【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

「麦の穂をゆらす風」:南青山六丁目バス停付近の会話

2006-11-23 | ★渋88系統(渋谷駅~新橋駅)

「麦の穂をゆらす風」ってさあ・・・。
いきなり、なに?なんで、ウィスキー会社の前で「麦の穂をゆらす風」の話題が出るの?
だから、「麦の穂をゆらす風」っていうから、俺の大好きなウィスキーができるまでの映画かなにかだと思って観たら、全然違うんだよな。
アイルランド紛争を描いた戦争映画よ。「麦の穂をゆらす風」っていうのは、アイルランドで昔から歌いつながれる伝統歌。
戦争映画って言っても、「男たちの大和」や「父親たちの星条旗」みたいに戦艦や戦闘機が出てくるような映画じゃないけどな。
1920年頃の話だから、人と人が対面して銃で撃ち合うような戦争なのよね。
しかも内戦だから、知り合い同士が銃を向け合うような状況が出てくる。
ある意味、今の戦争より残酷よね。
いやいや、アイルランド紛争って、まだ解決していない。今も続いている戦争なんだ。
そうなの?
ホテル・ルワンダ」を観てアフリカのことを初めて知って、「麦の穂をゆらす風」を観てアイルランドのことを初めて知って。映画を観てるとほんとに世界の広さを実感するよな。
でも、そこに暮らす人々は、あたりまえだけど、私たちと変わらない血が流れているのよね。
そう、戦争という状況に置かれた人々の息遣いというか、心情というか、そういうものが切々と伝わってきて、胸がつまる。
最初は戦争に背を向けてた主人公が結局戦争の中心人物になっていって、兄弟とも対決しなくちゃいけなくなっていく、って話、どこかで観たような気もするわね。
「ゴッドファーザー」だろ。あれは、マフィア同士の抗争だったけど、抗争の外にいた若者が抗争に参加せざるを得なくなり、しかも兄弟と争わなくなっていく、って構図はたしかに「麦の穂をゆらす風」に似ているな。
大義名分があろうとなかろうと、人と人が殺しあうなんて、マフィアの抗争と変わらないってことかしら。
「麦の穂をゆらす風」の主人公は、国を良くするためにはどうすればいいか、ほんとに真剣に議論しているのに、結局は武器に頼らざるを得なくなるんだから、こっちのほうが深刻かもしれないけどな。
ほんと。戦争映画でこんなにちゃんと議論してる映画って少ないんじゃないの?
議論の内容も大事だけれど、あの場面を見ていると、人の体温が感じられるんだよ。
戦争ってひとことで言うと、人の体温を奪うことだって、よくわかるわね。
国と国の争いなんだけど、小さな村のできごとにしぼって丁寧に描いたことがいい映画になった勝因だな。
「勝因」だなんて言わないでよ。勝ち負けにこだわるから悲劇はなくならないんだから。
ああ、ほんとうだ。勝ち負けなんかない世界で、みんなが楽しく酒を酌み交わせる日がくることを心から祈るよ。
シラフだとまともなこと、言うのね、あなたも。


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