真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「優しいおしおき おやすみ、ご主人様」(2020/制作:ラブパンク/提供:オーピー映画/監督・脚本・編集:石川欣/プロデューサー:髙原秀和/撮影監督:田宮健彦/録音:田中仁志/助監督:森山茂雄・菊嶌稔章/撮影助手:末吉真/スチール:本田あきら/仕上げ:東映ラボ・テック/協力:下山天・末永賢・宍戸英紀・多和田久美・高橋祐太・木原伸夫・居酒屋タコピー/挿入曲 ギター演奏と歌:石川欣/出演:あけみみう・明望萌衣・並木塔子・吉田憲明・安藤ヒロキオ・重松隆志)。
 嬌声はその部屋の住人でなく、隣から洩れ聞こえて来る安マンションの一室。淡白なタイトル・イン挿んで、主演女優が床に置いたスマホと対峙、固唾を呑む。着信したスマホを、ひなこ(あけみ)は百人一首感覚の脊髄で折り返して手に取り、十六連射の速さでLINEに返信。レトリックが旧い、何を今更。「チャリ借りまーす」、廊下からの呼びかけに熱戦の真最中でも応へて呉れる、奇特な隣家から拝借した青いママチャリに跨り、ひなこは最寄り駅に出撃。“×月×日夜、御主人様から連絡頂き駅に急ぐ”、自称“マゾひな”のひなこと正しく、もしくは性的な主従関係にあるヒロシ(重松)がのつけから、画角から何からボサーッとしたファースト・カットで改札に現れる。求職活動に沈んだ―カジュアルで行くからだよ―ヒロシとひなこは、道中二人乗りを咎める交通指導員(末永賢)は適当にやり過ごし、大絶賛実名登場の居酒屋「タコピー」に。ひなこと店員のカズヤ(吉田)が、勝てば生ジョッキ一杯無料のジャンケンで無限あひこに突入する傍ら、ヒロシは来し方を十分費やして回想―途中で語り部がひなこに交替―する。係長の座でイキッてゐたヒロシが新入社員のひなこに手をつけ、一応サドマゾも仕込む。ところが妻の美代(並木)に不倫が発覚、即離婚の高額慰謝料に窮し会社の金を横領したヒロシは、退職金と引き換へに辛うじてお縄は頂戴せず自主退社、結局自己破産する。さういふ塩梅で、今は矢張り馘になりはしたひなこの失業保険で生き長らへてゐる、といふ多角的に羨ましい次第。出し抜けに若い頃の夢ではあつたらしい、小説への志向を取り戻したヒロシは、題材の出汁にする方便でひなこにカズヤを戯れに誘惑させる、いはゆる寝取らせプレイを思ひたつ。
 配役残り、末永賢を除いた協力部はタコピー隊、その中で下山天は多分大将格の店員。明望萌衣と安藤ヒロキオが、大体何時でもお盛んな隣人。終盤、木に竹を接ぐそこそこの地震が一帯を襲ふ。ひなことヒロシに、お隣の四人で逃れた近所の公園。怪我人救助の男手を乞ひ、駆けつける男は髙原秀和。地味に最大のアポリアがこの地震の件に何の意味があるのだか、当サイトには心の底から1mmも理解出来てゐないのだが。
 しばしば喧伝される、“三十二年ぶり”といふのは買取系ロマポの「SEXYダイナマイト マドンナのしづく」(昭和63/脚本:吉本昌弘/主演:菊池エリ)から数へた勘定で、あくまであるいは、純然たるピンクとなるとソリッドな都会映画の秀作「痴漢バス バックもオーライ」(昭和62/新東宝/脚本:アーサーシモン/主演:長谷川かおり)以来更に一年遡り、実に三十三年ぶりともなる石川欣驚天動地のピンク映画電撃帰還作、髙原秀和が連れて来た。当人的には、“「敵のOP映画」に新人の気持ちで挑んだ作品”とかいふ認識らしい、敵なんだ。といふか、ことこの期極まりないこの期に及んで未だなさういふ敵味方の二元論的思考が、己は心の棚に上げ込んだ上で、そもそもどうなのよと思へなくもない。尤も、石川欣と大蔵の接点でいふと厳密には、髙原秀和の大蔵第一作「フェチづくし 痴情の虜」(2018/監督・脚本・編集:高原秀和/原作:坂井希久子/主演:涼南佳奈)に於いて四足くらゐ先に、石川均名義で馬力の店内を賑はせてゐたりする。腐れドコモが越した新居に回線を繋ぎきらず、番組を知り得ないうちにKMZを通り過ぎてゐたものを、今回尼にて円盤をポチッた。交通費込みの総額だと、実はそつちの方が安く上がるのは内緒ね。
 打率の決して高い訳でも別にない、ズブの外様が淫らに跋扈する昨今。オールド、もといビッグネームの復活に度肝を抜かれた余波もあつてか、今作に対する世評は概ね高い、やうではあれ。見たまゝ筆を荒げると、佐々木浩久と比べれば精々マシな程度、比較の対象が糞すぎる。一般公募を募つてのベストテンで二位に飛び込んで来るのは、当然石川欣の監督賞含め流石に悪い冗談にも度が過ぎるだらう。本隊の面々は腹を立てるまでもない、端的に呆れていゝと思ふ。
 所詮身から出た錆の無職を拗らせた挙句、能書に谷崎潤一郎の名さへ持ち出し―雷にでも打たれてしまへ―作家志望を称する。体格からパッとしない脂ぎつた、ついでで配偶者からは放逐されてもゐる中年男に、若く可愛い奴隷女が御主人様御主人様とひたすら健気にかしづき従属する。ヒロシが度々疑義を呈するひなこのマゾヒストとしての資質以前に、単なる自堕落で場当たり的な行動に終始する、一言で片づけてしまへば甚だ幼いヒロシが果たしてサディストの名に値するのか。といふ対照的か根本的な問題については、際限がなくなるので一旦さて措く。とりあへず当サイトには、精神を論ずる資格に一層欠いてゐるのは、ひなこでなく寧ろヒロシであるやうに映る。
 話を戻して禿てはゐない中年御主人様に、手放しでピッチピチの奴隷女が正体不明の勢ひで何が何だか尽くして呉れる。と、来た日には。主要客層の臆面もない欲望にそぐふ、ないし惰弱な琴線をフルコンタクトで激弾きする。よしんば数十年一日にせよ愚かで劣つてゐたにせよ、なればこそ麻薬的に甘美な一撃必殺力任せのファンタジー。たり得ておかしくもなかつた、ところが。何処からツッコむのが順番的に正解なのか最早判らない、といふかより直截には十全に構成を整理するのが面倒につき手当たり次第で火蓋を切ると、のうのうとトメに座る、男主役の重松隆志が最も顕示的な致命傷。呻きながらも内容を判然と聞かせはする、地味に長けた発声には伊達でない二十年のキャリアを覗かせ、つつ。面相もメソッドも徒に仰々しいばかりで如何せん余裕に乏しく、端から底の抜けた夢物語を、軽やかに転がすのを拒む。最初に感じた躓きを、最後まで拭ひきること能はなかつた。素人考へでしかないがかういふ役は硬軟自在の大本命・なかみつせいじか、個人的な理想としては全盛期の久須美欽一。それ、監督は新田栄だろ。ナオヒーローなら今上御大、その面子でよくね?もしくは監督が松岡邦彦で吉田祐健、但しその場合、ファンタジーの頭にダークを戴く。甲斐太郎×山﨑邦紀の組み合はせで、オルガン理論火を噴く、火に油を注いだ観念論の迷宮に突入してのけるのもまた一興。
 キモオタがこの手の与太を吹き始めると永遠に終らないゆゑ、ザクザク先に進む、つか進め。だから欠片たりとて魅力の乏しいオッサン御主人様に、凡そ不釣り合ひな奴隷女子が兎に角添ひ遂げて呉れるんだつてば。説得力?蓋然性?そんなモン知らねえよ。とかく都合のいゝへべれけなお話にしては、パッヘルベルのカノンをお上品に選曲するのが気取つて聞こえ、悦に入つた自ギターを鳴らすに至つては直截に片腹痛い。どうせ三十二年か三年ぶり、他愛ない体面なんぞかなぐり捨て、ズンドコ鳴らしてみせればいゝのに。戯けた裸映画には、戯けた劇伴を。といふか裸映画的にも、この御仁完全に勘が鈍つてしまつたのか、と匙を投げさせかけられるお粗末な始末。顎に余らせた肉は等閑視するとして、実質三番手のビリング二番手が中盤撃ち抜く、唯一エモい濡れ場が首の皮一枚繋ぐ徳俵。御主人様主導の対ヒロシ戦を専ら強ひられる、あけみみうは端から負け戦。尺的には一時間前後、土壇場に漸く猛然と飛び込んで来る並木塔子も、美代がヒロシを喰ふ形ではあるものの、最終的には重松隆志の、文字通り尻の下に敷かれるしか能のないマグロぶりに足を引かれる。ひなことヒロシが延々もぞもぞ縄に絡まつてゐるのが、全体何を描かうとしてゐるのか即物的な節穴にはてんでピンと来ない、それでゐて乳尻を満足に抜きもしない。要はまるで締まらない締めの濡れ場には一旦思ひ止(とど)まつたものを、改めてスプーン大遠投、地の果てまで届け。貞子ばりにノートの液晶に出現した美代が、ひなこにヒロシの実も蓋もない実相を突きつける。凄まじい鬼シークエンスを繰り出しておきながら、結局着地する屁のやうなラストにも尻子玉を抜かれるかと思つた。鼻クソ以下の小説論を打つヒロシの傍ら、清々しく我関せずなひなこがアイドルの振り付け風にてれんこてれんこ踊る。主にあけみみうの手柄で狂ほしくキュートなカットが全く皆無ではない反面、丹念なロケハンの成果を窺はせる、決定力のあるショットは終ぞ見当たらず。良くも悪くも変らない日常を表出する、交通指導員の起用法。第一次NTRプレイ、の事後。それまで“焼き鳥”なり“道具”なり、符丁でのみ呼んでゐたカズヤに関し、幾分親しくなりはしたひなこが口にする“カズヤ君”といふ固有名詞に、ヒロシが「名前で呼ぶなー」と抜群の間でツッコむのには普通に声が出た。所々面白いのは面白いにせよ、総じては漫然とした一作。あ、もう一点思ひだした、枝葉を執拗に刈つておくか。カズヤがRCサクセションの大ファンで、忌野清志郎のゐない日本を捨てての渡米を夢見る。だ、などと、生した苔が朽ち果てるアナクロ造形はどうにかならんのか。土台清志郎が死んだのなんて、今作時点で既に十一年前。吉田憲明の公称鵜呑みでカズヤ当時十九歳、随分のんびりしてやがる。一歩間違はなくとも、あの髙原秀和にすら劣るとも勝らず酷い。どの髙原秀和なら、どれでも変らねえよ。ピンク映画の現在形ないし新時代を摸索するに際してこの辺りの、詰まるところ古臭いの一言で事済む人間を連れて来る意義―の有無―を、大蔵は一遍真面目に検討してみた方がいゝのではなからうか。

 もう一点の二点目を思ひだしたぞ、大体無間ジャンケン一点張りの、タコピー描写の弾け飛ぶレス・ザン・手数も非感動的。“~で、あーる”、ひなこがシレッと繰り出す昭和軽薄体の衝撃は、テレビを見る見ない以前に持たないため知らないが、さういふコマーシャルもある模様につき通り過ぎる、ホントに際限がない。


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 「団地妻 不倫でラブラブ」(2000/製作:国映株式会社・新東宝映画株式会社/配給:新東宝映画/監督:サトウトシキ/脚本:小林政広/企画:森田一人・朝倉大介/プロデューサー:衣川仲人・福原彰/協力プロデューサー:岩田治樹/音楽:山田勲生/劇中カラオケ:『二人の秘密にしませう』 作詞・作曲:山田勲生/撮影:広中康人/照明:高田賢/編集:金子尚樹《フィルムクラフト》/録音:福田伸《福島音響》/助監督:坂本礼・大西裕・小林正明/撮影助手:御木茂則/照明助手:屋宜弦/編集助手:堀善介/タイトル:道川昭/タイミング:武原春光/現像:東映化学/刺青協力:霞涼二/撮影応援:島田剛/制作応援:女池充・斉藤一男・吉田治/ロケーション協力:那須北温泉旅館・東野バス・ブルーシャトー/制作協力:㈱三和映材社・㈲不二技術研究所・アウトキャストプロデュース・ファントムライン・上田耕司/出演:本多菊雄・横浜ゆき・伊藤猛・林由美香・川瀬陽太・さとう樹菜子)。
 のちに銘々有給を取り、翌日は普通に出勤しようとしてゐる点―実際したか否かは甚だ怪しい―からど平日、の団地。伊藤猛の口跡が伊藤猛である以上伊藤猛につき、島田か下田か判然としないゆゑ間をとつて志牟田郁夫(本多)が目覚めると、家内に妻はゐなかつた、間の意味が判らねえ。隣の多分ウエダ信一(伊藤)も目覚めると、矢張り妻がゐなかつた。とはいへ、ウエダ家には隣の奥さんと旅行に行く旨の置手紙が。幾許かは事情を知る信一が郁夫を訪ね、さりとて途方に暮れる男二人に対し、当の郁夫と信一各々の配偶者・アキ子(横浜)と久美子(林)はといふと、電車に揺られ那須温泉郷(栃木)に。上り坂を進むバスを、枯れ木越しに抜いてタイトル・イン。「どういふことだよこれ」、置手紙に声を出してツッコむ伊藤猛の、朴訥としたビート感が五分弱費やすアバンの白眉。
 本篇明けで一応飛び込んで来るのは、さとう樹菜子の正しくバストショット。ぞんざいに端折る中途の事後、良家の子女らしい裕子(さとう)と付き合ふ、真二(川瀬)は真二の刺青を理由に結婚を反対され、この那須行を最後に裕子とは別れる心積もりだつた。そんな二人と同じ旅館に、アキ子と久美子も入る。プールみたいにダダッ広いのが、ググッてみるに本当にプールだといふのが驚きな温泉プール―本来は水着着用の模様―で、先にスッ裸で泳いでゐたアキ子と久美子に、真二と混浴に浸からうかとした裕子が加はる形で四人が交錯。一方、至極自然に煮詰まる状況を打開すべく、仲のいゝ嫁に対抗して「私達も楽しむべきだと思ふんですよ」、「ホモダチになるつていふのはどうでせう」と信一から郁夫に提案する。藪から箆棒な大技通り越した荒業をも、有無をいはせぬ目力で無理から通す、伊藤猛のある意味パワープレイ。
 北温泉旅館に計五名、人影程度に見切れる以外配役も残らない、サトウトシキ2000年一本きり作で正調国映大戦第四十二戦。扱ひが微妙な「尻まで濡らす」(1998)を二本目に数へた場合、サトトシ団地妻―今後大蔵がよもやまさかの電撃再召喚に成功でもしない限り―全六作中第四作、サトウトシキをさうは略さんだろ。
 適当に見進めて行く当サイト的には六分の五本目にして、漸くとりあへずの初日が出た。引き分けに、二三本毛を生やしたくらゐの白星ではあれ。真二が如何にも伊藤猛ぽく拗れ、一旦郁夫と決裂、仮称志牟田家を辞した末ふらりふらりと辿り着いたのは団地の屋上。悄然と真二が仰ぐ虚空から、無下か無芸にそのまゝ、正真正銘そのまんまティルトダウンしてへたり込む真二に再び戻る。条理を超えた、柳田友貴ばりの“大先生”カメラワークも繰り出しつつ、何はともあれアキ子と久美子の2ショットを狂ほしく愛ほしく、神々しいまでに可愛らしく捉へる撮影が出色。如何にも恋人同士ぽく映る、二人の絶妙な身長差もエモい。単なる横浜ゆきと林由美香の動くポートレイトに過ぎなかつたとしても、十二分に戦へる、永遠に戦へる。重ねて殊に前半は、偶さか体に墨を入れてみたりした割に、親の難色に力なく屈する真二の他愛ない白旗と、ホモ≒軟弱―劇中“ゲイ”の用語は使はれない―とする郁夫のステレオタイプな男性同性愛者観。それぞれの旧弊に異を唱へる裕子と真二のプロテストを起爆剤に、展開は加速感も伴ひ転がる。家の意向に囚はれる古い見識を、裕子が真二ごと湯の中に蹴倒すカットなど素敵に痛快。前半は、結構最高に面白かつた、のだけれど。みるみるかみすみす萎む後半、真二が腹を括るより先に裕子が匙を投げた二人の仲を、主に久美子が取り持つのが精々。団地の表で唇を重ねる郁夫と真二に、帰宅して来たアキ子と久美子が画面の遥か奥で歩を止めるロングは秀逸ながら、二組の夫婦が、元鞘に何となく納まるラストは随分心許ない。そもそも、チェックアウト前に温泉プールを再度キメたにしては、アキ子と久美子の帰京が時空を歪めてゐる。勤務先のまづ違ふ郁夫と真二が、何故か二人揃つて昼から出社とでもいふのでなければ。あと、結局この御仁達、劇中二日目も会社行つてないよね。さとう樹菜子の介錯役が、川瀬陽太に限定されるのは関係性上仕方ない。さうはいへ百合と、更には薔薇まで咲き乱れるにしては、満足に踏み込む素振りを端から窺はせない濡れ場に関しても、もどかしさかフラストレーションを募らせるばかり。真二と花枝、もとい裕子が最終盤、完全に蚊帳の外に追ひやられる構成は従来にせよ旧来と看做すにせよ、何れにしても堂々たる大団円からは些か遠い。何が足りないのか正直よく判らないが、確実に何かが足りない一作。だ、か、ら。吹くなら吹くで、それを言語化してから与太を吹け。
 と、いふかだな。さあて、我(わが)の田圃に水でも引くか。下田か島田とウエダ、二組の夫婦の修復を、即ち作劇に於いて最も難易度の高い段取りを、カット跨ぎでサクッと突入する夫婦生活のクロスカッティングで事済ます。それまで終始、質的にも量的にも女の裸を満足に撮りもせず、要はさんざぱら量産型裸映画を蔑ろか虚仮にしておいて、都合のいゝ時だけピンクの文法をのうのうと援用してみせる自堕落さ。足りないサムシングは誠実か、でなければ信頼である。


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 「同棲性活 恥部とあなたと…」(2020/制作:オフィス吉行/提供:オーピー映画/脚本・監督:吉行由実/撮影:小山田勝治/編集:中野貴雄/録音:池田知久/整音:西山秀明/助監督:江尻大/撮影助手:赤羽一真/スチール:本田あきら/ポストプロダクション:スノビッシュ・プロダクツ/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:佐藤りこ・みひな・可児正光・八ッ橋さい子・愛葉るび・吉行由実・河井夕菜・松偉理湖・赤羽一真・森羅万象)。出演者中、赤羽一真は本篇クレジットのみ。
 夜景にタイトル開巻、早送りで夜が明ける。一転曇天の複合商業施設から可児正光と、愛葉るび・河井夕菜(河合から改名した?)・松偉理湖が出て来る。マコト(可児)が帰宅すると帰省から戻つて来た、同棲相手のエミリ(佐藤)が寝てゐた。両親の仮面夫婦ぶりに匙を投げるエミリに対し、マコトもマコトで夫の浮気に三下り半を叩きつけた実母がマコトの出産直後に出奔したゆゑ、三人の愛人―が久美子(愛葉)と郁恵(河井)に佐知子(松偉)―に育てられた過去を持ち、冒頭はその感謝の食事会だつた。そんなマコトの父親で、AV監督の泰三(森羅)が最早薬に頼らずには勃たない体を押し、拘束した夏美(八ッ橋)を責める。一方、足しにとマコトがAVを買つて来ての、エミリとのセックロス。騎乗位に狂ふあかね(みひな)を見た、エミリの表情が強張る。三年前、男に手酷くフラれたのを慰めてゐたところ、肉体的にも慰めて呉れるやう求められその後音信不通の親友・早苗(みひなの二役目)と、あかねは酷似してゐた。そら似とるはな、なんて潤ひを欠いたツッコミは兎も角。あかねと早苗があくまで別人である旨示すアイコンの、意図的に似合はない品を選んだのかとさへ映る、ダサいウェリントンは明確に頂けない。メガネをかけると可愛さが減衰する、だなどと人類史上最たる妄言は99.99999%正しくない、大抵は単にチョイスを間違へてゐるだけだ。
 出し抜けに火を噴く真理、ないし恒久の光芒を放つジャスティスはさて措き、配役残り吉行由実は、近しい仲の久美子からマコトの近況に関する報告も受ける、この人が生みの母・聡子。軽く首を傾げさせられるのが、本職は俳優部らしい赤羽一真の、出張中のマコトと会話を交す多分札幌ら辺の同僚と、聡子の再婚パーティー参列者の二役。背中しか見せないサッポロ氏(超仮名)なんて別にEJDで賄へるか、いつそ要らなかつた藪蛇感は地味に否み難い。もう一人、公園にてあかねがエミリとマコトにスマホを向けてゐると、二人に挟まれた空間、即ち画面ど真ん中・オブ・ど真ん中にプラーッと歩いて来るのは、純然たる間抜けなフレーム闖入者、そこは流石に撮り直せよといふ気もしなくはない。
 松偉理湖(ex.松井理子)と昭和アイドル歌謡のカバーユニットで活動してゐる縁と思しき、愛葉るびが伊豆映画前夜「新婚OL いたづらな桃尻」(2010/監督:小川欽也/脚本:岡桜文一/協力≒脚本監修:関根和美)以来で飛び込んで来る、ガチのマジで度肝を抜かれた電撃復帰を遂げた吉行由実2020年第二作。2021年は沈黙した一年半後の吉行由実最新作にも、引き続き継戦してゐる愛葉るびの印象を脊髄で折り返すと、首から上がそれなりに丸くなりはした程度で、まだまだ、まッだまだ全ッ然イケる、戦へる。
 まづ夏美とあかねが同居、そしてあかねは夏美と泰三の結婚に伴ひ、転居の要にやんはりと迫られる。一方、夏美が実はマコトの元カノで、泰三のギックリ腰に際し呼びつけたマコトと泰三が、泰三が疎遠の息子に話してゐなかつたゆゑあれこれ驚きの再会を果たす。さういふ奇縁であかねがマコトに相談、更に話を振られたエミリが何故か首を縦に振り、マコトら宅にあかねが転がり込み、早苗と同じ顔の女の登場にエミリは内心動揺する。とかいふ、複雑といへば複雑に構築しはした、バクチクする激越な劇中世間の狭さは御愛嬌。そこさへ通り過ぎられれば、後はどうにかなる。不思議なのがウィキペディアの今作の項に、“一部設定などにオマージュが含まれる”関連作品として吉行由実1998年第一作、兼通算第三作「発情娘 糸ひき生下着」(脚本:五代暁子/主演:林由美香)が挙げられてゐる謎。ヒロインが自身のセクシャリティに揺れこそすれ、何処が如何に絡んでゐるのだか当サイトの節穴には正直ピクリともピンと来らん。往時早苗から乞はれた同性愛に応じられなかつた、エミリの桎梏は裸映画の文法で何となく突破。エミリとあかねが咲かせる百合に、マコトもフランクに加はる。都合のいゝこと羨ましい、もとい極まりない三角関係が最終的に成立する、文字通りの以前に。聡子の再婚相手が、あれやこれやの世知辛さは見事に丸々等閑視して済ますまさかの久美子。夏美からはリスキーな薬物依存を戒められた泰三も、余勢を駆る形で偶さか回春。結構力技の大団円に雪崩れ込み明示的に謳はれるハッピー・エンディングは、線の細さと紙一重の繊細ではあつた「ベストフレンド」より寧ろ、LGBTの風呂敷をオッ広げながらも、徒なアクチュアルはなだらかに流した2017年第一作「股間の純真 ポロリとつながる」(主演:あゆな虹恋)との親和が、余程近しいやうに思へる。冷静に検討してみると霞より稀薄な物語ともいへ、他愛ない会話を撮るのに長ける演出力で繋ぎの件も厭かせず楽しませつつ、乳尻でヌく、もとい乳尻を抜く本義は忘れない上で、女優部を主に表情も丁寧に捉へる。質的に何気に一線を画した濡れ場を、拘泥した些末な主題に尺を割かれるでなく、量的にもふんだんに畳み込む。面白い詰まらないでいふと取り留めのないにせよ、穏やか且つ力強く見させる良質の量産型娯楽映画。頑強な思想を今なほ貫く浜野佐知は終に辿り着き得ない―そもそも望んでゐない―であらう、女流御大の領域に吉行由実がいよいよ到達した気配をも窺はせる一作。惜しむらくは、さういふ吉行由実に年間四五本は当たり前の、リアル量産体制を採らせ得ない世情。口先ばかりのお前等が、金を落とさないからだろと居直られてしまへば、返すトリプルクロスもないんだけど。

 と、ころで。どストレートな“同棲性活”はまだしも、語感の所以なり文言の意味なり、下の句が何が何だかサッパリ判らない闇雲な公開題に、そこはかとなく漂ふエクセススメル。


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 「新・団地妻 不倫は蜜の味」(1999/製作:国映株式会社/配給:新東宝映画/監督:サトウトシキ/オリジナル脚本:小林政広/企画:森田一人・朝倉大介/プロデューサー:衣川仲人・福原彰/協力プロデューサー:岩田治樹/音楽:山田勲生/撮影:広中康人/照明:高田賢/編集:金子尚樹《フィルムクラフト》/録音:福田伸《福島音響》/助監督:坂本礼/監督助手:大西裕/撮影助手:小宮由紀夫/照明助手:矢島俊幸・瀬野英昭/ネガ編集:門司康子/タイトル:道川昭/タイミング:武原春光/現像:東映化学/応援:鎌田義孝・榎本敏郎・女池充・柳内孝一/協力:大坂和美・上田耕司・寺西正己・ポパイアート・ペンジュラム・《株》三和映材社・《有》不二技術研究所・ハルキーズ/出演:葉月螢・沢田夏子・村木仁・久保田あづみ・佐々木ユメカ・羅門ナカ・岡田智宏・本多菊雄・甘木莞太郎・鮎原啓一・石川二郎・石切山泉・磯田勉・井出淳子・稲葉博文・尾澤美牧・勝山茂雄・加藤真五・黒川幸則・小泉剛・光地拓郎・小林康宏・酒井慎・佐々木直也・佐藤宏・白石秀憲・鈴木賢一郎・タケ・田尻裕司・田村益美・徳永恵美子・中川大輔・永井卓爾・星川隆宣・細井禎之・細谷隆広・堀禎一・湯川暁子)。一々何処がどうとか面倒臭いからいはないが、nfajの誤記が相変らずへべれけに酷い。
 干上がつた河沿ひを画面左から右に流すロングに、教会音楽のやうなメインテーマが鳴る。おもむろにクレジット起動、スタッフは福田伸、俳優部は本多菊雄で打ち止め。一旦の最後にサトウトシキをクレジットした上で、改めて河越しに団地?を望むロングにタイトル・イン、までが一分半強。六十八分弱とロマポばりの尺を費やすのもあつてか、女の裸はおろか所謂人つ子一人出て来ない。特に何を映すでなく、随分とのんびり構へたアバンではある。
 さて団地、ママチャリで買物帰りの葉月螢を、出迎へたとしか思へないタイミングで沢田夏子が現れる。と、いふことは。この二人の組み合はせ―プラス本多菊次朗―と来ればよもや二年越しの続篇!?かと脊髄で折り返して面喰ひかけたのは、「田向さんこんにちは」なる沢田夏子の第一声で解消される、前回は酒井だつた。朝子(葉月)の買物の中身を窺つたお隣の岡田友子(沢田)は、夕餉の献立がすき焼きである豪勢さに悪い意味で喰ひつく。特上ロースを用意した朝子が、夫の圭司(本多)にただの美味しいでなく、是が非でも“凄く美味しい”といはせようとする。脚本がどうかう、演出が云々以前に。寧ろそこに葉月螢がゐる時点で否応ない帰結とも実は思へる、兎も角例によつて強迫的な会話を―同じ面子の―田向家が拗らせる一方、焼き魚を突く岡田家では友子が夫・新平(村木)に直截な妬み嫉みを包み隠さず発露する。不用意に暗い夫婦生活を一応噛ませての翌日、三回戦まで戦つたのを自慢した朝子は、友子のジェラシーに火に油を注ぐ。
 当然友子から3ラウンドを求められ、エラい目に遭つた岡田が朝の駅にて田向に恨み節を垂れ、それまで交流の殆どなかつた、二人の距離が偶さか近しくなる。久保田あづみと佐々木ユメカは、仕事終りに田向と岡田が入つた、パンッパンに混んだ満員電車みたいな居酒屋。に来店するや否や、一目散に田向等のテーブルに相席を乞ふ、無職の礼子とOLの明子。さういふ、国映作の概ねリアリズムぶつてゐる割にはな、割とぞんざいなファンタジーの匙加減が当サイトにはよく理解出来ない。ついでにそれまでさんざぱらスカしておいて、いざとなるとカット跨ぎで平然と―誠意は欠いた―絡みに突入してみせる、裸映画特有の文法に頼つてのける臆面のなさも。話を戻して出演者中、甘木莞太郎以降の徒に膨大な頭数は駅と主に居酒屋に、田向の勤務先「共友商事」要員。駅前の往来部とかいはれると最早手も足も出ないが、礼子が田向の帰途を張り込む、茶店のマスターも含まれるかも。居酒屋店内の、福原彰(=福俵満)しか見切れなかつた。こゝからが、問題。終盤時間差で投入される、残りの二人。羅門ナカ(=今岡信治)は宅急便の配送員を装ふ、朝子に誘惑されたと称する元スーパー店員・立夫。気持ち長めのセンター分けが凄く似合はない、岡田智宏は友子に電話を寄こす実に七年前の元カレ・近藤、よく住所電話番号に辿り着いた感も否めない。
 前回に引き続き正調の国映大戦第四十一戦、これで当時はときめいてゐたサトウトシキ1999年第一作は、小林政広とのコンビで―五本目は今岡信治―好評を博してゐた模様の団地妻もの第三作。“模様の”だとか筆致が覚束ないのは、何せ当サイトはこの期に及んで1mmたりとて理解も共感もしてゐない由、昔日の空気は忘れた。
 嫁同士は仲がいゝのか悪いのか微妙な二組の夫婦に、女と男を二人づつ絡める。といふと、カップリングの手数にも富んだ、それなり乃至それらしき構成に、思へなくもないものの。のんびりしたアバンで実は既に、起爆装置が何気に露出してゐる。クレジットに際し、脚本の頭にわざわざ“オリジナル”を冠してゐる辺り、サトウトシキが元々小林政広が書いたものに相当手を加へてゐたのであらう風情も見え隠れしつつ、箆棒な力技で飛び込んで来る明子と礼子に劣るとも勝らず、立夫と近藤―近藤に関してはその存在が、首の皮0.5枚触れられはするにせよ―が二人とも木に接いだ竹すぎて、面白くない詰まらないどころか、何がしたいのか即物的以下の節穴にはサッパリ判らん。残りの六人が各々の組み合はせで愉しむ一方、自宅で立夫に犯された友子が、再起動後灯りも点けずに簡単な食事を摂る。摂つてゐるとアバン同様、別に何を映すでないタイトルバックが淡々と流れ始めるラストには呆然とした。わざわざ一時間も優に跨いで、客を呆然とさせたいのかこの映画。締まらないが殊に締め付近はクロスカッティングで形だけ連ねこそすれ、ズボンの上から扱くが如きシャレオツな濡れ場の訴求力は所詮低く。さうなると最早、「白昼の不倫」なり「尻まで濡らす」との比較でも、長曽我部蓉子サマの不在しか残らない惨憺たる体たらく。もう三分の二見たぞ、サトウトシキ団地妻に果たして当たりはあるのか、甚だ怪しくもなつて来かねない一作。最後にもうひとつ、1999年の時点では電話の会話を、出し抜けに飛ばしたヘリのローター音で消す手垢に塗れた演出が、未だ許されてゐたのかしらん。


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 「ギャル番外地2 またシメさせてもらひます」(2020/制作:ストラトス/提供:オーピー映画/監督・脚本:山本淳一/プロデューサー:黄金旭/撮影:橋本篤志/照明:大庭郭基/録音・MA:大塚学/助監督:森山茂雄・福島隆弘/編集:皿井淳介/特殊造形:土肥良成《はきだめ造型》/VFX:夜西敏成/殺陣:米山勇樹・本尾昌則/ダンス監修:AYASA/スチール:中江大助/演技事務:マイティー/衣装提供:山本絹子/撮影助手:伊東佳純/造形部:戸塚美早紀・村瀬和志/制作担当:近藤哲二・死の原惨太郎・石橋幸輝/音楽:山崎裕右《Artlark》・川口泰広/主題歌:『Ooku~大奥~』by ☆MEMI☆/ED曲:『マッドフォクシー』by ☆MEMI☆/挿入歌:『Outside world』by results in cert/仕上げ:東映ラボ・テック《株》/美術協力:クマノ商会・T. Miyazaki・Y-10生活向上委員会/制作協力:レインメーカー・Trinity Works・株式会社MARCOT・赤田ペン吉・シネマコレクターズショップ映画の冒険・佐々木勝己・国沢実/出演:霜月るな・早乙女らぶ・しじみ・塚田詩織・渡辺一人・石田輝・小滝正大・太三・近藤善揮・ゆたち・マルポ《声の出演》・ワニ完才・豊岡んみ・新井舞衣・三上あや香・CHIHIRO・滝本より子)。出演者中、マルポは本篇クレジットのみ。
 「文明崩壊!弱肉強食!」。ワニ完才が黙らずに見てゐる前で霜月るなと、荒木太郎2017年第二作、といふかこのまゝ復権が図られない場合最終作「日本夜伽話 パコつてめでたし」(主演:麻里梨夏)ぶりピンク第三戦の塚田詩織が激突する、火蓋が切られてタイトル・イン。後述する前作で件の人が死んでゐたのを正直覚えてゐない、兄を睾丸を潰され殺された梅垣(ワニ)が、貞操帯的なプロップで洗脳したヴィルダー(塚田)を、兄の仇たるマッドフォクシーズ初代リーダー・ボウィ(霜月)と戦はせる。ちんたらした演者の動きを、カメラも暴れさせて誤魔化す温い立回り。余裕で圧倒しながらも、不意を突かれたボウィが三日間半径2km以上移動すると起動して死ぬ、ポイズンカプセルをヴィルダーから飲まされる一方、梅垣とヴィルダーは一旦退散。くたびれたボウィは、全然勇ましくはないイサム(石田)と出会ひ、場所を適当に移した上で筆下しする。とりあへず帰宅したイサムとボウィを、イサムの家で事実上飼はれるマリン(しじみ)とエンジェル(早乙女)が出迎へる。イサムらが暮らす町は、女は男の奴隷として生きるほかないヒャッハーな社会風土。マリンは御伽噺と一笑に付す、統治者のグランドママー以下女が男を虐げるファムシティと、実働部隊「マッドフォクシーズ」の噂話をエンジェルは救世主的に信じてゐた。ところで早乙女らぶも、後藤大輔2014年第二作「小悪魔メイド 後ろからお願ひします」以来結構久々のピンク三戦目。こゝだけの話、言葉を選ぶと後天的な目の大きさが怖い、何処だけなら。
 配役残り近藤善揮と、挿入歌を担当したピアノロックバンド「results in cert」(2019年解散)のVo./Gt.であるゆたち(現在は清家ゆきち名義で俳優活動も行つてゐる模様)は、何故か顔を緑と黒の二色に塗り、子供を助ける医薬品を届けようとかしてゐる人等。ゆたちをラリアット一発で葬る太三が、イサムが末弟の三兄弟長兄。ビジュアル的には所謂ペニパン状の、終盤二発目を防がれる描写を窺ふに実体弾を射出するのでなく、あくまで射精を殺傷力を有するほど加速してゐると思しき、チンコショットガン―劇中用語ママ―で近藤善揮を仕留める小滝正大が次兄。ズボンを下すと細長い銃身が現れるチンコショットガンに、「フロム・ダスク・ティル・ドーン」のトム・サビーニよりも、タックからバントラインを抜く「ドーベルマン」のマニュを先に想起した。閑話、休題。何せ公称が五十六の小滝正大よりも、ホントは年下ではないのかと思へなくもない渡辺一人が、三人の父親。パターナリズムでマチズモを増幅させる厄介な御仁の割に、ナーバスな潔癖でもある。といふ造形が、野グソを垂れかけてゐた初登場と、地味に齟齬を来しはしまいか。兎も角仮称渡辺家に―身動きのとれぬ間―留まるに際して、ボウィはマリンの発案で男装する格好に。てな塩梅でチョーカーで変換した男声の主が、予め検索を拒むかの如きマルポ。神楽アイネは連れて来なかつたのか連れて来れなかつたのか、兎も角キャンディは人影で茶を濁しつつ、CHIHIROはのちにボウィ出奔後、マッドフォクシーズ二代目を張るアリア、滝本より子がグランドママー。三上あや香がコングで、豊岡んみがキャンディ。新井舞衣は再びファムシティを去るボウィを見送る、キャンディとは百合の花香る仲のナナ。マッドフォクシーズの制服たる赤いレインコートの、聞いて吃驚なトンデモ機能が開陳される。
 無印第一作「ギャル番外地 シメさせてもらひます」(2019)がそれなりに好評を博したのか、山本淳一ピンク映画第三作は前作に於いて舞ひ戻つたファムシティから改めて出て行つた、ボウィのその後を描いた正統続篇。滝本より子とCHIHIROの名前がポスターに載るのに、グランドママーとアリアはボウィからキャンディの落とし前つけられてね?と事前に訝しんでゐたところ、この二人は色々便利なチョーカーに残されてゐた―にしては所々でなく視点がおかしいのは気にするな―ファムシティ誕生当夜の記録にしか出て来ない。無印冒頭のイントロによれば“ 文明の半分と電脳空間が完全に破壊された”割に、ポイズンカプセルだ多機能チョーカーだ、挙句の果てにはナノマシン製で装着者の戦闘能力を強化するパワードスーツだなどと、ゴキゲンか御都合な超化学が闇雲に狂ひ咲くのは御愛嬌。忘れてた、洗脳貞操帯も。
 エンジェルに乞はれる形で、ボウィは女を男の支配から解放する、二度捨てた筈のファムシティを再々度目指す。男尊女卑と女尊男卑の二択しか見当たらない、何気にでなく歪んだ世界観に関してもこの際さて措け。結構マッドマックスばりの大風呂敷は作劇云々以前に、満足なロードムービーを構築してのけるだけのバジェットを端から望むべくもなく、展開を動かす方便に適宜持ち出される程度で、凡そも何も別に広げられはしない。へべれけな俳優部と、順調にグダる演出は相変らず。わざわざ殺陣師をしかも二人擁してゐるにも関らず、国沢実のションベン活劇に劣るとも勝らないアクションの他愛なさは逆の意味で画期的。ラストを飾り損ねる、心許なくすらないダンスも荒木太郎の盆踊りと乙丙つけ難く酷い。さうは、いへ。音楽の富を、奪取せよ。轟音で鳴らす「アーイウォンチュゲー」―多分“I want you girl”―の歪(ひづ)んだシャウトが激越エモい、挿入歌「Outside world」で無理から点火するエンジェル絡み一撃必殺のエモーション都合二撃。貞操帯プロップを外したボウィが、ヴィルダーに女を思ひださせ洗脳を解かんと、「股、シメさせてもらひます」の啖呵とともに手マン。フィンガリングを“股をシメる”と称する、超絶の言語感覚にも震へさせられる、公開題を見事に回収してみせた名シークエンス。前回のボウィ・ミーツ・キャンディ同様、キメ処はガッチガチにキメて来る、山本淳一の勘所を逃さない嗅覚は健在。一見至らないカットばかりにも思はせ、最終的には信頼して観てゐられる心地よい娯楽映画。幾らヴィルダーは洗脳状態にせよぞんざい極まりない、マリンの無体か無造作な最期は忘れれば、何やかや留保が多いな。裸映画的には梅垣がイサムを掘る、薔薇まで咲かせる濡れ場の手数は潤沢な反面、頑なささへ覚えかねない完遂率の低さには幾許以上の疑問も否めないが、この人は不脱なのかと諦めかけてゐた四番手が、最後の最後が本当に最後。ED曲が流れ始めて漸く、主にエンドクレジットのタイトルバックで自慢の爆乳を藪から棒かさして有難味もなく放り出すのには、「こゝで脱ぐのかよ!」と軽く腰が抜けた。


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