ピピのシネマな日々:吟遊旅人のつれづれ

歌って踊れる図書館司書の映画三昧の日々を綴ります。たまに読書日記も。2007年3月以前の映画日記はHPに掲載。

フランドル

2009年03月15日 | 映画レビュー
 いい加減腹が立ってきて、そろそろ早送りしてやろうかと思った瞬間に映画が終わったのでほっとした。なんでこれがカンヌ映画祭審査員グランプリ受賞? カンヌの審査員には受けたかもしれないが、これほどすさんだ映画はわたしには耐えられない。

 戦争が若者の精神を荒廃させたのではなく、彼らは故郷フランドルの地にあってももともと砂漠の民だったのだ。彼らの心には乾いた砂が吹きすさんでいる。それは故郷も戦場も同じこと。戦場の荒廃と残虐をリアルに描いたともいえるが、むしろ荒廃は故郷フランドルに存在している。夏のフランドルの美しい風景が描かれているにも拘わらず、その印象が寒々としているのはDVDを見ている我が家が寒いからという理由からだけではあるまい?

 誰にでも身を任す少女バルブを見ていると、ふと、ロジェ・バデム監督の「花のようなエレ」を思い出した。しかし、この映画には「花のようなエレ」にあったエロスがない。乾いてなんの情緒もない性描写には、生きる喜びが感じられない。そこには生(エロス)へと向かう輝きがない。しかも、砂漠の戦場で行われる強姦といい、それへの報復といい、すべてが淡々と余りにも生々しく残虐にかつ感情を抑圧して描かれるため、この映画は人物への感情移入も物語そのものへの感応も拒んでいる。この映画に耐えられる、面白いと思える女性はほとんどいないのではないか。

 そもそも、これはなんの戦争なのだろうか? 湾岸戦争なのか、イラク戦争なのか、舞台はどうやら中東の砂漠地帯のようだがよくわからない。この映画には明確なストーリーなどなく、戦争すら寓話として描かれている。男たちが戦場で狂気に捉えられるのと軌を一にするかのように、故郷の少女バルブの精神も病んでいく。だがこの二つの場面の繋がりがまったく唐突で、いったい何が起きているのか理解に苦しんだ。

 「戦争の残酷を淡々と描いた玄人向けの映画」という評価もできるかもしれないが、わたしはこの映画を見て反戦気分にも厭戦気分にもならなかった。ただ男たちの情けない生き様(とすら言えない姿)に嫌悪を催しただけだ。(R-15)(レンタルDVD)

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フランドル
FLANDRES
フランス、2005年、上映時間 91分
監督・脚本: ブリュノ・デュモン
製作: ラシッド・ブシャール、ジャン・ブレア、製作総指揮: ミュリエル・メルラン
出演: アデライード・ルルー、サミュエル・ボワダン、アンリ・クレテル、ジャン=マリー・ブルヴェール

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