「スキャンティドール 脱ぎたての香り」(昭和59/製作:(株)にっかつ+ニュー・センチュリー・プロデューサーズ/配給:株式会社にっかつ/監督:水谷俊之/脚本:周防正行/プロデューサー:海野義幸/撮影:長田勇市/照明:長田達也/美術:細石照美・種田陽平/編集:鈴木歓/音楽:坂口博樹/助監督:周防正行・井上潔・冨樫森/撮影助手:滝彰志/照明助手:豊見山明長/メイク:小沼みどり/スチール:目黒祐司/製作進行:西村裕之/効果:小針誠一/録音:矢込弘明・ニューメグロスタジオ/現像:東洋現像所/車輛:富士映画/挿入歌:『いとしのスキャンティドール』作詞:周防正行 訳詩・歌:Sylvie Maritan 作曲:坂口博樹/協力:企画情報センター・女装の館『エリザベス』・ROCK HOUSE めんたんぴん'S『リンディスファン』/出演:小田かおる・麻生うさぎ・聖ミカ・MOMOKO・大杉漣・佐藤恒治・大谷一夫・瀬川哲也・上田耕一)。出演者中、聖ミカがポスターには聖みかで、瀬川哲也は本篇クレジットのみ。配給に関しては、事実上“提供:Xces Film”。
ヒャラリーと軽快な劇伴起動、短パンでランニングする男の足下に、こちらも首から上を一旦フレームの外に逃がした、下着でトランポリンする小田かおるを挿み込む、伸びやかな肢体がヤベえ。何がプリントされてゐるのか最後まで判然としない、おヒップの止め画にタイトル・イン。地に足の着かなさ具合が、割と象徴的なアバンではある。
江戸時代から続く周吉(大杉)で十代目の「間宮下着店」と、周吉の娘・亜矢(小田)が彼氏の治(佐藤)と開業した、ランジェリー喫茶「スキャンティドール」。ノーパンならぬ、ランジェリ喫茶とは何ぞや、といふと。ウェイトレスが下着で給仕する―だけの―露出過多ではあれあくまで普通の茶店。特に語られない、料金設定のほどは不明。亜矢的には、実家の下着店込みでランジェリーの新しい在り方を摸索する、漠然とした方便が一応なくもない。たゞそのためには、客に女が来て呉れないと始まらない気も。兎も角、謎の個室で大谷一夫と本番行為に及んだソフィア(MOMOKO)を、亜矢が脊髄で折り返す激おこで放逐、したはいゝけれど。治が―周吉も―亜矢には半裸接客を許さない、スキャンティドールは新しい嬢の獲得に迫られる、嬢て。
配役残り、スキャンティドールの客要員に、見るから内トラ臭い若干名が投入されるほか、上田耕一が入り浸る常連客の村松高梧。亜矢に株式会社タコールランジェリー企画室室長の名刺を渡す、公私とも下着漬けの御仁。瀬川哲也は、周吉がかつてジョー・ディマジオに乞はれマリリン・モンローのために制作。マリリンの急逝後一枚だけ送り返されて来た、劇中用語ママで“幻のパンティ”を披露する知人の五十嵐か五十風。ある意味での本家、永井豪の『まぼろしパンティ』はちなみに三年遡る昭和56年。大ぶりのボストンがエクストリームに麗しい麻生うさぎが、治が掻き集めた六人の新スキャンティドール候補のうち、早文の岩井小百合。遺影をキッチリ抜いて呉れないゆゑ覚束ないものの、周吉の亡妻と瓜二つらしい。その癖、亜矢は何の反応も示しはしない。聖ミカは一旦オーディションから踵を返したのち、追跡した治にカップル喫茶で篭絡されるなおみ。女衆が落選する四名と、再逮捕後の噂話で眉をひそめる、近所の主婦がもう二人。引きの横顔と目元しか映らないが、画面左パーマ頭の方が水木薫似の結構な美人。
ポスターには日活とN·C·Pの共同製作とある、本隊作なのか買取系なのかよく判らない水谷俊之第四作。俳優部の面子と、ニューメグロで録音してゐる辺り、何となく後者―寄り―に思へなくもない。いや、待てよ、ほんでもスチールマンは日活の人間だろ。
単に繋ぎの問題なのか、不安定な演出のトーンと画調が最も顕示的な致命傷。最初イマジンと勘違ひした、にしては中盤を支配するほど長い亜矢と村松の対峙と、亡き妻との回想かと見紛つた、麻生うさぎと大杉漣の絡みが何れも劇中現在時制であつたのには、軽くでなく面喰つた。よしんばそれが、勝手な誤読に過ぎないにせよ。日課のジョギング下着泥棒でお縄を頂戴、職を追はれ、妻子にも去られ。全てを失つてなほ、半ば以上に中毒的な女の下着に対する偏愛を迸らせる。村松の、アウトサイドに突入した筋金入りのピュアネスに、何時しか亜矢が飲み込まれて行く展開ないし本筋には、満足に血肉が通ひこそすれ。周吉が小百合に亡き妻の面影を見出す、鼻の下を伸ばしたエモーション。スキャンティを愛でるでなく、自らが穿く方向に治は転び、最終的には等閑視される、亜矢が持ち出した“幻のパンティ”の所在。そして、子供どころか大人二人が入りさうな大きさが軽く衝撃的な、パンティを模したプチ気球、世辞にも尻の形には見えんがな。何故か五十五分にも満たない短尺にも当然足を引かれ、諸々盛り込まれはする枝葉なり闇雲な意匠は逆の意味で綺麗に消化不良か機能不全。なおみに齧られ、勃つ毎に治が激痛に見舞はれる件で一々鳴らす、ピキューンピキューン馬鹿みたいな音効にはナベシネマかと呆れ返つた、渡邊元嗣ナメてんのか。止めを刺すのが、シャバでの最後の朝を迎へた村松に入る、「ドラマが無い・・・・・」の開き直つたスーパー、終に力尽きたともいふ。村松に去られた亜矢が下着を撒き散らかす、川の水面から文字通り浮上、特撮だとするとクオリティが高すぎる、見た感じどうやら本当に飛ばしたらしいスキャンティバルーン―もしかして、これの製作費で詰んだ?―が天空に消える、雄大は雄大なショットで正体不明の余韻に持ち込み、つつも。全体的には纏まりを欠き、漫然とした一作。反面、治との関係をかなぐり捨てる勢ひで亜矢が村松との逢瀬に溺れる、主演女優のアツい濡れ場をこれでもかこれでもかと叩き込み撃ち抜き続ける後半は、裸映画的には大いに充実。小田かおるを胸に焼きつけ帰途に就く分には、木戸銭の元は取れる。
と、ころで。無闇な奇声に矢鱈と頼る、煩瑣で素頓狂なメソッドが鼻について仕方ない佐藤恒治を観てゐて、吉岡睦雄は平成の佐藤恒治なんだな、とかいふどうでもいゝ知見を得た。
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