漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「翏リョウ」<オス鹿が鳴く>と「膠コウ」「謬ビュウ」「戮リク」「寥リョウ」「蓼たで」

2023年07月30日 | 漢字の音符
  増補改訂しました。
翏リョウは何を描いたのか?

「翏リョウ」は正体不明の音符である。後漢の[説文解字]は、「羽と㐱シンからなり高く飛ぶなり」としているが、㐱の意味は説明していない。これをうけて[字統]は「鳥の両翼と尾羽の形」とし、㐱を尾羽と解釈している。ほとんどの字書は似たような説明で、鳥が飛ぶ意としている。こうした中で、[角川新字源]は「羽かざりをつけた人のさま+彡」とし髪飾りが美しいと独自の解釈をしている。当初、私は「鳥が飛ぶ説」で翏の音符をもつ字を検証してみたが、当てはまるものはなかった。「羽かざりをつけた人説」も、しっくりこない。中国ネットで調べても、「鳥が飛ぶ説」ばかりである。

最高の膠(にかわ)は鹿の角製
 万策尽きた私は、再度、音符・翏リョウを持つ字を細かく点検してみた。そのひとつ膠コウ(にかわ)の字を調べてみた。膠は動物の皮や骨などを煮つめたのち乾燥させて作った接着剤である。元国立民族学博物館・森田恒之氏の「膠の文化」という論文を読んでいると、ハッとする箇所に出会った。
 「膠は梓弓を作るときに使う接着剤を意味する言葉である。それが一つの祖語から派生したことまで分かっている。日本語に「にく」という単語がある。和膠の生産者は原料皮を「にく」という。弓師はいまでも仕事で使う膠を「にく」と呼ぶ。「にく」はまさにユーラシア大陸北部で成立した文化を伝える言葉の化石なのだ。その言葉が渡来したのは、コウ(またはキャウ)とよんだ中国語の「膠」が渡来するはるか以前だった。(中略)膠の現地語を教えてくれたチベット人が言った。『最高級品は鹿製だと言うんだけど、チベットには鹿がいないんだ』。すごいヒントだった。日本でも一部の職人や日本画家の間では鹿膠は高級膠の別称だ。ウラル語の専門家に聞いてみた。『(ウラル地方では)膠は昔からオオジカの角製だといっていますね』。

金文の翏は鹿の角
 私は金文の翏は鹿の角に似ているな、と前から思っていたのである。そこで「鹿角と膠」でネット検索すると、鹿角膠ロッカクキョウとよぶ「健康食品」を販売する金沢市の老舗薬局のサイトが見つかった。その説明に鹿角膠は「鹿角を煎じ詰めて作ったニカワを鹿角膠といい、シカの角を10cmくらいに切り、数日間水につけてかき混ぜ、水が澄んだあとに繰り返し煎じ、骨質が柔らかくなるまで煮つめて、膠液をろ過した後に加熱濃縮し、成型して乾燥する。一般に縦と横は2~3cm、長さ5cmの黒褐色の方形状で、半透明で光沢がある」と書いてあるではないか。これで鹿角からニカワを作ったことがはっきりし、「健康食品」として生薬的な使われ方をしていることも分かった。そして金文の角のような表現は鹿の角で間違いないと思う。

 では、金文の鹿角のそばに描かれている二つないし三つの点、および篆文の彡は何を意味するのか。私はオス鹿の鳴き声の吐息を表したものと思う。秋になると鹿は発情期を迎える。鳴くのは角をもつオスで、鳴く事で、他のオスを威嚇したりメスを呼び寄せようとする。日本の和歌にも「鳴く鹿」を歌ったものは多い。そこで私は翏リョウを角があるオスの鹿が鳴くさまの象形と考えたい。

   リョウ <オス鹿が鳴く>
 リョウ・リュウ  羽部    

解字 金文第一字は鹿の角と鹿が出す吐息を描き、オス鹿が鳴く形。第二字は角の根元が人がかがんだような形にみえるため篆文で、鹿の両角⇒羽、「角の根元+吐息」⇒㐱に変化した翏リョウになった。後漢の[説文解字]が篆文の形から、「羽と㐱からなり高く飛ぶなり」としたため、鳥が高く飛ぶ意があるが、実際はほとんど使われていない。音符となるとき、「オス鹿が鳴く・鹿の群れ」「鹿の角」のイメージがある。
意味 (1)鳥が高く飛ぶ様子。(2)遠くから吹いてくる風の音の形容

イメージ
 「オス鹿が鳴く・鹿の群れ」
(嘐・蓼・寥・勠・戮)
 「鹿の角」(膠・樛・繆・謬・醪)
 「その他」(廖)
音の変化  リョウ:蓼・寥・廖  リク:勠・戮  ロウ:醪  ビュウ:繆・謬  キュウ:樛  コウ:嘐・膠

オス鹿が鳴く・鹿の群れ
 コウ・キョウ  口部
解字 「口(くち)+翏(オス鹿が鳴く)」の会意形声。鹿が鳴くように人が口から大きな声を出すこと。
意味 (1)おおげさで、とりとめもない言い方で話す。ほらをふく。言葉が多い。「嘐嘐コウコウ」(大げさに話すさま)(2)ほこる。志がおおきい。大言。
 リョウ・リク・たで  艸部

解字 「艸(くさ)+翏(鹿の群れ)」の会意形声。金文からある古い字。金文は上下に艸が描かれており草むらに鹿の群れがいるさまを表した地名。国名。現在の河南省東南部にあった国をいう。のち、タデ科の草に当て、その意味が主流になった。
意味 (1)たで(蓼)。タデ科の一年草。特に、葉に辛味が強く香辛料とするヤナギタデをさす。その辛味を利用して古くから香辛料に使用されてきた。水辺に生えるものが多い。「蓼たで食う虫も好き好き」(蓼の葉は食べると辛いが、それを好んで食べる虫もいる。人の嫌うものを好む者もいれば、人の好む物を嫌う者もいる)「蓼酢たです」(蓼の葉をすってまぜた合せ酢)「蓼冷汁たでひやじる」(蓼の葉を冷や汁に摺り加えたもの)「蓼冷汁天目」( 緑釉兎毫斑碗の別称) (2)辛苦。くるしみ。 (3)国名。「蓼国リョウコク」(商(=殷)の時代から現在の河南省にあった国。紀元前622年に楚国により滅ぼされた) (4)日本の地名。「蓼科たてしな」(長野県茅野市北部に位置する蓼科は、平均標高1,000mを超える高原。夏は国内を代表する避暑地のひとつとして多くの人が訪れる。)
 リョウ・さびしい  宀部
解字 「宀(やね・おおい)+翏(=蓼リョウ)」の形声。蓼は、広い草むらに鹿がいるさまを表した字。それに屋根をつけた寥は、屋根・おおいの下が広い状態をいい、広い・空虚・むなしい意。転じて、さびしい・しずか、の意ともなる。
意味 (1)むなしい。空虚。「寥寥リョウリョウ」(うつろでひっそりとしているさま)「寥廓リョウカク」(①うつろ。大きい。②大空。③度量の広いこと) (2)さびしい(寥しい)。「寂寥セキリョウ」(寂も寥も、さびしい意)「寥落リョウラク」(さびしく落ちぶれたさま)
 リク・ロク・あわせる  力部
解字 「力(ちから)+翏(鹿の群れ)」の会意。鹿は群れで生活することが多く、ここでは集まる意、これに力がついて、集まった人が力をあわせる意となる。また、同音の戮リクと通用することがある。
意味 (1)あわせる(勠せる)。「勠力協心リクリョクキョウシン」(力を合わせ、心をそろえる)(2)ころす。(=戮リク
 リク・ころす  戈部  
解字 「戈(ほこ)+翏(=勠。あわせる)」の会意形声。人をあわせて戈(ほこ)で人を殺すこと。
意味 (1)ころす(戮す)。死刑にする。あわせころす。「殺戮サツリク」(多くの人を殺す)「刑戮ケイリク」(刑罰で殺す。死刑) (2)はずかしめる。はじ。「戮辱リクジョク」(戮も辱も、はずかしめる意) (3)あわせる。力をあわせる。(=勠リク)。「戮力リクリョク」(=勠力)

鹿の角
 コウ・キョウ・にかわ  月部にく
解字 「月(肉状にする)+翏(鹿の角)」の会意形声。動物の皮や骨などを煮つめて肉状にしたのち乾燥させて作った接着剤。特に鹿の角から作ったものが最高とされる。
意味 (1)にかわ(膠)。動物の皮や骨などを煮つめて作った接着剤。使うとき水にいれ低温で溶かして用いる。材料により、鹿膠・牛皮膠・兔皮膠・魚膠(鮸にべ膠)などがある。「膠化コウカ」(にかわ状(ゼリー状)になること)「膠漆コウシツ」(にかわと、うるし。親密な間柄。固い友情)「鹿角膠ロッカクキョウ」(鹿角を煎じ詰めて作ったニカワ。生薬ともなる)「鮸膠にべ・にべにかわ」(①ニベ科の海産魚・鮸にべの浮袋を煮て膠にしたもの。②粘着力が強いことから他人に与える親近感。否定表現で用いる)「鮸膠にべもない」(とりつきようもない) (2)ねばりつく。「膠着コウチャク」(膠でくっつけたようにしっかり着く。状況が固定して進展しない) (3)地名。「膠州湾コウシュウワン」(中国山東省南岸にある湾)
 キュウ・つが  木部
解字 「木(き)+翏(鹿の角)」の会意形声。木の枝が鹿の角のように曲がっているさま。枝が曲がり垂れている木。日本では「つが」に当てているが、本来は木の枝が曲がる意。

樛枝(「官庄古樟树群」より)
意味 (1)まがる。木の枝が曲がりさがる。「樛木キュウボク」(枝が曲がりたれている木)「樛枝キュウシ」(曲がり垂れた枝)
「南に樛木(きゅうぼく)有り。葛塁(かつるい)之(これ)に累(かさ)なる」(南に枝の曲がった木があり、葛のツルが巻きついている。「詩経・国風・周南」) (2)からまる。まつわる。「樛結キュウケツ」(まつわりつく。からみつく)「樛流キュウリュウ」(めぐりからまる。うねり流れる) (3)[国]つが(樛)。マツ科の常緑高木。栂つがとも書く。
 ビュウ・リョウ・ボク・まつわる・あやまる  糸部
解字 「糸(いと)+翏(鹿の角)」の会意形声。鹿の角に糸がからまること。
意味 (1)まつわる(繆わる)。もつれる。まとう。まといつく。からみつく。「綢繆チュウビュウ」(①しっかりからみつける。②慣れ親しむこと)「綢繆未雨チュウビュウミウ」(雨のふる前に、しっかりからみつける。前もって備えをして災いを防ぐこと)「合歓綢繆ゴウカンチュウビュウ」(男女が深く愛し合うこと。男女のむつみあうさま)「繆繞リョウジョウ」(まといつくさま) (2)あやまる(繆る)。まちがえる。(=謬)「繆説ビュウセツ」(=謬説)「乖繆カイビュウ」(あやまりたがう)「繆戻ビュウレイ」(あやまりもとる) 
 ビュウ・あやまる  言部
解字 「言(ことば)+翏(=繆。もつれる)」の会意形声。言葉がもつれて言い間違えること。
意味 あやまる(謬る)。まちがえる。あやまり。「誤謬ゴビュウ」(誤も謬も、あやまる意)「謬説ビュウセツ」(間違った説)「謬見ビュウケン」(間違った見解)
 ロウ・もろみ  酉部
解字 「酉(さけ・発酵する)+翏(=繆。もつれる)」の会意形声。酒が発酵し、器のなかで米や麹がまじりあっている(もつれる)状態。まだ粕を漉していない酒。発音は繆ビュウ・リョウ⇒ロウに変化。
意味 (1)にごりざけ。どぶろく。「濁醪ダクロウ」(濁り酒)「醇醪ジュンロウ」(香りのよい濃い濁り酒) (2)もろみ(醪)。まだかすを漉してない酒や醤油。「醪酒もろみざけ

その他
 リョウ   广部
解字 「广(やね)+翏(リョウ)」の形声。字の構造は寥リョウとほぼ同じであるが、廖は姓を表す字として用いられる。
意味 姓を表す字。「廖仲凱リョウチュウガイ」(清末の革命家)「廖任磊リャオ・レンレイ」(台湾出身のプロ野球選手)
 ※初稿は、2015.4.11、追加および修正2019.1.13


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音符「寿ジュ」<ことぶき・長生き> と「祷トウ」「鋳チュウ」「疇チュウ」「躊チュウ」

2023年07月28日 | 漢字の音符
  増補および改訂しました。
寿[壽] ジュ・シュウ・ス・ことぶき  寸部  

解字 甲骨文は、「うねうねと続く田畑のあぜ道+口口(くち二つ)」で田のあぜ道で口々に作物の豊穣を祝うこと。疇チュウ(あぜ道)の原字であるが、寿の原字でもある。金文は、これに老の略体がつき老人の長命を口々に祝うこと。これにより老人の長命および長命を祝う意となった。篆文は上の口口が「」や「」に簡略化され、さらに口が下についた形。旧字体は、「士+フ+エ+一+口+寸」となった。さらに、新字体は旧字の⇒寿に簡略化された。意味は、甲骨文の豊穣などの、めでたいことを祝う意、および、金文以下の長命を祝う、及び長命の意となる。
意味 (1)ことぶき(寿)。ことほぐ(寿ぐ)。めでたいことを祝う。「寿歌ほぎうた」(祝いたたえる歌)「寿詞よごと」(天皇の御代の長久を祝う言葉)「寿杯ジュハイ」(祝杯) (2)ひさしい。長生きする。「長寿チョウジュ」「寿宴ジュエン」(長寿を祝う宴)「寿賀ジュガ」(長寿の祝い) (3)とし。いのち。よわい。「寿命ジュミョウ」「天寿テンジュ」 (4)当て字。「寿司スシ」(すし)
覚え方  新字体の寿は、「さんのすん(三ノ寸)で、寿
 旧字のは、「さむらい()、笛(フエ)いちインチ(一吋)で

イメージ
 「長生き」
寿・祷
  うねうねと続く田畑の「あぜ道」
  あぜ道が「うねる」
 「形声字」鋳・躊
音の変化  ジュ:寿  チュウ:疇・躊・鋳・籌  トウ:

長生き
祷[禱] トウ・いのる  示部
解字 正字はで「示(祭壇)+(長生き)」の会意形声。長命を神に祈ること。転じて、すべての事を神に祈ることをいう。新字体に準じた祷が使われる。
意味 いのる(祷る)。いのり。「祈祷キトウ」(祈も祷も、いのる意)「黙祷モクトウ」(無言のまま心の中でいのる)「祝祷シュクトウ」(祝福を祈ること。キリスト教で牧師や司祭が礼拝式の終わりにする)

あぜ道
 チュウ・うね・たぐい  田部   

解字 甲骨文は寿と同じ形。うねうねと続く田畑のあぜ道で口々に豊穣を祝う形だが、この字の中心は田畑のあぜ道である。篆文は、田(耕地)がつき、あぜ道の意をはっきりさせた字。現代字は右辺のあぜ道の代わりに音符としてジュ⇒チュウを持ってきた形で、この字に(ことぶき)の意味はない。また、あぜ道で区切られた中がおなじ種類の作物であることから、たぐい(同じもの)の意となる。
意味 (1)うね()。耕地の境。田畑。「田デンチュウ」(田のあぜ。また、耕地)(2)たぐい()。同じ種類。また、分類されたもの。部類。「九疇キュウチュウ」(九つの部類)「洪範九疇コウハンキュウチュウ」(書経の「洪範」篇で述べられている九つの大法。天下をうまく治めるための模範となる政治道徳)「範疇ハンチュウ」(カテゴリー(Kategorie)・ドイツ語)の訳語。事物が属する基本的区分)
檮[梼] トウ・きりかぶ  木部
解字 「木(き)+壽(=疇の略体。うね)」の会意形声。田(耕地)のうね(疇)の片隅の木。この木がなぜ切り株になるのか不明だが、私は童謡「待ちぼうけ」のもとになった説話「守株待兔シュシュタイト(韓非子五蠹(ゴト)篇の説話)」の影響を受けて切り株になったのではないかと思う。それは、この字に「おろか」という意味があるからである。「守株待兔」(株を守り兎を待つ)とは、「昔、宋の国の農民が自分の畑の隅にあった切り株に兎がぶつかり首の骨を折って死んだので、それを持ち帰ってごちそうとして食べた。農民はそれに味をしめ、次の日からは仕事をせず兎を待ったが二度と来なかった。そのために作物は実らず彼は国の笑いものになった」という話である。(切り株と「おろか」という意味を「守株待兔」の話から結びつけた私見です。覚え方としてご理解ください)
意味 (1)きりかぶ()。木を切ったあとの根かぶ。 (2)おろか(か)。「檮昧トウマイ」(檮も昧も、おろかの意)「檮杌トウコツ」(①中国伝説上の悪獣。②おろかな男)(3)[国]地名。姓。「梼原ゆすはら」(①高知県高岡郡の町。②姓のひとつ)

うねる
濤(涛) トウ・なみ  氵部
解字 「氵(水)+(うねる)」の会意形声。水がうねる大きな波。[説文解字]は「大波也(なり)」とする。
意味 なみ()。おおなみ。波立つ。「波ハトウ」(大波。高い波)「怒ドトウ」(荒れ狂う大波)「松ショウトウ」(松風の音を波の音に例える言い方)

形声字
 チュウ・いる  金部
 

溶かした金属を金型に流し込む(工場タイムスより)
解字 甲骨文字は器物を鋳造している様子を表している[甲骨文字辞典]。両手(または二人)で器状のものから、下の皿状の器に丄状のものを入れており、溶かした金属を型に流し込むさまと思われる。金文も同様で、上の器から下の皿に「十と三点」(溶かした金属)を注いでいる。篆文にいたり「金+壽ジュ⇒チュウ」の形声になり、チュウという発音で金属を溶かして鋳造する意味とした。[説文解字]は「銷金ショウキンなり」(金属を溶かす也)とし、清代の[康熙コウキ字典]は「金を銷(とか)し器に成す也」と補足する。旧字のチュウを経て、新字体は鋳になっている。
 この字の変遷は形声字の成り立ちを考えるのにヒントを与えてくれる。つまり、鋳物という実態が先にあって絵のような象形で文字を表していた(その発音はチュウ)が、途中から象形に代えて金(金属)とその発音を表すジュ⇒チュウに変えた字を作って鋳物を表したのである。
意味 いる(鋳る)。金属を溶かして鋳型に流し入れて器物をつくる。「鋳物 いもの」「鋳金チュウキン」(金属を鋳る。=鋳造)「鋳型いがた」「鋳銭チュウセン」(銭を鋳る)「改鋳カイチュウ」(貨幣などを改めて鋳造する)
 チュウ・ためらう  足部
解字 「足(あし)+(チュウ)」の形声。チュウはチュウ(足がとまる)に通じ、足をとめて、ためらうこと。難しい字だが、この字は「踟躕(ちちゅう)」(ためらってうろうろするさま)で張り巡らした巣の上の蜘蛛チチュウ(クモ)の形声の字にもなっている。
意味 ためらう(躊う)。ぐずぐずする。「躊躇チュウチョ」(決心がつかず迷うこと)「躊躇逡巡チュウチョシュンジュン」(躊躇も逡巡も、ためらう意)
 トウ・つく  扌部
解字 「扌(て)+壽(トウ)」の形声。[説文解字注]は「手で椎(う)つ也。一に曰く築(つ)く也」とし、手でうつ・つく意。
意味 (1)つく(く)。キネでつく。(=搗く)。「トウショ」(もちつきのキネ)(2)うつ(つ)。棒でたたく。「トウイ」(衣をうつ。槌で衣をうってやわらかくする)
 チュウ・かずとり  竹部
解字 「竹(たけ)+壽(チュウ)」の形声。[説文解字]は「壺矢つぼや也(なり)。竹に従い壽の聲(声)。(発音は)直由切(チュウ)」とする。壺矢は投壺トウコともいい、壺を地面や床に置き、それに向かって竹の矢を手で投げ入れる遊戯。競技者が決められた数の矢を持ち、一定の距離の所に置いた壺に交互に矢を投げ入れて、入れた矢の本数などで勝敗を決める。矢の数をかぞえるので、かずとり・かぞえる意となり、またかぞえて計算する意から転じて「はかりごと」の意味になった。
意味 (1)かずとり。投壺の矢をかぞえる。計算。「チュウサン」(計算) (2)はかる。はかりごと。「チュウギ」(はかり相談する)「チュウサク」(はかりごと)「チュウカク」(はかりごと)
<紫色は常用漢字>

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音符「力リョク」<ちから> と 「勒ロク」「肋ロク」「筋キン」

2023年07月26日 | 漢字の音符
  増補改訂しました。
 リョク・リキ・ちから  力部

解字  甲骨文字は農具の耜(すき)の象形と推定されている。甲骨文字には出産を意味する用法があり、女性が最も力を入れる行為として用いた引伸義であろう[甲骨文字辞典]。金文で日本の三つまた鍬(くわ)のような形になったが、意味は①力量・気力、②功績・功労、で耜(すき)の意味からは離れている。篆文の[説文解字]は「筋キン也(なり)。人の筋キン之(の)形に象(かたど)る。功を治(おさむ)るを力と曰(い)う」とする。筋は「肉之(の)力也(なり)」としているので、力は人の筋肉のちから(力)であり、さらに功を治める意味にも広がった。もと、農具(スキ)が字源だが、当初から農具で力を出す意味があり、この意味が力(ちから)のほか、はたらき・いきおい・はげむ意などになった。
意味 (1)ちから(力)。「体力タイリョク」「実力ジツリョク」 (2)はたらき。作用。「視力シリョク」「効力コウリョク」「力学リキガク」 (3)いきおい。「勢力セイリョク」 (4)つとめる。はげむ。「努力ドリョク

イメージ 
 「ちから」
(力・筋・朸)
 「形声字」(勒)
  もとの意味である「スキの形」(肋)
音の変化 リョク:力・朸  ロク:勒・肋  キン:筋

ちから
 キン・すじ  竹部

竹ひご(ネットの販売サイトより)
解字 「竹(竹ひご)+月(=肉。にく)+力(ちから)」の会意。肉(月)の収縮により発生する力(ちから)が竹ひごがたくさん集まったような形になったのが筋である。筋は一端が骨の関節付近に腱ケンとなって付き、もう一端が別の関節付近に付いており、筋を収縮させることによって、その力を骨の関節に伝えて身体を動かす。[説文解字]は「肉之(の)力也(なり)。力に従い肉に従い竹に従う。竹は物之(の)多(おおく)の筋の者(こと)」とし、竹は多くの筋の意とする。
意味 (1)きん(筋)。きんにく(筋肉)。からだの肉。「腹筋フッキン」「背筋ハイキン」 (2)すじ(筋)。細長く、かつ何本か連なったものを指す。「筋金すじがね」「鉄筋テッキン」 (3)血のつながり。「血筋ちすじ」「家筋いえすじ
 リョク・ロク・リキ・おうご  木部

朸をにない荷を運ぶ男(『法然上人絵伝』)[日本中世庶民の世界]より
解字 「木(き)+力(ちから)」の会意形声。日本では両端に力がかかる天秤棒である「おうご」をいう。中国では木目・年輪の意。中国の発音lì・リが同音の理lǐ・リ(すじ・すじめ)に通じるからとされる。
意味 (1)木目。年輪。 (2)[国]おうご(朸)。おうこ、ともいう。天秤棒。 

形声字
 ロク・おもがい・くつわ  革部
解字 「革(なめしがわ)+力(リキ⇒ロク)」の形声。[説文解字]は「馬の頭で銜(くつわ)を絡ぶ也」とし、くつわを固定させる革のひもをいう。また、銜(くつわ)の意味もある。これで馬の頭部を制御することから、おさえる・統率する意味に用いる。録ロクに通じ、きざむ意がある。

おもがい[面掛・面懸](「日本国語大辞典 伴大納言絵詞」より)
意味 (1)おもがい(勒)。馬の頭部につけて、口にかませたくつわに結びつける革の紐。面掛・面懸とも書く。[文明本節用集]に「勒 オモガイ 馬勒」とある。 (2)くつわ(勒)。轡(くつわ)とも書く。馬の口にかませ手綱をつける道具。 (3)おさえる。統率する。「勒兵ロクヘイ」(兵を統御する)「懸崖勒馬ケンガイロクバ」(懸崖は絶壁。勒馬は馬の手綱を強く引くこと。あと少しのところで危険に気づいて引き返すこと) (4)きざむ。しるす。「勒名ロクメイ」(銘文に刻する)「勒功ロクコウ」(功績を刻する) (5)梵語の音訳字。「弥勒菩薩ミロクボサツ」(釈迦に継いで仏になる菩薩)

スキの形
 ロク・あばら  月部にく


肋骨ろっこつ(「ヨガジャーナル 日本版編集部」より。薄青色を追加しました。)
解字 「月(からだ)+力(スキの形)」の会意形声。力リョクは田をたがやすスキ(鋤)が原義の字。篆文第一字[説文解字]のスキは力(ちから)の意味に特化した字だが、第二字[説文解字注]はスキのおもかげを残しており、三つまたの鍬(くわ)のような形をしている。[説文解字]は「脅(脇)骨キョウコツ也」とし肋骨(あばらぼね)の意とする。肋骨(あばらぼね)の図の下部(薄青色)は、三つ股(また)の鍬(くわ)の刃に似ている。
意味 あばら(肋)。あばらぼね。「肋骨ロッコツ」(胸を覆い保護する骨。胸を保護し呼吸運動を営む)「肋間ロッカン」(あばら骨のあいだ)「肋膜ロクマク」(肋骨の内側にあって肺の外面をおおう膜)「肋肉ばらニク」「鶏肋ケイロク」(鶏のあばら骨。少しは肉があるので捨てるには惜しい意から、大して役立たないが捨てるには惜しいもの)

力は部首「力ちから」になる。力をいれてする動作などを表す字ができている。
常用漢字で以下の23字がある。
リョク・ちから  部首
カ・くわえる(「力+口」の会意)
コウ・いさお(「力+音符「工コウ」)
レツ・おとる(「力+少」の会意)
ジョ・たすける (「力+音符「且ショ」)
ド・やっこ(力+音符「奴ド」)
励[勵]レイ・はげむ (力+音符「厲レイ」)
労[勞]ロウ・はたらく(「力+熒ケイの略体」の会意)
ガイ・あばく(力+音符「亥ガイ」
コウ・きく(力+音符「交コウ」)
チョク・みことのり(力+音符「束ソク」)
ボツ・おこる(力+音符「孛ボツ」)
ユウ・いさむ(力+音符「甬ヨウ」)
ベン・つとめる(力+音符「免ベン」)
カン・かんがえる(力+音符「甚ジン」)
ドウ・うごく(力+音符「重チョウ」)
ム・つとめる(力+ 音符「敄ム」)
キン・つとめる(力+音符「堇キン」)
ショウ・かつ (力+音符「滕トウの略」)
ボ・つのる(力+音符「莫ボ」)
勧[勸]カン・ すすめる(力+音符「雚カン」)
セイ・いきおい(力+音符「埶セイ」)
勲[勳]クン・いさお(力+音符「熏クン」)
<紫色は常用漢字>

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音符「田デン」<区画された耕地> と 「佃デン」「甸デン」「鈿デン」「男ダン」「畑はた」「畠はた」「鴫しぎ」

2023年07月24日 | 漢字の音符
  増補改訂しました。
 デン・た  田部

解字 甲骨文字は四角く区切った耕作地の象形[甲骨文字辞典]。第1字は細かく区切られた耕作地を描いている。第2字の形が金文以下に受け継がれた。田は耕作地であるが、作物の収穫後は出入りする動物を狩する狩猟地としての意味もある。
意味 (1)た(田)。たはた。耕作地。「田園デンエン」(2)水をはる田。「水田スイデン」「田畑デンばた」(水田と畑)(3)ものがとれる地域。「塩田エンデン」「油田ユデン」(4)いなか。「田舎いなか

イメージ 
 「耕作地」
(田・男・嬲・佃・甸・畋・畑・畠・鴫)   
  耕作地は「たいら」(鈿) 
音の変化  デン:田・佃・甸・畋・鈿  ダン・ナン:男  ジョウ:  はた:畑・畠  しぎ:鴫

耕作地
 ダン・ナン・おとこ  田部

解字 甲骨文字は「田(耕作地)+(スキの形)」の会意。耕作地を表す田と耜(すき)の形で、スキで田地を耕すさまを表している。意味は動詞(耕作することであろう)および祭祀名(農耕儀礼であろう)[甲骨文字辞典]。金文はスキが田の下にはいりこむ形になり、意味は農地の管理者として外服(畿内の外)の諸侯の一つにあげられている[字統]。この管理者がのち爵位をえて男爵となった。篆文になるとスキは力の形になり、[説文解字]は「丈夫(一人前の男子))なり。田に従い力に従う。男は力を田に用いるを言うなり」とし、現在に通じる男(おとこ)の意味になった。
男(おとこ)の意味が成立するまで、「おとこ」はどんな漢字が用いられた?
 漢字辞典で「おとこ」を引くと、男以外に、士・夫・子・郎ロウの5字が出てくる。このうち子は男の子供の意味がつよく、郎ロウは篆文以後の字なので除外すると、士・夫が「おとこ」の意味で使われていたと思われる。士は武士の士。夫は夫婦の夫で対照的な意味をもつ。
意味 (1)おとこ(男)。成年のおとこ。「男子ダンシ」「男性ダンセイ」 (2)むすこ。「長男チョウナン」「嫡男チャクナン」(正室の生んだ長男) (3)世襲的身分である爵位のひとつ。「男爵ダンシャク」(公・侯・伯・子・男の五等の爵位のうちの第五位)
 ジョウ・なぶる  女部
解字 「男(おとこ)+女(おんな)+男(おとこ)」の会意。男二人が女につきまとうこと。
意味 なぶる(る)。うるさくつきまとう。もてあそぶ。
 デン・つくだ  イ部
解字 「イ(人)+田(耕作地)」の会意形声。田を耕す人の意で、他人の農地を耕す農夫(小作人)を言った。日本では「つくだ」「つくりだ」の意味で開墾して作った耕地をいう。また甸デン(かり)に通じ、狩の意味がある。
意味 (1)他人の農地を耕す農夫。田を耕す。「佃戸デンコ」(小作人)「佃作デンサク」(田畑の仕事。農業をする) (2)かり。かりする。「佃漁デンギョ」(鳥獣と魚を狩する) (3)(国)つくだ(佃)。開墾して作った田畑。「佃人つくだびと」(佃を耕作する人)「佃島つくだじま」(もと江戸の隅田川河口の三角州からなる島。江戸初期、摂津(大阪府)西成郡佃村の名主・孫右衛門が漁夫を連れて移住し、郷里の名を島名とした)「佃煮つくだに」(江戸の佃島でつくり始めた魚貝類の煮つめ物)
 デン・テン・かり  勹部

解字 金文は「人(ひと)+田(耕作地)」で、[字通]は「田の傍らに人をそえた形で田野を司る人の意であろう。「周礼」の甸師デンシ(王の籍田を掌する官名)にあたる」とする。楚簡(秦)は、人⇒勹に近くなり、篆文は人が田を取り巻くような形になり、[説文解字]は「天子五百里の地なり」とする。現代字は甸となり、意味は篆文の天子直属の都周辺の土地。そのほか畋デンに通じ、狩りの意がある。
意味 (1)天子直属の都周辺の土地。「甸服デンプク」(天子に服した王城の周囲の地)「畿甸キデン」(畿内) 「甸師デンシ」(王の籍田を掌つかさどる官名) (2)かり(甸り)。かる。「甸役デンエキ」(王が行う田猟とその祭祀) (3)郊外。いなか。
 デン・かり  攵部

解字 甲骨文字は「攴ボク(棒などを手に持つ形)+田(耕作地)」の会意形声。この田は収穫の終わった耕作地の意味で、そこに出没する動物を手に棒などをもち狩をする形。狩猟をする意味を表す。[説文解字]は「田を平らかにするなり」と解釈したため、田を作る意味がある。
意味 (1)かり(畋り)。かる(畋る)。狩をすること。「畋遊デンユウ」(狩りをして遊ぶ)「畋漁デンギョ」(狩猟と魚とり)「畋狩デンシュ」(かり。畋も狩も、かりの意)(2)たつくる。「畋食デンショク」(耕し食う)
<国字> はた・はたけ  田部
解字 「火(ひ)+田(耕作地)」の会意。焼畑のこと。草地や林地を焼いて、その焼跡に種をまいて穀類などを収穫する田地。のち、水田に対して水をはっていない耕地をいう。
意味 (1)はた(畑)。はたけ(畑)。水田に対し水をはっていない耕地。野菜・穀物・果樹などを栽培する。「畑作はたさく」 (2)専門の領域。「医学畑いがくばたけ
<国字> はた・はたけ  田部
解字 「白(乾いている)+田(耕作地)」の会意。白は何もない意があり、ここでは水がなく乾いている意。畠は乾いた田。
意味 はた(畠)。はたけ(畠)。水をはっていない耕地。野菜・穀物などを栽培する。「畠山はたけやま」(姓。地名)
<国字> しぎ  鳥部
解字 「鳥(とり)+田(水田)」 の会意。水田に飛来する鳥。
意味 しぎ(鴫)。水辺に棲み貝・カニ・ゴカイなどを捕食するシギ科の鳥の総称。中国では鷸イツと書く。「田鴫たしぎ」(シギ科タシギ属の鳥。水田によくいることからこの名前がある)「鴫立つ沢しぎたつさわ」(鴫が飛び立つ沢。西行の和歌のフレーズ)

たいら
 デン・テン・かんざし  金部
解字 「金(きん)+田(たいら)」の会意形声。平らに延ばした金の意。黄金をたたいて薄くして作った飾り。[説文解字]は「金の華はな也(なり)」とし、薄い金でできた華のような飾りとする。のち、貝を薄くして飾る細工にも言う。
意味 (1)かんざし(鈿)。金の華飾り。「鈿嬰デンエイ」(金でかざった首飾り。嬰は首飾り)「鈿車デンシャ」(金や薄い貝で飾った車)(2)貝をはめこんだ飾り。かいかざり。「螺鈿ラデン」(夜光貝などの巻貝を薄くしてはめ込んだ細工)「鈿椅デンイ」(螺鈿で飾った椅子)

参考 田は部首「田た・たへん」になる。主に漢字の左辺(偏)や下部に着いて耕作地や土地を区切る意味を表す。常用漢字は以下の19字だが、このうち甲コウ・由ユウ・申シンは字形に田が含まれているだけで田の意味はない。また畏・異の田は鬼の面を表している。
常用漢字 19字
 田デン(部首)
 畏イ・おそれる(田を含む象形)
 異イ・ことなる(田+共の会意)
 画ガ・カク・え(田を含む会意。畫カクの省略形)
 界カイ・さかい(田+音符「介カイ」)
 畿キ・ほとんど(田+音符「幾キ」)
 甲コウ・きのえ(田を含む象形)
 畳ジョウ・たたみ(田を含む会意)
 申シン・もうす(田を含む象形)
 男ダン・おとこ(力+音符「田デン」)
 畜チク(田+玄の会意)
 町チョウ・まち(田+音符「丁チョウ」)
 畑はた(田+火の会意)
 畔ハン・ほとり(田+音符「半ハン」)
 番バン(田を含む会意)
 畝ホ・うね(田を含む会意)
 由ユウ・よし(田を含む象形)
 留リュウ・とまる(田+音符「丣リュウ」)
 略リャク・はかる(田+音符「各カク」)
  このうち、畏・異・甲コウ・申シン・畜チク・番バン・由ユウ・留リュウは音符となる。
<紫色は常用漢字>

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音符「鳥チョウ」 <とり>「蔦チョウ」「梟キョウ」「島トウ」「搗トウ」 「鳴メイ」 と 「烏ウ」「嗚オ」

2023年07月22日 | 漢字の音符
  改訂しました。
 チョウ・とり  鳥部            

解字 甲骨文から現在の字形まで、とりの形を写実的に描いた象形。現在の字形は上部が鳥の目を含む頭部、その下が羽と脚が変化した形。鳥は部首になる。
意味 とり(鳥)。鳥類の総称。「益鳥エキチョウ」「鳥瞰チョウカン」(鳥が眺めるように)「愛鳥アイチョウ」「鳥肌とりはだ
参考 鳥は部首「鳥とり」になる。漢字の右辺(旁)や下部に付いて、鳥の種類や鳥の行動を表す。常用漢字で4字、約14,600字を収録する『新漢語林』では209字が収録されている。主な字は以下のとおり。 
常用漢字 4字
 チョウ・とり(部首)
 カク・つる(鳥+音符「隺カク」)
 鶏[鷄]ケイ・にわとり(鳥+音符「奚ケイ」)
 メイ・なく(鳥+口の会意)
常用漢字以外
 オウ・かも(鳥+音符「甲コウ」)
 ガ・がちょう(鳥+音符「我ガ」) 
 キュウ・はと(鳥+音符「九キュウ」) 
 ロ・さぎ(鳥+音符「路ロ」)など
 
イメージ  
 「とり」
(鳥・鳴・島・梟・蔦) 
 「形声字」(搗)
音の変化  チョウ:鳥・蔦  キョウ:梟  トウ:島・搗  メイ:鳴

と り
 メイ・なく・なる・ならす  口部
解字 「口(くち)+鳥(とり)」の会意。鳥が口から声を出して鳴くこと。広く鳥獣が声を出す意、また音を発する意にも用いる。
意味 (1)なく(鳴く)。鳥獣のなき声。「鶏鳴ケイメイ」「鶴鳴カクメイ」(鶴の鳴き声) (2)声を出す。「悲鳴ヒメイ」 (3)なる(鳴る)。ならす(鳴らす)。なりひびく。「雷鳴ライメイ」「鳴動メイドウ」「鳴琴メイキン」(琴をかなでる)
[嶋] トウ・しま  山部
解字 旧字は嶋で「山(やま)+鳥(とり)」の会意。渡り鳥が飛行の途中でやすむ、海にうかぶ山。つまり、「しま」のこと。新字体は旧字の鳥の灬を略し、そこに山を入れた。
解字 しま(島)。「離島リトウ」「群島グントウ」「島嶼トウショ」(小さな島々の集まり)
 キョウ・ふくろう・さらす  木部
解字 「木(き)+鳥の略体」の会意。鳥を木にさらした形でフクロウの意。フクロウは小さな哺乳類や小鳥を餌にする猛禽類の鳥。小鳥に穀物を荒らされるのを防ぐため、農民がフクロウの屍骸を木にさらして小鳥を脅したことから、この字ができた。フクロウ・さらす意となる。
意味 (1)ふくろう(梟)。 (2)さらす(梟す)。さらし首にする。「梟首キョウシュ」(さらしくび) (3)強い。たけだけしい。「梟雄キョウユウ」(強いが残忍な人物)
 チョウ・つた  艸部
解字 「艸(草木)+鳥(とり)」の会意形声。鳥が木の実を食べ、その糞が木の枝などで発芽し成長した草木が原義。樹木に寄生するヤドリギのような寄生植物をいう。日本では、つたをいう。
意味 (1)[国]つた(蔦)。ブドウ科のつる性の落葉植物。「蔦漆つたうるし」(ウルシ科のつる性植物)「蔦紅葉つたもみじ」(紅葉した蔦) (2)他の樹木に寄生する小さな低木。「蔦(ヤドリギ)與(と)女蘿ニョラ(糸状のコケ類)は松(まつ)や柏(このてがしわ)于(に)施(たよ)る」(「詩経・小雅」の頍弁シベン

形声字 
 トウ・つく・かつ  扌部
解字 「扌(手)+島(トウ)」の形声。同音であるトウ(つく)の俗字。画数が多い擣に代わり島トウを用いた字。トウは擣トウ(つく)に通じ、手にもったキネで臼をつくこと。
意味 (1)つく(搗く)。うすでつく。かつ(搗つ)。「搗臼トウキュウ・つきうす」「搗精トウセイ」(玄米をついて白くする)「搗栗かちぐり」(栗の実を臼でつき皮と渋皮を除いたもの。勝栗とも書く) (2)たたく。うつ。砧(きぬた)にのせて布をうつ。「搗衣トウイ

    ウ <からす>
 ウ・オ・からす・いずくんぞ  灬部

解字 鳥から一画を欠いた字。からすは体が黒く目がどこにあるか分からないので鳥の字の目にあたる部分の一画を欠いた[角川新字源]。
意味 (1)からす(烏)。「烏合ウゴウの衆」(規律も統制もない群衆、また軍勢)「烏集ウシュウ」(秩序もなく集まること)「烏兎ウト」(中国の伝説で、太陽には烏が、月には兎がすむとされたことから太陽と月をいう。また、歳月・月日の意) 「烏喙ウカイ」(カラスのようなくちばし。欲深い人相の例え) (2)黒い。「烏龍茶ウーロンチャ」(カラスのように黒く龍の爪のように曲がって仕上がる中国茶)「烏賊いか」(黒いスミをはいて賊から逃げるイカ) (3)ああ。感嘆・嘆息の声。「烏乎ああ」(4)なんぞ(烏ぞ)。いずくんぞ(烏くんぞ)。反語の意をあらわす。 (5)「烏滸オコ」とは、中国南方の広西壮族自治区の先住民の別称。現地の発音を漢字におきかえた語。この先住民は風俗・習慣とも中国先進地帯と異なるため見下す意となり、おろか・ばか・たわけの意味で使われる。「烏滸(おこ)がましい」(①ばかげている。②差し出がましい)

イメージ 
 「からす」(烏)
 「オの音」(嗚)
音の変化 ウ・オ:烏  オ:嗚

オの音
 オ  口部
解字 「口(くち)+烏(オの音)」の形声。口から出すオという音。嘆息や感嘆の声を表す。
意味 (1)ああ。ため息や感嘆のこえ。「嗚呼(オコ)ああ」(ため息や感嘆の声)(2)なげく。いたむ。「嗚咽オエツ」(むせび泣くこと)
<紫色は常用漢字>

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音符「冎カ」と「骨コツ」<ほね>「榾コツ」「鶻コツ」「滑カツ」「猾カツ」

2023年07月20日 | 漢字の音符
  増補しました。
 カ   冂部

解字 甲骨文第1字は、肩甲骨の象形。中国では家畜の肩甲骨(および亀の腹甲)を用いて占卜が行なわれていた。そのため骨の意味を表すのに肩甲骨が選ばれた。甲骨文第2字は、異体字で手足の骨であろう[甲骨文字小字典]。第2字は、手ないし足の骨が連結した形をしている。金文第一字は過の字から該当部分を抜き出したもの、第二字は禍から抜き出したもので、篆文の冎へとうまくつながる。したがって冎は、手足の骨が関節によってつながるさまの象形で、骨の原字である。
意味 ほね。手足のほね。手足の関節。

   コツ <手足の骨に筋肉がつく>
 コツ・ほね  骨部              

解字 篆文は、「冎(手足の骨が連結した形)+月(筋肉)」の会意。手足の骨に筋肉がついた形で、筋肉によって骨が自由に動くさまを表す。意味は骨・骨組みを表わすが、音符に用いられるときは、筋肉によって手足の骨がなめらかに動くことから「なめらかに動く」イメージをもつ。
意味 (1)ほね(骨)。人や動物のほね。ほねぐみ。「骨格コッカク」「骨盤コツバン」 (2)からだ。「老骨ロウコツ」「病骨ビョウコツ」 (3)物事のほねぐみ。かなめ。「骨子コッシ」「鉄骨テッコツ」 (4)人柄。気質。「気骨キコツ」「反骨ハンコツ
参考 コツは、部首「骨ほね」になる。漢字の左辺に置かれて骨の意味を表す。『新漢語林』では40字が収録されている。主な字は以下のとおり。
常用漢字  3字
 コツ・ほね(部首)
 ガイ・むくろ(骨+音符「亥ガイ」)
 ズイ(骨+音符「随ズイの略体」)
常用漢字以外の主な字 
 トウ・さいころ(骨+音符「殳(=投トウ。なげる)」)
 ドク(骨+音符「蜀ショク」)
 ヒ・もも(骨+音符「卑ヒ」)
 (骨+音符「婁ロウ」)ほか
 ※髑髏ドクロとは、風雨にさらされ白骨になった頭蓋骨。されこうべ。しゃれこうべ。

イメージ 
 「ほね」
(骨・榾)
  手足の骨が筋肉によって「なめらかに動く」(滑・猾・鶻)
音の変化  コツ:骨・榾・鶻  カツ:滑・猾

ほね
 コツ・ほた  木部
解字 「木(き)+骨(ほね)」の会意形声。骨のような棒ぎれ。
意味 ほた(榾)。ほだ。木のきれはし。「榾木ほたぎ」(椎茸を栽培するために切った木)「榾火ほたび」(ほたをたく火。たきび)

なめらかに動く
 カツ・コツ・すべる・なめらか  氵部
解字 「氵(みず)+骨(なめらかに動く)」の会意形声。水が表面を覆ってツルツルし、すべるようになめらかに動くこと。
意味 (1)なめらか(滑らか)。「円滑エンカツ」「潤滑油ジュンカツユ」 (2)すべる(滑る)。「滑降カッコウ」(滑り降りる)「滑空カックウ」(発動機を使わずに行なう飛行) (3)みだす。「滑稽コッケイ」(おもしろおかしい)
 カツ・わるがしこい  犭部
解字 「犭(いぬ)+骨(なめらかに動く)」の会意形声。犬がなめらかに動き回ること。するりと逃げ回るさまから人に移して、ずるい・わるがしこい意となる。
意味 (1)みだれる。みだす。 (2)ずるい。わるがしこい(猾い)。「狡猾コウカツ」(わるがしこい。ずるい)「老猾ロウカツ」(世知にたけてずるい)
 コツ・はやぶさ  鳥部
解字 「鳥(とり)+骨(なめらかに動く)」の会意形声。なめらかに動く鳥で、はやぶさをいう。
ハヤブサのオスが飛ぶ
(「日本全国の山・川・海に生息している野鳥達に会えるサイト」より)
意味 (1)はやぶさ(鶻)。隼とも書く。動物食の猛禽類。かむりどり。狩猟に用いる。「鶻隼コツシュン」(はやぶさ。鶻も隼も、はやぶさの意)「鶻場コツバ」(鶻の狩場) (2)いかるが。イカルの別称。大きな黄色いくちばしを持ち堅い木の実や草の実をくだいて餌にする鳥。「鵤いかる」(国字)とも書く。「鶻鳩いかるが」 (3)「回鶻カイコツ」とは、中国の北方・西方のトルキスタンに住んでいた民族の名。ウィグル族。
<紫色は常用漢字>

<関連音符>
 カ  口部

解字 冎は、手足の骨が連続してつながる形で、ここでは関節部分をさす。そこに口のついた咼は、関節部分がまるいことを表し、関節の先端が、とびでてまるい意と、それを受けるへこんでまるい部分をいう。具体的には、大たい骨のまるい上部とそれを受ける骨盤の骨臼をさすものと思われる。咼を音符に含む字は、関節の骨の一方のくぼんだ「まるい穴」、骨の一方のまるく出た「まるい山形」のイメージをもつ。
イメージ 
 「まるいくぼみや穴」
(渦・鍋・堝・窩・禍)
 「まるい山形」(蝸) 
 「その他」(過)
音の変化  カ:渦・鍋・堝・禍・窩・蝸・過
音符「咼カ」

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音符「非ヒ」<互いに背を向けた人>と「悲ヒ」「扉ヒ」「俳ハイ」「排ハイ」「輩ハイ」「罪ザイ」

2023年07月18日 | 漢字の音符
 ヒ・あらず・そしる  非部

解字 甲骨文字は、頭部を強調した人が互いに背を向けた姿の象形[甲骨文字小字典]。背を向け合って相手を拒否しているので、否定の意味に、また転じて悪い意に使われる。篆文から形が変化 し、現代字は非になった。
意味 (1)あらず(非ず)。~でない。否定を表わす助字。「非常ヒジョウ」「非凡ヒボン」「非才ヒサイ」(才能のうすいこと。=菲才。) (2)正しくない。わるい。過ち。「非行ヒコウ」「非道ヒドウ」 (3)そしる。「非難ヒナン

イメージ  
 「わるい・あらず」
(非・罪・匪・榧・誹・蜚)
  人が「左右に分かれる」(扉・排・俳・悲・徘)
  人が「左右にいる」(輩・斐・琲・靡)
 「形声字」(腓・菲・緋・翡)
音の変化  ヒ:非・匪・榧・誹・蜚・扉・悲・斐・琲・腓・菲・緋・翡  ビ:靡  ザイ:罪  ハイ:排・俳・徘・輩

あらず・わるい
 ザイ・つみ  罒部よこめ
解字 「罒(法のあみ)+非(わるい)」の会意。罒は网モウの変形で網の意。悪事を働き法の網にかかること。
意味 つみ(罪)。つみする。「罪人ザイニン」「犯罪ハンザイ」「罪名ザイメイ
 ヒ・あらず  匚部はこがまえ
解字 「匚(かくれる)+非(わるい者)」の会意形声。隠れ住んでいる悪者。
意味 (1)わるもの。「匪賊ヒゾク」(徒党を組んで掠奪などをする盗賊)「匪徒ヒト」(=匪賊) (2)あらず。否定の助字。「匪石之心ヒセキのこころ」(石のように転がることのない心。自分の信念を堅く守ること)
 ヒ・かや  木部
解字 「木(き)+匪(かくれ住む)」の形声。耐陰性が強く樹林内部であまり日の当たらないところでも育つことができる木。
意味 かや(榧)。イチイ科の常緑高木。成長は遅いが寿命は長い。実は食用・薬用となり、また油を搾る。材は堅く最高の碁盤の材料となる。「榧実ヒジツ」(榧の種子。漢方薬や食用とする)
 ヒ・そしる  言部
解字 「言(いう)+非(わるい)」の会意形声。悪口を言うこと。
意味 そしる(誹る)。悪口をいう。「誹謗ヒボウ」(誹も謗もそしる意)
 ヒ  虫部
解字 「虫(むし)+非(わるい)」の会意形声。悪い虫。稲などにつく害虫。また、飛に通じ、飛ぶ意がある。
意味 (1)あぶらむし。ごきぶりのなかま。「蜚ヒレン・ごきぶり」 (2)とぶ(蜚ぶ)。「蜚鳥ヒチョウ」(飛鳥)「蜚語ヒゴ」(作りごとをいいふらす。=飛語)「流言蜚語リュウゲンヒゴ」(デマ)

左右に分かれる
 ヒ・とびら  戸部
解字 「戸(出入り口)+非(左右に分かれる)」の会意形声。左右に分かれて開くとびら。
意味 とびら(扉)。開き戸。「門扉モンピ」(門のとびら)「開扉カイヒ
 ハイ  扌部
解字 「扌(手)+非(左右に分ける)」の会意形声。手で左右に押しのけること。また、配ハイ(ならべる)に通じ、並べる意味もある。
意味 (1)おしのける。しりぞける。「排斥ハイセキ」「排外ハイガイ」 (2)ならぶ。つらねる。「排列ハイレツ」「按排アンバイ」(ほどよく並べる)
 ハイ  イ部
解字 「イ(人)+非(左右に分かれる)」の会意形声。左右に分かれて掛けあいの芸をする人。もと、二人が組になり、おどけて笑わせる道化の芸人。
意味 (1)わざおぎ。役者。「俳優ハイユウ」 (2)おどけ。たわむれ。「俳諧ハイカイ」(①おどけ・たわむれ。②滑稽味を帯びた和歌) (3)俳句のこと。「俳壇ハイダン」「俳聖ハイセイ」(特に松尾芭蕉をいう)
 ヒ・かなしい・かなしむ  心部
解字 「心(こころ)+非(左右に分かれる)」の会意形声。心が左右に裂けた状態をいう。
意味 (1)かなしい(悲しい)。かなしむ(悲しむ)。「悲哀ヒアイ」(悲しく哀れ)「悲運ヒウン」 (2)[仏]あわれみの心。「慈悲ジヒ」(あわれみいつくしむ心)「悲願ヒガン」(①仏が、その慈悲心から発する願い。②どうしても達成したい願い)
 ハイ  彳部
解字 「彳(ゆく)+非(左右に)」の会意形声。左右に行ったり来たりする。
意味 さまよう。ぶらぶら歩く。「徘徊ハイカイ」(歩きまわる)

左右にいる
 ハイ・やから  車部  
解字 「車(くるま)+非(左右にいる)」の会意形声。車が左右に並ぶこと。車に乗る者同士が並ぶので、仲間の意となる。
意味 ともがら。やから(輩)。なかま。「先輩センパイ」「後輩コウハイ」「輩出ハイシュツ」(才能のある者が続々と世にでる)
 ヒ・あや  文部
解字 「文(もよう)+非(左右にならぶ)」の会意形声。文様が続いて並ぶこと。
意味 (1)あや(斐)。文様が並んで美しいさま。「斐然ヒゼン」 (2)地名。「甲斐国かいのくに」(山梨県の旧国名。甲州)
 ヒ・ハイ  玉部
解字 「王(玉)+非(左右にならぶ)」の会意形声。並んでつながる玉飾り。
意味 (1)玉を連ねた飾り。 (2)コーヒーの音訳字。「珈琲コーヒー」(中国では咖啡と書く)
 ビ・ヒ・なびく  非部
解字 「麻(麻の皮)+非(左右にならぶ)」の会意形声。繊維をとるため精製した麻皮を乾燥させるため竹竿に並べ干したかたち。その麻皮が風にゆれるさまをいう。部首は本来「麻」のはずだが、なぜか非になっている。
意味 (1)なびく(靡く)。風などになびく。「風靡フウビ」(風になびく。風が草をなびかすように、その時代の人々をなびき従わせること)「一世を風靡する」 (2)ある者の意思にしたがう。「権威に靡く」

形声字
 ヒ・こむら  月部にく
解字 「月(からだ)+非(ヒ)」の形成。[説文解字]は「脛(すね)の腨(こむら)也(なり)。肉(月)に従い非の聲(声)」とし、脛(すね)の後ろのふくらんだ所である「ふくらはぎ(こむら)」をいう。
意味 こむら(腓)。ふくらはぎ。すねの後ろのふくらんだところ。「腓返(こむらがえ)り」(こむらが急にけいれんすること)「腓骨ヒコツ」(脛すねの外側背面の細い骨)
 ヒ・うすい  艸部
解字 「艸(くさ)+非(ヒ)」の形声。①[説文解字]は「芴コツ(大根やかぶらの類)也。艸に従い非の聲(声)」とする。②あらず(非ず)に通じ、非才⇒菲才のように菲を用いて、うすい・すくない・うすい意味をあらわす。③非(左右)に通じ、草が左右にはびこる意で用いる。
意味 (1)野菜の名。大根やかぶらの類。 (2)うすい(菲い)・すくない。「菲才ヒサイ」(わずかな才能)「浅学センガク菲才」(学問が浅く、わずかな才能。自己を謙遜して言う)「菲陋センロウ」(わずかな才能といやしい身分)「菲食ヒショク」(粗末な食べ物) (3)草が左右にはびこる。「菲菲ヒヒ」(草木が盛んに茂り香りがただよう)「芳菲ホウヒ」(草花が芳しいこと。またその香り)
 ヒ・あか  糸部
解字 「糸(ぬの)+非(ヒ)」の形声。ヒという名の色のぬの。濃い赤色の絹をいう。転じて、赤い色の意。非のイメージは不明。
意味 (1)あか(緋)。こい赤色。ひいろ。「緋鯉ヒゴイ」「緋色ヒイロ」 (2)あかい絹。
 ヒ  羽部
 カワセミ(ウィキペディアより)
解字 「羽(はね)+非(=緋。あかい)」の会意形声。腹部の羽毛があかい鳥。
意味 「翡翠かわせみ」に用いる字。「翡翠かわせみ」とは、腹部の羽毛があかく(翡)、つばさの羽が緑色(翠)の水辺に生息する小鳥。
「翡翠ヒスイ」とは、カワセミの羽に似た鮮やかな翠緑色(みどりいろ)の玉。装身具・装飾品として用いられる。
<紫色は常用漢字>

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音符「空クウ」<中身がない> と 「控コウ」「腔コウ」「倥コウ」

2023年07月16日 | 漢字の音符
 クウ・コウ・そら・あく・あける・から  穴部      

解字 金文から現代字まで「穴(よこあな)+工(ノミの形)」の会意形声。ノミで開けた穴のかたち。原義は横穴の空間を表す。のち、空間の意から転じて「そら」の意味ができた。
意味 (1)から(空)。うつろ(空ろ)。あく(空く)。何もない。中身がない。「中空チュウクウ」「空間クウカン」「架空カクウ」 (2)むなしい。そらごと。「空想クウソウ」「空虚クウキョ」 (3)そら(空)。宇宙。「大空おおぞら」「天空テンクウ

イメージ  
 「中身がない・から」
(空・腔・倥)
 「形声字」(控・箜)
音の変化  クウ:空  ク:箜  コウ:控・腔・倥

中身がない・から
 コウ・クウ  月部にく
解字 「月(からだ)+空(から)」の会意形声。体内の中空になっている部分。
意味 (1)体内の中空になっている部分。「口腔コウコウ・コウクウ」(口から喉の入口までの部分)「鼻腔ビコウ・ビクウ」(鼻の奥の空間)「腹腔フクコウ・フククウ」(腹部の内側の空間。内部に肝臓・胃・腸・脾臓ヒゾウなどを収める) (2)からだ。身のうち。「満腔マンコウ」(満身。からだ全部)
 コウ・クウ  イ部
解字 「イ(ひと)+空(中身がない)」の会意形声。中身がない人。おろかなさま。物事をしそこなう人から、いそがしい・あわただしい意ともなる。
意味 (1)おろか。無知なさま。ぬかる。しそこなう。「倥侗コウドウ」(倥も侗も、おろかの意) (2)いそがしい。あわただしい。「倥偬コウソウ」(あわただしいさま)「戎馬倥偬ジュウバコウソウ」(戎馬は武器と兵馬。戦場であわただしく走り回るさま)

形声字
 コウ・ひかえる  扌部
解字 「扌(手)+空(コウ)」の形声。[説文解字]は「引く也(なり)。手に従い空の聲(声)」とし、弓などを引く意。また手でひいて馬を制御する(コントロールする)意となる。さらに、告コウ・コク(つげる)に通じ、つげる意となる。日本では、「ひかえる」と訓をつけ、いろんな意味で用いている。
意味 (1)引く。弓をひく。「控弦コウゲン」(弓の弦をひく) (2)さしひく。「控除コウジョ」(さしひく。ひきさる。控も除も、ひく意) (3)制御する。コントロールする。「控制コウセイ」(コントロールする)「控御コウギョ」(自由にあやつり制御する) (3)つげる。うったえる。「控訴コウソ」(訴えをつげる。裁判用語では一審の判決を不服とする場合に上級裁判所に訴えをつげること)「控告コウコク」(うったえ出る)(4)[国]ひかえる(控える)。①とどまる。近くにいる。「控室ひかえしつ」②わすれないように書き留める。「控えをとる」③少なめにする。度をこさない。「塩分控えめ」
 ク・コウ  竹部
解字 「竹(たけ)+空(ク・コウ)」の形声。もと「空侯クゴ(コウコウ)」とよばれた楽器に、竹かんむりを付けて楽器の「箜篌クゴ(コウコウ)」をあらわす字。
意味 「箜篌くご」とは、ハープに似た弦楽器。かかえて両手でかき鳴らす。「竪箜篌たてくご」ともいう。別名「百済琴くだらごと

「箜篌くご(信西古楽図)(日本国語大辞典より)
<紫色は常用漢字>

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音符「未ミ」<こずえの枝葉> と「味ミ」「魅ミ」「妹マイ」「昧マイ」と「制セイ」「製セイ」

2023年07月14日 | 漢字の音符
 増補改訂しました。
 ミ・ビ・いまだ・ひつじ  木部

解字 甲骨文から篆文まで、木のこずえの枝葉が上にのびてゆく形の象形で、わかい・まだのびきらない意から、「いまだ・まだ」の意味をしめす。また、「いまだ~せず」の否定の意にもなる。また、これらの意味と関係なく、十二支の八番目(ひつじ)に仮借カシャ(当て字)された。現代字は上の枝葉が短い一で表されている。
意味 (1)いまだ(未だ)。まだ。いまだ~せず。いまだし。「未開ミカイ」「未熟ミジュク」「未詳ミショウ」 (2)ひつじ(未)。十二支の第八位。「未申ひつじさる」(十二支で表した方角で、南西をいう)

イメージ 
 「いまだ~せず」
(未・昧・眛・妹・寐) 
  こずえの枝は下から見上げると「かすか・はっきりしない」(味・魅)
音の変化  ミ:未・味・魅  マイ:昧・眛・妹  ビ:寐

いまだ~せず
 マイ・くらい  日部  
解字 「日(ひ)+未(いまだ~せず)」の会意形声。日がまだ昇ってこない。即ち暗い意となる。
意味 (1)くらい(昧い)。夜明けのうす暗いとき。「昧旦マイタン」(夜明け) (2)はっきりしない。「曖昧アイマイ」 (3)おろか。「愚昧グマイ」「蒙昧モウマイ」(物事の道理にくらい) (4)「三昧サンマイ」とは、仏教用語で、もろもろの縁を切って静かな定ジョウに入ること。「修行三昧」。転じて、「読書三昧」「贅沢三昧ゼイタクザンマイ」のような使われ方もする。
 マイ・バイ・くらい  目部
解字 「目(め)+未(=昧の略体。くらい)」の会意形声。くらくて目がよく見えないこと。
意味 くらい(眛い)。暗くてはっきり見分けられない。目がよく見えない。
 マイ・いもうと  女部
解字 「女(おんな)+未(いまだ~せず)」の会意形声。姉とくらべまだ成育していない女。
意味 (1)いもうと(妹)。年下の女きょうだい。「姉妹シマイ」 (2)年少の女性や妻を呼ぶ言葉。いも(妹)。「妹背いもせ」(愛し合う男と女。夫婦)
 ビ・ミ・ねむる・ねる  宀部
解字 「宀(たてもの)+爿(ベッド)+未(いまだ~せず)」の会意形声。爿はここで木製のベッドの意。建物の中のベットで人がまだ目覚めていない状態をいう。ねむる。眠った状態。
意味 (1)ねむる(寐る)。ねる(寐る)。⇔寤(めざめる)。「寐語ビゴ」(ねごと)「寐息ビソク」(ねいき)「夢寐ムビ」(眠って夢を見ること。また、その間)「寝寐シンビ」(ねむる。寝も寐も、ねむる意)「寤寐ゴビ」(ねてもさめても)「寤寐思服ゴビシフク」(寝ても覚めても心に思って忘れない)

かすか・はっきりしない
 ミ・あじ・あじわう  口部
解字 「口(くち)+未(かすかな)」の会意形声。食べたとき口の中で感じるかすかで微妙な味わい。
意味 (1)あじ(味)。あじわう(味わう)。「味覚ミカク」「五味ゴミ」「珍味チンミ」 (2)物事のおもむき・あじわい。「趣味シュミ」「玩味ガンミ
 ミ  鬼部
解字 「鬼(おに)+未(はっきりしない)」の会意形声。何とも得体のしれない妖怪。
意味 (1)もののけ。すだま。ばけもの。「魑魅チミ」(山の怪物。すだま)「魑魅魍魎チミモウリョウ」(山の怪物や川の怪物。さまざまのばけもの) (2)みいる(魅入る)。人の心を惹きつけて迷わす。「魅惑ミワク」「魅了ミリョウ」「魅力ミリョク


    セイ <枝葉の茂る木を切りそろえる>
 セイ・おさえる  刂部りっとう

枝葉の茂る木を刀(ハサミ)で切りそろえる。

解字 篆文は「刂(刀)+未(木の枝葉)」の会意。未は枝葉の茂る木の形で、制はそれを刀で切りそろえること。木の形を整える意となる。転じて、ものをコントロールする意味にもなる。字形は漢代の役人などが用いた隷書第一字で上の枝が角張り、第二字で角張りが片方だけになり、現代字で片方の角張り⇒ノ、下部が冂に変化した制になった。
意味 (1)したてる。つくる。「制作セイサク」 (2)おさえる(制える)。「制限セイゲン」「規制キセイ」 (3)おさめる。したがわせる。「制御セイギョ」 (3)とりきめる。さだめる。きまり。「制定セイテイ」「制度セイド」「税制ゼイセイ

イメージ 
 枝葉の茂る木を「切りそろえる」(制・製)
 意味(2)の「おさえる」 (掣)
音の変化   セイ:制・製・掣
 
切りそろえる   
 セイ・つくる  衣部
解字 「衣(ころも)+制(切りそろえる)」の会意形声。布を切りそろえて衣に仕立てること。
意味 つくる(製る)。こしらえる。たつ。仕立てる。「製作セイサク」「製図セイズ」「製造セイゾウ」「木製モクセイ」「縫製ホウセイ」(縫って仕立てる)

おさえる
 セイ・ひく  手部
解字 「手(て)+制(おさえる)」の会意形声。手で相手をおさえること。制の意味の一つである「おさえる」意を、手をつけて限定した字。
意味 手でおさえて自由にさせない。ひく(掣く)。おさえる。ひきとどめる。「掣肘セイチュウ」(肘をおさえる。相手の肘をおさえて自由にさせない)「掣肘セイチュウを加える」(相手に干渉して自由な行動を妨げること)
<紫色は常用漢字>

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音符 「鹵ロ」 <袋にいれた塩> と 「滷ロ」

2023年07月12日 | 漢字の音符
  鹵ロの解字を改めました。
 ロ・しお  鹵部

解字 甲骨文字は袋に塩を入れた状態を表しており、①しお(塩)、②祭祀名、③地名またはその長、の意味がある[甲骨文字辞典]。金文は全体が丸みを帯びた形になり、篆文は四角になり上にトがつき、現代字は鹵になった。意味は塩および塩分を含んだ土地などを表す。
意味 (1)しお(鹵)。天然の塩。しおち。塩分を含んだ土地。「鹵田ロデン」(塩分を含むやせ地)「沢鹵タクロ」(地下水に塩分があって、植物のはえない土地) (2)(やせ地にすむ人をさげすんで)おろか。間抜け。質があらい。「鹵莽ロモウ」(①塩分を含んだ土地と草深い野原。土地の荒れ果てていること。②軽率で不用心。粗略。)「粗鹵ソロ」(粗末で役に立たない) (3)(貴重な塩を)うばう。「鹵獲ロカク」(敵の軍用品などを奪い取る)

イメージ 「しお」(鹵・滷)
音の変化  ロ:鹵・滷

し お
 ロ  氵部
解字 「氵(みず)+鹵(しお)」の会意形声。鹵(しお)から垂れてくる水の意で、にがりをいう。また、塩からい水の意。以前の日本の塩は海水から作っていたため精選されてない塩はベタベタしていた。この塩を円錐形の籠(塩入れ籠・塩手籠)に入れて吊るしておくと苦汁(にがり)が垂れてくるので下に皿をおいて受けた。

塩取り籠(塩入れ籠・塩手籠)(「竹虎四代目がゆく」より)
意味 (1)にがり。苦汁とも書く。「滷水にがり」(①原塩の貯蔵中に湿気を吸って溶けてくる苦味のある液。②海水を煮つめ製塩した後に残る母液)。(2)しおからい水。(3)濃い汁につけた食品。「茶滷チャロ

<参考>
塩[鹽] エン・しお  土部
解字 旧字は、「鹵(塩を袋に入れた形の象形:しお)+監(水かがみのうつわ)」の会意形声。うつわの中に塩田で濃くした海水を入れて煮つめて作る塩。新字体は、から臣を取り、さらに鹵⇒口に略したものに、土へん(塩を含んだ塩田の土)を加えた。鹵は塩を袋に入れた形。煮つめて作る塩を表す字が鹽エンである。

濃い海水を煮つめてつくる塩(中国ネットから。原サイトなし)
意味 (1)しお(塩)。「塩田エンデン」「食塩ショクエン」(2)塩素。「塩酸エンサン
音符「監カン」を参照。

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