永正七年、長尾信濃守為景は上杉顕定を討ち、猛威ますます震い越後国府内の城を本城として、越後の諸将を帰伏させようと考えて、上条の城に籠る上杉兵庫頭定実を取り込もうとして、神余越前守を遣わして定実と和睦して、屋形と仰ぎ、証として為景の娘を送って縁を結んだ。
続いて、上州白井の上杉憲房とも和睦したので、越後の諸将は招きもしないのに集まって来て、為景を祀り上げた
これより越後国は為景のもとに平定され、誰もこれに異議を唱える者はいなくなた。
否、ここにただ一人、宇佐美駿河守定行だけは、為景に屈することなく、松之山家柏崎の城に籠り、顕定の討死を憤り、為景を討たんと願う遺臣を招き入れ
古河公方、足利高基の若君龍王丸を武州鉢形城に迎えて、上杉四郎顕実と改名して、顕定の跡を継がせた。
宇佐美は兵を率いて越後国柏崎から沖野庄内にある為景方の砦を落し、出雲崎、寺泊、新潟を切り従え勢いを増した。
これに対して為景は諸将を集めて、宇佐美の勢力が拡大せぬうちに、これを鎮めようと長尾平六郎俊景、刈羽相模守景親、飯野右馬允を新潟に向かわせた。
しかし宇佐美は賢き軍略を持って、長尾勢を度々打ち破ったので戦をやめて陣を張って持久戦となった。
このとき宇佐美は上条の城に残った、そして上杉定憲に使者を送り、速やかに兵を挙げて逆心長尾為景を註伐することを勧めた
上杉定憲は宇佐美の言葉に励まされて、為景註伐を約束した
家老、毛蓑四郎左衛門に命じて、上杉恩顧の諸将に使いを送ると上杉房能、顕定を慕う諸将をはじめ、八条左衛門大夫、柿崎弥二郎、弥三郎の一党、風間河内守、五十嵐小文四らが集まり、その後も越後の各地から為景の横暴を憎む諸将が集まって来た。
集まった上杉勢は、為景の長尾越前守房景（為景の弟）と嫡子五郎政景が籠る上田（魚沼郡六日町）の坂戸城に攻め寄せ、まずは血祭りにと揉みに揉んで押しかけた。
しかし長尾房景は世に知られたる猛将、少しも動ぜず矢石を飛ばして応戦する
すでに五日が過ぎ、この戦が府内の為景の耳に入ると、上田の後詰をすべしと、為景自ら中軍となり、加地安芸守、塚尾佐渡守、照田常陸介、大軍を率いて出陣した。
