真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「美尻愛欲めぐり」(1998/制作:大敬オフィス/配給:大蔵映画/制作・脚本・監督・出演:清水大敬/撮影:小山田勝治/照明:瀬尾進/美術:清水正子/編集:酒井正次/音楽:サウンド・キッズ/助監督:大越朗/撮影助手:新井毅/照明助手:谷盛正幸/編集助手:井戸田秀行/演出助手:児玉隆博/スチール:相沢さとる/録音:シネキャビン/現像:東映化学/タイトル:道川昭/出演:麻間美紀・槇原めぐみ・浅利まこ・原田なつみ《友情出演》・中村京子・山科薫・土門丈・水海信一郎・大浜直樹・村中豚也・文京周平・花巻五郎・大越朗・児玉隆博・中退みつる・相沢さとる・石部金吉・大海昇造・大谷満・神戸顕一・羽田勝博)。未だ解けない謎が、かつて清水大敬が使用してゐた名義である石部金吉を、継いだのは全体誰なのか。
 大敬オフィスのクレジットに続いて即、清水大敬病発症、仕掛けが早い。“これからは、落ち着いて心穏やかに愛する家族と共に生きていかう・・・”、とか明朝体で大書。テーマを文字情報にするのなら、それで事済むならば映画撮る意味ねえだろ!といふのと、全体この時、清水大敬の心境や如何に。あの清大も偶さか草臥れてゐたのか、何か枯れてないか?閑話休題、都庁から直接ティルト出来る新宿中央公園を、山口泰三(神戸)がぐるぐるジョギングする。妻の裕子(麻間)がスヌーピーのダサいエプロンで登場、朝御飯よと呼びかける。長閑だなあ、東京。とこ、ろが。流石生き馬の目をレーシックするコンクリート・ジャングル、妻の下に駆け寄らうとした山口は、バナナを食べてゐた大木凡人風(大絶賛不明)が無造作に捨てた皮で足を滑らせ、縁石で後頭部を強打。卒倒する山口の、グラグラする視界が暗転してタイトル・イン。バナナの皮で足を滑らせるスーパーポップなシークエンスを、両手を万歳した山口が一旦近づいた裕子から後退する形であれよあれよと20メートルは離れて行く、不自然極まりないカットで表現する清水大敬があまりにも画期的すぎて、アバンで既に切つた身銭の元は取れる。お買得!自棄なのかよ。
 その夜、己の馘どころか、会社ごとの存亡を賭けた大取引を翌日に控へ、緊張を隠せない山口に裕子がビールを勧める。乾杯もそこらに、山口は「ねえ、セックスしたら少しは落ち着くかな」。“ねえ”ぢやねえよ、斯くもどストレートな濡れ場の導入初めて見た。清水大敬は矢張り大天才にさうゐない、だから自棄なのかよ。
 手が届く限りの配役残り、妙に高いビリング推定で恐らく土門丈が、当日朝、心配して山口家に電話を寄こす大山部長。部下に任せてゐないで、手前が行けといふ話である。山科薫と大浜直樹以下計六人は、新宿駅南口に棲息する、古典的な共産主義を標榜するルンペン。清水大敬にしては皮肉が利いてゐる、のかなあ。プレゼンを反芻しいしい歩いてゐたところ、山科薫が楽しみにしてゐた弁当を踏んづけてしまつたため、追ひ駆け回された末山口は上着とスラックスと、持ち金を奪はれる。時に清大をも凌駕する破壊力を誇る漢の中の漢・羽田勝博は、これ見よがしに吊るしてあるスーツを、拝借しようとした山口を捕獲するヤクザ、ネズミ捕りのチーズか。キリスト教はまだしも、イタリア映画「自転車泥棒」(1948/伊)を狂信する途方もない造形。中村京子は、ヤクザの情婦。そして大将の清水大敬と浅利まこが、山口が向かはなければならない商談先・鮫島商事社長の鮫島と、秘書としか呼ばれない秘書、兼愛人。槇原めぐみと水海信一郎に浅利まこの二役目と更にもう一人は、ワイシャツにトランクス一丁で鮫島商事を目指す山口が新宿昭和館(2002年閉館)の表で交錯する、二役目でヒムセルフの清水大敬組スタッフ。槇原めぐみと水海信一郎は、ポジション不明のゼムセルフ。浅利まこはぶつかつた山口が怪我をさせてしまふ女優部で、もう一人は男優部のトマホーク。原田なつみは、代りの女優探しを強ひられた山口が連れて来る、新宿のど真ん中を、洗面器片手に銭湯に行かうとしてゐたハーセルフ、一々細部が斬新でクラクラ来る。大越朗は、清水組助監督のヒムセルフ。貧相な外見が、トマホークと被るのは大越朗は悪くない。
 当サイトが脊髄で折り返して釣られ続ける、バラ売りex.DMMに新着した清水大敬1998年第二作。過去に残すは、次作「制服凌辱 狙はれた巨乳」(1998/主演:椎名みずき)のみ。
 元ネタが何某かあるのか、大事な要件を抱へた男が、諸々の災難に見舞はれ続けどうしても辿り着けないスラップスティック。兎にも角にも、新宿が気違ひしか住んでゐない街かの如く、共産主義的ルンペンと、キリスト教と自転車泥棒を振り回す羽田勝博が圧巻。カサベてた頃の清水大敬に久々で触れるのを楽しみにしてゐたものだが、清大がカサベてるに寧ろ不可欠な俳優部に於ける主力兵装たる、羽田勝博のブチ切れた存在感が尋常でない。面積から広いアクの強い強面と、箆棒な上段から叩きつける大仰な口跡が絶品。山口を情婦に紹介して、「神に見放されたイカレ野郎だ」、お前は神―悪魔かも―に祝福されたイカレ野郎だ。目をヒン剥いた羽田勝博に、「自転車泥棒」監督のヴィットリオ・デ・シーカの名前を教へて貰つた山口は、暫し「ヴィットリオ・デ・シーカ、ヴィットリオ・デ・シーカ」と復唱しながら繁華街を奔走。何時、あるいは何処で山口がドッコイショと言ひだしはしないかと、割と本気で心配した。逆に、羽勝が序盤にして全部カッ浚つてしまつたきらひも決して否めなくはない。元々壊れてゐる劇映画はこの際兎も角、裸映画的には闇雲に清水大敬。壁に照明の影を無防備に映しもする、主演女優は素の表情から硬く、最も印象は薄い。中村京子は羽田勝博を追走し得るキレ具合と貫禄の爆乳を披露し、オッパイもお尻もプリップリの浅利まこは、こちらも表情は乏しいものの、清水大敬相手にコッテコテかつヌッルヌルの一大見せ場を展開。そして何はなくとも、何が何でもなエモーションを刻み込む、槇原めぐみ(a.k.a.槙原めぐみ)の絶対巨乳。甚だ雑な繋ぎは今なほ改善されぬ難点ともいへ、チンコで見る分には申し分ない。眼(まなこ)は兎も角、清大を観るなり見るのに頭なんて要らん。結局開巻に回帰する、昏睡オチは斯くも破壊の限りを尽くした始終に比すと随分おとなしくもあれ、メタな方向に軽く振れてみせる大オチ。粗忽な清水大敬が一瞬フライングしてしまふのが、逆の意味で完璧。何か映画雑誌の企画で、ヴィットリオ・デ・シーカの霊を降ろしたイタコに、この映画見させて感想を訊いて欲しいね。

 一点正方向に目についたのは、編集後残つただけでも、新宿界隈を相当な距離走り回らせられる神戸顕一が、かといつて然程ですらなく呼吸を乱してゐるやうにも見えない点。体躯からはとてもさうは見えない割に、神顕ああ見えて結構スタミナあるのかな。それか、単なるアフレコによる錯覚か。


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 「田園日記 アソコで暮らさう」(2018/制作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:当方ボーカル/撮影監督:創優和/録音:山口勉/編集:三田たけし/音楽:與語一平/整音:吉方淳二/助監督:菊嶌稔章/制作応援:MASATO/スチール:阿部真也/協力:深澤浩子/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:白木優子・南涼・横山みれい・水野直・細川佳央・折笠慎也・津田篤・イワヤケンジ)。久し振りに改めて、脚本の当方ボーカルは、小松公典の変名。それと引き続き遠出する頭数を渋るなり絞つたのか、助手部のクレジットはなし。
 美顔ローラーを転がす母・宏美(白木)と、出店を憧れるカフェの物件をノートでつらつら見る、双子の姉のあずみ(南)。に、家族団欒のアンチテーゼだとか称し、ツッ立つて虚空を凝視する引きこもりにして、当人曰く“割とレベルの高い出不精”の双子の弟・優一。一方、宏美の夫で一家の主たる長崎堅実(水野)はといへば、声のみ聞かせる嬢(多分横山みれい)相手に店舗風俗。仕事を辞めた祝ひと虚勢を張つた堅実が一拍息を呑み、スッカーと晴れた空の下に広がる畑の画にタイトル・イン。榊英雄ピンク映画参入作「オナニーシスター たぎる肉壺」(2015/脚本:三輪江一/主演:三田羽衣)でピンク初陣、二本目を撮らせて貰へるのが不思議な山本淳一の「マジカル・セックス 淫ら姫の冒険」(2018/脚本:大畑晃一・山本淳一/主演:阿部乃みく)を経て、水野直は初の本隊作。とは、いへ。如何にもピーピープラス臭い、竹洞哲也である辺りはお察し。
 早期退職の憂き目に遭つた堅実は、幼少期に見た名前も覚えてゐない海外ドラマへの過剰な思ひ入れを拗らせ、家族で僻地の農村に移住。指南役・関満雄(イワヤ)の指導を受けての、全員未経験である農業生活に入る。宏美が東京に残して来た、泡沫俳優・富士生馬(津田)との不倫なる何気でなく起爆剤も抱へる中、あずみは初見で双方向に見初めた、有力者の息子でもある農協職員・武藤圭吾(折笠)の伝(つて)で農協に事務として入り、優一も、初の労働で農業といふブルータルなM:Iに、何故かすんなり順応。サクサクあずみと武藤の結婚が決まるまで、万事順風満帆に進む。
 配役残り、首から上は日焼け防止装備で覆はれた農村婦人部二名は、どうやつても特定不能。横山みれいは優一を手懐けようと、堅実が遥かエリア外の彼方から呼び寄せた、ディスコミニュケーションを爆裂させるデリ嬢・マイト、ハングマンのリーダーではない。最終盤に続々投入される内トラ部隊、菊嶌稔章が巨漢の刑事で、阿部真也と深澤浩子が新たなる移住者夫妻。
 武藤の軽トラが八戸ナンバーである点―逆に、それ以外に地名を匂はせさへする情報は一切見当たらない―も見るに、超絶近所の青森県三戸郡五戸町近辺で撮影してゐた前作と、二本撮りしたとしか思へない竹洞哲也2018年第五作。二作の封切り間隔も四週間と、極端に短い。それと折笠慎也のカントリーな口跡が矢鱈達者に聞こえたのは、この人ネイティブなんだ。
 二番手の濡れ場が極端に、脱いでゐたか不安になるほど少ない不満―乳はまだしも、尻すら見せてゐない―さへさて措けば、裸映画的にはまあまあ。さて措けぬとする南涼クラスタの激憤に関しては、当然是認する。折角綺麗に成就しかけた長崎家の幸福を、開墾一家があくまで父親が中心となつて諸々の困難に立ち向かひ克服する。パターナリズム丸出しの手前勝手なファンタジーに囚はれた堅実が見事爆砕する展開は、家族各々のツッコミも的確に、ひとまづ酌める。尤も、ここから先は殆ど生理的な好きヘイトにも左右されよう点は一応恐縮ながら、ワーキャー姦しいばかりの水野直が、兄貴程度ならばまだしも大黒柱にはそもそも程遠く、如何せん厳しい。拭ひ難い年恰好の違和感も含めるとなほさら、大本命?なかみつせいじあるいは、吉田祐健なり小林節彦の役であつたのではなからうか。もしくは迸らせる狂気の一点突破で、北千住ひろし×羽田勝博のギョロ目部、この人等が現役なのかどうかは甚だか結構怪しいけれど。

 とこ、ろで。長崎家一同の農作業初日、皆で関の下へ向かはうかとしたところで、画面奥の遠目に見切れる人影はあれは目の錯覚か何かか?一般映画に色目を使つた弊害だか何だか知らないが、回収されぬサムシングに一々立ち止まらざるを得ないのは、実に煩はしい。


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 「団地妻を縛る」(昭和55/製作・配給:新東宝株式会社/監督:渡辺護/脚本:小水一男/撮影:鈴木志郎/照明:近藤兼太郎/撮影助手:遠藤政夫/照明助手:野添義一/助監督:樋口隆志・中田義隆/編集:田中修/効果:秋山実/録音:銀座サウンド/現像:ハイラボセンター/出演:丘なおみ・大杉漣・木村明民・市村譲・日野繭子)。出演者中丘なおみと木村明民が、ポスターには岡尚美と木村明良。ポスターにのみ載る企画の門前忍は、渡辺護の変名。
 八百屋の表を、恐らく喫煙者ではないと思しき丘なおみが、煙突みたいにプッカプカ煙草を吹かしながら軽く覘く。まるでチャリンコ感覚に夥しく泊められた通称べか舟こと、海苔採り用の一人乗り平底舟から、画面奥遠く、電車が通過する鉄橋にパンしてタイトル・イン。ヤッてゐる時以外は概ね肌身離さぬ煙草を手に、小橋に佇む団地妻・沼田峰子(丘)の傍らを、背広姿の大杉漣が通り過ぎる。通り過ぎた大杉漣の後を峰子が尾けて行つたかと思ふと、カット跨いで青姦に突入。工具箱を手に結構距離のある高架下に歩み寄る、映える割に何をしてゐるのかよく判らない不自然ないし不審さも否み難い画を経て、後々実店舗も抜く市舟電器の倅か店員(木村)が二人の逢瀬を目撃する。峰子は隣家の和夫(大杉)と、継続的に関係を持つてゐた。和夫とといふか、和夫とも、峰子はさう囁かれるやうな女だつた。
 配役残り日野繭子は、和夫の妻・由美。既に和夫は峰子に心を移し、二人の関係を未だ知らぬまゝ、電気屋含め放埓にお盛んな峰子に由美が敵意を燃やす御近所付合ひ。そして市村譲が、今の目からするとグルッと一周して清々しい亭主関白ぶりを尊大に披露する、峰子の夫・英太郎。晩酌中もサドマゾのエロ本を読み耽る大層な御仁で、峰子は激しく嫌ふくさやを高圧的に焼かせた上で、くさやで女体を弄る等々、豪快か玄人跣な夫婦生活を日々展開する、しかも部屋に暗室ばりに赤い照明まで焚いて。因みにjmdb準拠では今作辺りが、市村譲が俳優部から演出部に転身するちやうど過渡期に当たる。
 赤い鉄の塊なビジュアルが印象的な、堺川にかゝる今川橋を地理的なアイコンに、翌年から市制の敷かれる浦安を舞台とした渡辺護昭和55年第六作。この年全十五作といふのが、もしも仮に万が一当時的には大して騒ぐほどの数字でもないとしても、矢張り改めて凄い。量産型娯楽映画が現に量産されてゐた時代の麗しさは、幾度蒸し返したとて足るまい。
 由美と和夫が燻らせるかより決定的に拗らせる不仲から、片や沼田家はといふと峰子が英太郎に大絶賛ビッシビシ責められてゐたりする、限りなく笑ひ処に近いザックリした繋ぎ。のこのこ遂に対峙して来た由美を難なく迎撃した峰子が、画面右半分は何某か建設予定の更地といふ、何気に荒涼とした風景の中歩を進めるロング。ロングに、まるで西部劇よろしく風音の音効つきで砂煙を舞はせてみせる、冗談スレッスレの外連。馬鹿馬鹿しさを被弾してなほ撃ち抜く、クロスカウンターの如き鮮烈は強い印象を残す。とは、いへ。峰子と和夫は無軌道に出奔、やぶれかぶれに由美も縛りあげる明後日なアクティビティはさて措き、ポップに憤怒を燃やす英太郎は兎も角、粗雑な諦観で腹を括り、トレンチでキメた由美が団地を捨てるラストは、確かに十五発も乱射してゐたらかうもなるだらう、とも思はせる大雑把な仕上り。渡辺護だ何だと徒に有難がるのはためにならず、クソより酷いパーマ頭と、無闇に下衆い口跡で逆向きに飾られた大杉漣も、特段も何も魅力に乏しい。センシティブな電気屋が出し抜けに開陳する、団地を通した社会全体に対する憎悪も、所詮は木に接いだ竹に止(とど)まる。それでゐて、昭和の、あるいは昭和な画力(ゑぢから)の雰囲気一発勝負でそれなりに見せてもしまふのは、まだもう少し通用した神通力。更にもう少しして下手をすると、80年代のダサさを幾らフィルムの魔性を以てしても誤魔化せなくなる。


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 「豊満OL 寝取られ人事」(2018/制作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/脚本・監督:関根和美/撮影:下元哲/照明:代田橋男/録音:小林徹哉/編集:有馬潜/助監督:加藤義一/監督助手:江尻大/撮影助手:小関裕次郎/スチール:本田あきら/選曲:友愛学園音楽部/整音:Bias Technologist/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:優梨まいな・真木今日子・美村伊吹・折笠慎也・安藤ヒロキオ・なかみつせいじ)。撮影助手がKSUといふのは何かの間違ひかとも思つたが、実際さうクレジットされてゐた。
 形だけ勉強机に向かひつつ気もそぞろな折笠慎也の背中で、張り詰めた風情で電話を待つ主演女優。ピザ屋にかけたつもりのベタな間違ひ電話一本挿み、スーパーでない派遣社員・平野千春(優梨)に、何と実に三十箇所目の派遣先が決まる。同じ―派遣―会社とは限らないが、二十九回辞めた人間に、次の口を宛がふ方も宛がふ方ではある。折笠慎也は千春が居候する、高校のテニス部の先輩で、目下は国立医大を目指し四浪中の霧島弘樹。いざ初出社、オフィス街に降り立つた千春が、「ようし頑張るぞ!」とジャンプした背中にタイトル・イン。てな塩梅で千春の新しい職場は、零細通販会社「ビーワン通販株式会社」の、支社経理課。経理だけで一部屋使ふ、支社まであるのに零細なのか。兎も角経理課の面々は、千春入れて三人。セクハラ課長の中村克弘(なかみつ)と、もう一人高橋直哉(安藤)。今年からピンクに参戦した安藤ヒロキオが、盆の薔薇族入れて何時の間にか五戦目。脱ぐと体が緩んでゐるのは頂けない反面、佇まひ自体は案外落ち着いて手堅く見えるのは場数の結実かそれとも、これで満更でもない関根和美演出力の証左か。それはさて措き、非現実的にフリーダムな中村が早速千春に抱きつき、オッパイを揉むやボイーンボイーンとジューズハープが唸り、尻を撫でるやホイッホイッとコントみたいなSEが鳴る。ダサさとベタさに一目散に突つ込んだ上で、見事その先に突き抜けグルッと一周する音効が馬鹿馬鹿しい、もとい清々しい。
 配役残り、白髪メッシュがオッカナい美村伊吹は、新人研修と称して千春をいびり倒す、秘書課のお局・坪倉江里。だ、か、ら。支社があるのみならず、しかも秘書課まで擁するのに零細なのか。それもさて措き、今年度から無期休業に入つた美村伊吹(ex.緒川凛)にとつて、今作が六戦目にして一旦ラスト・ピンク。真木今日子は、月例監査で中村以下支社経理課を―それぞれの意味で―震へあがらせる、本社経理の池田美緒。交際する高橋の前では、元ヤンの美緒が見事に猫を被る様に目を丸くした千春が、豹変をジャガーチェンジと言ひ換へるのは関根和美にしては随分と瑞々しいレトリックをと感心しかけたものの、どうやらジャガーチェンジといふのは、山下洋輔発祥のズージャー隠語らしい。それと真木今日子はカジュアル時の、ニットに包まれたオッパイの破壊力がエクストリーム。大事な点ゆゑもう一度書く、真木今日子の、ニットに麗しく包まれたオッパイがエクストリーム
 大晦日スレスレに封切られ、元日公開の加藤義一新春痴漢電車と正月番組を分けた格好の、関根和美2018年第四作。我等が前田有楽こと六月末で閉館する有楽映画劇場に、山内大輔や工藤雅典の電撃大蔵上陸作をも追ひ越し飛び込んで来た。
 千春が無限に職歴を積み重ね続ける所以が、優しくされると抱かれたくなる、とかいふ性癖。二十九ある退職理由に、百合も含まれるか否かは不明。といふか、気儘に筆を滑らせる弾みで気づいたが、これ関根和美は何気に大魚を釣り逃がしてはゐまいか。何れ菖蒲か杜若、真木今日子と美村伊吹なら、相手がどちらでも凄い大輪が咲いたのに。話を戻して、千春の如何にもピンク的に底の抜けたアキレス腱を一応の軸に据ゑ、男女三人づつのデフォルトな俳優部から、三組のカップルが最終的に誕生する展開はその限りに於いて全く以て磐石。面白味ないし、女の裸以外の見所は特にも何も見当たらないけれど。活力源とか称した中村のセクハラに関して、千春から相談を持ちかけられた高橋が我慢するしかないの一点張りに止(とど)まる。あるいは止まらざるを得ないのは、大御大の時代から半歩たりとて進歩してゐない世界観。馬鹿者、関根和美の辞書に十年一日なり、プログレスなんて単語がある訳ないだらう。とかく素面の劇映画的には、これで寝落ちないのが不思議な一作ではあれ、ポップに表情を操り、若々しく弾け輝く優梨まいな映画としては完璧に成立してゐる、多分。江里の竹刀が脳天に入つた千春が、反撃しながらも頭を抱へうづくまるカットには思はず声が出た。怒涛のジェット・ストリーム・アタックを敢行する、巨乳部を三枚揃へた布陣も無論申し分ない。あと物足らなさが否めないのは、優梨まいなと安藤ヒロキオ以外はおんもに出もしない、引きこもつた省力撮影。映画的なショットのひとつも撃ち抜いてあれば、印象は全然変つて来たやうに思へるのだが。挙句、思ひきりモアレが出てゐるカットも散見されるのは大いに、もしくは普通に考へもの。


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 「熟れどき妻 欲しがる下半身」(2004『四十路熟女妻 立たせます』の2019年旧作改題版/製作:フィルム・ハウス/提供:Xces Film/監督:大門通/脚本:有馬仟世/企画:稲山悌二/プロデューサー:伍代俊介/撮影:鏡早智/照明:中田桜/録音:シネキャビン/編集:フィルムクラフト/助監督:小泉剛/監督助手:山中雄作/撮影助手:橋本彩子/照明助手:池田直矢/スチール:阿部真也/小道具協力:アウトローカンパニー/スタジオ協力:カプリ/タイトル:高橋タイトル/現像:東映ラボ・テック/出演:瀬戸恵子・北川明花・坂入正三・柳の内たくま・柳東史)。出演者中柳の内たくまが、ポスターには柳之内たくま。柳の内名義をほかで目にした覚えもなく、寧ろクレジットの誤植ではないかと思はれる。
 タイトル開巻、住宅地の画を噛ませて、珍しく属性が等閑視される未亡人の如月静香(瀬戸)が、交際相手の山川幸雄(坂入)を自宅に連れ込んでの逢瀬の真最中。ズンチャカ走る劇伴も軽やかに、瀬戸恵子と坂入正三による濡れ場が面白可笑しさ含めてなほ、どエロく見せるのは何気な豊潤。鏡早智のカメラも、割とライブに動く。そこに女子高生の娘・有佳(北川)帰宅、居間のドアを開けた娘と目を合はせてゐながら、静香の腰が一戦を完遂するまで止まらないのは、たとへば女の業といつた高尚な代物などではなく、単なるポップな好色以外のなにものでもない晴れやかな即物性が清々しい。ショックを受け踵を返した有佳に、駅前のロータリーで何処そこ大学の法学部に通ふ宮下辰彦(柳の内)が声をかける。飯でもといひつつ、カット尻も乾かぬ内にほいほい自宅アパート―室内は如月家と同じハウススタジオの一部屋―について来た有佳を、文字通り敷居を跨ぐなり、豹変した宮下は犯す。犯されたら犯されたで、犯されてゐるのに有佳も何時しかアンアン大絶賛和姦に突入。浜野佐知紅蓮の憤怒に、全て焼き払はれてしまへばいい。兎も角事後、家に男を、選りにも選つて坂入正三を連れ込む静香を懲らしめてやらうと二人は意気投合。宮下が脊髄で折り返して思ひついた、有佳が自転車で衝突した老婆に対する示談金なる、アタシアタシ詐欺もとい狂言を敢行。どれだけ狭い町なのか、いはれた十万円を振り込み東京三菱から出て来た静香―と山川―は、みずほで金を下す宮下と有佳を目撃。山川の忠告で性急には動かず、一旦山川知人の探偵に、宮下の素性を調べさせてみることにする。裸映画に物語如き不要だとまではギリギリ紙一重首の皮一枚いはない瀬戸際で、反応反射音速高速、新田栄よりも速く、サックサク電光石火で進行する展開が心地よすぎて勃起する。
 配役残り、チョビ髭と顎鬚で如何にも胡散臭く武装した柳東史が、件の山川が連れて来た探偵・野呂康平。探偵とは、いふものの。個別に接触した有佳と静香を、底の抜けた方便で何のかんのと、あるいは何が何だかな勢ひで言ひ包め手篭めにする、桃色かつ愉快な飛び道具的怪人物。有佳が物心つく前に死去した設定の静香亡夫は、遺影すらスルーされる。
 ex.DMMにも入つてゐない2004年作で、今回小屋にて目出度く大門通コンプリート。三作目にして浅尾政行時代唯一のロマポ、「花と蛇 究極縄調教」(昭和62/脚本:片岡修二/主演:速水舞)は普通に月額ピンク映画chにも入つてゐるゆゑ、その内時間が出来たら見ておかう。
 反発を露にする有佳との関係を、思ひ悩む静香が溜息つくのも風呂の中。ぬかりない裸映画は序盤で母娘の対立軸をそれぞれの男込みで構築し、中盤は柳東史が出鱈目に暴れ倒すか喰ひ散らかした末に、ヤルだけヤッて潔く―実際に―ピューッと退場。いい感じに残り尺も整へた上で、終盤は将を射んと欲すれば先づ馬を射よとばかりに、説得させた有佳を懐柔するべく、静香が宮下を籠絡する神展開。静香の据膳に宮下が呑む生唾は、所詮クリシェに過ぎなくとも緻密に計算。流石に有佳×山川の母娘スワップには、羽目を外しはしない的確な匙加減。一見ハッチャメチャなりへべれけに見せて、案外完璧。しかもビリング頭が瀬戸恵子となると、固有名詞を公開題に冠し得る訳でもない女優部二枚看板といふ、実はタイトなプロダクションの不足も、然程でなく感じさせない。六十分とはいへ始終をポカリを飲むかの如くスイッスイ観させて、後に何にも残さないのは、却つて優れた娯楽映画の条件といへるのではなからうか。記録に残らず、記憶にも残らない名画。実は大門通か勝利一が、誰も気づかないところでコソッとピンクを完成させてゐたやうな気がする疑念は、この期に及んで改めて拭へない。
 一点断じて通り過ぎては済まされないのが、静香と山川のミーツ。リストラされた挙句妻子にも逃げられた山川は、公園で首を括らうとする。その場に居合はせた清掃員の静香が制止したのみならず自らをも捧げ、山川を再起させる。重ねて職も世話、目下同じ公園で働くセトケーとサカショーの画面(ゑづら)が、五ヶ月弱後公開の坂本太第四作「裏の後家さん 張<バイブ>形に夢中」(脚本:有田琉人/主演:結城綾音)と多分全く同じ。量産型娯楽映画ならではの、アシッドなショットに欣喜雀躍。

 とこ、ろで。何となく気になつて調べてみたところ、今作が東史×之内たくまのダブル柳初共演作。之内たくまが無理からすぎる、とかいふ至極全うな異論は受けつけない。以降は全て山内大輔、2006年最終作「レンタルお姉さん 欲望家政婦」(主演:姫川りな)まで通算五本存在する。


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 「ピンク・ゾーン2 淫乱と円盤」(2018/制作:フリーク・アウト/提供:オーピー映画/監督:国沢実/脚本:切通理作/撮影:藍河兼一/照明:赤羽一真/助監督:菊嶌稔章・粟野智之/美術協力:いちろう、H・H/スチール:本田あきら/編集:酒井編集室/音楽:與語一平/録音:小林徹哉/整音:Pink-Noise/特殊造形:土肥良成・李華曦/タイトル:小関裕次郎/仕上げ:東映ラボ・テック/カラリスト:如月生雄/協力:はきだめ造形・Abukawa corporation LLC.・白石雅彦/出演:南梨央奈・佐倉絆・瀬戸すみれ・山本宗介・早乙女バッハ・白石雅彦・小滝正大、他二十名)。出演者中、他二十名は本篇クレジットのみなのと、逆に切通理作の名前がポスターにのみ載る。
 川辺の公園、切通理作の『失恋論』(2006)を読む真船昭彦ならぬ昭比古(山本)の下に、ラブレターを受け取つた幼馴染の波川久美(南)が現れる。久美が真船の求愛はやんはり断りつつ、二人各々なりたいものになる旨誓ふ、指きり交してタイトル・イン。南梨央奈は、この人こんなに顎が尖つてたかな?
 時は経て、ちんこまたこれ。間違へた、こんちこれまた城南大学の理学部に進んだ真船は、地下アイドルとして活動する久美を追ひ駆けるのと並行し、研究に勤しむ日々。今日も今日とて、研究室にて真船が久美の動画を見ながらゴーゴーレッツゴーしてゐると、何者かが入つて来る気配が。身を潜める真船の眼前、後輩の城野えり(佐倉)と、担当教授?・一の谷(小滝)が不倫の逢瀬。だから濡れ場に、大した芸にもならぬ半端なメソッドなど要らんと、何度口を酸つぱくしたら判るのだ。観客が求めてゐるのは、男優部の些末な自意識などではない、女の裸である。演者が至らないか履き違えへてゐるのであれば、所作を指導するのが演出部の仕事ではないのか。国沢実相手に、野暮をいふやうだが。
 配役残り他二十名は、真船が観に行つた波川久美のクリスマス・ライブ、確か俺は小屋にピンクを観に来た筈なのに、まるで鏡でも見てゐるかのやうに醜悪、もといリアルなアイドリアン部。オケまで作つてゐるにも関らず、南梨央奈のボーカルを頑なに入れないのが果てしなく謎な終演後、波川久美のシングル「ハートブレイク銀河系」の手売りサイン会。早乙女バッハは真船を剥がすマネージャー・尾形明で、姿出しの切通理作が次の人。音声情報だけではよく判らないが、切通理作はイクサンダル星人の声も担当してゐるらしい。硬く見える止め画よりも、動いてゐる方がたをやかに輝く瀬戸すみれは、博士号を取得した真船を、ある日訪ねて来る妻・桂子、いきなりでしかも初対面の妻が訪ねて来るの!?それはさて措き、オッパイのたぷんたぷんさが素晴らしい。何をいつてゐやがるのか、知らねえよ。白石雅彦は、カラミス星人の侵攻を受けての、人類今際の間際を伝へるアナウンサー。話を戻して早乙女バッハが、俳優部最大最悪のアキレス腱。口跡すらまゝならないのに加へ、文字通りの全体的に壊れてゐて満足に動けもしない、こんな活性酸素の塊一体何処から連れて来た。馬の骨はおろか豚骨にも劣る、見苦しいこと甚だしい。
 思ひもしない名前が飛び込んで来た寺西徹で豪快に火蓋を切り、更なる爆加速を見せた町田政則と、清大に後れをとりもしたGAICHI(ex.幸野賀一)。一応山科薫に、実に十二年ぶりのたんぽぽおさむと続いた、近年ファンタ路線に於ける恒例企画・ベテラン俳優部サルベージが今回は不発。代りにと捉へるのが妥当なのか否かは知らないが、薔薇族含めた最短でも二十二年ぶり、ピンク限定だと池島ゆたか1993年第四作―薔薇族入れると一本増える―「新痴漢電車 指師で開きます!」(五代響子と共同脚本/主演:木戸原留美)以来、何と四半世紀ぶりともなる脚本の切通理作を大復活させた、国沢実2018年第三作。因みに一旦小休止したベテラン俳優部サルベージも、次作の2019年第一作に於いて、渡邊元嗣2010年第二作「牝猫フェロモン 淫猥な唇」(脚本:山崎浩治/主演:早川瀬里奈)以来九年ぶりの横須賀正一で再起動。とこ、ろで。ピンク・ゾーン無印第一作の「地球に落ちてきた裸女」(2017/脚本:高橋祐太/主演:阿部乃みく)とは、宇宙規模の物語といふ力の限りアバウトな共通点以外、一ッ欠片の連関も最早清々しいまでにない。
 現代ピンク最強の男前・山宗こと山本宗介が華麗に非モテ研究者に扮する、ダメ男ないしキモ男が何処までも内向的に煮染まる国沢実のある意味十八番とする展開は、やがてロケーションの貧しさから顕著な、外部からの侵略者なり保護者をも交へた、地球の存亡を巡る戦ひへと藪から棒にオッ拡がる。真船が劣等感を拗らせる弱者のミニマムなエモーションに関しては、国沢実が脆弱さと紙一重の繊細な真骨頂を覘かせる、ものの。ただでさへの超風呂敷が挙句二転三転する終盤は、始終を満足に理解しないまゝ国沢実は撮つてゐたのではあるまいかと思へるくらゐ、支離滅裂か木端微塵にトッ散らかる。直截にいつて、要はバジェットなり国沢実の身の丈を切通理作が一切弁へず、好き勝手に書いた脚本が最大の敗因。負け戦を何とか精一杯どうにかして誤魔化さうとする工夫を何ひとつ感じさせないで、無様に玉と砕ける国沢実も確かに悪いにしても。全篇正しく隈なく鏤められた、特撮かアニメか切通理作の小ネタに一々律儀に釣られる向きもあるやうだが、朽ちた幹が折れてゐるのに枝葉だけ繁らせてどうする。ペダンティックどころか、映画ペッタンコぢやねえか。脊髄で折り返して断言すると、ここ数年、もう少し具体的にいへば☆をパージしての無印時代に突入する二作前、ほぼほぼグルッと一周しかけた2014年第二作。逆説的にリアルな革命映画「特務課の女豹 からみつく陰謀」(国沢☆実名義/主演:伊藤りな)で転機を迎へて以降、ブッ千切りで一番酷い、詰まらないのも通り越して酷い。問題なのが国沢実は次回も、今作同様切通理作と組み、性懲りもなくどうやらやらかしてゐる模様。


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 「野外《秘》エッチ 覗いて」(2004/製作:多呂プロ/提供:オーピー映画/監督:荒木太郎/脚本・三上紗恵子/撮影照明:飯岡聖英・田宮健彦・松澤直哉/編集:酒井正次/助監督:田中康文・三上紗恵子・中川大資/音楽:とんちピクルス 唄:野上正義 主題歌:『夜風』/ポスター:白汚零/応援:小林徹哉/夢の絵:三上哲弘/録音:シネキャビン/現像:東映ラボテック/タイミング:安斎公一/出演:仏本あけび・風間今日子・しのざきさとみ・鈴木ぬりえ・本田まゆこ・内山太郎・ハワイの人々・吉岡睦雄・綺羅一馬・野上正義)。
 適当といふか、テッキトーな海の絵に貼りつけたタイトル開巻。既にその時点で、勝敗は見えてゐたとまでいふのは、果たして結果論であらうか。
 海沿ひの町の民宿「山本荘」、派手にトッ散らかつた二階の居室で左足を固めたギブスを右足で掻きながら、娘の山本なり子(仏本あけび)がヘッタクソな絵筆を狂騒的も通り越し、殆ど強迫的に走らせる。描くのは女体か、男女の性行のみ。両親(野上正義としのざきさとみ)が営む山本荘に、カップル客(遠すぎて識別不能)が。その夜、庭にて水着で乳繰り合ふカップル(本田まゆこと内山太郎)を目撃したなり子は、部屋まで近づき勇猛果敢にスケッチ。あのさあ、だから濡れ場の最中に、クッソ下手糞な絵とか要らねえんだよ、バカ荒木。
 そんなバカ扮する医師―酷え―にギブスを外して貰つたなり子は、早速海までダッシュ。全裸で海に入り、背泳しながらのワンマンショーといふ、何気に破天荒な大技も敢行した上でなり子が浜に戻ると、波に浚はれたのか脱ぎ捨てた衣服が見当たらない。てな塩梅で、臆面もない役得の荒木太郎と青姦する風間今日子のビキニを盗んでゐたりする内に、両親が福引で当てた十日間のハワイ旅行に出発、なり子は暫し山本荘に一人となる格好に。
 配役残り、吉岡睦雄はホッつき歩くなり子に声をかけ、最終的にはボートの上で致す幼馴染、漁師。三十分を跨いで漸く登場する綺羅一馬(ex.綺羅一馬で天川真澄)は、寛子(しのざき)の写真を手に、町に現れる男。出て来た際には綺羅一馬が自分で声をアテてゐるのに、何故かその後荒木太郎のアテレコに移行するのは全く以て謎。その他どうせ小林徹哉や演出部もゐる筈の、三上紗恵子しか見切れなかつたエキストラ部がハワイの人々とか称して若干名。元々顔が頭に入つてゐないといふのもありつつ、ビリングは本田まゆこよりもひとつ高い鈴木ぬりえが、何処に映つてゐるのかが相変らず完ッ全に判らない。何処に出てゐるのか一度ならず皆目判らないといふのも、稀有な特性ではあるステルス女優。
 月額ex.DMMの中に、手つかずで残つてゐるのをこの期に発見した荒木太郎2004年第四作。二年後に「ふしだらな女 真昼に濡れる」(2006/監督:田尻裕司/脚本:山田慎一)もある主演の仏本あけびは、ちやうどこの頃から荒木太郎が募つてゐた女優―なり助監督―公募の一般応募者。富士川真林(実働2002~2004/三本)のほかに話を聞いた覚えもないゆゑ、結構何だかんだな勢ひで長い間募集してゐた割に、もしかすると二人目で最後の採用者なのかも。既にデビュー済みのAV部が、水面下で手を挙げてゐたりするのは知らないけれど。
 映画の中身に話を戻さうにも、戻すほどの中身もないんだな、困つたことに。フラットな主演女優の面相以前に、一言で片付ければ一番ダメな時期、箸にも棒にもかゝらない類の荒木太郎。消極的に不要どころか積極的に余計な意匠、軸足のまるで定まらぬ覚束ない脚本に、手癖か安つぽさか内輪臭しか窺へない手作り感、ついでに途中で声変りする登場人物。初期には窺はせたソリッドなりエッジも半端に熟れた分何時しか喪はれ、さうなると畢竟、自主臭い出来損なひの商業映画が残されるばかり。嗚呼さうだ、俺はかういふ荒木太郎が大嫌ひだつたんだ。あるいは、かうであるから荒木太郎が大嫌ひだつたんだなと、今更ながら再認識させられる一作。尤もかといつて、大蔵に梯子を外されたまゝ抹殺される―当サイト解釈―荒木太郎の現状を、是認する訳では無論ない。それとこれとは、話が別である。

 なり子が寛子への片思ひを二十年懐き続ける綺羅一馬と情を交す主眼?は、へべれけな尺配分ないし構成にも阻まれ、精々木に竹を接ぐ程度で凡そ満足なハイライトたり得てゐない。に、しても。仏本あけびの絡みの回数を増やすだけの方便で、なり子が吉岡睦雄相手に場当たり的な水揚げを済ませてしまつてゐる点は、矢張り粗雑に映る。この辺り、改めて三上紗恵子はホンット何にも考へずに脚本を書いてゐるのであらうし、どうせそれをそのまゝ撮る荒木太郎も荒木太郎。


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 「日本密姦拷問史」(昭和54/製作・配給:新東宝興業/監督:向井寛/脚本:宗豊/原作:漆川一二三/製作:伊能竜/撮影:鈴木志郎/照明:斉藤正明/音楽:芥川たかし/編集:酒井正次/記録:豊島明子/助監督:さのひでお/監督助手:滝田洋二郎・平川知良/撮影助手:遠藤実/照明助手:水本薫/効果:日本効果団/録音:東映東京撮影所/現像:ハイラボセンター/協力:昭和風俗研究会/配役:北条杏子《新人》・国分二郎・東祐里子・北沢ゆき・神原明彦・三重街竜・沢村国之介・川村とき・三村麻美・沢陽子・飛鳥美雪・岡崎由美・松井知子・向島明寛・松本年男・黒木正彦・渋谷春孝・滝沢洋次・伊吹徹)。さあて大変だ、何が。出演者中北条杏子が、ポスターでは何故か北乃魔子、ビリング頭からかよ。改名前後といつた話でさへなく、全くの真赤な他人である。更に北沢ゆきと、三重街竜から滝沢洋次までは本篇クレジットのみ。逆に、ポスターにのみ水島夕子・吉田純・大村英治・野崎とよの名前が、もう出鱈目ぢやねえか。ここで自信を持つて断言しよう、少なくとも識別可能な形で、吉田純は何処にも見切れてゐない。製作の伊能竜は、向井寛の変名、製作に入つてゐるのは向井寛と見てさうゐあるまい。脚本の宗豊は、向井寛が率ゐた獅子プロダクションの共有ペンネーム。
 土手越しに千切れ雲の浮かんだ空を舐め、“はくい”でない方の白衣の女が画面左から右に緩やかに歩を進める、足取りの覚束ないロング。女は手荷物から歯の欠けた櫛を取り出し、その土地の来し方を振り返る。曰く不義密通した者が、“男は打ち殺され”、“女は嬲りものにされたもんぢや”。“もんぢや”ぢやねえよ、のつけからブルータルな世界観がバクチクする。川面に絹を裂くよなどころか、耳をつんざく断末魔が轟いてタイトル・イン。タイトルバックは大勢の男に追ひ駆け回された末輪姦される一人の女を、一歩間違へば叙情的に捉へるスローモーション。
 明けて本格的な古民家の画から、末席に村の有力者・権藤(神原)と、駐在の宮田(三重街)が並んで座る宴席。代々刀匠の旧家・渋川家当主である玄造の、漸くの祝言。“男入りの儀”とか称して、玄造(伊吹)とみよ(北条)の初夜に仲人的な夫婦も同席。魚拓感覚で和紙にとつたみよの破瓜の印を、一同に披露すると大喝采。だなどと、グルッと二三周して破天荒な一幕に眩暈がするのも通り越す。馬面で貧相な主演女優の容貌はこの際さて措き、玄造とみよの仲も良好、平穏な村に、玄造の弟で博徒に身を落とした良二(国分)が不意に舞ひ戻つて来る。
 配役残り、清吉役とされる沢村国之介は、モブ的な頭数を除けばほかに大して抜かれる人間もゐないゆゑ、榊英雄ライクな玄造の弟子?東祐里子は、岡惚れした良二を追つて村に現れる、ex.女郎のかつ子。順番を前後してタイトルバックの女が北沢ゆきで、実は夫の弟子と密通した良二の母。即ち、腹ならぬ棹違ひといふ寸法。最後に残る名あり俳優部、かね役とされる川村ときは、アバンの白衣くらゐしか見当たらない。その他はなほ一層手も足も出ない中、向島明寛と滝沢洋次は見るから向井寛と滝田洋二郎の変名臭いものの、識別能はず。それと、もしかすると松本年男・黒木正彦・渋谷春孝の中に、幼少期兄弟役の子役が含まれてゐるのかも。
 評判のほどは知らないが、平成も終る―あるいは既に終つた―この期に及んで昭和づいた新東宝の路線に従ひ、小屋に着弾した向井寛昭和54年第一作。一応近代的な警察組織も存在してゐるやうではあれ、残虐な因襲の根深く残る山村を舞台とした、大時代的といふより寧ろ前時代的なメロドラマ。琴線の触れ処を探すのも俄かに難い女優部に対し、国分二郎・伊吹徹・三重街竜を擁したそれなりに重厚な男優部が、代つて映画を支へ抜く。向井寛もさういふ布陣を冷静に認識してゐたのか、中盤までは良二を間に挟んだ三角関係を描いてゐながら、かつ子退場後、最終的には相克する兄弟の姿に映画は軸足を移す。深手を負ひ追ひ詰められた良二を、玄造が自ら打つた名刀の一太刀でズバッと仕留めるや、国分二郎の仰け反つた体の隙間から強烈な逆光が差す超絶の構図に、アンチャーンなる国分二郎のシャウトを響かせる。予想の範疇を過らぬでもないダサさに一瞥だに呉れず、遮二無二突進する肉を斬らせて骨を断つが如きエモーションが鮮烈。一方、捕らへられた北条杏子が執拗に責められるシークエンスなんぞ、遂に一切一欠片もワン・カットたりとて存在しない、豪快な看板の偽り具合は最早清々しい。特段のクレジットもないまゝに、本格派の衣裳部も十全、時代ごとのアドバンテージを感じさせる。


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 「新妻 昼下りの男狂ひ」(1998/製作・関根プロダクション/配給:大蔵映画/監督:関根和美/脚本:関根和美・片山圭太・山本清彦/撮影:小山田勝治/照明:秋山和夫/編集:㈲フィルムクラフト/助監督:片山圭太/撮影助手:新井毅/監督助手:浜口高寿/スチール:佐藤初太郎/録音:シネキャビン/効果:東京スクリーンサービス/音楽:リハビリテーションズ/現像:東映化学/出演:冴月汐・悠木あずみ・風間今日子・やまきよ・樹かず・吉田祐健)。リハビリの位置が凄くもやもやするクレジットは、本篇ママ。
 麗しの七色王冠開巻から、新庄か新城か新条か兎も角シンジョー忠(やまきよ)と、職場結婚した新妻・つぐみ(冴月)の寝室にフェード・イン。積極的なつぐみに、忠が完全に押し切られる夫婦生活をひとまづ背完遂。早打ちし軽く凹む忠をつぐみが優しく励ます、かに見せて、朝の戸建ショットにタイトル・イン。精一杯力の限り勇往邁進好意的に曲解してどうでもいい朝食風景に長く尺を割いた上で、忠は同僚の沢田らが、目下専業主婦であるつぐみの様子を見たがつてゐる火種を投げる。忠を送り出し、エプロンをパージしたつぐみは思はせぶりに「沢田さんか・・・・」。となるとさういふ流れかと思ひきや案の定、劇中時制を何時しか溶解させる関根和美の得意技、ロンゲスト回想に突入する。
 配役残り樹かずが、真面目だけが取り柄の忠に対し、社内中の女子社員からモッテモテの沢田慎一。昼休み残り十五分、無人のオフィスにて―既に忠から求婚されてはゐる―つぐみが、つぐみの方から沢田を喰ふ。スリリングだか、無造作なのだか最早よく判らない一幕の大完遂を待つて、後輩二人に昼飯を奢つた忠が帰つて来る。後輩二人のうち、悠木あずみが牧子、遠目に見切れるのみのもう一人は演出部?吉田祐健は、女子大生時代のつぐみを凌辱する、行きずりのサディスト・吉永。最終的には粗悪なヒャッハー造形に足を引かれつつ、つぐみと再会するカット、黙したまゝでも滾らせる異質な迫力でその人と観客に知らしめる、背中の芝居が超絶。始終掌で転がす胡桃でオッパイを弄る、クリシェに一捻りを加へたメソッドも光る。風間今日子は、忠の援交相手・梨沙。失敗するにせよ、三番手に重要な送りバントを、決めさせようとした節は窺へる、失敗するにせよ。
 バラ売りex.DMMに新着した関根和美1998年第一作が、jmdb準拠でやまきよ(a.k.a.山本清彦)唯一の―共同―脚本作!ついでに薔薇族一本含む三作後の「未来性紀2050 吸ひ尽す女」(片山圭太と共同脚本/主演:浅倉麗)と、翌年の「制服淫ら天使 吸ひ尽す」(脚本:岡輝男/主演:麻丘珠里)、「ターミネーチャン」二部作まであと僅か。
 やまきよ唯一の脚本作に色めきたつたはいいものの、スッカスカの脚本を、無駄に美人な―ウエストもクッソ細い―主演女優のアンニュイが辛うじて補完する序盤は暫し我慢。補完出来てゐるのかといふ根本的な疑問も兎も角、結果的にその我慢は始終続いた末、見事に爆散する。結局どうして忠と結婚したのかが終に語られはしないつぐみが、改めて沢田を喰ふは沢田婚約者の座に登り詰めた牧子には、沢田の子を堕ろして捨てられたとか、出鱈目な嘘過去を吹き込む闇雲な大暴れ。梨沙との逢瀬を経て忠が帰宅すると、つぐみがまさかの自宅で吉永に犯されてゐる真最中。全体どうするんだこの展開、ここまでトッ散らかつた風呂敷、どうにもかうにも畳みやうがないぞ。一見完ッ全に詰んだ映画を、無理からといふほどパワフルにではなく、何となくか何が何だかな謎な勢ひで、丸め込んでみせるのが我等が関根和美の妙手。妙手といつて巧みな訳でも優れてゐる訳でも無論なく、奇妙奇天烈、ストレンジな手法といふ意味に於いてである。激怒する浜野佐知の幻影が脳裏に浮かぶのはさて措き、犯されながらも歓喜するつぐみの姿に、「優しいだけぢや駄目だつたんだ」と明後日か一昨日に大発奮した忠が、吉永に続きつぐみを犯す締めの濡れ場を通して、倦怠しかけた夫婦関係が修復される。黒を白どころか北と言ひ包めるやうな、しかも九尾のハイパワーな狐につまゝれたラストがグルッと一周して、あるいは呆れ果てるのも通り越して衝撃的。詰まるところ関根和美の関根和美たる所以、の一言で片付けてしまへばそれまでともいへ、脚本家多くして、山に登つたが如き一作。山に登つたといふか、谷に沈んだとでもいふか。

 最後に、jmdbに引き摺られたにさうゐないが、今作が関根和美と、何故か小山田勝治の共同監督作とする資料が散見される、けれど。ポスターは知らんが少なくともクレジット上は、普通に関根和美の単独監督作、誰も確かめるなり修正しようとは思はなかつたのか。尤も、その辺りのアバウトなりぞんざいな扱ひが、如何にも量産型娯楽映画的とでもいへば、いつていへなくもない。


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