンは丸ガン(まるい)に通じ、まるい目、すなわち目玉・眼球をいう。
意味 (1)め(眼)。まなこ(眼)。めだま。まなざし。「眼光ガンコウ」「眼下ガンカ」「開眼カイゲン」(新たにできた仏像や人形に目を描きいれ魂を迎えいれること) (2)目のようにまるい。「銃眼ジュウガン」(城壁などに開けた射撃用の穴)「方眼紙ホウガンシ

同体異字
退 タイ・しりぞく・しりぞける  之部

解字 甲骨文は「食器+夊(下向きの足)」で、食器をもち出てくる形。でる・しりぞく意。金文から彳(ゆく)が付いて出る意を強めた形。篆文は食器⇒日に変化し、さらに隷書(漢)で彳⇒辶に変化した。現代字は「食器+夊」⇒艮に変化した退になった。字形の変化が激しいので艮コンとからめて覚えると便利。
覚え方 「(ゆく)+(後ろを向く)」の会意。後ろを向いてゆく。つまり、後ずさりして退(しりぞ)くこと。 
意味 (1)しりぞく(退く)。ひきさがる。あとずさりする。「退却タイキャク」 (2)やめる。身をひく。「退位タイイ」「退職タイショク」(3)しりぞける(退ける)。とおざける。「退治タイジ」「撃退ゲキタイ」 (4)おとろえる。すたれる。「退化タイカ」「衰退スイタイ」「退色タイショク」(=褪色)
 タイ・もも  月部にく
解字 「月(からだ)+退の旧字(あとずさりする)」の会意形声。腰を落としてあとずさりするとき曲げる身体の部分である足のくるぶしから股のつけねまでをいう。
意味 もも(腿)。脚のつけねから、くるぶしまでの総称。「大腿ダイタイ」(ふともも)「大腿骨ダイタイコツ」(ふとももの骨)「下腿カタイ」(膝から足首までの部分)「下腿骨カタイコツ
 タイ・あせる・さめる  衤部ころも
解字 「衤(ころも)+退の旧字(おとろえる)」の会意形声。衣の色がおとろえてくること。すなわち、色があせること。
意味 (1)あせる(褪せる)。色があせる。さめる(褪める)。「褪色タイショク=退色」「褪紅色タイコウショク」(淡い紅色。=退紅色)(2)衣服をぬぐ。
<紫色は常用漢字>

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音符「票ヒョウ」<まいあがる>と「標ヒョウ」「漂ヒョウ」

2022年03月22日 | 漢字の音符
 ヒョウ・慓ヒョウを追加しました。
 ヒョウ・ふだ  示部  

解字 篆文の上段は「上からの両手+左右の両手」(発音ヨ)の形。四つの手で持ち上げる意がある。それに囟シン(ここは発音のみ表す)がつき、発音がセンに変化したのが右横の𢍱セン(この字は上の両手の向きが下から出ているが意味は同じ)になった。この字は下部の両手が廾に変化している。上方にあがる意味がある。
 下段は「𢍱セン+火」だが、センの廾は横の一に変化した。現代字は上の「両手+囟シン」が覀になり、下の「一+火」⇒示に変化した票になった。意味は、火が勢いよく上にあがること。転じて舞い上がるように軽く薄い札の意味を表す。
覚え方 (にし)に(しめす)(ひょう)
意味 (1)ふだ(票)。書きつけ用の紙片。手形・切手・証券など。「伝票デンピョウ」 (2)選挙などに用いるふだ。「投票トウヒョウ」「票決ヒョウケツ」 (3)かるい。ひるがえる。「票然ヒョウゼン」(ただよって定まらないさま=飄然)

イメージ 
 「まいあがる・高くあがる」票・飄・標
  まいあがる意から「かるい」剽・嫖・慓・驃
  まいあがる意から「うく」漂・縹・瓢・鰾
音の変化  ヒョウ:票・標・飄・剽・嫖・慓・驃・漂・縹・瓢・鰾

まいあがる・高くあがる
 ヒョウ・つむじかぜ・ひるがえる  風部
解字 「風(かぜ)+票(まいあがる)」の会意形声。まいあがる風。
意味 (1)つむじかぜ(飃)。はやて。「飄風ヒョウフウ」(急に吹きあがる風。つむじ風) (2)ひるがえる(飄る)。舞いあがる。「飄々ヒョウヒョウ」(①風にひらひらとひるがえる。②つかまえどころのないさま) (3)ふらふらとさまよう。「飄然ヒョウゼン」(さすらうさま。ふらりと来て、ふらりと去る)「飄逸ヒョウイツ」(世俗を離れてのんびりとしているさま)
 ヒョウ・しるし・しるべ・しめ  木部
解字 「木(き)+票(たかく上がる)」の会意形声。木の高いところ。遠くから大きな木の梢(こずえ)をめじるしとするので、転じて、高く目につく目印の意味を表す。
意味 (1)しるし(標)。しるべ(標)。めじるし。しめ(標)。「標識ヒョウシキ」(他と識別できるめじるし)「商標ショウヒョウ」 (2)まと。めあて。「標的 ヒョウテキ」「目標モクヒョウ」 (3)しるす(標す)。あらわす。書きしるす。「標榜ヒョウボウ」(標は、しるす意、榜は、たてふだ。①立て札に善行をしるすこと。②主義・主張などを立て札にして掲げる)

かるい
 ヒョウ・かすめる・おびやかす  刂部
解字 「刂(刀)+票(かるい)」の会意形声。刃物でかるくそぎ取ること。
意味 (1)かすめる(剽める)。表面をさっとそぎとる。他人のものをさっとかすめとる。「剽窃ヒョウセツ」(他人の詩歌・文章などを盗みとって自分の作品として発表すること) (2)かるい。すばやい。「剽悍ヒョウカン」(すばやくて強い)「剽軽ヒョウケイ」(身軽ですばやい)「剽軽ヒョウキン」(明るく滑稽な) (3)おびやかす(剽かす)。おどす。「剽盗ヒョウトウ」(おいはぎ。おどして盗む)
 ヒヨウ・かるい  女部
解字 「女(おんな)+票(=剽。かるい)」の会意形声。意味は二つあり、①女の身がかろやか。すばやい。②遊女とあそぶ。女色におぼれる。
意味 (1)かるい(嫖い)。かろやか。すばやい。「嫖姚ヒョウヨウ」(軽くすばやいさま) (2)女色におぼれる。「嫖客ヒョウカク」(遊女とあそぶ客)「嫖子ヒョウシ」(遊女)
 ヒョウ  忄部
解字 「忄(こころ)+票(=剽。かるい)」の会意形声。心がかるいこと。心がかるいと身もすばやく、かるくなる。
意味 すばやい。かるい。「慓悍ヒョウカン」(すばやくあらあらしい。=剽悍)「慓疾ヒョウシツ」(すばやい)
 ヒョウ・しらかげ  馬部
解字 「馬(うま)+票(=剽。かるい・すばやい)」 の会意形声。動作が軽くすばやい馬。特に、白いまだらのある黄色い馬をいう。
意味 (1)馬が軽々と駆けてゆくさま。 (2)しらかげ。白いまだらのある黄色の馬。「黄驃コウヒョウ」(白いまだらのある黄色い馬で、馬頭に白毛がある。得難い名馬)「赤驃あかかげ」(毛色が赤みがかった茶褐色の馬)「逸驃イツヒョウ」(駿馬) (3)「驃騎ヒョウキ」(漢代の将軍の名称の一つ。驃騎将軍の略) (4)つよい。いさましい。

うく
 ヒョウ・ただよう  氵部
解字 「氵(水)+票(うく)」の会意形声。水に浮く意で、浮いてただようこと。また、水にさらす意ともなる。
意味 (1)ただよう(漂う)。流れにうかぶ。さまよう。「漂流ヒョウリュウ」「漂着ヒョウチャク」「漂泊ヒョウハク」(あてもなくさまよう) (2)水にあらう。さらす。水や薬品で白くする。「漂白ヒョウハク
 ヒョウ・はなだ  糸部
解字 「糸(ぬの)+票(=漂。さらす)」の会意形声。藍の生葉をすりつぶし水にといた青汁に漬けて染めた絹のぬの。淡い藍色を呈するので、はなだ色という。また、飄ヒョウ(ひるがえる)に通じ、ひるがえる意がある。
意味 (1)はなだ(縹)。はなだいろ。薄い藍色。「縹色はなだいろ」「縹草はなだぐさ」(ツユクサの異称)「縹帙ヒョウチツ」(はなだ色の本包み)(2)はなだ色の絹。(3)ひるがえる。「縹飄ヒョウヒョウ」(ひるがえるさま)(4)「縹渺・縹緲ヒョウビョウ」とは、①遠くかすむさま。②はるかに広いさま。
 ヒョウ・ひさご  瓜部
解字 「瓜(うり)+票(うく)」の会意形声。水に浮く瓜。ひょうたんのこと。
意味 (1)ひさご(瓢)。ふくべ。ひょうたん。「瓢箪ヒョウタン」(①ウリ科の一年草の瓜。②その果実の中身を除いて乾燥させ器としたもの。水や酒を入れる) (2)ユウガオ・ヒョウタン・トウガンなどの総称。「干瓢カンピョウ」(ユウガオの果肉を薄く長くむいて干した食品)
 ヒョウ・うきぶくろ  魚部
解字 「魚(さかな)+票(うく)」の会意形声。魚の浮き袋をいう。
意味 うきぶくろ(鰾)。魚の浮き袋。ふえ(鰾)。「鰾膠ヒョウコウ」(魚の浮袋を原料にした、にかわ。粘着力が強い。にべ。)
<紫色は常用漢字>

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音符「央オウ」<まんなか>と「英エイ」「映エイ」

2022年03月19日 | 漢字の音符
 オウ・秧オウを追加しました。
 オウ・なかば  大部

解字 甲骨文は正面を向いた人(大)の首に凵 形の枷(かせ)をはめた形の象形。金文から頭と枷がH形に変化し、さらに篆文での変化をへて現代字の央になった。人の頭が首かせの中央にあることから中央の意を表わす。また、殃オウ(わざわい)の原字でもあることから、尽きる意がある。
意味 (1)なかば(央ば)。真ん中。「中央チュウオウ」「震央シンオウ」(地震の起きた真上の地点) (2)(首かせをはめられ死ぬことから)つきる(央きる)。やむ。「未央ビオウ」(尽きない)

イメージ 
 「まんなか」
(央・英・霙・瑛・鴦)
 「くびかせをはめる」(殃・鞅・怏)
 「同音代替」(映)
 「その他」(秧)
音の変化  オウ:央・鴦・殃・鞅・怏・秧  エイ:英・霙・瑛・映

まんなか
 エイ・はなぶさ  艸部
解字 「艸(くさ)+央(まんなか)」の会意形声。葉から分化した花びらとその中央にある花芯からなる美しい花のこと。転じて、うつくしい・すぐれた意となる。
意味 (1)はな(英)。はなぶさ(英)。うつくしい。「英華エイカ」(美しい木や花) (2)ひいでる(英でる)。すぐれている。すぐれた人物。「英才エイサイ」「英傑エイケツ」「英雄エイユウ」「英断エイダン」 (3)国名。英吉利(イギリス)の略。「英語エイゴ」「英訳エイヤク
 エイ・みぞれ  雨部
解字 「雨(あめ)+英(はな)」 の会意形声。雪がとけて、花(英)のような雨となって降るもの。
意味 (1)みぞれ()。雪が空中でとけてふんわりとした雨のようになって降ってくるもの。 (2)みぞれ()。かき氷のメニューのひとつ。氷を削って雪のようにして蜜をかけたもの。 (3)「みぞれざけ」とは、麹(こうじ)がみぞれのように浮かんでいる酒。
 エイ  王部
解字 「王(玉)+英(はな。うつくしい)」 の会意形声。美しい玉。また映エイ(照りはえる)に通じ、玉の光をいう。
意味 美しい透明な玉。玉の光。「玉瑛ギョクエイ」(水晶の別称)「瑛瑶エイヨウ」(瑛も瑶も、美しい玉の意)
 オウ・おしどり  鳥部
 鴛鴦 (左がオス、右がメス)
解字 「鳥(とり)+央(まんなか)」 の形声。水鳥の背のまんなかが少しふくれた鳥。「鴛鴦エンオウ・おしどり」に使われる字。背のくぼんだ鴛エンがオス鳥(夗エンに、くぼんで曲がる意がある)、背がふくれた鴦オウがメス鳥をさす。
意味 「鴛鴦おしどり・エンオウ」とは、カモ科の水鳥の一種。おしどり。雄は後方のイチョウ葉形の羽が立つので背がくぼんで見える。逆に雌は、背がくぼまずふっくらとしている。雄雌むつまじく離れないので、夫婦仲のむつまじいことに例える。「鴛鴦夫婦おしどりふうふ」 

くびかせをはめる
 オウ・わざわい  歹部
解字 「歹(しぬ)+央(くびかせをはめる)」 の会意形声。首かせをはめた人が、それによって死にいたること。
意味 わざわい(殃い)。とがめ。災厄。「殃禍オウカ」(殃も禍も、わざわいの意)「殃咎オウキュウ」(わざわいととがめ)
 オウ・むながい  革部

鞅 むながい | Home Sweet Home (ameblo.jp)
解字 「革(なめしがわ)+央(くびかせをはめる)」 の会意形声。馬の首につける(首かせをはめたようにみえる)革ひも。
意味 (1)むながい(鞅)。むなかき(胸掛き)の変化した語。馬の首下から鞍にかけわたす革ひも。鞍が移動するのを防ぐ馬具。 (2)(むながいを付けて)せわしく働く。「鞅掌オウショウ」(せわしく働いて暇のないこと。背で担い手にも持つ) (3)人名。「商鞅ショウオウ」(中国・戦国時代の政治家)
 オウ  忄部
解字 「忄(こころ)+央(くびかせをはめる)」の会意形声。くびかせをはめられ心でうらむこと。
意味 (1)うらむ。「怏怏オウオウ」(心ふさぎうらむ)「怏恨オウコン」(怏も恨も、うらむ意) (2)気がふさぐ。「怏然オウゼン」(心たのしまぬさま)「怏意オウイ」(気がふさぐ)

同音代替
 エイ・うつる・うつす・はえる  日部
解字 「日(ひ)+央(エイ)」 の形声。エイは影エイ(かげ)に通じ、日光によって明暗の境目や形が生じること。
意味 (1)うつる(映る)。光や色が反射する。「反映ハンエイ」 (2)うつす(映す)。影を出す。像をうつしだす。「上映ジョウエイ」「映像エイゾウ」 (3)はえる(映える)。照りはえる。反射する。

その他
 オウ・なえ  禾部
解字 [字通]は秧の説明の前文に「央は人に首枷を加えた正面形で、わずかに頭部のあらわれる意がある」としている。私はこの説を拝借して解字させていただく。
 秧は「禾(いね)+央(くびかせから頭部が現れている形)」の会意形声。禾(稲)の芽が地上にわずかに出たさまを、央オウ(くびかせから頭部が現れている形)に例えて稲の苗をいう。
意味 (1)なえ(秧)。「秧針オウシン」(稲の苗がはじめて出る)「秧田オウデン」(苗代)「秧苗オウビョウ」(稲の苗)「秧鶏オウケイ」(クイナ。水鶏。水田などに生息することから) (2)なえを植える。「秧歌オウカ」(中国農村の田植え歌。豊年を祈る祭りや、さらに一般娯楽として盛んに行われた。歌と踊りからなる)
<紫色は常用漢字>

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音符「父フ」<オノを手にもつ>「釜フ」と「布フ」<ぬの>「怖フ」 

2022年03月16日 | 漢字の音符
音符「父フ」と「布フ」は、オノの柄の先の刃の部分を持つという点で共通点がある。オノの刃を持つとは、どういうことなのか? また、オノの刃のようなものを持って何をするのか?

    フ <おのをもつ>
 フ・ちち  父部        
[漢字演変五百例]の父より

解字 図版[漢字演変五百例]の父は石器の斧(おの)を手に持つ形で、甲骨文と金文はこれを描いたもの。篆文は石斧と手が連続したが、現代字は逆にそれぞれが離れたかたちの父になった。斧は石器時代より、道具や武器である石斧(せきふ)として存在した。精巧に作られた戦いの斧は、儀式の道具として重要性を持っており、またその所有者の地位の高さを示したと考えられる。父の字は、斧の刃を手に持つ形で、工作をしたり家族をまもる父親の意味に加え、身分や地位の高さを示したもの。一族・一家の長の意となった。
意味 (1)ちち(父)。ちちおや。「父兄フケイ」「父祖フソ」「父系フケイ」 (2)親族中の年長の男子「伯父ハクフ」 (3)男性の尊称。「神父シンプ」(カトリック教会の司祭)
参考 父は部首「父ちち」になる。しかし、常用漢字は「父」のみ。それ以外の主な字に、爺(父+音符「耶ヤ」)がある。

イメージ 
 「おのを持つ」
(父・斧) 
 「同音代替(フ)」(釜)
音の変化   フ:父・斧・釜

おのを持つ
 フ・おの  斤部
解字 「斤(おの)+父(おのをもつ)」の会意形声。斤(おの)と、おのを持つ形を合せた字。父が一家の長の意となったので、この字で本来のオノを表した。
意味 (1)おの(斧)。まさかり。「斧斤フキン」(おのやまさかり)「石斧セキフ」「手斧チョウナ・ておの」 (2)おので切る。

同音代替(フ)
 フ・かま  金部
解字 「金(金属)+父(フ)」の形声。父の下部と、金の上部は重なっている。父の発音フは、に通じる。は、「鬲レキ(かま)+甫(フ)」の形声で、フという名のかま。釜は、金属製の父(=。かま)の意。は釜と同字とされている。
意味 (1)かま(釜)。かまどに置いて飲食物を煮る道具。鍋より底が深く周囲につばがある。「釜中フチュウ」(かまの中)「釜座かまんざ」(鋳物師の同業組合)「釜飯かまめし」「釜中フチュウの魚うお」(釜の中で今にも煮られようとする魚。死の迫っている例え。釜魚) (2)春秋戦国時代の量の単位。1釜は6斗4升(周代で約12.8リットル)をいう。またその量器。

<参考>
 ヤ・じじ・じい  父部
解字 「父(ちち)+耶(ヤ)」の形声。父をヤと呼ぶこと。父親を呼ぶ俗称として用いられた。のち、老人の尊称としても使われる。この字の音符は耶ヤ。
意味 (1)ちち。父の俗称。「阿爺アヤ」(お父さん。阿は親しみの気持ちを表す接頭語) (2)じじ(爺)。じい(爺)。老人の尊称。祖父。「お爺(じい)さん」「爺爺ヤヤ」(祖父) (3)[国]「親爺おやじ」(=親父・親仁)とは、①自分の父を親しんで呼ぶ語。②親方。親分。店の主人などを親しんで呼ぶ語。③年取った男性を指していう語。
※音符は耶ヤであるが、参考のため重出した。
<紫色は常用漢字>


   フ <きぬたで打ったぬの>
 フ・ぬの  巾部

解字 「巾(ぬの)+父(木づちをもつ手)」の会意形声。父の字が持っているのは、ここでは木の槌。これを持って巾(ぬの)をうち、なめらかにして肌触りをよくすること。植物の繊維で織った布は織り目が堅くて肌になじまないので、こうした作業が必要であった。「父」はオノの刃を持つ形なので、古くはまるい石斧のようなものを槌として使っていたのかもしれない。布は、古くは麻布や葛布(くずふ)を意味した。現代字は、父 ⇒ ナに変化している。

きぬた(砧)打ち(歌川広重画『諸国六玉川 拙津擣衣』(部分)より) 
意味 (1)ぬの(布)。麻や葛などの繊維の織物。また、織物の総称。「布衣フイ」(木綿や麻の着物、庶民のこと)「布団フトン」(蒲団フトンの当て字。中に綿などを入れて布地でくるんだ寝具や座り具)「布巾フキン」(食器類を拭く小さな布) (2)布をしく。ひろげる。「布陣フジン」(戦いの陣をしく)「散布サンプ」(ふりまく) (3)広く行き渡らせる。「布教フキョウ」「流布ルフ

イメージ 
 「ぬの」
(布)
  布をひろげると下に「ぴたりとつく」(怖)
音の変化  フ:布・怖

ぴたりとつく
 フ・こわい  忄部
解字 「忄(心)+布(ぴたりとつく)」の会意形声。ぴたりと後ろから何者かに付かれているような感じを抱くこと。
意味 こわい(怖い)。こわがる。おそれる(怖れる)。おじける(怖じける)。「恐怖キョウフ」「畏怖イフ」(おそれおののく)「怖気おじけ」「怖々こわごわ
<紫色は常用漢字>

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音符 「啚ヒ」 <穀物倉のある領地> 「鄙ヒ」「図ズ」 と 「稟リン」<穀物倉>

2022年03月13日 | 漢字の音符
 ヒ 口部

解字  甲骨文字は「囗(区画した地域)+(屋根)+左右二つのふくらみ」の形。屋根の下の二つのふくらみは厚い壁を表し、屋根と併せて穀物倉を表す。上についた囗(区画した地域)は、この穀物倉に穀物を収める地域を表す。金文は区画した地域が〇になり、穀物倉がかなり変形した。篆文は「囗(区画した地域)+亠(やね)+回(厚い壁)」となり、現代字の啚となった。
 農村の支配者は、領地の農民が収穫した穀物を保管する穀倉を必要とした。そこで一定の農家戸数ごとに倉を作って管理した。啚は穀物倉のある農村の領地の意。鄙の原文。
意味 穀物倉のある農村の領地(=鄙)。金文に「都啚トヒ」(=都鄙。みやこといなか)の用例がある。

イメージ 
 「穀物倉のある農村の領地」(啚・鄙・図)
音の変化  ヒ:啚・鄙  ズ・ト:図

穀物倉のある農村の領地
 ヒ・ひな・いやしい  阝部
解字 「阝おおざと(村・行政区画)+啚(穀物倉のある農村の領地)」の会意形声。穀物倉のある農村の領地である行政区画のむら。殷の次の周代になると、鄙は500戸の集落を言った。かなり大きなむらであるが都からみると田舎なので、いなかの意となった。
意味 (1)ひな(鄙)。いなか。さと。「辺鄙ヘンピ」(かたいなか)「鄙語ヒゴ」(いなか言葉) (2)いやしい。「鄙吝ヒリン」(心がいやしくて物惜しみする) (3)自分を謙遜していう。「鄙見ヒケン」(つまらない考え)
[圖]ズ・ト・はかる  囗部
解字 旧字はで、「囗(全体の範囲)+啚(穀物倉のある農村の領地)」 の会意。穀物倉のある農村の領地の全体(囗)を図面で示した形で地図のこと。農村の領地の地図は支配する者にとって基本となるものだった。領地の境界などをはっきりさせるため、①領地の確定を計画(意図)し、紙面に図を書きこむこと。また、②出来た地図をいう。のち、農村だけでなく都市図・道程図・版図(領土の地図)などが作られた。新字体は⇒図に簡略化された。
意味 (1)はかる(図る)。考える。計画。「意図イト」「企図キト」 (2)ず(図)。ずめん。え。「図表ズヒョウ」「地図チズ」 (3)書物・本。「図書館トショカン


    リン <こめぐら>
稟[禀] リン・ヒン・うける  禾部 

解字 金文は「穀物倉+禾(いね)」で、実った稲を保管する穀物倉(こめぐら)。篆文は「亠(やね)+回(厚い壁)+禾(いね)」のになり、これが現在に続いている。この字の原義は米蔵(こめぐら)だが、米蔵から俸給としてもらう米の意から、うける(ける)・さずかる意となり、さらに転じて生れつきの資質をさずかる意となる。また、さずかる意から、さずけた者に対し謝意などを「申し上げる」意ともなる。禀は下部を禾⇒示に変えた異体字。
意味 (1)こめぐら。 (2)こめぐらから給料として与える米。ふち(扶持)。「稟給ヒンキュウ」(俸給) (3)うける(ける)。さずかる。「稟賦ヒンプ」(生れつき与えられた)「稟性ヒンセイ」(生れつき。天性) (4)申し上げる。「稟議リンギ・ヒンギ」(申し上げる形の審議。担当者が文案を回覧して承認を得ること)「稟申リンシン・ヒンシン」(申し上げる。上申)

イメージ  
 「こめぐら(転義)」(稟)
 「こめぐら」(廩・凛・懍)
音の変化  リン:稟・廩・凛・懍

こめぐら
 リン・くら  广部
解字 「广(やね)+稟(こめぐら)」の会意形声。稟(こめぐら)が、うける(稟ける)や申し上げる等の意味で使われるようになったので、广(やね)をつけて本来の意味をあらわした。
意味 (1)くら()。こめぐら。「倉廩ソウリン」「廩囷リンキン」(くら。方形を、円形を囷という) (2)ふち(扶持)。給料として与える米。(=稟)「廩給リンキュウ」(=俸給)「廩食リンショク」(官から支給される俸禄のこと)「黄衣廩食コウイリンショク」(黄衣は宦官が着る服。俸禄を支給され宮中に仕える役人の宦官のこと) (3)あつまる。あつめる。
凜[凛]リン  冫部
解字 「冫(こおり)+稟(こめぐら)」の会意形声。米ぐらの周辺が寒気におおわれること。寒さがきびしい意となり、転じて、寒さで身や心がひきしまる意ともなる。凛は異体字。
意味 (1)さむい。寒さがきびしい。「凜冽リンレツ」(寒気が厳しいさま)「凜気リンキ」(冷気) (2)りりしい。身や心がひきしまる。「凜(りん)と」(①しっかりとした態度。②音や声がよくひびくさま)「凜凜リンリン」(勇ましく勢いがあるさま。寒さで身がひきしまるさま)
 リン・おそれる  忄部
解字 「忄(こころ)+稟(=凛。寒さがきびしい)」の会意形声。きびしい寒さに心が引き締まること。転じて、おそれる意となる。
意味 (1)つつしむ。身や心が引き締まる。「懍懍リンリン」(①つつしむ。②おそれつつしむ) (2)おそれる(懍れる)。「懍慄リンリツ」(①寒くてふるえる。②おそれおののく)
<紫色は常用委漢字>

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音符「頁ケツ」<あたま>と「煩ハン」「寡カ」

2022年03月10日 | 漢字の音符
 部首「頁おおがい」の全部の常用漢字を追加しました。
 ケツ・かしら・ページ   頁部

解字 甲骨文は、「あたま(首)+ひざまずいた人」の会意。あたま(首)は3本の毛が生え、目玉が描かれており、甲骨文の首と同じ形。これに、ひざまずいた人を加えた頁は、ひざまずいた人の頭部を強調 した字。金文は目玉がタテの目に近い形になり、そこから延びた線に3本の毛が生える。篆文から毛が省略され下部は人(儿)の形になった。現代字は下部が、儿⇒ハに変化した頁ケツになった。頁は頭部を大きく描 いているため頭の意となる。また、近代中国の発音で葉 yè と頁 yè の発音が同じで、葉が紙などを数える語となることから、本のページの意で使われる。頁は音符とならず、ここに収録した字は会意のため発音はバラバラである。部首としての働きがメインの字。
意味 (1)かしら(頁)。あたま。こうべ。 (2)ページ(頁)。書物の紙面で、その片面。また、それを数える語。「頁数ページスウ」 (3)「頁岩ケツガン」(堆積岩のひとつ。泥が固まった岩石)
参考 ケツは、部首「頁おおがい」になる。ほとんどの場合、漢字の右側(旁つくり)に付き、あたま・かお・ひざまずく人などの意を表す。約14,600字を収録する『新漢語林』では95字が収録されている。
常用漢字 22字 
 ガク・ひたい(頁+音符「客キャク」)
 ガク・あご(頁+音符「咢ガク」)
 ガン・ねがう(頁+音符「原ゲン」)
 ガン・かお(頁+音符「彦ゲン」)
 ガン・かたくな(頁+音符「元ゲン」)
 キョウ・ほお(頁+音符「夾キョウ」)
 ケイ・ころ(頁+ヒの会意)
 ケン・あきらか(頁+音符「显ケン」)
 コ・かえりみる(頁+音符「雇コ」)
 コウ・うなじ(頁+音符「工コウ」)
 シュ・すべからく(頁+音符「彡サン」)
 ジュン・すなお(頁+音符「川セン」)
 ダイ(頁+音符「是シ」)
 チョウ・いただき(頁+音符「丁テイ」)
 トウ・あたま(頁+音符「豆トウ」) 
 トン・ぬかずく(頁+音符「屯トン」) 
 ハン・わける(頁+音符「分ブン」) 
 ヒン・しきりに(頁+歩の会意)
 ヨ・あずける(頁+音符「予ヨ」)
 頼[賴]ライ・たのむ(頁+束の会意)
 リョウ・おさめる(頁+音符「令レイ」)
 ルイ・たぐい(頁を含む会意) 
常用漢字以外
 カ・つぶ(頁+音符「令レイ」) 
 ガン・うなずく(頁+音符「含ガン」)
 ケイ・くび(頁+音符「巠ケイ」)
 ハ・すこぶる(頁+音符「皮ヒ」)ほか
 ※以上のうち、頃ケイ・須シュ・賴ライは音符になる。

イメージ  
 「あたま」
(頁・煩)
 「ひざまずくひと」(寡)
音の変化  ケツ:頁  カ:寡  ハン:煩

あたま
 ハン・ボン・わずらう・わずらわす  火部
解字 「火(ひ)+頁(あたま)」の会意。頭の中で火がもえるように、いらいらすること。
意味 (1)わずらわしい(煩わしい)。わずらわす(煩わす)。うるさい(煩い)。面倒くさい。「煩雑ハンザツ」「煩悶ハンモン」(わずらいもだえる)「煩悩ボンノウ」(人を煩わせ悩ませる一切の妄想) (2)[国]わずらう(煩う)。病気になる。「長く煩う」

ひざまずくひと
 カ・やもめ・すくない  宀部  

解字 篆文は、「宀(たてもの=家)+頁(ひざまずくひと)+分(わける)」の会意。家の中にいる分けられた頁ケツ(ひざまずく人)の意で、夫と分けられ(夫が死別し)家の中に一人でひざまずいている人の意。夫と死別 した婦人を表す。現代字は、頁の下部のハが略され、代わりに下の横線が長くなる。
意味 (1)やもめ(寡)。夫を亡くした女。「寡婦カフ」(夫に死なれた女性)「寡夫カフ」(男やもめ) (2)すくない(寡い)。少人数。「寡占カセン」「寡黙カモク」 (3)自分を謙遜していう語。「寡学カガク」「寡徳カトク
<紫色は常用漢字>

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音符 「日ニチ」 <太陽> と 「捏ネツ」

2022年03月07日 | 漢字の音符
 ニチ・ジツ・ひ・か  日部

解字 太陽の形の象形。中に短線を加えて実体があることを示している。太陽のほか日中や日数の意味などがある。また、日は部首になり、太陽や光、日中、一日などを表す意符となって用いられる。
意味 (1)ひ(日)。太陽。「日光ニッコウ」「落日ラクジツ」 (2)ひるま。「日中ニッチュウ」「日夜ニチヤ」 (3)いちにち。ひにち。ひごと。「一日ついたち」「三日みっか」「日給ニッキュウ」「日常ニチジョウ」「本日ホンジツ
日は部首「日にち」になる。漢字の偏(左辺)や冠(上部)・脚(下部)につき太陽・日光・一日などを表す。常用漢字は38字あり以下のとおり。
日(部首)
 曖アイ(日+音符「愛アイ」
 暗アン(日+音符「音オン」)
 映エイ(日+音符「央オウ」)
 旺オウ(日+音符「王オウ」)
 暇カ(日+音符「叚カ」)
 暁ギョウ(日+音符「尭ギョウ」)
 昨サク(日+音符「乍サ」)
 暫ザン(日+音符「斬ザン」)
 時ジ(日+音符「寺ジ」)
 暑ショ(日+音符「者シャ」)
 昇ショウ(日+音符「升ショウ」
 昭ショウ(日+音符「召ショウ」)
 晴セイ(日+音符「青セイ」)
 暖ダン(日+音符「爰エン」)
 曇ドン(日+音符「雲ウン」)
 晩バン(日+音符「免メン」)
 暮ボ(日+音符「莫バク」)
 昧マイ(日+音符「未ミ」)
 曜ヨウ(日+音符「翟テキ」
 暦レキ(日+音符「歴レキの略」)
会意字
 旧キュウ・晶ショウ・昼チュウ
音符となる字
 易エキ・景ケイ・昆コン・旨シ・是シ・春シュン・旬ジュン・星セイ・昔セキ・早ソウ・旦タン・暴ボウ・明ミン

イメージ 
 「ひ・ひごと」
(日・衵)
 「形声字」(捏・涅・汨)
音の変化  ニチ・ジツ:日・衵  デツ:涅  ネツ:捏  ベキ:汨 

ひ・ひごと
 ジツ・ニチ・あこめ  衣部
解字 「衤(ころも)+日(ひごと・日々)」の会意形声。日々、常に着る衣服の意で、ふだん着をいう。日本では、公家装束の内着をいう。
意味 (1)ふだん着。 (2)じゅばん。女性のじゅばん。はだぎ。「衵服ジツフク」(女性のはだぎ) (3)[国]あこめ(衵)。①公家の男女の装束の内着。上の衣(きぬ)と下の単(ひとえ)の間につける。「衵袴あこめばかま」(あこめをつける時、つけるはかま)②童女が上の衣(きぬ)と肌着との間に着る衣服。「衵衣あこめぎぬ
  
形声字
 ネツ・デツ・こねる・つくねる  扌部
解字 「扌(手)+土(つち)+日(ニチ・ジツ)」の形声。やわらかい土を手の指でこねること。日ニチ・ジツは発音を受け持ち、転音したネツ・デツが音を表す。
意味 (1)こねる(捏ねる)。つくねる(捏ねる)。やわらかい土を手指でこねる。「捏ね芋つくねいも」(ヤマノイモの変種。指でつくねたような形をしている) (2)(指で)はさむ。つまむ。 (3)でっちあげる。「捏造ネツゾウ」(事実でないことを事実のようにこしらえて言う)
覚え方 (手)で、一(いち)(つち)、(こ)ね ネツゾウ
 デツ・ネツ・ネ  氵部
解字 「氵(水)+土(つち)+日(ニチ・ジツ)」の形声。水の中にある土の意で、特に黒土をいう。この土が具体的に何を指しているか不明。また、梵語の音訳字に使われる。日ニチ・ジツは発音を受け持ち、転音したデツ・ネツ・ネが音を表す。
意味 (1)くろつち。水中にある黒土。「涅石デツセキ」(黒明礬くろみょうばん) (2)くろ。黒くそめる。「涅歯デツシ」(歯を黒く染めること) (3)梵語の音訳字。「涅槃ネハン」(すべての煩悩を無くした理想の境地)「涅槃会ネハンエ」(釈迦が入滅した3月15日に行なう法会)
 ベキ  氵部
解字 「氵(川)+日(ベキ)」の形声。ベキという名の川。汨水ベキスイをいう。日(ニチ・ジツ)の発音がなぜベキに変化したか不明だが、一説に冪ベキ(おおう)の省略形という。
意味 (1)川の名。「汨水ベキスイ」(湖南省の北東部を流れる川。羅水ラスイと合し汨羅江ベキラコウとなる。さらに湘水ショウスイと合流し洞庭湖にそそぐ)「汨羅江ベキラコウ」(汨水が羅水と合し湘水にそそぐまでをいう。汨羅ベキラとも。戦国期に楚の詩人・屈原(くつげん)がこの淵に身を投げた。) (2)しずむ。
端午の節句の始まり伝説
 楚の人達は汨羅江に身を投げた屈原を救おうと船を出し、魚に食べられないようにちまきを投げ入れ、太鼓を打ってその音で魚をおどした。これが後々5月5日の端午節に龍船競争やちまきを食べる習俗になったという伝説がある。
汨羅江の龍船競争
https://www.easyatm.com.tw/wiki/汨羅江
<紫色は常用漢字>

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音符 「乱ラン」 <糸がもつれる> と 「辞ジ」

2022年03月04日 | 漢字の音符
 解字をやり直しました。
[亂] ラン・ロン・みだれる・みだす  乚(乙)部

解字 金文は𤔔ランで、糸かせ(H形)の糸がもつれて、上と下から手でなおそうとしている形の象形。篆文はランで、「H形(糸かせ)+糸+爫(上の手)+又(下の手)」に乚形がついた会意形声。乚形はここでもつれた状態を表しているだけで意味に変わりはない。旧字は上の糸(〇印)がマ、下の糸(〇印)がムに変わったになった。新字体は、旧字「」の左辺⇒「舌」に置き換わった。舌(した)の意味とは関係ない。糸かせの糸がみだれる意となる。
 
現在の糸カセ:正面(左)と側面(右)。正面の取っ手を回して紡いだ糸を巻く。
意外と知らないカセの仕組み 箕輪直子オフィシャルブログより
意味 (1)みだれる(乱れる)。みだす(乱す)。「乱雑ランザツ」「散乱サンラン」「胡乱ウロン」(乱雑であること。胡は、でたらめの意。乱ロンは唐音) (2)さわぎ。いくさ。「動乱ドウラン」「戦乱センラン」 (3)むやみ。やたらと。「乱立ランリツ」「乱獲ランカク

イメージ 
 「もつれる」
(乱・辞)
音の変化  ラン:乱  ジ:辞

もつれる
[辭]ジ・シ・ことば・やめる  辛部

解字 金文第1字は「司(つかさどる・管理する)の異体字+𤔔ラン(もつれた糸を直す形)」で、𤔔ランを司(つかさど)り、糸の乱れが治まった形。第2字は右上に司の略体(口を省いた形)を置いて第1字と同じ意味を表す。篆文第1字は「𤔔ラン+司」の形で金文と同じ構造。第2字は「𤔔ラン+辛シン」となり、司⇒辛に置き換わった。ここで辛シンは発音がジに変化して声符(音符)を表している。新字体は、旧字「」の左辺⇒「舌」に置き換えた辞となった。舌(した)の意味とは関係ない。辞ジ・シは発音が詞に通じるので、ことばの意となり、糸のみだれを解くように言葉を理路整然とならべる意となった。さらに辞令(官職の任免に際して本人に交付する文書)で免官(免職)の辞令から転じて辞任(やめる)という言い方ができた。
意味 (1)ことば(辞)。言語。文章。「辞書ジショ」「辞令ジレイ」「祝辞シュクジ」 (2)やめる(辞める)。ことわる。「辞職ジショク」「固辞コジ」「辞意ジイ」 (3)別れをつげる。「辞世ジセイ」「辞訣ジケツ
<紫色は常用漢字>

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