真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「同棲性活 恥部とあなたと…」(2020/制作:オフィス吉行/提供:オーピー映画/脚本・監督:吉行由実/撮影:小山田勝治/編集:中野貴雄/録音:池田知久/整音:西山秀明/助監督:江尻大/撮影助手:赤羽一真/スチール:本田あきら/ポストプロダクション:スノビッシュ・プロダクツ/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:佐藤りこ・みひな・可児正光・八ッ橋さい子・愛葉るび・吉行由実・河井夕菜・松偉理湖・赤羽一真・森羅万象)。出演者中、赤羽一真は本篇クレジットのみ。
 夜景にタイトル開巻、早送りで夜が明ける。一転曇天の複合商業施設から可児正光と、愛葉るび・河井夕菜(河合から改名した?)・松偉理湖が出て来る。マコト(可児)が帰宅すると帰省から戻つて来た、同棲相手のエミリ(佐藤)が寝てゐた。両親の仮面夫婦ぶりに匙を投げるエミリに対し、マコトもマコトで夫の浮気に三下り半を叩きつけた実母がマコトの出産直後に出奔したゆゑ、三人の愛人―が久美子(愛葉)と郁恵(河井)に佐知子(松偉)―に育てられた過去を持ち、冒頭はその感謝の食事会だつた。そんなマコトの父親で、AV監督の泰三(森羅)が最早薬に頼らずには勃たない体を押し、拘束した夏美(八ッ橋)を責める。一方、足しにとマコトがAVを買つて来ての、エミリとのセックロス。騎乗位に狂ふあかね(みひな)を見た、エミリの表情が強張る。三年前、男に手酷くフラれたのを慰めてゐたところ、肉体的にも慰めて呉れるやう求められその後音信不通の親友・早苗(みひなの二役目)と、あかねは酷似してゐた。そら似とるはな、なんて潤ひを欠いたツッコミは兎も角。あかねと早苗があくまで別人である旨示すアイコンの、意図的に似合はない品を選んだのかとさへ映る、ダサいウェリントンは明確に頂けない。メガネをかけると可愛さが減衰する、だなどと人類史上最たる妄言は99.99999%正しくない、大抵は単にチョイスを間違へてゐるだけだ。
 出し抜けに火を噴く真理、ないし恒久の光芒を放つジャスティスはさて措き、配役残り吉行由実は、近しい仲の久美子からマコトの近況に関する報告も受ける、この人が生みの母・聡子。軽く首を傾げさせられるのが、本職は俳優部らしい赤羽一真の、出張中のマコトと会話を交す多分札幌ら辺の同僚と、聡子の再婚パーティー参列者の二役。背中しか見せないサッポロ氏(超仮名)なんて別にEJDで賄へるか、いつそ要らなかつた藪蛇感は地味に否み難い。もう一人、公園にてあかねがエミリとマコトにスマホを向けてゐると、二人に挟まれた空間、即ち画面ど真ん中・オブ・ど真ん中にプラーッと歩いて来るのは、純然たる間抜けなフレーム闖入者、そこは流石に撮り直せよといふ気もしなくはない。
 松偉理湖(ex.松井理子)と昭和アイドル歌謡のカバーユニットで活動してゐる縁と思しき、愛葉るびが伊豆映画前夜「新婚OL いたづらな桃尻」(2010/監督:小川欽也/脚本:岡桜文一/協力≒脚本監修:関根和美)以来で飛び込んで来る、ガチのマジで度肝を抜かれた電撃復帰を遂げた吉行由実2020年第二作。2021年は沈黙した一年半後の吉行由実最新作にも、引き続き継戦してゐる愛葉るびの印象を脊髄で折り返すと、首から上がそれなりに丸くなりはした程度で、まだまだ、まッだまだ全ッ然イケる、戦へる。
 まづ夏美とあかねが同居、そしてあかねは夏美と泰三の結婚に伴ひ、転居の要にやんはりと迫られる。一方、夏美が実はマコトの元カノで、泰三のギックリ腰に際し呼びつけたマコトと泰三が、泰三が疎遠の息子に話してゐなかつたゆゑあれこれ驚きの再会を果たす。さういふ奇縁であかねがマコトに相談、更に話を振られたエミリが何故か首を縦に振り、マコトら宅にあかねが転がり込み、早苗と同じ顔の女の登場にエミリは内心動揺する。とかいふ、複雑といへば複雑に構築しはした、バクチクする激越な劇中世間の狭さは御愛嬌。そこさへ通り過ぎられれば、後はどうにかなる。不思議なのがウィキペディアの今作の項に、“一部設定などにオマージュが含まれる”関連作品として吉行由実1998年第一作、兼通算第三作「発情娘 糸ひき生下着」(脚本:五代暁子/主演:林由美香)が挙げられてゐる謎。ヒロインが自身のセクシャリティに揺れこそすれ、何処が如何に絡んでゐるのだか当サイトの節穴には正直ピクリともピンと来らん。往時早苗から乞はれた同性愛に応じられなかつた、エミリの桎梏は裸映画の文法で何となく突破。エミリとあかねが咲かせる百合に、マコトもフランクに加はる。都合のいゝこと羨ましい、もとい極まりない三角関係が最終的に成立する、文字通りの以前に。聡子の再婚相手が、あれやこれやの世知辛さは見事に丸々等閑視して済ますまさかの久美子。夏美からはリスキーな薬物依存を戒められた泰三も、余勢を駆る形で偶さか回春。結構力技の大団円に雪崩れ込み明示的に謳はれるハッピー・エンディングは、線の細さと紙一重の繊細ではあつた「ベストフレンド」より寧ろ、LGBTの風呂敷をオッ広げながらも、徒なアクチュアルはなだらかに流した2017年第一作「股間の純真 ポロリとつながる」(主演:あゆな虹恋)との親和が、余程近しいやうに思へる。冷静に検討してみると霞より稀薄な物語ともいへ、他愛ない会話を撮るのに長ける演出力で繋ぎの件も厭かせず楽しませつつ、乳尻でヌく、もとい乳尻を抜く本義は忘れない上で、女優部を主に表情も丁寧に捉へる。質的に何気に一線を画した濡れ場を、拘泥した些末な主題に尺を割かれるでなく、量的にもふんだんに畳み込む。面白い詰まらないでいふと取り留めのないにせよ、穏やか且つ力強く見させる良質の量産型娯楽映画。頑強な思想を今なほ貫く浜野佐知は終に辿り着き得ない―そもそも望んでゐない―であらう、女流御大の領域に吉行由実がいよいよ到達した気配をも窺はせる一作。惜しむらくは、さういふ吉行由実に年間四五本は当たり前の、リアル量産体制を採らせ得ない世情。口先ばかりのお前等が、金を落とさないからだろと居直られてしまへば、返すトリプルクロスもないんだけど。

 と、ころで。どストレートな“同棲性活”はまだしも、語感の所以なり文言の意味なり、下の句が何が何だかサッパリ判らない闇雲な公開題に、そこはかとなく漂ふエクセススメル。


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