ピピのシネマな日々:吟遊旅人のつれづれ

歌って踊れる図書館司書の映画三昧の日々を綴ります。たまに読書日記も。2007年3月以前の映画日記はHPに掲載。

「挑発する知」

2004年04月23日 | 読書
挑発する知 国家、思想、そして知識を考える
姜 尚中、宮台 真司著 : 双風舎 : 2003.11

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 大雑把に言ってこれまで、「姜はオーソドックスな民族主義者」、「宮台はクールでドライなリアリスト」っていうイメージがあったのだが、どうやらそれは間違っていたようだ。

 姜は思っていたほど古いタイプ(オールド・ボルシェヴィキってほどの古典派じゃないけど)の在日研究者じゃなかったし、宮台は予想ほどにはぶっとんだ意見を出しているわけでもない。

 発話者の名前を伏せて読んだら、いったいどっちの発言なのかわからなくなるぐらい、二人の意見はよく似ているし、けっこう一致点も多い。

 宮台真司が前書きで書いているように、姜尚中は国民国家の幻想性を糾弾するが、宮台は国民国家をひとまず認めた上でそれをいかに制御するかという戦略を立てる。この二人の戦略の違いが対談で顕著になるはずだったのだが、実際に読んでみると、なんだかよく似たことを言っているし、互いへの敬意が満ちあふれていて、もっぱら宮台が挑発し、姜尚中は大人の分別をみせてそれに逆らわず、うまくかわして論を立てているように見受けられる。

 だから、本書には、前代未聞のすれ違い対談集(正確には往復書簡集)『動物化する世界の中で』のようなスリルや危機感やいらだちがない。読者に安心と安全を与えてくれるよい本である。とはいえ、「安心と安全」とばかりは言っておられなくて、やっぱり宮台は挑発者であり、宮台ってコンサバだったの? なんていうイメージもふつふつと湧いてくる場面がしばしば。彼は自分が「左翼」か「右翼」かという枠で分類されることを嫌う。というか、そういう二分法を脱構築してみせる。そういう二分法はもう時代遅れなのだ。

 本書は対談なので、対談にありがちな論の彷徨や遊撃があり、論者たちのふだんの仕事に接していないとわかりにくいところやまどろっこしいところがあったりするので、やはり、もっと体系的に理解するには彼らの単著を読むべきだろう。

 遅まきながら、本書のテーマを紹介しておこう。語られるのは、ナショナリズム、国家論、知識人論。丸山真男の後継者を自認する宮台の国家論はたいへん興味深い。
 対談の最後にメディア・リテラシーが話題に上るのだが、これがなかなかおもしろい。敗戦直後のGHQによるメディア・リテラシー教育などは革命的と言えるぐらいにメディアの本質をついた内容だっだことが宮台によって語られる。

 ところで、装丁に注目。本の耳の部分に二人の顔写真が隠されている。右から左へページをずらせば宮台が、左から右へずらせば姜の顔が浮かび上がる仕組みになっていて、「ほおぉ~、凝ってるやんか」と感心した。

 本書はテーマが大きく幅広すぎるきらいがあるので、語られた一つずつのテーマについてそれぞれもう少し突っ込んで彼らの仕事に接する必要があるだろう。
 とりあえずまず入り口のとっかかりを得るには格好の書といえる。用語解説も欄外についているので、初学者にとって親切な作りになっている。



「文明の衝突」

2004年04月23日 | 読書
 これは各方面から批判を浴びるのは当然といえる書だ。ただし、現代文明の状況や政治情勢についてはなかなか勉強になった。
ハンチントンは現状を変革しようとか、何かの理想に向かおうとかいう気は全然ないみたい。現状分析についてはなかなか読ませるものがあって、それなりにおもしろかったけど。

が、最後の世界戦争シミュレーションにはぞっとしたね。

ハンチントンは20世紀にイスラム教徒が暴力的にふるまったと語っている、その原因を以下のように記述する。
「なぜイスラム教徒は、他の文明圏の人びとよりも集団間の紛争に巻き込まれることが多いのだろう?」

 第1に、イスラム教徒と非イスラム教徒が物理的にすぐ近くに住むことになった。

 第2にイスラム教は、キリスト教以上に神の絶対至上権を唱える。

 最も大きな理由は、イスラム社会には核となる国がないこと。
   (以上、401-403ページ)

また、ハンチントンによれば、人口比の差異が戦争を生むという。若年人口の増加率がたかいほど、その国(文明)は好戦的になるというのがハンチントン説だ。

ハンチントンは文明の差異ばかり強調する。それでは異文明・異文化は永遠に理解し合えないという結論しか生まれない。彼の説を演繹すれば戦争は不可避という結論しか生まれない。

 それにしても、世界八大文明のうち、日本文明が独自の文明としてカウントされているのには驚いた。一国一文明の栄誉に預かったのは、日本とインドぐらいか。あ、中国もだけど、大きさが違いすぎる。