真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「奥様は覗き好き」(1993/製作:小川企画プロダクション/配給:大蔵映画株式会社/監督:小川和久/脚本:池袋高介/撮影:伊東英男/照明:内田清/音楽:OK企画/編集:フィルム・クラフト/助監督:石崎雅幸/演出助手:井戸田秀行/撮影助手:郷弘美/照明助手:佐野良介/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学/出演:水鳥川彩・岸加奈子・南悠里・久須美欽一・杉本まこと・野澤明弘・寺島京一)。見るから変名臭い、撮影助手は誰なのか。
 川原の夜景から入つて、妙子(水鳥川)が真赤な天体望遠鏡で御近所の日常を覗く。のを、夫の三田(杉本)が窘め夫婦生活に。シャリバンレッドの天体望遠鏡にタイトルが入る、確かに奥様が覗き好きな一分十五秒が案外磐石。共働きにつき、狭義の“奥様”ではないのだけれど。
 妙子の友人と思しき、ナミ(岸)がワンオペの御馴染「摩天楼」に三田が一人で来店する一方、妙子はといふと職場のカラオケ帰りを、同僚の片岡(野澤)に送つて貰ふ。ノジーなんかに送らせて、この男送らうと迎へ撃たうと狼だろ。公園の青姦カップル(寺島京一と、女は多分三番手の流用)にアテられた、妙子の色香に片岡は火を点けられ妙子の尻に手を伸ばす、即ち覗きに痴漢。脊髄で折り返して怒る水鳥川彩のプンスカした顔があまりにも可愛くて可愛くて、胸が張り裂けるのが当サイト理想の死因。三田家に帰りつきつつ、有無をいはさず押し倒すでなく、なほも片岡が妙子にグジャグジャ執心してゐると、三田も帰宅。妙子が三田をシャワーに放り込んだ間も片岡は居坐つた挙句、妙子を抱いた三田が寝ついて漸く出て行く、ものかと思ひきや。片岡は三田を起こすと半ばどころでなく脅迫、玄関口で妙子に尺八を吹かせる、それでこそ俺達のノジーだ。
 片岡は、実は覗くよりも寧ろ見られることに関心があつた。配役残り、南悠里はそんな片岡の彼女・ミツコ。久須美欽一はナミの不倫相手・西井、目出度く離婚が成立した模様。
 今のところ1990~1993の活動しか確認出来てゐない野澤明弘(a.k.a.野沢明弘/ex.野沢純一にとつて、恐らくキャリア最後期に当たる小川和久1993年第七作。声の張りと精悍な体躯は変らないものの、何故か目尻が下がりぱなしで妙子の従順な後輩ぶつた片岡の造形には若干でもない違和感を覚えたが、徐々にノジカルな傍若無人を発揮、最終的にはらしさを回復する。
 妙子と、やがて妙子が感化される片岡の性的嗜好に初めから焦点を絞つた物語は、素直にシンプル伊豆もとい、シンプル・イズ・ベストな裸映画に直結する。その上で妙子が覗く快楽と、覗かれる悦楽とが同一線上に存在する可能性に辿り着き、かけるのは極めて斬新かつ魅力的な視座ながら、結局スコーンと等閑視。終盤は妙子と三田も西井の別荘に招かれる、当然ナミも交へた四人での小旅行に丸々費やしてのける展開の大らかな無頓着こそが、些末とかいふ言葉を忘れた今上御大のイズイズム。そんな中でも水鳥川彩と岸加奈子に、南悠里を揃へた女優部は超絶美麗のスレンダー・ストリーム・アタックを撃ち抜き、オッ始めたナミと西井の誘ひに、三田先導で応じる形で火蓋を切る締めの濡れ場。高を括つてホケーッと見てゐたら見逃しかねない、当初銘々で並走してゐた乱交が、劇伴起動も合はせたタイミングで何時の間にかスワップしてゐたりする何気な離れ業がフと気づくと驚かされる見所。


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 「お嬢さんのONANIE」(昭和61/製作・配給:新東宝映画/監督:北川徹/脚本:北川徹・矢嶋周平/撮影:長田勇市/照明:三好和宏/音楽:坂田白鬼/編集:菊池純一/助監督:生田聰・小島東/撮影助手:斉藤幸一/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化工/出演:田口あゆみ・水野さおり・関麻里亜・牧村耕次・下元史朗)。助監督の生田聰が、総監督で記載されてゐたりするjmdbの凄いパワープレイ。
 ローションでヌッルヌル通り越してダッラダラの、田口あゆみのワンマンショーで轟然と開巻。カメラが何となく寄つてみたり引いてみたり、おもむろな感じでVHS題「テレフォンクラブ お嬢さんのオナニー」、ではなく、平然と公開題ママでのタイトル・イン。いい加減といへばいい加減、グルッと一周して晴れ晴れしいといへば晴れ晴れしい。閑話休題、ここで北川徹=磯村一路の気概が大いに買へるのが、田口あゆみが両手で自分の乳を揉み、即ち手が二本とも塞がつてゐる状況に於いてすら、他者の存在は事もなく等閑視した上で田口あゆみの体にあたかも神の祝福かの如くローションを降り注がせてみせる、確信犯的な姿勢どころでなく至誠。エロいだろ、どエロいだろ、それでいいんだよ!事実的な些末に囚はれることなく、脇目も振らず真実に突つ込んで行く決然とした態度は断固として正しい。
 中途で画は街景に移り、牧村耕次のモノローグで「私が彼女の声を初めて聞いたのは、テレフォンクラブの個室の中でした」。テレクラのイントロダクションを軽く掻い摘んで、フレーム内には先に下元史朗が飛び込んで来る。広告代理店勤務の川村か河村宏一(牧村)は、昼休みに先輩の加藤ヒロシ(下元)に誘はれ二人でテレクラの敷居を跨いでみる。仕事終つてから行けよといふ脊髄で折り返したツッコミ処は強ひて兎も角、川村を誘つた加藤の言ひ分が、広告マンたる者常に時代の最先端にゐなくてはならないとする牽強付会。午後仕事が始まる、時間切れ寸前で田口あゆみと繋がつた川村は、無防備にも自宅の電話番号を投げる。恐らく休日の後日、彼女の明子(水野)も遊びに来てマッタリしてゐる川村の部屋に、田口あゆみから電話がかゝつて来る。
 配役残り関麻里亜は、川村が何とかかんとか漕ぎ着けた田口あゆみとの待ち合はせ当日。田口あゆみの眼前で、先に川村とランデブーする女。と、いふことは。ヒロインと逢瀬の約束を交した男主役を偶さか強奪する逆ナンパ、とかいふ凄まじい三番手の投入。恐らく苦心の末の結構な無理筋を、のちに川村と田口あゆみが―当然濡れ場込みで―その日のエピソードに話の花を咲かせる形で案外スマートに収斂させてのける、地味に強靭な論理性が素晴らしい。
 jmdbを鵜呑みにするに、磯村一路が新東宝限定で使用してゐた変名である北川徹の、昭和61年一本きり作。調べたところ、既に観るなり見たもの含め、磯村一路a.k.a.北川徹は量産型裸映画ラスト八本がex.DMMで見られると判明、ぼちぼち拾つて行かう。
 ピンクと買取系ロマポ、一般映画の別を問はず一切素通りして来た磯村一路の名前にチョロ負かされるでなく、前原祐子主演の「変態」(昭和62)がエモーショナルにクッソどエロいのを除けば、これまで北川徹にはさしてピンと来てはゐなかつたものであつた。が、大いに評価を改める要を感じた一作。電話口ではアグレッシブに淫蕩な癖して、いざオフで会ふ段ともなると案外身持ちが堅く、遂には体調を崩しさへする。バーチャルな体験により重きを置く松岡裕子(田口)の造形は、時代を考慮するに一層な先進性をピンク映画の枠内に上手く取り込んだ様が煌めかんばかりに秀逸。反面、裕子に感化され川村もやがて生身の体液交換を放棄するに至る顛末は、必ずしも非の打ち処のない説得力を有してゐる訳でもない。今回目を引いたのが、先に触れた謎主体にローションを降り注がせる確信犯的な姿勢ないし至誠に加へ、尺八に際しては開き直つて張形を使用する潔い実用性と、更には川村の側から執心する会ふ会はないといつた他愛ない遣り取りの間も寸暇を惜しまず、女優部三本柱誰かしらの裸を載せ続ける執拗なまでの周到さ。何はなくとも、あるいは何が何でもな、シンプルに腹の据わつた煽情性が出色。重ねて、関麻里亜との一夜を―ふんだんな絡みも通して―振り返る、電話の中で川村が「また会つて呉れるね?」と問へば、裕子は「まだ会つてなんかいないは」。てな塩梅で漸く初めての対面、川村が加藤の名を借り銀行員と素性を偽る一方、裕子は矢張り銀行員である実際の職業と本名とを伝へる。己は棚に上げ偽名を疑ふ素振りの川村に対し、「とりあへず私がつけた名前ぢやないは」。川村は銀行の通用口から名札をつけた制服姿で出て来る裕子を目撃、「本名だつたんだね」といふ言葉に返しては、「ホントのこといつちやいけないの」。全篇を通してそこかしこで唸る、洗練された詩情。質的にも量的にも圧倒的な女の裸で埋め尽くしておきながら、なほその先で何て洒落た映画なのかと素直に感動した。前述した、必ずしも非の打ち処のない訳ではない落とし処といふ面を踏まへるに、映画総体としては手放しで激賞するに値する傑作ではよしんばないにせよ、実は比較的作品に恵まれてゐるやうな気がしなくもない田口あゆみにとつても、代表作の一本に数へられるのではなからうか。何気ない裕子の一言一言が一々台詞回しが超絶で、田口あゆみの口跡は斯くも見事であつたのかとこの期に震へさせられた。


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 「連続15人花嫁犯し」(昭和59/製作:国映株式会社/配給:新東宝映画/監督:梅沢薫/脚本:しらとりよういち/撮影:志村敏夫/照明:斉藤正明/編集:有馬潜/音楽:芥川たかし/出演:織本かおる・下元史朗・星野まゆみ・浅野あすか・中村京子・麻生うさぎ・岸本めぐみ・松本麻里)。俳優部は記載した八人止り、スタッフも梅沢薫としらとりよういちに志村敏夫までしかクレジットしない、新東宝ビデオのど腐れ仕様に匙を投げる、残りはjmdbで埋めた。
 歩く男のロングに、VHS題「団地妻15人暴行」でのタイトル・イン。そもそも最初の女から、戸建に住んでゐる件。といふか改めて振り返つてみて今気づいたが、団地住まひは後述する今日子しかゐないぞ、挙句今日子は―暴行当時―人妻ではない。当然花嫁でもない、どれだけへべれけなのか。兎も角、あるいは閑話休題。丸越百貨店の配達員を装ひ祥子(松本)を訪ねた祐二(下元)は、祥子が判子を探してゐる隙に上がり込み、支度の最中であつた揚げ物を勝手に揚げる。不意の異音に身を固くする祥子に投げた凄い脅し文句が、「その綺麗な顔に火傷させたくなかつたら大人しくいふことを聞くんだ」。プリミティブな遣り口が、紙一重を突破して斬新に聞こえる。机上ストリップさせた祥子に人参を捻じ込み、ポラロイド写真も撮つた上で「あの忌はしい事件さへなければ」と下元史朗の独白が起動、頗る判り易く回想に突入する。一年前、ウインドウ越しに花嫁衣装を覗き込んだ星野まゆみが、「結婚式まであと二ヶ月かあ」。導入はスムーズな割に、説明台詞は壮絶。妊娠三ヶ月で、祐二との結婚を二ヶ月後に控へた良子(星野)が、三人組の革ジャンズ(仮称)に輪姦される。その場に堀田女子高校バレーボールクラブ同窓会を終へた十五人(多分そのくらゐゐる)が通りがかつたものの、警察には通報した高部今日子(織本)を除き関り合ひになるのを恐れものの見事に等閑視。事件後、流産した良子はスーサイド。良子が書き残した当時の状況から、唯一固有名詞を呼ばれてゐた今日子を、革ジャンズよりも“一番憎い”十五人の女に対する正妻もとい制裁に燃える祐二が手始めに襲撃。ところが事後、こちらも後述するたか子に皆の前で二号である現況を侮蔑され、残り十四人に恨みを持つ今日子は祐二にまさかの協力を申し出る。
 辿り着ける限りの配役残り、麻生うさぎはダンス教師の奥田ゆかり、生徒要員の三人になんて手も足も出せる訳がない。中村京子は訪ねて来た中塚真紀か立花みち江と百合の花を狂ひ咲かせる、立花みち江か中塚真紀。復讐行を二人纏めて片付けるボーナスな省略と、大所帯でさして尺も割かないのが勿体ない、ナカキョンの全盛期爆乳が見所。浦野あすかの誤記ではない浅野あすかと岸本めぐみが、同窓会実行委員会会長である高代たか子と、中塚真紀か立花みち江の何れなのかが特定不能。それと革ジャンズには、ペケ街によると仁科ひろしが含まれてゐるらしい。リーダー格の、グラサンをかけてゐない男か。ジミー土田もゐたやうな気がしつつ、グラサンと激しく動くのとで詰めきれず。祐二と行動をともにするにあたり、住居も契約同棲することにした今日子が関係を清算する、パイプを咥へたパトロン氏はもしかすると梅沢薫?当時五十歳につき、ロングでザッと抜かれる感じの年恰好は合ふ。
 梅沢薫昭和59年第一作で、jmdb始め各種資料を信頼するほかない国映大戦第二十八戦。AVぽく体裁を整へようとでもしたつもりなのか、わざわざ余計な手を入れて、情報量削いでどうするんだ間抜け。
 恨み節はさて措き、祐二が劇中手篭めにするのは半数以下の六人に止(とど)まるとはいへ、ぞろぞろ移動するのが数へきれない当夜の十五人は恐らく揃へてゐる分だけ、新田栄昭和60年第十作「緊縛 縄の陶酔」(脚本:中良江)のDVD題「密室凌辱18人」や、断じて女優部は十二人までしか出て来ない、深町章1990年第六作「激撮!15人ONANIE」(脚本:周知安=片岡修二/主演:岸加奈子)といつた、新東宝の地味な御家芸でもある頭数詐欺の中ではまだしもマシな部類に入らうか。それとも現に十二人は脱がせた「激撮!15人ONANIE」の方が矢張り偉いのか、この期に及んでは最早どうでもいい。
 どうやら祥子が最後の十五人目であつたらしく、祐二は今日子の待つヤサに、十四分そこらでリベンジをやり遂げて帰還。さうなるとこの映画、残りの尺をどうするのかと肝を冷やしたが、改めて今日子・たか子・ゆかり・みち江×マキの順で振り返る構成。劇中登場するのは六人限りにせよ、下元史朗が明確な行動原理に従ひ、十五人の女を狩る。端から濡れ場に直結した効果的な物語が、順当な裸映画に成就する。ところまでは、ある意味予想の範囲内。その先今日子から告白する形で、よもや祐二と今日子が幸せな家庭を築く、因果応報を華麗か豪快にかなぐり捨てたハッピーエンドである意味度肝を抜き、かけておいて。二転三転の三転目で垂直落下に突き落とす、正しく木乃伊取りが木乃伊になるラストが秀逸。無体な救はれなさが寧ろ鮮やかなほどの、ほろ苦い一作である。

 もう一点、令和の目からすると際立つのがその日は鍋の夕食時。今日子から三ヶ月の報告を受けた祐二は一旦硬直したのち頬を綻ばせ、今日子が注(つ)いで呉れたビールを、「お前も飲め、今日は俺が許す」と勧める。妻の飲酒は夫が承認するものとする清々しいミソジニーと、だから妊娠したつていつてるだろといふ無防備なツッコミ処が、二本立ての昭和。


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 「をんなの性感帯」(1989/製作:小川企画プロダクション/配給:大蔵映画株式会社/監督:小川和久/脚本:水谷一二三/撮影:伊東英男/照明:内田清/音楽:OK企画/編集:金子編集室/助監督:石崎雅幸/撮影助手:佐久間健一/照明助手:須賀宏治/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学/出演:小川真実・井上真愉美・風間ひとみ・久須美欽一・黒田武士・椙山拳一郎・熊谷一佳・鳥羽美子・斉藤文彦・小出徹・工藤正人)。脚本の水谷一二三は、小川和久(現:欽也)の変名。
 新宿の住友三角街、カメラマン―の卵―の田代ヤスオ(工藤)が、そこかしこの景色にカメラを向ける。のは、兎も角。馬鹿太くダサいバンダナを巻き、褪せたみたいな水色のタンクトップの上に直接ジャケットを羽織つた、工藤正人の壮絶なファッションに何もかもが嫌になりさうになる。取り直せ、気を。歩道橋に佇む小川真実に目を留めた田代はカメラを向け、向けられてゐるのに気づいたオガマミは微笑みかける。その表情に田代が「モナリザだ・・・・」と嘆息すると、モナリザの複製画にタイトル・イン、ダイナマイトなストレートさに震へる。グルッと一周して天才の仕事だ、紙一重で惜しい人かも知れんけど。
 田代は姉のチヅル(井上)と二人暮らしで、チヅルと三ヶ月後に挙式を控へた、瀬川(黒田)が訪ねて来る。ここで井上真愉美がまるで浮腫んだやうに太つてゐて、識別にすら窮し些かならず面喰ふ。二人に気を利かせ、田代は外出。同じくカメラマン志望の友人・山下(熊谷)が、彼女といふか義務に基づいてゐる訳では別にない扶養者のキョーコ(鳥羽)と飲む、何時もの店に。何時もの店といつて今回は仮称「摩天楼」ではなく、何処ぞの実店舗を使用してゐる模様、小出徹がバーテンダー。そこにキョーコとは顔馴染でもあつた清水香代(小川)が現れ、田代は驚く。
 配役残り斉藤文彦は、山下が主催した香代のヌード撮影会参加者要員、もう二人は演出部。風間ひとみは香代が間に入り、写真を撮つて欲しいと田代を千葉まで呼ぶ津田スタ在住のマダム。久須美欽一は、瀬川―と弟―には処女を偽つてゐた、チヅルの元カレ。久須りんが重役令嬢の逆玉に乗り、関係が終つた間柄。そして純然たる絡み要員といふ扱ひにも余計に仰天した、椙山拳一郎が嫁と田代に覗かせた状況下で香代を抱く、風間ひとみの亭主。jmdbを大幅に超える、ウィキペディアにも記載のない最後期の活動に当たるが、髪がほぼほぼ白い以外には、さしたる衰へも感じさせない。
 率直に認めると我々は少なくとも政治的と経済的には三十年をドブに捨てた平成の元年、小川和久1989年薔薇族込みで最終第十二作。実は童貞でカメラの腕はあるものの女を撮れなかつた主人公が、対偶の如く隠れヤリマンであつた姉の手解きを受け、見事手練手管に長けた一人前の男に成長する。如何にも量産型娯楽映画らしい人を喰つた物語で、杉佳代子ではない椙山夫人(大絶賛仮称)を怒らせた田代が、香代から絵に描いたやうな「フン!」を被弾するところまでは、寧ろ余程十全であつたくらゐ、なのだけれど。残念ながら、その辺りで概ね尽きてしまふ尺が破断する命綱。実姉による女体指南を導入のみでほぼほぼ丸々スッ飛ばしてのける豪放磊落な展開と、モナリザは果たして聖女であつたのか、はたまた売女であつたのか。主モチーフである筈の問ひに田代が解答に辿り着いた節だけ匂はせておいて、結局何れであるのかには触れず仕舞ひ。半ば確信犯的に無頓着な作劇が、枯れたシクラメン程度には清しい。


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 「快感ヒロイン ぷるるん捜査線」(2019/制作:ナベシネマ/提供:オーピー映画/監督:渡邊元嗣/脚本:増田貴彦/撮影・照明:飯岡聖英/録音:小林徹哉/編集:酒井正次/助監督:小関裕次郎/監督助手:植田浩行/撮影助手:近藤祥平・森田亮/照明助手:広瀬寛巳/協力:中野貴雄/スチール:本田あきら/選曲:徳永由紀子/MA:Bias Technologist/仕上げ:東映ラボ・テック/カラリスト:如月生雄/出演:妃月るい・美咲結衣・桜ちなみ・原美織《愛情出演》・小滝正大・津田篤・ケイチャン)。出演者中原美織のカメオ特記は、本篇クレジットのみ。
 レス・ザン・バジェットな、異世界「ハナビランド」のイメージ。アイデンティティを喪失し破滅的な行動に走るルイを、ハルナが諫めるライン風会話。転じて現し世、公園的な原つぱに唐草模様の風呂敷と所謂ピコピコハンマーを背負つた水木ルイ(妃月)が現れるや、松本から家出したルイの両親に娘捜しを依頼された、私立探偵の真島祐二(ケイチャン/ex.けーすけ)も後(あと)を追つて駆けつける。たかと思へば再度矢継ぎ早にルイが待ち合はせてゐた、河田俊雄(津田)が何者かに襲はれ後頭部から出血した状態で倒れ込む。しかも河田はルイに渡す約束になつてゐた、フラワー戦士「シノビーナス」幻の十三回にして最終回のDVDを奪はれてゐた。とかいふ次第で、ハナビランドからやつて来たサクラビーナス(美咲結衣のゼロ役目)とラベンダービーナス(原)が、ドワルダー(ケイチャンの二役目)率ゐる悪の組織「ドグサレンダー」と戦ふ女の子向け低予算特撮番組。であつたものが、低視聴率とスポンサーの倒産とで十二話で打ち切られた、シノビーナスのイントロダクションまで済ませてタイトル・イン。何気な神速を誇る新田栄と比べると幾分以上か以下に粗雑ではあれ、高速かつ情報密度の濃いアバンに軽く意表を突かれる。のと、ルイが正真正銘全篇駆使し倒すハナビランド語が、大体のりピー語。ついでか更にスチールを繋げたシノビーナスイントロに登場する、ドグサレンダーの女怪人は中野貴雄の配偶者である春咲小紅?
 ルイを松本に連れ戻さうとする真島に対し、当のルイは最終回DVDを手に入れるまで帰らないの一点張り。シノビーナスの必殺ならぬ必生技「ヒーリングウェーブ」と称した、要はルイの色仕掛けに当然勿論世界の真理に従つて真島は懐柔。探偵兼のボディガードといふ形で、ルイと行動を共にする格好に。
 配役残り、ぼちぼちピンク第四戦の桜ちなみは、保険証で見た住所を頼りに河田の自宅を訪ねた二人を迎へる、河田の妹を騙る女・ハルナ。どんな服を着たとて隠せまい、琴線にフルコンタクトを叩き込む爆乳の圧倒的な破壊力は兎も角、幾らお眼鏡とはいへ、流石にクリムゾンのボストンはダサいものはダサい。そこを譲るのは、思想の後退であると難ずる。河田が十三話DVDを闇サイトで入手したとの情報を得て、真島はルイを知人のギークでナードな中野孝史(小滝)の下に連れて行く。ここで特筆すべきが、ファンタな造形を施された中野の、レインボーなドレッド風のウィッグ。ほかでも使つてゐるかも知れないが「女痴漢捜査官4 とろける下半身」(2001/脚本:波路遥/主演:美波輝海/a.k.a.大貫あずさ/a.k.a.小山てるみ)に於いて、根久田判二羽留役の螢雪次朗が被つてゐたものと同じブツ。これはネットで見られる今作の予告篇と、ex.DMMで女痴漢捜査官4を何度も見比べて確認した、物持ちいいな!中野が割り出した、闇サイト業者の住所・阿玖芽町十三丁目五番地十七号(アクメの漢字は適当)を、ルイと真島は次に訪れてみる。改めて、こちらは国沢実2015年第二作「スケベ研究室 絶倫強化計画」(2015/脚本:高橋祐太/主演:竹内真琴)以来の五本目となる美咲結衣は、そこで整体院「やすらぎ整体院」を営む榛名智美。美咲結衣が前四回の国沢組含め、五作連続二番手といふ案外離れ業を達成。
 増田貴彦とのコンビで三作目となる、渡邊元嗣2019年第一作。目下確認出来る範囲では増田貴彦脚本ナベシネマは次作までで、2019年第三作では山崎浩治が2016年第二作「めぐる快感 あの日の私とエッチして」(主演:星美りか)ぶりとなる大復活を遂げてゐるのが地味なトピック、地味でない。
 特オタ女が自らの肉体で男を誑かし、お目当てのお宝DVDゲットに邁進する前半は文句なく完璧。職務上の要請を抱へる真島と、容易に予想される怖い筋の存在に、下手に首を突つ込むのに抵抗を覚える中野。極めて常識的か論理的な男衆の障壁を、ルイがピッチピチの美身で突破する展開は綺麗な説得力を獲得。「美乳夜曲 乱れる白肌」にあつては違和感を覚えなくもなかつた、妃月るいの少々ラウドな嬌声も底を抜いたファンタジーには瑕疵なく親和する。反面、最終話DVDの出処と、ルイが大切にする―オフの面識はない―同好の士・ハルナの正体を巡るサスペンスは、元々脚本がトッ散らかつてゐたものか演出の鈍りかは判らないが、一応映画的ではあるラストまで含め結構ガッチャガチャ。手放しで絶賛するには、如何せん遠い、ものの。正直いふと泣いたのが、失恋に心を痛めたルイがハルナのレコメンドで救はれた、フラワー戦士がドグサレンダーのどうせ私なんか仮面に立ち向かふシノビーナス第八話の件。一撃必殺で涙腺を決壊させる渾身のエモーションこそが、“傷ついてゐる全ての人が救はれる感涙必至のハッピーエンド”に違ひないとルイが予想を通り越して確信する、シノビーナス最終回の内容に仮託した、鉄の信念に貫かれたナベシネマがナベシネマたる所以。桜ちなみの乳も太いが実は余らせた腹肉は見なかつたことにすると、アヤメビーナスとカキツバタビーナスにショウブビーナスをも揃へた、三者三様に三百花繚乱の三本柱は鉄板。クライマックスまで三番手を温存するだなどといふ、平素ならば悪手をも見事に引つ繰り返す、ユリビーナスが爆誕する秀逸な構成も相俟つて裸映画的には磐石の安定感を誇る。結局十三話の中身が明らかにならないのは、わざッと持たせた余裕。渡邊元嗣相手にワーキャー騒ぐほどには当たらないにせよ、ナベシネマの堅調に枕を高く出来る一作である。


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 「変態病棟 SM診療室」(1989/製作:国映株式会社/配給:新東宝映画/監督:佐藤寿保/脚本:夢野史郎/企画:朝倉大介/撮影:斉藤幸一/照明:加藤博美/編集:酒井正次/助監督:瀬々敬久/撮影助手:片山浩/照明助手:松本キヨシ/監督助手:広瀬寛巳・小瀬智/スチール:小野幸生/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/協力:橋爪達成・六本木セビアン/出演:伊藤清美・佐野和宏)。
 下からスルッと入る、デジタルなタイトル・イン。裸で体育座りする伊藤清美が万華鏡調に鏤められた画にUFO風な音効が被せられ、開巻三十秒を待たず、既にどうしたらいゝのか判らなくなる。エラい映画の、蓋を開けてしまつたやうだ。妻・リョーコ(伊藤)の背後に迫つた、心理カウンセラーの水村ヤスカズ(佐野)がヘッドフォンを着けさせる。佐野和宏のモノローグ、略して佐野ローグ起動。「私は心理カウンセラーとして独自の心理療法により、精神に安定を与へるα系の音や音楽を聞かせてゐる」。とりあへず、“独自”だなどといつてゐる時点で果てしなく広がる大草原、あるいは抜ける底。佐野ローグは続く、「患者を鏡に向かはせ、そこに映る自分自身の像と対話させることによつて深層心理を探つてゐるのである」。爆裂する観念論、量産型裸映画で、昭和も終つて間もなくには早過ぎた。三十年の平成も無駄死にした今なほ、依然時代が追ひ着いてはゐないのだけれど。サディストの水村はリョーコを大概苛烈に責めるものの、別にマゾヒストといふ訳ではないリョーコは、明確な反意を示す。不毛な夫婦生活に疲れたリョーコが姿を消して一週間、養子に出されてゐたため水村とは接点のない、リョーコの一卵性双生児の妹・白川佳(当然伊藤清美の二役)が患者を装ひ水村を訪ねる。人影はおろかたとへば電話越しの声さへ、配役は残らない正真正銘完全無欠の二人芝居。限りなく劇伴に近い正体不明の笑ひ声ならば、ラストに入らなくもない。
 佐藤寿保1989年全五作中第四作、商業第十八作で国映大戦第二十七戦。インターフィルムの足が止まつたのが、気懸りではある。まだ弾は幾らも、素のDMMに残つてゐるとはいへ。佐藤寿保には、「変態病棟 白衣責め」(昭和63/脚本:夢野史郎《a.k.a.大木寛/a.k.a.別所透》/主演:白木麻弥)といふもう一本の変態病棟が五作前に存在するのが、激越に観るなり見たい。
 嫁に逃げられたサディストの下に転がり込んで来た双子の妹は、姉とは対照的なマゾヒストだつた。さう切り取れば通俗的なポルノグラフィーらしい物語にも思へ、水村の姉妹?に対する責めがハードなのも通り越し、ブルータルの領域に轟然とオーバーラン。無茶苦茶といふかより直截には出鱈目に暴れ倒す騒乱に対しては、正直、これで棹を硬くするのは当サイトにはもう難い。何がどうスッ転んだものか、佳はリョーコと結合双生児であつた妄想に囚はれ、やがて水村は、佳が妹などでなく、リョーコ本人ではなかつたのかといふマキシマムな藪の中に到達する。そもそも自ら顧みる水村のサディストとしての原体験が、幼少期にふざけて妹を湯船の中に押さへつけ、そのまゝ溺死。性的な嗜好云々以前の、少なくとも単なる異常者である。勃つか勃たないかはこの際兎も角、諸々奇々怪々の風呂敷をさんざオッ広げ倒した末に、尺すら一時間に六分余した上でものの見事に全て、本当に何一つ回収せず豪快に放り投げ、たかと思へばクレジットに次いで、ノイズのメイン・テーマが鳴り始めるエンディングはグルグル何周かしてもう完璧。斯くも悶々と、もしくは陰鬱に、見る者観る者を煙に巻いてのける映画といふのもさうさうお目にはかゝれまい。肌触り的に、いはゆる奇書の世界に近い一作。寧ろ腹を立てる方がどうかしてゐる、面白いとか素晴らしいとは一言もいつてゐない。

 一点正方向ないし手放しで可笑しいのが、最初で最後一回きりの性行で子供が出来ただの、挙句結合双生児を産んで貴方が切り離すだの凄まじい妄言を垂れ始めた佳に、水村が向ける「えゝ・・・・」といふ表情。トチ狂ふ伊藤清美と、ドン引きする佐野。超絶のキャスティングが光りの速さをも超えて加速する、演出のトーンとしてはオフ・ビートながら、煌びやかなまでの名シークエンスである。


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 「制服の告白 処女あげます」(1990/製作:小川企画プロダクション/配給:大蔵映画株式会社/監督:小川和久/脚本:水谷一二三/撮影:大道行男/照明:内田清/音楽:OK企画/編集:金子編集室/助監督:石崎雅幸/監督助手:浜本正機/撮影助手:円城寺哲郎/照明助手:佐野良介/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/現像:東映化学/出演:水鳥川彩・高樹麗・風間ひとみ・工藤正人・山科薫・吉岡市郎・熊谷一佳・小出徹・浜本万造・久須美欽一)。脚本の水谷一二三は、小川和久(現:欽也)の変名。
 小癪にも、トレードマークの高層ビル群をカーテンで隠してゐたりするとはいへ、最早自動的な勢ひで矢張り「摩天楼」(仮称)。カウンターで一人グラスを傾けるルポ屋の北村(久須美)に、漸く他の客を振り切つたママの知子(風間)が応対する。浜本正機の変名とみてまづ間違ひあるまい浜本万造が、最初に久須りんと二人で飛び込んで来る、台詞も一言二言与へられるバーテンダー・ヒロちやん。北村と知子は男女の仲にあり、北村から温泉に誘はれた知子は二つ返事で首を縦に振りかけつつ、二人暮らしの妹を気にかける。とかいふ塩梅で、妹で女子高生のマリ(水鳥川)がえつさかほいさかエクササイズ。両手両足で仰向けに立つた所謂ブリッジの状態での、腕立て伏せを股間側から抜いたジャスティスな画にタイトル・イン。このブリッジ立て伏せが、何気に結構な大技に映る件、俺こんなこと出来ないぞ。水鳥川彩の身体能力が高いのか、単にこの男が死にかけて衰へてゐるだけなのかは冷静に検討しない方向で。
 監督クレジット時に謎の双眼鏡視点になるのに首を傾げてゐると、カーテンの開いたマリの部屋を、いいとこらしい城西大生の工藤正人が双眼鏡で覗いてゐた。兎も角姉と北村との関係を知るマリは、知子を伊豆に送り出すと友人の悦子(高樹)を泊り込みで招く。処女の二人が、一緒に喪失しようと期すのがRCサクセションのバンド名の由来。
 配役残り山科薫は、めかし込んでボーイハントに繰り出したマリと悦子に、声をかける自称“かう見えて”の社長。OLと見紛つた二人が女子高生となると、挿入には二の足を踏む案外ジェントル。ところでどうでもよかないのが、この件で水鳥川彩が着用するボディコンの、殆どガーベラテトラみたいな途方もない肩パッド。私服なのかと苦笑するどころか、それもう、電車とかで並んで座る時邪魔だろ。熊谷一佳は、工藤(仮名)のバイト仲間・片桐。工藤に双眼鏡を貸したのがこの人、又貸しなんだけど。この期に到達したのが、熊谷一佳が栗原良と名前の紛らはしい栗原一良と同一人物。jmdbを鵜呑みにするに、ex.熊谷一佳で栗原一良となる模様。山科社長とペッティングまでの巴戦で別れた後(のち)、マリと悦子は散開して単独行動。小出徹は、マリにぞんざいに声をかけて相手にされないナンパ野郎。吉岡市郎が対悦子、悦子が捕まへるだか捕まつた男。亀甲にフン縛るは写真も撮るはの大狼藉、たとへば清水大敬のポップな陰湿さなり暴力性とは一見遠いものの、陽性の嬉々とした鬼畜、余計に性質(たち)が悪い。
 僅か二年足らずだからある意味当然ともいへ、画面のルックから未だ昭和が終つてゐないかのやうな錯覚に囚はれる、小川和久1990年第十一作、ピンク限定第九作。一歩間違へば腐れかねない知子と北村の長い蜜月に、マリと悦子のロストバージン・ミッション。と、駅で見かけたマリに入れ揚げる、工藤の双眼鏡越しの不純な純情。濡れ場の種には事欠かない反面、それら各々がやがて統合され一つの大きな物語を、成す訳でも最早当然の如くといつた風情でない、なだらかな裸映画。風間ひとみと久須美欽一のコッテリとした絡みと、キャリアの最初期で肢体には幼い硬ささへ残す、水鳥川彩が煌めかせるキュートをうつらうつら、もといつらつらと眺めてゐるだけで、とりあへず成立しなくもない幸運な一作。そんな中でも特筆すべきは、家に来た悦子とマリが、昭和も昭和、七十年代にすら届かないゴーゴー音楽を鳴らしながら、半裸でピョンピョン踊り狂ふグルッと一周した天才的なシークエンスの、形容し難い多幸感。束の間で茶を濁さずに、割と暫し尺を割いてみせるのも好印象。もう一点が、知子と北村は伊豆に行くだとか評して、基本風呂場か床の間、何れにせよ屋内から動きもせず、挙句に帰京してからの話かと思ひきや、思ひきりそこら辺の川原なのに、臆面もなく伊豆面で撮影してのける小川欽也の天衣無縫な無頓着こと、当サイト提唱のイズイズム。現代ピンクが辿り着いた穏やかな桃源郷・伊豆映画を起動させる遥か以前の、未成熟な伊豆愛が窺へるのが感興深い。


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 「痴漢電車 食ひ込み夢《ドリーム》マッチ」(2019/制作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/しなりお:筆鬼一/撮影監督:創優和/録音:小林徹哉/編集:有馬潜/助監督:菊嶌稔章/撮影助手:小関裕次郎・佐々木隆誠/撮影応援:宮永昭典/スチール:本田あきら/協力:江尻大/整音:Bias Technologist/選曲:友愛学園音楽部/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:桜木優希音・浅美結花・小滝正大・山本宗介・しじみ・櫻井拓也・泉正太郎・美泉咲/エキストラ:広瀬寛巳・山内大輔・柿原利幸・深澤浩子・深澤幸太・生方哲、他)。トップの広瀬寛巳だけはポスターにも載るエキストラの正確な位置は、泉正太郎と美泉咲の間。
 時差出勤でもしてゐるのか、然程でさへ混んでゐない通勤電車。OLの田倉ココロ(桜木)が、殆ど人間性を喪失した広瀬寛巳の電車痴漢を被弾する。声をあげられなずギュッと唇を結ぶ桜木優希音の表情が、的確に作られた効果的なクリシェ。見かねた渡瀬望(櫻井)が割つて入ると、ひろぽんは「許してー」とポップな悲鳴を残し逃走。追はうとした渡瀬の手首を、ココロは掴んで引き留める。暗転して、山なりに入るタイトル・イン。以降エキストラは、山内大輔が一番目立つ位置に座つてゐたやうに映る乗客要員。
 ココロと渡瀬は高校の同級生で、卒業以来の再会を思はぬ形で果たす。慌てて出勤するココロに対し、いいとこの大学は出たものの、社会に出損ねた渡瀬はその日も―多分バイトの―面接に落ちる。土曜日に約した再々会、“トッキュウ”こと銀二(小滝)に矢張り痴漢されるココロの姿に、喪つてゐた昂りを取り戻した渡瀬はランチをドタキャン。追ひ駆けたトッキュウに弟子入り、“ドンコウ”を拝命する。
 配役残り、ピンクに何だかんだ継戦してゐる八年目の泉正太郎は、ココロと同棲する秋庭広次、中華レストラン勤務。浅美結花が、一方渡瀬の彼女・清純友美、着物販売員。脊髄で折り返す威力の爆乳に勝るとも劣らず、濡れ場に突入したとて決して外さない、きちんと玉も入つたメガネがジャスティス。正しく原点にして至高たる、黒縁セルフレームのスクエアである点がなほ一層アルティメットジャスティス。ただココロと秋庭から結花と渡瀬に絡みを繋げる件は、渡瀬がトッキュウの手マンを想起する節は酌めるにせよ、そこは何はともあれドカーンとオッパイを、オッパイのドカーンとしたエモーションを飛び込ませるべきではなかつたらうか。荒木太郎2013年第二作「嫁の寝床 恥知らずな疼き」から、案外息も長くピンク六作目の美泉咲は相ッ変らず相手はココロのドンコウ初陣に介入する、謎の女・朝霧玲香。その正体はかつて「不死鳥の玲香」の異名も誇つたものの、痴漢の横行に乗客のガードが固くなり廃業したスリ師。変型ハムラビ論法で“痴漢には痴女を”を唱へ、トッキュウ一派を殲滅する仲間にココロを勧誘する。後述する第一次XX作戦、例によつてココロに痴漢するトッキュウの背後に、画面左手から玲香がグルーッと回り込む無造作なカットはもう少しどうにかならなかつたものか。自監督作だけでも、加藤義一は痴漢電車五本目だぞ。山本宗介は、ドンコウに続く新メンバー・宅間吾郎、ドンコウ二号を拝命。こちらはアイドルグループ「ローズナイト」の一員としてイケタクの愛称で知られたものの、ハニートラップに引つかゝつて馘、女への逆襲を誓ふ。正直、雑にチャラい造形―とダサ安い衣装―に足を引かれ、今回山宗無駄遣ひ。そしてしじみが、ドンコウ無印・二号のダブル昇格試験の標的に指定された、赤いマフラーを戯画的といふのが文字通り戯画的に―風もない車内なのに―なびかせた女・銀子。ついでに巨漢を活かした菊嶌稔章が、終盤渡瀬を取押へる乗客の一人に大登場。
 加藤義一にとつてはデビュー二年目の「痴漢電車 快感!桃尻タッチ」(2003/脚本:岡輝男/主演:佐倉麻美)、「痴漢電車 夢指で尻めぐり」(2010/脚本:近藤力=小松公典/主演:かすみ果穂)に続く九年ぶり三本目の、大蔵新春恒例正月痴漢電車。とこ、ろで。正月痴漢電車は確かに正月痴漢電車でも、小倉名画座が「痴漢電車 淫コースは夢いつぱい!」(2016/監督・脚本:小山悟/脚本:鬼多麿/主演:きみと歩実)のポスターを、表には貼り出してゐやがつたりする悪辣な羊頭狗肉、羊頭狗肉?公式サイトを信じ決死で木戸銭を落としたが、しまつた番組間違へたかと、落胆して踵を返してゐたらどうして呉れるのか。敷居を跨ぐ前から、ギャンブルが発生するのがピンクの小屋。場内では、苛烈なハッテンとの攻防戦が待つてゐる訳だが。一種の戦地に赴く、趣のスリリング。
 話を映画に戻すと、女を一人イカせる毎に百円チャージされる、“Eroka”―何故Erocaでないのかも不思議―なる画期的な謎システムの説明は豪快にスッ飛ばしてのけつつ、トッキュウ率ゐる痴漢軍団と、ココロを同士に迎へた玲香の激突。玲香が対Eroka隊に際し繰り出す、“XX(ダブルエックス)作戦”と秘儀“ハイパーオナッシュ”なる如何にも且つ魅力的なギミック。殊に一旦玲香が退場したのち、ココロが単独でのXX作戦敢行を決意する件は激アツ展開。そこに、平板な趣向をも櫻井拓也が持ちキャラで加速する、渡瀬の自分探しが加味されるとなると、栄えある正月痴漢電車に相応しい堂々とした娯楽映画、の目もなくはなかつた筈なのに。被痴漢部を設けず、延々性懲りもなくココロが痴漢に遭ひ続ける不自然通り越して流石にあんまりな安普請に、加へてレス・ザン・ゼロに貧しい美術。要所要所といふか、概ね全篇通して甘いどころか詰める意思さへ感じさせない漫然とした作劇は、結局は飛び道具頼みのルーティンかと、匙を投げかけさせておいて。一撃必殺渾身のロマンティックから、各々が穏やかにも力強く、それぞれの新しき日々に歩み入るラストは、たとへ大概な力技ではあれそれでも素晴らしい。決して全てとはいはないが、終りよければそれでよしの一作。オッパイの大きな黒縁メガネの彼女が、前科者の役立たずを待つてゐて呉れる映画ならではの美しいファンタジーが、さゝくれた魂を優しく慰撫する。


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