【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

「パンズ・ラビリンス」:表参道バス停付近の会話

2007-10-10 | ★池86系統(東池袋四丁目~渋谷駅)
表参道とか原宿とかって、個性的なお店がいっぱいあるんだけど、どこに何があるのかよくわからないのよね。
まったく、迷宮みたいな町だもんな、このあたりは。東京人でも、なんか、おのぼりさんになった気分になるぜ。
迷宮、すなわちラビリンスよね。
「パンズ・ラビリンス」なんていう映画もあったな。てっきり表参道みたいな迷宮の町でパン屋さんを探し求める話かと思ったぜ。
まあ、このあたりじゃパン屋さんを探すのも一苦労だけど、そんなバカな連想するの、あなたくらいだと思うわよ。
じゃあ、「パン」て、何だよ。
「パン」ていうのは「牧神」のこと。「パンズ・ラビリンス」に出てくる気持ちの悪い怪物は牧神だっていう設定なのよ。
そんなこと言われたって、この映画を観に来るチビッ子たちには、難しすぎてわからないじゃないか。
あ、なんか、誤解してる?この映画のターゲットは、「ハリー・ポッター」や「ロード・オブ・ザ・リング」を観に来るような子どもたちじゃないのよ。
え、そうなのか?かわいい女の子が主人公のファンタジー映画だったぜ。
正確には、ファンタジーの皮をかむった社会派映画ってところね。
そりゃ、ファンタジーって言っても、「昔々あるところに・・・」ていうんじゃなくて、内戦が終わり、独裁政治が始まったばかりのスペインと、場所も時代も具体的に特定されているけどな。
独裁政権側の人間とレジスタンスとの血で血を洗う戦いの真っ只中に放りこまれた一人の女の子が、暗い現実から逃避するために夢見た空想の世界という解釈もできるような物語よね。
空想というわりには、現実の世界で繰り広げられる陰惨なできごとと、女の子が夢見る「千と千尋の神隠し」みたいな幻想的な物語が、違和感なく融合している。
ああ、でっかいガマガエルとか、クチナシみたいな白い化け物とか、クリーチャーたちは宮崎駿のアニメにでも出てくるようなキャラクターだったわね。
でも、宮崎駿のアニメは、あんな絶望的な終わり方はしない。
たしかに暗いけど、どこか救いのある、不思議なエンディングだったわよ。
ハッピー・エンディングみたいなアンハッピー・エンディング・・・。
現実世界があまりにも醜いから、ああいう終わり方が不思議と感動的に見えてしまうのかもしれないわね。
ゲリラと独裁政権側の戦いなんて、「麦の穂をゆらす風」をほうふつとさせるような陰惨極まりない話だもんな。しかも、たぶん、こんなことが実際にあったんだろうと思わせるような、なんともリアルな悲劇。
麦の穂をゆらす風」はアイルランド紛争だから、場所は違うんだけど、この悲劇はたしかにあの映画を思い出させる。
二本立てで見たら、もっと感動するかもしれないな。
そういう映画なのよ、「パンズ・ラビリンス」って。他のファンタジー映画と一緒に観るような映画じゃなくて、社会派のレジスタンス映画と一緒に観るような傑作。
こういう形で、ファンタジーが現実を切り裂く映画ってあまり記憶にないな。
着想に感心するし、それを可視化する技術もみごと。アカデミー賞でもあげたいくらいだわ。
撮影賞も美術賞もメイクアップ賞も取ってるぜ。
あ、そう。とにかく、おとなの心をえぐるファンタジーよ。
でも、映画館には、チラホラとチビッ子たちも来てたぜ。
あの、金色に輝く美しいポスターを観て、「不思議の国のアリス」みたいなおとぎ話と勘違いして入ってきちゃったのかしら。
ポスターだけじゃない。それまでが醜悪な話の連続だけに、あの黄金のシーンはこの世のものとも思われない美しさだった。
この世じゃない設定だけど。
あ、そう。
それにしても、あのチビッ子たち、ちっちゃいときに、現実は幻想より恐ろしいなんていう世の中の深遠をのぞきこむような映画を観ちゃって、将来どういう形でこの映画を思い出すのかしら。
興味があるな。頭の中をのぞいてみるか。
それこそ、迷宮よ。


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表参道バス停



ふたりが乗ったのは、都バス<池86系統>
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