真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「若妻不倫 乱れてくねる」(1997/製作:小川企画プロダクション/配給:大蔵映画株式会社/監督:小川和久/撮影:図書紀芳/照明:秋山和夫/助監督:井戸田秀行/音楽:OK企画/編集:㈲フィルムクラフト/脚本:水谷一二三/監督助手:片山圭太/撮影助手:高場秀行・田宮健彦/録音:シネキャビン/効果:東京スクリーンサービス/現像:東映化学/出演:神無月蘭・工藤翔子・泉由紀子・久須美欽一・杉本まこと・神戸顕一)。謎の位置に配された脚本の水谷一二三は、小川和久(現:欽也)の変名。
 王冠開巻、赤バックにフレーム左から神無月蘭の横顔の影が倒れ、顔の天地が反対を向いた、久須美欽一の影が上から下りて来てタイトル・イン。照明が当たるとともに、カメラが引いてクレジット起動。タイトルバックは69、スタッフ先行の俳優部も全て通り過ぎた上で、正常位を一分強の暫し見せて監督クレジット。それだけ、感覚的には明らかに時機を失するほど引つ張るのであれば、いつそ完遂させてしまへばいいのに。
 摩天楼がカウンター右手でなく背中にあるゆゑ、何時もの仮称「摩天楼」ではなく、関根和美がよく使つてゐた印象が強い「美風」、バーテンダーは恐らく演出部。カメラマンの小山(久須美)が、夫が家を空けがちにつきテレクラで遊ぶ男を探す、人妻の麻紀(神無月)をヌードモデルとして口説く。頭の中身が髪の色よりも軽さうな麻紀が二つ返事で小山の誘ひに乗る一方、場面変つて沈痛な面持ちで書類を手にした泉由紀子が、「矢張りあいつ私達を騙してゐたのね」と飛び込んで来る。麻紀同様、小山の甘言に乗つたばかりに、顛末がてんで見えないが泡風呂に沈んだ真弓(泉)が、恋人で探偵の山内(杉本)に小山の身辺調査を依頼。報復の機運を高めつつ、四分半の大熱戦を最後まで完走する。劇伴がハーモニカが咽いでみたりなんかして、気持ち探偵物語調。
 配役残り神戸顕一が麻紀の配偶者で、家には限りなく土産と洗濯物を落としに来るに近い出張アディクト。風邪でも引いてゐたのか、大人しくアテレコしろよといふくらゐ声がガッサガサの工藤翔子は、小山の妻でモデルの山岸ユリ。二人で女を食ひ物にしてゐる格好の毒夫婦であるのだが、さういふ設定ならば、小川真実の方が一層適役に思へなくもない。
 気づくとex.DMMに残り弾も殆ど残つてゐない、小川和久1997年第二作。新作の配信が途轍もなく遅いのは、百歩譲らずとも津々浦々の小屋小屋との兼合ひもあれ、世辞にも積極的とはいひ難い風情を見るに、あまり売れないのかも知れないがもつと旧作も放り込んで欲しい。量産型娯楽映画は、手当り次第、遮二無二数こなしてからが本番。
 麻紀も入る小山のセカンドハウス兼ハウススタジオを、目出し帽マシーンと化した山内がガチ襲撃。ユリを菊まで散らせた挙句、パンティに捻じ込んだダイナマイト―ホントは発煙筒―で脅す形で、銀行口座から七八百万を強奪する。如何にもな焼き直しスメルは、単なる未見に過ぎないやうにも思へるものの今回は不発。小山とユリが吠え面をかく一方、真弓と山内は奪つた要は汚い金でバラ色の新生活、締めの濡れ場もこの二人で担ふ。ところで肝心要のヒロインはといふと、結局神顕との関係も生活に関する不満も一欠片たりとて変化のないまゝに、相変らずテレクラにうつゝを抜かす―テレクラ氏の声の主不明―のが、最早清々しいまでに底の抜けたラスト。今上御大の映画の底が抜けるのはこの期に驚くにも呆れるにも嘆くにも匙を遠投するにも値しないにせよ、裸映画的にはとりあへず安定、も微妙にしないんだな、これが。泉由紀子・工藤翔子と後ろにオッパイ部が控へてゐながら、顔面はデカい割にお胸は然程でもない主演女優が、如何せんノリきれない急所。誰かに似てゐる気が終始してゐたのは、最後の最後に漸く辿り着けた。この人、布袋寅泰と同じ顔をしてゐるんだ。


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 「5人の女 愛と金とセックスと…」(2019/制作:OKプロモーション/提供:オーピー映画/監督:小川欽也/脚本:水谷一二三/撮影監督:創優和/編集:有馬潜/録音:小林徹哉/音楽:OK企画/助監督:加藤義一/監督助手:小関裕次郎/撮影助手:高橋草太/スチール:本田あきら/整音:Bias Technologist/仕上げ:東映ラボ・テック/協力:東中野リズ子/お手伝ひ:鎌田一利/出演:涼南佳奈・水城奈緒・成沢きさき・初美りん・西森エリカ・平川直大・なかみつせいじ・姿良三・久須美欽一)。脚本の水谷一二三と出演者中姿良三は、小川欽也の変名。
 光岡早苗から小林悟が継いだのちに、大御大の逝去後は未亡人である東中野リズ子(a.k.a.雅仙よし/ex.隆見夏子)が更に引き継いだ、東中野のカラオケスナック的居酒屋「RiZ リズ」。初子からの呼称はマスターのオーナー・小島祐二(なかみつ)が、一応人妻ではある雇はれママの山田初子(涼南)と恐らく開店前に一戦オッ始める。とこ、ろで。二人から能無しだ―モノも小島とは―段違ひだと糞味噌に痛罵される、初子の夫はといふと。当の五平(平川)が引き戸の隙間から、妻と余所の男の情事を目撃してゐるにも関らず、怒鳴り込みも出来ず情けない面で涙ぐんでゐたりする。激しく突かれる初子がアヒンアヒンする弾みで、スッポ抜けた靴がものの見事に五平を直撃。気づかれた五平が何故か謝つたのを笑はれつつ敗走した上で、広く眺望した伊豆の空にタイトル・イン。五平の卑小さと、伊豆スカイの雄大さとを対照させる地味に秀逸な繋ぎもさることながら、世界的スーパースター我等のナオヒーローが、カッコ悪い芝居も実にサマになる。結論を先走ると、以降平川直大が素面でカッコいい場面が何処かあつたつけ?といふのは、当サイトは知らん。
 タイトル明けて我に返つた五平と、野ションしてゐた二番手が雑に交錯するのは、水城奈緒の口跡がへべれけで何をいつてゐるのか全く判らず、多分単なるか純然たる蛇足。“数日後”、後々の遣り取りを聞くに、五平とは結局離婚した初子とアバン時点で既に元嫁とは別れてゐた小島の、小島家に於ける新型夫婦生活。どうやら小川欽也の民法典では、待婚期間の規定が早々と削除されてゐるらしい。まだ籍は、入れてないのかも知れないが。とも、かく。涼南佳奈となかみつせいじの通算二回戦を今度は大完遂して、舞台は

 伊豆。

 そして伊豆、だから伊豆。兎にも伊豆、角にも伊豆。伊豆といつたら伊豆、犬が西向きや尾は伊豆。伊豆・イズ・伊豆、伊豆・オブ・伊豆。全ての道は、当然勿論絶対伊豆に通ず。死去した伯父―遺影も見切れず―が営んでゐた、劇中民宿とされる御馴染白壁の宿「花宴」に招いた五平に、“村長”の胸章をプラ提げた判り易い村長(久須美)は遺言によつて五平が花宴と、良質の檜が採れるゆゑ時価三十五億の山林を相続した旨、棚から牡丹餅の流星群を降り注がせる。
 俳優部残り、五平が早速購入したプジョーのオープンカーで再登場する水城奈緒は、元々五平がファンであつたとかいふ設定が藪蛇なストリッパー、と来ればこの際判で捺したやうにリリー。姿良三は、定番の花宴番頭。そろそろそのポジションは、加藤義一に禅譲して罰は当たらないのではなからうか。姿良三の顔見せ挿んで、成沢きさきは花宴に五平を訪ねて来る、元「RiZ リズ」のホステス・良江。最初字面で星美りかと混同してゐた、加藤義一2018年第一作「さかり荘 メイドちやんご用心」(しなりお:筆鬼一/主演:佐倉絆/三番手)以来の二戦目となる初美りんは、逆に五平を座敷に招く格好の、伊豆随一を謳はれる芸者・とみ、着物の着つけグッダグダなんだけど。所属は吉野屋、芳野屋かも。ポスターには軽く佐々木基子似に映る西森エリカは、学会疲れの湯治に訪れた伊豆にて、荒淫の果て激しく衰弱した五平に頼られる女医・春日千代。
 大金持ちといふには流石にゼロが一つ足らないやうにも思へる、藪から棒に小金持ちになつた男に、群がる女達が次々膳を据ゑる。良江に明確に斥けられた初子はまだしも、ビリング頭を倒した良江はリリーの再々登場に伴ひ消失でもしたかの如く退場し、リリーとの対決からやがて共闘に至るとみも、千代に道を譲る形で矢張り二人とも消え失せる。要は女優部が全員絡み要員に等しい状況ないし扱ひにつき、伊豆映画2019は、全人類大好きナオヒーローの堂々たる主演映画。では、確かにあるものの。
 抱かれたい男百年連続ナンバーワン、平川直大の銀河系待望の最新主演作―その前は薔薇族が何かあるぢやろ―とはいへ、五平の野郎はといふと女々に所詮は有難味を知らない泡銭を橘高文彦のピック感覚でバラ撒き、ポップに鼻の下を伸ばすか生唾を呑むばかり。挙句主にリリーの箍の外れた性欲に屈しては、息も絶え絶えに消耗する始末。徹頭徹尾ダメで見るべき点の見当たらない好色漢に過ぎない五平が、人間性なり人生の意義を取り戻す展開に恵まれるでも特になく、今をときめかない荒木太郎作で豪快にカッ飛ばした、骨太のエモーションを撃ち抜く見せ場も存在しない。反面、髙原秀和大蔵三作と加藤義一2019年第二作「人妻の吐息 淫らに愛して」(脚本:伊藤つばさ・星野スミレ/主演:古川いおり)を経ての、五戦目となる涼南佳奈はとりあへず安定し、ガンギマリにメリハリの効いた爆裂ボディを誇る水城奈緒を筆頭に、二三四番手も裸映画の高水準をキープする。断じて看過してはならないのが、とみが五平にいはゆるワカメ酒を実地でレクチャーする件に際しては、かなり際どいショットにまで、ノー修正で踏み込んでみせる。小川欽也が、今なほ攻めてゐる。そして、クルンックルンの巻き髪が、安手のキャバ嬢程度にしか見えない西森エリカ。五平に縋られた千代は、新田栄よりも起伏を欠いた平坦さで自身の肉体を捧げる。その流れでの、締めの濡れ場の導入が凄まじい。EDの肉弾治療が功を奏した、ナオヒーローの勃起が知らず知らず浴室の扉を叩いて、千代がワンマンショーに戯れる風呂を覗いてゐたのが気づかれるだとか、小川欽也ガチのマジで天才だろ、もしくは紙一重の惜しい御仁。しかも、あるいはとはいへ。そんな底抜けに素敵なシークエンスに、ルックスのみならず、鼻を鳴らすメソッドも微妙に古臭い西森エリカを配するのは、何気に超絶のジャストフィット配役。最終的に伊豆の景勝地「さくらの里」にて、病院の建設を約し求婚した五平と、千代が目出度く結ばれる都合のいいハッピーエンドが、伊豆以外、何も足してはゐないが何も引いてゐない訳では、必ずしもないやうな気もする量産型娯楽映画を、力技で麗しく締め括る。


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 「不倫日記 濡れたまゝもう一度」(1996 夏/製作:国映株式会社/配給:新東宝映画/監督:サトウトシキ/脚本:小林政広/企画:朝倉大介/撮影:西久保維宏/音楽:E-tone/編集:金子尚樹《J.S.E.》/照明:南園智男/助監督:女池充/監督助手:坂本礼・森元修一・松岡誠/撮影助手:佐久間栄一・市川修/制作:島田剛/現像:東映化学/タイミング:安斉公一/タイトル:道川昭/ポスター撮影:青野淳/録音:ニューメグロスタジオ/効果:藤本淳・時田滋/スチール:スタジオ601/協力:細谷隆弘・今岡信治・アウトキャストプロデュース・タコプロ・山崎光太郎/出演:葉月螢・泉由紀子・佐野和宏・小林節彦・島田剛・榎本敏郎・戸部美奈子・伊藤猛)。藤本淳の名前が、時田滋よりも先に来てゐる。
 吊皮を握る、左手の薬指には指輪が。「恥づかしいことからお話しなければいけません」、と葉月螢のモノローグ起動。広告代理店に勤務する、夫の相沢か相澤クニオ(伊藤)を送り出す他愛ない朝の風景挿んで、小説家志望の久美子(葉月)が、新宿のカルチャー教室に通つてゐる旨まで語つてタイトル・イン。その日の受講を終へた久美子に、講師の及川(佐野)が声をかける。自らがある雑誌の新人賞選考委員とか、ありがちな方便を垂れる及川は久美子の買物について来た挙句、シーツを替へたばかりといふ話を聞くに、買物どころか家にまでついて来て久美子を抱く。に至る、越える壁の正直高い顛末は、ピンク映画の文法を駆使しザクッとしたカット跨ぎで切り抜ける。及川と久美子の関係が続く中、二人の仲に気づいた、元々及川と関係を持つてゐたこちらは独身の青木アキコ(泉)が、あらうことか相沢家に乗り込んで来る。葉月螢と、泉由紀子。業の深さうな女優部二人の対峙を、真正面のショットを連ね否応なく緊迫感を高める遣り取りを経て、アキコは作家は地獄を描く者だなどと、配偶者以外の男を久美子に勧める。初心なのか馬鹿なのか、アキコの煽惑をまんまと真に受けた久美子は、狐につまゝれた風情の相沢から、浮気の公認を取りつける。
 配役残り島田剛のゼロ役目?は、カル教の入つた建物の入口で、ボーッとしてゐる及川を突き飛ばすグラサン。果たして、そこでこの人を見切れさせる必要が本当にあつたのかといふ何気な疑問は、最終的には十万億土のそれ以前に弾き飛ばされる。久美子と魚居酒屋「おのこ」から出て来る小林節彦は、及川に逃げられ“浮気の日”がボウズに終りかけた久美子の、行きずりの男・志村。魚気取りで律儀に釣られ突つ込んでおくが、“男の子”の意のオノコであるならば、正しくは“をのこ”である。閑話休題榎本敏郎と戸部美奈子は、久美子と志村が青姦をカマす、茂みの脇を通り過ぎる男女くらゐしかそれらしき人影も見当たらない。仮にだとすると、戸部美奈子が結構どころでなくスタイルがいい。改めて島田剛は、お腹の子の父親でもある、アキコとフィリピンに飛ぶ情夫。
 久々にバラ売り素のDMMで正調を洒落込むかとしたところ、途中でサブスクのピンク映画chに改題されたインターフィルム版が入つてゐるのに気づき、愕然とした国映大戦第三十二戦。既に一般映画に片足突つ込んでゐたサトウトシキの、1996年唯一作。第九回ピンク大賞に於いてはベストテン一位を始め、小林政広の脚本賞、葉月螢と佐野和宏のそれぞれ女優賞・男優賞と華々しい戦績を挙げてゐる。
 葉月螢独特の浮遊感を如何なく活かした、ふはふはした始終が一転硬質のフィルム・ノワールに正しく劇変する、起承転結転部の衝撃が何はともあれなハイライト。小林節彦が刻む重たいビートの援護も借り、それまでの低俗な好色漢の間抜け面をかなぐり捨て、キメッキメにエッジの効いた佐野らしい佐野を取り戻した佐野和宏のアグレッシブな色気が、少々で済まない大飛躍をも頑丈に固定する。とこ、ろが。最後の標的が、最初の標的と同じ演者であつたりする巨大な不可解なり無理が挽回不能のアキレス腱。伊藤猛の―映画的に―無様な死に様が火に油を注ぎ、たかが対二人の因果応報のために、飛行機一機消失させる粗雑か乱暴な大惨事が止めを刺す。直截に片付けると、1996年はそんなにピンク低調大不作の一年であつたのか!?いや、流石にそこまでではなからう。といふ多分に過大評価された一作ではあれ、今の目で見ると新鮮なのが、頭数こそ一枚少ないものの、葉月螢と泉由紀子の裸はふんだんに見せ、文字通りの締めの濡れ場にも、案外なスマートさで突入してのける。何のためにピンクを撮つてゐるのか判らない、今時の外様オーピーよりは余程誠実な裸映画であるといふのが、この期に受けた偽らざる新鮮な印象。に、しては。クニオとアキコの新型夫婦生活に、アテられた久美子が傍らでワンマンショーをオッ始める件。恐らく撮影部の影がザクザク映り込んでしまふのは、プロの仕事らしからぬ稚拙なお粗末。


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 「不倫ベッド パンティあそび」(1994/製作:小川企画プロダクション/配給:大蔵映画株式会社/監督:小川和久/脚本:池袋高介/撮影:伊東英男/照明:秋山和夫/音楽:OK企画/編集:金子尚樹 ㈲フィルム・クラフト/助監督:井戸田秀行/監督助手:佐々木乃武良/撮影助手:郷田有/照明助手:佐野良介/編集助手:網野一則/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学/出演:小川真美・水鳥川彩・西野奈々美・久須美欽一・神戸顕一・姿良三・杉本まこと)。出演者中、真実でない小川真美は本篇クレジットまゝ。
 漫然と撒かれた、個別的具体性を排した下着姿のスナップにタイトル開巻。最初の画をそのまゝ動かしもせず完走する、タイトルバックの横着さがある意味清々しい。お乳首に当てられる、電動歯ブラシ。ラブホテルでの仮称「摩天楼」ママの恵子(小川真美/但し主不明のアテレコ)と、情夫・健一(杉本)の初戦対面座位を中途で端折つて団地ショット。土手を浮かない顔で歩くタチバナ夫人(西野)に、御近所の恵子が声をかける。パートを馘になつたタチバナは摩天楼で働かせて貰へまいかと求めるが、摩天楼の景気も決して芳しくはなかつた。とか何とかな外堀をユルッと埋めて、健一発案で摩天楼はブルセラスナックに様変り。店内のそこかしこに如何にも如何はしいスナップが貼り散らかされ、恵子は常連客の桜井(久須美)に、タチバナのパンティをデート料込みの二万五千円で売る。無防備といふか、何て危なかしい店なんだ。
 配役残り水鳥川彩は、自身の情婦である恵子と、恵子が連れて来たタチバナに続き、健一が調達するブルセラ要員・スズコ。会話を窺ふに、ex.JKのプロ。一旦切札を担ふかに思はせた神戸顕一は、エイシュク学園の制服を売つたタチバナを、尾行する男。そして小川和久の変名である姿良三は、画面奥から神顕・久須りん・杉まこが並んだカウンター背後のボックス席から、スズコのデート料込みパンティを三万五千まで釣り上げるものの、桜井の四万円に潰される男。晴れて桜井が競り落としたパンティを覗き込むフォローも麗しく、何気に芳醇なシークエンスではある。
 対面座位で西野奈々美が久須美欽一に、「ねえオッパイ、オッパーイ」。ピンク映画史上最高の神々しい名台詞が唸りをあげる、小川和久1994年第四作。要はパンティが食玩に於けるガム感覚の、ブルセラどころか売春スナックの様相を水が低きに流れるが如く呈した摩天楼が、かといつて摘発される程度のオチがつくでなく。見た感じ西野奈々美が頭でおかしくない感じがするビリングに対する疑問さへさて措けば、安穏と女の裸で尺を埋める良くも悪くも安定した裸映画。とは、いへ。突発的に輝き、かける瞬間が確かになくもなかつた。行動自体は全力不審者ながら、ピュアな面持ちで神戸顕一が飛び込んで来た際には、高校時代岡惚れを拗らせてゐたタチバナに、神顕が不純な純情を撃ち抜くエモーショナルな一発逆転展開も予想させた、のだけれど。結局神戸顕一が―別に見ず知らずの―タチバナの自宅を急襲し制服撮影会を強行したかと思へば、それだけに止(とど)まらず普通に手篭め。にした挙句、事後はタチバナがその時穿いてゐた下着は記念と称して強奪しつつ、また誰かに売れとエイシュクの制服は置いて行く始末。神戸顕一が全うな制服クラスタですらない無頓着さと、痛い目に遭つたにも関らず、パンティ越しに電歯を当てるタチバナが、商品の仕込みに相変らず余念のないラストの無造作さこそがイズイズムのイズイズムたる所以。そもそもパンティで遊ぶのは兎も角、タチバナ家の夫婦関係は全く以て稀薄で、不倫感は霞よりも薄い。


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 「好色男女 セックスの季節」(2019/制作協力:映像集団マムス/提供:オーピー映画/脚本・監督:佐々木浩久/撮影:鏡早智/録音:臼井勝/編集:大永昌弘/スチール・劇中写真:宮沢豪/助監督:島崎真人/監督助手:中田円凛/編集助手:磯野友宏/劇中映画:『RETURN -a return of pain-』《8mm 1985年作品》 監督 森永憲彦 出演 佐々木浩久・『絶倫謝肉祭 奥まで突いて!』《オーピー映画 2017年作品》 監督 佐々木浩久 出演 しじみ 木村友貴 もがきかんと/仕上げ:東映ラボ・テック《株》/ロケ協力:上野オークラ劇場・目黒エンペラー/出演:栄川乃亜・川菜美鈴・高梨りの・長谷川千紗・小坂ほたる・野田博史・石川雄也・内堀太郎・折笠慎也・中野未穂・飯島洋一・久保新二・しじみ・佐々木浩久・滝本ゆに・木原浩勝・小林宏史・金剛地武士)。
 D/W グリフィスの弁なんて小癪に引いて、目黒エンペラーでの女優志望のナナ(栄川)と、不倫相手・長崎(金剛地)の逢瀬。満足に寄りもせず、体躯の緩んだ男優部がラーララ何か歌つてやがつたりする情けない濡れ場は中途で端折り、窓辺の栄川乃亜の横顔にタイトルを叩き込む。
 形程度の物語しかないゆゑ、サクサク配役残り。佐々木浩久の配偶者である滝本ゆには、家賃を三ヶ月溜めたナナを、頑なに捕まへたくないかの如く、最短距離でなくわざわざ周回して追ひ駆ける大家、バターにでもなればいい。長谷川千紗は、ナナを撮影する写真家・千草、百合の花を咲かせる。内トラらしいが、頻出する屋上のカフェでナナに詰め寄り、掌をカッ切る若い男の正体に辿り着けない。内堀太郎は、ナナが役を求めて接触する、インディーズ系の映画監督・沢木隆太。捌けた風情の沢木マターでナナと入る、矢張り目黒エンペラー。絡みのカットが唐突に切られると、カメラが高速パンする二人は監督セルフと録音部セルフ、木に竹も接ぎ損なふ。川菜美鈴と野田博史は、一応芸能事務所に所属してはゐる由美と、社長の黒沢。事務所が命運を賭ける、ロフトの一室に貼られたポスターにのみ登場の新人女優・長瀬真知は三番手のゼロ役目。流石にこの御仁が出て来ると場面がピンクの相を取り戻す、久保新二は長瀬真知を売り込む目的の枕営業を由美が強ひられる、湾岸放送局プロデューサー・梅園、マン拓を集めるのが文字通りのライフワーク。十八番芸のマシンガン話術とアシャシャ笑ひも披露する久保チンが、山本淳一の「マジカル・セックス 淫ら姫の冒険」(2018/脚本:大畑晃一・山本淳一/主演:阿部乃みく)以来。よしんば一時的であつたとて、外様の映画を復活させるのも構はないが、本隊作にも出て貰へないものか。偶さかミーツしたナナも交へての、由美の対梅園二回戦。ナナのマン拓に感激した梅園が昏倒、小林宏史は、その状況を収束させるために現れる掃除屋・狼。問題が、狼到着、ところが梅園が実は未だ死んではゐなかつた更にやゝこしい修羅場に闖入する、事前に梅園が注文してゐたシャンパンを持つて来る、メイド衣装のルームサービス・長瀬真知子が改めての高梨りの。仕方のない安普請ともいへ、長瀬真知との関係性は不明。折笠慎也は、由美に寄生するクソ元夫・恭一。何気に石川雄也名義は荒木太郎2014年第二作「巨乳未亡人 お願ひ!許して…」(主演:愛田奈々)ぶりともなる石川雄也は、女優喰ひで悪名を馳せる映画監督・園山ユージ。因みに、石川雄也がその昔「性戯の達人 女体壺さぐり」(1999~2000/監督・脚本:園子温/主演:夢乃)にも出演してゐる魚雷キャスティングが、辛うじてのハイライト。ところで佐々木浩久のピンク筆卸作「絶倫謝肉祭」が、観た者を狂はせる映画として図々しく登場。「絶倫謝肉祭」について語る、上野オークラ支配人が白石雅彦で、しじみは女優Sと称したハーセルフ、木原浩勝も怪異蒐集家のヒムセルフ。中野未穂は、ナナに話を訊くインタビュア。そしてこの人の重用が全く意味が判らない小坂ほたるは、間柄が見えないけれど兎に角ナナと寝る大石健太と、未払ひのギャラを、ナナに届けに来る風船ブス・香苗の二役、造花の百合を咲かせる。中途半端に重い役を担ふ佐々木浩久も、大体ヒムセルフ。御当人いはく三十五年ぶりの特大復帰を遂げた、高原秀和大蔵第二作「トーキョー情歌 ふるへる乳首」(2018/脚本:うかみ綾乃・髙原秀和/主演:榎本美咲)に続く飯島洋一は、由美の枕探しにすんでで気づく男・関川。後述する、佐々木浩久次作にも出演。
 二週間後に、多分二本撮りした2019年第二作が控へてゐる佐々木浩久ピンク映画第三作。新作の封切りが三ヶ月止まつた今年も、八月末に第五作が待機してゐる。
 大して意味もないサブタイトルを乱打して散文的に綴る、世界を壊す映画だとか、ヒロインが永遠とやらに辿り着くまでの独り善がりな顛末。ゴダールの「男と女がゐる舗道」(1962)の翻案とのことだが、一言で片付けると

 知るか。

 脆弱な俳優部と、撮影部も冴えなり切れに欠き、直截にうんともすんともピクリとも、面白くも何ッともない。上映開始直後、後ろの方でワーワー喧しく喋つてゐたハッテン勢が、ほどなく沈黙したのはおとなしく寝落ちたにさうゐない。そもそも面白くない詰まらないの遥か以前に、佐々木浩久が、例によつて碌にですらなく乳尻に拘泥するでなく。長谷川千紗が独力で突つ込んで来るでなければ、榊英雄同様、女の裸を椅子や机と殆ど変らないやうにしか撮れない人間に、ただでさへ大した数でもない枠を割く意義が、今作に即してより直截にいふと、佐々木浩久のゴダールごつこに、大蔵が金を出す理由が旧弊な当サイトには甚だしく理解に遠い。梯子を外した荒木太郎を抹殺し、池島ゆたかは何時まで日に当ててゐるのか、とうにホッカホカだろ。ついでといふのも何だが、行方不明の小山悟は何処に行つた。然様な腰どころか首も据わらない体たらくだから、加藤義一や竹洞哲也の育成にも失敗したんだ。失敗したのかよといふのと、国沢実に関しては忘れたフリ。


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 「色欲乱れ舞」(1995/製作:ピンクパイナップル/監督:関根和美/脚本:大竹康師/プロデューサー:御前順一・松島富士雄・佐藤靖/撮影:川井英幸/照明:金子雅勇/美術:小林和美/録音:杉崎喬/編集:酒井正次/記録:津島由起江/結髪:広川日出明/助監督:小波津靖/制作担当:坂井茂樹/監督助手:安原正恭・西海謙一郎/撮影助手:滝彰志・細野正道/照明助手:水野良昭・里舘統康・関口賢/美術助手:松永一太・稲村彰彦/編集助手:利光英樹・伊藤伸行/衣裳:山田伸太郎・笹森繁子/美粧:葭葉透子・高山初香/スチール:石郷岡徹/制作主任:豊岡英郎/制作進行:太田圭祐/EED:村仲康太郎/音楽:エレファンカンパニー/協力:アール・ユー・ピー、奥松かつら、東京衣裳、しみず工房、KSSスタジオ、ニューメグロスタジオ、日本照明、フィルムクラフト、東映化学/制作協力:エクセレントフィルム/出演:水野さやか・野口恒也・加藤陸子・木下雅之・西田ももこ・石原直哉・羽田共持・下山栄・平賀勘一・吉行由美・キクマプロダクション・小竹林早雲)。
 フォントを共有まではしないが、製作とプロデューサーに脚本と監督の全作共通前クレに、何故か怪談映画みたいなタイトル・イン。藪蛇さが、堪らない。いきなしドブッシャと判り易い音効鳴らし、足元に鮮血が散る。林道にて、潰れた札差「濱屋」の元番頭・伝蔵(野口)が、超絶の偶然で出くはした小間物問屋「もみじ屋」の主人・弥兵衛(小竹林)を刺す。五年前、懇ろになつた伝蔵と濱屋の娘であるおみつ(西田)が乳繰り合はうかとしてゐたところ、人の気配が。伝蔵が襖の向かうに身を潜めると現れたのは、二人の交際を認めてゐない濱屋の主人、ではなく当時賊であつた弥兵衛。脊髄で折り返す速さで弥兵衛がおみつを手篭めにしかける一方、遅れて現れた弟分の猪吉か亥之吉とか伊之吉系(木下)は、離脱を焦り兄貴に勝るとも劣らない拙速さでおみつを斬り、折角の絡みを摘む。一件を機に濱屋は店を畳み、おみつとの仲を咎められるかのやうに、伝蔵はゐられなくなつた江戸を離れる。話を戻してそれではもみじ屋はといふと、弥兵衛の帰りを待ち侘びる、女房のお結(水野)が息を吐くが如くワンマンショーに耽る気も知らず、番頭の猪吉とおもん(加藤)は、夫婦生活の嬌声で女将さんの焦燥に火に油を注ぐ。濱屋から奪つた金を山分ける当初予定を弥兵衛に覆され、望みもしない番頭稼業に燻る猪吉は、兄貴不在となるとお結に対し平然と牙を剝く中、手荷物から弥兵衛の素性を掴んだ伝蔵が、お結にもおみつと同じ目に遭はせるべく江戸に舞ひ戻つて来る。
 手も足も出ない名前は潔く諦める配役残り、平賀勘一と吉行由美は、伝蔵の弥兵衛殺害を目撃する夫婦(めをと)。前作に引き続き、不脱の吉行由美は抱きつかれもせぬまゝ殺され、対平賀勘一に於いての伝蔵はスリーパーからチョークで首をヘシ折る、大雑把な戦闘力を披露する。あとは下山栄が、ラストに登場する同心部。三作のうち二作に出演する俳優部が計八人ゐるにも関らず、誰一人トリロジー皆勤を果たす者がゐない点に関しては、寧ろさせてなるものかといはんばかりの、謎の鉄の意思を感じてみたり。
 VHSのジャケット題は普通に「大江戸淫乱絵巻 色欲乱れ舞」である割に、本篇タイトルはあくまで下の句のみの三部作最終作。この辺りの無頓着なちぐはぐさが、何となく琴線を甘噛みしなくもない。
 復讐を起点にしないと物語を構築出来ないのか、といふ根源的な疑問はさういふコンセプトと呑み込むとして。一旦含め、主要キャストが全員死ぬ徒な血生臭さが、一にも二にも「色欲乱れ舞」最大の特徴。ザックザク死屍累々が築かれる、粗削りの展開は一見闇雲な勢ひも錯覚させつつ、如何せん厳しいのが男主役を担ふ野口恒也の薄く軽く、過剰さが芸にならない駄メソッド。「こいつ死んでなかつたのか!?」の衝撃も、野口恒也に引き摺られたか関根和美の演出自体―か演者自身―の問題なり限界か、他愛ないヒャッハ造形に堕し鼻白む。行水中のお結が襲撃される一連の件は女の裸と、美術部が奮闘する風情とを両立させた名濡れ場たり得ておかしくなかつたところが、伝蔵が顔面を素頓狂に歪める、子供も騙せないオーバー・アクトに激しく水を差される。何れ菖蒲か杜若、キャラクター的にはコーヒーでいふとアメリカンながら、加藤陸子も水野さやか共々たをやかな肢体を誇れど、普段ピンクに触れてゐる目からすると、地味に肝心の介錯役を務める木下雅之も木下雅之で、決して絡みが達者とはいひ難い。乳を揉む手もぎこちない、逆マグロの大根では話にならず、かといつて、徒に前に出て来られても困る。この辺りの女優部と男優部の天秤加減は、偶さかなラックを除けば、さうさう最適解は見つかるまい永遠の難問でもある。バラ売りex.DMMで関根和美の大江戸淫乱絵巻を完走した概評としては、明後日にも正方向にも、ベクトルの絶対値が最も大きいのは第一作「復讐篇」。良くも悪くも纏まつてはゐるのが第二作「敵討篇」で、「色欲乱れ舞」はキャスティングに難のある惜しい、もしくは残念な一本といふ印象である。

 ビリング頭二人がどうも林由美香と平勘のアテレコ臭く聞こえたものの、断言するに足るだけの自信には至らず。


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 「大江戸淫乱絵巻 敵討篇」(1995/製作:ピンクパイナップル/監督:関根和美/脚本:如月吹雪/プロデューサー:御前順一・松島富士雄・佐藤靖/撮影:川井英幸/照明:金子雅勇/美術:小林和美/結髪:広川日出明/録音:杉崎喬/編集:酒井正次/記録:津島由起江/助監督:小波津靖/制作担当:坂井茂樹/監督助手:安原正恭・西海謙一郎/撮影助手:滝彰志・細野正道/照明助手:水野良昭・里舘統康・玄弘明/美術助手:松永一太・稲村彰彦/衣裳:山田伸太郎/美粧:葭葉透子・高山初香/スチール:石郷岡徹/制作主任:豊岡英郎/制作進行:太田圭祐/EED:村仲康太郎/音楽:エレファンカンパニー/協力:アール・ユー・ピー、奥松かつら、東京衣裳、しみず工房、KSSスタジオ、ニューメグロスタジオ、キクマプロダクション、日本照明/制作協力:エクセレントフィルム/出演:森原由紀・浜田まき・飯島大介・中満誠治・吉行由実・岡島博徳・倉田昇一・梅田弘次・樹かず・森田夏姫・藤井友美・皆川衆・小川真実・並木史朗)。出演者中吉行由実が、VHSのジャケットには吉行由美。
 ぼんやりと横たはる遊女のお冴(森原)に、樹かずの声が「もう夏だつてのに今日はやけに冷えるな」と語りかける。客の男(樹)に向かつて身を起こしたお冴は、「今に暑くさせてあげるよ」。ところが前を肌蹴た樹かずの左肩に、大きな火傷の跡を見つけたお冴は衝撃に固まる。訝しむ樹かずに答へて、「今夜みたいに底冷えのする夜だつたよ」。端的に筆を滑らせると、とても如月吹雪―か関根和美―とは思へないくらゐ綺麗に入る、十五年前の回想。何某かの商家に、四人組の賊が押し入る。気配を察した両親(皆川衆と小川真実)が、当時十歳のお冴(多分森田夏姫)と四つ下の妹・お多恵(恐らく藤井友美)を襖の向かうに逃がした寝室に、四人組到着。小川真実がリーダー格以外の三人から手篭めにされる初戦を経て、金の所在を吐いた皆川衆は清々しい即座さで斬られ、先に撤収した三人が何故か残して行つた長ドスを抜いた小川真実も、サクッと返り討たれる。遂に飛び出したお冴は、襟元を掴んだリーダー格の左胸に件の火傷跡を認めてゐた。その後生き別れることになるお多恵が、特定不能の男優部に手を引かれて行くロングに総尺の五分の一を費やす、十二分強と結構長いアバンを経てのタイトル・イン。今でもお冴はお多恵を捜すのと並行して、客の体に火傷跡を探してゐた。
 例によつて辿り着けるだけの配役残り、並木史朗は材木問屋の大黒屋で、浜田まき(ex.川上裕子)が大黒屋の女房の座に納まつてゐたお多恵。吉行由実は、お冴の女郎仲間・お千代、ジャケに名前が載る割に不脱。あるいは、それだけのネームバリューを見込まれた格好なのか、脱がないなら詐欺に近いのだけれど。閑話休題中満誠治(大体ex.中満誠治が杉本まことで、ex.杉本まことがなかみつせいじ)は、お冴馴染客の遊び人・新八。そして飯島大介が、新八が出入りする賭場の代貸・喜平か喜兵衛か、嘉平系かも。
 1996年の四五六月に月一でリリースされてゐた、関根和美の「大江戸淫乱絵巻」第二作。好評を博してにしては早過ぎるといふ以前に、クレジットを見るに製作自体は前年で、端からトリロジーとして企画されてゐたものと思はれる。正味な話、復讐篇と敵討篇とで何がどう違ふのかといふのは、大江戸淫乱絵巻を謳ひながら会津が舞台の前作とは次元から違ふレベルでの、プリミティブなツッコミ処、中華そば篇とラーメン篇といふのと変らん。
 一見多さうに見えて、核を担ふ部分では然程ですらない頭数で挑む、両親の敵捜しは脇目を振るほどの余裕もそもそもない一本調子とはいへ、丁寧な作劇で、何となく乗り切る。刀を抜いた与力を渡世人が五寸釘一本で倒す、卓袱台を引つ繰り返すのに畳からヒッ剥すかの如く派手なチャームポイントは、姉妹が一夜にして出家どころか、得度まで済ませてゐたりするインスタントな豪快さを除いて見当たらない。乳房感のあるオッパイを誇る森原由紀と浜田まきの裸は、完遂率の低さは呑み込むと質的にも量的にも十全に愉しませる。尤も、新八と大黒屋に入つて以降、展開上お冴の絡みを設けやうがなかつた。即ちビリング頭は固より、よしんば二番手に譲つてでさへ、物語の最たる盛り上がりに然るべき濡れ場を持つて来れなかつた点は、Vシネにせよ裸映画的には確実に厳しい。二の足を踏むのを新八に無理から引き摺られる形で、お冴が大黒屋を訪ねてみると使用人でなく、いきなりお多恵が出て来る関根和美らしい無造作さは兎も角ズッコケ要素も概ねないものの、中根徹が押し殺したレイジで中満誠治に牙を剥く、思はずハッとさせられる名場面にも乏しい。一作目よりもよくいふとまあまあ纏まつた、あるいは直截には、粒の小ささも否めない第二作ではある。


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 「大江戸淫乱絵巻 復讐篇」(1995/製作:ピンクパイナップル/監督:関根和美/脚本:如月吹雪/プロデューサー:御前順一・松島富士雄・佐藤靖/撮影:川井英幸/照明:金子雅勇/美術:小林和美/録音:杉崎喬/編集:酒井正次/記録:津島由起江/結髪:広川日出明/助監督:小波津靖/制作担当:坂井茂樹/監督助手:安原正恭・西海謙一郎/撮影助手:滝彰志・細野正道/照明助手:水野良昭・里舘統康・玄弘明/美術助手:松永一太・稲村彰彦/編集助手:利光英樹・伊藤伸行/美粧:葭葉透子・高山初香/スチール:石郷岡徹/制作主任:豊岡英郎/制作進行:太田圭祐/EED:村仲康太郎/音楽:エレファンカンパニー/協力:アール・ユー・ピー、奥松かつら、東京衣裳、しみず工房、KSSスタジオ、ニューメグロスタジオ、日本照明、フィルムクラフト、東映化学/制作協力:エクセレントフィルム/出演:新堂有望・萩野崇・諏訪太郎・中根徹・羽田共持・下山栄・皆川衆・中満誠治・岡野博徳・倉田昇一・梅田弘次・樹かず・キクマプロダクション・楠見尚己)。VHSのジャケットとも諏訪太郎になつてゐるのは仕出かしたかと思ひかけつつ、どうやら、太郎から改名して諏訪太朗になつたものらしい。
 会津若松の鶴ヶ城城内、夜回りする筆頭与力・沖村か沖邑か興村ケンパチ(楠見)に、沖村が捜す当の渡世人・釘刺し源蔵(諏訪)が自ら接触する。ここで早速関根和美らしい速攻が炸裂してのけるのが、後述する藩主始め度々口に上る苗字は確実にオキムラであるにも関らず、源蔵の呼びかけが何度聞いても奥村、ある意味流石ではある。といふか、仕事しろスクリプタ。抜刀する沖村に、源蔵が懐手のまゝ応戦する適当な立回りを経て、必殺の釘刺しを額のど真ん中にプチュッと気の抜ける音効で叩き込まれた、沖村は絶命する。とかいふ塩梅で、会津藩邸。藩主(中満誠治/a.k.a.杉本まこと/a.k.a.なかみつせいじ)が、沖村の娘・お舟(新堂)と弟の賢吉(萩野)に仇討御赦免状を出す。武芸の覚えもなく、仇討自体の不毛性に現代語で異論を唱へる賢吉に藩主は激おこ、半ば放逐されるやうな形で、姉弟は仇討の旅に出る。旨が決定したところで“仇討とは日本人独特の精神構造が生み出した奇異な風習であり”、云々と適当な解説起動、一頻り語り終へて暗転タイトル・イン。案外呑気な道中を他愛なくなぞるのは本当に束の間、話はザクッと五年後に飛ぶ。お舟は夜鷹に身を落とし、賢吉のクソ野郎は賭場に入り浸つてゐた。
 特定し得る限りの配役残り、中根徹は屋台にて隣り合はせる形でお舟がミーツする、腕の立ちさうな賞金稼ぎ・モリシマ博之信。姉弟が逗留し、博之信も敷居を跨ぐ旅籠の主人が皆川衆。お舟と博之信の、恋路の噛ませになる格好の侍は下山栄。問題が、声だけでも容易に気づく筈なのに、樹かずが何処に出てゐるのか全く判らなかつたのが残念無念。
 バラ売りex.DMMの中に関根和美のVシネが三本入つてゐるのを発見した、「大江戸淫乱絵巻」三部作第一作。純然たる単なる偶々にさうゐないが、天の恵みかと驚喜した。それは兎も角、jmdbを鵜呑みにするに、関根和美にとつてVシネ初陣。
 アバンはもしかすると江戸城内にしても、沖村はあくまで会津藩の人間で、主要な舞台はサムプレイスみ迸る宿場町。何が“大江戸淫乱絵巻”ならといふプリミティブなツッコミ処からそもそもなのだが、賢吉が常駐する賭場に、源蔵が札替係―劇中用語ママ、ジャケのインストでは札差―として普通に納まつてゐたりする無防備なビートが貫禄の関根和美。頑なに背後のお化けに気づかない志村でさへない、右向くだけで目の前の上座に堂々と座つとるがな。時代劇に何の頓着もない、素人の節穴を欺く程度には衣裳や美術なりロケーションは少なくとも最低限の体裁は整へてゐる反面、スタッフの中に殺陣師の名前が見当たらないのが地味でない致命傷。源蔵の得物を釘に設定するのは別に構はないが、日本刀を抜いた博之信と、五寸釘を握り込んだ源蔵が対峙する、間抜けの度を越してファンタの領域に突入した画には悶絶した。寧ろ、釘の先から謎光線でも出ない限り、それどうやつたら刀が負けるんだ。常日頃のピンクよりは潤沢な布陣が関根和美は余程嬉しかつたのか、大して広くもないフレームに、不自然な頭数を詰め込んだカットがちらほら散見されるのも微笑ましい。尤も、細身の体から見事なお椀型のオッパイが隆起した、新堂有望のエバーグリーンな裸は手堅い撮影部の力も借り、十二分に堪能させる。お舟と博之信が遂に結ばれる、濡れ場は即物的な煽情性と、豊かな情感とを併せ持つ手放しのハイライト。一方、シャンゼリオンや仮面ライダー王蛇で知られる、萩野崇の根強いクラスタが今作を目聡く追ひ駆けてゐる形跡も窺へるのは微笑ましいものの、劇中賢吉は自堕落に燻るばかりで、見せ場らしい見せ場が別にですらなく設けられるではない。幾ら関根和美とはいへ、出し抜けにお舟と賢吉に禁忌を犯させる訳にも行くまいが、萩野崇相手に絡み要員の遊女でも一枚擁してゐたならば、後年の評価も一欠片は変つてゐた、のかも。ところで個人を抹殺する、封建的な因襲に対するプロテスト。なる一応統一的な主題も、首の皮一枚繋がらなくもない。お舟の遺志に従ひ、博之信は源吉の首を会津藩主に届ける。姉弟の死を「真見事な犬死でした」と痛烈な皮肉を込めたのに続き、「某にも御赦免状を」と静かに詰め寄る博之信に対し、藩主が僅かに気色を変へ「誰を討つ」と受ける件は、突発的にシークエンスが痺れる。


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 「溢れる淫汁 いけいけ、タイガー」(2019/制作:フリーク・アウト/提供:オーピー映画/監督:国沢実/脚本:切通理作/撮影・照明:渡邊豊/照明助手:渡邊千絵/録音:清水鉄也/助監督:菊嶌稔章/監督助手:泉正太郎/美術協力:いちろう/スチール:本田あきら/編集:渡邊豊/音楽:與語一平/整音:Pink-Noise/特殊効果:森本浩/特殊造形:土肥良成/仕上げ:東映ラボ・テック/カラリスト:如月生雄/協力:はきだめ造形・Abukawa corporation LLC./出演:佐倉絆・橘メアリー・原美織・小滝正大・折笠慎也・細川佳央・西村太一・鶴田雄大・白石雅彦・森田武博・松井理子・和田光沙・稲葉奇一朗・郡司博史・澄田義之・野村榮・三浦誠・入深かごめ・周磨要・十松弘樹・松本格子戸・四谷誠一郎・安藤ヒロキオ)。クレジットが無闇にやゝこしい、出演者中白石雅彦と森田武博に、稲葉奇一朗から四谷誠一郎までは本篇クレジットのみ。逆に横須賀正一が、ポスターにのみ名前が載る。スタッフに関しても目を疑つたのが、録音と特殊効果が清水鉄也と森本浩といふのはどうにも怪しい。
 赤い満月に、佐倉絆の声で「罪深い魂は、終りのない夜に落ちた」、適当な文句のモノローグが被さつてタイトル・イン。漫然とした開巻は、良くも悪くも引つ繰り返る。ガード下で客を引く立ちんぼのマリ(原)が、初老の男(国沢実)とフィギュアを肌身離さないオタク(白石)に相次いでフラれる。憤然とするマリに、塗りの雑なピエロ(切通理作)が風船―とビラ―を手渡す。マリが往来に出ると、アンドロイド型ダッチワイフを発売するポーラボーン社を、公害企業と糾弾し署名を集める和田光沙と松井理子に遭遇。パン女にとつてもポーラボーンは商売敵であるやうに思へ、協力してあげればいい気もしつつ、マリはピエロに貰つた風船に“バカ”と書いて夜空に飛ばす、情けない特撮で。一方、折笠慎也をクールなリーダーに、ならず者(細川佳央・鶴田雄大・西村太一)がヒャッハヒャッハ屯する廃工場的なロケーション。単車を音だけ鳴らして、黒いエナメルのバイクスーツに豊満な肉体を包んだジュン(橘)が現れる。ヒャッハーズを誘惑したジュンは、三穴責めをも受け容れるエクストリームな初戦に突入。ところが「ガオー」と虎の咆哮とともに犬歯の発達したジュンが折慎の舌を噛み切るや、全身タイツを悩ましく膨らませる爆乳の破壊力で辛うじてエロい―チャチい被り物の―虎女に変身、三馬鹿も一人づつ血祭りにあげる。その場に、こちらは赤いバイクスーツのマナ(佐倉)が大登場。ロケットパンチ的な得物と、香水みたいな薬物の噴射でマナはジュンの機能を停止させる。
 配役残り、マナの赤いバイクスーツに、黄色のオニツカタイガーを合はせた格好の小滝正大が元々はアニメ作家であつた、ポーラボーン社マナ計画オブザーバー・風早タクマ。安藤ヒロキオはマナ計画のリーダー・蛇塚信一郎博士、傍らのポーラボーン社研究員Cが泉正太郎。風早が設定込みのキャラクターデザイン始め、実質大半を手掛けてゐたアニメ「風の天使マナ」は、ポーラボーン社の映像部門廃止に伴ひ頓挫。失意の内に消息を絶つた風早は三年前、「風マナ」の海賊盤を万引きし逃げる最中、当時3D開発部門主任研究員の蛇塚と出会ふ。ポーラボーン社が見据ゑる大胆すぎる未来が、アニメからアンドロイド型ダッチワイフへの移行。それ、何足飛ばしなんだ。兎も角風早は、蛇塚に乞はれマナ計画に参加する。マナはロールアウトされた試作一号機で、正式名称は表記不明のマナ01。森田武博と清水鉄也は、ポーラボーン社研究員AとB、Aが画面右。ところでジュンはといふと、マナ01に辿り着く過程で廃棄された、ジャンクパーツが勝手に合体進化して自動生成。だから何だそれといふのも強ひてさて措き、ジュンの最初の犠牲者となる、レス・ザン・ホームの人は森本浩。ジュンにメソッドを学習させるヒッチハイカーが横須賀正一で、三浦誠は停めたが最後、バイクも命も奪はれるライダー。ジュンを一度は木端微塵に始末した、前作にも出て来たランチャーならぬハイパーメガバズーカ砲を構へる蛇塚を扇の要に、研究員Cと奇捜研―奇怪事件捜査研究所―装備のプロップを構へる国沢実の二役目は、ポーラボーン社研究員D。わざわざ無駄な混乱を呼ばずとも、正直ここ―もしくはガード下の一人目―は、別の人間の方が望ましいやうに映らなくもない。その他残る名前は、冒頭の署名活動往来くらゐにしか、人影らしい人影も見切れない。あれだけ派手な面相で、松本格子戸が一体何処にゐたのか。あと、マナ01が入れられる牢の巨漢看守が、菊りんでなくジョージ★シライに見えたのは節穴の迷ひ?
 それこそサルでも判る一枚目の影から、しかも過去最大の飛び幅で衝撃の二枚目が飛び込んで来る国沢実2019年第一作。不用意な陰陽論をオッ広げた結果、ジュンのみならず、マナ01まで虎化する所以は埒も明かぬか他愛ない方便ばかりさんざ捏ね繰り回した末に、全く以てちんともぷんとも理解不能。端から満足に作れない画を、誤魔化さうとする素振りを仄めかしさへしないどころか、堂々とかのうのうと開き直つてのける駄を通し越した堕カットの数々は、傾げた首が肩を叩く大いに考へもの。商業映画が果たしてこれで観客から木戸銭を取れるのか、取ることが許されるのか。終にぽくヤキの回つた国沢実に分別がつかないのであるならば、大蔵が責任を持つて裁断を下すべきではあるまいか。反面、筋金入りゴリッゴリの童帝オタク男が、自身の理想を具現化した美少女セクサロイドと、ラッブラブでエッサカホイサカな同棲生活を満喫する。惰弱な琴線をフルコンタクトするファンタジーとしては一欠片の迷ひもなく、遺憾なく橘メアリーの馬力を発揮するには如何せん国沢実の艶出力が心許なくはあるものの、佐倉絆と、ラベンダービーナスもとい原美織を可愛らしく撮る、線の細さと紙一重の繊細さは、数少ないワン・ノブ・持ち味。ペローンと前を開(はだ)けオッパイを見せた状態から、マナがキュッとバイクスーツのファスナーを絞る。一撃必殺の最も肝要なショットは、流石の国沢実も忘れはしない。木に三番手を接ぐものの弾みでマリをも味方に、何が何だかな闇雲さでジュンが復活、マナとの決着を誓ふ。如何にも大ボス的なポーラボーン総裁(女声の主不明)の存在も含め、続篇を匂はせるだけ匂はせる、もしくは匂はせるために匂はせる無責任なオーラスは片腹痛くもあれ、ヤケクソな勢ひでマナと風早が明後日か一昨日に爆走するランナウェーイは、ニューシネマを魔改造したが如き破れかぶれな疾走感に溢れはする。尤も、あるいは最終的に。雌雄を決するのは国沢実も国沢実で、切通理作も切通理作な性懲りもなさ。数十年の幾星霜変つてゐない安普請以前に、国沢実の処理能力も考慮してゐない、考慮してゐるとは凡そ認め難い画的にも物語的にも身の丈を超えた情報量が引き起こすオーバーフローが、この二人の辞書に学習といふ単語のない致命傷。ざつと見た感じ、国沢実に切通理作とのコンビを解消する気配も窺へなく、果てしなく長いトンネルを抜け―かけ―るのに、四捨五入すると十年辛抱させられた加藤義一同様、九月でデビュー二十五年も目前のこの期に及んでの暫し、国沢実が一皮剝けるのに我々は麒麟よりも首を長くして待つてゐなければならないのであらうか。この期に及ぶにもほどがあるといふのと、何時までも、あると思ふなその“暫し”。

 もうかれこれ、国沢実の新作を観るのも一年以上間が開いてゐるゆゑ、改めて整理しておくと。2016年第三作「性鬼人間第一号 ~発情回路~」(脚本:高橋祐太/主演:桜木優希音)の寺西徹で度肝を抜き、なほ一層吃驚した町田政則。清大の後塵を拝したGAICHI(ex.幸野賀一)と、ここで一括るのは些かならず微妙な山科薫。そして掛け値ないたんぽぽおさむと続いた、恐らく今回で一旦打ち止めとなる模様の、国沢組近年恒例ベテラン俳優部サルベージ。そこで今作の、エキストラであるにも関らずな飛び道具は渡邊元嗣2010年第二作「牝猫フェロモン 淫猥な唇」(脚本:山崎浩治/主演:早川瀬里奈)以来、九年ぶりでピンクに還つて来た横須賀正一(a.k.a.しょういち)、だけでなく。実はその直前シレッと森本浩が、関根和美のデコトラ漫遊記第二作「馬を愛した牧場娘」(2003/小松公典と共同脚本/主演:秋津薫)以来実に十六年ぶり驚愕の大帰還。そもそも森本浩自体のフィルモならぬ、モモグラフィーが片手で足るのもあり、かうなつて来ると最早、全体国沢実は何処から森本浩を連れて来たんだといふレベルの話ですらある。


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 「希望ケ丘夫婦戦争」(昭和54/製作:日活株式会社/監督:西村昭五郎/脚本:桂千穂/原作:実相寺昭雄《問題小説・徳間書店刊》/プロデューサー:結城良煕/撮影:山崎善弘/照明:新川真/録音:高橋三郎/美術:渡辺平八郎/編集:西村豊治/音楽:高田信/助監督:池田敏春/色彩計測:杉本一海/現像:東洋現像所/製作担当者:岩見良二/出演:片桐夕子・山口美也子・本郷淳・三谷昇・矢崎滋・青空はるお・坂本長利・島村謙次・ちばくみこ・八代康二・大江徹・茜ゆう子・八城夏子)。この頭数にしては珍しく?ポスターと、本篇クレジットのビリングが完全に一致する。クレジットがスッ飛ばす、配給に関しては事実上“提供:Xces Film”。
 長閑なアコーディオンが鳴り、タンポポ畑越しの住宅地にタイトル・イン。厳密には希望ケ丘の“ケ”が、ポスターが小文字であるのに対し本篇タイトルでは大文字。念願のマイホームを建てた猫田千吉(本郷)がタンポポを刈り集め、更に深いまるで海の如きタンポポ畑の中を、妻の弘子(片桐)と娘の弥生(浜村砂里らしい)が泳ぐやうに分け入る。食卓に出来上がつたタンポポのサラダに西村昭五郎の名前が入る、端整なタイトルバックが美しい。
 土曜ゆゑ起こされなかつた千吉が、「親子三人の朝食が家庭の幸せのルーツなんだぞ」だなどと、この期には清々しいほどの家父長制を吹き吹き遅れて食卓に着く。小学校は半ドンであるにも関らず、お絵描きのお稽古がある弥生は大好きなカツサンドのお弁当を持たされ、弘子も弘子で、お隣の宝石デザイナー・夏海テル(山口)が家を出る時からパッツンパツンのトップスと、キワッキワに短いスコートでテニスのお迎へに来る。一人家に残された、大閤食品総務部に勤務する千吉はといへば、総務部唯一の文学部卒とかいふ雑な文脈で任された社史『大閤食品三十年の歩み』の執筆に、角瓶を喇叭でグビグビやりつつ苦心する。中略してテルから勧められた、モーテル「ヴィラプリンス」に弘子が千吉と入つてみる。ところが湯船からグワーッと上昇するゴンドラ―これ、安全基準どうなつてゐるのだらう―の、弘子が見下す画を見る限り普通に屋根から落ちたくらゐの結構な高さから千吉が落下。腰を強打した千吉は、以来不能になつてしまふ。
 配役残り大江徹は、何をやつても許されるのか的にベッタベタ弘子の体に密着するテニスのコーチ・江木徹。屋外でクララ・シューマンをおかずにワンマンショーに耽つてゐたところを、千吉に恐々声をかけられる矢崎滋は、顔見知りの御近所・近藤満洲夫。達する瞬間の、「クララ、クララ、クララララー」が捧腹絶倒。クララララーw、天才のメソッドだろ。物理的には広角だけれど視覚的には鋭角さも併せ持つロンパリが地味に映える三谷昇は、千吉の上司・中村一郎。八城夏子は、千吉の浮気相手で専務秘書の松本貞江。弘子に千吉のインポを泣きつかれた、テルが紹介するセックス・カウンセラーの川口知也が坂本長利。何故か弘子に催眠療法を施して、貪欲に主演女優の裸を銀幕に載せる。八代康二が、秘書を愛人にしたのか、愛人を秘書にしたのかは不明な専務の池山稔。近藤は千吉を、限りなくミソジニーな秘密クラブ「MASS」“Masturbation Adult Self Service”に勧誘。青空はるおが「MASS」の会長・清洲悠造で、島村謙次が集会室に本物の女にしか見えない超高性能ダッチワイフ(演者不明)を持ち込み、一同の顰蹙を買ふ単なる好事家。後述するVIPな三人飛ばしてちばくみこと茜ゆう子は、「MASS」で鑑賞するブルーフィルム「乙女と蛙」に出演する女、眼鏡をかけた松井理子似がちばくみこ。
 ロマポの底力が火を噴く、西村昭五郎昭和54年第三作。その後の人生を住宅ローンに支配された男達と、呑気に貪欲な女達との対立を描く。と、いふよりは。家内は物に溢れた戸建を建て、スポーティーな自家用車を所有し、十二分な書斎さへ持つ猫田家の生活が、平成の三十年を少なくとも政治的と経済的にはドブに捨てた果ての今なほ、潮目の変る気配すら窺へぬ現在の目からすると眩くて眩くて仕方もないのは、全く以て実に情けない話でしかない。潤沢ないし隙あらば執拗に濡れ場を敷き詰めるにしては、完遂率の低さに小癪さも否み難いのは一種の偏好であつたとしても、純粋オナニストの集まりである「MASS」に草鞋を脱いでおきながら、弘子は欺く反面、テルなり貞江には普通に執心する千吉の姿には、根本的な疑問も残る。比較的漫然とした始終の中で、突発的に映画が爆裂するのは「MASS」集会の件。これは食用なのか、生きた蛙を鍋に入れて煮てみたり、毒々しく絵具を塗りたくつてみたり。大絶賛動物虐待の「乙女と蛙」、よりも更に凄まじいのが別の意味で完全にイッた目線で一心不乱に扱き続ける、箍の外れた矢崎滋の歪(ひず)んだエモーション。をも超える真のハイライトが、クレジットレスの「MASS」成員役でコミタマ×影英×水京―小見山玉樹と影山英俊に水木京一―が飛び込んで来る、ロマポが誇る大物大部屋部・ストリーム・アタック。正直水京は見切れるのみではあれ、コミタマは会長の傍らマスマスのる栄に浴し、影英には会場後方映写機側に控へ、新たな来場者をチェックする重要な役目も与へられる。本隊作ならではの、地味な分厚さが個人的には最も琴線に触れた。碌に数もこなしてゐないのに何だが、良くも悪くも実直な印象の西村昭五郎と、飛び道具的な桂千穂との相性や如何にとも思つたものの、近藤の振り切れた造形や、寧ろこんなものでヌケる方がどうかしてゐる、アート系すれすれにサイケデリックな「乙女と蛙」の内容を見るに、奇矯な脚本を、あくまで奇矯なまゝストレートに演出したといふ見方も、成立し得るのやも知れない。


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 「緊縛縄調教 肉いぢめ」(1992『緊縛縄調教』の2000年旧作改題版/製作:獅子プロダクション/提供:Xces Film/監督:橋口卓明/脚本:瀬々敬久/撮影:下元哲/照明:伊和手健/編集:酒井正次/助監督:田尻裕司/撮影助手:中尾正人/照明助手:広瀬寛己/監督助手:原田兼一郎/スチール:佐藤初太郎/緊縛師:唐変木浩/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:一色薫・伊藤清美・大沢えりか・佐野和宏・中川健次)。出演者中、中川健次がポスターには上田耕造。変名の類ではなく、全くの別人。全ッ然違ふ名前がパブに載るストレンジも兎も角、中川健次!?同姓同名でも回避しろよといふレベルではある。気を取り直して寛巳でない、照明助手の広瀬寛己は本篇クレジットまゝ。
 手拭ひで尻を打ち、乳を荒々しく揉み込む。但し、縛りが如何せん甘い。おもむろに佐野和宏が一色薫に後背位、主演女優の素材は悪くないどころか寧ろ素晴らしいにも関らず、逐一エッジが足らん。さて措き、大体完遂して暗転タイトル・イン。旧姓が白鳥なのか、美術評論家の白鳥燿子(一色)がうたた寝してゐると、配偶者から電話がかゝつて来る。燿子の夫で画商の秋山シュージ(中川)は、自らが企画した日本画界の重鎮・若林海山、の娘(大沢えりか/親爺は一切登場せず)の個展の打上げ。秋山とは美大の同期である彫刻家の高井カツミ(佐野)が、エリカ(仮名)のレス・ザン・才能を直截に指摘。凍りつくその場の計五人は見るから内トラ的な面子で、画面奥のボックス席に、田尻裕司もチラッとかシレッと見切れる。その夜秋山家でも軽く暴れた高井は翌日、秋山に電話で非礼を詫びるとともに、燿子をモデルにしたいだとか申し出る。俳優部残り伊藤清美は、燿子がすつかり陥落したタイミングを見計るかの如く高井を訪ねて来る、高井の元嫁。1993年以降に連続しないのは確定で、1991年以前に四本あるピンクは全て未見ゆゑ遡るのか否かは無論不明。さうはいへ少なくとも当年のピンク映画三作では、何れも伊藤清美が佐野和宏の元嫁現嫁。幾ら量産型娯楽映画とはいへ、判で捺したやうな配役といふのは流石にあんまりではなからうか。
 如月しいなの返す刀で、見られるだけ見ておくかとした橋口卓明1992年最終作。無頼派気取りの彫刻家が、創作活動のモデルと称して知己の妻を緊縛縄調教する。正しくありがちな物語とはいへ、ザクザク縄はおろか猿轡まで持ち出し、夜は燿子を檻の中で過ごさせた高井大先生いはく、「俺が君に要求するのは知性なんかぢやない」、「ただの肉体だ」。「お前を精神から解放してやる」、「まだ自分の自我に縛られてゐるやうだな、その自意識を破壊しなきや作品は出来ないんだよ!」云々かんぬん。ビートの利いた佐野ボイスを以てしても他愛ない能書を垂れ倒すに至つては、ただでさへ飛躍の多い展開の底を空理空論が抜く、諸刃の剣による自傷行為が関の山。折角一色薫が覚束ない口跡には耳を塞ぐとルックスは普通に可愛い部類、プリップリのオッパイとおヒップに勝るとも劣らず、キラッキラ艶やかに輝くお乳首様がエクストリームにエモーショナル。の割に、ビリング頭の単騎で乗り切る、前半はどうにもマッタリするのを否めない。尺を折り返して伊藤清美が飛び込んで来るや、俄然映画が映画らしい貌を取り戻すのも束の間、さうなるといよいよどうしやうもなくなつて来てしまふのが、なほ残したスリリングも、既に遅きに失した三番手。一応最低限の道筋をつけようとしたにはせよ、出鱈目に放り込んで粗雑に中途で済ますほか最早なかつた大沢えりかの濡れ場の、フォーマットに対する敗北宣言が寧ろ今作最大のヴィヴィッドネス。甚だにもほどがある、逆説ではあれ。そもそも、如何にも使ひ捨て臭い変名ながら、これで緊縛師がクレジットされるのが凡そ信じ難いくらゐに、終始ユッルユルに緩い縄がグルッと一周して象徴的。全方位的な生温さが、橋口卓明の終に越え得なかつた壁に思へなくもない。銘々が画面左から右に渡るのを、最後燿子が右から左に渡る橋のロングなんて、何かもう技法が牧歌的すぎて見てゐるこつちが恥づかしくなつて来る。


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