真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢電車 乗つて快感!」(1992『痴漢電車 乗せて挟んで』の1999年旧作改題版/製作:獅子プロダクション/提供:Xces Film/監督:橋口卓明/脚本:五代響子/撮影:稲吉雅志/照明:柴崎江樹/編集:酒井正次/助監督:今岡信治/撮影助手:青木佳弘・伊東伸久/照明助手:広瀬寛己/監督助手:国分章弘/スチール:西本敦夫/車輌:水野智之/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:芦川美紀・如月しいな・伊藤清美・南城千秋・川崎浩幸・佐野和宏)。出演者中、川崎浩幸が本篇クレジットのみで、寛巳でない、照明助手の広瀬寛己は本篇クレジットまゝ。
 電車音に獅子プロクレと、タイトル・イン。ベッド上での絡み初戦に直結するのを見るに、帰りの電車か。会社は違ふOLの中谷美佐子(芦川)と恋人である和彦(南城)が、電車痴漢プレイに戯れる。早速―腰から下を捉へた―画が暗すぎるのと、極太眉の主演女優が、南城千秋よりも顔面の面積が全然広いエクセスライク。さて措き、脱げば体はまあまあ綺麗な後背位を完遂した上で、美佐子は週末を約し和彦と別れる。一人で乗る通勤電車、美佐子は佐野和宏の電車痴漢を被弾。上司の川崎浩幸(a.k.a.かわさきひろゆき)も交へ、広告屋との打ち合はせの席。美佐子は別れた女房でイラストレーターのアユミ(伊藤)を伴つた、広告会社社長の麻生か朝生かその辺り(佐野)と再会する。
 配役残り如月しいなは、美佐子の後輩・三崎巴。和彦に対する敬称も先輩である点を見るに、大学か何かからの関係か。佐野の初登場時二人で美佐子を挟撃する形の、ツーブリッジ男が思ひきりピンで抜かれる割に、クレジットもなく不明。美佐子とアユミが屋上で相対する一幕に続いての、手短な正常位で美佐子を抱く小太りの男とかマジのガチで誰なんだ。
 特に琴線に触れた訳でもないが、今上御大作で見た如月しいなをex.DMMで見られるだけ見ておくかとした、橋口卓明1992年ピンク映画第一作、薔薇族込みだと第二作。
 通算三度目のコンタクトを経て、美佐子は麻生とシティホテルに。この布陣だと木に竹しか接がないへべれけなオフィス情事を川崎浩幸と仕出かすのでなければ、如月しいなの濡れ場を巴が和彦を寝取る形で処理するほかないのは理の当然といへ、実際さういふ方向に展開するのは兎も角として、肝心要である筈の、美佐子の感情の流れが如何せん量り辛い。各々のシークエンスが総じて雰囲気だけならば整つてはゐるものの、最終的に、恐らく元々さういふ志向なり嗜好なのであらうが、何がどうしたい物語であつたのかは、最早清々しいほどに霧の彼方に霞む。五代暁子がさういふ行間のみダダッ広い脚本を書くとも思ひ難いゆゑ、となると相当に、橋口卓明のメガホン加減なのか。そもそも、灯りを完全に落とした部屋でも、ノートの液晶だと本当に何も見えない暗さにも火に油を注がれ、頭数が三人以上になるや、途端に誰が誰に痴漢してゐるものやらサッパリ判らなくなる、こなれない電車痴漢が痴漢電車的にはなほさら致命傷。確かに濡れ場には貪欲で、尺全体に占める女の裸比率は低くないどころか明確に高いにしては、漫然とした釈然としなさばかりが残る。専ら性的ではない意味で、モヤモヤさせられる一作である。

 美佐子と麻生の第二戦から、カメラが引くと手前に机に向かふアユミが唐突に大登場。そのまゝ芦川美紀と佐野は影に沈めて、アユミの自宅作業に移行する繋ぎには意表を突かれるのも通り越し、軽く度肝を抜かれた。何れにせよ意図は全く見えないが、伊藤清美に司らせた魔編集が次作に於いて再び火を噴く性懲りもない量産型娯楽映画らしさは、何となく微笑ましい。


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 「制服の誘惑 テレクラに行かう」(1992/製作:小川企画プロダクション/配給:大蔵映画株式会社/監督:小川和久/脚本:池袋高介/撮影:伊東英男/照明:内田清/編集:フィルム・クラフト/音楽:OK企画/助監督:石崎雅幸/撮影助手:佐久間栄一/照明助手:佐野良介/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学/出演:如月しいな・斉藤桃香・水鳥川彩・野澤明弘・青木和彦・栗原一良・姿良三)。
 縫ひ包みから室内を舐めると勉強中の真未(如月)が、平然と聞こえて来る嬌声にスポイルされる。スナップも掠めない両親は、母親も父親の赴任に同行する形で二年海外。真未はその間、姉の文重(水鳥川)と夫の斉藤昭夫(野澤)が暮らす津田スタに厄介となつてゐる格好。ヘッドフォンでCD3を聴く抵抗を試みはしたものの、手つ取り早く断念。ベッドに飛び込んだ真未がワンマンショーをオッ始めて、下の句が何故か怪談フォントのタイトル・イン。真未はフィニッシュまでには至らず、クレジット明けで再開した夫婦生活は完遂。翌日、登校時に合流した親友の前田理佐(斉藤)は、未だ処女の真未にテレクラを勧める。正直ビリングの頭二人が、清々しいほど女子高生に見えない点はこの際気にするな。
 配役残り青木和彦は、今回珍しく二つ机の並んだオフィスのロケも工面する、昭夫の職場の後輩・片岡。テレフォンクラブを介して出会つた理佐と交際する、テレクラに関してはパイセン。栗原一良は合コン的なイベント―の割に理佐と片岡は脊髄で折り返す速さで捌ける―に連れて来られる、片岡の後輩・沢口。小川和久(現:欽也)の変名である姿良三は、昭夫がよく使ふ仮称「摩天楼」のマスター。のちにワン・カット背中だけ見切れる、マスターに一杯奢る男は流石に判らん。
 何気ない裸映画でしかないやうに見せて、案外さうでもない気もする今上御大1992年最終第十三作。それぞれ理佐と片岡に、斉藤家with真未の外堀を埋めさせる会話が、へべれけなイントロダクションに堕すでなく、脚本・演出とも思ひのほかスマート。よしんば、あるいは単に、それが至つてど普通の水準であつたとて。オフィスは用意した反面、教室ないし校内ロケは相変らず等閑視。それでも―外から勝手に撮れる―校舎のロングから、真未と理佐下校時の往来へのティルト。理佐にテレカを借りた、真未の初陣。電話ボックスから出て来る真未を、理佐が待つ俯瞰。撮影にも、らしからぬ意欲を垣間見させる。片岡の名を騙つた昭夫と話が纏まりかけた真未が、ランデブーする文重と沢口を目撃。一旦偽片岡を理佐に押しつけたため、後日ツイン片岡とのダブルデートが成立する展開は素面で結構気が利いてゐる。ついでで沢口と遊んでゐる文重の、帰りが遅くなる夜。晩酌にでも付き合はせようと、ヘッドフォンでズージャーなんて聴いてゐる義妹に近づいた昭夫が、何だかんだか何が何だかな勢ひでザクザク手篭めにしてしまふのは、突破力を活かした野澤明弘(a.k.a.野沢明弘/ex.野沢純一)の真骨頂。で、あるにも関らず。最大の衝撃は、理佐とリアル片岡に、真未と偽片岡こと昭夫。各々の第二戦が頻繁なクロスカッティングの火花を散らす、締めの濡れ場。理佐らが先に駆け抜けて、真未が追走するものかと思ひきや、よもやまさかの主演女優―の筈―の絡みをある意味見事に放棄してのけるのには驚いた。そもそも、自宅にて義兄から手篭めにされる、割とでなく大概な真未のロストバージンから、中途で端折る始末。テレクラでの男捜しに二の足を踏む真未に対し理佐が投げる、平素とは一味違ふ何気な名台詞が、「誰でもいいぢやん、恋する訳ぢやないんだから」。適度な距離感を保ち、飄々と日々を楽しむ。ドラマ上実は最も安定する理佐の立ち位置を見るに、今上御大が二番手に移してゐた軸足は、繁華街を真未と沢口が他愛なくブラブラするインターバル挿んで、斉藤桃香で十分の大熱戦を序盤にして撃ち抜く地味でなく凄まじい尺の配分に、既に顕著であつたのかも知れない。


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 「人妻の吐息 淫らに愛して」(2019/制作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:伊藤つばさ・星野スミレ/撮影監督:創優和/録音:小林徹哉/編集:有馬潜/助監督:小関裕次郎/監督助手:菊嶌稔章/スチール:本田あきら/協力:鎌田一利/選曲:友愛学園音楽部/整音:Bias Technologist/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:古川いおり・酒井あずさ・涼南佳奈・安藤ヒロキオ・櫻井拓也・竹本泰志《友情出演》・田中康文・広瀬寛巳・なかみつせいじ)。脚本の伊藤つばさと星野スミレは、それぞれ加藤義一と鎌田一利の変名。出演者中、竹本泰志のカメオ特記は本篇クレジットのみ。
 必ずしも朝ぽくはない風景を三枚連ね、頭側の壁には子供が描いた家族の絵も飾られたベッドで、小林しのぶ(古川)が目覚める。お弁当を作る手元はしのぶではなく、父親と二人暮らしの葉子(涼南)。しのぶの朝シャンで古川いおりの裸を一旦丹念に見せた上で、葉子の父親・大竹信次(なかみつ)がネクタイを結ぶ。しのぶがチャリンコで出撃して、黄バックのタイトル・イン。傾(かぶ)くでなくチャラけてみせるでなく、至つて粛々とオーソドキシーに挑んだ節ならば窺へる。結論を先走れば、別に成功したとは誰もいつてゐない。
 小出しされる情報を整理すると一切登場しない夫の不貞を理由―のひとつ?―に別居中で、今のところ未だ配偶者の手許にゐる息子・栄作(奇矯な眼鏡をかけたスナップの主不明)の親権を得るためにも、しのぶは就活センターに登録して職探し中。しのぶがセンターの職員A(竹本)の話を神妙に聞いてゐると、隣のブースから禿のB(田中)に大竹がキレる怒号が飛んで来る。人事を担当してゐた大竹は部下の首切りに厭き会社を辞めておきながら、その旨を葉子には打ち明けられずにゐるどころか、中高年再就職のビターな現実を直視すら出来ずにゐた。度々センターで顔を合はせるしのぶと大竹は、何となくもマキシマムに通り越し、何が何だかてんで判らないけれど兎も角遮二無二距離を近づける。
 配役残り、難航する就活と首を縦には振つてゐない葉子の恋愛に燻る大竹が、吸殻の山を築き情報誌を眺めてゐるのを優しく窘める酒井あずさは、十年前に死去した亡妻・弥生。工藤雅典大蔵上陸作「師匠の女将さん いぢりいぢられ」(2018/橘満八と共同脚本/主演:並木塔子)の前に、正式な三本柱となると山﨑邦紀2017年第一作「性器の大実験 発電しびれ腰」(主演:東凛)まで気づくと案外空いてゐる酒井あずさが、この人は樹カズ(ex.樹かず/a.k.a.小林一三)と同じく齢の喰ひ方を忘れてしまつたらしく、まだまだ全ッ然イケる、最前線で戦へる。絡み初戦を完遂したのち、大竹が寝落ちたソファーで我に返るのは綺麗な夢オチ。櫻井拓也は、フリーターゆゑ大竹が交際を認めてゐない、葉子の彼氏・岡倉勇、手前は無職の癖に。安藤ヒロキオは、しのぶの味方を装ふ義弟・良。状況の如何に関らず、万が一この人が亡くなるとピンクも同時に消滅するやうな気がする広瀬寛巳は、性の根を入れ換へた大竹が、漸く面接に漕ぎつけた会社の担当者、社長かも。
 城定秀夫の大蔵上陸作「悦楽交差点 オンナの裏に出会ふとき」(2015)から実に四年ぶりピンク二本目の、古川いおりを主演に据ゑた加藤義一2019年第二作。自身の2014年第二作「盗撮ファミリー 母娘ナマ中継」(主演:佳苗るか)以来の超電撃復帰を田中康文が遂げた何気に大きなトピックもなくはないものの、左背後から禿頭を掠める程度で、正直その人と識別可能な形で抜かれてはゐない。
 要はこれ百人この映画を観た人間のうち百五十人が同じ風に思ふにさうゐないが、少なくともミーツして二日目までは徹頭徹尾純然たる横柄でクソなプレ団塊ジュニアでしかない大竹に、しのぶといふか、より直截には古川いおりの方からコロッコロ惹かれて行くのが全く以て不完全無欠に理解不能。二人が互ひの―根本的に異なる―境遇に―便宜的極まりない―親近感を覚える契機―のつもり―の、“ブランク”とかいふ接着剤も、逆の意味で見事に木に竹すら接ぎ損なふ。一欠片の魅力も言ひ訳にも満たぬ方便さへあるまいと、兎にも角にもオッサンが黒髪ロングの麗しい、オッパイよりも尻がなほエロいしかも絶対美人に何故かモテる、何が何でもモテる。モテるべき理由の在不在などこの際関係ない、モテるためにモテる。主客層の琴線を激弾きする惰弱にして苛烈なファンタジーとしては酌めなくもないにせよ、その場合正攻法嗜好の落ち着いたドラマ作りが諸刃の剣以前の甚だ疑問手。師匠の新田栄ならば、潔く初めから底を抜いてみせたのではなからうか。ついでで些末な難癖をつけるやうだが、夜空の下で大竹がしのぶに「綺麗な星ですね」と声をかけるシークエンスは、そこは「月が綺麗な夜ですね」くらゐの漱石ライクな紋切型で切り出すのが、量産型娯楽映画らしい懐であるやうにも思へる。大絶賛堅調の酒井あずさ以外に唯一の見所は、極短の一回戦で欲求不満のフェイントをかけた上で、しのぶがサムシングに目を留めたカット跨いで突入する、質量ともに十全な古川いおりとなかみつせいじのエモーショナルな二回戦。を経ての、立ち尽くすしのぶからカメラが引くと、思ひ出のベンチに大竹が穏やかに座つてゐる見事なロング。たとへワン・ショットでも、一発でも撃ち抜いただけマシとでもいふことにして、今時のハイウエストに、激しく持ち上げられた涼南佳奈の腹肉に関しては見なかつたフリをする。

 ピンクに限らず著名なロケ物件なのか、チョイチョイ見かける喫茶店「マリエール」を、しのぶと大竹の買物デートで使用。


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 「お元気クリニック 立つて貰ひます」(昭和63/製作:獅子プロダクション/提供:にっかつ/監督:渡辺元嗣/脚本:平柳益実/原作:乾はるか 秋田書店刊 プレイコミック “お元気クリニック”より/企画:角田豊/撮影:志賀葉一/照明:田端功/編集:酒井正次/助監督:橋口卓明/監督助手:小原忠美・瀬々敬久/計測:宮本良博/撮影助手:中松敏裕/照明助手:金子高士/スチール:津田一郎/美術協力:佐藤敏宏/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:滝川真子・螢雪次朗・水野さおり・秋本ちえみ・黒沢ひとみ・川奈忍・ルパン鈴木・ジミー土田・橋本杏子・下元史朗)。
 原作準拠ならばもう仕方もないが、何の意味があるのか全く判らない平安開巻。竹取の翁(下元史朗のゼロ役目)が竹林に入ると、凄まじい流れ星が間近に着弾。光り輝く竹を切つてみたところ、中から金太郎ルックのキューピーが現れる。迸る、何が何だか感。産声代りに金太郎キューピーが大射精、満月は赤く発光する。暗転して昭和末期の東京、“現代に於ける性の悩みは”云々と最短距離のイントロダクションを通過して、都内某所にあるセックスクリニック「お元気クリニック」。三ヶ月分溜めた家賃を取り立てに来た大家の美留野緒奈(黒沢)を、院長の御毛栗触(螢)と看護婦の多々瀬ルコ(滝川)があれよあれよと診察椅子に座らせての、正直グッダグダに火蓋を切る巴戦にクレジット起動。とりあへず完遂、これでまた三ヶ月とか高を括る御毛栗に、ルコが同調して乾はるかのイラストを使用したタイトル・イン。へべれけなアバンに、激しく覚えた危惧は残念ながら外れない。
 半ば白旗を揚げるかの如く配役残り、橋本杏子はタイトル明け診察を受ける、大巨根の夫(一切スルー)に先立たれて以来、絶頂知らずの“イカず後家”・タミコ。イカず後家といふのは劇中用語ママ、あんまりだろ。マンガでは、真央元のやうなチンコそつくりの頭といふ設定になつてゐる御毛栗と、所謂スカルファックを豪快な模型を用ゐて敢行する。何時まであつた小屋なのか、新宿にっかつから「矢張りにっかつ映画は勉強になるは」だなどと、ある意味外様ならではなのかな自画自賛を爆裂させ出て来るルコに、石田(ルパン)と篠崎(ジミー)の義兄弟が目をつける。アイドルのスカウトと称して連れ出したルコを、鉄橋下にて二人がかりで手篭めにしようとする現場に、トレンチをキメた松平政雄(下元)が介入。折角カッチョよく登場したにも関らず、松平が「うーやーたー」の掛け声でスーパーマンと金太郎を足して二で割つた意匠の、キンタマンに変身する始末、下元史朗に何をやらせよんなら。兎も角ルコが松平に心奪はれるお元クリに、まさかの当人が来院。実は童貞の松平が巡らせる、雑なイメージだか回想。セーラー服の秋本ちえみが学校の間の聖子で、バニーガールの川奈忍がクラブの間の宇佐子に、修道服の水野さおりが教会の間の真里亜。兎も角、あるいは改めて橋本杏子が、女王の間に鎮座するマドンナお京。
 渡辺元嗣昭和63年第三作は、買取系最終第三作。といふか、同年ロマポ自体が終焉する。乾はるかの出世作『お元気クリニック』の映画版、となると如何にも「コミック・エロス」的な企画にも思へ、必ずしもさう謳はれてゐる訳ではない。ピンナップ・ガールばりのスーパー通り越したエクストリームにグラマラスな女が、乾はるかの常にして主兵装ではあれ、それが滝川真子かよ!といふ脊髄で折り返したツッコミは、強ひて呑み込む。ツイッターを窺ふに、AVをレンタル開始が待てなくてDVDで買ふほどの乾はるかが、自身の生み出したヒロインを滝川真子が演じることに対して当時如何に捉へてゐたのか、尋ねてみたくなくもない。
 一旦は凄まじい裸要員三連撃かと見紛はせた、水野さおり×秋本ちえみ×川奈忍が手短に駆け抜けるジェット・ストリーム・アタックを象徴的に、少なくとも獅子プロ的にはオールスター的な布陣を構へてゐながら、前半は雑然としかしてゐない。寧ろ最初から十全に語つておかない構成が不可解な、郊外の高台にある特殊浴場「エロチック・マウンテン」で極度の早漏をマドンナお京以下四名の嬢に嘲笑された松平が、ルコとの特訓を経て哀しい過去の克服に挑む。後半漸く本筋が起動すると物語は求心力を取り戻し、ルコ・御毛栗を伴ひ再度エロチック・マウンテンに乗り込んだ松平が聖子から順々に撃破して行く展開は、安い美術には目を瞑れば釣瓶撃たれる濡れ場のテンションは何れも高く、少年誌のバトル漫画を、大人の量産型娯楽映画で形にした風情と興奮に溢れはする。尤も、マンガ映画なんだから、こんなもんでいいんだよ。さう開き直つてしまへばそれまでともいへ、そこかしこといふか要は逐一のチャチさと雑さは如何ともし難く、2020年視点で触れる分には、結局ナベが滝田洋二郎にはなれなかつた、限界なり壁のやうなものが透けて見えて来るのも否めない。折角二人が揃つてゐる割に、螢雪次朗と盟友であるルパン鈴木が、同じフレームに納まるカットが設けられないのも矢張り寂しい。ついでといつては何だが、何処からでも主演を狙へる、何気でなく超攻撃的な女優部。滝川真子とともに本篇の最初と最後を飾る黒沢ひとみの働きを見るに、水野さおりから川奈忍までの、完全にランダムとしか思へないビリングには軽く疑問を残す。

 そんな中、明後日か一昨日なハイライトは、松平のエロマリベンジ戦に於ける教会の間。自在にコントロールするに至つた―しかもロングレンジ―射精の狙ひ撃ちで、松平が祭壇の蝋燭を消すのに続きキリスト像にぶつかけると、十字を切つた御毛栗が「ザーメン」。バチカン激おこ、だからそんな映画撮つててどうなつても知らんからな。


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 「エイズをぶつ飛ばせ 桃色プッツン娘」(昭和62/製作:獅子プロダクション/提供:にっかつ/監督:渡辺元嗣/脚本:平柳益実/企画:塩浦茂/撮影:志賀葉一/照明:守田芳彦/編集:酒井正次/助監督:笠井雅裕/監督助手:五十嵐伸治・横田修一/色彩計測:稲吉雅志/撮影助手:中松敏裕/照明助手:田端一/スチール:津田一郎/録音:銀座サウンド/現像:IMAGICA/主題歌:“桃色プッツン娘”作詞:川上謙一郎 作・編曲:西田一隆・近藤正明 唄:滝川真子/出演:滝川真子・橋本杏子・山口麻美・藤冴子・ジミー土田・池島ゆたか・山本竜二・螢雪次朗)。出演者中、山口麻美と藤冴子が本篇クレジットのみで、逆にポスターにのみ秋本ちえみ。大分派手なやらかしに紛れ、池島ゆたかがポスターには池島豊、何処まで自由なのか。
 雲に隠れる満月がファースト・カット、時は江戸。水を浴びる滝川真子に、左手が藪蛇に手の込んだ金属製義手の螢雪次朗が忍び寄る。月姫(滝川)からいはゆる逆夜這ひを仕掛けられた、若侍が次々と死に至る怪事件の捜査を家老から依頼された包茎坊(螢雪次朗のゼロ役目)は、逆回転や壷の内側視点の魚眼レンズ等、案外サマになるプリミティブ特撮を駆使して月姫を壷の中に封じ込める。折角封じ込めたのに、その壷をいとも容易くその場に放つて帰るのは無造作なツッコミ処、本気で退治する気あんのかよ。無念を嘆く月姫護衛のくノ一・熊笹(山口)が、天変地異的な現象に見舞はれて赤バックのタイトル・イン。明けて―三十三年前の―現代、専門商社「任賑堂」、何の専門かは等閑視。エイズ騒ぎで歓楽街に閑古鳥が鳴く世風に触れつつ、社内に二人きりのプログラマ―といふ設定に、特段の意味は一欠片たりとてない―である屋上松太郎(ジミー)と横島英司(山本)の顔見せ、特定不能のもう二人見切れる。レス・ザン・モチベーションな横島が医務室に行くと称して平然と油を売りに行く一方、袋小路社長(池島)の令嬢・菊乃(橋本)が、大学生なのか専門商社のレポートを書くといふので社内見学に現れる。横島が会議室でサボつてゐると蛍光灯が点滅、観音様を光り輝かせた熊笹が、所謂おつぴろげジャンプ的に、あるいはフライング顔面騎乗を横島に直撃させる形で飛び込んで来る。それ、なのに。即座にオッ始まる濡れ場に際しては、熊笹が何故黒い下着を着けてゐるのか。兎も角熊笹と致した横島は、案外クオリティの高い吹き出物メイクとベタな隈取でゾンビ化。横島が担ぎ込まれた任賑堂医務室の産業医・異常愛作(螢)は一瞥するや、「まるでこりやエイズだ」とか大雑把極まりない臨床診断を下す。配役残り藤冴子は、医務室の看護婦・七本樫。螢雪次朗の異常愛作医師といふと、確認出来てゐるだけで九作前の昭和61年第二作「ロリータ本番ONANIE」(脚本:平柳益実/主演:大滝かつ美)に続いて二度目、但しここでの七本樫は、藤冴子ではなく清川鮎。異常も異常で左手が、包茎坊と同じ義手になつてはゐない。
 渡辺元嗣昭和62年第四作は、第一作「痴漢テレクラ」(脚本:平柳益実/主演:滝川真子)から二本空けての買取系第二作。三百年の時空を超えて、江戸時代から滅法男好きなお姫様とくノ一がエイズ?を持つて来る大騒動。といふと一見如何にもナベシネマらしい趣向にも思へ、昭和末期の獅子プロ作をある程度数こなしてみるに、俳優部の近似も踏まへれば尚更、偉大な兄弟子である滝田洋二郎の背中を渡邊元嗣が追ひ駆けてゐた風情が窺へなくもなく、当時的には寧ろ、至極当然にさう看做されてゐたのかも知れない。それはさて措き、さて措けないのが映画の仕上り。盛大な超風呂敷を広げ倒しておいて、ものの見事にといふか、より直截には見るも無惨に畳み損なふ。端的に酷い、一言で片付けると酷い。結局月姫と熊笹が伝染すゾンビ的な奇病が、単なる過労で形がつく豪快な方便は豪快すぎて理解に激しく遠いどころか、そもそも全く以て説明不足、こんなもの理解出来る訳がない。無理から一件を収束させての、各々の行く末に関してはナレーションの日本語からへべれけ。画は菊乃と熊笹であるにも関らず、“月姫と熊笹はこの現代に新しい安住の地を見つけたやうだつた”と観客を煙に巻き、改めて“そして月姫は”と月姫―と松太郎―の着地点に入るのは、最初の月姫が余計であつたやうにしか思へず、公園で他愛ないチャンバラに戯れる画を見る限り、“新しい安住の地”の中身もてんで判らない。月姫の松太郎に対する呼称が一貫して“殿”であるのに呼応させての、ジミ土がバカ殿になるクッソ下らないオチは、一旦失せた呆れ果てる気力が、グルッと一周して腹が立つて来る。それ以前に、例によつて過剰な山竜のメソッドを主に姦しい意匠と劇伴から徒にラウドで、おちおち女の裸さへ満足に愉しませさせない体たらく。ピンクと買取系と本隊ロマポ、三者の大まかな序列がリアタイ如何様に捉へられてゐたのかは知らないが、決然と斬つて捨てるとピンクの顔に泥を塗る一作。いつそ買取拒否されてゐれば、平然とか臆面もなく新東宝から配給されてゐたりもしたのかな。


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 「痴漢テレクラ」(昭和62/製作:獅子プロダクション/提供:にっかつ/監督:渡辺元嗣/脚本:平柳益実/撮影:佐々木原保志/照明:金沢正夫/編集:酒井正次/助監督:笠井雅裕/監督助手:瀬々敬久・五十嵐伸治/色彩計測:図書紀芳/撮影助手:中松敏裕/照明助手:渡部豊/スチール:津田一郎/録音:銀座サウンド/現像:IMAGICA/協力:テレフォン ショッキング 新宿/出演:滝川真子・橋本杏子・秋本ちえみ・小林あい《ロマン子クラブNo.4》・ジミー土田・池島ゆたか・山本竜二・下元史朗)。出演者中、小林あいのロマン子特記と下元史朗は本篇クレジットのみ。
 新宿の高層ビル群をグルグル抜いたカメラが、ガード下にグワーッと寄る。車が動かず遅刻する旨担当ディレクターに電話を入れる、FM埼京DJ・朝雲アキ(滝川)の傍らでは、若崎綾乃(小林)がテレクラ。とりあへずの話が纏まり、スキップで捌けて行く綾乃にアキは何となく心奪はれる。山川勇(ジミー)と接触した綾乃が「ウッソでせう!?」と目を丸くする繋ぎで、IMAGICA現像であるにも関らず、少なくとも玄関周りのロケには相変らず東化を使用するFM埼京。ビリング順にアシスタントの桑江沙世代(秋本)、先に軽く声は聞かせたディレクターの天草貞時(池島)とADの大河内伝三郎(山本)に、あと笠井雅裕ともう一人初老が見切れる、生放送直前の慌しいスタジオ。ラジオなのにレオタードの衣装に着替へたアキが、机上でガッンガン大股もオッ広げて人気番組「朝雲アキのみんなはソレを我慢できない」のタイトルコールと、「ボッキボッキ勃起行かうぜーイヤッホー」だなどと出鱈目に絶叫する画を止めてタイトル・イン。だからラジオなのに、ブースの中にはミラーボールが提がつてゐたりもする闇雲さが清々しい。
 いふほどの物語もないゆゑサクサク配役残り、ポスターに載つてゐないのが謎な下元史朗は、芸歴二十五年、元映画スターのF埼DJ・ムッシュ大熊。陽性といふかハッチャケ倒す「みんソレ」とは対照的な、明示的に「JET STREAM」を模した―のち山川に対して使用する偽名が城達也―「ムッシュ大熊の君だけにグッドナイト」を担当、新番組パーソナリティーの座をアキと争ふ。大概ぞんざいに投入される橋本杏子は、商売の邪魔になるとかテレクラを敵視するパン女・藤木潤。
 三月中旬のシネロマンから結構間を開けず地元駅前ロマンに着弾した、渡辺元嗣昭和62年第一作にして、全三作の買取系第一作。痴漢要素は正直絶無、テレクラも本筋に絡んで来なくもないとはいへ、基本線はラジオ局を舞台に繰り広げられる、ナベらしいといへばナベらしい大雑把なコメディ。四本柱を全員疎かにしはしない、潤沢な濡れ場も流石にかうなると諸刃の剣。ただでさへピンクと殆ど全く変らない、六十三分弱から残り尺が激しく削られる中、大役を巡るアキと大熊の相克は、元々構図も単純でまだしもすんなり通る。尤もカーセクロスの最中も「みんソレ」を聴き続けた結果、事後綾乃を憤慨させるほどの山川が―綾乃を捜してゐた―テレショ実店舗にてよもやまさかアキからの電話を被弾する件辺りから、俄かに展開はへべれけかしどろもどろに錯綜。木に竹も接ぎ損なつたかに思はせたハシキョンが、予想外の慧眼を発揮する形でギリッギリ持ち堪へる一方、果たして怪音源を作成し、アキを貶めようとしてゐるのは何者なのか。直截なところ、普通の俳優部を起用した上で、整理して演出すればもう少しでなく幾らでも綺麗に成立した脚本にも思へつつ、大胆にグルッと一周させた禍を芳醇な嘉福にブチ込むのが、山本竜二の偏執的な突破力。探せばまだほかにも出て来る気がする、ゾンビ化した山本竜二が大暴走。強制的に廃業させ自分のものにするつもりであつたアキを拉致し、F埼社用車で逃走した大河内は、自身がNSP方式で作成したアキのエロ音声と、大熊が放送禁止用語を連呼する放送前ウォーミングアップの録音とで翌年のジャンピン・ジャック・パイレーツを完全に凌駕する、豪快な電波ジャックを敢行。ハイエースをブッ飛ばしながらの、「大河内伝三郎、一世一代の海賊放送ヤッタルワーイ!」のシャウトは、紙一重で映画を木端微塵にしかねない破壊力と引き換への、山竜一撃必殺のエモーションを撃ち抜く。忘れてた、走行中の天井から車内に侵入する、何気でないスタントをジミ土も大披露。画期的な足の短さに節穴を曇らされたか、高さうには決して見えないが、案外身体能力満更でもないのかも。俄然勢ひを取り戻すクライマックスで無理から立て直すと、強引な大団円にオーバーランで滑り込む。終盤までのグダり具合からすると鮮やかな幕引きが寧ろ不思議にすら思へる、終りよければの精神が唸りを上げる一作である。


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 「姉妹事件簿 エッチにまる見え」(2019/制作:オフィス吉行/提供:オーピー映画/脚本・監督:吉行由実/撮影:藍河兼一/録音:大塚学・光地拓郎/編集:西山秀明/助監督:江尻大/VFX:中野貴雄/効果:うみねこ音響/整音:竹内雅乃/グラフィック:佐藤京介/スチール:本田あきら/監督助手:増田秀郎/撮影助手:赤羽一真/ポストプロダクション:スノビッシュ・プロダクツ/仕上げ:東映ラボ・テック/協力:Casa de Eduardo、マダム・シルク/出演:一ノ瀬恋・可児正光・北乃みれい・倖田李梨・細川佳央・折笠慎也・吉行由実・四ノ宮杏美・白石雅彦・赤羽一真・桝田慶次・ダーリン石川)。
 開巻最初に飛び込んで来るのが、予想外の白石雅彦。漁師か釣舟の船長辺り(白石)を手伝ふリカ(一ノ瀬恋/ex.あゆな虹恋)が仕事を終へ帰宅すると、アル中の母親・順子(吉行)が、もう買はないと約束した酒を飲んでゐた。ケロッと気を取り直して、リカはキャミソールとホットパンツにウッキウキで悩ましく武装、ベッドの上に開いたノートの前で準備万端してタイトル・イン。リカはフランス人ハーフのリンダを偽り、アキラ(細川)とエロチャットに戯れる。双方のワンマンショーが佳境に達したところで、アキラの左右に桝田慶次と赤羽一真がゐるのにリカは激昂、脊髄で折り返してPCを閉ぢる。リカとは同い齢といふ設定に疑問が残らなくもない観光ガイドの愛子(北乃)に、新人推理作家の幹雄(可児)がフラれたにも関らず懲りずにつき纏ふ。アキラと所謂オフパコしたリカが、性的興奮に伴ひ霊が見える異能に直面する一方、相変らず幹雄が周囲をウロチョロする中、愛子は浜辺の岩場に半死半生の状態で倒れてゐるダーリン石川―と片方のイヤリング―を発見する。
 改めて配役残り、赤羽一真と桝田慶次は、二年前二尻の単車事故で二人一緒に死んだ、アキラの悪友・二郎と健太。画面左の桝田慶次がハットの方で、右のネルシャツが赤羽一真。愛子が案内するツアー客は、EJDを始めとする内トラ部隊。折笠慎也は、愛子の不倫相手・直也、離婚を口にしはする。壊れてゐない八ッ橋さい子的な北乃みれいが、小柄な割に脱いでみると思ひのほかいいオッパイをしてゐるのはいいとして、今時のデジタル・ピンクが同録の筈にしては、対折慎戦に際してのリップシンクがへべれけに見えたのは気の所為か?ダーリン石川は、リカが誕生してかなり早い段階で順子と離婚した、父親の良介。倖田李梨は愛子の母親・弥生、愛子が中学生の頃に死亡し、死因に関しては特に語られず。四ノ宮杏美は、本妻も入れると直也の少なくとも三股目の女。
 上野では平成から令和への橋を渡した、吉行由実2019年一本きりとなる、前作「誰にでもイヤラシイ秘密がある」(2018)に続く一ノ瀬恋主演作。あゆな虹恋時代の「股間の純真 ポロリとつながる」(2017)は、因みに前々々作。
 予習時にところで誰と誰が“姉妹”なんだと首を捻つた最大の謎は、既にリカは生まれたのちの良介が、バー「マダムシルク」(池袋)のママであつた弥生と一夜の情を交した結果、出来たのが愛子とかいふ結構豪快な力技で回収。リカが一月生まれで、愛子が年の瀬に滑り込んででも来ないとタメ設定が成立しない上に、藪蛇気味に天涯孤独の幹雄もさて措き、離婚後に順子が育児放棄したゆゑ、リカと幹雄が同じ養護施設育ちの幼馴染といふのも、どうしてそこまでしないとならないのかがよく判らない。
 兎も角、イキさうになると死んだ―もしくは死にかけた―人間が見える。甚だ都合のいいタイミングでリカが発現したジャンル上ありがちな特殊能力を軸に据ゑ、幹雄を間に挟んだリカと愛子に、良介を間に挟んだ順子と弥生。此岸と彼岸を往来して複雑な三角関係を二つ重複させる、何気に見事な構成には吉行由実の物語作家としての充実に震へさせ、かけられたものの。幹雄に憑依した良介が実の娘である愛子を抱く禁忌―リカとは良介の霊体が寝てゐる隙に幹雄自身がヤル―を侵せず、他方吉行由実を脱がせられなかつた、あるいは自監督作である以上脱げなかつたため、良介が順子と弥生の何れに軍配を上げるのか最終的には白黒つけられなかつた。交錯させたトライアングルを見事に昇華させる偉業は必ずしも能はず、逆からいふと愛子は放置した上で、リカは幹雄となし崩し的に結ばれ、順子と弥生の綱引きは、良介を強引に生き返るか死に損なはせる形で無理から回避する。年間ベスト級の傑作には一歩も二歩も遠いとはいへ、リカがラッブラブの幹雄とするセックスを可愛く可愛く捉へる濡れ場は、唯一無二のハーレクイン・ピンクの第一人者たる独断場。唯一無二なんだから、そら第一人者だよな。閑話休題三作全てで母親役を務める吉行由実の一ノ瀬恋に注がれた、それこそ実の娘ばりの寵愛も大いに窺へる。リカの絡みが霊出現で一々中断するのは、この際もう仕方がない。他方倖田李梨に対しても、よりセクシーに、より美麗に撮る方向でアクセルをガンッガン踏み込んで来る。惜しむらくは弥生と良介の、三途の川ら辺での第二戦が上手いこと浮世離れたオープンで火蓋を切りかけながら、カット跨ぐと何てこともない畳の上に移行してしまふ点。釣り逃した魚は決して小さくはなく、駆け足の終盤はガッチャガチャともいへ、親子三人がビーチボールでキャッキャウフフする呑気な家族団欒と、大概無防備な青姦を並走させる荒業を超絶の匙加減でオサレに切り取るラストも案外爽やかに、裸と映画のバランスが取れた、綺麗なピンク映画である。


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 「花と蛇 究極縄調教」(昭和62/製作:にっかつ撮影所/提供:にっかつ/監督:浅尾政行/脚本:片岡修二/原作:団鬼六/プロデューサー:奥村幸士/企画:塩浦茂/撮影:佐藤徹/照明:海野義雄/録音:北村峰晴/美術:斉藤岩男/編集:冨田功/選曲:林大輔/助監督:伊藤正治/色彩計測:田口晴久/製作担当者:田中亨/現像:IMAGICA/出演:速水舞・水木薫・新海丈夫・港雄一・児玉謙次・堀雄司・斉木親・渡辺正美・今村健・摂祐子・鈴木一功・中原潤・長坂しほり/手品師:松旭斎小天華/緊縛指導:浦戸宏)。出演者中、堀雄司から鈴木一功までは本篇クレジットのみ。手品師と緊縛指導の正確な位置は、鈴木一功と中原潤の間に入る。
 開巻は縄、でなくて紐。今なほ現役の松旭斎小天華がロープを操る奇術を披露するのは、ナイトクラブに於けるショー。客席に長くパンするカメラが辿り着いた果ては、将を射んと欲すればの先ず馬。不動産屋社長の野沢俊介(中原)が、交際する遠山建設社長令嬢の久美子(速水舞)に父親からの融資の口利きを頼み込む。ところに、野沢に債権を持つ金貸しの沼田(新海)が圧倒的な悪役面(づら)で大登場。面相ひとつで有無をいはさぬ説得力を叩き込む、新海丈夫が素晴らしい。この人は悪い人です、滲み出るのも通り越し迸るその判り易さは、量産型娯楽映画の要にさうゐない。後日遠山邸に出向き直談判を試みはした野沢に対し、久美子の父親である遠山義隆(児玉)はといふとカット明けの開口一番が―不渡りを出さうが何をしようが―「儂の知つたこつちやない」の、最早清々しいほどの虐殺ぶり。臍を曲げ出奔した久美子が、野沢に拘束されてゐるとの情報を遠山の秘書である佐伯道子(水木)から得た、義隆の後妻で久美子と血の繋がりはない志津子(長坂)は、野沢の債務を完遂するには半分ほど足らない金を慌てて工面。沼田商事に直行したものの、飛んで火に入る葱を背負つた鴨。その場に顔を出した野沢に志津子が全てを悟るや否や、改めて久美子共々トッ捕まり、水が低きに流れるが如く手篭めにされる。
 特定し得る配役残り、若干顔の色艶が違ふくらゐで、口跡は後年と然程変らない港雄一は、久美子と志津子を連れ沼田一行が屋敷に入る、ヤクザの親分では多分なく、恐らく財界の大物的な立花耕造。ラストの観光バスを使つたサドマゾ接待、今でいふとプッチャリンみたいな造形の司会者は鈴木一功。堀雄司から摂祐子までに手も足も出ないが、その他目立つたところでは遠山の運転手と、遠山邸のお手伝ひ、に沼田の子分が二人。となるとなほひとつ男優部の名前が余るのは、どう見ても外人部にしか見えないけれど、遠山がアメリカから招いたウィリー社長もこの中に含まれるのか?
 a.k.a.といふよりも、大体ex.浅尾政行で大門通(活動期間:1995~2007)となる浅尾政行の監督第三作にして、唯一のロマンポルノ。翌年にっかつがロマポごと戦線から撤退してしまふのもあり、日活版「花と蛇」シリーズの最終第五作となる。五作で打ち止め、さう聞くと、EXILEの成員より多い鬼六冠と比べて案外少ないのかも。
 囚はれた良家の母娘が、凌辱と調教の限りを尽くされる。アレだよアレ、みんなよく知つてる何時ものアレだよ!とでもいはん勢ひで、外堀はサックサク埋めて、責めのシークエンスにたつぷりと尺を割く、完全に開き直つた高速展開が心地よい。惜しむらくは、シーソーの要領で双方の観音様に液体状の阿片を流し込むだなどと、ハッチャメチャな大技どころか荒業まで繰り出しつつ、遠目にも魅惑的この上ない速水舞のいはゆる鉄砲乳に、執着する素振りさへまるで窺へない点。退屈はしない程度で既に出来上がつたフォーマットにあくまで忠実な―だけの―始終に、大門通が誇る一見全く以て地味ながら、極めて的確かつ強靭な論理性が発露する余地は見当たらない。さうは、いへ。一旦野沢の手引きで立花の屋敷を脱出後、実は立花と通じてゐた道子を頼つたばかりに、久美子と志津子―に野沢―は再び捕獲される。沼田の子分から半殺しにされ、沈むやうに崩れ落ちる野沢越しに、道子がピントを送られて現れるカットの構図は完璧。滅多にお目にかゝれない見事なものを見せて貰つた、映画的興奮が弾ける。


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