真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「牝と淫獣 お尻でクラクラ」(2019/プロデュース:光の帝国プロダクション/提供:オーピー映画/脚本・監督・編集:後藤大輔/原作・音楽・アニメーション:大場一魅/原題:『タニシとハラノムシ、あるいはデジタル腐女子は光源氏の夢を見るか?』/Songs:『Fusion』はっぴいたーん・『男道』作詞:ZAN 作曲:螺子/撮影監督:飯岡聖英/録音:小林徹哉/助監督:加藤義一/スチール:本田あきら/カラリスト:如月生雄/サウンド:シネマサウンド・ワークス/仕上げ:東映ラボ・テック/監督助手:菊嶌稔章/撮影助手:宮原かおり・岡村浩代/現場応援:広瀬寛巳/感謝:鎌田一利・後藤玲子・茂木元行/制作:加藤映像工房/出演:和田光沙・なかみつせいじ・新村あかり・小滝正大・相澤ゆりな・櫻井拓也・原田なつみ・柳東史・青山真希・月夜野卍・後藤大輔・都義一・菊嶌稔章・小田歩・長井好太・河島健太郎・Toshie・筆鬼一・野村貴浩)。出演者中、原田なつみがポスターには何故か原田夏美。同じく後藤大輔から河島健太郎までと、筆鬼一は本篇クレジットのみ。
 縦長に左右を削つた入道雲の、初見の気がする光の帝国プロダクションロゴ。オフィスに並べられた机上で大の字になる和田光沙を真上から抜いて、水槽に突つ込んだ手にタイトル・イン。何某かの健康食品と思しき、「長寿仙」の支社宣伝課、正式な社名は知らん。先に宣伝課要員を片付けておくと、小田歩がトモキ、河島健太郎は出入りの広告屋。新村あかりと青山真希は藤原恵美と自称先代の愛人で、手切れ金代りに入社したとかマウンティングするのが日課の新田。小滝正大が先代の次男で宣伝課課長の板東宗昭、恵美にロック・オンされてゐる。長井好太は坂東に次ぐ上座のヒムセルフ。ポスターに載る顔写真がピントの奥に霞む、長寿仙先代の正体には辿り着けず。筆鬼一(=鎌田一利)がボサッとした顧客で見切れるのには気づいたが、受付嬢とされるToshieは正直ロストした。
 深夜の残業中、蔑称・タニシこと谷静香(和田)は衝動的に水槽の田螺を呑み込み、昏倒して病院に担ぎ込まれる。池島ゆたか2006年第一作「乱れ三姉妹 うねる萌え尻」(脚本:五代暁子/主演:池田こずえ)以来のウルトラ電撃復帰を遂げた原田なつみが看護婦で、柳東史が医師。中略して後述する妹の彼氏がマッチョ男に寝取られる、BL妄想でワンマンショーを爆裂させる静香の尻から、寄生獣的なクリーチャーに適当な五体が生えて来る形の、蟯虫(CV:野村貴浩)が“ペラッペラの二次元アニメ”で出現。閻魔大王の家来を名乗る蟯虫は、静香に「悔い改めよ」と厳命する。
 配役残り、後藤大輔と菊嶌稔章は、病院帰りの静香が交錯する通行部。静香の脳内では原田なつみが菊りんの嫁で、よもやまさかの重戦車が飛び込んで来る絡み初戦の火蓋が今作の圧倒的なハイライト、ガチで度肝を抜かれた。菊りんが迎へ撃つ巨漢同士の大激突が敢行される訳では流石になく、介錯するのは柳東史。因みにこの二人の共演は恐らく、的場ちせ(=浜野佐知)1997年怒涛の最終十三作―薔薇族含む―「ピンサロ病院 ノーパン白衣」(企画・脚本:福俵満/主演:麻生みゅう)ぶり。話を明後日に飛ばすと、最近TLに流れて来たライブのフライヤー画像で見かけたex.麻生みゅうが、モンスター感を更に一層悪化させてゐてリアル戦慄した。ヤバい、マジでヤバい、ヤバい通り越して恐ろしい。凡そ、この人はマトモな死に方をするやうには見えない、ヒュージな世話だけど。
 閑話休題配役続き、櫻井拓也は静香の妹の彼氏・ター君、スレテオタイプなパンクス。スレテオタイプなパンクスなる自家撞着も、クリシェの領域に突入して既に久しい。相澤ゆりなと月夜野卍(=大場一魅)が、静香の妹・美月と母・繁子、相澤ゆりなは吉行由実2017年第一作「股間の純真 ポロリとつながる」(主演:あゆな虹恋)以来のピンク二戦目。自宅でも―あるいは家族相手にも―キョドり倒す腐女子の静香を余所に、日参するター君と日々ウェイウェイした酒盛りに明け暮れるゴス家族。何某かの役作りでもしてゐたのか、ツルッツルに剃り上げたなかみつせいじは、クレーム担当の営業・相葉一郎。都義一(=加藤義一)は同じやうな頭で静香を見紛はせる、退職した相葉の後釜。昔はチョイチョイ目にした都義一名義を、加藤義一が今作以前最後に使用したのは新田栄2009年第一作「トリプルレイプ 夜間高校の美教師」(脚本:岡輝男/主演:中條美華)。
 松浦祐也とダブル主演した「岬の兄妹」(2018/監督ほか片山慎三/撮影:池田直矢・春木康輔/助演:時任亜弓《ex.時任歩》)の全国公開と、完全に同期するタイミングで封切られた和田光沙のピンク初主演作にして、「新・監禁逃亡」(2008/高木裕治と共同脚本/主演:亜紗美)も入れた場合、ピンク映画第十六作「小悪魔メイド 後ろからお願ひします」(2014/主演:早乙女らぶ)から気がつくとか何時の間にか五年空いてゐた、後藤大輔のOPP+にも紛れ込んだ話題作。話題作といふか、問題作とでもいふか。光帝ロゴに続いては、わざわざ“a Daisuke Goto Dejital Pink”と大見得を切つてのける。雉も鳴かずば、撃たれまいに。
 造形が過剰気味な女オタの暗然とした日常と、反転するかの如く文字通り狂ひ咲くイマジンとを、ふんだんなアニメーションを交へて描く。といふと現し世と夜の夢とが苛烈に火花を散らす、サイケデリックな一作かと思ひきや。兎にも角にも、動画枚数の少なさ以前に一枚絵としてすら甚だお粗末な、大場一魅作の安CGアニメが木端微塵に絶望的。斯様に無様な代物では同人でも金を取れなからうに、所詮よくてセミプロの大場一魅は兎も角、全体後藤大輔はどの面提げて、これで客に身銭を切らせるつもりなのか。意欲作といふにも、意欲さへ疑はしい。最後はなかみつせいじが「二度とやつちや駄目だよ」と二発の決定打を放ち辛うじて形を成す実写パートも、下手にカットを割り尽くした挙句、折角飯岡聖英を連れて来てゐながら一撃必殺のショットも満足に見当たらない始末。蟯虫程度で茶を濁すのならまだしも、駄紙芝居に割いた尺が、殊に光源氏と蟲愛づる姫の件なんぞは丸々無駄。静香のイマジンには十万億歩譲るにせよ、蟯虫の来し方なんて別にどうでもいい。両極で城定秀夫から髙原秀和まで、OPP+も当り外れが極端すぎないか?よしんば―登壇者の手弁当に胡坐をかいた―舞台挨拶興業が商業的に成立してゐるのなら、もう何もいはないけれど。さて措きさうなると俄然危ぶまれる裸映画的には、和田光沙は結構寸暇を惜しんで脱ぎ、原田なつみが銀幕を揺るがす重量級の驚愕込みで、最低限の体裁は保つ。美月とター君が半裸でヘッドフォンをシェアするカットの、乱舞する相澤ゆりなのヘドバンオッパイは激越に素晴らしい。寧ろそのエクストリームな眼福を、映画を壊してでも延々と眺める至福に何時までも包まれてゐたくもある。尤もリア獣に転向―しようと―した静香に、坂東が恵美からコロッと乗り換へるのは些か飛躍が高い。折角あれだけビシッと完璧にラストをキメたにも関らず、オーラスもオーラスで無駄に煙に巻く。量産型娯楽映画を一体何だと考へてゐるのか最早逆の意味でなら、完璧なのかも。一言で片付けるに、誰か後藤大輔に説教出来る人間はゐないのか、とでもいつた惨ッ憺たるザマ。十五年一日の髙原秀和共々、ベクトルの絶対値は無闇にデカい。


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 「OL VS 人妻 盗聴レイプ」(1994/製作:小川企画プロダクション/配給:大蔵映画株式会社/監督:小川和久/撮影:伊東英男/照明:内田清/助監督:井戸田秀行/音楽:OK企画/編集:金子尚樹 ㈲フィルム・クラフト/脚本:池袋高介/監督助手:佐々木乃武良/撮影助手:倉田昇/照明助手:佐野良介/編集助手:網野一則/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学/出演:岸加奈子・水鳥川彩・吉行由美・久須美欽一・杉本まこと・樹かず・西原太陽・太田始)。
 風呂場で体を洗ふ岸加奈子にタイトル開巻、そのまゝ何てこともなく淡々とキレイキレイし続ける、実に穏やかなタイトルバック。どちらの家なのかが不鮮明ながら、風呂場の中から「ねえ、どうせ暇なんだからさ。パチンコでも行かない?」と呼びかける、酒井か堺か坂井辺り(岸)に対し答へはなく、同じ団地に住む友達の金村夫人(吉行)はといふと、バイブでワンマンショーに耽つてゐた。吉行由美(現:由実)が猛然と撃ち抜く爆乳のジャスティスはいいとして、キシカナにそんな糞みたいな台詞吐かせんなや。義憤はさて措き攻守がフレキシブルな濡れ場初戦は中途で、矢張り同じ団地に住むOLの里菜(水鳥川)が土手をジョギング。友人・中野(杉本)の車を見つけた里菜が気軽に窓ガラスを叩くと、何処かしらを盗聴してゐた中野は慌てる。その夜?酒井がチーママを務めるスナック「摩天楼」に遊びに来た金村夫人が、何者の仕業なのか配偶者に不倫を密告された件に逆ギレしてゐると、そもそも酒井が店で金村夫人に紹介した、当の浮気相手・原(久須美)が現れる。
 配役残り、荒木太郎アテレコの太田始は、テレクラ狂ひのフリーター。太田始が誇る特濃の顔面で圧す画力(ゑぢから)と、荒木太郎の絶妙に右往左往する偏執的な口跡とで、グイッグイ女を口説くシークエンスが爆発的に面白い、鬼に金棒とはこのことだ。樹かずは中野の後輩、どうもこの男達、盗聴した音声を金に替へてゐるやうなのだが、樹かずも兎も角、中野の生業は全体何なのか。西原太陽は樹かずの悪友、盗聴クラスタといふよりも、単なるヤリチンの模様。如何にも変名臭い名義ではあれ、とりあへず井戸田秀行でなければ佐々木乃武良でもなく、見覚えがなくもないやうな気はしつつ詰めきれず。
 沢田夏子をも捻じ伏せ得よう絶対美人にして、かうして見てみると思ひのほか仕事を選んでゐない岸加奈子。あまりにも可愛くて可愛くて可愛くて可愛くて、もう一杯になつた胸が物理的にすら張り裂けさうな水鳥川彩に、即物的な下心にも止めを刺す、偉大なる吉行由美のオッパイ。奇跡の三本柱が集結した時点で、勝利の確定した小川和久1994年第五作。映画の中身とか、この際屁にも満たぬ些末と放り捨ててしまへ。
 一旦恐い目に遭ひかけた里菜が、劇中台詞ママで“メカキチ”の中野の手を借り、目には目を歯には歯をのハムラビ法理論を採用した大絶賛イリーガルな逆襲に、しかも当寸法で転じてみる。女の裸と展開の直結具合が、案外満更でもない物語が手堅く進行する、比較的高水準の量産型娯楽映画。至るところに鏤められた、無造作なツッコミ処にさへ目を瞑れば。さうはいへ里菜と中野が目出度く結ばれるのが、如何せん早すぎはしないかと首を傾げかけたのは、水鳥川彩が序盤から順調に始終を支配する印象には反し、そもそもビリング通り、主役の設定はあくまで岸加奈子であつた。といふ一種のどんでん返し的なちぐはぐさが、今作最大のチャーミング。初端から大輪の百合が美しく咲き誇り、久須美欽一と吉行由美は二度に亘つて重低音の濡れ場をバクチクさせ、既に前述した水鳥川彩がラッブラブの温かく美しいエモーションを醸成した末に、岸加奈子が結構ハードなレイプ描写を―金村夫人が仕組んだプレイと勘違ひして―披露する。かうして改めて整理するに、寧ろ完璧。主演女優と三番手をセットで撃墜した二番手が、全てを手にする。さういふ形式的な違和感にどうしても我慢がならないのであるならば、水鳥川彩が幸せになるのに何か文句があるのかと難詰したい。


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 「売春婦マリア」(昭和50/製作・配給:ミリオンフィルム/監督:若松孝二/脚本:出口出/撮影:伊東英男/照明:磯貝一/編集:エディ編集室/録音:杉崎喬/助監督:高橋伴明/撮影助手:遠藤政史/照明助手:萩原範敏・原田政幸/?:菊地好夫/効果:秋山実/出演:中島葵・市川貴史・今泉洋・野上正義・国分二郎・坂本昭・星乃宏美・仁科鳩美・小林健作・黒渕達男・斉藤進・渡辺光春)。例によつてスタッフで一括るクレジットにつき、菊地好夫の担当には辿り着けず、現像に該当する名称が見当たらないのは本篇ママ。脚本の出口出は若松プロの共有ペンネームで、今回は高橋伴明の変名。製作ともミリオンとしたのは若松プロ特記が見当たらないのと、jmdbに従つた。
 新宿ゴールデン街、ネタに窮した『女性現代』誌記者の藤田瑞穂(中島)は、懇意のスナック店主・ゴッちやん(坂本)に新宿も大人しい街になつた云々愚痴をこぼす。受けたゴッちやんの切り口が、「美少女の売春婦なんてのはどうかねえ?」。素人で、身銭がなくなると小遣ひ代りに三千円で男に身を任す。“新宿マリア”と呼ばれるその女は、ピントの向かうのボックス席に実は既に座つてゐた。とかいふ次第でマリアこと後々明らかになる本名はヨシノマリ(星乃)の、物憂げなアップを抜いてそのまゝタイトル・イン。よくいへばアンニュイな、直截に脊髄で折り返すと草臥れた主演女優の面相は、昭和50年当時、果たして素面の美少女で通つたのであらうか。
 「僕はもう、ポルノ映画は撮らないよ」。マリアの取材をぼちぼち進めつつ、瑞穂が軸足をテレビに移す演出部・宮川(野上)との結婚の準備を進める中、何事か追はれてゐる風情の鈴木ヒロシ(市川)が、とりあへず一息ついた店でマリアと出会ふ。商売後も何も詮索しないのを気に入られマリア宅に招かれた鈴木は、ベルボトムの腰に回転式を差してゐた。
 配役残り、何気に作中最強の美人に映る仁科鳩美は、宮川の浮気相手、枕で営業する俳優部。瑞穂の射殺事件を捜査してゐるかと思ふと、鈴木兄貴分の梅岡(一欠片も登場せず)らを追つてゐたりもする。終盤に飛び込んで来る今泉洋は一課なのか公安なのかよく判らない官憲で、国分二郎が相棒。小林健作以下は、特定不能ながらマリア客要員と見て頭数は合ふ。
 最後の五都道県の対新コロ緊急事態宣言も明日には解除されるとなると、土台アバウトな期間限定も終りを見据ゑて行かないとならなくなるのか若松プロVODで、若松孝二昭和50年第二作。jmdb準拠だと、既にロマポでブレイク後の中島葵初ピンク。謎なのがウィキペディアの、中島葵が“独立系ピンク映画にも多数出演”してゐるとする記述。jmdbを眺める限り、片手で足るのだが、大量に洩れてたりするんかいな。それは兎も角序盤で女の裸が銀幕に載る尺をしこたま稼ぐ、中島葵と野上正義による大熱戦の入り。部屋が赤々しく点滅するのがこれは全体何のリフレクションなのかと首を傾げてゐたら、以降も随所で同様の現象が多発。要は、劣化したプリントが激しく褪色してゐるだけであつた。
 パン女・ミーツ・テロリスト、といつて、全篇をパレスチナ歌謡が貫くほかは、概ね徒にポリティカルな方向に振れてみせるでもなく。都会の片隅で出会つた行きつぱぐれた二人が、偶さかの蜜月を過ごして、呆気なく弾け散る。星の数より多さうな物語が、満更でなく実を結ぶ。発作的に瑞穂を射殺し、新宿の路地裏を手と手を取り逃げる疾走感。マリアは逃がさうとする鈴木に、マリアが叫ぶ「アタシには明日がないつていつたでせう!」。別に、さういふ内容の発言をマリアが鈴木にするシークエンスが、事前に設けられてゐる訳では必ずしもないものの、些末に一々立ち止まるな。「アタシには明日がないつていつたでせう!」、「だからアタシの好きにさせてよ!」。時代を超えて、新宿マリアが撃ち抜く剝き出しのエモーションこそが全てだ。単館に於いての上映時には、ラストの―マリアが腕を撃たれただけで死ぬ―無防備な銃撃戦に失笑が起こつたさうだが、より頓珍漢なのはその少し前。詰まらない万引きを犯し、富士宮警察から釈放され鈴木が潜伏するアジトに向かふマリアを、今泉洋と国分二郎が尾行。ところが林中のどストレートな一本道で気づかれて、誤魔化すもへつたくれもないだらうといふ間抜けなカット。オーラスの拳銃のアップが、どう見ても弾倉に弾が入つてゐるやうに見えないのは、だから神の宿らぬ細部など気にするな。裸映画的にはドラマの主役は星乃宏美に譲つた格好の中島葵が、濡れ場でビリングを回復する構図はピンクならではといへ感興深い。絡みがいたつて淡白な星乃宏美と、束の間を駆け抜ける三番手。ガミさん相手の質量とも藪蛇もとい闇雲に充実した長丁場で、中島葵が一人大いに気を吐く。のは認めるものの、ただ一点通り過ぎるに難いのが開巻即目を疑ふ、長さから派手に短い、チリッチリに当てた中島葵の壮絶な大仏パーマ。どうかした髪型が流石に攻めすぎだと思ふ、不細工に見せる方不細工に見せる方に突つ走つてしまつてゐる。

 これ今気づいたのが、よくよく考へてみるに、定石からすると日本シネマなりミリオンに買ひ取られたものを、とうの昔に消滅したのをいいことに、若松プロが勝手に配信して金儲けしてゐる形にならないのか?現存する国映には、話を通してゐるのかも知れないけれど、もしかしたら。いやいやいや、待て待て待て。ex.ジョイパック―がex.ミリオン―の、ヒューマックスも現存してるだろ。


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 「ザッツ変態テインメント 異常SEX大全集」(1991/製作:アウトキャストプロデュース/配給:新東宝映画/第1話脚本監督・ストリートドレイ《1話》・タイトル作成:中野貴雄/第2話脚本監督・走る男《3話》:上野俊哉/第3話脚本・監督、見合ひ写真の男《1話》:サトウトシキ/監修:サトウトシキ/企画:田中岩夫/プロデューサー・父親《1話》:岩田治樹/撮影監督・ダンボールをひきずる男《3話》:西川卓はPUNKなオヤジ/編集:金子尚樹《フィルムクラフト》/助監督&踊る男《3話》:森田高之/音楽:ISAO YAMADA/演出助手:荒川栄二/撮影助手:福島佳紀・米山浩吉/現像:東映化学工業/録音スタヂオ:銀座サウンド/ソウニュウ曲:THE NEWS 『DO!DO!DO!DO!DO!』より『ドラム・ダンシィズ』作詞・作曲:内山朋子/協力:チキンシャック《福生》・桜花子 まりの声《2話》・スノビッシュプロダクツ・ラッシュ・辻オプチカル・ニューハーフレディ《五反田》3495 6529・エリザベス神田店・勝山茂雄・ジュネ女王様にぶつとばされた通行人の方/第1話出演:小川真実・ジュネ女王さま・藤木TDC・ブラボー川上・佐々木正則《UHB》・仁村仁/SPECIAL THANKS:GOLDMAN/第2話:秋山まり子・牧村耕治/第3話:ニューハーフ絵美・石井基正・中根徹・山科薫・プレジャー後藤・勝山茂雄・三上ルカ)。jmdbが石井基正を石井徹と記載してゐるのは、中根徹に引き摺られたにさうゐない。
 多分新宿公園ら辺、他に名前の残らない三上ルカが下手糞にクシュンとして、「今年の花粉症何か酷いんぢやない?」。その後方では黒い功夫服の中根徹がチャチい套路を適当に披露し、カメラが進むその先には寝てるのか死んでるのかどうでもいゝ勝山茂雄が横たはり、上野俊哉が、何を叫んだのか判らない凄い速さで駆け抜けて行く。手前で西川卓!がウダウダするタギング塗れの段ボールの中では、金髪ソバージュのウィッグを被つた途轍もないオカマ(山科)が、カメラが中を覗き込むと逃げる男(不明)の尺八を吹き、二千円取り損ねる。小汚いアバンに二分回して、矢張り段ボールに描き散らかしたタイトル・インと、黒板書きの第1話タイトル「百人町風呂なし5.2万」。
 サトウトシキ前作に引き続き登場のライブハウス「チキンシャック」にて、キャットファイトを見せる真実ならぬ小川マナミ(ほぼハーセルフ)とジュネ(ハーセルフ)は、私生活では同棲する仲。父親の吾一(岩田治樹)から見合写真(サトウトシキ)の入つた手紙の届いたマナミは、何時までも続かない生活に終止符を打つ腹を固める。配役残り何とか辿り着けるのは、ボックス席リーマン三人連れの一番手前で、店員に金を渡す藤木TDC。軽く薄く安くおまけに詰まらなく喚き倒して、初篇から映画に止めを刺す糞MCは全体誰なんだ。中野貴雄を往来で調教する、ジュネ女王様が放つインテリジェントな名台詞が、自ら犬を卑称する中野貴雄に対し「お前なんか哺乳類名乗る資格あると思つてんのか」、畳みかけて「無脊椎動物で沢山だよ」。こゝは激しく面白かつた、こゝだけは。
 第2話「1991.4.8 彼女は半年ぶりに、彼に会つた」。息を吐くやうに女の頬を張る中島(牧村)に半年ぶりで買はれたコールガールのまり(秋山まり子/桜花子のアテレコ)は、更にその一年後偶然中島と再会する。
 第3話「趣味」、晃生(石井)は女の家に忍び込み、女装したまではいゝものの、サイズの合ふ靴まではなく外に出られず一旦途方に暮れる。帰宅した絵美(ハーセルフだかヒムセルフ)はニューハーフで、晃生の“趣味”に理解を示す。誰を指すのかが不明なプレジャー後藤をさて措くと、三上ルカを除く第2話は素通りしたアバン隊が、晃生・絵美とは殆ど全く関り合はない程度の再登場を勝手に果たす。
 一応中野貴雄の映画デビュー作ともいへ、この時アウトキャストが何をしたかつたのか全く以て理解に苦しむオムニバス作。兎にも角にも、全篇通して1mmほどしか面白くも何ともないのがグルッと一周して凄まじい。ガチのマジで救ひやうもなく完膚なきまでに酷い、純然たる積つたまゝの塵。「どんな映画にも、何処かひとつチャーミングなところがある」とは淀川長治が遺した、これまで映画に関して星の数より多く語られて来た中、個人的に最も好きな至言ではあれ、流石に今作から何某かよかつたの欠片を探し出すのは、当サイトの甚だ未熟なポリアニズムには些かならず難い。
 小川真実に勝るとも劣らないどころか、明確に凌駕する超絶巨乳のジュネ女王様をも擁してゐながら、第1話は兎に角ゴミMCに爆砕されるチキンシャックのパートが木端微塵で凡そ映画の体を成してゐない、35mmフィルムの無駄遣ひ。第2話は雰囲気ばかり勿体ぶつて、徒に難渋な牧村耕治が女に平手を呉れ―ては髪をかきあげ―るばかり。尤も、頬を張られる女に琴線を激弾きされる御仁にとつては、却つて純度の高い至福たり得るのか。上野俊哉が、さういふフェティッシュに脇目も振らず突つ込む真似をするのかどうかは知らないが。まともな女さへ出て来ない第3話も第3話で、異常なクオリティを爆裂させる石井基正の女装と、最終的にくたびれたのかもしかするとシンプルに酔つ払つたのか、所作もへつたくれもなく見るからぐでんぐでんにグダる西川卓くらゐしか見所らしい見所も見当たらない。百合×サディズム×薔薇.feat.女装といつた、異常SEX大全集は単純な羅列に止まり迫力にも踏み込みにも欠き、マナミとジュネ、まりと中島に、絵美と晃生。第3話ラストでは三組を形だけ交錯させてみせるにせよ、所詮は木に接いだ竹。闇雲に走り抜ける上野俊哉が、所詮上澄みほどもない全てをカッ浚つて行く。少なくとも政治的と経済的には三十年をドブに捨てた、今なほ潮目の変る気配すら窺へない。平成の悪夢の方がまだマシな現実の絶望をよしんば予感してゐたものだとするならば、何某かの卓見とも思へつつ、こちらもサトウトシキ前作を踏襲する、現都庁舎竣工直後の新宿に向けられた敵意に近い違和感は、匂はせるのが関の山の、精々二三本毛を生やした気分に止(とど)まる。


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 「色情家族」(昭和46/製作・配給:国映株式会社/監督:若松孝二/脚本:出口出/企画・制作:矢元一行/撮影:伊東英男/照明:磯貝一/編集:宮田二三夫/助監督:吉積め組・斉藤高五/撮影助手:高間賢治・福井通雄/照明助手:北村一雄/効果:創音社/録音:目黒スタジオ/現像:東映化学/出演:香取環・林美樹・武藤洋子・宮下順子・市村譲二・矢島宏・島たけし・今泉洋)。
 確か配給もした際に使用する、燃え盛る国映ロゴ。一度か二度見覚えもあるけれど、最後に使つたのは何の時になるのかな。帰宅した自衛隊要職に就く嵯峨栄(今泉)が、妾に産ませた三姉妹の三女・春子(宮下)に帽子と上着を渡す。和服に着替へた栄は、家の様子を春子に尋ねがてら“何時ものやうに”机上に半裸で横たはらせた娘を弄る。手前花で腰から下を隠した別室、長男で司法関係と思しき晴一(市村譲二/a.k.a.市村譲)が三姉妹長女の秋子(林)を抱き、更に別室次男でカメラマンの康二(矢島)も、三姉妹次女の夏子(武藤)を抱く。栄に対する春子の報告が再三再四リフレインされる、「何も変りありません」。秋子らも、変らない日常に揃つて諦念を滲ませる。一方、兄弟の母親、即ち栄の正妻・えつ(香取)が乳も放り出して激しく苦悶し、傍らでは三男の昭三(島)が、詰襟で立ち尽くす。追ひ討つ薬を飲ませられた、えつは終に事切れる。退室した昭三が廊下で、春子と鉢合はせてタイトル・イン。ところで今作、香取環が轟然と飛び込んで来るカットの跨ぎ以降、暫し画面が色彩を失するパートカラー。それと、後に昭三が秋子・夏子を指して義姉さんとしてゐる点を窺ふに、各々晴一・康二と結婚してゐる模様。と一旦思ひかけたが、腹違ひでも姉さんはあくまで姉さんである以上、最終的に婚姻の有無―三姉妹が戸籍の上では父親の欄が空白な婚外子につき、出した届は一旦通る―は矢張り不明。
 斎場から秋子が出て来るロングに、起動するクレジットが凄まじい。“作つた人達”の一括りで矢元一行・出口出・伊東英男の順に、個人・団体問はず俳優部通過して若松孝二までを、数も含め所々入る中点でアクセントをつけつつ、それぞれの担当は端折つてズラーッと一列。“作つた人達”とかいふ子供相手のやうな十把一絡げにも腰が砕けるが、斯くも画期的かプリミティブなクレジットにもさうさうお目にかゝれまい。実際の塩梅―は縦に並ぶ―を併記すると、“作つた人達 矢元一行・出口出・・伊東英男 磯貝一 宮田二三夫 吉積め組 斉藤高五 高間賢治 福井通雄 北村一雄・創音社 目黒スタジオ 東映化学・・・香取環 林美樹 武藤洋子 宮下順子 市村譲二 矢島宏 島たけし 今泉洋・・・・若松孝二”となる。えつの葬儀には出なかつた康二―jmdbには健二とあるが、劇中では康二―が家系図を書き殴り、“妾の娘を三人また妾に”した父親から、払ひ下げられた女と兄弟が“ごしごしセックスに明け暮れ”た末に、母が狂死した嵯峨家の現状を整理する。呼び出されその場に現れた秋子を、康二は犯す。
 基本的に残らない配役残り、何某かの―非合法な―政治活動に身を投じてゐた夏子の同士の若い男と、康二がヌードを撮影する、ナンシー・アレンみたいなパーマ頭のモデルは、クレジットに通り過ぎられては手も足も出しやうがない。
 いはゆる期間限定の、限定具合がへべれけにアバウトな若松プロのVODに絡めた国映大戦第三十戦、若松孝二昭和46年第五作。原題らしき「性家族」で登録されてゐるjmdbと、今回配信された動画では尺に五分の開き―当然jmdbの方が長い―があり、「性家族」と「色情家族」がタイトルだけ違ふのか幾許か手を加へてゐるのかが判らないが、現に、あるいは兎にも角にも。話を辛うじて見失ひはしない程度に、全篇そこかしこでブッツブツ飛び倒す。
 えつの死を契機に、栄を絶対的な頂点に据ゑた嵯峨家の秩序が揺らぎ始める。権力構造の崩壊、より直截には転覆。支配者に対するレイジといつた主題は、若松孝二の名前から平板に脊髄で折り返せば御家芸にも思へ、時代の空気か単なる当サイトの資質か、2020年のこの期に触れてなかなかおいそれと呑み込める筋合の代物でもない。何はともあれ、無闇な家長の支配力も兎も角、矢鱈な家人の無力感が甚だしく理解に遠い。何か、君等その屋敷出たら、時限発火する爆弾でも体に埋め込まれてゐるのか。寧ろ、嵯峨家を覆す力の源が長兄と次兄に対し、春子を宛がはれなかつた昭三の、ルサンチマン面した要は拗らせた性欲ででもあつて呉れた方が、ピンクである以上尚更しつくり来る。そもそも、若松孝二的にドラマ上はよしんば十八番といへるものであつたにせよ、それと裸映画としての評価は全く別。絡みに費やす、物理的時間自体は決して短くないどころかそれなりに潤沢である割に、真面目に濡れ場を撮らうとする貪欲なり誠実さを殆ど全く窺へさせない。お門違ひ?ふざけるな。女の裸を措いて求めるものなど、ピンク映画にあつて堪るか。秋子を断罪した返す刀で牙を剝いてはみたものの、栄にケロッと手篭めにされる夏子が、自らを奮ひ立たせるべくインターナショナルを歌ひ始めるシークエンスの、壮絶な頓珍漢さには正直頭を抱へた。こんな代物で勃つのかだなどと、いはずもがなはこの期に申さん。仮に当時これはこれで受けたのであれば、それが受けた偶さかに一抹程度の感興ならば覚えながらも、俺には関係ない。


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 「ツンデレ娘 奥手な初体験」(2019/制作:フィルム・クラフト/提供:オーピー映画/監督:小関裕次郎/脚本:井上淳一/撮影監督:創優和/録音:小林徹哉/編集:有馬潜/助監督:坂本礼・女池充/監督助手:植田浩行・今村嶺/演出部応援:山嵜晋平/撮影助手:宮原かおり・中津愛/スチール:本田あきら/ヘアメイク:佐倉萌/車両:鈴木英生/協力:渡邊元嗣・加藤義一/エキストラ《順不同》:西山真来・若林正浩・近藤新・石田三紀・宮澤あかね・飯島真紀・井上妙子・蛭田智子・鎌田一利/音楽:どるたん+しゃあみん/整音:Bias Technologist/仕上げ:東映ラボ・テック/制作協力:飴屋当兵衛商店/出演:あべみかこ・月ヶ瀬ゆま・美原すみれ・市川洋平・ダーリン石川・西本竜樹・須藤未悠・しじみ・山本宗介・可児正光・安藤ヒロキオ・和田光沙・佐倉萌・森羅万象)。出演者中、森羅万象は本篇クレジットのみ。
 小屋で観るよりも、明るく映るOPPロゴ。真紅と認識してゐたので、茶色に片足突つ込みかけた鮮やかさに些か面喰ふ。田舎駅のホームを端に向かつて歩く主演女優の背中に、一人称のモノローグ起動。“線路は続くよといふ歌は、私にとつて何処か余所の国の話だつた”。駅は終点で、線路はホームから野球の球を投げても届きさうな距離で途切れてゐた。澤井村役場に勤める畠山ちひろ(あべ)に、“職場ぢやいへない話”と呼び出された同僚にして幼馴染の浄土恭平(市川)が後を追ひホームにやつて来る。用件を問ふ浄土に有無もいはさず、無人駅なのかホームからそのまゝ往来に出ると、ちひろが浄土のチャリンコも強奪して向かつた先が、よもやまさかのラブホテル。入室しようとする部屋の、内側から擦り硝子越しに二人を抜いてタイトル・イン。あべみかこの口跡が独白だと些か硬い反面、相手と交す通常の会話であれば普通に発せられる模様。
 “処女拗らせちやつて気がついたらもうすぐ三十”だとか、最短距離にもほどのある的確な自己分析に到達したちひろが、人畜無害といふ―だけの―理由でロストバージンの介錯に目星をつけた浄土は、浄土も浄土で風俗経験さへない、正真正銘の完全童貞であつた。兎も角先にザクザク脱いだちひろが頬にチュッとして、「処女と童貞か、いいぢやん」と捌けた余裕を見せ、たところからカット跨ぐと浄土も裸でちひろに覆ひ被さらうとする。それまで案外長く回す丁寧さと、無造作な飛躍が同居するちぐはぐさは否めない。大好きな綾波零子(美原)のAVを想起しながら、浄土がAV通りにちひろのお乳首を弾(ひ)くまでは順調であつたものの、いざ本丸たる観音様に対するに、モザイクの向かうに霞む攻め方が判らず手が止まる。さうかうしてゐる内に中折れた浄土を、ちひろがらしからぬ積極性で尺八を吹き復活させつつ、今度は口内に暴発してしまひ完全に試合終了。帰宅した浄土がテレビの液晶から出て来た零子と失敗を復習する一方、何気に枕元には少女マンガも並ぶちひろのベッドにも、カリスマAV男優のベレッタ黒岩(山本)がスマホから現れる。ベレッタ黒岩て、カッコよすぎんだろ。ソリッドな山宗の、ベレッタ感。さて措き可児正光が零子と相対する男優部・大和亮二で、しじみがベレッタに抱かれる女優部・広瀬すずめ。瞬間的なほんの束の間ではあれ、十二分に煽情性を叩き込む絡みをしじみも披露する。
 配役残り和田光沙は、村が開いた婚活セミナーの講師、少なくとも苗字は和田。シリーズ―多分―最高傑作「妖女伝説セイレーンXXX 魔性の悦楽」(2010/監督:芦塚慎太郎/脚本:港岳彦/主演:まりか)の男主役が今も記憶に深く且つ鮮烈に刻まれる、西本竜樹はセミナー参加者で、浄土の従兄でもある小笠原勇之介。一人だけ突出した地力が、浮いて見えなくもない。安藤ヒロキオがその他台詞ありセミナー参加者、後ろに立つてゐる月ヶ瀬ゆまとダーリン石川は、ちひろと浄土の先輩・根本緑子と、緑子とは四年間の不倫にもある課長の沢村道明。エキストラは、女の参加者を首都圏在住に当初限定する意味の判らない、終盤の屋外パーティー込みの婚活部。セミナー会場安藤ヒロキオの後方に、鎌田一利と女池充が座つてゐるのだけは看て取れる。坂本礼が連れて来たにさうゐないが、西山真来の名前があつたのには驚いた。役場に見切れる中年の後姿も入れると男衆の数が合はないため、内トラがもう若干名ゐると思はれる。佐倉萌は浄土の母、クッソ爽やかなスナップを爆裂させる森羅万象が、不甲斐ない倅とは対照的にグイグイ来た―母談―浄土亡父、出演は写真のみ。須藤未悠は、行きそびれる姉を明確に邪険にする、ちひろの妹・史乃、農協男と結婚予定。須藤未悠が本職はスチール部らしいが、超絶のキャスティングの妙を何気に際立たせる地味な飛び道具。
 緊急事態の宣言解除も話題に上りこそすれ、小屋が開く見通しは依然不透明な中、スターボード発売の新作DVDで助監督修行六年を経ての小関裕次郎初陣。かういふ御時世になつてしまつた以上、エク動を自前で構へるエクセスも返す刀で含め、大蔵には新作配信のピッチを上げるなり、旧作を大量に投下して欲しい。VODと円盤の、どちらがより儲かるのかは知らないけれど。とこ、ろで。江尻大のEJDに対称させ、当サイトではこれまで小関裕次郎の略称をOZUとして来たものだが、予告篇をよくよく見てみるにこの人オゼキではなくコセキ、KSUとしなければならなかつた。勝手に間違へて、黙つて修正する。
 双方初物同士でもたもた右往左往する、ぎこちない初体験、乃至は恋路。もしくは終始キョドッた糞デカウェリントンに、職場の女子が代る代る連日膳を据ゑて呉れる非現実的なファンタジー。主役の男女が互ひにAV女優・男優をメンターとする形で、オーソドックスな恋愛映画を裸映画的にも綺麗に加速。予告に目を通した時点では、どうも色濃く感じた竹洞哲也スメルは、幸にも情報の不足した早とちり。沢村との正直腐れて来た関係に終止符を打つ腹を固めた二番手が、ちひろと浄土に先行する形で走り、あるいは生き始める力強さは、竹洞哲也が忘れたか失つて久しいエモーション。色男の高みから撃ち下すベレッタと、マジョリティーの強みから容赦ない史乃。ちひろには火の玉ストレートの正論がドカンドカン畳み込まれ、浄土は緑子が些か乱暴に、満を持して飛び込んで来る小笠原こと西本竜樹が、余裕を持つて背中を押す。どるたん+しゃあみんが頓珍漢なユニット名に脊髄で折り返した危惧をいい意味で裏切り、堂々とした正攻法を敢行する劇伴も始終を美しく補完。観客あるいは視聴者の涙腺を、遂に決壊させる詰めの一手を随所で放つ。十余年ぶりで各々の立ち位置を変へたちひろと浄土が初めてホームにて向き合ふ、アバンも見事に回収したクライマックスは一撃必殺。この役なら櫻井拓也で別によくね?といふ量産型娯楽映画的な疑問さへ飲み込めば、佐倉萌によると初めからさういふ二兎を追つた企画ではなかつた、プラスのフェスに選ばれなかつたことに疑問がそこかしこから語られたのも肯ける、心温まると同時に結構磐石のデビュー作。締めの濡れ場を完遂させない小癪さも兎も角、蛇足気味な助言部のラスト一言二言なんて感動のあまり耳にしなかつたプリテンド。但し、ギリギリのギリッギリまで尺を使ひ果たした結果、スタッフを一緒くた一遍に放り込むクレジットは、あんな真似をされては小屋では意味を成すまい、エキストラなんて絶対に読めなかつた。

 御多分に洩れず図書館も閉まつてゐるため、如何にも面倒臭さうな脚本家が―OPとKSUに―吠えてゐやがるらしい、月刊『シナリオ』誌には辿り着けず。宣言解除の時期尚早を囁く声も根強い、このザマでは再開するのも何時になるのか知らないが、覚えてゐたら目を通す。


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 「SEX予備軍 狂ひ咲き」(昭和49/製作:若松プロダクション/配給:日本シネマ/監督:林静一/脚本:林静一/製作:若松孝二/企画:若松孝二・林静一・富山加津江/撮影:吉岡康弘/照明:磯貝一/音楽:かしわ哲・はちみつぱい/出演:葉山るゐ《新人》・かしわ哲・流龍人・有沢真佐美・市村譲二・千葉末知・山本昌平・赤瀨川原平《特別出演》・荒牧光雄・林節子・中島桂太郎・内藤佳緒利・戸川弁寿郎・勝馬勝・西東捷兵・成海駄作・大西透・安田倉江・渋谷於富/編集:竹村峻司/効果:脇坂孝行/タイトル:長谷川徳男/タイトル作画:佐藤和宏・佐藤昌宏/録音・現像:目黒スタジオ/助監督:斉藤博/演出助手:和光晴生/撮影助手:高間賢治/照明助手:原田正幸/製作主任:富山加津江)。監督と脚本の別立ても兎も角、俳優部が中央に飛び込んで来る斬新なクレジットは、本篇ママ。
 凄い手書きで“'73 若松プロダクション作品”、主題歌のイントロが起動してブルーバックのタイトル・イン。最初に整理しておくと、昭和48年に―今回配信タイトルでもある―原題「夜にほほよせ」として製作したものを、翌年日本シネマが配給した模様。ついでといつては何だが録音と現像を兼ねる“旧”目黒スタジオの正式名称は東京録音現像で、御存知ニューメグロの前身。
 古の麗しき屋上遊園地にて、印刷工の村松オサム(かしわ)と田舎の幼馴染・田島か田嶋か但馬辺りレイコ(葉山)がランデブー。十六年前に田舎を離れたレイコと上京した村松が、如何に再会を果たしたのかに関しては豪快にスッ飛ばす。村松の安アパートの敷居を跨いだレイコは、村松が鼻歌なんぞカマして紅茶を淹れてゐるうちに、無防備にも寝落ちる。そのまゝな流れで一夜を過ごした翌日、村松が通勤電車に乗る間際。レイコは結婚するゆゑ、これきりねと村松に告げる。
 辿り着ける限りの配役残り、村松と仲のいい同僚の池田ノブヒロは、ビリング推定で流龍人か。レイコは村松に、一つの嘘をつく。今後結婚するのでなく、実は既に結婚してゐた。有沢真佐美がレイコの実母で、a.k.a.市村譲の市村譲二が、有沢真佐美の面倒も見るのをバーターにレイコと結婚した小沢か小澤、尾沢辺りかも。小沢の浮気相手は、多分ビリング推定で千葉末知、濡れ場のある女優部は二人のみ。赤瀨川原平は、村松と同じ階に棲息するオカマ。山本昌平はラスト、深夜ホッつき歩くレイコに、児童公園で接触するトレンチの男。
 昨今コロナ禍で瀕死の危機に見舞はれた映画業界の焼け石に水をかけるべく、若松プロダクションがミニシアター応援基金を設立。“新型コロナウイルスが終息するまでの予定”とかいふ、ザックリするにもほどがある期間限定で未DVD化作をオンデマンド配信。売上の半分をミニシアター等映画に携はる施設に寄付するとする建前も兎も角、兎に角古いピンクが見られるぞといふので、まづは『赤色エレジー』で知られる林静一最初で最後の映画監督作。林静一が今作を撮るに至つた、経緯は不明。ところであの―どのだ―若松プロが、本当に寄付するのかといふのは、鈴の音に涎を垂らす下衆なツッコミ処。右から左にスコーレに流れるならまだマシで、ほとぼりの冷めた頃に、新作の製作をシレッと発表しやがつてゐたりしたら笑ふ。尤も、最終的にしぶとく生き残るのは、さういふ殺しても死なない手合であるやうな気もする。
 女にフラれた男が電車に爆弾を仕掛けた、モチーフは横須賀線電車爆破事件と聞くと―単館上映時に語られてゐたらしい―如何にも若松プロらしいアグレッシブな企画にも思へ、結果的に林静一はトピック性を綺麗に等閑視。望まぬ結婚に燻り、結構何だかんだ羽目を外す案外奔放な女と、女に翻弄されるナイーブな青年。キナ臭さなり政治性に振れてみせるでなく、ありがちな話に物語は収斂する。モーション・ピクチャーといふよりも、寧ろ一枚絵的に鮮烈なショットを随所で叩き込みつつ、正直繋ぎは全篇通してガッチャガチャ。何しに出て来たのか連れて来られたのか、カットの隙間を正しく瞬間的に駆け抜けて行く赤瀨川原平は、木に竹すら接ぎ損なふ。腰のひとつ満足に振りもしない絡みには呆れて匙を投げかけつつ、特にナニするでなく、レイコと村松が今の言葉でいふとマッタリ乳繰り合ふシークエンスは、それなりにエロいか幾許かの多幸感が溢れもする。村松の、要はセンシティブと紙一重か諸刃の剣の惰弱さに首を縦に振るか臍を曲げるかに雌雄は大いに左右されようが、現存するプリントの状態は相当悪いやうだが配信の画質は普通によく、この時代の、短いものを長く見せるベルボトムの正しさを再確認出来るだけで、個人的にとりあへずの元は取れる。


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 「緊縛 鞭と縄」(昭和59/製作:ユニット・ファイブ/配給:新東宝映画/脚本・監督:北川徹/撮影:長田勇市/照明:三好和宏/音楽:坂口博樹/編集:菊池純一/美術:種田陽平/撮影助手:小川真司/照明助手:岡尾正行/助監督:冨樫森・岡田周一/制作主任:矢島周平/効果:小針誠一/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化工/出演:竹村祐佳・麻生うさぎ・下元史朗・伊藤清美)。
 右から左に電車が通過する鉄橋のロング、チューリップを頭に載せ、面積が凄まじいウェリントンの下元史朗がスポーツ紙に目を落とす。膝の上には、大事さうに抱へたボストンバッグ。海町に降りたつた下元史朗は、数キロはありさうな結構な遠目に目視した廃屋に忍び込んで一服。すると出し抜けに轟くスクリームを合図代りに雨が降り始める、その大仰な技法。緊縛した竹村祐佳を載せた車椅子を白衣の麻生うさぎが押すショットに、VHS題「愛液が縄を流れる」でのタイトル・イン。無駄な詩情が微笑ましい、詩情といふほどのものなのか。
 麻生うさぎに嬲られた竹村祐佳が、何か思ひついたかのやうにベッドを離れ原稿用紙に向かひ、かけて筆を置き再び嬲られる。コントみたいな底の抜けたシークエンスを経て、ヒッチハイクに難航する川村か河村良一(下元)を、麻生うさぎが拾ふ。訳アリな川村の風情を看て取つた麻生うさぎは、曰く“怪しい人なら喜んで泊めて呉れるおんぼろホテル”なる、山中にあるのに岬ホテルの表に、川村を放置して消える。軽く途方に暮れる川村を、女主人然とした竹村祐佳が迎へる。尤も、岬は三崎とか美咲かも。
 配役残り岬ホテルに電話を入れる、竹村祐佳が女流推理小説家・江戸川乱子である秘密を知る岬署のフジヤマの、声の主には当然の如く辿り着けず。電話の様子から捜査網の狭まりを察知した、横浜の信用金庫からボストンバッグ一杯分の金を横領し逃亡中の川村は、一晩竹村祐佳の据膳を頂戴した岬をすぐに辞す。ところが踵を返す原因を担ふ、保田駅(当時国鉄内房線/千葉県安房郡鋸南町)の改札に立つ巡査は、八の字眉が特徴的な冨樫森。伊藤清美は、東京から竹村祐佳を訪ねて来る女子大生のミサワジュンコ、卒論のテーマにも江戸川乱子を選んだ大ファン。
 右往左往する軸足が覚束ない、北川徹(a.k.a.磯村一路)昭和59年第三作。実は劇中縄は別に登場しない、竹村祐佳と麻生うさぎが司るサドマゾはそれなりに見応へもなくはないものの、川村が最初に岬で過ごす一夜ではちつとも怖くない恐怖映画風演出で茶すら濁し損なひ、竹村祐佳と麻生うさぎが川村と、飛んで火に入つたついででジュンコを翻弄するサイコホラーと紙一重のサスペンスは、致命的な含みを残す。そもそもビリング頭二人が狂ひ咲かせる百合の攻め受けが随時逆転する上に、麻生うさぎを責める竹村祐佳の劇中最大の謎台詞が「貴女の才能が憎い」、「いつそ殺してしまへばアタシ一人が・・・・」。ついでに終盤では今度は麻生うさぎが竹村祐佳に対し「いはれた通りにちやんとお書き」、「誰が江戸川乱子だと思つてんの」、だから誰なんだよ。竹村祐佳が江戸川乱子で麻生うさぎは秘書なのか、麻生うさぎが乱子先生で画期的に手間のかゝる口述筆記。それとも二人の共同ペンネーム、江戸川乱子の正体は終ぞ判然としない。但し、熱狂的に読み込んだジュンコが予想した作家像に、とりあへず竹村祐佳は合致するらしい。肝心要がマクガフィンじみて痒いところに手が届かないのに加へ、徹底してドジで臆病な小心者の造形を宛がはれた、下元史朗も割を食ふ。竹村祐佳に夜這ひを仕掛けるのに、ランニングとトランクスとか情けない姿で抜き足差し足。挙句物音をたてては、すたこら逃走。二度目の岬離脱に際しては、制服警官かと見紛つた立て看を「コンニャロコンニャロ」―実際に“コンニャロ”と発声してゐる―とポコンポコン殴打、そんな気の抜けた下元史朗なんて見たくない。止めの三度目に至つてはジュンコを置いて一人だけ逃げた挙句、麻生うさぎにまんまと再捕獲される始末。斯くも何処までもカッコ悪い下元史朗、ある意味レアともいへるのか。当時的には尚更穴のない、主演級を揃へたといつて過言でない女優部も、オッパイに引かれる後ろ髪は二三本否み難い。後年の一般映画も当たり外れが大きい世評の伝へ聞こえる、どうも磯村一路といふ御仁、とかく捉へ処がない印象が強く覚えるところである。


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 「ONANIE交感不倫」(1993/製作:小川企画プロダクション/配給:大蔵映画株式会社/監督:小川和久/脚本:池袋高介/撮影:伊東英男/照明:内田清/音楽:OK企画/編集:フィルム・クラフト/助監督:石崎雅幸/撮影助手:郷弘実/照明助手:佐野良介/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学/出演:水鳥川彩・藤崎あやか・吉行由美・久須美欽一・杉本まこと・吉岡市郎・栗原一良・姿良三・星川健太)。出演者中、姿良三と星川健太は本篇クレジットのみ。脚本家の名前が、普通の位置にあると何故かドキッとする。
 三田家(津田スタ)の寝室、淳次(杉本)の隣で寝てゐる妻の典子(水鳥川)が、起きて夫婦生活のお強請り。水鳥川彩から求められてゐるといふのに、糞バカヤローの杉本まことが明日も早いだ何だ応じずにゐやがると、典子はいぢらしくもワンマンショーを敢行。メロウなギターが鳴り、軽く俯瞰に引いてタイトル・イン。後述する垣内の社長室を除き、例によつてそれらしきロケーションを工面する手間なり袖を惜しんで新宿の往来。昼飯を済ませた三田と、同僚の栗原一良(ex.熊谷一佳)が歩いて来る。一方、二人の会話を通して軽く投げられた、三田が担当する顧客で危ないと噂されるケーアイ化粧品の社長・垣内(久須美)が、自ら電卓叩いて渋い顔。垣内は融資を無心した、焼け石に水をかけて呉れる仲の宮本(吉岡)と、愛人の真理古(吉行)に持たせたスナック「摩天楼」で会ふ。小川和久(現:欽也)の変名である姿良三と石崎雅幸の変名である星川健太が、四人一遍に飛び込んで来る摩天楼のカウンター客とバーテンダー。梃入れが裏目に出たものの違約金が惜しい、三田を介して結んだ契約と、囲ふのも正直苦しいものの、手切れ金が惜しい真理古。目下垣内が抱へる、二つの問題に関して十全に外堀を埋める。そもそも、真面目に経営を改善せんかハゲ社長、とかいふ至極全うなツッコミは野暮は控へない。
 三田が真理古に見惚れてゐるのを看て取つた垣内は、真理古と三田細君とのスワップを持ちかける。さりとて三田が典子に切り出せず事態が膠着する中、配役残り栗良が偶然再会する藤崎あやかは、かつて栗良マターの企画で一度仕事したキャンギャル・苑実。出会つたその日に栗良と寝た、セックスが大好きで、しかも誰でもいい。挙句「どうせスルんだもん」と、デートだ何だは時間の無駄とすらいはんばかりの地上に降りた天使。
 正直映画の中身なんてこの際どうでもよくとも、水鳥川彩をウットリ眺めてゐるだけでどうにかならなくもない小川和久1993年最終第十作。実も蓋もないのか、あるいは一つの真実に到達したのかは、諸賢の御判断にお任せする。
 真理古の色香にチョロ負かされた三田が妄想する裸身を、吉行由美(現:由実)にそのまんまの状況で服だけ脱がせて表現する物理透視ショットは、もしかするとこれこそが特殊撮影技法の到達点たり得るのかも知れない、清々しいほどの開放的なエモーションを結晶化する。先にも述べたが不精か無頓着の結果、栗良絡みのシークエンスは全てそこら辺の往来で処理。一番腰も砕けたのが地下道の出入り口から地上に出て来た三田を、栗良が追ひ駆けて来て社用の重大な電話があつた旨告げる件、君等の会社は地下にあるのか。とか何とか、あるいは兎も角。苑実を三田夫人に偽装する形で、三番手―二番手を、実質三番手と解する―の投入にも全く以て無理も無駄もないなだらかな裸映画が粛々と展開するうちに、何時しか溶解する本題。かと、思ひきや。そもそも垣内も垣内で、約束を違へてゐる点については当然勿論東から昇つた日が西に沈むが如く等閑視。三田との浮気で真理古を捨て、スワッピングの不履行を理由に邪魔臭い契約も破棄した垣内が、返す刀で典子までオトす。久須りん・テイクス・オールな結末にあれよあれよと辿り着く、案外見事なピカレスク・ピンク。考へてみれば三田の相棒は所詮栗良で、垣内はといふと吉岡市郎。ボックス席で茶色い酒を酌み交す久須美欽一と吉岡市郎の画が強過ぎて、その時点で容易に雌雄は決せられてゐたやうにも映る。とこ、ろで。何が互ひに感じ合ふのか全く判らない公開題は、直截に“交換”の誤字としか思へない。


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 「汚れた女“マリア”」(1998/製作:国映株式会社/配給:国映・新東宝映画/監督:瀬々敬久/脚本:井土紀州・瀬々敬久/企画:森田一人/プロデューサー:朝倉大介・衣川仲人/音楽:安川午朗/撮影:鈴木一博/編集:酒井正次/整音:中村半次郎/助監督:菅沼隆/監督助手:柳内孝一/撮影助手:宮川幸三・鈴木健太郎/制作:坂本礼/録音:シネキャビン/現像:東映化学/応援:堀禎一・榎本敏郎/ロケ協力:野田真外・キクヤヨシミ/協力:㈱ニシベ計器製作所・《株》エルコム・《株》ギンビ/出演:吉野晶・諏訪太朗・工藤翔子・佐野和宏・川瀬陽太・伊藤猛・小林節彦・泉由紀子・徳永恵美子・山岡樹・山田文太・今岡信治・小暮明日香・加藤志保・小泉剛)。出演者中、徳永恵美子以降は本篇クレジットのみ。
 パッケージ仕様か、意表を突かれるイメージファクトリーロゴ、ブルーバック版。事務所用に借りた部屋なのか、オーナー自宅なのか境界の曖昧な一室。「クラブカット美容室」の経理を担当する城島文子(吉野)が伝票仕事がてら、業務柄大量に発生するタオルの洗濯。洗濯機が止まり、タオルを干す、暗転してタイトル・イン。文子が洗ひ上がつたタオルを運び込んだクラブカットでは、オーナーの渡辺秋夫(佐野)が寝こけ、美容師の村上真由美(工藤)と沢井秀二(川瀬)が客(特定不能の小暮明日香と加藤志保)の頭を触る。徳永恵美子が、もう一人ゐる鋏を持つのか持たないのか判然としない従業員。中略して沢井と不倫関係にある文子は、真由美が実は渡辺と男女の仲にあるのも知らず沢井との近しげな距離を危ぶみ、店の移籍を決め最後の給料を取りに来た真由美を件の謎部屋で殺害、バラバラに処理する。殺した女と殺された女の名前始め、結構そのまんまなぞつてゐるモチーフの福岡美容師バラバラ殺人事件(1994)に関しては、近所の出来事なのに最早スッカーンと忘却の彼方。底の抜けた映画ばかり好んで観るか見てゐるうちに、俺の記憶媒体にも穴が開いてゐるにさうゐない。
 配役残り小林節彦は、マユミの夫でタクシー会社「明治交通」運転手である雪男(諏訪)の客。他愛ないテレクラ自慢で、真由美に心を痛め腫物な雪男の気分を害し降ろされる。といふか雪男て、どんな名前な。閑話休題きれいな伊藤猛は、文子の夫、この人のロングは本当に映える。同じやうな映画で、同じ役。量産型娯楽映画の息吹を僅かか微かに伝へる泉由紀子は、小分けした真由美をあちこちのゴミ捨て場に遺棄する、あからさまに不審な文子を見咎める女。着てゐる服―と顛末―こそ若干違へ、榎本敏郎1999年第二作「覗かれた不倫妻 主人の目の前で…」(脚本:井土紀州・榎本敏郎/主演:伊藤猛)に出て来る、隣人ゲシュタポとほぼ全く同一の造形。ただし、あるいはついでに。雪男がマスをかく、小林節彦が車内に忘れて行つたビデオカメラに入つてゐたハメ撮りの、SM趣味人妻の嬌声も泉由紀子。その他視認出来るのは、渡辺にドライヤーを当てられる金髪が今岡信治。問題が何れか片方―ビリング推定的には山岡樹か―が文子息子の子役で、小泉剛はさて措くとしてもまだ男優部の名前が一人多い。雪男と交信する明治交通無線と、分割された人体の発見されたニュースを読むアナウンサーの、各々声のみといふ線も残る。
 インターフィルムの新着が止まつたゆゑ、気づくとすつかり御無沙汰の国映大戦第二十九戦。標準的なロマポをも超える八十分弱の、瀬々敬久ピンク映画第十七作。尤も、娯楽性どころか殆ど物語性すら欠いた、突き詰めた闇なり閉塞が遂にグルッと一周する特異な作風も兎も角、なくはない程度の申し訳にも満たない女の裸と、横紙破りの長尺。前年の前作「黒い下着の女 雷魚」(脚本:井土紀州・瀬々敬久/主演:伊藤猛・佐倉萌)以降、渋々か偶々小屋に来てゐるだけで、瀬々敬久はピンクの領域なりフォーマットからは明確に外れてゐる。緊急事態宣言発令後も福岡県下ラストスタンディングで耐へ抜いた地元駅前ロマンにて、恐らく前世紀に少なくとも一度は観てゐた気がするが、今回1カットたりとて思ひだしはしなかつた。大人しく、寝てゐたのかも知れない、何が大人しいのか。
 当時的には未だ、もしくは当然。新しい記憶に胡坐をかいたか、殺された女が工藤翔子であるのを十全に抜かない不親切には激しい疑問も覚えつつ、大胆な飛躍で妻を殺した女と、姿を消した妻を殺すつもりの男を、本域豪雪地帯の絶対的な静寂の中に放り込む。凄いのが、一旦放り込んだが最後。厚い雲にも覆はれた、文字通りに一面の深い雪原を雪男と文子が後半ひたすらにうろうろするものの、最終的に何ッ処にも行かない、辿り着かない。目的地にせよ逃げ場にせよ、そもそも二人に行く当てなんてありやしない。袋小路の、ロードムービー。まるで出遅れたアメリカンニューシネマみたいに救ひがあるのかないのかよく判らない映画が、雪の中で乱反射するかの如く、何でか知らないがキラキラと輝いてさへ映る。ひとつの奇跡に、改めて心洗はれた。過去の罪も、未来の罰も。何もかも全て消え去つてしまつたかのやうな白い世界を、米粒くらゐの大きさの諏訪太朗と吉野晶が淡々と移動する全方位的にボーダレスな画が、正体不明のエモーションを叩き込む。個人的に度肝を抜かれたハイライトは、心身を著しく消耗し昏倒した雪男を、文子は排ガス自殺を装ひ始末しようとする。も、ガス欠で間抜けに果たせず。仕方なく文子がマフラーからホースを抜かうとしてゐると、何時の間にか背後に復活してゐた雪男が、「真由美殺したんだろ」。静かながら、凄まじき強度、諏訪太朗は斯くもカッコいいのかと吃驚した。ワンモアタイム、生きてたんだ!にも吃驚したけど。兎も角佐野なり諏訪を見てゐると、禿ても何とか戦へる―かも知れない―勇気が湧いて来る。
 
 他方、裸映画的にはオッパイも揉まない濡れ場なら撮るな、と憤慨したのは脊髄で折り返した早計。よくよく冷静になつてみるに、要は初めから狗頭を懸けてゐる人間を捕まへて、羊肉を売れといふのがそれはそれで通らぬ相談。マトン市場の、敷居を跨いでゐる根本的な疑問をさて措けばではあれ。如何ともし難くぎこちない、諏訪太朗はこんな絡みが下手だつたかなと首を傾げかけたのも、瀬々組の印象が強いとはいへ、たとへば外波文や佐野、いふまでもなく下元史朗らとは異なり、片手で余るほどしか諏訪太朗はピンクに出てゐなかつた。


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