ピピのシネマな日々:吟遊旅人のつれづれ

歌って踊れる図書館司書の映画三昧の日々を綴ります。たまに読書日記も。2007年3月以前の映画日記はHPに掲載。

「男は世界を救えるか」

2003年02月10日 | 読書

 結論から言おう。
 抱腹絶倒ものである。

 本書のタイトルは、もちろん上野千鶴子の『女は世界を救えるか』のパロディなのだ。『男は世界を救えるか』は、日文研(国際日本文化研究センター)の同僚だった井上章一氏と森岡正博氏との「書き下ろし対談」である。実際に対談したわけではなく、原稿用紙に向かって「書き下ろし」するという、対談の常識を破った本づくりをしたそうだ。

 わたしはこの本を電車の中で読んでいて、夢中になってあやうく降車駅を過ぎてしまうところだった。思わず声が出そうになるのをこらえて、肩を震わせながら読むという苦労を強いられた。で、こんなふざけた本を出していいのかっと思わず怒ったが、その直後に「うぷぷぷっ」と笑ってしまうから、もうどうしようもない。

 本書は全体が7つに分けられ、それぞれが井上vs森岡の120分一本勝負、知のバトルとなっている。大まかなテーマは、エコロジー、不倫、売春、臓器移植、禁煙運動など、重いものばかりだ。全体を通して隠れテーマとなっている(全然隠れていないっ)のがフェミニズムである。

 井上章一という人物はフェミニズムの敵だと思っていたが、やっぱり敵のようだ。ご本人は敵ではないと言っているが(僕は単にメンクイなだけです、美人が好きなだけとかおっしゃっている。そんなこと言えば、わたしだって美男が好き)、どの対談も全部わたしは森岡さんに共感してしまう。しかしまあ、よくも「マゾ・フェミ」だの「ロリコン・エコ・フェミ」だのと好き勝手に命名したもんだとあきれるやら爆笑するやら。

 森岡正博氏は「風の谷のナウシカ」のファンだそうだが、この作品を美少女ロリコンアニメだと取られてしまうと、絶句してしまう。ま、どう観ようと勝手なんだけど、森岡さんの論理の飛躍・跳躍には畏れ入る。もうほとんど尊敬のまなこで見てしまう。

 ただ一点、嫌煙運動をめぐる言説についてだけは井上氏に同調してしまった。タバコが嫌いだからやめてくれという好き嫌いの次元で嫌煙権を主張するのではなく、発癌物質を他人に強制的に吸わせるのは傷害罪だから取り締まれという森岡氏のご意見には納得できない。
 なんで嫌煙・禁煙の話になったらあんなにエキセントリックになるのだろう。その上、この問題を深く掘り下げていったら、「愛と権力」に行き着くというウルトラCまでおまけに付いている。うん、確かに「権力」はわかる。森岡氏は強権的に喫煙者を取り締まれとおっしゃっているのだから。しかし、「愛」はなぁ。美人になら煙を吹きかけられてもいいというええかげんな嫌煙者で、喫煙者を説得できるのだろうか……。嫌煙者のわたしですら説得できないのに。

 ともあれ、重いテーマを語り飛ばし笑い飛ばし、しかりやはりそこは学者さんの対談だけあって、なるほどと思わせる濃い内容となっている。

 ぜひお取り寄せして笑ってください。(bk1投稿書評)

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井上 章一著 森岡 正博著
筑摩書房: 1995.7

2002年に見た映画の中からベスト10

2003年02月01日 | 映画ベスト10
 2002年度の映画賞、各賞がそろそろ出揃ってきた。『キネマ旬報』のベスト10は毎年大いに参考にさせてもらっている。ここで選出される作品に、はずれはほとんどないと思われるからだ。もちろん、好みがあるので、「なんだこれ、なんでこんなもんが」と思う事だってあるけれど、毎年、このベスト10の中にわたしにとってのベストが含まれている。
 それから、朝日ベストテン映画祭、こちらも毎年の楽しみだ。
 アカデミー賞ははずれも多いが、確かに見ごたえのある作品が選ばれることがよくあるので、要チェック。
 
 さて、ふと思い立って、去年一年間に見た映画(ビデオ・DVDを含む)を数えてみたら、なんと94本! これは若かりし頃の勢いに近づきつつある。で、もう少し期間を延ばして、今年の1月までの分で、ベスト10を作成してみた。これなら、対象作品が100本を超えるので、まあ、ベスト10を選んでもいいだろうと思った次第。

 わたしの好みと独断と偏見で選んだベストです。好みの合わない方にはまったく参考にならないので、無視してください。なお、去年封切りの映画ではなく、わたしが一年余りの期間に観た映画が対象です。さらに、劇場で見たものと家で見たものとの区別がないので、ビデオ盤は多少ハンディをつけました。
 また、キネマ旬報ベストテンなどの上位賞を獲得した作品がこの中にないのは、わたしが未見だという理由が考えられます。各作品の内容詳細は五十音順インデックスで探してお読み下されば幸いです。

1位 愛を乞うひと
2位 活きる
3位 初恋のきた道
4位 ビューティフル・マインド
5位 雨あがる
6位 鬼が来た!
7位 光の雨
8位 仕立屋の恋
9位 地獄の黙示録 特別完全版
10位 ヒマラヤ杉に降る雪

  1位以外はものすごく迷った。この1年間に70点以上をつけた映画の中から選んだけど、点数の高い作品を落としたりしている。観賞後すぐにつけた点数と、今になって感じる点数が違ったりするのだ。やはり後からじわじわと印象深くなる作品とそうでないのがある。3位から7位は同順3位、8位から10位も同順、というのが実感。