劇場と映画、ときどき音楽と本

オペラ、バレエ、歌舞伎、文楽などの鑑賞日記です

長すぎてくたびれた「神々の黄昏」

2017-10-08 09:35:02 | オペラ
10月7日のマチネーで、新国立の「神々の黄昏」を観る。「ニーベルンゲンの指輪」の4作目にして最終の作品。3日目と書いてあるので紛らわしいが、序夜から始まるので、4作目が3日目となっている。新国立でのシリーズ完全上演で、3シーズンにわたっての上演だが、実際には半年に1本の割で上演されたので、1年半をかけて4作品を観たことになる。ワーグナーの作品は、どれも上演時間が長いので、観る方もくたびれるが、出演する方も大変だと思う。

特に、すべての作品を指揮した芸術監督の飯守泰次郎は、高齢にもかかわらず精力的な指揮ぶりで、頭の下がる思いだった。特に、今回のオケは新国立で初登場の読響だったので、どんな音かなと思ったが、想像以上に素晴らしい響きで驚いた。何といっても、管と絃とのバランスが良く、一体化した音になっている。これまでの公演では金管が強すぎると感じたこともあったが、読響の響きは金管が優しく、絃は力強く響き、良い音楽を聞かせてくれた。

さて、上演時間だが、4幕構成で、序幕と1幕は続けて上演されて2時間、休憩が45分で、2幕は1時間10分、また休憩が35分間あり、三幕は85分ということで、全体では6時間の長丁場。マチネーは2時から始まり、夜の8時に終わる。ソワレも夜の10時には終わりたいということで4時に始まるから、マチネもソワレも大して変わらない。これだけ長いと、途中で腹も空くだろうということで、ロビーではビーフ・ストロガノフのようなご飯物も含めて、ソーセージやピンチョスなどが飛ぶように売れていた。

僕も、45分の休憩では、外のカフェでカフェ・ラテとチョコ・ミルフィーユを、35分の休憩ではロビーで、生チョコのお菓子を食べた。

まあ、長いといっても6時間だから、歌舞伎で「仮名手本忠臣蔵」の通しを10時間以上かけてみるのに比べたら、短いものだ。だが、歌舞伎の場合には途中で息抜きできるようなチャリ場などもあり、ずっと緊張が続くわけではないが、ワーグナーの作品は音の密度が高くて、チャリ場なしに長時間緊張を強いられるので、本当に疲れる。こういう作品を見るのは、やはりドイツ人のように大きな肉の塊を食べて体力をつけておかないとダメだという気がする。

「神々の黄昏」は、「ニーベルンゲンの指輪」の完結編だということで、主人公のジーグフリードが殺害されて、その持っていた呪われた指輪がライン河の娘たちの手に戻り、発端でラインの娘から盗まれた黄金の問題が解決して、一件落着となる。

まあ、こういう物語もありかも知れないが、僕などはフリッツ・ラングの無声映画の方を先に観ていたので、ジーグフリードが殺された後も、その妻クリームヒルトの復讐と続いてほしいなあという気もする。フリッツ・ラングの映画も一部、二部と別れていて、両方合わせると4時間近くかかるので、これも体力消耗の映画だ。

今回の公演の序幕と1部は、長いだけでほとんど動きのない舞台なので、つまらないと感じた。まるで、歌舞伎の時代物の問答劇を見るようで、辛い。演出にも問題があると思う。舞台のセットが黒を基調にしていて、その上、照明を暗く落としているので、長時間観ていると目が疲れてくる。ボロ隠しのために照明を落としているのではないかと思えてくる。衣装もジーグフリードのジーンズのつなぎみたいな衣装は意図がわからない。前作から続くのだから、仕方がないかとは思うが、他の出演者たちの衣装とバランスが全く取れていないのではないか。

日本にはワグネリアンが多いから、あまり悪口を言いたくはないが、ジーグフリートの死の後に、舞台では何も起こらないままでオケが延々と演奏し続ける演出は退屈としか思えない。コーラスを100人ぐらい用意しているのだから、何か動きを付けることだって、できるのではないか。こういう所が冗長すぎるのでワーグナーはどうも苦手だ。

ラインの娘たちとジーグフリートのやりとりの場面だって、長すぎるし、気が利いていない。これはワーグナーの台本が良くない。ラインの娘たちの話は、もっと抽象的で、意味深にした方が良い。マクベスの冒頭の三人の魔女の会話の魅力みたいなものを求めるのは、求めすぎか。あまりにもつまらないやりとりで、娘たちに、水着なのか下着なのか判らないが、ジーグフリートを誘惑させるような演出も感心しない。

まあ、とにかく、頑張って全作品見れたので良しとしよう。歌手はジーグフリート役のステファン・グールド(米国人なので、ステファンではなくスティーヴンではないかとおもうが)、ブリュンヒルデ役のペトラ・ラング、ハーゲン役のアルベルト・ペーゼンドルファーが良かった。日本人ではグートルーネ役の安藤赴美子が健闘するが、来日したゲスト歌手と比べるとちょっと見劣りする。これは体の大きさの差か。アルベリヒ役の島村武男は、発音にちょっと難があるだけでなく、妙に手ぶりが多く、演技面でも浮いた印象だった。

こってりした作品を観たので、帰りは自宅近くのすし屋で食事。タコのから揚げ、金目鯛の煮つけと寿司を少々頂く。