漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。
害 ガイ・そこなう 宀部
解字 害の解字は諸説あるが、[字統]の見解を一部とりいれて解字した。金文は「取っ手のある大きな針(字統の説)+口サイ(うつわ)」からなる。取っ手のある大きな針で器(口)を突きさすこと。そこなう、わざわいが起きる意となる。篆文以降は、「宀(やね)+丯カイ(キズをつける)+口(うつわ)」の会意に変化したが意味は同じ。害を音符に含む字は、「そこなう」、大きな針を「さしこむ」イメージがある。新字体は丯の下が付き出ない。
意味 (1)そこなう(害う)。傷つける。「傷害ショウガイ」「迫害ハクガイ」 (2)さまたげる。じゃまをする。「妨害ボウガイ」「阻害ソガイ」「要害ヨウガイの地」(攻めるに困難な場所)「害悪ガイアク」(さまたげとなる悪いこと)「害虫ガイチュウ」 (3)わざわい。災難。「災害サイガイ」「水害スイガイ」 (4)なんぞ(害ぞ)。いずくんぞ。疑問の助字。
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「そこなう」(害・割・豁・瞎)
大きな針を器(口)に「さしこむ」(轄)
「その他」(憲)
音の変化 ガイ:害 カツ:割・豁・瞎・轄 ケン:憲
そこなう
割 カツ・わる・わり・われる・さく 刂部
解字 「刂(刀)+害(そこなう)」の会意形声。刀で切って物を損なうこと。
意味 (1)わる(割る)。さく(割く)。分ける。「分割ブンカツ」「割譲カツジョウ」(土地などを割いて他に譲る)「割烹カッポウ」(肉を割いて煮る。料理すること) (2)きる。切って取る。「割愛カツアイ」(愛しいが思い切って手放す) (3)わりあい(割合)。比率。
豁 カツ・ひらける 谷部
解字 「谷(たに)+害の旧字(=割の略体。われる。分かれる)」の会意形声。目の前の谷が割れたように視界が開けること。
意味 (1)ひらける(豁ける)。「豁然カツゼン」(①ひろびろと開ける。②疑いや迷いがきえる)「豁如カツジョ」(心のひろいさま) (2)ひろい。度量が大きい。「豁達カッタツ」(心がひろく物事にこだわらない。=闊達)
瞎 カツ 目部
解字 「目(め)+害の旧字(そこなう)」の会意形声。目をそこなうこと。
意味 (1)目が不自由である。盲目。「瞎子カツシ」(目が見えない人)「瞎馬カツバ」(目の見えない馬) (2)かため。片方の目が見えないこと。「瞎虎カツコ」(片目の虎。また、目の見えない虎) (3)でたらめ。「瞎説カツセツ」(でたらめをいう)
さしこむ
轄 カツ・くさび 車部
車の軸の端にさしこむ轄カツ(左から2番目の文字)
解字 「車(くるま)+害(さしこむ)」の会意形声。車軸にあけた穴にいれるクサビのこと。これで車輪が車軸からはずれるのを止める。転じて、世の中が乱れないよう、とりまとめる・とりしまる意となる。
意味 (1)くさび(轄)。「車轄シャカツ」(車軸の外側につけるくさび) (2)(物事の枠がはずれないよう)ある範囲をおさえて支配する。とりまとめる。取り締まる。「総轄ソウカツ」(全体を取り締まる)「管轄カンカツ」(下部の組織を権限によって支配すること。また、支配の及ぶ範囲)「所轄ショカツ」(管轄する所)「所轄ショカツの警察署へ行く」
その他
憲 ケン・のり 心部
解字 金文第一字は、「目(め)+取っ手のある針の略体」で、目の上に入れ墨をする刑罰。第二字は心がついた憲で、刑罰を心に自覚する意で、おきて・のりを言う。のち、国家の基本法の意味となった。また、刑罰を担当する役割の官の意ともなる。
意味 (1)のり(憲)。のっとる。おきて。人間の行動にはめる一定の枠。「憲章ケンショウ」(重要なおきて。原則的なおきて)「国連憲章コクレン ケンショウ」(国連の組織および活動の基本原則) (2)国家の基本法。「憲法ケンポウ」「改憲カイケン」「護憲ゴケン」 (3)刑罰を担当する官職。取り締まる役目。「憲兵ケンペイ」(明治に設置された陸軍所属の軍事警察の兵)「官憲カンケン」(取り締まる役目の官吏、特に警官)
<紫色は常用漢字>
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塞 ソク・サイ・ふさぐ・ふさがる 土部
解字 甲骨文は、「宀(たてもの)+工ふたつ(工具)+両手」の会意。両手に工具をもち家屋に空いた穴をふさぐことを表す[甲骨文字辞典]。篆文で工が4つになり、両手の下に土がついた形となり、土で家屋の穴をふさぐ形となった。現代字は上部が簡略化された塞になり、ふさぐ・とざす意。
意味 (1)ソクの発音。ふさぐ(塞ぐ)。ふさがる(塞がる)。とざす。「梗塞コウソク」(ふさがる。梗も塞もふさがる意)「閉塞ヘイソク」(閉ざして塞ぐ)「塞源ソクゲン」(源みなもとを塞ぐ)「塞栓ソクセン」(塞も栓も、ふさぐ意。血管をふさぐ不溶物。⇒塞栓症ソクセンショウ) (2)サイの発音。とりで。「要塞ヨウサイ」(かなめとなるとりで。堅固なとりで)「山塞サンサイ」「城塞ジョウサイ」(しろ。とりで。=城砦ジョウサイ)「塞外サイガイ」(①とりでの外。②万里の長城の外)
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「建物をふさぐ」(塞・寨・賽)
音の変化 ソク・サイ:塞 サイ:寨・賽
建物をふさぐ
寨 サイ・とりで 木部
解字 「木(き)+塞の上部(建物をふさぐ)」の会意形声。木の柵をめぐらして建物をふさいだとりで。
意味 (1)とりで(寨)。小さな山城。「山寨サンサイ」 (2)木の柵。
賽 サイ 貝部
解字 「貝(財貨)+塞の上部(建物をふさぐ)」の会意形声。建物を財貨でふさぐ、つまり建物に財貨を奉納する形。この建物は神社で、神さまに感謝して財貨を奉納する(賽銭をあげる)こと。また、その祭り。祭りの時、神の意志を確かめるため行なう神占いの道具であるサイコロの意ともなる。のち、サイコロで賭けごとをするので勝負する意となる。
意味 (1)お礼まいり。おまいり。「賽銭サイセン」(神に感謝して奉納するお金) (2)さい(賽)。サイコロ。「賽子さいころ」(神占いの道具) (3)優劣を競う。「賽馬サイバ」(くらべ馬)
寒 カン <さむい>
寒 カン・さむい 宀部
解字 金文は、「宀(建物)+屮(草)四つ+人+冫(こおり)」の会意。屋内に草を敷きつめ、人(足つき)がその中で、下にある冫(こおり=さむさ)を避けている形で、さむい意味を表わす。篆文は屮(草)が二つになり、その下に両手がつき両手で草を敷きつめる形になった。現代字は「塞ソク」と上部の形は同じになったが、塞は土で建物の穴ををふさぐ形なのに対し、寒は草を建物に敷きつめて、冷たい物(冫:こおり)が来ないよう防いでいる形である。新字体は冬と同じく下に氷(冫:こおり)がこない寒となった。が、私はこの変化はすべきでないと思う。
意味 (1)さむい(寒い)。つめたい。「寒気カンキ」「寒帯カンタイ」 (2)さびしい。貧しい。「寒村カンソン」「寒煙カンエン」(ものさびしく立つ煙り) (3)ぞっとする。「寒心カンシン」(恐ろしさや心配で心がぞっとする)「寒慄カンリツ」(ぞっとしておののく)
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「さむい」(寒・蹇・騫)
寒さを防ぐため 「中にこもる」(謇)
音の変化 カン:寒 ケン:蹇・騫・謇
さむい
蹇 ケン・なやむ 足部
解字 「足(あし)+寒の略体(さむい)」の会意形声。寒さのため足が動かず歩行に苦労すること。
意味 (1)あしなえ。歩行に苦労する。「蹇歩ケンポ」(うまくあるけない)(2)なやむ(蹇む)。苦労する。難儀する。「蹇渋ケンジュウ」(なやみとどこおる)「蹇蹇ケンケン」(①苦しみなやむ。②忠義をつくす)「蹇蹇匪躬ケンケンヒキュウ」(「王臣蹇蹇匪躬之故(易経)」(王臣は苦労を重ねて君に尽くし我が躬を考えることも匪(あら)ぬ故。)
騫 ケン 馬部
解字 「馬(うま)+寒の略体(さむい)」の会意形声。寒さのため馬が歩行に苦労すること。
意味 (1)足をひいて歩く馬。のろい馬。(2)欠ける。そこなう。(3)人名。「張騫チョウケン」(前漢の外交使節。武帝の命により大月氏国に派遣されたが、途中で匈奴に捕まり十余年拘留された。脱走して大月氏に達し、のち漢に戻り、多くの西域での見聞を伝えた。)
中にこもる
謇 ケン・どもる 言部
解字 「言(ことば)+寒の略体(中にこもる)」の会意形声。言葉が中にこもってうまく出てこないこと。また、諫ケン・カン(いさめる)に通じ、直言する意がある。
意味 (1)どもる(謇る)。言葉がつかえる。(2)はっきり言う。「謇謇ケンケン」(①直言する。②ひどく苦しむ。=蹇蹇ケンケン)
<紫色は常用漢字>
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風 フウ・フ・かぜ・かざ 風部
解字 甲骨文字は頭に冠飾りをつけた瑞鳥の「おおとり(鳳)」を描き、その横に音を表す凡(ハン・ボン⇒フウ・ホウ)を付けた字。凡(ハン・ボン)は、上古音(殷周代)でフウ・ホウの発音であり後にハン・ボンへの字音の変化があったと推定されている。「おおとり」は風の神ともいわれ、この鳥が羽ばたいて「風」を起こすと考えられたため、風の意に用いた。篆文は「凡(=鳳を表す字音[フウ・ホウ]で風の意)+虫」となった。これは、風を利用して空を飛ぶ虫を付けて「かぜ」を表した字。これで鳳(おおとり)の字は本来の霊鳥としての意に専用されるようになった。風は部首にもなる。
意味 (1)かぜ(風)。ゆれ動く空気のながれ。「風雲フウウン」「風上かざかみ」 (2)社会全体にゆきわたるもの。「風習フウシュウ」 (3)おもむき。「風格フウカク」「風情フゼイ」 (4)けしき。「風景フウケイ」 (5)風の病。「風邪かぜ」「中風チュウブウ」(半身の不随、または腕・脚の麻痺)
参考 風は部首「風かぜ」になる。常用漢字は部首の風だけだが、偏や旁などとなり風に関する字を作る。主な字は以下のとおり。
颯サツ(風+音符「立リツ」)
飄ヒョウ(風+音符「票ヒョウ」)
颱タイ(風+音符「台タイ」)
颪おろし(「下+風」の会意:国字)
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「かぜ」(風・楓・諷・颪・凧)
「風の神」(瘋)
「空気のながれ」(嵐)
音の変化 フウ:風・楓・瘋・諷 ラン:嵐 おろし:颪 たこ:凧
か ぜ
楓 フウ・かえで 木部
解字 「木(き)+風(かぜ)」の会意形声。種子(写真)が風によって運ばれる木。
意味 かえで(楓)。もみじ・紅葉(楓の別称)。カエデ科の落葉高木。種子は二枚の翼をもった果実をつける。「楓葉フウヨウ」(紅葉した楓の葉)「霜楓ソウフウ」(霜にあたって紅葉した楓)
諷 フウ 言部
解字 「言(ことば)+風(かぜ)」の会意形声。言葉が風にのって伝わること。本人から直接言うのでなく、それとなく伝わること。また、風が言葉を伝える意から、文字を見て言うのでなく、そらんじる意となる。
意味 (1)ほのめかす。遠回しに言う。「諷意フウイ」(①意思をほのめかす。②あてこすって言った意思)「諷刺フウシ」(遠回しに批判する。=風刺) (2)そらんじる。そらよみする。「諷説フウセツ」(そらんじていることを、そのまま説くこと)「諷詠フウエイ」(詩歌をそらんじて歌う)
颪<国字> おろし 風部
解字 「下(おりる)+風(かぜ)」の会意。下りる風の意で、山から吹き下ろす風のこと。
意味 おろし(颪)。山から吹きおろす風。「赤城颪あかぎおろし」(群馬県中央部(赤城山)から東南部で、冬季に北から吹く乾燥した冷たい強風)「六甲颪ろっこうおろし」(神戸市北部の六甲山地から冬に吹き下ろす乾燥した冷たい風)
凧 <国字> たこ 几部
解字 「几(風の略体)+巾(ぬの)」の会意の国字。中国では凧を風箏フウソウというが、古くは紙鳶シエン・紙老鴟シロウシ・風鳶フウエン・鳳巾ホウキンなどとも書かれた。日本へもこれらの字が伝わり、江戸期には訓読みで「いかのぼり」と呼ばれていた。凧の字のもとになったのは鳳巾ホウキンと考えられる。鳳ホウには風の意味もあるので鳳巾は風巾であり、文字からいうと風に揚げる布製の凧になる。この二字を合わせた凧の国字が江戸後期に生まれ、江戸で一般的な呼び名だった「たこ」の名がついた。
意味 たこ(凧)。細竹の骨組みに紙など貼り、糸をつけて空中に放ち、引きながら風の揚力で飛揚させる玩具。凧を安定させるためつける尻尾とよばれる細長い紙が、イカの足に似ているので関西でイカノボリ(また、略してイカ)と呼ばれたが、関東では蛸の足になぞらえてタコと呼び、この名が定着した。「凧揚(たこあ)げ」(凧を揚げること。また、子供の正月の遊び)
風の神
瘋 フウ 疒部
解字 「疒(やまい)+風(風の神)」の会意形声。風のもとになった「おおとり(鳳)」は風の神ともいわれ、風行とともに神威をもたらして起こす 疒(やまい)と考えられた。主に精神の病をいう。
意味 (1)精神の病。狂人。「瘋癲フウテン」(定職を持たず、ぶらぶらしている人。精神状態が正常でない人)「瘋病フウビョウ」(錯乱)「瘋狗フウグ」(狂犬) (2)そらごと。「瘋話フウワ」
空気のながれ
嵐 ラン・あらし 山部
解字 「山(やま)+風(空気のながれ)」の会意。山中の空気の動きをいう。山の風はみだれることが多いことからラン(乱)の発音になった。
意味 (1)山の清らかな風や空気。山にたちこめる気。もや。「嵐気ランキ」(山中に立つもや)「青嵐セイラン」(青葉を吹きわたる風) (2)山の風。つむじ風。あらし(嵐)。暴風雨。「春嵐はるあらし」(春先に吹く強い風) (3)激しく揺れ動くことの例え。「倒産の嵐」
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第7回 漢字音符研究会
日 時 2018年2月17日(土)
講 師 石沢誠司氏 ブログ「漢字の音符」編集者
テーマ 人体の音符 その1 手と足
「人体の音符 手と足」 の概要
手と足で基本となる字は、又ユウ・手シュ・寸スン・止シ・夂チ・舛セン・之シ・足ソクである。
手(又・手・寸)を元にした音符
右手は甲骨文字で指が3本に略された又ユウで表される。しかし、この字は「また」の意に仮借カシャ(当て字)され、みぎの意は口を加えた右ユウで表される。右手に肉[月]をもつ形が有ユウで、肉が手に「ある」意。一方、左手の甲骨文字はナサだが、この字は現在使われず、工コウ(ノミ)を持った左サが、ひだりの意を表している。右手を長くのばして手の先が奥にとどいて曲がった形が九キュウで、数字の九の意だが、「行きどまる」「まがる」イメージで音符となる。
両手は現代字で廾キョウの形となり部首として両手の意味で使われる。両手に物をもち相手にささげる形が共キョウで、単独では「ともに」の意だが、音符では両手で「ささげる」イメージがある。五本指の「て」は手シュで表されるが、この字が出現したのは金文からである。手から骨べら(乙)がすべり落ちた形が失シツである。
寸スン は甲骨文字で三本指で表した手の下方の湾曲する部分に短い曲線をつけ「ひじ」を表わした字だが、後に長さの単位として使われる。また、又(て)と同じ意味で用いられることもある多用途的な字である。
足(止・夂・舛・之・足)を元にした音符
足の指を3本に簡略化した形の甲骨文字が現代字では止シになっている。意味は「とまる」だが、音符では「足の動作」に関する意味でも使われる。左右の止(あし)を上下に配した形が歩ホで、あるく意。城壁(□)へ向って止シ(あし)を配したのが正セイで、城壁に囲まれた都邑に向かって進撃する意、その都邑を征服することを言った。
足が下向きに描かれたのが夂チで、上から降下する意。夂チが口に下りた形が各カクである。口は神への願いである祝詞を納める器を表わす[字統]。各は、祝詞をあげて神に祈り、それに応えて神霊が降り来ること、すなわち「いたる」が字の原義。のち、仮借カシャ(当て字)して、おのおの(各々)の意となった。各を音符に含む字は「神がいたる」「(神と)つながる」イメージがある。
夂チを二つかさねたのが夅コウで、降コウ(おりる)の原字。一方、左右の足が外側に開いた形が舛センで、そむく形だが日本では「ます」と読み、桝ますの原字。この舛センの下に木をつけた桀ケツは、人が木の上で両方の脚を外に開いた形。人が描かれていないが、罪人を木にしばってかかげ、はりつけにする意。金文の粦リンは、大の字の人が両足をひろげた形(舛)に小点4つを配したかたち。倒れた屍(しかばね)から、鬼火(闇夜に死体の骨から発する光り)が立ちのぼるさまで燐リンの原字。四角い城壁の上下に逆向きの止(あし)を配したかたちが韋イで、城壁を守備のため巡回する形を表わし、衛エイ(まもる)の原字。
止(あし)が、一(線)から出るかたちが之シで、足が前へすすむ意だが、本来の意味でなく指示・強める意の「これ・この」などに当て字される。之に否定を表すノ印をつけたのが乏ボウで、前に進めず身動きできなくて「とぼしい・まずしい」意になる。
上に之、下に心をつけた志シは、心がある方向へむかって出ること。こころざす意となる。現代字は、金文・篆文の之⇒士に変化した志になった。この字は、止シ(とまる・とどまる)に通じ、心にとどめる・しるす意味もある。
上に之、下に寸をつけた寺ジは、手に文書をもち足で前にすすむ使いを表し、宮中などで働く事務系の下級役人の意。この字は之⇒土に変化した寺になった。寺てらの意は、仏教伝来以降、渡来した僧侶を外国使節の応接・対応を司る役所(鴻臚寺コウロジ)にしばらく住まわせたことから出た。人の上に之(前へすすむ)をつけたのが先センで、先にゆく人を表す。
止(あし)のかかとの部分に曲線を加えた出シュツは、足を強くふみ出して踏み跡をのこして出る意。屈クツの金文は、「尾+出」の形で、うずくまった獣の尾が地上に出ている形から、うずくまる意。
最後に足ソクは、口(ひざ頭)に止(あし)を加えた形で、ひざから足先までの意が原義だが、かかとを含む足先の意味でよく使われる。疋ソ・ショは、篆文まで足と同じ形だが、現代字は疋に変化した。中国で匹(ひき)の俗字として用いられたため、匹(数える語)の意味で使われるが、音符では「あし・あるく」イメージがある。
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生 セイ・ショウ・いきる・いかす・いける・うまれる・うむ・はえる・き・なま 生部
解字 甲骨文字は草の象形である屮テツが一印の地面から生える形、転じて、「うまれる」意に用いられている[甲骨文字辞典]。金文は草の茎にあたる部分に丸印、篆文は一がつき、結局「屮(草の芽生え)+土」の会意となった。漢代の役人などが使用した隷書では草の形が角ばった形になり、その一方が残り、ノに変形したのが現代字の生となった。はえる・うまれる意となる。
意味 (1)はえる(生える)。はやす(生やす)。草木が芽をだす。「野生ヤセイ」 (2)うむ(生む)。うまれる(生まれる)。「出生シュッセイ」「生産セイサン」 (3)いきる(生きる)。いかす(生かす)。「生活セイカツ」「生存セイゾン」 (4)いのち。「生命セイメイ」 (5)まじり気のない。き。なま。「生一本キイッポン」
参考 生は、部首「生いきる」になる。漢字の左辺・右辺・下部について、生む・生まれる意を表す。しかし、この部は非常に少なく、常用漢字では生のほか産サン「彦の略体(額に入れ墨をする)+生(うまれる)の会意」のみ。その他の主な字には、甥セイ(男+音符「生セイ」)、甦ソ「更(かわる)+生(うまれる)の会意」、の2字がある。
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「うまれる」(生・姓・甥)
「うまれつき」(性)
「いきている」(牲)
「はえる」(笙・旌)
音の変化 セイ:生・姓・甥・性・牲・旌 ショウ:笙
うまれる
姓 セイ・ショウ・かばね 女部
解字 「女+生(うまれる)」の会意形声。女から生まれる子へとつながる血筋。古代の母系制の名残を残す字。
意味 (1)みょうじ。うじ。氏族や家の固有の名。血縁集団の名称。「姓名セイメイ」(名字と名前)「百姓ヒャクショウ」(百の家系。一般の人民。農民) (2)かばね(姓)。古代豪族が地位を示すため世襲した称号。臣・連など。「姓氏セイシ」(かばねとうじ)
甥 セイ・ショウ・おい 男部
解字 「男+生(うまれる)」の会意形声。姉妹の男子として生まれた子。女系の同族者をいう語のひとつ。
意味 (1)おい(甥)。姉または妹の息子。日本では兄弟姉妹の男の子をいう。「甥舅セイキュウ」(おいとおじ) (2)むこ。娘の夫。
うまれつき
性 セイ・ショウ・さが・たち 忄部
解字 「忄(心)+生(うまれつき)」の会意形声。生まれつきもっている心。
意味 (1)生まれつき。さが(性)。たち(性)。「性格セイカク」「性分ショウブン」 (2)物事の本質。「性能セイノウ」 (3)男女の区別。「性別セイベツ」「性交セイコウ」
はえる
笙 ショウ 竹部
笙
解字 「竹+生(はえる)」の会意形声。竹が生えそろった形の楽器。
意味 しょう(笙)。しょうのふえ。長さの異なる竹の管を環状に立てた楽器。「笙歌ショウカ」(笙と歌)「笙鼓ショウコ」(笙とつづみ)
旌 セイ・はた 方部
解字 「方𠂉(旗の略体)+生(はえる)」の会意形声。旗ざおの先に鳥の羽が生えているように付けた旗。旗の総称として用いられる他、表彰する・ほめる意ともなる。
意味 (1)はた(旌)。旗の総称。「旌旗セイキ」(はた。旗の総称)「旌旗セイキ空を蔽(おお)う」(軍勢のさかんなさま)「旌節セイセツ」(節度使[使者]が持つ旗) (2)あらわす。ほめる。表彰する。「旌表セイヒョウ」(ほめて表す)
いきている
牲 セイ・いけにえ 牛部
解字 「牛(うし)+生(いきたままの)」の会意形声。生きたまま神にそなえる牛。
意味 (1)いけにえ(牲)。祭礼のとき神に供える家畜。「牲殺セイサツ」(いけにえ。いけにえは殺して用いるのでいう)「牲牢セイロウ」(いけにえ) (2)ある目的のために生命や名利を捨てる人。「犠牲ギセイ」
<紫色は常用漢字>
第7回漢字音符研究会のお知らせ
日 時 2018年2月17日(土) 10時30分~12時
会 場 喫茶ほっとはあと 京都市中京区西大路御池北西角
地下鉄東西線「西大路御池」下車すぐ 下記をクリックしてください。
http://www.kyoto-hotheart.jp/cafe/shops/oike/
講 師 石沢誠司氏 ブログ「漢字の音符」編集者
テーマ 人体の音符 その1 手と足
漢字は絵文字(象形文字)に由来するものが多くある。なかでも人の姿やその部分が特に多くあります。これは日常生活にあって常に目に触れている人のさまざまな形態を絵文字にしたもので、漢字の原点ともいえます。
今回は、「人体の音符 1 手と足」です。手と足で基本となる字は、又ユウ(右手)・手シュ(5本指の手)・止シ(足裏のかたち)・夂チ(下向きの足)・舛セン(左右の足が開いた形)・之シ(足が線から前にすすむ)・足ソク(あし)・疋ソ(あし)です。これらの基本字が組み合わさって、さまざまな手足をもとにした音符が35字程作られ、さらにこれらの音符から約180字の漢字が生まれています。こうした基本漢字と音符を理解しておくと、効率的に多くの漢字を憶えられます。
参加費 300円(資料代を含む) ※飲み物は各自、別途注文してください。
参加申込 コピー資料作成の都合がありますので、事前に下記へお申し込みください。
漢字音符研究会連絡先