真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「喪服妻 湿恥の香り」(2000/製作:多呂プロ/配給:大蔵映画/監督:荒木太郎/作・出演:快樂亭ブラック/撮影:飯岡聖英・堂前徹之・清水慎司/編集:酒井正次/助監督:田中康文/制作:小林徹哉/音樂:篠原さゆり/ポスター:木下篤弘/応援:松岡誠/めくり:春風亭昇輔/   タイトル:堀内満里子/名ビラ:春風亭昇輔/応援:松岡誠/協力:染屋冬香・吉行由実・大町孝三・快樂亭ブラ汁/録音:シネキャビン/現像:東映化学/タイミング:安斎公一/出演:時任歩・伊藤清美・前野さちこ・⦅特別出演⦆ターザン山本・岡田智宏/   出演:伊藤清美・前野さちこ⦅新人⦆・時任歩・⦅特別出演⦆ターザン山本・岡田智宏/エキストラの人々:今泉浩一・太田始・内藤忠司・小林徹哉・下ガイトジュン・田中康文・松岡誠)。複雑怪奇な表記は、アバンとエンドで情報量ないし肩書はおろか、ビリングからクレジットが異なつてゐる由。便宜上もしくは視覚的効果を狙ひ、三拍空けたスペース以降がエンド版。エンドでしかクレジットされないエキストラは、時任歩と落武者の間に入る。
 六年後、真打昇進にあたり瀧川鯉朝に改名する春風亭昇輔が、名ビラの形でクレジットを一枚一枚捲つて行くだけのアバンを経てタイトル・イン、ヒムセルフの快樂亭ブラックが高座に上る。葬式を終へたのち、「吉原に 回らぬ者は 施主ばかり」。喪服女の色気なる、無粋な当サイトがいまひとつもふたつも理解してゐない―兎に角固定されるのが苦手なのね―大定番嗜好を投げた上で、「実は私行つて来たんですよ、イメクラの未亡人喪服プレイに」。正しくモップみたいな頭の嬢・夢美(前野)と快樂亭が一戦交へるのは、風俗ライターの与田明(岡田)が記事を書く取材の一環。快樂亭と、後述するターザン山本。この二人が顔も体も汚い反面、前野さちこの柔らかみも感じさせる所謂ロケット乳はエモーショナル、つくづくぞんざいな髪型が惜しい。咥へて、もとい加へて。清々しく棒のターザン共々、口跡も商業映画に出演させるには、凡そ相応しからぬレベルで心許ない。
 配役残り、エキストラ隊は寄席の客と、中盤途轍もなく木に竹を接ぐ、往来ミュージカル要員。未亡人喪服プレイの火蓋を切る、遺影の男は手も足も出せず不明。そして時任歩が、この人も出版業界といふ設定に意味は別にない、与田の婚約者・麻里。先に浴衣で飛び込んで来る、伊藤清美が稲田の妻・泰子で、改めて振り返つておくと1996年の六月にベースボール・マガジン社を退社しただか事実上放逐された、ターザン山本は与田が仲人を乞ふ作家の稲田和弘。ちなみかついでに、劇中稲田と泰子の結婚も四年前。与田と麻里が二人ともバツイチ、麻里にはゐる息子・ショータ君役の男児も知らん。あと、カットの隙間を突くとシドニー帰りの与田を愕然とさせる、見出しと写真だけ差し替へた、稲田の死亡記事が実際には峰隆一郎の訃報。泰子の述懐によると稲田の享年は―ターザンの当時実年齢と同じ―五十五ゆゑ、峰隆一郎が六十八で亡くなつた文面と実は食ひ違つてゐる。
 荒木太郎2000年第四作は、種々雑多な名義で十数本のピンクに出演してゐる二代目快楽亭ブラックが脚本も担当した、快樂亭ブラック名義による最終作。かと、思ひきや。よくよく調べてみるに、狭義のピンクは確かに打ち止めながら、2005年に矢張り多呂プロの薔薇族「優しい愛につゝまれて」(脚本:三上紗恵子/主演:武田勝義)がもう一本あつた。量産型娯楽映画の藪は、マリアナ海溝より深い。
 快樂亭ブラックが快樂亭ブラックのまゝ高座から狂言回しを務め、何処から連れて来たのかあのターザン山本が、しかも伊藤清美相手に結構普通の絡みを敢行する、一大変化球もしくは問題もとい話題作。流石に荒木太郎も色物を自覚したか、序盤にして驚愕の十分撃ち抜く、分量のみならずテンションも完全に締めの与田と麻里の婚前交渉始め、腰を据ゑた長尺の濡れ場を三本柱各々放り込む、女の裸的には案外安定する。噺家相手に黙れといふのも何だが、快樂亭が至らぬ水を差しさへしなければ。さうは、いふてもだな。最終的に、与田の隣に誰がゐるのか最後まで判らない、見終つても釈然としない物語本体は大概へべれけ。中途半端な抒情をかなぐり捨て、泰子が仏前で与田によろめく急旋回の急展開には度肝を抜かれ、目撃した与田と、与田が部屋に呼んだ夢美との情事を体験取材で無理から不問に付す、麻里のバーホーベンならぬばか方便には呆れ返つた。そもそも、大して膨らみも深まりもしない物語をひとまづ起動させる、麻里のマリッジブルーから徹頭徹尾手前勝手か自堕落な他愛ない戯言で腹も立たない。散発的に闇雲な情感を―独力で―叩き込む伊藤清美と、前野さちこのオッパイが、映画と裸それぞれか精々のハイライト。事後そゝくさベッドを離れ服を着る麻里を追ふ、カメラは無駄か下手に動いた結果ピントを失し、終盤出し抜けに火を噴く、藪蛇な烏フィーチャは烏で何をしたいのか烏の何がそんなに好きなのか、1mmたりとて理解出来ない盛大な謎。要はそこそこ健闘してゐる筈の裸映画の足を、木端微塵の劇映画が引くやうな始末か不始末ともいへ、端からオチの顕(あらは)な小噺でなほ、一篇をひとまづ綺麗に括つてみせるのは快樂亭にとつて本業の、そこは流石に伊達ではない底力。

 春風亭昇輔が師匠の死に伴ひ移籍した結果、空白期間を挿みつつも長く荒木太郎映画で準レギュラーを務めた、ex.瀧川鯉之助(ピンクでは滝川鯉之助名義)の春風亭傳枝と同門とかいふ、意外か偶さかな世間の狭さに興を覚える。


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 「濡れた唇 しなやかに熱く」(昭和55/製作:幻児プロダクション/配給:ミリオンフィルム/監督:中村幻児/脚本:水越啓二/撮影:久我剛/出演:小川恵・楠正道・立川ぽるの・国分二郎・笹木ルミ・武藤樹一郎・豪田路世留・竜谷誠・市村譲、ほか)。衝撃的なのが何時まで経つても入つて来ない、タイトルはもう最後に入れるのかなあ、と大人しく見進めてゐたところ。結局タイトル・インはおろか、クレジットさへスッ飛ばす配信動画の豪快仕様。破壊ないし、破戒スペックともいふ。頭を抱へがてら軽く調べてみると、どうやら円盤も配信と尺は変らない模様、さうなるとフィジカルでも入つてゐない予感、それとも悪寒。とまれそのため、スタッフ僅かに久我剛まではjmdbに頼り、俳優部に関してはまづ主役の二人を頭に置いた上で、以降は判別出来ただけ、仕方ないので登場順に並べてみた。
 「俺と一緒にゐて、幸せか?」、「あたしが邪魔ぢやない?」。「邪魔になつたら何時でも」、「俺が嫌になつたら何時でも」。安アパートの狭い寝床、小川恵と楠正道が煮詰まり倒した会話を拗らせる。一転晴れやかに、「ギネスに挑戦!キッスマラソン大会」、司会者の立川ぽるのが朗らかに大登場。既に唇を離した一組が見守る中、OLの小森レイコ(小川)と脚本家志望の平野ミチヲ(楠)以下、五組のカップルが微動だにせず長時間キスを続ける。こゝで立川ぽるのといふのは、御存知二代目快楽亭ブラックの正式な改名にカウントされてゐない、順番的には六番目の立川カメレオンと、7th・レーガンの隙間に入る変名。あくまで、仮に今回が最初の使用であつた場合。ついでといつては何だが、この御仁の当サイトが確認し得る最初の量産型裸映画出演は、稲生実(=深町章)昭和53年第七作「痴漢各駅停車 おつさん何するんや」(脚本:福永二郎/主演:久保新二・野上正義)の、一ヶ月前に公開された山本晋也同年第五作、買取系ロマポの「ポルノ チャンチャカチャン」(主演:原悦子)、この時は4thの桂サンQ。恐らく最後は、快楽亭ブラック名義で2000年辺りの多呂プロ作。
 微に入り細を穿つも決して神など宿しはしない、閑話休題。「三月の初め頃だつたかなあ、あいつと初めて会つたのは」、ミチヲがレイコとの来し方を振り返る。半年足らず前、シナリオ公募の締切間近で郵便局に急ぐミチヲと、レイコが曲り角の出合頭で衝突。弾みでミチヲの手から飛び、バケツの水に浸かつた原稿用紙を茶店で一緒に書き直したのが、二人の出会ひだつた。この辺り中村幻児の、アクロバットなミーツに傾けた謎の熱量を感じる。
 配役残り、堅気のホワイトカラー役が清々しく似合はない国分二郎は、レイコの上司、兼ギリ社内恋愛相手のニシオ。尤も結婚の決まつたニシオが、手切れ金代りにネックレスを渡さうとする類の関係ではある。笹木ルミはミチヲが助監督として参加―居眠りしてゐて馘になる―する、ピンク映画撮影現場の女優部、ミチヲとは男と女の仲。おでんの屋台でミチヲと約二年ぶりに再会する武藤樹一郎が、当時同人誌を出してゐた仲間の谷村。そして竜谷誠が谷村の脚本が採用されるドラマ番組「木曜劇場」のプロデューサーで、竜谷誠に抱かれる豪田路世留は、谷村の恋人でミチヲもその存在を知るミユキ。即ち、その手のありがちな浪花節。最後に市村譲も市村譲でレイコが身を任せる、東洋テレビのP。但し、ホテルの表に谷村が迎へに来るミユキとは異なり、レイコは正真正銘の独断で動く。再びこゝで、市村譲の来歴を大どころか超雑把に振り返ると。昭和40年代前半に俳優部でキャリアをスタートさせた市村譲は、今作封切りの二日後に「女高生 いたづら」で監督デビュー。早速五本発表しつつ、この年は俳優部も並行する。翌年から演出部に専念、1995年まで百を優に超える本数粗製濫造してのけた、といつた次第。話を戻すとキスマラのその他参加者五組十名を始め、レイコの勤務先と、ピンクの現場。劇中ミチヲとレイコの二人がチョイチョイ使ふ飲食店に、総勢で三十人前後の結構な頭数投入される。その中でも比較的大きな役は、高田宝重みたいな風貌でオカマ造形の監督と、恰幅がよく座つてゐると大きく見えるけれど、立つてみれば案外背の低い同人仲間もう一人。
 『PG』誌が主催してゐたピンク大賞(1989~2019/1994年までは『NEW ZOOM-UP』誌)の前身、ズームアップ映画祭(昭和55~昭和63)の第二回で、ズームアップ映画賞といへばいゝのか映画祭作品賞が正解なのか。正確な用語が判らないが、要はピンク映画ベストテンの一位なりピンク大賞に相当する栄誉に輝いた、中村幻児昭和55年第二作。個人部門に於いても中村幻児が監督賞、豪田路世留と国分二郎は助演女優賞男優賞を貰つてゐる。
 往時大いに評価された、にしては。放送されたドラマを見てみれば、平野が実際に書いた脚本から大幅に手が加へられてゐた。それを―転がり込んだレイコの部屋で見た―ミチヲがまんまと称賛する間の抜けた粗忽も兎も角、正体不明の絶望に陥つた平野とミユキが、脊髄で踵を返す速さでガス自殺する無体な最期を知つてなほ。レイコがみすみすミユキ―と平野―の轍を踏む、一本調子か手数を欠いたドラマツルギーが兎に角顕著なアキレス腱。最後の区切りか記念感覚でキスマラに参加したレイコとミチヲが、世界新記録を達成したのち、「さよなら」、「うん、さよなら」。思ひのほかアッサリと別れの挨拶を交す、抑制されたラストはスマートな輝きを確かに放つともいへ、決定的な印象は必ずしも受けなかつた。女の裸的にも、不用意な距離から頑なに寄らうとしない―傾向の目立つ―濡れ場には、カッコつけるなよといふ底の浅いレイジを禁じ難い。
 全体的な物語の完成度はさて措き、当サイトの惰弱な琴線を激弾きしたのは、尺のちやうど折返し間際。レイコが帰宅すると、初春のコンクールに結局落ちたミチヲが、ドラスティックに狭隘な廊下で座り込んでゐた。「俺もうダメだよ」的に、どうしやうもなく燻る面倒臭くしかないミチヲに対し、レイコは「あたし何にもしてあげられないけど」、「慰めてあげようか」。ゐないよ!そんな優しい女、現実で起こり得ないよ!そんな都合のいゝシークエンス。それがどうした、半世紀も生きてゐれば、ピンクスでもそのくらゐの実も蓋もない経験則には否応なく達する。世界は素晴らしくなんてないし、人生は美しくなどない。なればこそ、映画が必要なんだらう。せめて薄汚れた小屋のションベン臭い暗がりの中にくらゐ、やさぐれた魂を穏やかに浸す、さゝやかな慰撫を求めて何が悪い。狂ほしく火を噴く、壮絶に麗しいフィクションの大嘘が一撃必殺、千古不磨のエモーション。たとへどれだけそれが、怠惰で情けないものであつたとて。


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 「痴漢バス いぢめて濡らす」(2000/製作:多呂プロ/配給:大蔵映画/監督・出演:荒木太郎/脚本:内藤忠司/撮影:清水正二・岡宮裕/編集:酒井正次/助監督:田中康文・下垣外純/制作:小林徹哉/スチール:木下篤弘/振り付け:しのざきさとみ/協力:ゆき なり/現像:東映化学/録音:シネキャビン/出演:時任歩・西藤尚・岸加奈子・杉本まこと・太田始・関口香西・星野花太郎・小林徹哉・大町孝三・内藤忠司・野上正義・港雄一)。
 富士急行線の下吉田駅前(山梨県富士吉田市)、温泉旅館の送迎バス運転手・アベ四郎(荒木)とヒデコ(西藤)の兄妹が、改札から出て来た五人連れ(恐らくスタッフ)を捕まへ損ねる。今日も今日とて送り迎へする人間の乗らぬ車を、情婦のミヤコ(岸)を連れた、地主・ダイスケ(港)が路線バス感覚で止める。四郎が大人しく二人を拾ふのは、旅館がダイスケから金を借りてゐる由。乗車するやダイスケは最後尾でオッ始め、痴漢バスが蛇行してタイトル・イン。前作に引き続きタイミングが結構唐突なのは、もしかして荒木太郎はタイトル入れるの苦手?
 四郎とヒデコが湖畔のヤサに戻ると、時任歩が桟橋でてれんてれん躍動的にでなく踊つてゐて、ガミさんが焚火に当つてゐた。二人はストリップダンサーのカルメンルーナ(時任)と、マネージャーの木戸(野上)。アベ家を民宿と勘違ひ、普通の旅館には泊まる金のない二人を、ヒデコ主導でどうぞどうぞと招き入れる。かつて営業してゐた小屋が現存するものの、興行の許可がどうしても下りず木戸は窮してゐた。と、ころで。紹介する木戸が最初から、自身もルーナと称してゐるにも関らず、ルナさんルナさん兄妹が頑なにルナで通すのは、そんなに人を困惑させるのが楽しいか。
 バスの屋根の上にて、ルーナが四郎に語るストリップに身を投じた掴み処のない顛末。元々劇団員であつたルーナは、役者稼業に漠然とした不満を覚え、偶さか草鞋を脱いだストリップに何となく生の実感を見出す、見出したらしい。てんで要領を得ないのは、兎にも角にもルーナの自分語りが漫然としかしてゐない以上、最早どうしやうもないのはさて措き配役残り。杉本まことはルーナが金の無心で東京に戻る、劇団の演出家。設定的には高級マンション辺りと思しき、四郎がバスを飛ばしルーナを迎へに行くエントランス外観を、何時もの東映化学玄関口で事済ますのは微笑ましくない御愛嬌。結構影に沈みつつ、多分ゐる太田始以下、内藤忠司までは後述する興行バスのオーディエンス要員。
 今や遠く遥か彼方に霞むリアルタイム、m@stervision大哥が矢鱈滅多に絶賛しておいでの荒木太郎2000年第二作。
 日々空のバスを転がす兄妹が矢張り八方塞がり気味の、流れ者のストリッパーと出会ふ。くどいやうだが当サイトは未だかつて一度たりとて認めてはゐないが、往時の荒木太郎を旬と看做してゐた世評ないし風潮にでもお感触れになつたのか、一刀両断に片づけると、果たしてm@ster大哥は今作を改めて再見した上で依然同様に激賞なさるのかと、畏れ多い疑問も禁じ得ないくらゐドラスティックに面白くない。ある意味荒木太郎にとつては平常運行ともいへる、煌びやかなほど酷い。ダイスケとの腐れ縁から一応助け出されはしたミヤコが、木田に何時の間にか本格的になびいてゐるのはまだしも。ルーナも兎も角四郎が微動だに何もしてをらず、当然特にイベントの発生してゐない二人が、木に竹を接いでいゝ仲になつてゐたりするへべれけさが割と画期的。一時帰京前、出し抜けにルーナが「待つてて呉れる?」とかいひだした日には、君等待つもクソもないだろ!と引つ繰り返つた。挙句の、果てに。棚からボタボタ降り注ぐミヤコの金で、あれこれ拗れた始終が目出度し目出度しに収束する、自堕落な御都合展開が作劇上のアキレス腱。尤もさうもいへ、全然それ以前の話なんだな、これが。
 三年後、第十五回ピンク大賞でベストテン一位を始め、何故か七冠に輝いた「美女濡れ酒場」(2002/脚本・監督:樫原辰郎)に於ける山咲小春(ex.山崎瞳)の歌と同じく、時任歩に踊りのセンスがカッラッカラのからきしないのが、作品世界の醸成を根本的に阻む最大の致命傷。そらさうだろ、踊れない踊り娘が、主人公の類の物語でもないんだもの。手足を鈍重にどたんばたんするばかり、基本バンザイしてゐるだけの駄メソッドが、単なる時任歩個人の資質的限界かと思ひきや、よもやまさか振付師までゐようとは。クレジットを見てゐて卒倒するかと慌てふためく体験、プライスレス。大団円を飾つたつもりの、見つからない小屋の代りに乗る客もどうせゐやしない、四郎の車を用立てる痴漢ならぬストリップバス。マイクロバスの狭い車内で、時任歩がなほ踊れないのはナッシングエルスな悪い冗談。狙つたであらうスペクタクルが、ものの見事に成立してゐない。無謀にもほどがある、インパール作戦か。ついででショバの問題と、興業の可否は大して関係ないやうな気もしなくはない。野暮を捏ねるが、中でストリップを上演してゐるバスを、公道で走らせる方が寧ろハードルが高くはあるまいか。主演女優と二番手が二人がかりでも、三番手に納まる岸加奈子に手も足も出ない。転倒通り越してビリングを爆散する、歴然とした格の違ひは否み難く、形の上では締めの濡れ場を成す、バスで道志村に戻りながらの対面座位。四郎が前を見てゐないどころか、ハンドルすら握つてゐないのはジオン驚異のメカニズムも真ッ青の完全自動運転。観客なり視聴者を馬鹿にするのも、大概にして頂きたい。ツッコみ出したら止まらないぜ、真夜中のピンクスさ。杉本まことの捌け際、「オーレィッ!」は清々しく蛇に描いた足、逆の意味で完璧かよ。
 くたばれ減点法、こゝからが、よかつた探しに全ては流石に賭けない、ポリアニストの本領発揮。覚束ない演出部と、心許ない女優部頭二人に対し、敢然と気を吐くのが撮影部。フォトジェニックな富士山のロングを、全篇通して隙あらば乱打。映画に女と銃なんて別に必要ない、富士の画があれば成立する、とさへ錯覚しかねない一撃必殺を随所で撃ち抜く。雄大にして静謐な霊山の威容が、薄雲一枚映画を救ふ。


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 「あつぱれヒールズ びつくびく除霊棒」(2022/制作:Grand Master Company/提供:オーピー映画/監督・脚本・編集:塩出太志/撮影:岩川雪依/照明・Bカメ:塩出太志/録音:横田彰文/助監督:田村専一・宮原周平/小道具:佐藤美百季/特殊メイク:懸樋杏奈/特殊メイク助手:田原美由紀/魔女衣装制作:コヤマシノブ/整音:臼井勝/音楽:宮原周平/タイトルデザイン:酒井崇/仕上げ:東映ラボ・テック/協力:露木栄司・木島康博・高嶋義明・青木康至・Seisho Cinema Club・愛しあってる会《仮》/出演:きみと歩実・西山真来・手塚けだま・並木塔子・七々原瑚子・橘さり・星野ゆうき・渡辺好博・今谷フトシ・竹内ゆきの・松本高士・窪田翔・漆崎敬介・細川佳央・加藤絵莉・折笠慎也・新井秀幸・田丸大輔・矢島康美・馬場泰光・鳥居みゆき)。出演者中細川佳央と、新井秀幸から馬場泰光までは本篇クレジットのみ。
 第一作「ぞつこんヒールズ ぬらりと解決!」(2021)、第二作「まん開ヒールズ 女の魔剣と熟女のアソコ」(同)を振り返るハイライトを、enough且つten minutesの十分見せた上で、占へない占師の松ノ木あゆみ(きみと)と眠らせられない催眠術師の東山マキ(西山)に、霊の見えない霊媒師・手塚茂子(手塚)。三矢の訓よろしく、ダメ人間が三人集まつたパラノーマル系便利屋ユニット、「ヒールズ」の日常的な暴飲暴食会。あゆみの両親が事故死してゐる布石を、サラッと投げタイトル・イン。アバンには今回一切出て来ない―クレジットもなされない―俳優部も、臆することなくワシワシ登場する。折角なので名前だけ拾つておくと、香取剛と西田カリナに松岡美空、津田菜都美、成宮いろはと小滝正大。凝縮した情報戦に、女の乳尻に割く余裕は残されなかつたか。
 明けて飛び込んで来るのは、詰まるところ疲れもとい憑かれ易い体質のトシヒロ(折笠)と、この時点では本当に全く正真正銘何処の何方!?な木村(七々原)の、トシヒロがアグレッシブに責める絡み。ところでこの二人、どうやら今作がラストアクトみたい。は兎も角事の最中、トシヒロは三人にトンデモ道具を提供するマッさん(今谷)と、元々マキの元カレであつたのが、今はプラズマ体宇宙人・シースー(橘)の器に甘んじてゐる鈴木(星野)も交へたヒールズを、リポーターの谷口美希(加藤)が紹介するテレビ番組に目を留める。仕事の舞ひ込んだ茂子が、何時もの調子でマキに助太刀を仰ぐ一方、放送を見て生き別れの両親を名乗り出た、田丸大輔と矢島康美の訪問を受けあゆみはそれどころでないキャンセル。仕方なくマキ一人連れて行く茂子に、助けを求める山田ゆうこ(並木)は意識のない裡に見ず知らずの男と、所謂ワンナイトラブを営んでしまふ怪現象に悩まされてゐた。SNSも畳み、完全にフェードアウトしたかに映つた並木塔子に関しては、伝聞形式ながら、塩出太志の口から戦線復帰が報告された往く人来る人、一旦往つて、帰つて来る人。なほ、帰つて来させて貰へない、荒木太郎、と池島ゆたか。
 閑話、休題。配役残り、妖艶なお胸の谷間をエモーショナルに刻み込む竹内ゆきのは、TV収録先の倉庫的なロケーションに顔を出す死神。地味か確実に迫つた危機を、それとなく忠告して呉れる。漆崎敬介はシースーこと、本名ピロロを訪ねる同族の宇宙人。ピロロは失念してゐる、地球に来訪した目的は人類滅亡。並木塔子の相手を一応務める細川佳央は、後述する窪田翔に憑かれるゆうくん。姿を消した、美希の彼氏でもある。一応とか言葉を濁したのはその一戦、二人とも憑かれてゐるギミックを優先、色気を放棄した代物。そしてトメを飾る鳥居みゆきが、ゆうこに憑いてゐた魔女。実体を持たぬゆゑ、鳥居みゆきの容姿は二十二年前に憑いてゐた、事故死した女のものである方便。に、しては。渡辺好博は今や茂子に結構自由自在に召喚され、シースーに続く事実上ヒールズ第五のメンバーたる武士の霊・ヨシ。成仏した結果、土手腹にブッ刺さつた妖刀「黄泉息丸」は失ひ丸腰で現れる。こゝまでが、前半部。あゆみ・マキ・茂子の三人と、マキから感染(うつ)された鈴木が急激に老いる後半。マッさん所蔵の謎―あるいはエクス・マキナな―書典に従ひ、元に戻るため四人ヒールズは吸血鬼の血を探す。松本高士が、特殊生命エネルギーも検知するやう改良された、幽霊測定器「ユーレイダー」でサクッと見つかる吸血鬼。何だかんだ吸血鬼も斥けたのち、木に締めの濡れ場を接ぐ新井秀幸は、あゆみと知らん間にデキてゐた元クライアントの上野。窪田翔が、前述したゆうくんに憑く悪魔。色塗りに頼る宇宙人と悪魔の造形は、正直ほとんどリデコ感覚。万事解決後のエピローグ、てつきり一幕・アンド・アウェイかに思はせた、七々原瑚子が見事に意表を突く再登板。馬場泰光は木村の依頼を受けたヒールズが捕捉する、近隣の冷蔵庫を荒らして回る食ひしん坊な霊。クレジットに於いては、“食べ過ぎた男”とされる。
 第五作がフェス先で公開された、塩出太志第四作。その最新作が全く別のお話である点を見るに、三本目でひとまづヒールズ完結篇となる模様。
 トシヒロがまた憑かれ鈴木は憑かれぱなし、美希も以前に憑かれてゐて。ゆうこも憑かれゆうくんに至つては、要はカップルで憑かれ。思ひだしたぞ、上野も親子で憑かれてゐた。実に憑依現象のカジュアルな世界観だな!とこの期に及んでプリミティブにツッコむのは、所謂いはぬが花と等閑視するとして。正しく矢継ぎ早に現れる敵々を、バッタバタといふかバタバタやつゝけて行く。如何にも今時の血統主義含めバトル漫画的な物語が、終始キレを維持する小ネタにも支へられ、有無をいふのを封じる高速展開の力業で加速。かなりか大概 一本調子ではあれ、勢ひに任せ一息に見させる。いふほど持て囃すに足る傑作名作の類では決してないにせよ、三作中一番面白いのは面白い、とりあへず。
 尤も、実体を持たない存在の―それこそフィジカルの―血とは何ぞや、とかいふ割と根本的な疑問はさて措くにせよ、女の裸は正直お留守。激しくお留守、甚だしくお留守。ある意味綺麗に二兎を追ひ損ね、小気味よく弾ける劇映画が最後まで走り抜く反面、裸映画的には全く以て物足りない。より直截にいふと、逆に一番物足りない。第一作で豪快に火を噴いた、きみと歩実が寸暇を惜しみそこかしこで兎に角脱ぎ散らかす、無理からな眼福はアバン同様、といふかアバンに圧迫される尺的な限界に屈したか二作続いて封印。限りなく一般―映画―畑の二番手には端から多くを望めず、三番手の機能不全は既に触れた。寧ろ七々原瑚子が四番手の位置から最も気を吐く、ビリング下位がピンクのアイデンティティを担保する構図は変らず、挙句頭数手数とも減つてゐる。愉快痛快にまあまあかそれなりには楽しませつつ、「あれ?俺は何処の小屋に何を観に来たのかな」と一歩でも立ち止まると、大いなる疑問も禁じ難い一作。R15版タイトルでフォーエバーを謳つてゐる以上難しさうな気もするが、西山真来の名台詞をアレンジした、「ヒールズ再起動やで!」が聞ける日は果たして来るのや否や。

 もう一箇所、大きめのツッコミ処?「強くなつたな、あゆみ」には、「アンドロメダ終着駅かよ!」と素直に釣られるべきなのか、それとも。単なる偶然の一致に脊髄で折り返した、オッサンの早とちりに過ぎんのかいな。
 備忘録< あゆみは魔女と吸血鬼の間に生まれた娘


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 「黒下着の淫らな誘ひ」(2000/製作:多呂プロ/配給:大蔵映画/出演・監督:荒木太郎/脚本:内藤忠司/企画:島田英男⦅大蔵映画⦆/撮影:郷田有/編集:酒井正次/助監督:田中康文/撮影助手:西村友宏/制作:小林徹哉/ポスター:平塚音四郎⦅スタジオOTO⦆/ピアノ:篠原さゆり/録音:シネキャビン/現像:東映化学/協力:TJPスタジオ・大町孝三・下垣外純/出演:時任歩・風間今日子・篠原さゆり・快楽亭ブラック・太田始・内藤忠司・小林徹哉・広瀬寛巳・村山裕・近藤摩郎・櫻井晃一・関口香西・奈良勉・星野花太郎・大旗憲・杉本まこと)。
 湖の8mm、女が御々足を黒いガータに通す。カット跨ぎで知らん間に履いてゐたヒールを男の手が恭しく脱がし、正常位で突かれる状態にも似た、足をプラップラ振る画から割と唐突にタイトル・イン。掴み処のない叙情性を、当サイトが理解する日は多分来なささう。
 セクシャルハラスメントを報じる新聞記事を繋いで、就職活動中の女子大生・香山美紀(時任)の履歴書。恋人との性交渉は週何回、初潮は何時、好きな下着の色は。太田始以下、小林徹哉を除く大旗憲までが性的全開の質問を臆面もなくか無防備に振り回す、破廉恥面接の数々を美紀は被弾する。オフィスで美紀が無数のセクハラゾンビに群がられるのは、清々しいほどの所謂イヤボーンもとい、イヤーガバッで片づける美紀の悪夢。荒木太郎がその時傍らで寝てゐた、ナイトメアの原因を、美希のセックス拒否に求めるクソ彼氏・徹也。ゼミ教授・森山(名前のみ)の紹介で、美紀は徹也も軽く驚く最大手である慶出版の面接に漕ぎつける。人事部次長・山形勇(杉本)から非正規入社を餌に、美紀がまんまと釣られる当日の夕食の誘ひ。再度慶出版を訪ねた美紀は、定時で全員捌ける管理部門階にて、獣性を露にした山形に犯される。趣味は社交ダンスといふ山形が、軽快なステップを踏みながら踊るやうに美紀を追ふシークエンスは、荒木太郎の奇矯な作家性が商業映画と偶さか親和した、今作ほとんど唯一のハイライト。所詮、杉本まことの独壇場ないし一人勝ち。さういふ気も、否めなくはないにせよ。
 配役残り、風間今日子と小林徹哉は、結局バッドマガジンズを作る零細出版社に就職した、美紀が取材するサファイア女王様とその奴隷、ではなく編集長のヤベ。張形に―無修正で―熱ロウを落とす、苛烈通り越して激越な責め。小林徹哉はもう少し、でなく大暴れして苦痛にのたうち回るべきではあるまいか。ウルトラ熱いだろ、それ。普段通り着物で出て来る快楽亭ブラックは、サファイアが山形の身辺調査を乞ふ、変り者の探偵。調査結果の報告も、一席ぶつ形で行ふ。そして篠原さゆりが、のちに山形がダンス教室で出会ひ、結婚した社長令嬢のアサコ。
 カザキョン女王様にコッ酷く苛められたプレイ後、翌日子供の運動会である旨自嘲する小林徹哉の台詞が、記憶の片隅に残つてゐた荒木太郎2000年第一作。気づくと再来年で閉館二十年、今はどころかとうの昔に亡き福岡オークラで観たのだらうが全体、何処の枝葉で一本の映画を思ひだすものやら。
 前半のセクハラ凌辱篇、を経ての中盤。風間今日子なる既に旦々舎で十二分にブラッシュアップされた、ピンク史上最強級の援軍を得た上で、雪崩れ込む後半のリベンジ篇。温存し抜いた三番手を、クライマックスの供に用する一見強靭な構成まで含め、起承転結を釣瓶撃つ濡れ場で紡ぐ、腰の据わつた裸映画に思へかねない、ものの。世にいふ荒木調ならぬ、荒木臭。事の最中山形と美紀が交す、黒に関するただでさへ形而上学半歩手前の漠然ともしてゐない遣り取りを、子供の筆致じみた手書スーパーで事済ます木に竹しか接がないサイレント演出。いざ女の裸に徹したら徹したで、弛緩し始めるきらひは否めない、よくいへばセンシティビティと引き換へた、荒木太郎の最終的な資質の弱さ。美紀がピアノを叩き始める―実際に弾いてゐるのは篠原さゆり―や、操り人形の如く山形が踊り始めるシークエンスは確かに一旦輝きかけつつ、その後は漫然とフレームの片隅で右往左往よろめくに終始する、矢張り詰めの甘さ。そして、アバンを拾ひこそすれ、掉尾は飾り損ねる含意の不明瞭な8mm。諸々の足枷に歩を妨げられる、要は自縄自縛の結果。観客なり視聴者の精巣を轟然と、空にしてのけるエクストリームな煽情性には果てしなく遠い。そして、もしくはそれ以前に。最大の疑問は、サファイアに感化された美紀が、他愛ないミサンドリーを振り回すのは展開の進行上必要といへば必要な、取つてつけた方便にせよ。山形とのミーツが美紀の一件と全く以て無関係であるアサコを、単に山形を完全に破滅させるためだけの目的で、箍の外れた暴虐に完膚なきまで曝す。徹頭徹尾無実で一切非のないアサコに対し、美紀―とサファイア―が欠片たりとて悪びれぬまゝ、ぞんざいな攻撃性を叩きつける無自覚な図式は懲悪のカタルシスと、見事復讐を果たしたエモーション、何れの獲得にも如何せん難い、途方もなく難い。己の品性下劣の極みを憚りもせずいふと、一人の女が、大勢の男共に嬲られ尽す。さういふ腐りきつたシチュエーションが大好物とはいへ、流石にノリきれない残念な一作であつた。


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 「スキャンティドール 脱ぎたての香り」(昭和59/製作:(株)にっかつ+ニュー・センチュリー・プロデューサーズ/配給:株式会社にっかつ/監督:水谷俊之/脚本:周防正行/プロデューサー:海野義幸/撮影:長田勇市/照明:長田達也/美術:細石照美・種田陽平/編集:鈴木歓/音楽:坂口博樹/助監督:周防正行・井上潔・冨樫森/撮影助手:滝彰志/照明助手:豊見山明長/メイク:小沼みどり/スチール:目黒祐司/製作進行:西村裕之/効果:小針誠一/録音:矢込弘明・ニューメグロスタジオ/現像:東洋現像所/車輛:富士映画/挿入歌:『いとしのスキャンティドール』作詞:周防正行 訳詩・歌:Sylvie Maritan 作曲:坂口博樹/協力:企画情報センター・女装の館『エリザベス』・ROCK HOUSE めんたんぴん'S『リンディスファン』/出演:小田かおる・麻生うさぎ・聖ミカ・MOMOKO・大杉漣・佐藤恒治・大谷一夫・瀬川哲也・上田耕一)。出演者中、聖ミカがポスターには聖みかで、瀬川哲也は本篇クレジットのみ。配給に関しては、事実上“提供:Xces Film”。
 ヒャラリーと軽快な劇伴起動、短パンでランニングする男の足下に、こちらも首から上を一旦フレームの外に逃がした、下着でトランポリンする小田かおるを挿み込む、伸びやかな肢体がヤベえ。何がプリントされてゐるのか最後まで判然としない、おヒップの止め画にタイトル・イン。地に足の着かなさ具合が、割と象徴的なアバンではある。
 江戸時代から続く周吉(大杉)で十代目の「間宮下着店」と、周吉の娘・亜矢(小田)が彼氏の治(佐藤)と開業した、ランジェリー喫茶「スキャンティドール」。ノーパンならぬ、ランジェリ喫茶とは何ぞや、といふと。ウェイトレスが下着で給仕する―だけの―露出過多ではあれあくまで普通の茶店。特に語られない、料金設定のほどは不明。亜矢的には、実家の下着店込みでランジェリーの新しい在り方を摸索する、漠然とした方便が一応なくもない。たゞそのためには、客に女が来て呉れないと始まらない気も。兎も角、謎の個室で大谷一夫と本番行為に及んだソフィア(MOMOKO)を、亜矢が脊髄で折り返す激おこで放逐、したはいゝけれど。治が―周吉も―亜矢には半裸接客を許さない、スキャンティドールは新しい嬢の獲得に迫られる、嬢て。
 配役残り、スキャンティドールの客要員に、見るから内トラ臭い若干名が投入されるほか、上田耕一が入り浸る常連客の村松高梧。亜矢に株式会社タコールランジェリー企画室室長の名刺を渡す、公私とも下着漬けの御仁。瀬川哲也は、周吉がかつてジョー・ディマジオに乞はれマリリン・モンローのために制作。マリリンの急逝後一枚だけ送り返されて来た、劇中用語ママで“幻のパンティ”を披露する知人の五十嵐か五十風。ある意味での本家、永井豪の『まぼろしパンティ』はちなみに三年遡る昭和56年。大ぶりのボストンがエクストリームに麗しい麻生うさぎが、治が掻き集めた六人の新スキャンティドール候補のうち、早文の岩井小百合。遺影をキッチリ抜いて呉れないゆゑ覚束ないものの、周吉の亡妻と瓜二つらしい。その癖、亜矢は何の反応も示しはしない。聖ミカは一旦オーディションから踵を返したのち、追跡した治にカップル喫茶で篭絡されるなおみ。女衆が落選する四名と、再逮捕後の噂話で眉をひそめる、近所の主婦がもう二人。引きの横顔と目元しか映らないが、画面左パーマ頭の方が水木薫似の結構な美人。
 ポスターには日活とN·C·Pの共同製作とある、本隊作なのか買取系なのかよく判らない水谷俊之第四作。俳優部の面子と、ニューメグロで録音してゐる辺り、何となく後者―寄り―に思へなくもない。いや、待てよ、ほんでもスチールマンは日活の人間だろ。
 単に繋ぎの問題なのか、不安定な演出のトーンと画調が最も顕示的な致命傷。最初イマジンと勘違ひした、にしては中盤を支配するほど長い亜矢と村松の対峙と、亡き妻との回想かと見紛つた、麻生うさぎと大杉漣の絡みが何れも劇中現在時制であつたのには、軽くでなく面喰つた。よしんばそれが、勝手な誤読に過ぎないにせよ。日課のジョギング下着泥棒でお縄を頂戴、職を追はれ、妻子にも去られ。全てを失つてなほ、半ば以上に中毒的な女の下着に対する偏愛を迸らせる。村松の、アウトサイドに突入した筋金入りのピュアネスに、何時しか亜矢が飲み込まれて行く展開ないし本筋には、満足に血肉が通ひこそすれ。周吉が小百合に亡き妻の面影を見出す、鼻の下を伸ばしたエモーション。スキャンティを愛でるでなく、自らが穿く方向に治は転び、最終的には等閑視される、亜矢が持ち出した“幻のパンティ”の所在。そして、子供どころか大人二人が入りさうな大きさが軽く衝撃的な、パンティを模したプチ気球、世辞にも尻の形には見えんがな。何故か五十五分にも満たない短尺にも当然足を引かれ、諸々盛り込まれはする枝葉なり闇雲な意匠は逆の意味で綺麗に消化不良か機能不全。なおみに齧られ、勃つ毎に治が激痛に見舞はれる件で一々鳴らす、ピキューンピキューン馬鹿みたいな音効にはナベシネマかと呆れ返つた、渡邊元嗣ナメてんのか。止めを刺すのが、シャバでの最後の朝を迎へた村松に入る、「ドラマが無い・・・・・」の開き直つたスーパー、終に力尽きたともいふ。村松に去られた亜矢が下着を撒き散らかす、川の水面から文字通り浮上、特撮だとするとクオリティが高すぎる、見た感じどうやら本当に飛ばしたらしいスキャンティバルーン―もしかして、これの製作費で詰んだ?―が天空に消える、雄大は雄大なショットで正体不明の余韻に持ち込み、つつも。全体的には纏まりを欠き、漫然とした一作。反面、治との関係をかなぐり捨てる勢ひで亜矢が村松との逢瀬に溺れる、主演女優のアツい濡れ場をこれでもかこれでもかと叩き込み撃ち抜き続ける後半は、裸映画的には大いに充実。小田かおるを胸に焼きつけ帰途に就く分には、木戸銭の元は取れる。

 と、ころで。無闇な奇声に矢鱈と頼る、煩瑣で素頓狂なメソッドが鼻について仕方ない佐藤恒治を観てゐて、吉岡睦雄は平成の佐藤恒治なんだな、とかいふどうでもいゝ知見を得た。


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