劇場と映画、ときどき音楽と本

オペラ、バレエ、歌舞伎、文楽などの鑑賞日記です

新国立劇場オペラ研修生の発表会

2020-12-24 10:49:13 | オペラ
12月23日(水)の夜に、新国立大劇場でYoung Opera Singers of Tomorrow 2020を観る。要するにオペラ研修所21期~23期生の発表会ということろ。これまでは、中劇場でピアノ伴奏によりアリアを歌うような形で実施されてきたような気がするが、コロナの影響もあり、今年はやり方が全く変わり、大劇場で、オペラの名場面集を見せるという形で行われた。18時30分開演で、20分間の休憩をはさみ、終演は9時15分頃だった。客層は、普段のオペラ観客よりも若く、中年が多く、3階席まで入っていて、全体としては8割ぐらいの入りだったような気がする。

名作オペラの名場面を見せる形だが、前半はモーツァルトの「コジ・ファン・トゥッテ」と「魔笛」、休憩をはさみ後半は、ロッシーニの「セビリアの理髪師」、ドニゼッティの「ルチア」、そして最後に「ドン・パスクワーレ」だった。各作品30分程度なので、前半が1時間、後半が時間半といったところ。セットはギリシャ・ローマ風の柱と簡単な家具を並べた簡素なもので、全部の作品で同じ。衣装も特に用意せずに、自前の衣装を工夫していた。歌を聴かせるだけでなく、その前後のレチタティーヴォや簡単な演技があるので、出演者も役を演じていることが鮮明にわかる。やはり、オペラ研修所なのだから、オペラの役を演じる機会が多いほうが良いし、中劇場ではなく大劇場でどれだけ声が響くかを経験することが大事だろう。

見ているほうも、ほとんど知っている作品なので、ああ、あの場面だとわかり、歌舞伎の見取りで見ているような気分になって面白く、退屈しない。誰が全体構成をしたのかわからないが、18世紀末から19世紀前半の古典的なオペラが選択されていて、ルチアで悲劇的な場面を見せた後、最後は喜劇的なドン・パスクワーレで大喜利という、とてもクレヴァーな構成だと思った。演出は粟國淳でとても分かりやすい。指揮は柴田真郁で、オーケストラ・ボックスには、新国の4人のコレペティツゥールが入り、オーケストラパートをピアノで伴奏しただけでなく、チェンバロやチェレスタも使って、雰囲気をよく出していた。

粟國淳は芸大でも指導をしていて、卒業試験のオペラ抜粋もこうした形式で実施しているようだ。今回の試みもその延長線上かも知れない。どういいう考え方でこうしたやり方なのかは、研修所長の永井和子が、プログラムなのできちんと説明すべきだろう。大変良い企画なので、そうした説明がないことが惜しまれる。

公演自体は良かったが、新国のエアコンが暑すぎてうんざりした。ロビーから客席に入ると、4~5度高いような気がする。冬場は寒いので着込んでいくが、あまりの暑さに、上着もセーターも脱ぎ、シャツ一枚で見ることになった。それでも暑い。一体どういう感覚なのだろう。

9時過ぎに終わるので、外での食事はできずに、家に帰って軽い食事。作っておいたミネストローネ・スープ、スペイン産のサラミ、イタリア産の黒トリュフ入りサラミ、フランス産のレバーペーストとフランスパン、飲み物はCAVA。

松本和将のベートーヴェン・ソナタ

2020-12-22 11:14:23 | 音楽
12月21日(月)の夜に洗足にあるプリモ芸術工房で、松本和将のベートーヴェン・ソナタのコンサートを聴く。以前ベテランのヴァイオリニストの伴奏をしていた彼のピアノを聴き、印象に残っていたので、ソロ・コンサートを探して聴きに行ったのだ。プロモ芸術工房は、洗足駅前のビルの2階にある小さなスタジオのようなところで、詰め込めば50人ぐらい入りそうなスタジオだが、現在はコロナ問題もあり、収容は20人に限定して、インターネット配信でも聞けるようにしているようだ。客層は中年の女性が中心といった感じで、男性は3人しかいなかった。インターネットへの配信は3台のカメラと望遠のステレオマイクが使われていて、経営者が手慣れたムードで中継処理をこなしていた。

曲目は17番のテンペスト、30番をやって10分間の休憩があり、後半は21番のヴァルトシュタインだった。19時開演で松本氏の簡単なトークを交えて演奏が行われて、終演は、8時45分だった。これまでは比較的小さなホールでのピアノ演奏は聞いたことがあったが、20名しか入らない小さなスタジオで、間近に演奏を聴くのは初めてだったが、その迫力に圧倒された。

松本氏のスタイルは、かなり強烈なタッチでフォルテを弾くので、ピアノからこんなにすごい音が出るのかと改めて驚く。特にテンペストなどは大嵐が来たという迫力だった。曲の順の理由や、簡単な彼自身の楽曲解釈について説明をしてくれたので、ヴァルトシュタインも新しい気持ちで聴き、まったく退屈することなく、あっという間に終わった印象。ベートーヴェンが人間として蘇って新しい命を得たように感じた。ベートーヴェン年だということで、今年はたくさん聞いたが、その中でも今回のピアノ・ソナタは断然面白かった。

8時45分に終わりスタジオを出ると、階下がイタリア料理店で、ラスト・オーダーが9時となっていたので、初めての店だったが、滑り込んで簡単な食事。客はやはり少ない。タコとセロリのマリネ、イカとホタテのアンチョビ・ソテー、最後にピザ・マルガリータを食べる。ワインはカリフォルニアのシャルドネ。洗足駅前という立地から考えて、味に不安があったが、思いのほかおいしい料理が出てきて満足した。

読響の第九

2020-12-19 10:35:15 | 音楽
12月18日(金)の夜に、サントリーホールで読響の第九を聴く。今年は「忠臣蔵」は見なかったが、「くるみ」と「第九」はあった。7時開演で8時30分ごろに終了。特にソーシャルディスタンスの座席配置ではないが、空席もあり、全体としては7割程度の入りか。

指揮はドイツから来たセバスチャン・ヴァイグレで、読響の常任指揮者だが、今年はコロナのために来日できずに、やっと今回来日したようだ。読響は第九を全国で6回も公演するようで、全部をヴァイグレが指揮するのだが、18日の公演は2回目だ。ソプラノは森谷真理、メゾはターニャ・アリアーネ・バウムガルトナー、テノールはAJ・グルッカート、バリトンは大沼徹、合唱は新国立劇場の合唱団。

第九は、昔はなかなかコンサートに行けずにレコードで聞いていたので、頻繁に聞いたが、最近はコンサートでしか聞かないので、年に一度聞くか聞かないかという感じだが、久々に聞くとやっぱり面白い曲だなあと感心した。

ヴァイグレの指揮は、オーソドックスなものだが、強弱のメリハリがきちんとついていて、この部分はこんなに弱い音で聞かせるのかなどと感じる箇所もあり、いろいろと感心しながら聞いた。オーケストラの響きも良かったが、新国立の合唱団の歌声の美しさに暫し酔いしれる思いだった。この合唱団のレベルは相当高いと感じる。

現在のようなコロナ時代に、合唱はどこで歌うのかと気になったが、サントリーホールの舞台後ろの客席には観客を入れず、合唱団はその舞台後ろの客席で1列おき、1席おきに配置されていた。女性25名男性15名の構成。ソロの歌手は、オーケストラの前ではなく、後ろに席が設けられていた。

ソロ歌手は日本人と外国人と半々だが、並んで立つと身長では変わらないものの、日本人は体つきがほっそりしていて、体重は半分ぐらいしかないように見えた。それでも、歌声は負けないように歌っていたから、立派なものだと感心する。

良い演奏を堪能したが、8時半に終わると、10時までしか営業しないレストランでしっかり食事するのは難しい。イタリアではレストランがオープンするのが8時半ごろなのになあなどと思いながら、軽いつまみで済ませることができるスペインバルで食事。トルティージャ、生ハム、塩タラと卵のオーブン焼き、スペイン風のポトフなど。

ピーターとザ・スターキャッチャー

2020-12-18 13:52:46 | 演劇
新国立の小劇場でリック・エリス作の「ピーターとザ・スターキャッチャー」を見る。12月17日の夜の回で、午後7時に始まり、20分間の休憩があり、終演は9時半ぐらいだった。ほぼ満席で、小劇場の1列目まで入れていた。小劇場なので1列目は舞台に近く、1メートルも離れていないので、舞台最前列で演じる場面では、全員がマウスシールドをつけての演技だった。これがOKならば、大劇場でバレエやオペラ公演の場合に前3列を開けて公演する必要は全くないのではないかと思う。大体舞台と客席の間にはオーケストラピットがあり、最初から4メートル以上離れているからだ。

さて、この「ピーター」は、2012年にブロードウェイで上演された「ピーターパン」の前日譚で、ピーターパンの明らかになっていなかった誕生秘話がいろいろと出てくる。子供向きを意識したのか、公演はほとんどマチネーで、ソワレはあまりなかったが、昼は忙しいのでソワレをとって見に行った。トニー賞をたくさん取ったというのがチラシに書いてあったので、それなら面白いかと思って出かけたが、ちょっと期待外れに終わった。

調べてみると、確かにトニー賞をたくさん取っていたが、5部門でとった内訳をみてみると、装置賞、衣装賞、照明賞、音響賞と、美術関係が多く、黒ひげ役を演じたクリスチャン・ボ-ルが演劇部門の助演男優賞をとっていた。クリスチャン・ボールはこの後の「何かが腐っている」でもトニー賞を取った俳優だ。今回の日本公演では、装置、衣装、照明、音響ともちろん役者も米国版とは異なるので、トニー賞で評価された部分は全く含まれていないことになる。

お話はピーターパンを知っていることが前提となるが、ピーターパンが「ネヴァーランド」と呼ばれる島に住み着いた理由、永遠に子供である理由、ワニがおなかに時計が入っている理由、ウェンディがピーターパンと一緒に冒険をする理由、黒ひげの海賊が右手首を失った理由などが、2幕で明らかになっていく。1幕はそれまでの背景説明。こうした有名な物語の前日譚というのは、2003年にヒットした「オズの魔法使い」の前日譚である「ウィキッド」と基本的には同じ作り方だが、作品としては「ウィキッド」のほうが断然面白かった。

今回の上演での1番の問題点はピーター役を演じた入野自由にまったく魅力が感じられなかったことが大きい。ピーターはディケンズの描くオリヴァー・ツイストみたいな設定で、孤児なので大人を信用せずに育ち、大人になることを拒否していくのだが、それがうまく描けていない。ウェンディの母親となるモリーはよく演じていたが、ヴィクトリア朝時代の活発な13歳の英国娘という雰囲気は感じられない。アメリカの舞台では、思いっきりイギリス英語で演じられた役だ。

全体にセリフが早口で音響がうるさすぎる。翻訳作品は時間が伸びないようにするために、全体として早口となる傾向があるが、ちょっと早すぎて芝居が楽しめない。それに小劇場なのに、マイクを使い、楽器の音もスピーカーから聞こえるだけでなく、歌の音量が突然上がってうるさい響きになってしまう。最近はPAを使いすぎだ。

2幕の幕開きの人魚の踊りと歌は、1930~40年代にアメリカで流行したバーレスクのパロディで、衣装も振り付けもそうしたものだと思うのだが、日本版では全く単なる歌と踊りなので、見ていて面白くもなんともない。2幕の島の住民たちとのやり取りも、ちょっと「モルモン書」の影響が感じられるが、そうした雰囲気があまり出ていなかった。全編がこんな調子だから、気の抜けたサイダーのように感じられた。

それでも若い娘さんたちがたくさん見に来ているので、誰か人気のある人が出ているのだろうと、妙に感心した。休憩中のロビーのムードも演劇は何となく暗いムードで、オペラやバレエとはちょっとムードが違うよなと感じる。

コロナのために飲食店の営業は10時までなので、9時半に終わるともう外の店では食べられない。不便なことだ。飲食店でもこれまでに経験した一番暇な12月だと嘆いている。16日にもフレンチレストランに夜に食事に出たが、客は我々1組だけで、貸し切り状態。厨房にあいさつすると3人で作っていた。ホールは1人。この体制はもう維持できないと嘆いていた。結局レストランは無理なので、家に帰って食事。作り置きのナスのカレーと、コールスローサラダ。飲み物はカヴァとした。

新国立の「くるみ割り人形」

2020-12-13 10:39:44 | バレエ
12月12日(土)の夜に、新国立劇場でバレエ「くるみ割り人形」を観る。18時開演で、30分間の休憩をはさみ、終演は20時20分ごろだった。クリスマス・シーズンの人気演目で、会場は小さな子供も含めてほぼ満席。コロナ以降で初めて会場が埋まるのを見た気がする。

イーリングの振付版で、毎回1幕は面白いと思うが、2幕が何となく物足りなく思っていたが、今回は真剣に見たら、2幕も結構面白いことが分かった。配役はクララに米沢唯、くるみ割り人形に井澤駿という顔合わせ、木村優里がアラビアの踊りで、ドロッセルマイヤーは中家正博、ネズミの王様に渡邊峻郁だった。

井澤は最初から出てきて小さなクララとも踊ったりするが、大人のクララを演じる米沢は前半30分が過ぎてからの登場なので、ちょっと寂しい。毎回気になるのだが、この版では、現実の世界は紗幕がかかった状態で演じられ、夢の場面になってやっと紗幕が上がるので、1幕の前半、半分以上が紗幕のかかった状態で演じられるので、ちょっとストレスが溜まる。クリスマスのパーティ場面から紗幕を上げてもよいのではないかという気がする。

前半で大好きなのは雪の精たちの群舞で、結構難しいフォーメーションだが、さすがに新国のコールドだから、見事に踊っている。この場面ではいつも2階席の舞台上手と下手に子供の合唱隊が出て美しい歌声を聞かせるが、今回はコロナ演出なので、子供たちは現れずに舞台裏で歌っていた。

この作品のネズミの王様は極悪人というわけではなく、何となくクララに恋しているようなそぶりで、ちょっとかわいいしぐさも見せたりする。それでも、2幕の最初にあっさりとくるみ割り人形に殺されてしまう。

ネズミが「退治」された後は、なぜかスペインの踊り、アラビアの踊り、中国の踊り、ロシアの踊りなどが続くが、ドロッセルマイヤーが踊りを紹介するだけで、なぜこうした踊りが踊られるかがわからないという点がこの版の一番の欠点だろう。よく見ていると、どの踊りも技術的には難しそうな振付で、すごいとは思うが、何となくパガニーニの超絶技巧の曲を聞かされた気分。特にアラビアの踊りは、木村優里を支える男性陣4人が入れ替わり立ち代わりサポートと交代するので、見ていてハラハラしてしまった。

蝶々の踊りは柴山沙帆だが、難しいステップがたくさんあったのにきちんと踊っていて、これもまた見事と感心した。

花のワルツは、何となくロージーなピンク色をイメージするのだが、この版ではポピーを使いオレンジ色で、ちょっと気分が違う印象。しかし、振付は凝ったもので、フォーメーションがダイナミックに変化していくのが面白い。

いろいろと不満な点もあるものの、全体としては大いに満足して楽しめた。やはり12月に「くるみ」はいいものだ。今年は忠臣蔵を観ないのが寂しい。

帰りはいつものスペインバルで軽い食事。コロナのためか、土曜の夜だというのにガラガラだった。おまけに10時閉店なので9時半に来店した客は断られていた。時間自粛要請と、GOTOキャンペーンが同時に進行しているのは、どう考えても矛盾しているように感じられる。どっちにするのかきちんと説明してほしい。イカの墨煮込み、アサリのバスク風、トルティージャ、ハモンなど。