「新妻 昼下りの男狂ひ」(1998/製作・関根プロダクション/配給:大蔵映画/監督:関根和美/脚本:関根和美・片山圭太・山本清彦/撮影:小山田勝治/照明:秋山和夫/編集:㈲フィルムクラフト/助監督:片山圭太/撮影助手:新井毅/監督助手:浜口高寿/スチール:佐藤初太郎/録音:シネキャビン/効果:東京スクリーンサービス/音楽:リハビリテーションズ/現像:東映化学/出演:冴月汐・悠木あずみ・風間今日子・やまきよ・樹かず・吉田祐健)。リハビリの位置が凄くもやもやするクレジットは、本篇ママ。
麗しの七色王冠開巻から、新庄か新城か新条か兎も角シンジョー忠(やまきよ)と、職場結婚した新妻・つぐみ(冴月)の寝室にフェード・イン。積極的なつぐみに、忠が完全に押し切られる夫婦生活をひとまづ背完遂。早打ちし軽く凹む忠をつぐみが優しく励ます、かに見せて、朝の戸建ショットにタイトル・イン。精一杯力の限り勇往邁進好意的に曲解してどうでもいい朝食風景に長く尺を割いた上で、忠は同僚の沢田らが、目下専業主婦であるつぐみの様子を見たがつてゐる火種を投げる。忠を送り出し、エプロンをパージしたつぐみは思はせぶりに「沢田さんか・・・・」。となるとさういふ流れかと思ひきや案の定、劇中時制を何時しか溶解させる関根和美の得意技、ロンゲスト回想に突入する。
配役残り樹かずが、真面目だけが取り柄の忠に対し、社内中の女子社員からモッテモテの沢田慎一。昼休み残り十五分、無人のオフィスにて―既に忠から求婚されてはゐる―つぐみが、つぐみの方から沢田を喰ふ。スリリングだか、無造作なのだか最早よく判らない一幕の大完遂を待つて、後輩二人に昼飯を奢つた忠が帰つて来る。後輩二人のうち、悠木あずみが牧子、遠目に見切れるのみのもう一人は演出部?吉田祐健は、女子大生時代のつぐみを凌辱する、行きずりのサディスト・吉永。最終的には粗悪なヒャッハー造形に足を引かれつつ、つぐみと再会するカット、黙したまゝでも滾らせる異質な迫力でその人と観客に知らしめる、背中の芝居が超絶。始終掌で転がす胡桃でオッパイを弄る、クリシェに一捻りを加へたメソッドも光る。風間今日子は、忠の援交相手・梨沙。失敗するにせよ、三番手に重要な送りバントを、決めさせようとした節は窺へる、失敗するにせよ。
バラ売りex.DMMに新着した関根和美1998年第一作が、jmdb準拠でやまきよ(a.k.a.山本清彦)唯一の―共同―脚本作!ついでに薔薇族一本含む三作後の「未来性紀2050 吸ひ尽す女」(片山圭太と共同脚本/主演:浅倉麗)と、翌年の「制服淫ら天使 吸ひ尽す」(脚本:岡輝男/主演:麻丘珠里)、「ターミネーチャン」二部作まであと僅か。
やまきよ唯一の脚本作に色めきたつたはいいものの、スッカスカの脚本を、無駄に美人な―ウエストもクッソ細い―主演女優のアンニュイが辛うじて補完する序盤は暫し我慢。補完出来てゐるのかといふ根本的な疑問も兎も角、結果的にその我慢は始終続いた末、見事に爆散する。結局どうして忠と結婚したのかが終に語られはしないつぐみが、改めて沢田を喰ふは沢田婚約者の座に登り詰めた牧子には、沢田の子を堕ろして捨てられたとか、出鱈目な嘘過去を吹き込む闇雲な大暴れ。梨沙との逢瀬を経て忠が帰宅すると、つぐみがまさかの自宅で吉永に犯されてゐる真最中。全体どうするんだこの展開、ここまでトッ散らかつた風呂敷、どうにもかうにも畳みやうがないぞ。一見完ッ全に詰んだ映画を、無理からといふほどパワフルにではなく、何となくか何が何だかな謎な勢ひで、丸め込んでみせるのが我等が関根和美の妙手。妙手といつて巧みな訳でも優れてゐる訳でも無論なく、奇妙奇天烈、ストレンジな手法といふ意味に於いてである。激怒する浜野佐知の幻影が脳裏に浮かぶのはさて措き、犯されながらも歓喜するつぐみの姿に、「優しいだけぢや駄目だつたんだ」と明後日か一昨日に大発奮した忠が、吉永に続きつぐみを犯す締めの濡れ場を通して、倦怠しかけた夫婦関係が修復される。黒を白どころか北と言ひ包めるやうな、しかも九尾のハイパワーな狐につまゝれたラストがグルッと一周して、あるいは呆れ果てるのも通り越して衝撃的。詰まるところ関根和美の関根和美たる所以、の一言で片付けてしまへばそれまでともいへ、脚本家多くして、山に登つたが如き一作。山に登つたといふか、谷に沈んだとでもいふか。
最後に、jmdbに引き摺られたにさうゐないが、今作が関根和美と、何故か小山田勝治の共同監督作とする資料が散見される、けれど。ポスターは知らんが少なくともクレジット上は、普通に関根和美の単独監督作、誰も確かめるなり修正しようとは思はなかつたのか。尤も、その辺りのアバウトなりぞんざいな扱ひが、如何にも量産型娯楽映画的とでもいへば、いつていへなくもない。
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