やっぱりアンジェリーナ・ジョリーは怖くて強ぉ~いお姉さん役が似合ってます。「グッド・シェパード」で耐える妻を演じていたけど、柄じゃない。
編集が斬新で映像がスタイリッシュ。たいへん小気味よい天衣無縫のアクション映画で、わたくし、満足いたしました。しかも、物語がそう単純なものではなく、いったい何が真相だったのか最後まで判然としない。曖昧さを残したラストはシリーズ化への布石か?
配役ではアンジェリーナ・ジョリーがトップにクレジットされているけれど、主役は「つぐない」でいい演技を見せてくれたジェームズ・マカヴォイ。彼が演じる冴えないオフィス労働者ウェスリー・ギブソンが、嫌なデブの女性上司にいたぶられてブチ切れる様子がとってもリアルでかつデフォルメぶりが面白可笑しい。
ウェスリーはgoogleで自分の名前を検索してみるが、一件もヒットしない。無名な自分にがっくりくるウェスリー。ちなみにさっきgoogleで”Wesley Gibson”を検索したら山のようにヒットした。大丈夫だよ、ウェスリーくん、君も映画に主演したおかげで超有名人です。
ウェスリーはパニック症候群に罹っているため、精神薬が手放せない。今日もまた薬局へ薬を買いに行ったのである。ところが今日はいつもと違った。いきなり妖艶な美女に腕をつかまれ、ドラッグストアで銃撃戦が始まった。謎の男(きゃーっ、わたしの大好きなトーマス・クレッチマンよ! なんで悪役が多いの? 早くかっこいい主役をとってね)に命を狙われたウェスリーは、アンジェリーナ・ジョリーに助けられ、暗殺集団「フラタニティ」のアジトに連れ込まれた。そこは織物工場。ウェスリーの父は「フラタニティ」で最高の腕を持つ暗殺者であり、ウェスリーもまたその血を引く特殊な才能を持つ者であると知らされる。父を殺した男クロスこそがさっきウェスリーを狙った男だった。ウェスリーは冴えないサラリーマン生活をやめて過酷な訓練の末、暗殺者へと成長する……
まー、とにかくアンジーのアクションスタントにはびっくりですよ。こんなに銃が似合う女優もあんまりいません。あの恐ろしげなたらこ唇を尖らせて隈取りくっきりの厚化粧目をひんむいてガンガン撃つんだからそれだけで怖い。疾走する車から半身(以上)乗り出して撃ちまくる場面なんぞ、アクション映画のベスト10に入れたい。この映画のアクションは全編にわたってやりたい放題、生身アクションとCGを実に巧みに融合させているため、画面がスムーズに展開する。編集者デヴィッド・ブレナーに拍手。
ここで大いなる謎は1000年の歴史を持つという暗殺者集団「フラタニティ」のシステム。暗殺のターゲットを決めるのは織機が織り出す布に隠された暗号で、その暗号をボスのモーガン・フリーマンが解読する。そもそもその指令はどこから来るのだろうか? 組織の全容は最後まで明らかにされなかった。それなのにウェスリーは自ら進んで暗殺者になろうとする。ターゲットをなぜ殺さなければならないのか、彼にはわからないのに、それでも殺してもいいのか? しかし、躊躇は許されない。いつしかウェスリーは思考停止の暗殺者へと「成長」していく。弾道を曲げるという信じられない才能を持つウェスリーは、驚異の体力と精神力で次々と難関を突破するが、とうとう父を殺した敵と相まみえることになる。相手もやはり弾道を曲げる能力を持っていて、二人の格闘はものすごいスケールの大きなアクション。弾丸と弾丸がぶつかってへし曲がるシーンは見物。その上、列車が高架から落ちる場面なんぞ、いくらCGを使えばなんでもできるとはいえ、圧巻。
絶対的な命令に従ってただ黙々と冷酷な殺しを完遂するという任務にはやはり裏があった。その裏を知ったとき、ウェスリーはどうするのか?
冴えない若者がスーパーマンに変身するというパターンはスパイダーマンと大筋は同じ。しかし、かなりテイストが違う。スパイダーマンはお子様向きだが、本作は大人が楽しめる作品だ。会社システムの中で自己の才能を生かし切れない多くの若者には共感を持って受け入れられる素地を持つ。と同時に、そういう不平・不満の隙を突かれたとき、人は簡単に「違う自分」への変身願望へと駆り立てられていく怖さにどれだけの観客が気づいてくれるだろう? ふと、秋葉原で大勢の人々を殺傷した若者のことが思い浮かんだ。ウェスリーも秋葉原の殺人者も同じ心理機制によって「違う自分」へと飛び立ったのではないか?
そう考えると、単なるアクション映画とはひと味もふた味も違う後味を残す。今年の娯楽アクション大作は「ダークナイト」といい「ハンコック」といい本作といい、なかなかの出来です。特に「ダークナイト」と「ウォンテッド」はお奨めね。(R-15)
------------------
ウォンテッド
WANTED
アメリカ、2008年、上映時間 110分
監督: ティムール・ベクマンベトフ、製作: マーク・プラットほか、製作総指揮: ゲイリー・バーバーほか、原作: マーク・ミラー、J・G・ジョーンズ、脚本: マイケル・ブラントほか、音楽: ダニー・エルフマン
出演: アンジェリーナ・ジョリー、ジェームズ・マカヴォイ、モーガン・フリーマン、テレンス・スタンプ、トーマス・クレッチマン
編集が斬新で映像がスタイリッシュ。たいへん小気味よい天衣無縫のアクション映画で、わたくし、満足いたしました。しかも、物語がそう単純なものではなく、いったい何が真相だったのか最後まで判然としない。曖昧さを残したラストはシリーズ化への布石か?
配役ではアンジェリーナ・ジョリーがトップにクレジットされているけれど、主役は「つぐない」でいい演技を見せてくれたジェームズ・マカヴォイ。彼が演じる冴えないオフィス労働者ウェスリー・ギブソンが、嫌なデブの女性上司にいたぶられてブチ切れる様子がとってもリアルでかつデフォルメぶりが面白可笑しい。
ウェスリーはgoogleで自分の名前を検索してみるが、一件もヒットしない。無名な自分にがっくりくるウェスリー。ちなみにさっきgoogleで”Wesley Gibson”を検索したら山のようにヒットした。大丈夫だよ、ウェスリーくん、君も映画に主演したおかげで超有名人です。
ウェスリーはパニック症候群に罹っているため、精神薬が手放せない。今日もまた薬局へ薬を買いに行ったのである。ところが今日はいつもと違った。いきなり妖艶な美女に腕をつかまれ、ドラッグストアで銃撃戦が始まった。謎の男(きゃーっ、わたしの大好きなトーマス・クレッチマンよ! なんで悪役が多いの? 早くかっこいい主役をとってね)に命を狙われたウェスリーは、アンジェリーナ・ジョリーに助けられ、暗殺集団「フラタニティ」のアジトに連れ込まれた。そこは織物工場。ウェスリーの父は「フラタニティ」で最高の腕を持つ暗殺者であり、ウェスリーもまたその血を引く特殊な才能を持つ者であると知らされる。父を殺した男クロスこそがさっきウェスリーを狙った男だった。ウェスリーは冴えないサラリーマン生活をやめて過酷な訓練の末、暗殺者へと成長する……
まー、とにかくアンジーのアクションスタントにはびっくりですよ。こんなに銃が似合う女優もあんまりいません。あの恐ろしげなたらこ唇を尖らせて隈取りくっきりの厚化粧目をひんむいてガンガン撃つんだからそれだけで怖い。疾走する車から半身(以上)乗り出して撃ちまくる場面なんぞ、アクション映画のベスト10に入れたい。この映画のアクションは全編にわたってやりたい放題、生身アクションとCGを実に巧みに融合させているため、画面がスムーズに展開する。編集者デヴィッド・ブレナーに拍手。
ここで大いなる謎は1000年の歴史を持つという暗殺者集団「フラタニティ」のシステム。暗殺のターゲットを決めるのは織機が織り出す布に隠された暗号で、その暗号をボスのモーガン・フリーマンが解読する。そもそもその指令はどこから来るのだろうか? 組織の全容は最後まで明らかにされなかった。それなのにウェスリーは自ら進んで暗殺者になろうとする。ターゲットをなぜ殺さなければならないのか、彼にはわからないのに、それでも殺してもいいのか? しかし、躊躇は許されない。いつしかウェスリーは思考停止の暗殺者へと「成長」していく。弾道を曲げるという信じられない才能を持つウェスリーは、驚異の体力と精神力で次々と難関を突破するが、とうとう父を殺した敵と相まみえることになる。相手もやはり弾道を曲げる能力を持っていて、二人の格闘はものすごいスケールの大きなアクション。弾丸と弾丸がぶつかってへし曲がるシーンは見物。その上、列車が高架から落ちる場面なんぞ、いくらCGを使えばなんでもできるとはいえ、圧巻。
絶対的な命令に従ってただ黙々と冷酷な殺しを完遂するという任務にはやはり裏があった。その裏を知ったとき、ウェスリーはどうするのか?
冴えない若者がスーパーマンに変身するというパターンはスパイダーマンと大筋は同じ。しかし、かなりテイストが違う。スパイダーマンはお子様向きだが、本作は大人が楽しめる作品だ。会社システムの中で自己の才能を生かし切れない多くの若者には共感を持って受け入れられる素地を持つ。と同時に、そういう不平・不満の隙を突かれたとき、人は簡単に「違う自分」への変身願望へと駆り立てられていく怖さにどれだけの観客が気づいてくれるだろう? ふと、秋葉原で大勢の人々を殺傷した若者のことが思い浮かんだ。ウェスリーも秋葉原の殺人者も同じ心理機制によって「違う自分」へと飛び立ったのではないか?
そう考えると、単なるアクション映画とはひと味もふた味も違う後味を残す。今年の娯楽アクション大作は「ダークナイト」といい「ハンコック」といい本作といい、なかなかの出来です。特に「ダークナイト」と「ウォンテッド」はお奨めね。(R-15)
------------------
ウォンテッド
WANTED
アメリカ、2008年、上映時間 110分
監督: ティムール・ベクマンベトフ、製作: マーク・プラットほか、製作総指揮: ゲイリー・バーバーほか、原作: マーク・ミラー、J・G・ジョーンズ、脚本: マイケル・ブラントほか、音楽: ダニー・エルフマン
出演: アンジェリーナ・ジョリー、ジェームズ・マカヴォイ、モーガン・フリーマン、テレンス・スタンプ、トーマス・クレッチマン