ピピのシネマな日々:吟遊旅人のつれづれ

歌って踊れる図書館司書の映画三昧の日々を綴ります。たまに読書日記も。2007年3月以前の映画日記はHPに掲載。

ぼくの大切なともだち

2009年03月08日 | 映画レビュー
 自分の誕生日祝いに集まってくれた友人たちから「君の葬式には誰も参列しないよ」などと言われてしまったらショックのあまり自殺するかもしれないと思うけど、そもそもフランス人はそんな辛辣なことを本人の前で平気でいうのだろうか?

 言われたほうもめげずに「そんなことはない、僕にはちゃんと親友がいるんだ」と抗弁するところがなかなかタフだ。それどころか、あと10日で親友をみんなの前に連れてきて見せる、という賭けまでしてみせる。それがこの映画の主人公である美術商のフランソワだ。立派な店と大きなアパルトマンに住む成功した中年男だが、離婚して娘と二人暮し。その娘は反抗的で親にため口をたたく。共同経営者の女性は同性愛者で、フランソワとの賭けに彼がオークションで落札したエジプトの壷を賭ける。その壷は、亡くなった親友のために流す涙を受けるために持ち主が作らせたものだというのが皮肉ではないか。

 して、仕事一筋に生きてきたフランソワはふと気づくと友人というものがいない。必死になって親友のリストを作り、一人ずつ訪ねていくのだが、「お前なんか友達じゃない」と言われてばかり。とうとう窮した彼は、偶然その親友探しにつきあってくれることになったタクシー運転手ブリュノを親友だということにしてしまう。運転手は抜群の読書量と記憶力を誇るのだが上がり症なためクイズ番組に出ることができない。彼は隠れたクイズ王なのだ。人のいいブリュノはフランソワのためにあれこれと親切に働いてくれるのだが…

 パトリス・ルコントの作品の中ではもっとも軽妙なタッチでとても楽しくまたほのぼのさせる映画だ。君には友達なんていないよ、と友達のはずの人々から面と向かって言われる、なんていうシビアな設定を思いつくところはルコントらしいのかもしれないが、その後のどたばたぶりが適度に上品で楽しい。金で人の歓心を買おうとする金持ちのわがままで自己中心的な性癖をこれでもかとばかりに批判する脚本も小気味よい。

 緩急のメリハリもあり、クライマックスシーンもけっこう手に汗握り、意外な落ちもちゃんと用意されている、なかなかの佳作。仕事人間の中年男性たちはぎくっとする映画かもね。「ぼくには本当に親友なんているんだろうか…」と不安になる人が何人もいそうだ。(レンタルDVD)

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ぼくの大切なともだち
MON MEILLEUR AMI
フランス、2006年、上映時間 96分
監督・脚本: パトリス・ルコント、製作: オリヴィエ・デルボス、原案: オリヴィエ・ダザ、音楽: グザヴィエ・ドゥメルリアック
出演: ダニエル・オートゥイユ、ダニー・ブーン、ジュリー・ガイエ、ジュリー・デュラン、ジャック・マトゥー

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