劇場と映画、ときどき音楽と本

オペラ、バレエ、歌舞伎、文楽などの鑑賞日記です

小林愛実のベートーヴェン

2023-01-29 09:39:13 | 音楽
1月28日(土)の昼に、東京オペラシティで小林愛実のベートーヴェンのピアノ協奏曲3番を聴く。東京シティフィルの定期演奏会で、指揮は高関健。シティフィルなのでガラガラかと思ったら、ほぼ満席なので驚いた。一昨年のショパンコンクールで、小林愛実が4位に入賞したというニュースを聞き、一度聞いてみたいと思っていたが、なかなか機会がなく、先日は幼馴染の反田恭平と結婚して、もうご懐妊との報道もあったので、産休に入る前に聞いておこうと思い、慌ててチケットをとった。週刊文春のオンライン版によると反田は再婚らしいが、舞台に立った小林からは、結婚に喜ぶ新妻という幸福感は感じられなかった。

さて、プログラムはドイツ物でベートーヴェンとリヒアルト・シュトラウス。最初にベートーヴェンの「献堂式」序曲があり、小林のピアノ協奏曲3番。20分の休憩の後、シュトラウスの交響詩「英雄の生涯」。15分ぐらい前に会場に入ると指揮者の高関が曲目解説をやっていた。かなり多くの聴衆が聞いていたので、高関は毎回説明をしているのだろうか?これを楽しみにしているファンもいるかもしれない。

テレビで見た映像から、何となく小林は力強く情熱的に演奏するのではないかと、勝手に思い込んでいたが、実際に聴くと端正に譜面通り演奏した印象で、特段の「情熱」は感じられず、上手には弾くが平凡。それでも、今後はまた演奏が変わっていくかもしれないので、今の時期に聴いておいてよかったと思う。

後半のリヒアルト・シュトラウスは45分の大曲で、編成も大きく、やたらと音が多い曲。標題音楽で「英雄」とは誰を指すのかという解釈で、シュトラウス自身だとする解説も多いが、それの根拠は、後半でシュトラウスの曲が回想的に使われているからだろう。実際に聴くと、英雄の描き方は軍隊調の小太鼓やトランペットであり、どう聞いても「軍隊」のイメージ、シュトラウスとは思えない。1899年の初演だから、帝国時代の英雄を漠然と描いたものではないかという気がした。

高関の指揮は丁寧というか、教え諭すような指揮ぶりで、オーケストラは懸命にそれに従った印象。大編成で複雑な曲だけに、破綻せずに演奏したのは立派だが、音のまとまりという点では今一つの印象だった。

帰りにスーパー-で食材を買って帰り、家で食事。豚スペアリブのバルサミコ酢煮込みを作って食べる。飲み物はボルドーの赤。

若林顕のラフマニノフ

2023-01-28 10:04:32 | 音楽
1月27日(金)の夜に東京芸術劇場で、若林顕のピアノによるラフマニノフのピアノ協奏曲3番を聴く。オケは読響で指揮は若い米田覚士。後半はチャイコフスキーの交響曲4番。都民芸術フェスティバルの一環なので、若い指揮者とベテラン・ソリストという組み合わせ。入りは8~9割程度。

このところ、ラフマニノフのピアノ協奏曲2番を2回立て続けに聴いたが、両方とも普通とはちょっと違うラフマニノフで、ストレスが溜まっていた。若林のピアノはいかにもラフマニノフらしいリズムと響きで、こういう演奏を聴きたかったと思った。ラフマニノフのピアノ協奏曲では2番が有名だが、改めて聞くと3番もなかなか面白く、ピアノの聞かせどころが存分にあった。若林のピアノは初めて聞いたが、力強いだけでなく繊細な響きもあり、いろいろと聞いてみたいと思った。こうしたコンサートではスタインウェイの使用が多いが、珍しくヤマハのピアノで、スタインウェイほどきらびやかではないが、高音部の響きが美しいと感じた。

後半はチャイコフスキーの4番で、まだ27歳の米田が指揮をした。2年前の東京音楽コンクールで入選したばかりだから、まだこれからという若手。第一楽章はちょっと緊張して硬い感じがあったが、二楽章以降はのびやかに指揮していた。派手な曲なので、タイミングさえ外れなければそれなりに盛り上がる印象。

久々にインド料理屋で軽い食事。金曜日の夜なので混んでいるかと思ったら、厳しい寒波のためかガラガラだった。ナスのクミン炒め、サモサ、羊肉のソーセージなど。飲み物はイタリア産の白。羊肉なので赤の方がよかったかと、後悔した。

トゥガン・ソヒエフ指揮のN響

2023-01-27 10:24:53 | 音楽
1月26日(木)の夜にサントリーホールで、ソヒエフ指揮のN響を聴く。場内は9割程度の入り。最初はバルトークのヴィオラ協奏曲で、アミハイ・グロスがヴィオラを弾いた。ヴィオラの協奏曲を聴くのは初めてで、どんな感じだろうと思ったが、やはり地味な楽器という印象。ヴァイオリンがソプラノのように華やかな印象を与えるとしたら、ヴィオラはアルトのような存在で、普段はハーモニーの内声を担当するので、あまり注目されない。オーケストラと共演しても、派手さはなく、つつましやかな印象だった。オーケストラはバルトーク流の不安を掻き立てるような響きの中で、かなり複雑な技巧を使った独奏があった。アンコールで、N響のヴィオラの首席奏者と二人でデュオを弾いたが、ヴィオラの音色が美しく感じられて、楽しめた。

休憩の後はフランス・プログラムで、ラヴェルの「ダフニスとクロエ」組曲と、ドビュッシーの交響詩「海」。どちらも標題音楽なので、何となく情景が浮かびあがるような演奏で、楽しめた。特に「ダニエスとクロエ」はバレエ曲で、ディアギレフ時代のバレエ・リュス向けに書かれたので、時代のムードがよく伝わった。この時代のフランスの曲は、音の表情が豊かで、音楽なのにまるで美しい色の絵を見るような印象、独特の楽しさがある。

指揮者はロシア人だが、ボリショイ歌劇場の音楽監督を辞任して、西側で活躍していると解説に書いてあった。音楽家も踏み絵を踏まされる大変な時代になったものだ。

帰りがけにいつものスペインバルで軽い食事。トルティージャ、生ハム、クリームコロッケ、ポテトフライ、イカのフリットスなど。

ロッシーニの「オテッロ」

2023-01-23 14:01:03 | オペラ
1月22日(日)の昼に、テアトロ・ジーリオ・ショーワでロッシーニのオペラ「オテッロ」を見る。テアトロ・ジーリオ・ショーワは、昭和音楽大学内にある劇場で、1200~300席の小ぶりな劇場だから、一部の席を除けば見やすく、音響も良いので悪くはないのだが、新宿から小田急の急行でも20分以上かかる新百合ヶ丘にあるので、よほど見たい演目でなければ足が向かない。今回、わざわざ新百合ヶ丘まで行く気になったのは、演目が珍しかったからだ。「オテッロ」と言えばヴェルディの作品が有名で、ロッシーニの作品はあまり舞台にかからないので、この機会に見ておこうと思った。

3幕の作品だが、2幕と3幕は連続上演。2時開演で、20分の休憩を挟み、終演は5時ちょっと過ぎだった。物語は、シェイクスピアの原作とは少し変えてあり、デズデモーナはまだオテロと結婚しておらず、結婚を夢見ているが、総督の息子ロドリーゴもデズデモーナに恋しており、イアーゴの奸計により誤解が生まれて悲劇が起こるという話になっている。誤解の元になるのは、ハンカチーフではなく手紙だ。オペラの筋立てとしては、これも良いと思ったが、イアーゴが何のために二人の仲を邪魔しているのかが、わかりにくかった。

装置は非常に簡素で、無きに等しく、ロープを使っていろいろと表現したが、まあ邪魔になるような演出ではなく、良いと思ったが、有名な「柳の歌」の場面で出てくるハープが全くそれらしく見えない代物で、もう少し工夫をしたらよいのにと思った。

歌手は主要な5人が海外からきており、デズデモーナ役のソプラノ歌手レオノール・ボニッジャがよく歌っていた。男性3人がテノールで、しかもかなり高音が求められるだけでなく、この時代の特徴であるアジリタで歌うので、かなり大変そうだった。オテッロ役のジョン・オズボーン、ロドリーゴ役のミケーレ・アンジェリーニとも、苦しそうではあったが、何とか、この難曲を歌っていた。

オーケストラは、「ザ・オペラ・バンド」という、恐らくは寄せ集めの楽団だが、管が全体的に弱く、贅沢は言えないが、もうちょっと練習してくれたらという感じ。

それでも、こうした珍しい演目を上演してくれるのはありがたい。ロッシーニ節を満喫して、帰りがけにいつものスペインバルで軽い食事。トルティージャ、生ハム、ひよこ豆のコロッケ、ミートボール、イワシのエスカベッシェなど。

新国立劇場の「ニューイヤー・バレエ」

2023-01-15 10:14:23 | バレエ
1月14日(土)の夜に新国立劇場で、「ニューイヤー・バレエ」を見る。4回公演だが、客席が満杯なので驚いた。オペラと異なりバレエ公演は、女性が多い。新国立劇場は、いまだに客席の前2列を空け、終演時に分散退場などをしているが、一体どんな意味があるのだろうか。クロークも早く開けてほしい。

「ニューイヤー・バレエ」は、物語のない抽象的なバレエの二本立てで、デイヴィッド・ドーソン振付による新製作の「A Million Kisses to My Skin」と、ジョージ・バランシンの「シンフォニー・イン・C」。それだけでは寂しいせいか、ロイヤルのプリンシパルを呼んできて「眠りの森の美女」のグラン・パ・ド・ドゥと、アリーナ・コジョカルによるノイマイヤーの「ドン・ジュアン」があった。日本人若手のホープである木村優里と池田理沙子は怪我で休演となったのはちょっと残念。年末年始に「くるみ」の公演が13回もあったので、疲れが出たのではないかという気がした。

ドーソンの新作は、バレエの技法ではあるが、全員レオタード姿で踊る35分の作品。美しくはあるが、物語がないので、後半は見ていても集中力が途切れて飽きてくる。それに比べると、バランシンの作品は、物語はないもののクラシカルなイタリアン・チュチュで、フォーメーションも古典的なルールに基づいているので、同じぐらいの長さだが退屈せずに見ることが出来る。木村優里に代わり入団したての吉田朱里が踊ったが、まだアーティストなので大抜擢。経歴を読むと2021年に研修所を終えて入団したばかり、ミルタを踊っているので、次世代のホープなのかもしれない。ミルタを踊るだけあって、背が高く見栄えのする大きな踊りで、これからが期待できるかもしれない。

「眠り」のパ・ド・ドゥを踊ったヤスミン・ナグディはインド系の顔立ちで、首相だけでなくロイヤル・バレエもインド系が支える時代になったことを痛感した。動きは正確で、止まった時のポーズが驚くほど美しかった。アリーナ・コジョカルはビッグ・ネームだが、もう40歳ぐらいなのであまり踊れないのではないかと思ったら、すばらしい踊りでまだまだ現役のプリンシパル。ノイマイヤーの振付だが、まったく重量感を感じさせない踊りで、あんなに軽やかに踊ることが出来るということに驚く。良いものを見たと思った。

帰りがけに蕎麦屋で軽い食事。豆腐、青菜のお浸し、ナスの揚げびたし、クリームチーズと酒盗、天ぷらなどを、日本酒とそば焼酎のそば湯割りでつまみ、最後はモリそばで締めた。