真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「濡れ巨乳なぶり」(1998『悩殺占ひ 巨乳摩擦』の2002年旧作改題版/製作:小川企画プロダクション/提供:オーピー映画/監督:小川欽也/原作:睦月影郎《魔女の淫ら占ひ》より/脚本:水谷一二三/撮影:中尾正人/照明:内田清/助監督:永井卓爾/音楽:OK企画/編集:フィルムクラフト/録音:シネキャビン/監督助手:広瀬寛巳/撮影助手:田宮健彦/照明助手:秋山輝夫/現像:東映化学/スチール:津田一郎/協力:稗田事務所/出演:風間今日子・秋吉かおり・開田あや・杉本まこと・平川ナオヒ・睦月影郎・唐沢俊一・稗田オンまゆら)。脚本の水谷一二三は、小川欽也の変名。出演者中秋吉かほりでなくかおりが、ポスターには秋吉かほりで本篇クレジットはかおり。本篇クレジットが仕出かしたものと思はれる、実にアバウトな世界ではある。“配給:大蔵映画”ではなくオーピー映画提供としたのは、白黒OP開巻に従つた。
 これ見よがしにおどろおどろしい占ひ部屋、不景気につき高額納税者が減つた旨のニュース音声と、新聞紙上に発表された長者番付をチェックする手元を抜いてタイトル・イン。一回忌を控へた父親から東西商事を継いだ二代目社長・細川和夫(杉本)と、細川の婚約者で、東西商事大株主の令嬢・ユリコ(秋吉)の婚前交渉。ガツガツ前に出て来るユリコと、親同士が決めた縁談に正直乗り気ではない細川の対照を投げた上で、帰宅した細川は、ドンピシャのタイミングで玄関先に行き倒れた女・野上慶子(風間)を助ける。北海道から友人を頼つて上京したものの、当の友人は転居してしまひ行く当てのない慶子を、細川は一晩居間に泊まらせてあげることに。寝床で週刊ポストを読む細川を、キュイーンといふSEとともに着けてゐたネックレスが光るや起動した慶子がいはゆる逆夜這ひ。陶酔の一夜を経て、細川が目を覚ますと慶子の姿は消えてゐた。その日以来慶子を追ひ求める細川は、川原でポップにオッカない街金(睦月)に詰め寄られる慶子と二度目の再会。一度目は、見かけた慶子を尾けるも占ひ師・由良子(稗田)の事務所の表で見失つてゐた。睦月影郎に金を握らせその場を収めた後日、改めて細川が慶子に交際を申し込んだ脇を通りがかつたメフィストのやうな扮装の霊能者(唐沢)は、慶子によからぬ気配を察知する。
 唐沢俊一に続きザクザク投入される残り配役平川ナオヒは、由良子の占ひで友人が三百万損したと長ドスを抜いて怒鳴り込む湯沸かし器。開田あやは由良子の魔力に身動きを封じられた平川ナオヒを、「摩天楼」にて弄(なぶ)る超絶プロポーションの女王様。無茶をいふやうだが、この人が脱がないのが重ね重ね惜しい。
 多分睦月影郎とは別ルートで、唐沢俊一・稗田オンまゆら・開田あや、この頃と学会人脈と付き合ひのあつた小川欽也1998年第四作。当時既にルーチンの象徴たる御大枠に大御大・小林悟の陰で入つてゐた小川欽也と、同じく当時一応サブカルの旗手。何といふか、末端と先端とが円環を成す地点で出会つた風情が興味深い。それも兎も角、睦月影郎公式サイトに見られる、“異色スタア白熱の大共演!”とと学会勢や睦月影郎を風間今日子や杉本まことよりも推したパブの詳細がよく判らない。目新しい面子が浮きもせず、作品世間に何となく馴染んでみせる辺りには、成程年季が伊達ではない熟練の演出術を看て取ればよいのであらうか。あつてないが如き物語の薄さを風間今日子のオッパイで押し潰す重量級の一作ながら、弩迫力と手慣れた量産性とを両立する風間今日子V.S.杉本まことの締めの濡れ場に、稗田オンまゆらV.S.唐沢俊一の振り切れたスピリチュアル・バトルが挿み込まれるクライマックスは、確かに裸映画の一線を超えた異常な迫力。慶子が身に着けてゐるものを全て外せと唐沢先生に念を押されてゐたにも関らず、結局細川が外す手間を端折つたネックレスが、事後何時の間にか外れてゐたりする腰も砕ける無頓着さは何時ものオガキン仕事ことオガワーク―たつた今思ひついた―ともいへ、無闇に拡げてみせた大風呂敷が、珍しく形になつたスペクタクルを堪能出来る。


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 「《秘》盗撮 素人穴場さぐり」(1995/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:山崎邦紀/脚本:的場千世/撮影:小山田勝治・中川克也/照明:秋山和夫・斎藤哲也/音楽:藪中博章/編集:酒井正次/助監督:森満康己・井上麻衣子/制作:鈴木静夫/スチール:岡崎一隆/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/出演:白石奈津子・青木こずえ・美里流季・杉下なおみ・栞野ありな・桃井良子・甲斐太郎・樹かず・伊藤岳人・真央はじめ・頂哲夫・荒木太郎)。脚本の的場千世も、山邦紀の変名。
 軽快な劇伴とともにタイトル開巻、真央はじめと電車でイチャつく美里流季の、股座をビデオカメラが狙ふ。撮つてゐるのは、人払ひさせたのかガラガラな車内で不自然に真正面に陣取つた荒木太郎。電車を降り、草叢の中での本格的な青姦もカメラは追ひ、帰宅後荒木太郎は全裸体育座りで結構よく撮れてゐる動画をチェックする。区施設の何かの出張所、出勤した出向中のエリート課長・東松(荒木)を、現場叩き上げといふ割に劇中デスクワークばかりではある主任の魚住(甲斐)は慇懃に迎へる。独身の東松に対し魚住は若い嫁を貰つたことを鼻にかけるものの、東松は動じない。魚住とその妻・早苗(白石)の夫婦生活も、東松は既に盗撮してゐた。
 対盆正月なり黄金週間の飛び道具でもないのに異常に分厚い配役残り、桃井良子(ex.秋乃こずえ)は直帰予定で東松が出向く大病院「栗栖病院」の看護婦。杉下なおみは一体何階上がるのか階段を東松に尾けられる、ボディコン女。後述する青木こずえ投入道中の―電―車中、東松対面のミニスカ女も兼任、この際は首から上は回避。階段を上がるボディコンの尻を長々と追ふ一幕では、脱衣イマジンに加速後更に桃井良子も追加。他愛ない蓋然性なんぞ軽やかに蹴散らし二人の半裸の女が無限階段を延々上る、果敢にして素敵なファンタスティックを撃ち抜く。そして伊藤岳人が、杉下なおみと階段の踊り場にて一戦交へる入院患者。樹かずは、検温がてら桃井良子に喰はれる骨折入院患者・大林和人、色男は得だ。栞野ありなは、エスカレーターと階段の下からスカートの中を撮られる女の二役、唯一この人は脱ぎも絡みもしない。青木こずえと頂哲夫は東松が改めて山の中に足を伸ばし、テントの中での仲良く喧嘩しながらの営みを盗撮するカップル。初めて気付いたが、美里流季と頂哲夫は似てゐる、この二人を絡ませても面白かつたのに。栞野ありなに話を戻して、無造作に突き出されたカメラに気付いた―寧ろ気付かない方がおかしい―栞野ありなは騒ぎ出し、最終的には「金もないのに痴漢するなよ」と無体な捨て台詞とともに東松は巻き上げられる。その場を目撃してゐた早苗は、あらうことか撮られてゐると興奮するだなどと果敢なカードを切り東松に接近する。
 封切りは十月末と特段何てこともないタイミングの、山邦紀1995年ピンク映画最終第六作。俳優部が男女六人づつと要は通常の倍の大所帯、一体この時何が起こつたのか、椿事にせよ春だ。盗撮を趣味を通り越し逃れ得ぬ業の如く背負ひ、いざ生身の女を前にしてもカメラから放した手は自らのチンコに向かふ。綺麗に屈折する東松の内面に迫る、ありがちな色気を出したテーマになど尺を費やさず。東松の描写は適宜最小限度に止(とど)め尋常でなく質量ともに潤沢な大軍勢を惜しみもなく戦線に投入、重量級の煽情性満開の濡れ場濡れ場をこれでもかこれでもかこれでもかと執拗に積み重ねた末に、呆気なく訪れる、カレーの匂ひが儚い破滅。それも確かに映画的によく出来た畳み具合なのだが、それはそれとして主演女優の締めの絡みは如何に処理するのか、捻じ込みやうがないぞと訝しんでゐると、さう来たか!のアクロバットで放り込まれる鮮やかな妙手で、恐ろしいことにこの映画は未だ止まらない。何処まで温存する気なのか地味にハラハラした青木こずえに側面的に介錯させる、東松の、紙一重を超えたどうしやうもなさ乃至は絶望が、純粋性と見紛はんばかりの美しき静謐に突入するラストには深い感銘を受けた。荒木太郎的には風とともに去つた「人妻の恥臭 ぬめる股ぐら」(2012/坂口安吾『白痴』+『風博士』の翻案/主演:大城かえで)、より山邦紀全体的には真のポストマン「変態未亡人 喪服を乱して」(2003/主演:川瀬有希子・なかみつせいじ)に遡る、消失エンドに薄くでもなく汚れた心を全力で洗はれた。山盛りの女の裸を腹一杯愉しませた上で、衝撃の三連撃で叩き込む激越なるロマンティック。ピンク映画の完成形、山邦紀屈指のマスターピースと称へるに足る壮絶にエモーショナルな一作。絶対マスト必見、嘘はいはぬ。


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 「人妻飼育日記 不倫初夜」(1996/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:浜野佐知/脚本:山邦紀/企画:稲山悌二《エクセス・フィルム》/撮影:田中譲二・田宮健彦・佐藤治/照明:秋山和夫・永井日出雄/編集:㈲フィルム・クラフト/音楽:藪中博章/助監督:井戸田秀行/制作:鈴木静夫/効果:時田滋/スチール:岡崎一隆/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/出演:向井璃沙・田口あゆみ・林由美香・樹かず・平賀勘一・真央はじめ)。撮影部サードの佐藤治とは佐藤吏の誤字なり変名ではなく、どうも別にかういふ人が居るみたい。
 蛇口が回復、九条竹子(向井)はそれだけのことで自営なのか、「河田水道工事店」の配管工・河田(真央)の腕を取り身を寄せる。そのまゝ台所にてオッ始まるのは、河田の妄想でオトしてタイトル・イン。“今日のやうな逞しい男と出会ふと、私の中を流れる好色な血が騒ぎだす”。日課の頓珍漢な日記を綴る竹子と、入婿・君人(樹)の夫婦生活。最中にも関らず、竹子は“貴族の血を引く高貴な私を飼育する野蛮でセクシーな男”、“彼こそが私が待ち望んでゐた男”と河田を想起する。隣の床で眠る河田の女房・雅美(田口)の顔見せ挿んで、用もないのに九条邸の表にやつて来た河田は、ちやうど帰宅した竹子に捕まる。捕まへたかと思ふと、“最後の一線は超えない限りなくセクシーな遊び”、“高貴な私を牝犬のやうに扱つて欲しい”と竹子は飼育ごつこなる出し抜けな本題をザクザク切り出し、河田のみならず見るなり観る者の目も白黒させる。いやに飛ばして来たなといふか、ワープ感覚の高速序盤にクラクラ来る。ともあれ、あくまで断固として何が何でも挿入だけはしない、代りに羞恥バイブだ庭での露出だと十二分にハードなプレイが開戦。河田の何処かで油を売つてゐるらしき様子に雅美が次第に猜疑を募らせる一方、アクセサリー入れの中から鍵を拝借し竹子の飼育日記を盗み読んでみたところ、そこに書かれてあつたシックスナインの様子に衝撃を受けた君人は、傍目にはあからさまにフラグを立てる部下・北か喜多か喜田道代(林)に色んな意味でデリケートな相談を持ちかける。出演者残り平賀勘一は雅子の元カレにして、竹子の兄。煌びやかな劇中世間の狭さは兎も角、一件の底を割る重要な役割を果たす。
 1996年を虱潰すつもりも特段ないのだが、DMMに入つてゐるのを降順に攻めて行つた結果たまたまさうなつた、浜野佐知1996年最終第十作。雅美から亭主がうつゝを抜かす“貴族的なゲーム”とやらの話を振られた平勘の鮮やかな第一声が、「まだそんなことをやつてゐるのか」。曰く妹は空想の世界に浸る、ウチの家系なんて全くの庶民と実も蓋もない兄貴が元も子もない真実を明らかにしたところで、首から下は綺麗な体をしてゐるものの、口元の緩さに加へ目力の欠片もない向井璃沙にどうにもかうにも劇映画的には心許なさを禁じ得なかつた始終が、漸く地に足を着ける。一旦浮き足立つたヒロインに関しては等閑視するとして、素頓狂なヒロインに入れ揚げる馬鹿に真央はじめ。理解に遠い妻に翻弄される、センシティブな色男に樹かず。色男の上司に恋心を燃やし、ヒロインに直線的な対決姿勢を露にする第三の女に林由美香。的確な配役の中で地味に扇の要を担ふのは、馬鹿の女房の田口あゆみと昔の男・平勘のコンビの決定的な安定感。エクセスライクな主演女優を完璧にサポートする磐石な布陣を擁し、空中分解寸前の物語が辛うじて形となつた。ものと思つてゐたら、クレジットと併走するモノローグで竹子が猛然と再起動。兄に現実を見ろと叱責されたことに対して、“現実つて何かしら”、“実際に貴族の子孫かどうかなんて私にはどうでもいい”と敢然と開き直つてみせた上で、“私の現実は私が選ぶ”とフィニッシュ・ブローを叩き込む。最終的に、何だかんだで新しい飼育日記の頁を予感する懲りなさ具合は兎も角、ここで竹子が到達したのは女の側から女が気持ちよくなるセックスを追及する旦々舎的なフェミニズムを超え、江戸川乱歩いふところの“現し世は夢であり、夜の夢こそ誠”を体現するより根源的かつより能動的な視座。棒立ちの扇風機に思へた四番打者が、九回裏の土壇場で逆転満塁サヨナラホームランを月に向かつて場外遥か彼方までカッ飛ばす、ウルトラ・エモーショナルな結末には激越に感動した。
 タイトル中にある“不倫初夜”との珍奇な機軸は、飼育ごつこを雅美に勘付かれ切羽詰つた河田に詰め寄られた竹子が、最初で最後の一線超えを許すに際して投げた用語、公開題を前段後段ともスマートに回収してゐるのも麗しい。

 今回発見したこと、今作が浜野佐知作に於いての、脚本クレジットが山崎から山邦紀表記に改められる境目となる。因みに御当人作だと、四ヶ月前に封切られた薔薇族込み1996年通算第五作「痴漢電車 潮吹きびんかん娘」(主演:小泉志穂)が、遅くとも既に先行してゐる。


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 「どスケベ坊主の絶倫生活」(2014/製作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/脚本・監督:関根和美/撮影:下元哲/照明:代田橋男/助監督:金沢勇大/編集:有馬潜/監督助手:菊嶌稔章/撮影助手:石井宣之/照明助手:大前明/選曲:山田案山子/効果:東京スクリーンサービス/エンディング曲:『オーライ』歌:ナチョスと石川 作詞・作曲:石川真平/出演:きみの歩美・菅野いちは・山口真里・那波隆史・牧村耕次・なかみつせいじ)。
 タイトル開巻、リストラされて一週間、未だ妻に打ち明けられずにゐる長谷部三郎(なかみつ)が頭を抱へる。ひとまづ妻・京子(山口)との夫婦生活を想起、量産型娯楽映画が確かに量産されてゐた息吹を最後に伝へる、山口真里となかみつせいじ扮する夫婦役のお馴染みぶりが感動的に素晴らしい。思ひ余つて失踪する旨のメールを京子に打ちかけ思ひ留まつた三郎の傍らに、謎の僧侶・焼き肉院珍国斎(牧村)が出現。千里眼とやらで三郎の苦境を見抜いた珍国斎は、三郎を仏門に誘(いざな)ふ適当に煙に巻いた末に笠と風呂敷包みを残し消失する。三郎が包みを解いたところ僧衣一式と、“命名 焼き肉院雲国斎”と記された札が入つてゐた。三郎はとりあへず雲国斎に扮したものの直に改悛、愛妻弁当を食べてゐると思ひ詰めた様子の阿川詩織(菅野)に声をかけられる。夫と同居してゐた妹が悪霊にとり憑かれたといふ詩織は、三郎もとい雲国斎に助けを求める。サクサク阿川家に招かれ、ザクザク据膳を頂戴した雲国斎は、仕方なく一肌脱ぐ羽目に。のつけから破戒かよ、随分と生臭だな。ところが雲国斎が訪ねた詩織の夫・拓也(那波)は、雲国斎が詩織と接触してゐることを知るや気色ばむ。実は悪霊にとり憑かれたのは詩織で、虐待される義妹・加納みゆきを庇ひ拓也は家を出たといふのだ。てな塩梅で今度は二人の仮住まひに転がり込んだ雲国斎は、みゆき(きみの)のキュートな色気に鼻の下を伸ばす。
 その他配役、僧衣を着てみた三郎に、断りもせずにカメラを向けるのは関根組と近しい、「BATTLE BABES HC」主幹のSHIN。外国人観光客でもあるまいし、坊主がそんなに珍しいのか。共にブランコに揺られるみゆき相手の、雲国斎の他愛ない浮遊霊与太の出汁にされるどうしても逆上がりが出来ない巨漢は菊嶌稔章。視線に気付いた菊嶌稔章に、雲国斎がノされるオチかと思つた。
 逆に環俗した際には徒に沈痛であつたなかみつせいじが、一転弾け倒す関根和美2014年第二作。珍国斎の神出鬼没の没の方に、いはゆるノリツッコミに似た要領で三郎ないしは雲国斎が一々度肝を抜かれるネタは、渾身のフルスイングが清々しいなかみつせいじのオーバーアクトが何度繰り返されたとて爆発的に面白い。拓也に下手に姉妹丼を完成させる無頓着は自省し、主演女優の濡れ場らしい濡れ場を全て潔く妄想ないしは夢オチで乗り切つてみせる大技といふか荒業も、敵が関根和美とあつてはある意味通常運行。ピンク映画界の顔面センター・菅野いちはが闇雲な悪霊メイクで大暴れするクライマックスが、効果のかけ過ぎで詩織が何をいつてゐるのか結構判らないのも、御愛嬌の範疇に押し込んでしまへ。尤も、結局何だかんだで悪霊を斥けたのか悪霊にとり憑かれてゐたのは実は三郎なのか、前作に引き続き不用意にゴチャゴチャする一件の畳み処は相変らず考へもの。躓きかけた始終を決定的な安定感で補完する、エンディングに直結する改めての長谷部家夫婦生活を観るにつけ、三番手の働きが何気に一番デカい珍しいといへば珍しい一作。山口真里と残り二人の地力を比較した場合当然の結果であるといふ異論に対しては、無論更に異を唱へるつもりはない。

 ここは護符で一度切つたネタは一同忘れたフリをすることにでもして、次回は尼僧(酒井あずさか佐々木基子か麻由子)を投入、珍×雲×満国斎のジェット・ストリーム・アタックを豪快に展開するシリーズ第二作を極大希望。満国斎の出家設定としては、騙され続けた男運のなさに嫌気が差した泡姫といつた辺りで如何か。御眼とか御芽国斎てのもありだな(*´∀`*)   >底の抜けた丘の上


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 「痴漢電車 尻と指」(1995『痴漢電車 長襦袢を狙へ!』の2000年旧作改題版/製作:プロダクション鷹/提供:Xces Film/脚本・監督:珠瑠美/撮影:伊東英男/照明:石部肇/音楽:鷹選曲/美術:衣恭介/効果:協立音響/編集:井上編集室/現像:東映化学/録音:ニューメグロスタジオ/出演:神代弓子《イブ》・柴田はるか・本城未織・杉本まこと・真央元・樹かず・木村正夫)。
 夜の街、泥酔状態と思しき和装のイヴちやんが、両脇を杉本まことと樹かずに抱へられ駅に入る。さくさく実車輌内ショットにタイトル・イン、恐らくカット撮影を上手いこと誤魔化して、イヴちやんは杉本まことに電車痴漢でそこそこ嬲られる。画から伝はつて来る、和服から零れたイヴちやんのオッパイの豊かな柔らかさがエクストリーム。電車が駅に到着、そそくさと逃げる島津美子(神代)を、道夫(杉本)と、叔父貴と慕ふ道夫から女のコマし方を指南中の大学生の甥・武志(樹)が追ふ。自宅に辿り着くも鍵が見当たらなかつた美子は、道夫に正体不明の用具室に追ひ込まれ犯される。その間武志は何処で何をしてゐたのか?そんなこと知るか。人の気配を訝しんだ用務員の声(主不明)に乗じて美子はその場を離脱、改めて帰宅する。そこで樹かずに吹き替へさせたNBAの実況を見てゐた、こちらも主は不明のアテレコの―徒にややこしい―真央元は、離婚の決まつた美子の新しい男・祐司。一切登場しないもう直ぐ元となる美子の夫を、島津君と君付けで呼ぶ。美子と祐司が事を致しかけた抜群のタイミングで、道夫からの電話が着弾。道夫がどうして島津家の電話番号を知つてゐるのか?だからそんなこと知るか。美子がその日穿いてゐたパンティは、戦利品よろしく道夫の手中に。パンティにはプリントが施され、その文言が

 “YUUJI.NO OMANKO”

 爆裂するセンス・オブ・タマルミ!そのピリオドの意味は何なんだよ、草を生やせ草を生やせ、地表を大草原で覆ひ尽くせ。結論からいふと、今作最も面白いのは地球を緑の惑星と化すこの瞬間なので、ここで見るなり観るのをやめても別に困りはしなければ損もしない。後述する、柴田はるかの濡れ場まで我慢してもいいけれど。当然の如く、宝物のパンティを返す方便で、美子は道夫に呼び出される。
 配役残り木村正夫は、武志と電車内でのナンパに明け暮れる斬新な悪友。柴田はるかは、木村正夫の誘ひを余所に武志が一人で挫る“こないだの娘”。挫るといふのは、劇中独白ママ。そのまゝ海辺の連れ込みに足を伸ばしての一頻りは、藪から棒にセンシティブに綴られる、さういふ芸当もこの人出来たのか。柴田はるかに引き続き登場する本城未織(a.k.a.林田ちなみ/ex.新島えりか)は、今度は道夫の“こないだの女”・ミサコ井関。名刺の肩書がよく見えないが何某かのその道のプロらしく、自宅を急襲した道夫を手玉に取る。ミサコが道夫の居所を押さへてゐる所以なんぞ、描かれる訳がない。
 珠瑠美1995年第一作、jmdbを眺めた限りでは一応唯一の痴漢電車。呼び出されての美子と道夫の一戦を経て、二番手・三番手を連続して戦線に投入。絡みが連ねられる内に、鍵を握るアイテムである筈の“YUUJI.NO OMANKO”パンティの所在が忘却の彼方に沈む中盤は、これでも珠瑠美が繰り出す魔展開の中では比較的おとなしい部類。何時の間にか道夫はスマトラへの左遷が決定、加減を知らない振り幅が清々しい。となると、兎も角美子と道夫の攻守が逆転する終盤。民法733条の規定を軽やかに無視し祐司との再婚を進める美子が、ひとつの区切りにともう一度、そして最後の電車痴漢に道夫を連れ出すラストは、無理矢理にせよ何にせよ最初と最後を痴漢電車で纏めてみせただけ、寧ろ珠瑠美にしては最高傑作かと見紛ふばかりに上出来と勘違ひするべきだ。例によつて始終はへべれけながら、本城未織の見せ場は短いもののその分イヴちやんの裸はてんこ盛りに、ひとまづ裸映画としては安定することと、兎にも角にも“YUUJI.NO OMANKO”の破壊力が凄まじ過ぎて、要は残りの全てが瑣末な枝葉に感じられるチャーミングな一作である。


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 「ヌードスタジオ 撮られた人妻の白い肌」(2003/製作:レジェンド・ピクチャーズ/監督:松岡邦彦/脚本:黒川幸則・松岡邦彦/プロデューサー:江尻健司・深谷登/撮影:林健作/照明:山北一祝/録音:世良由浩/音楽:戒一郎/助監督:村田啓一郎/監督助手:稲見一茂/メイク:島田万貴子/編集:桐畑寛/音効:藤本淳/MA:石高幹士/スチール:高橋ヒロカズ/制作:山田剛史・竹内宏子・伊藤敏則・朴用九/協力:KSKスタジオ/制作協力:セゾンフィルム/出演:風間今日子・ゆき・園部貴一・柳東史)。
 掃除機をかける風間今日子、深い胸の谷間が挑戦的なショットを叩き込む。風水に従ひ部屋を模様替へする苗字不詳旧姓ならば谷川綾子(風間)が、一段落つき満足気な笑みを浮かべてタイトル・イン。帰宅した夫・滋(園部)は一変した家内に軽く呆然、風水には適つてゐるのかも知れないが、ソファーに座つて満足にテレビも見られない家具の配置に完全に匙を投げる。うん、この件に関しては旦那に感情移入出来る、この件に関してだけは。家に仕事を持ち込む夫に綾子がコーヒーを出した流れで、滋は如何にも仕方なさげに夫婦生活。そのベッドがどう見てもシングルに見える点に首を捻つてゐると、二人は結婚三年目にして、早くも寝室を別にしてゐた。翌日だか後日、綾子の背中に瀬々敬久の「DOG STAR“ドッグ・スター”」(2002、もレジェンド製作)のポスターが見切れる喫茶店で会つた高校時代の同級生・芹沢翠(ゆき)は、別れ際にカメアシのアルバイトを綾子に押しつける。正体不明なその場の勢ひで綾子が雑居ビルの一室にスタジオを構へる水橋(柳)を訪ねる一方、翠は滋と密会、直行で自宅に連れ込む。滋に蔑ろにされる綾子は、何となく水橋と距離を近づけて行く。配役は残らない、本当に俳優部は四人きり。
 DMMピンク映画chの中にあつたので見てみた、松岡邦彦レジェンド・ピクチャーズ産Vシネ。レジェンド作は地元駅前ロマンにて、ピンクの合間に横目で眺める機会が実は結構ある。面子のメインは片岡脩二や久保寺和人らの他に、いはゆる国映勢。これが不思議なのが、あるいは何が不思議かといふと、榎本敏郎や田尻裕司がパッとしないのは今に始まつた話でもないにせよ、今岡信治がこんなに詰まらなかつたかな?と首を傾げるほどにどれもまるで詰まらない。下手に狙つた結果仕出かした訳でなければ純然たるやつゝけ仕事といふ訳でもなく、端的にスッカスカに詰まらない。捉へ処なりツッコミ処にすら欠いて詰まらないので、詰まらないとしかいひやうのないくらゐに兎にも角にも詰まらない。お話がカッスカスであつたとて、ガッツガツにエロい、といふことも勿論もしくは別になく。良くなくも悪くも水のやうな七十分が、淡々と過ぎて行く。個人的には何が面白いのかこんな代物を見て何が楽しいのか全く判らないものの、レーベルが消滅しもせずに依然ある程度コンスタントに量産し続けてゐる事実を窺ふに、これはこれで、何某かの絶妙なツボを押さへてもゐるのであらう。
 そんな限りなく透明に近いレジェンド色に、松岡邦彦も力なく染まつてしまつた。寧ろ、逆にドス黒さを抜かれたといふべきか。滋と翠の出会ひは単なる偶然であつたことが後々どさくさ紛れに語られるとはいへ、そもそも綾子と滋の疎遠の所以を綺麗にスッ飛ばした物語は、土台が覚束ないどころか殆ど存在しない砂上の楼閣。黙つておけばいいものを、綾子は水橋と犯した不貞を滋に告白する。妻への関心を完全に失ひ、束縛はしないといつた実際に舌の根も乾かぬ内に、不倫は許せないと出て行つた先が、何時の間にか合鍵を持つてゐた翠宅といふ滋の自堕落さが清々しく苛立たしい。今回漸く気付いたが園部貴一といふ人は下手に芝居がかつたメソッドが禍して、詰めの甘い、あるいは煮詰まつた造形に火に油を注ぐある意味才能を有してゐる。他愛ない修羅場の末に夫婦仲が修復される着地点には、風間今日子のオッパイを以てしても押さえ込み得ぬ御都合感が爆裂する。それでゐて、つい今しがた日は高かつた筈なのに、翠が滋を連れ込んだ自宅に辿り着くのはトップリと日も暮れたすつかり夜、どれだけ遠いんだよ。モデルが来なかつたゆゑ、急遽綾子をモデルに下着の商品カット撮影。といふシークエンス自体の非日常性は、カテゴリー固有の特殊な蓋然性の枠内に強引に押し込み得るにせよ、撮り終るや迫つて来た水橋を、その場は拒んだ綾子はそのまゝ服を着る、その下着は商品でないの(´・ω・`)?ルーズな粗には妙に事欠かない。それなりに決まるオチ含めゆきは持ち前の小悪魔ぶりで自由気儘に飛び回る反面、柳東史は中途半端なハンサムに止(とど)まつた挙句に、怒鳴り込まれた滋に手も足も出ない体たらく。園部貴一如き秒殺で返り討つた上で、風間今日子を更にコッ酷く陵辱する。我々の知る松岡組に於ける柳東史の然るべき姿とは、さういふものではなかつたのか、さうとも限らないか。忘れてた、一箇所何気に度肝を抜かれたのが、綾子と水橋の劇中二回戦、の事後。カメラが延々と左にパンした先に、結局何もなかつた薮蛇なカメラワークは、そこから流石に戻りはせなんだが柳田友貴大先生かと思つた。


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 「セクハラ就職面接 女子大生なぶり」(1997/製作:旦々舎/配給:大蔵映画/脚本・監督:山邦紀/撮影:小山田勝治・岩崎智之/照明:上妻敏厚・新井豊/編集:酒井正次/音楽:中空龍/助監督:井戸田秀行・飯塚忠章/制作:鈴木静夫/スチール:岡崎一隆/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:小泉志穂・青木こずえ・杉本まこと・久須美欽一・佐々木恭輔・小川真実)。
 これ東大なのか?殆ど闇に沈んだ夕刻の大学校舎、超氷河期の女子大生就職戦線に乗り遅れた旨の小泉志穂のモノローグが入つてチャッチャとタイトル・イン。世間は既に正月、ゼミの大先輩のデザイナー・福沢か福澤慶子の紹介で銀座にオフィスを構へる広告代理店、その名も「銀座広告社」の面接を取りつけた東大哲学科四年生―劇中履歴ママ、文学部が抜けてるよね―後に語られる専攻は現代フランス哲学の緒方涼子(小泉)は、依然正月休みにつき人事担当の杉村(杉本)一人の雑居ビルの一室を訪ねる。のつけから涼子の全身を思はせぶりに視線で舐めた杉村は絵に描いたやうなセクハラ面接全開、男性関係や月々の生理を問ひ質すに止(とど)まらず、直線的に押し倒し愛人契約を迫る。涼子が口唇性交の強要に歯を立てその場を離脱すると、要は杉村に涼子を売つた慶子(小川)が悠然と登場。慶子と杉浦がわざわざ屋上で一戦交へる一方、腹の虫の納まらぬ涼子の前には、結局涼子を落とした建設会社のリクルーター(佐々木)が現れる。一時期涼子は佐々恭と男女の仲にあり、以来別れた後も佐々恭は涼子をストーキングしてゐた。
 配役残り久須美欽一は、銀座広告社の一件は白々と惚けてみせた慶子が続けて涼子に紹介する、印刷業界の業界紙の面接官、机のデカさを見るに社長かも。青木こずえは、久須りんが涼子を面接する正にその最中、デスクの下に潜み久須りんの尺八を吹く名目上は秘書。一流の軽妙なメソッドで次第に悶え始め、激しく挙動不審に陥る久須りんに恐れをなした涼子はその場を退散。机下に沈み青木こずえと対面した久須りんは何故か明後日に発奮、放つ名台詞が「あの娘を入れてあの娘に挿れる!」。久須美欽一の類稀なバランスなり安定感は、もう少し博く評価されても罰は当たらないやうな気がする。久須りんとの事後涼子を追ひ駆けた青木こずえは、デスクの下に潜んでゐたことを白状し、慶子が涼子を売つた事実を突きつける。挙句にフリーのレンタルボディと自己紹介する青木こずえの颯爽とした姿に、涼子は動揺する。
 2001年新題が「女子大生 いたづら就職面接」、新旧ともにタイトルはポップな山邦紀1997年第二作。窮地に追ひ込まれたヒロインが、果敢に開き直り女の武器で逆襲、卑劣か惰弱な男供を蹴散らし華麗なる女性上位時代を築く。まるでプロットを旦々舎ジェネレーターに放り込んで自動出力させたが如き定番中の大定番の物語ながら、流石に些かならず苦しい。結局展開の動因が青木こずえの一押し一発勝負といふのは、そもそも“レンタルボディ”なる珍奇な意匠の外堀を埋める作業を清々しくスッ飛ばしてのけるところから無理がある。加へて、邪悪なハンサム・杉本まこと、綺麗に屈折する佐々木恭輔、晴々しく好色な久須美欽一。酸いも甘いも噛み分けた貫禄を漂はせる小川真実に、持ち前のフットワークの軽さで奇矯に飛び抜ける青木こずえ。曲者揃ひの俳優部の中で、三戦目にしてなほエクセスライクが抜けない主演女優が如何せん弱く、行間の果てしない突飛な後半を独力では凡そ支へきれない。女が勝利し男が負ければパブロフの犬よろしく喜ぶ幸福な観客でなければ、釈然としない物足りなさは否めない一作。寧ろ未だ世間を知らぬ涼子の青臭い理想主義を排し、冷たいリアリズムを吐き捨て捌ける、小川真実のラスト・カットにこそ深い映画的叙情を覚えた。


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 「浴衣妻の内股 ‐はだける‐」(1996/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀/撮影:繁田良司・高橋哲也/照明:上妻敏厚・真崎良人/音楽:藪中博章/編集:《有》フィルム・クラフト/助監督:多智花良彰/制作:鈴木静夫/効果:時田滋/スチール:岡崎一隆/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/出演:藤崎ひとみ・吉行由実・小川真実・樹かず・平賀勘一・杉本まこと)。
 浴衣妻の内股を肌蹴てタイトル・イン、叩き込まれるスーパー・ポップ感が清々しい。縁側での藤崎ひとみと髭面の杉本まことの一戦、一人づつ杉本まことに抱かれる吉行由実と小川真実の痴態をインサートした上で、藤崎ひとみのモノローグ“私が彼の妻になるなんて誰が想像しただらう”。一年前、神田の出版社街。ミステリー作家志望の伊藤波絵(藤崎)が、編集上がりの新日本出版社専務(平賀)に原稿を持ち込む。編集をスッ飛ばして専務に持ち込みといふのも大概なかなかない話ではあるが、何てことはない、ヒラカン専務はプラッと波絵宅に寄つては普通に抱く仲にもあつた。さうなると逆に、ありがちな話にもなるのか。兎も角、新日本出版を後にする波絵が、外回りに出る営業の辻原(髪を短く刈り込むと今泉浩一と軽く被る樹かず)と茶を飲みに出かけたところ、筆が折れて久しい癖に何でまたそんな界隈を出歩いてゐるのか、詩人の小杉栄太郎(杉本)を見かける。小杉のファンであつた波絵は事後平勘に小杉の新刊を出さないのかと水を向けてみるが、過去の遺物だと一笑に付される。なほも小杉に心を奪はれる波絵は、辻原に小杉栄太郎の近況を尋ねてみる。担当編集から愛人の座に納まつた新日本出版編集者の近藤イチコ(吉行)女史、家計を支へる料理研究家の妻・アキコ(小川)。二人の女が公私を支へる形で、小杉を共有してゐた。本妻の余裕を感じさせるアキコに対し、イチコは秘かに小杉を独占する情念を滾らせる一方、出し抜けに入れ揚げた波絵も明後日か一昨日から突つ込んで来る。ところで、忘れてゐたのか覚えてゐたのか、作家のなかみつせいじ(ex.杉本まこと)と一線を跨ぐ編集の吉行由実といふと、2007年第二作「不倫中毒 官能のまどろみ」(樫原辰郎と共同脚本/主演:薫桜子)に際しては正妻に昇格。それと、編集部内のがやの中に―かゝつて来た電話が―「誰から?」といふ山邦紀の声が聞こえる、受ける女の声は判らん。
 浜野佐知1996年第六作、ザクッと筆を滑らせるといはゆる“こ れ は ひ ど い”。開巻で話を割る通りに、以降は波絵がアキコとイチコを蹴落とす顛末を綴る、といつた次第。要は「不倫中毒 官能のまどろみ」では薫桜子にカッ浚はれた吉行由実は十一年越しの二連敗を喫する訳であるが、薫桜子には百歩譲るとして、オッパイもタッパも佇まひもお芝居も何から何ッまで吉行由実と小川真実には遠く及ばない波絵が小杉栄太郎を射止める過程が、エクセスライクな主演女優を援護射撃するシークエンスが特段設けられるでもなく、凡そ説得力を有し得ない。一応詰めの一手となる、田中康文デビュー作「裸の三姉妹 淫交」(2006/内藤忠司・福原彰=福俵満と共同脚本/主演:麻田真夕・薫桜子・淡島小鞠)に先行するテンパッた吉行由実の凶刃も、誤爆どころか小杉に直行するとあつては一体全体苦笑させるか腰骨を粉と砕きたいのか。端的に小杉が徹頭徹尾ただ単に若いだけの小娘にチョロ負かされたやうにしか見えない、出来の悪いハーレクイン・ロマンスの如き一作。最低限裸映画としては十全に充実するのは旦々舎の最低保証にせよ、苛烈なフェミニズムも頑強なプロテストも甘美なロマンティシズムも一切窺へず。そんなに映画に止めを刺したいのか、波絵はグルッと始終を一周した結婚後の生活を“退屈な日常”と持て余した挙句に、オーラスは二人とも浴衣のイチコとアキコ、コッ酷く袖に振つた辻原も現れての一同が旧旦々舎庭に会した楽しいバーベキュー、といふのも波絵の調子がいいにも程があるイマジン。爆裂するのは何なんだこの女感、珍作の部類に放り込んでしまつて問題なからう。


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 「スワッピング狂ひ ‐山の手和服夫人編‐」(1995/製作:旦々舎/配給:大蔵映画/脚本・監督:山崎邦紀/撮影:河中金美・難波俊三/照明:秋山和夫・渡部和成/編集:酒井正次/助監督:西海謙一郎/制作:鈴木静夫/録音:ニューメグロスタジオ/スチール:岡崎一隆/現像:東映化学/秘画提供:月刊『ホームトーク』編集部/出演:秋乃こずえ・杉原みさお・荒木太郎・平賀勘一・甲斐太郎・青木こずえ)。
 波音に乗せてタイトル・イン、明けると波打ち際。青木こずえがゴーグル着用の荒木太郎を膝枕、また随分とロケーションから凝つて来た開巻である。一方旧旦々舎和室、春画の散乱する机上で秋乃こずえ(後の桃井良子)が巨大なワープロを叩く。文章の中身は、青木こずえと荒木太郎を描写したと思しき小説。二人の謎めいた逃避行の模様を挿んで、スワップ界の有名人・自由が丘夫人こと歌川麻由(秋乃)と、彼女のパートナーでスーパー・ファック・マシーンの異名を誇る平田淳市(荒木太郎/名前の元ネタがスーパー・ストロング・マシーンこと平田淳嗣であることは疑ひない)のビデオに、マンション経営の大谷慎冶(甲斐)とその妻・槇子(青木)が垂涎する。平田は外を出歩いてゐると度々ライトバンから飛び出して来る拉致男(背格好から恐らく山邦紀)の襲撃を受け、その度に、アタック音とともに女の後姿のビジョンを見た。いざ自由が丘夫人&SFマシン組と大谷夫妻のタッグ戦もといスワップ、二年前に事故で海馬に損傷を受けて以来記憶障害、何でも“自分の外側の記憶装置”と持参する電子手帳に打ち込む平田の姿に、槇子は興味を覚える。
 配役残り平勘と杉原みさおは、勃起不全のラーメン屋大将・町田と女房。絶妙な即物性で、中盤一息つきつつ絡みの尺を稼ぐ。後ろからしか抜かれない、町田の店でチャーシュー麺を頼んだ客は西海謙一郎?
 「僕の頭は記憶することをやめた」、過去どころか十分前すら覚束ない、その都度その都度の瞬間的な現在しかない男。力強い母性をも湛へ、男と逃げる女。男と女の足取りを綴るが如き、男を管理してゐた女が執筆中の物語。男を襲ふ正体不明の悪漢、襲はれる毎に男の脳裏に煌く、母のやうな女の背中。山邦紀1995年ピンク映画第三作は、魅力的なモチーフの数々と錯綜する時制とを手短かつ的確に繋ぐ、ミステリアスでスリリングな一篇。情報密度の高さにくたびれかけたところでスチャラカな町田夫婦を投入、ブレイクを図る構成も心憎いが、感心するのはまだ早い。事後平田が席を外した隙に、町田婦人はジャケットの中から電子手帳を拝借、中身を覗く。三番手濡れ場要員に物語の発火点を担はせる秀逸な戦略と、杉原みさおならば悪びれもせずにそんなことも仕出かしさうだと思はせる超絶な配役が素晴らしい。結局、せめて後姿の女の正体くらゐは明かして呉れよと思へぬでもないにせよ、拡げた風呂敷を一切畳まずに切り抜ける終幕には物足りなさも覚えつつ、拉致男から逃げ、これは何処なのか観光地の人混みの中を駆け抜ける平田と槇子をロングで暫し捉へる。ラストまで含め狙ひ澄まされたショットの連打に、ダウンロードした動画をPC視聴しておいて何だが映画的な満足度は高い。拉致男に追はれてゐることも早速忘れ、「どうして僕等走つてんですか?」といふ平田に対し、槇子は青木こずえ一流の大らかさで「逃げ切つたらその時考へたらいいぢやない」。爽やかなポジティブネスを振り撒き走る二人の前方に長髪×丸グラサンの浜野佐知らしき人物が見切れるのは、多分レッドな空似。

 ところで、“山の手和服夫人編”を謳ひながら、例によつて他編が存在する訳ではない。今後撮るといふのであれば、勿論全然極大歓迎。それと旦々舎の一傍流・ガジェット・ピンク的には平田が持ち歩く電子手帳のほか、スワップ畑の連絡ツールに静止画テレビ電話が登場。時期の近い「ナマ本番 淫乱巨乳」(1994/脚本は的場千世名義/主演:姫ノ木杏奈)を飛び越えて、「裏本番 女尻狂ひ」(1992/監督:浜野佐知/主演:三田沙織)で使用した「みえてる」まで遡る。


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 「言葉で濡れる人妻たち」(1996/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀/撮影:河中金美・田中譲二/照明:秋山和夫・永井日出雄/編集:酒井正次/音楽:藪中博章/助監督:佐藤史・安部舞/制作:鈴木静夫/効果:時田滋/スチール:岡崎一隆/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/出演:倉沢萌・桃井良子・小川真実・平賀勘一・樹かず・リョウ)。
 女の体の局所局所に照明の当たる夫婦生活、夫・海野信宏(樹かず/何故かjmdbにも新日本公式にも杉本まこととされる)に―本当は感じてゐないのに―感じてゐる芝居疑惑を突きつけられた未知(倉沢)が、図星を指されるのは夢オチ。春画に被せたタイトル・イン挿んで旧旦々舎和室、苦み走つた、苦み走らせ倒したリョウが春画集に目を落とす。してゐると、あつけらかんと小川真実帰宅。劇中描写がないゆゑディテールは不明ながら、論文執筆に取り組み家計は外で働く妻・澄子(小川)に任せる勝又信次(リョウ)は、自宅で開く「古典を読む会」の増員を図るべく、取り扱ふのを地味な古典から江戸時代の春本にシフトすることを思ひつく。会に通ふ、未知とバツイチの友人・梶さゆり(桃井良子/ex.秋乃こずえ)が戸惑つたのも脊髄反射の当初のみ、勝又の紐解く艶本“ゑほん”や艶句“ばれく”の刺激的な内容に、次第にでもなくグイグイ喰ひついて行く。配役残り平賀勘一は、さゆりの新しい彼氏・君原明。
 撮影当時大雪に見舞はれたと思しき、浜野佐知1996年第五作。ジャンジャカジャンジャカ降つてそこそこ積もつてゐたので、都内であれだけの雪となると、それなりの大騒ぎにもなつたのではなからうか。艶本“ゑほん”や艶句“ばれく”が主モチーフの文芸ピンクといへば、綺麗に三年づつ前後する短歌ピンク「巨尻折檻」(1993/脚本:山崎邦紀/主演:小野なつみ)、俳句ピンク「和服夫人の身悶え -ソフトSM編-」(1999/脚本・監督:山邦紀/主演:やまきよ)が容易に想起されよう。とはいへ、同趣向の春本ピンク「色情痴女 密室の手ほどき」(2010/脚本:山邦紀/主演:倖田李梨)と並べた場合、芝居の軽い倖田李梨とは比べるまでもなく旦々舎の千両役者・リョウ(=栗原良=ジョージ川崎=相原涼二)が重低音をバクチクさせつつ、フリーダムの暴風雨を吹き荒らす短歌同人誌『木蓮神話』なり俳句結社「触覚」を前にすると、あくまで実在の文献を紹介するに止(とど)まる「古典を読む会」は、名が体を表すが如く随分とおとなしい。一応未だ絶頂を知らぬヒロインが新しい世界への扉を開ける、といふそれらしきテーマもなくはない一方、信次が江戸時代の性の秘伝書を出汁に首尾よく未知をオトしたまではいいものの、未知は指南を頼りに信宏を操縦。さゆりにも話の途中で逃げられ、結局「古典を読む会」は閑古鳥。といふラストは、女達が自ら性を主体的に探求するといふよりも、寧ろ助平男の浅知恵が徒労に終る他愛ない艶笑譚としての色彩の方が強い。最終的にさゆりは平勘と、未知は信宏と、そして火遊びが澄子に発覚しない勝又夫妻の夫婦仲もひとまづ揺るがず。珍しく当初ペアリングが一組も破綻しない旦々舎にしては相当風味がマイルドな、一般的な仕上がりの裸映画である。リョウ十八番の“どうしてかうなつたんだ”も、和装の袖に腕を差し縁側に佇む姿を引きの画で短く抜くのみと、全く控へめ。


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 「人妻・未亡人 不倫汗まみれ」(2002『人妻ブティック 不倫生下着』の2014年旧作改題版/製作・配給:新東宝映画/脚本・監督:佐藤吏/企画:福俵満/撮影:飯岡聖英・岡宮裕/音楽:大場一魅/編集:酒井正次/録音:中村幸男・田村亥次/制作:森角威之/助監督:小川隆史/監督助手:斎藤勲・笹木賢光/撮影助手:岡部雄二・赤池登志貴/タイトル:道川昭/メイク:山中知恵/協力:日本映機株式会社・《有》ライトブレーン・セメントマッチ・シネキャビン・ゴジラや・小林悟・渡邊元嗣・小川満・広瀬寛巳・加藤義一・松岡誠・横井有紀・後藤大輔、他/出演:沢木まゆみ・松田信行・ゆき・佐々木基子・岡田智宏・しらとまさひさ・石川雄也・木村圭作・なかみつせいじ・しのざきさとみ・風間今日子・里見瑤子・水原香菜恵・奈賀毬子・山咲小春・三浦影虎・神戸顕一・田村七海・椎名町家族)。出演者中、風間今日子以降は本篇クレジットのみ。スチールは津田一郎と元永斉。
 絶妙に奥歯に物を挟んだ夫婦生活で開巻、沢木まゆみの超絶美身には何時何度見ても惚れ惚れさせられつつ、ここではアップの多用や、下手に狙つた画角が目につく。デパートガールの君枝(沢木)はヒーローショーの中の人・松下健治(松田)と結婚。ところが新婚早々健治は心臓を患ひリタイア、君枝が同期の木田梢(ゆき)が経営するブティック「Gallery Muu」で働き生計を支へてゐた。君枝が外で稼ぎ、健治は一日暇から何から色んなものを持て余す日々。大胆不敵にも毎度爆音を鳴らす単車を表に乗りつける間男(石川)と妻(佐々木)の不貞を知りながら、手も足も出せずにゐるお隣・向島(なかみつ)に健治が複雑な心境を覚える一方、君枝は「Muu」に出入りするアパレルの営業マン・佃光(岡田)と関係を持つてゐた。単車の前で立ち尽くす向島から、グアーッと斜め上方向にパンするとガラス戸越しに女房が間男に突かれてゐる、といふカメラワークは情容赦なさ含めて出色。
 配役残りしのざきさとみは、出勤する君枝に乞はれ渋々―分別もせずに―ゴミを出した健治に小言を垂れる、ゴミ捨て場のガーディアン。十分出番も台詞もある里見瑤子は、君枝・梢とデパガの同期・ハルコ。風間今日子は「Muu」の客、妙にマッシブなしらとまさひさがバツイチである梢の目下彼氏・ター君。水原香菜恵は君枝に結婚前を思ひ出させる乳母車を押す女、木村圭作は健治が強行復帰を決意したヒーローショーの先輩格・小川。ヒーローショーの楽屋に広瀬寛巳が見切れるのは平易に辿り着けるとして、明確にその人と抜かれるのはこの辺りまでか。奈賀毬子や山咲小春も兎も角、神戸顕一をロストしたのが口惜しい。
 深町章や池島ゆたかの組の助監督の印象が強いが、最初期は大御大・小林悟組出身―jmdbに記載のある中では「色欲怪談 発情女いうれい」(1995/脚本:如月吹雪・小林悟/主演:冴島奈緒)が最古―であつたりもする佐藤吏のデビュー作。美しく羽ばたく妻とポップに燻る夫との、擦れ違ひ系恋愛映画。君枝と佃の関係が劇中所与のものとなつてゐる点は君枝の心情の推移を把握し難くし、石川雄也の単車の前で二の足を踏む向島の姿に、健治が―視覚的にも―自らを重ねるプリミティブな演出にはクラクラ来た。最終的に拗れた夫婦が元鞘にシッポリ納まるに至るまでの流れは必ずしも十全ではないものの、致命的としか思へない一言を投げつけられ家を飛び出した君枝が、思ひ出の地に時空を飛ぶ映画的魔術は綺麗に決まる。求婚するのに空を飛んでみせるダサさが初々しい、よしんば打ち返されたにせよ、直球勝負が清々しい一作。絶対大美人ぶりに比して、終ぞ棒口跡が抜けることはなかつた印象が強い沢木まゆみの、改めて観てみるとキャリア・ハイを思はせる活き活きとしたお芝居も目を引いた。

 最後に、新東宝のX CITYがあまりにもクライマックスを理解してゐない―カット毎の君枝が着てる服をよく見ろよ!―のが寧ろ感動的なので貼つておく。


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 「喪服妻のよろめき」(2001/製作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/監督:関根和美/脚本:関根和美・林真由美/撮影:柳田友貴/照明:野口素胖/助監督:寺嶋亮/音楽:ザ・リハビリテーションズ/編集:フィルムクラフト/録音:シネキャビン/撮影助手:松島秀征/監督助手:林真由美/スチール:佐藤初太郎/現像:東映化学《株》/効果:東京スクリーンサービス/タイトル:ハセガワタイトル/出演:林由美香・水原かなえ・真崎ゆかり・岡田謙一郎・中村拓・町田政則・村上渉・斎藤政哉・坂口崇)。
 忌中の玄関を一拍挿んで、遺骨を前に喪服の林由美香の背中を抜いてチャッチャとタイトル・イン。陣内春彦(岡田)の初七日、妻・麗子(林)の下に、弔問客を全て帰した春彦直属の部下・成田俊介(中村)がやつて来たかと思ふと、喪服妻はサクッとよろめく。「あの人が見てる」と逡巡する素振りを見せる麗子に対し、俊介は「見せつけてやればいいんだ」。中村拓にとつて、陳腐な台詞をより一層陳腐に聞かせるのは、グルッと一周した一種の才能とはいへまいか。生前、春彦は俊介の婚約者・沢渡玉緒(水原)と関係を持ち、なほかつ玉緒は春彦の子を宿してゐた。
 配役残り真崎ゆかりは、春彦に関する相談に乗つて貰はうと麗子が訪ねる妹・美貴。ところが美貴も美貴で男は妻帯者、町田政則が、美貴不倫相手の筋者・大輔。如何にも強面然としたファースト・カットから、いざオッ始めるや赤ちやん言葉でオッパイにむしやぶりつく一ネタを披露する。真崎ゆかりに話を戻すと、姉を閉口させるところまではそつなくこなした上で、濡れ場を一仕事片付けるや町田政則共々チャッチャと綺麗に捌ける三番手ぶりが麗しい。問題が、男優部後ろ三人に手も足も出ない。ビリング推定で村上渉が傷心の麗子が行きずりのカーセックスに至る男、斎藤政哉と坂口崇は春彦と外回りに出る長身の部下と、麗子が俊介を誘ふ店のバーテンダーか。

 フロンティア・ロスト、

 終にDMMピンク映画chの中に関根和美の未見作―今回は厳密には未感想作―がなくなつてしまつた。と慌ててみたがよくよく考へたところ、川井健二をまだ三本残してゐた、それにしても三本きりだが。瑣末はさて措き、開巻麗子と俊介が事に及ぶ仏前から、ノー・モーションで泥酔した春彦を陣内家に送り届けた俊介が、春彦と玉緒のほぼW不倫を麗子に突きつける夜の途中で、更に玉緒が俊介に白状する夜へと二段階回想が連なる。関根和美十八番のフリーダムな時制移動が火を噴いた際には一瞬頭を抱へかけもしたものの、不思議と展開がメリハリを失することはなく、特に混乱するでもなく着々と積み上がつて行く始終を追へる。確かに色男とはいへ大根の中村拓は兎も角、復讐の毒婦に扮する林由美香の冴えた美しさも光りつつ、矢張り圧巻なのは岡田謙一郎。俊介にとつては酒好きの先輩、麗子からはよき夫と評され得る人の好い中年男と、最終的には怪物とさへ罵られるに足る偉大な落差を形成らしめる、岡謙貫禄の凄味が素晴らしい。これで恐ろしいのが、劇中春彦が四十の誕生日を迎へる点。またしても年下かよ、面目なさが迸るぜ。閑話休題、事実上の公認ともいへるのか、外泊だけはしないでと涙ながらに訴へる麗子を抱いた夫婦生活の事後、一見改心するものかと思ひきや顔色を一変させた春彦は、「約束は出来ない、外泊するしないは成り行きだ」とドスの効いた重低音で吐き捨てる、邪悪な名台詞には感動した。交錯し衝突する主要キャストが全員脛に傷持つ身と要はアウトレイジな物語も、麗子と春彦、双方の要が磐石なだけにしつかりと見させる。


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 「強制飼育 OL肉奴隷」(2014/製作:幻想配給社/提供:オーピー映画/監督:友松直之/脚本:百地優子/音楽:KARAふる/撮影・照明:小山田勝治/助監督:高野平/編集:酒井正次/録音:シネキャビン/監督助手:島崎真人・佃直樹/撮影・照明助手:岡崎孝行/制作応援:山口通平/ヘア・メイク:WATARU/スチール:本田あきら/ライン・プロデューサー:石川二郎/キャスティング協力:久保和明/現像:東映ラボ・テック/協力:スタジオペルーサ/制作プロダクション:アウトサイド/出演:栗林里莉・藤田浩・金子弘幸・若林美保・ももは・KOH・黒木歩・福天・緑一色・タコラ・ぐんぐん《差し入れのみ》・マヘンドラ)。出演者中、緑一色以降は本篇クレジットのみ。ポスターでは、脚本は百地優子と友松直之の共同脚本で、チーフスッ飛ばして島崎真人が助監督に。
 幻想配給社ロゴに続き顔写真入(撮影:有末剛)のクレジットで百地優子が、“この作品は私の実体験を元に構成しました”旨を謳つてタイトル・イン。といつて、一昔―どころでなく―前流行つたモキュモキュメンタリー、公式用語としてはセミドキュメントといつた寸法ではなく、中身は純然たる劇映画である。
 付箋を噛まされたブライダル雑誌と、キャスター(黒木歩/ex.宮村恋)がストーカー問題を採り上げるニュース画面を置いて、交際五年結婚秒読みのOL・渡瀬由美子(栗林)と、どうやら食はせて貰つてゐると思しき同棲中の彼氏・山田陽太(KOH/黒木歩率ゐるクリエイティブ音楽集団・KARAふるの相方)の婚前交渉。由美子に乳首を舐められた陽太が女のやうな喘ぎ声を上げるのは、男を男に寝取られる薔薇オチのフラグかと勘繰つたのは、脳が桃色に腐つた早とちり。事後陽太には満足した風を装つた由美子は、浴室にて改めて自慰に燃える。由美子の勤務先、対面の佐藤健一郎(金子)の仕事の出来なさ具合に匙を投げた由美子が公然と佐藤の顔に泥を塗つたのが、最後に残るのが希望ではなかつたパンドラの函の蓋。直属の上司・高木亮介(藤田)との一転ドMな逢瀬を、ホテルから出て来る写真と鞄に盗聴器を仕掛けられた音声ファイルとで押さへられた由美子は、佐藤の手に落ちる。謎のハイ・スペックを発揮する佐藤は高木と結婚十五年の妻・マドカ(若林)のセックスを何と動画で盗撮、由美子は高木の夫婦生活をオカズにしてのオナニー自画撮り動画を佐藤に実況させられるに止(とど)まらず、社内での羞恥ローターと、OL肉奴隷の強制飼育はエスカレートする。若林美保に話を戻すと、出番が終に盗撮動画内のみ―しかも大概短尺―といふのは、なかなか鋭角な実質三番手濡れ場要員の放り込みやうである。
 配役残りももはは由美子隣の、推定総合職の由美子に対し多分一般職の田中ナオミ。緑一色・タコラ・マヘンドラはその他社員要員、ナオミの向かひの、量産型友松直之といつた風情は誰なのか。三人の年齢層から窺ふに、高木が部長といふ出世ぶりは猛烈に早い。福天は、ストーカー男の糾弾を次第に拗らせる黒木キャスターに、冷静に対峙する評論家。
 こちらがそちらを見てゐないのは甚だ恐縮ながら、レイプゾンビ完結で観たいものも撮りたいものも全部撮つただなどと、枯れたことをいふて貰つては困る友松直之の2014年第一作。同業者も世間も全部倒して、天下を取つてからにして欲しい。結婚間近の遣り手OLが、グータラ社員の魔手に堕ちる。ありがちな通俗ポルノはメリハリの利いた表情作りが光る主演女優を擁し、ひとまづ順調に走る。二つのファイルを叩きつけ、最初に由美子を呼び出した佐藤は鮮やかな口跡で開口一番、「判つてると思ふけど、やつたの俺だから」。切れのある開き直りやうで展開の最初のジャンプを綺麗に軌道に乗せるのは、金子弘幸の地味なファイン・アクト。夫婦の営みをも押さへられ、怖気づいた高木に掌を返された由美子が次第に壊れて行く過程も、友松直之らしい妙手なのか百地優子の闇なのか、何れにせよ見応へがある。尤も、振り切れた由美子が何時の間にか先頭に飛び出して来る終盤が、如何せん行間が果てしなく広過ぎる。縁者の資質か演出の成果か、一見栗林里莉はシークエンスを手中に収めてゐるかに見えて、一度躓くとそこかしこが綻んで来る。締めは一応決まるものの、名探偵か犯人役多くして山に上つた探偵小説が如き一作。誰にでも出来る時代であるからといつて、下手に魔法の杖を誰しもに振らせてゐては始終に収拾がつくまい。

 由美子が一皮剥ける件の、半ばBGM代りのキャスターと評論家の討論。キャスターは、攻勢に転じた評論家に愛とは契約なのかと言葉尻を捉へられる。以降はいはばオチの見えた寸劇、毎度平素何時も通りの友松節である。よくいへばお約束の安定感、どんな無理な体勢からでも引つこ抜ける必殺のスープレックスともいへ、正味な話こゝいらで一度、一切手癖を廃したゴリッゴリの本格を拝見したいところではある。川村真一に渡すつもりで脚本を書いた、対城定秀夫を念頭に置く一大正面戦を観たいといふのは、当方も当方で懲りもせず同じ与太を吹いてゐるやうな気がするのは気の所為でもない。それはさて措き、それでは問ふた当の評論家にとつて愛とは何ぞやといふと、曰く“命の叫び”なり“迸る生命エネルギー”であるとして、凡そあらゆる性癖を愛の名の下に一括りしかねない箆棒な勢ひである。大した御仁とでもいふか、流石にあまりにも用語法の底が抜け過ぎてゐて俄に友松直之と同一視するのも憚られるゆゑ、こゝは一旦等閑視、自分ちの田圃に水を引く。実践的なシュミレーションとして、愛とは契約なのかと詰め寄られた黒木歩は如何に対処すべきであつたのか。慌てる必要も気色ばることもない、かう答へればよかつたのに。然様、愛とは契約であると。
 永遠に不滅である筈なのに、愛が終つただ変つただ移つただ、一旦終つたものがまた始まつただと性懲りもない泣き言繰言が、半世紀を経たこの期に及んでも未だに後を絶たない。戯けた寝言を垂れて貰つては困る不信心者め、愛とは永遠に不滅、不変である。終りも変りも移りもしない、終つたものが再び始まるだなどと、愛は季節か、巡りもしない。人間の世界に永遠だの不変だのあるものか、さういふ色即是空をいつてゐるのではない不信心者め、愛とは永遠で、なほかつ永遠の愛は現存する、当然当サイトの裡にはないけれど。永遠不滅の愛とは、同時に汝の隣人を汝と同じやうに愛する愛である。他人を自身と同様にとは、エターナルに加へて下駄が高過ぎてとても歩けないやうにしか思へないが、それは私に信心が足らないからであつて、本気で希求する人あるならば、何も憲法を持ち出さずとも異論を唱へるつもりなんぞ無論毛頭御座らん。愛とは確かに永遠に不滅で、汝の隣人も汝と同じやうに愛し得る。但しそれは神、といつて我々の生活環境のそこかしこにいらつしやる、八百万の神々を指すものではない。文字通りの唯一無二にしてなればこそ固有名詞を必要としないほどの絶対者、に誓ふ時に初めて、生身の人間にも辛うじて手の届く話となる。絶対者に途方もない無理を通す不断の心的努力を、時に請ひ時に乞ふ行為、それが信仰である。お判り頂けたであらうか、愛とは確かに永遠に不滅で、汝の隣人も汝と同じやうに愛し得る。そのことは即ち、神に宣誓した以上、いはば契約上の債務の履行を要求されるが如く、永遠に愛し続けなければならない、隣人も己と同様に愛さねればならないのである。といふのが、愛が契約である所以。仮に愛が甘美なものであるとすれば、それは度を越した激越がグルッと一周した先の話。といふとハードSMのやうにも聞こえかねないのは、小生の不信心にも加速された下賤な心性。地獄に堕ちればよい、あるならな。
 以上は、お断りしておくが何も非モテの恨み節ではない。跪き十字を切るコアを導入しもせずに、上つ面の絵空事ばかり換骨奪胎してはお門違ひの泣き言繰言を垂れる風潮を伊藤整が嘆いた、『近代日本における「愛」の虚偽』(初出昭和三十三年)に於いて書かれてある論考である。だから半世紀以上前の文献であるといふのに、いゝ加減目を覚ませ現代人。因みに『近代日本における「愛」の虚偽』は岩波文庫で『近代日本人の発想の諸形式 他四篇』の中に収録されてあり、安価容易に読むことが可能である。


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 「折檻水地獄」(1992『拷問水責め』の2000年旧作改題版/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀/撮影:河中金美・佐藤義人・植田中/照明:秋山和夫・神妻敏厚/音楽:藪中博章/編集:㈲フィルム・クラフト/助監督:森山茂雄/制作:鈴木静夫/ヘアメイク:小川純子/スチール:岡崎一隆/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:木下みちる・春原悠理・早乙女宏美・芹沢里緒・平賀勘一・ジャンク斎藤・杉本まこと)。シンプルな誤字なのか徒な変名なのかはさて措き、照明部セカンドの神妻敏厚とは上妻敏厚のことかと思はれる。
 三代続く名家・佐竹家、庭の池と瓶状の鉢に飼はれた小魚を抜いて、三代目の弓矢(杉本)が昼間から風呂に入る。妻・満ちる(木下)を水責めする回想とイメージを重ねてタイトル・イン。弓矢が在宅であるといふのに、佐竹家の顧問弁護士・佐古田(平賀)が満ちるに言ひ寄る、佐古田曰く「大丈夫、弓矢さんの風呂は長い」。ところが大丈夫ではなく、佐古田に抱かれる満ちるの姿を、佐竹は目撃してゐた。佐竹家に遊びに来た弓矢の妹・珊瑚(春原)は妙齢にも関らず兄の入る風呂に入り、異常に距離の近しい兄妹に、満ちるは当然複雑な心境を覚える。他方、こちらもこちらで台所番として佐竹との付き合ひが三代続く佐古田家。世事に関心を持たない弓矢を難じる平勘は婿養子で、妻(芹沢)は弓矢の幼馴染であつた。
 配役残り川原の件で適宜見切れるジャンク斎藤は、卒業後は中央アジアを放浪してゐたとの、佐竹大学時代の友人・ヒドラ。一体漢字でどう書かせるつもりなのか、最初に佐竹がその名を叫ぶカットではヒトラに聞こえた。早乙女宏美はヒドラの連れ、二人が持ち歩くウクレレが、予想外に繊細な旋律を聴かせる。妻を寝取られなければ愛情を実感出来ない厄介極まりない佐竹は、俗物の佐古田の代りに家に招いたヒドラに満ちるを抱かせようとする。その際の方便が大事な客の歓待に最も大事なものを差し出す云々といふのは、2009年第一作「女豹の檻 いけにへ乱交」(主演:Clare)に先行するモチーフ。時に量産型娯楽映画は、ファッションの流行のスパンで巡る。
 DMMピンク映画chの山邦紀の頁に紛れ込んでゐる、浜野佐知1992年第五作。因みにこの年の浜野佐知はピンク映画全十一作と、更に薔薇族一本。更に更にそれでも量的キャリア・ハイですらなく、何れにせよ、女性監督年間最多商業映画発表本数で浜野佐知は間違ひなくギネスに載れるのではなからうか。多分桁違ひの、群を抜いたウルトラ大独走となるにさうゐない通算でも勿論、量も質だ。話を映画の中身に戻すと、自身を水と同化する幻想に囚はれなくもない浮世離れした名家三代目を取り巻く、粒の小さな群像劇。男に虐げられる妻、妻を実は男公認で抱く、顧問弁護士家の野心家の婿養子。婿養子の妻は子供の頃から知る男に、よしんば理解はせぬにせよ強い親近の情を示し、男の妹は男と、純粋な名家の血を残さんと出し抜けな大風呂敷を拡げて来る。そして男の旧友は、相変らず何処からか流れて来て、何処(いづこ)へと流れて行く。一見それなりに役者は揃つてゐるやうに見えて、例によつて山邦紀のロマンティックを浜野佐知が等閑視した結果か、本丸たる佐竹の外堀が干上がつてゐるゆゑ、劇映画的にはまるで覚束ない。満ちるが珊瑚を連れ―たのかどうかも厳密には判らない―佐竹邸こと旧旦々舎を後にするのも、定番展開とはいへことそこに至るまでの満ちるの一貫した防戦一方ぷりを見るに、単なるお約束にしか見えない。要は開巻から連なる、全てを失つた佐竹が風呂に浸かるといふか浸(ひた)るラスト。モノローグが「何時から僕はかうしてるんだらう」、「みんな僕が望んだことなのだ」までは兎も角、「何時までかうしてゐるのか僕にも判らない」と来た日には、兎にも角にも佐竹の感情に移入が難い以上、観客“おれたち”にも判らねえよ!とツッコまざるを得ない。対して裸映画的には、看板の水責めはホースで水をブッかけたりホースを鞭代りに幾らか打つ程度で、正味な話“拷問”と称するには程遠い他愛ない代物。但し意外にしつかりした口跡に目ならぬ耳を聞開かされる主演女優の木下みちるは、幼げな表情とは不釣合ひに柔らかさうに膨らんだトランジスタ・グラマーが絶妙にいい塩梅、品性下劣な嗜虐心を実にそゝられる。ガラス戸越しの立位後背位、双球が押し潰された必殺ショットは文句なく撃ち抜く一方、ホースで水をブッかけるだけならブッかけるだけで、水圧に歪むオッパイはもう少し執拗に追つて欲しかつた。大雑把な素人考へを吹くと、中途半端に思はせぶらせて機能不全に終る芹沢里緒の不遇も思ふと、早乙女宏美の児戯じみた自縛や木に竹しか接がぬ熱ロウなんぞいつそ要らなかつたのではあるまいか。


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