Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

根拠があれば、ずっと信じてきたことを否定できるか。

2019年08月08日 | ひとりごと
昨日の血糖コントロールの文献を読んでいて、昔のことを思い出した。

もう10年以上前の集中治療医学会の総会。
昨日もちょっと書いたけど、当時はIntensive Insulin Therapyというのが世界を席巻していた(知らない人は調べてね)。日本でもいろいろな施設で取り入れられていて、血糖コントロールをどうするかというセッションがその年の総会で開かれ、僕は現在のエビデンスを紹介するよう頼まれていた。たしかちょっと広めの部屋で、お客さんもたくさんいたように記憶している(違うかも)。
まだNICE-SUGARの結果は発表されていなくて、それ以外の研究も文献にはなっていなかったけど、VISEPGLUCONTROLの結果は学会発表されていた。
「うちではこんな感じでIITやってます!」という報告の中で、僕だけ「NICE-SUGARの結果を待つべきではあるけれど、VISEPもGLUCONTROLもネガティブだったので、現状ではIITは行うべきではないだろう」という話をした。あーあ、セッションをぶっ壊しちゃったな、と思っていたのだけど、その後のディスカッションでは全然気にされず、どうやって厳密に血糖コントロールをするべきかという議論が行われた。

しかも。
会場からの質問で、ある高名な方が、「高血糖が脳に悪いことは証明されているが、脳疾患以外でも血糖コントロールが有効だとする根拠は何か」という質問をされて、さらにガッカリした。だって当時、脳損傷を対象とした血糖コントロールのRCTは行われていないから証明なんかされていないし、厳密なコントロールはどうも有益そうではないぞという話をしたのに、完全に無視されているし。
昨日の研究を含め、脳損傷に対する厳密な血糖コントロールに対するネガティブな結果を見たら、この高名な方はどう思うんだろうなー、もう引退されているだろうから見てないかなー、そんなことを考えたり思い出したりした。

血糖からズレますが。
以前、多施設の観察研究に参加した。結論は、ある治療が有効かもしれない、というものだった。当然、今度はその仮説を証明するための介入研究に進むんだろうと思い、研究の主催者に次はどうするのかと聞いたら、「自分はこの治療が有効だと信じているので、介入研究に参加することはできない」と言われ、目が点になった。
観察研究は何かを証明するために行うものではなく、RCTのための仮説作成や情報収集のために行うという基本が、そこには存在していなかったことに、研究が終了してから気がついた。
先日、この治療法に対するネガティブな結果がメジャー雑誌に掲載された。きっとそれでもこの人は考えを変えないに違いない。

地球が丸いって、昔は信じるのが大変だったらしい。
でも人工衛星写真がなくても、根拠さえあれば自分が信じてきたこと、教えられてきたことを否定できる人もいた。
現代の集中治療において、そういう人が増えることを期待したいです。
コメント
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