Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

DICとトロンボモジュリン

2013年09月09日 | 消化器・血液
最近、アラフィフになった。
さすがに、当直の回数を減らそうかと思う。
もう、無理は出来ません。

Valerie J Page, E Wesley Ely, Simon Gates, et al.
Effect of intravenous haloperidol on the duration of delirium and coma in critically ill patients (Hope-ICU): a randomised, double-blind, placebo-controlled trial.
Lancet Respiratory Medicine, Volume 1, Issue 7, Pages 515 - 523, September 2013


人工呼吸を必要とする患者さんに、ハロペリドールを予防的に投与するとせん妄を減らせるか、についてのRCT。一施設、141例、ハロペリドール2.5mgかプラセボを8時間毎に投与。結果は、予防効果無し。
ま、そうだわな。ハロペリドール欠乏がせん妄の原因じゃないもんね。

Alhazzani W, Lim W, Jaeschke RZ, et al.
Heparin thromboprophylaxis in medical-surgical critically ill patients: a systematic review and meta-analysis of randomized trials.
Crit Care Med. 2013 Sep;41(9):2088-98. PMID: 23782973.


ICU患者にヘパリンによるDVT予防は有益か、についてのメタアナリシス。7研究、7226例が対象。プラセボと比較して、ヘパリンの投与はDVT/PEを約半分に減らし、出血は増やさない。低分子ヘパリンは未分画ヘパリンよりも更にDVT/PEを減らす(リスク比0.62)。ただし、症例のほとんどはPROTECT studyから。
出血のリスクが無ければヘパリン皮下注がICUでも原則か?それなら間欠的空気圧迫はどうなるか。以前より情報が増えたけど、まだ7研究しか無いとも言える。もう一声欲しいところ。

Mokhlesi B, Hovda MD, Vekhter B, et al.
Sleep-disordered breathing and postoperative outcomes after elective surgery: analysis of the nationwide inpatient sample.
Chest. 2013 Sep;144(3):903-14. PMID: 23538745.


睡眠時呼吸障害(sleep-disordered breathing:SDB。SASとかのこと)の患者さんには、手術をすると呼吸器/循環器系の合併症がよく起こる。ASAでは術前にスクリーニングをして、必要なら治療することを推奨している。でも、その根拠はどれも小さいもので、更には死亡率とかのハードアウトカムの検討はされていない。
ということで、アメリカの巨大なデータベースを使い、整形外科手術、前立腺手術、腹部手術、心血管手術を受けた約100万症例(!)を対象に、術前に診断されていたSDBが予後に影響するかについて検討。手術の種類によってSDBの影響の程度や方向性は違うけど、だいたいの感じとしては、呼吸器系の合併症(緊急挿管、NPPVの使用、呼吸不全)が多く発生したけど、肺炎や気管切開の必要性や入院日数には大きな影響は無く(場合によってはSDB群の方が良い)、死亡率は低かった。
この話、obesity paradoxとの関係が深い。Obesity paradoxというのは、太っている人の方が生活習慣病などにはかかりやすいけど、同じ病気なら太っている人の方が予後が良い、というもので、いろいろな病態で言われている。今、流行りの話題の一つ。SDBの人は太っている人が多いので、術後早期の気道のトラブルは多いけど、よりハードなアウトカム(気管切開の必要性とか入院日数とか死亡率とか)には影響しないか、もしくは良い。
簡単に言えば、この患者さんはSASがあるから気道には気をつけよー、でも死なないからきっと大丈夫っていう感じ。

さて、本日のメインですが。
この文献、さらっと紹介するだけにしよーと思ったのだけど、中を読んでみると、思った以上に面白かったので、その面白さを伝えるためにメインにすることにした。

Vincent JL, Ramesh MK, Ernest D, et al.
A Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled, Phase 2b Study to Evaluate the Safety and Efficacy of Recombinant Human Soluble Thrombomodulin, ART-123, in Patients With Sepsis and Suspected Disseminated Intravascular Coagulation.
Crit Care Med. 2013 Sep;41(9):2069-2079. PMID: 23979365.


DICを伴う敗血症に対するトロンボモジュリン(TM)の有用性について検討した、phase IIb研究。17カ国、233のICUで行われ、750例が対象。ちなみに筆頭著者は、泣く子も黙るJL Vincent。
その結果、DダイマーやTATなどの凝固線溶マーカーはTM群で低値(ただし二週間後には同じになる)。28日死亡率は、TM群17.8%、プラセボ群21.6%(片側log-rank p値は0.17)。

ここまでの結果は、メーカーのホームページに行けば分かることだし、いろいろなところで宣伝されているので、知っている人も多いはず。だからあっさり紹介してオシマイにしようと思ったのだけどね。
何が面白かったかというと。

まず、100例がenrollされたところで行われたinterim analysisで、思いのほかDICの発生頻度が低かったため(と書いてあるが、死亡率も低いことに驚いたはず)、当初はpower 90%で28日死亡率を評価する研究のつもりだったけど諦めて、片側p値が0.15以下だったら有効な可能性ありと考えて次の研究に進もう、という方針に変更したらしい。
変でしょう?だってKaplan-Meierのp値は0.17(両側p値が0.34)だよ。何ちゃらっていう統計学的な手法で層別化したら、片側p値が0.137になったので、それで次の研究に向かうことになったんだって。
ホームページのスライドを見る限り、単に、事前に決められていたp値を下回ったのでphase IIIに進むことになったという感じだったので、思っていたのと大分違った。

他にもね、ISTHのDICスコアが高い群ではTM群の方が死亡率が高かったり(36% vs. 34%)、死亡率以外のハードアウトカムはまったく同じだったり(例えばhospital-free daysはどちらも7.7日)。

一度読んだだけだし、supplementは見てないし。あまり大きなことは言いません。自分で読んで、評価してね。
ちなみに、この文献のeditorialは以下の文章で終わってます。

Should the development of ART-123 as an adjunctive treatment for sepsis with evidence of DIC be continued? Personally, I do not think it would be wise to do so; but, fortunately, people much smarter and better informed than me will be tasked with making this decision.
(DICを伴う敗血症の治療としてのトロンボモジュリンの有効性の検討を今後も続けるべきだろうか。個人的にはそうするのは賢くないと思う。でも幸運なことに、それを決めるのは、自分よりもずっとスマートで情報を持っている人の仕事。)

よかった。僕もスマートじゃなくて。
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