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「甲越軍記」を現代仕様で書いてみた(100) 長尾家 13

2024年05月15日 07時48分50秒 | 甲越軍記
 ここに諸国を巡って賭けをして金銭を奪う士が居た。
いささかの異術を学び、人の目をくらます法を習得した、これを隠形の術という
元は九州の者であったが、無頼の性質ゆえ九州におられなくなり、北国を巡って仕官を望んでいた。

その術というのは、武士を数十人並ばせて弓を持たせ、十四・五間(約27m)離れたところから矢を射させて、裸になった自分に一本の矢も当たらなければ武士から金銭をいただくという賭けである。
命がけの賭けであるがこれまで一本の矢も命中せず、みな二・三寸手前で落ちてしまう、こうして男は数多の金銭を得ていた。

越前の朝倉家で一儲けして、いよいよ越後にもやって来た
越後でも諸国同様に武士を欺いて多額の金銭を奪い取っていた
武士たちは日頃から豪勇を誇りとしていたからみな悔しがり、面目なしと再び男を招いて同じことを繰り返すが、やはりみな男の前で矢は落ちてしまう
もはや長尾家の士で矢を射ようという者もいなくなり、またしても莫大な金銭を取られるばかりであった。

その時、未だ六歳の虎千代も話を聞いて興味を持ち一部始終、目を離さずに見ていた
そして傍らの家臣に向かって、「汝、今一矢を放つがよい、但し彼を射るのではなく、彼が脱ぎ捨てた衣の真ん中を狙って射るべし」と言った
家臣は首をひねりながらも虎千代の命令なので、矢をこれでもかというほどに引き絞り、ひょうと放った
矢は衣服に向かって真っすぐに飛び、それを貫くと「あっ」という叫びと同時に、術士は胸板を貫かれて即死した。
倒れた姿は朝霜が消えてゆくがごとく、めりめりと消滅してしまい、矢が射抜いた草むらの衣服の所に術士は倒れていた。
見ていた人々は拍手喝采で「したりや」と歓喜を隠そうとしなかった

虎千代に「衣服を射て、男を倒すとはいかなる道理でありましょうか」と問うと、虎千代はうち笑い
「されば申そう、初めから赤裸になって『我を射よ』と言い、脱いだ着物を木陰に隠して矢を避けるのは、そこですでに皆が一術によって目くらましの術にかかって空蝉の幻を射ているのではと思い、本性こそ脱いだ衣服にあるのではと試したまでの事である」
目の前で、その通りのことがおこり、長尾の諸士はまだ幼少の虎千代の、常人を超えた聡明才智、いやそれを超えた不思議に舌を巻き「この君、成人のあかつきには天晴の名将となられるであろう」と言い、末頼もしい大将と尊敬の念を抱くのであった、
その一方で病弱の兄晴景を家臣たちが密かに罵るのを漏れ聞いて晴景は、父為景に讒言して虎千代を追い出さんと画策するのであった。





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