劇場と映画、ときどき音楽と本

オペラ、バレエ、歌舞伎、文楽などの鑑賞日記です

映画「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」

2020-05-30 10:30:14 | 映画
衛星放送の録画で2019年のアメリカ映画「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」を見る。クエンティン・タランティーノ監督作品。この監督は「パルプ・フィクション」で有名になったが、その後はあまりピンとくる作品がないように思う。今回の作品はレオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットの共演が話題となった作品。

長いカタカナ題名でうんざりするが、「ワンス・アポン・ア・タイム」というのは童話の書き出しの文言で「昔々・・・」という感じだろうから、直訳すると「昔々、ハリウッドで」という感じだろうか。こんな題名だから、なんとなく無声映画時代の1920年代を描いたのではないかという気がして見始めたら、1969年の女優シャロン・テート殺害事件をテーマにしていた。

1969年が、「昔々」に入るのかという気がしたが、考えてみると50年前で、今とは時代のムードも風俗も全く変わっている。1960年代といえば、ヒッピーなどが登場してきた時期であり、カリフォルニア名物の新興宗教もたくさん出てきて、シャロン・テートも、狂信的なカルト集団に殺された。ミニ・スカートに、ロング・ブーツという感じで、当時の流行だったが、今ではそうした風俗もすっかりなくなった。1969年といえば、世界的に大学紛争の真っただ中で、日本でも東大の安田講堂が占拠されて、東大入試のなくなった年だ。そうした時代だから、まあ、「昔々」かもしれない。

殺された女優シャロン・テートは、当時の新進の映画監督ロマン・ポランスキーの妻で、妊娠中だった。僕はポランスキーの映画「吸血鬼」で見た覚えがある。テートは自宅でナイフで刺し殺されたので、それを描くのかと思ったら、隣に住む落ち目の俳優(ディカプリオ)とそのスタントマン(ブラピ)の家に狂信的連中が押し入り、逆に殺されてしまうという、ちょっとひねった作品。

シャロン・テート殺害を題材にしたとはいえ、話としては、完全にディカプリオとブラピの話になっている。ディカプリオは演技がうまいとは思えず、なんで人気があるのだろうと、改めて思った。それでも、アメリカでは完全に落ち目の昔のスターに、イタリアのマカロニ・ウエスタン出演の話が来て、イタリアに稼ぎに行き、イタリア人と結婚して帰るというのも、いかにもという感じのエピソードだ。

アメリカでは、スタジオ・システムが60年代に崩壊して、ウエスタン、ミュージカルなどのジャンル映画がすべて消滅してしまった。ちょうどその時に、マカロニ・ウエスタンが台頭したのだ。日本だってこの時代に時代劇が失われた。

この映画で一番良いと思ったのは、よく時代の雰囲気を再現した点だ。シャロン・テートが映画館でディーン・マーティンの『電撃フリント』シリーズを観たりするだけでなく、当時の映画の看板が随所に出てくる。さらに、走っている車や、衣装がみな60年代風で妙に懐かしい。極め付きは、狂信者たちが集まって暮らす小さな村の模写で、いかにも当時の雰囲気が出ていた。

ほかにも、ポランスキー監督がいかにもそれらしい格好で出てきたりするのも面白い。結局、この映画は時代風俗を楽しむ作品だと思った。

映画「ダンス・ウィズ・ミー」

2020-05-28 10:28:26 | 映画
衛星放送の録画で2019年の日本映画「ダンス・ウィズ・ミー」を観る。矢口史靖監督作品。

日本映画なのに、カタカナ題名というのもちょっと気になるが、配給がワーナー映画なのでと言うわけでもないだろう。きちんと日本語題名をつけられないのだろうか。

矢口監督は、「ウォーター・ボーイズ」や『スウィング・ガール』などで意表を突いた喜劇映画を作り楽しませてくれたが、今回はミュージカル風に作ったということでどんな風に扱ったのだろうと気になった。

内容は、大手企業に勤める仕事のできるキャリア娘が、ひょんなことから落ちぶれた催眠術師の催眠術にかかり、音楽を聴くとミュージカル・スターになったつもりで、歌い踊らずにはいられなくなってしまう。

そのままでは仕事にならないので、その催眠術師のところへ行くが、彼は姿をくらませているので、興信所に頼んで探してもらうことにする。興信所からの連絡で新潟で地方巡業していることがわかり、催眠術師の助手をやっていた娘と一緒に、小さな車で新潟に向かう。ここからはロード・ムービーになり、いろいろな出会いを重ねて、新潟では捕まえることができずに、結局は北海道まで追いかけていくことになる。

催眠術師は、何やらヤクザ系の借金取りから追いかけらっれているが、何とか催眠術を解いてもらうことができ、東京へ戻るが、大会社で自分を殺して仕事をする気にはなれず、新しい生活に入っていくという展開。

踊りや歌は入ってはいるが、物語の進行とは関係なく、ガソリン代を稼ぐために歌ったり、暴走族が無意味に踊ったりする程度。これだったらミュージカル仕立てにしない方が面白かったのではないかと思った。

老催眠術師に宝田明が出ていて、まだ歌えるんだと驚いた。

結局、日本ではまともなミュージカル映画は作れないということか。戦前の「鴛鴦歌合戦」が唯一のミュージカル映画だったという気がした。

映画「マンマ・ミーア! ヒア・ウィ・ゴー」

2020-05-26 11:07:10 | 映画
衛星放送の録画で2018年の英米合作映画「マンマ・ミーア! ヒア・ウィ・ゴー」を見る。10年ほど前に作られた「マンマ・ミーア!」の続編だ。

題名の「ヒア・ウィ・ゴー」は、「私たちは行く」とか「私たちはやる」みたいな意味だろうが、映画の原題名は「ヒア・ウィ・ゴー・アゲイン」となっていた。「もう一度やるわよ」みたいな感じか。

前作では、ドナの娘ソフィーが結婚式を迎えるが、結婚式に父親を呼びたくて、母親の昔の日記を読んで、可能性のありそうな3人の男性に招待状を送ったために、混乱が起きるという話。結局、だれが父親かはわからない。

今回の続編では、何故かドナが亡くなっており、経営していたホテルが老朽化しているので、それを修復して娘のソフィーが再開しようとする話。大勢の関係者や父親かもしれない男性3人に招待状を送るが、あいにく前日に嵐が来て、船が欠航するので、だれも島に来ないという展開。もちろん、最後は近所の漁民たちの助けで、大いに開館パーティは盛り上がり、ハッピー・エンドになる。

映画ではこの話だけでは、あまりにも薄っぺらで2時間の作品にならないと考えたのか、母親のドナが若い時に島を訪れて、住み着く決心をしてソフィーを産む前日譚が入るのだが、現在の話と過去の話が並行して出てくるので、そのつもりで心構えしてみていないと、いったいどうなっているのかわかりにくかった。

音楽は、前作に続いてABBAの作品やそんな雰囲気のもので、踊りはいかにも現代的な振付というか、最近のパラパラ踊りのようで、さして面白くはない。

前作が結構面白かったので期待していたのだが、この作品を見ると、前作は結局は母親ドナ役を演じた、メリル・ストリープの魅力があったから面白かったのだと気づいた。

そう思っていたら、最後のフィナーレみたいな場面で、メリル・ストリープが出てきて、それなりに年齢を感じさせたが、やっぱり良い女優だと思った。そのほかにも、祖母役でシェールが出てきて、存在感を示した。

映画としては、まあ退屈しないが、映画を見ていたらまたギリシャの島に行きたくなってきた。独特のワインと、チーズ、ヨーグルトも食べたいが、コロナ騒ぎでしばらくは、旅行も難しそうだ。

バーデンバーデンのオペラ・ガラ

2020-05-24 10:45:22 | オペラ
衛星放送の録画で、ドイツのバーデンバーデンで2007年に開催されたオペラ・ガラ・コンサートを見る。出演者はアンナ・ネトレプコ、エリーナ・ガランチャ、ラモン・ヴァルガス、リュドヴィク・テジエと、結構豪華な顔ぶれ。

曲目はベッリーニから始まり、ヴェルディ、プッチーニなどのイタリア物が多かったが、サンサーンスやビゼーのようなフランス物も入る。ドイツ物はほとんどない。ガラなので、有名曲が多く、気軽に聞けるが、きちんとすべての歌詞を字幕で出してくれたので、オペラのどの場面で歌われた曲か思い出すことができてよかった。コンサート形式の場合には歌詞が出ないことも多いが、やはり歌詞の訳出は大事だと思う。

今から13年ほど前のコンサートなので、御贔屓のアンナ・ネトレプコもまだほっそりして若いといった印象。ネトレプコは、前半は金色のドレスで、後半は銀色だった。

女性二人で歌った「ノルマ」などもよいが、男性二人のデュエットで歌う「真珠とり」も聞きほれた。

一度、終わって花束を受け取ってから各自が、1曲づつアンコールにこたえて歌ったが、ネトレプコは、レハールのオペレッタ「ジュディッタ」からドイツ語で歌った。銀色の靴を脱ぎ捨てて素足で踊り、大サービスだが、そのあとで歌いながら花束から花をちぎり、客席の紳士に向けて投げたりした。こんなにサービスするのは初めて見た感じ。昔見た、スペインの音楽映画「すみれ売り」(1958)の中で、サラ・モンティエールが舞台の上から花籠に入れたすみれの花を客席に投げる場面があったことを思い出した。

日本でいえば、国立劇場の正月公演で菊五郎劇団は、手拭い投げのサービスをするが受け取ったことがない。舞台から投げたのを受け取ったのは、大昔の牧阿佐見バレエ団の「くるみ割り人形」で出演者のサイン入りのハンカチをもらったことがあるなと、思い出した。

早く、東京でもオペラ公演を再開してほしいものだ。

映画「英国万歳!」

2020-05-21 10:53:38 | 映画
衛星放送の録画で1994年の英米合作映画「英国万歳!」を見る。1991年のアラン・ベネットの戯曲の映画化で、舞台でも演出したニコラス・ハイトナーの監督。原題は「ジョージ3世の狂気」で、18世紀末にジョージ3世が突然、わけのわからないことを喋りだして統治能力を失った史実に基づいた映画。

こんなことがあったなどとは、まったく知らなかったが、ジョージ3世は、ハノーヴァー家なので、遺伝的にこうした病気を持っていたらしい。昔のことだから、王がこうした状態になると、科学的とは言えないようなやり方で、医者たちがかなり乱暴に治療するが、なかなか治らず、こうした精神病患者たちを回復させている牧師が登場して治療するという展開になる。

一方、王が乱心すると統治能力を欠くので、代行する摂政を置く必要があるという議論が国会で巻き起こり、摂政法案が提出される。この摂政法案が、無能な皇太子を摂政とするという内容なので、阻止しようとする派と推進派がいろいろと策をめぐらす。イギリスの王室は複雑でよくわからないのだが、宗教的な内容や、血統の件が背景にあるのかも知れないが、歴史に詳しくないのでそこらはよくわからなかった。

映画では、議会での議論と王の治療が並行して描かれて、王は回復に向かってはいるものの、議会で法案が通るまでに元気な姿を見せることができるかどうかがドラマの核心になっていく。

まあ、それなりに見ごたえはあるし面白かったが、背景にあるイギリス王室の詳しい歴史を勉強しようというほどのの興味はひかなかった。