漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「辥ゲツ・セツ」 <足切りの刑罰>と「櫱ゲツ」「孼ゲツ」「糵ゲツ」「薛セツ」

2019年04月24日 | 漢字の音符
 ゲツ・セツ  辛部

 甲骨文第1字は、「𠂤タイ+䇂ケン(刃物の象形)」の形。𠂤タイは切り取った足の肉であり、これに刃物の䇂ケンを加え、おそらく足首を切断する刑罰を表している。第2字は𠂤タイの上に足の形の止をくわえ、右辺は䇂ケンの下部が湾曲した形。甲骨文字では罪科から転じて祟りの意味で用いられている[甲骨文字辞典を要約させていただいた]。金文で第2字の形が引き継がれ、右辺は辛に変化した(止と辛のあいだに切断をしめす横線が入っている)。篆文で足の形である止⇒屮に変化した辥になった。意味は後漢の[説文解字]が「(つみ)也(なり)」としており罪科の意。また甲骨文字の祟りの意は、子がついたゲツに残っている。
意味 (1)罪科。 (2)たたり

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 「足元を切られる」
 ゲツの意味の「ひこばえ」孼・糵
 「セツの音」(薛)
発音の変化 ゲツ:櫱・孼・糵  セツ:薛

櫱[蘖] ゲツ・ひこばえ  木部
ひこばえ
解字 「木(き)+辥ゲツ(足元を切られる)」の会意形声。木が根元の近くで切られ、そこから生えた「ひこばえ」をいう。
意味 ひこばえ()。切り株から出た芽。「萌櫱ホウゲツ」(芽生えとひこばえ。種子から生じた芽と切り株から生じた芽)「分櫱ブンゲツ」(イネ科などの植物の根元付近から新芽が伸びて株分かれすること)
孼[孽] ゲツ・ひこばえ・わきばら・わざわい 子部
解字 「子(こども)+辥ゲツ(=。ひこばえ)」の会意形声。ひこばえの子ども。すなわち本流である嫡子でなく傍流の子をいう。また、本来のひこばえの意、甲骨文字の意味である「たたり」の意を引き継いでいる。
意味 (1)わきばら。めかけの生んだ子。庶子。「ゲツシ」 (2)ひこばえ。切り株から出た芽。「ゲツガ」 (3)わざわい。災難。わざわいする。「災サイゲツ」  (4)悪い。つみ。
 ゲツ・もやし 米部
解字 旧字は「米(穀類)+辥ゲツ(=櫱・孼。ひこばえ」の会意形声。穀類の種子を光を当てずに発芽させると、ひょろっと一本のひこばえのように出てくる「もやし」をいう。また「麹キクゲツ」で、こうじをいう。旧字はパソコンで表示されないので、簡略体のがもっぱら使われている。
意味 (1)もやし()。穀類などの種子を光を当てずに発芽させたもの総称。現在は、大豆、緑豆、ブラックマッペ(毛蔓小豆)などを原料とするものが多い。 (2)「麹キクゲツ」とは、こうじ(麹)のこと、「ゲツシュ」(甘酒)

セツの音
 セツ・かわらよもぎ・はますげ  艸部
解字 篆文は「艸(くさ)+辥(セツの音)」の形声。この字は「艸+屮+𠂤+辛」であるが、隷書レイショから辥の屮がとれた薛になった。草冠があるので、セツという名の、かわらよもぎ・はますげなどの草を指す。
意味 (1)かわらよもぎ。キク科の多年草。 (3)はますげ。カヤツリグサ科の多年草。 (3)国名。姓。「薛国セツコク」(古代中国の山東省にあった国)



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音符「面メン」<かおの表面>と「麺メン」「緬メン」

2019年04月03日 | 漢字の音符
    麺メンを書き直しました。
 メン・おも・おもて・つら  面部

解字 甲骨文は目の周りを線で囲った形で顔面を表している。転じて面会の意味にも使われる[甲骨文字辞典]。篆文は首(かしら)の略体に囲いをつけた形。現代字は面になったが、中央に目が残っている。顔面のほか仮面の意ともなる。
意味 (1)顔に付けるかぶり物。おめん。「仮面カメン」「能面ノウメン」「面具メング」(顔面を防護する武具) (2)おも(面)。おもて(面)。つら(面)。人の顔。「顔面ガンメン」「赤面セキメン」 (3)向き合う。「面談メンダン」「面会メンカイ」 (4)うわべ。「表面ヒョウメン
参考 メンは部首「面めん」になる。意味は顔を表す。常用漢字では面1字のみ。その他に、靨ヨウ・えくぼ(面+音符「厭エン」)・靤ホウ・にきび(面+音符「包ホウ」)などがあるが、非常にすくない。

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 「かめん・かお」
(面) 
 「同音代替」(麺・緬)
音の変化  メン:面・麺・緬

同音代替
[麵・麪]メン・ベン  麦部
解字 麺は、篆文で「麪メン・ベン」と書かれており、これが正字である。後漢の[説文解字]は「麥(むぎ)の末(粉末)也(なり)。麥に从(従い)丏(メン・ベン)の聲(声)」と簡潔に記し、意味は麦(小麦)の粉で麦と丏メン・ベンの声(音符)から成る字だとしている。この説明から、麪は小麦粉を意味することが明らかになる(麦は大麦も意味するが、大麦は粒食したり麦芽として発酵させて利用し製粉しない)。
 では麦に丏メン・ベンをつけて何故麦の粉になるのだろうか?これについて[説文解字]は何も説明していないし、ほとんどの辞書は[説文]の説明を受け売りしているだけである。丏メン・ベンという字は、矢をさけるための低い壁とされ、身をかくす、見えないなどの意がある。粉体工学の故三輪茂雄氏は「粉(こな)と粒(つぶ)を見分ける視力の限界、すなわち目の解像力は大体10分の1ミリだ。このあたりが日常語の粒と粉を使い分ける境目であろう」としている(「粉(こな) ものと人間の文化史125」)。
 三輪氏の基準を援用して粉を定義すると「10分の1ミリ以下の粒には見えない(丏)もの」となり「麪メン・ベン」は「麥の粒には見えないもの、すなわち麥粉」ということになる。些かこじつけ的な解釈だが、丏メン・ベンを会意形声字として解字するとこうなる。
 楷書になり丏メン・ベンは同音の面メンに置き換えられ麵メン・ベンができた。そして第二次大戦後に新字体の「麺」が誕生したわけである。
意味 (1)むぎこ。小麦粉。「麺棒メンボウ」(水を加えてこねた小麦粉を押しのばす棒)「麺麭パン」(小麦粉を水でこねイーストを加え発酵させてから焼いた食品)「麺食メンショク」とは、中国で小麦粉でつくった食品の総称をいう。 (2)こねた小麦粉を手で引き延ばしたり、切って細長くした食品。「拉麺ラーメン」「冷麺レイメン」「素麺ソウメン」「刀削麺トウショウメン」(こねた小麦粉を片手に持ち、もう一方の手で持った刀で細く削りだす麺)
 メン・ベン  糸部
解字 「糸(いと)+面(メン)」の形声。メンは綿メン(長く続く・ほそい)に通じ、ほそく長い糸をいう。また、長く続く意から、「はるか」の意となる。
意味 (1)細い糸。 (2)はるか。遠い。「緬然メンゼン」(はるか遠いさま)「緬思メンシ」(はるかに思いやる) (3)「緬甸ビルマ・メンデン」とは、はるかな郊外の意で、古代の中国で西南の国を指した呼称。旧国名のビルマを指 した。現在の国名はミャンマー。中国では現在もミャンマーに緬甸を使っている。 (4)「緬羊メンヨウ」とは、ヒツジの別称。
<紫色は常用漢字>

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