漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

漢和字典 使った感想(5)「新漢語林」

2024年03月21日 | 漢和字典・使った感想

  大修館書店といえば漢和辞典の最高峰である「大漢和辞典」の出版社として知られる。親字5万余字、熟語53万余語を収録した漢和辞典で、1927年(昭2)漢字学者・諸橋徹次氏と大修館社長の鈴木一平氏の間で出版契約が成立してから、太平洋戦争を挟んで完成する1960年(昭35)まで35年かかったという歴史をもつ日本を代表する漢和辞典である。
 ここで紹介する小型サイズ(H18.5㎝)の「新漢語林」は、「大漢和辞典」の代表編集者である諸橋轍次氏のもとで編集に協力した鎌田正・米山寅太郎氏によって、学校教育との一体化を図った簡明で使用しやすい漢和辞典として編集された。親字は14,629字、熟語は約5万語。1,952ページの字典である。

例によって午ゴのページを見てみる。

以下の順序で構成されている。
(1)見出し語「午」の横に[筆順]がある。(常用漢字・人名用漢字に付く)
(2)[字義]として「①うま。ア、十二支の第七位。イ、月では陰暦五月。「端午」ウ、時刻では正午。エ、方位では南。オ、五行では火。カ、動物では馬。②さからう。そむく。もとる。③まじわる。交錯する。十文字に交わる。
 最後に[名前]として日本での読み方として、「うま・ご・ま」をあげる。
(3)[解字]として、甲骨文・金文・篆文の字体を表示する。因みに「大漢和辞典」の午では、甲骨文字と金文は表示されていない。新しく判明した古文字を追加している。
 字体の種類を[象形]として「金文でわかるように、両人がかわるがわる手にしてつく「きね」の象形。交互になるの意味から、陰陽の交差する十二支の第七位のうまの意味を表す。杵ショの原字。午を音符に含む形声文字に、許・迕などがあり、これらの漢字は「きね」の意味を共有している。」とする。
 次に[逆]として、重要な逆熟語を5語あげている。
(4)熟語として、10語あげて各語の説明をしている。

 続いて音符字の杵ショ・許キョ・滸コ・忤ゴの項目をとりあげる。
ショ

(1)見出し語の横に[筆順]がある。人名用漢字のため。
(2)[字義]として、①きね。②つち。臼に入れたものをつく道具。ア、砧を用いて布を打つ際のつち。「杵声(きぬたの音)」。イ、土壁などをつき固めるつち。③たて。大きな盾。身を守る武具。説明文の下に二人の人が杵をもち臼をつく図版がある。
(3)[名前]として、き・きね [難読]として、杵築。
(4)[解字]として、篆文の字体を表示。形声。木+午(音)。音符の午ゴ⇒ショは、両人が向き合ってかわるがわるつく、きねの象形で、きねの意味を表したが、午が十二支のうまの意味に用いられるようになり、木を付した。

キョ・コ・ゆるす [ページの写真は省略]
(1)見出し語の横に[筆順]がある。常用漢字のため。
(2)[字義]として、①ゆるす。具体的な意味として、ア~オまで列挙し、用例とその意味を解説している。②仲間になる。③進む。④おこす(興す)。⑤もとところ。「何許いずこ」、⑥ばか-り。ほど。用例とその意味がある。⑦これ。このように。か-く。⑧なに。⑨周代の国名。
(3)[名前]もと・ゆき・ゆく [難読]として、6例あり。
(4)[解字]として、金文・篆文の字体を表示する。形声。言+午(音)。音符の午は、きねの形をした神体の象形。神に祈ってゆるされるの意味を表す。
 [逆]として、重要な逆熟語を3語あげる。
(5)熟語として、11語をあげて各語の説明をしている。


[字義]ほとり。水岸。みずぎわの地。「水滸」
[解字]形声。氵+許(音)。


[字義]①さか-らう。もとる。②みだれる。
[解字]形声。忄(心)+午(音)。音符の午は牾に通じ、さからうの意味を表す。
[熟語]として、「忤視ゴシ」をあげて、解説している。

「新漢語林」の特長
 午とその音符字を紹介したうえで、この字典の感想は以下のようになる。
(1)見出しの漢字は、大きく[字義]と[解字]に分けて具体的に説明しているが、その際、常用漢字については特に詳しく説明しており、[用例]として挙げた字は、その意味も叙述するなど分かりやすく解説している。また、人名用漢字も、常用漢字に準じる説明になっている。しかし、これ以外の字については、滸、忤で分かるように2~3行の説明ですませている。したがって、この字典は日常生活に必要不可欠な漢字を重点的に説明した字典といえる。また、主要な漢文頻出の漢字・熟語を含む用例を、読みと現代語訳付きで多数追加しており。漢文学習にも対応できる字典となっている。
(2)音符となる字は、その音符の特徴を指摘して説明している。午では「金文でわかるように、両人がかわるがわる手にしてつく「きね」の象形。杵ショの原字。午を音符に含む形声文字に、許・迕などがあり、これらの漢字は「きね」の意味を共有している。」とする。音符字として言及しているのはこの字典しかない。なお『漢字源』(学研プラス)が「同源語」として午・御・許・杵・忤・滸・迕、を提示している。
(3)杵の形についての疑問。
 しかしながら、[解字]の説明には納得しかねる表現がある。午に「金文でわかるように、両人がかわるがわる手にしてつく「きね」の象形。交互になるの意味から、陰陽の交差する十二支の第七位のうまの意味を表す。」とするが、午の金文は杵を象っているだけであり、両人がかわるがわる手にするかどうかは不明である。おそらく杵の図版をもとに想像したものと思われるが、この図版は一例であって、いつも二人がそろって杵をつくわけでなく、また杵のかたちも図版のように一方の先だけが太いのではない。二人以上がそろって杵をつくのは行事のときだと思われる。
 因みに、下の写真は中国ネットにあった臼と杵の写真である。
 ②
写真①は中国ネットにあった臼と杵の写真であるが、杵は両端がふくらんだ形をしている。杵の形としては、こちらのほうが一般的である。②は中国ネットの臼で穀物をつく写真であるが、右の女性は穀物を臼に落として補給しており、左の男性一人が臼をついている。

『漢語林』[第二版]2011年4月1日発行 大修館書店
著者:鎌田正 米山寅太郎

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