漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「㒸・遂スイ」 <やりとげる> と 「隊タイ」 「墜ツイ」

2018年07月24日 | 漢字の音符
 スイ・ズイ  八部

解字 甲骨文は「八+豕(野生の豚)」の会意。狩猟法の一種として用いられており、豚をあい路(八)に追い込んで捕らえる様子であろう[甲骨文字辞典]。篆文以降、遂と同じく、とげる意で用いられており、豚を追い込んで捕らえたので「とげる」意になったと思われる。この字は単独で用いられることは稀で、遂と同字として用いられる。
意味 (1)甲骨文字で、獣をとらえる狩猟法のひとつ。 (2)とげる。=遂スイ。 (3)したがう。

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 「やりとげる」
(遂・燧)
 野生の豚が追われて「すすむ」(隧)
音の変化  スイ:遂・燧・隧   

やりとげる
 スイ・ズイ・とげる・ついに  辶部
解字 「辶(ゆく)+㒸(やりとげる)」の会意形声。㒸スイの意味(やりとげる)を辶(すすむ)をつけて強調した字。
意味 (1)とげる(遂げる)。やりとげる。なしとげる。「遂行スイコウ」(なしとげる。やりとげる)「完遂カンスイ」(完全にやりとげる)「未遂ミスイ」(未だなし遂げていない)「未遂罪ミスイザイ」(犯罪は未遂であるが罪になること)「既遂キスイ」(既になし遂げたこと) (2)ついに(遂に)。とうとう。おわりに。
 スイ・ひうち  火部
解字 「火(ひ)+遂の旧字(やりとげる)」の会意形声。火を起こすのをやりとげること。火打ち石などで、火を得ることが原義。火を起こすことは簡単なことでなく、道具と技術が必要で、やりとげることだった。のろしの火を起こすので、のろしの意ともなる。
意味 (1)ひうち(燧)。火を得るため用いる道具。「石燧セキスイ」(火打ち石)「燧ヶ岳ひうちがたけ」(尾瀬国立公園内にある山。日本百名山の一つ。名前の由来は諸説ある) (2)のろし。「燧烽スイホウ」(燧も烽も、のろしの意)
  
すすむ
 スイ・ズイ  阝部
解字 「阝(おか:陵墓)+遂の旧字(すすむ)」の会意形声。おか(陵墓)の中心に通じる墓道をいう。
意味  みち。はかみち。トンネル。地中をくりぬいた道。「隧道スイドウ・ズイドウ」(①墓へ通じる地中の道。②トンネル)


    ツイ・タイ <おちる>
 ツイ・タイ  阝部

解字 甲骨文は「阝(はしご)+逆さになった人」の会意で、人がおちる意。篆文で、逆さになった人⇒発音を表す㒸スイ(⇒ツイに変化)に置き換えた「隊」となった。一方、もう一つの発音であるタイは𠂤タイ(師の原字。軍隊の象徴)に通じ、軍の部隊の意で使われ、のちこの意味が主流となった。おちる意味の隊ツイは、のちに土をつけた墜ツイで表すようになった。
意味 (1)兵の集まり。「軍隊グンタイ」「部隊ブタイ」「隊長タイチョウ」 (2)くみ。むれ。統一された集合体。「隊商タイショウ」「隊列タイレツ」 (3)おちる。=墜ツイ

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 「同音代替」
(隊)
 「おちる」(墜) 
音の変化 タイ:隊  ツイ:墜

おちる
 ツイ・おちる  土部   
解字 「土(つち)+隊(おちる)」 の会意形声。隊ツイ・タイは、もともとおちる意だが、軍隊の意に使われたので、土をつけ土の上におちる意とした。
意味 (1)おちる(墜ちる)。おとす。「墜落ツイラク」(墜も落もおちる意)「撃墜ゲキツイ」(撃ち落とす)「墜死ツイシ」(墜落して死ぬ) (2)うしなう。「失墜シッツイ」(失も墜もうしなう意)
<紫色は常用漢字>

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新しい漢字学習法 漢字音符字典 増補改訂版

2018年07月22日 | 漢字の音符
  『新しい漢字学習法 漢字音符字典 増補改訂版』は本日(7月30日)完売しました。申し訳ありませんが、申し込みを中止させていただきます。ご了承ください。 
現在、『新しい漢字学習法 漢字音符字典 増補改訂版』東京堂出版が、品切れだそうです。著者の山本康喬氏から「もし欲しい方がいれば手元にある本をお頒けします」と、4冊を融通していただきました。入手希望の方は、私の石沢書店のHPで購入を受け付けていますので、お申込みください。定価は書店の販売価格と同じです。
 漢字を勉強する人、漢検合格を目ざす人が漢字を学べるよう、音符による学習法を解説。
本文2色刷、新常用漢字表、漢検級数に対応。
著者 山本康喬氏
発行 東京堂出版
判型・ページ数   B6判版・320ページ
発行年 2012年10月 発行 
定 価 2200円+税  (2376円) 
お申込み方法  下記の石沢書店のHPからお申込みください。
完売しましたので、申し込みを停止させていただきます。
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音符「𦝠ラ」 <神獣> と 「嬴エイ」「瀛エイ」「贏エイ」「臝ラ」「羸ルイ」

2018年07月09日 | 漢字の音符
𦝠[𣎆] ラ・(エイ) 月部にく

解字 動物の象形。[説文解字]は獣の名とし、その他にも(螺・にし)の初文で巻貝とする説もあるが、甲骨文では細長い胴体が表現されており、また頭部に虍(トラ)のような形を用いたものや多足の象形などがあり、字源はムカデのような「噛みつく節足動物」と思われる[甲骨文字辞典]。金文は中央の頭の下方に月(にく)が付加された形をへて、篆文で上部が亡+口、下が月+丮となり、現代字(楷書)の𦝠になっているが、卂の部分が丮や凡になっている字も同字である。
 [甲骨文字辞典]は、意味が災厄であることから「噛みつく節足動物」としているが、私は中国ネットに出ていた「神獣」説を取りたい。理由は、この字と女を組み合わせたエイが姓となっており、神獣を後ろ盾にした姓と考えられるからである。
意味 (1)(甲骨文字で)災厄。主に神や祖先の祟りとして用いられる。また、地名。祭祀名。 (2)(説文解字で)浅毛の獣。虎・豹・象の類。 (3)(騾に通じ)らば。うさぎうま。

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 「神獣」
(𦝠・嬴・瀛・贏)
 「同音代替」(蠃・臝・羸)
音の変化  ラ:𦝠・蠃・臝  ルイ:  エイ:嬴・瀛・贏

神獣
 エイ  女部  
解字 「女(おんな)+𦝠ラ(神獣)」の会意。𦝠は神獣と考えられ、これに女をつけたエイは神獣を後ろ盾とした女の意。母系制社会の時代に作られた姓のひとつ。姓セイは、「女+生(うまれる)」で、女から生まれる子へとつながる血筋を表す。古代の母系制の名残を残す字。中国古代の母系制社会の姓は、女偏がつく姜キョウ、姬(姫)、姚チョウ、などがあり、エイはそのひとつ。秦の王室の姓でもある。また、盈エイ(みちる)に通じて、みちる意がある。
意味 (1)姓のひとつ。秦の王室はエイ姓を名乗った。「嬴政エイセイ」(秦の始皇帝の本名。姓がで実名(諱いみな)が政。 (2)[盈エイ(みちる)に通じて]みちる。のびる。「嬴縮エイシュク」(のびちぢみ)「嬴土エイド」(肥沃の地)
 エイ・うみ  氵部 
解字 「氵(みず)+エイ(意味②の、みちる)」の会意形声。エイは盈エイ(みちる)に通じ、水が満ちる意で海をいう。
意味 うみ(瀛)。大海。「瀛海エイカイ」(大海)「瀛洲エイシュウ」(中国の東海にあるという神山)
 エイ・あまる・あまり・かつ  貝部
解字 「貝(財貨)+𦝠エイ(=嬴エイの略体(意味②の、みちる)」の会意形声。エイはエイの意味②、みちるに通じ、財貨がみちること。財貨がみちて、あまる。また、財貨がみちることから転じて勝つ意となる。
意味 (1)あまる(る)。「贏利エイリ」(ありあまるもうけ。=利益)「贏得エイトク」(利益を得る) (2)かつ(贏つ)。「贏輸エイシュ」(勝ちと負け。は勝つ、輸は負け)

同音代替
 ラ  虫部
解字 「虫(むし)+𦝠(ラ)」の形声。ラは螺(にな・にし)に通じ、巻貝の仲間を言う。
意味 (1)にな(蠃)。にし。たにし。=螺。 (2)「蜾蠃カラ」はジガバチのこと。
 ラ・はだか  月部にく
解字 「果(果たす。果たした結果)+𦝠(=の略体。にな・にし)」の会意形声。は、ここで巻貝の貝殻に体を入れ、貝殻を背負って生活する甲殻類のやどかりをいう。やどかりの身体が大きくなり(果たす)、果たした結果、今までの貝を捨て(脱いで)他の貝に移ること。人に例えて、はだ脱ぐ・はだかの意となる。
意味 (1)はだか()。はだぬぐ。はだかになる。=裸
 ルイ・つかれる  羊部
解字 「羊(ひつじ)+𦝠(ラ⇒ルイ)」の形声。ルイは累ルイ(しばる。つなぐ。=縲ルイ。)に通じ、しばられた羊の意。しばられた羊は、やせる・つかれる・よわる。転じて、よわい意。人に移して用いる。
意味 (1)つかれる(羸れる)。よわる。よわい。「羸弱ルイジャク」(つかれ弱る。弱い)「羸師ルイシ」(つかれ弱った軍隊) (2)やせる。「羸痩ルイソウ」(つかれやせおとろえる)「羸瘠ルイセキ」(やせおとろえる)

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音符「亥ガイ」<ぶたの骨格>「骸ガイ」「該ガイ」「劾ガイ」「核カク」「刻コク」

2018年07月02日 | 漢字の音符
 ガイ・い 亠部   
 
解字 いのしし、またはぶたの骨格をたてに描いた象形。骨組みの意。仮借カシャ(当て字)して十二支の12番目に当てられた[学研漢和]。
意味 (1)い(亥)。十二支の第12番目に当てる。動物はいのしし。 (2)昔の時刻で午後10時前後。「亥の刻イのコク」 (3)昔の方角の名。北北西。
※亥ガイ(干支の亥・いのしし)と豕(いのこ・いのしし)は意味が似ているが、字の由来は豕は動物の豚(ぶた)を、亥ガイは豚などの骨格を示す。「亥豕ガイシの誤り」(文字の書き誤りのこと)。

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 「ほねぐみ」
(亥・骸・刻・劾・該)
  骨は「かたい」(核) 
 「擬声音(ガイ・カイ)(咳・孩・駭)
音の変化  ガイ:亥・骸・該・劾・咳・孩・駭  カク:核  コク:刻

ほねぐみ
 ガイ・むくろ  骨部  
解字 「骨(ほね)+亥(ほねぐみ)」の会意形声。亥が十二支に当てられたので、骨をつけてもとの意味(ほねぐみ)を表わす字とした。
意味 むくろ(骸)。ほね。なきがら。からだ。「骸骨ガイコツ」「死骸シガイ」「形骸ケイガイ」(中身が失われて外形だけが残ること)
 コク・きざむ  刂部
解字 「刂(刀)+亥(ほねぐみ)」の会意形声。刀で骨組み(骨)にきざみ目を入れること。
意味 (1)きざむ(刻む)。ほりつける。「刻印コクイン」「彫刻チョウコク」 (2)むごい。ひどい。きびしい。「深刻シンコク」 (3)とき(刻)。時間。「時刻ジコク
 ガイ  力部
解字 「力(ちから)+亥(全体の骨組み)」全体の骨組みを強力にしらべてあばき、告発すること。
意味 (1)しらべる。追求する。罪状を取り調べる。 (2)告発する。罪をあばいて訴える。「弾劾ダンガイ」(弾は責める、劾は告発する。不正をあばき責任を追及する)「劾状ガイジョウ」(告発状)
 ガイ  言部  
解字 「言(いう)+亥(全体の骨組み)」の会意形声。複雑な骨組みの全体について言うこと。
意味 (1)あまねく。かねそなわる。「該博ガイハクな知識」「該究ガイキュウ」(広く研究する) (2)あたる。あてはまる。「該当ガイトウ

かたい
 カク・さね  木部
解字 「木+亥(かたい)」の会意形声。木のかたい実。
意味 (1)さね(核)。果実のたね。「核果カクカ」 (2)物事の中心。かなめ。「核心カクシン」「中核チュウカク」 (3)物体・細胞・原子などの中心にあるもの。「原子核ゲンシカク」「地核チカク」(地球の中心) (4)核兵器の略。「非核ヒカク三原則」

擬声音(ガイ・カイ) 
 ガイ・カイ・せき・せく・しわぶき・しわぶく  口部
解字 「口(くち)+亥(ガイ・カイ)」の形声。ガイガイ・カイカイと口から出る音。咳をする音、また、乳児の笑い声に例える。咳と乳児の笑い声は息が途切れて出るところに共通性がある。
意味 (1)せき(咳)。せく(咳く)。しわぶき(咳)。しわぶく(咳く)。せきばらい。「咳気ガイケ・ガイキ」(咳のでる病気。かぜ)「咳唾ガイダ」(せきとつば。せきばらい) (2)幼児が笑う。
 ガイ・カイ・ちのみご・あかご  子部
解字 「子(こども)+亥(ガイ・カイ)」の形声。ガイガイ・カイカイと途切れるような声で笑う子(乳児)。
意味 (1)ちのみご(孩)。あかご。幼児。「孩児ガイジ」(幼児。=孩子ガイシ)「孩抱ガイホウ」(幼児を抱く。また、抱っこする程のあかご)「孩提ガイテイ」(幼児と手をつないで歩く。また、連れ歩ける程の2~3歳の幼児)「孩心ガイシン」(おさなごころ) (2)幼児が笑うこと。「孩笑ガイショウ」(赤子の笑い)
 ガイ・カイ・おどろく  馬部
解字 「馬(うま)+亥(カイ)」の形声。カイは戒カイ(戒める)に通じ、馬を戒めること。戒(いまし)められた馬はおどろく意となる。人に移して使う。おどろく意で馬を含む字に驚キョウ、おどろいてさわぐ意に騒ソウがある。なお、「馬+戒」の駴カイ・ガイもおどろく意。
意味 おどろく(駭く)。おどろかす。=駴カイ・ガイ。「震駭シンガイ」(震えおどろく)「駭嘆ガイタン」(おどろき嘆く)
<紫色は常用漢字>

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