真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「団地妻 不倫でラブラブ」(2000/製作:国映株式会社・新東宝映画株式会社/配給:新東宝映画/監督:サトウトシキ/脚本:小林政広/企画:森田一人・朝倉大介/プロデューサー:衣川仲人・福原彰/協力プロデューサー:岩田治樹/音楽:山田勲生/劇中カラオケ:『二人の秘密にしませう』 作詞・作曲:山田勲生/撮影:広中康人/照明:高田賢/編集:金子尚樹《フィルムクラフト》/録音:福田伸《福島音響》/助監督:坂本礼・大西裕・小林正明/撮影助手:御木茂則/照明助手:屋宜弦/編集助手:堀善介/タイトル:道川昭/タイミング:武原春光/現像:東映化学/刺青協力:霞涼二/撮影応援:島田剛/制作応援:女池充・斉藤一男・吉田治/ロケーション協力:那須北温泉旅館・東野バス・ブルーシャトー/制作協力:㈱三和映材社・㈲不二技術研究所・アウトキャストプロデュース・ファントムライン・上田耕司/出演:本多菊雄・横浜ゆき・伊藤猛・林由美香・川瀬陽太・さとう樹菜子)。
 のちに銘々有給を取り、翌日は普通に出勤しようとしてゐる点―実際したか否かは甚だ怪しい―からど平日、の団地。伊藤猛の口跡が伊藤猛である以上伊藤猛につき、島田か下田か判然としないゆゑ間をとつて志牟田郁夫(本多)が目覚めると、家内に妻はゐなかつた、間の意味が判らねえ。隣の多分ウエダ信一(伊藤)も目覚めると、矢張り妻がゐなかつた。とはいへ、ウエダ家には隣の奥さんと旅行に行く旨の置手紙が。幾許かは事情を知る信一が郁夫を訪ね、さりとて途方に暮れる男二人に対し、当の郁夫と信一各々の配偶者・アキ子(横浜)と久美子(林)はといふと、電車に揺られ那須温泉郷(栃木)に。上り坂を進むバスを、枯れ木越しに抜いてタイトル・イン。「どういふことだよこれ」、置手紙に声を出してツッコむ伊藤猛の、朴訥としたビート感が五分弱費やすアバンの白眉。
 本篇明けで一応飛び込んで来るのは、さとう樹菜子の正しくバストショット。ぞんざいに端折る中途の事後、良家の子女らしい裕子(さとう)と付き合ふ、真二(川瀬)は真二の刺青を理由に結婚を反対され、この那須行を最後に裕子とは別れる心積もりだつた。そんな二人と同じ旅館に、アキ子と久美子も入る。プールみたいにダダッ広いのが、ググッてみるに本当にプールだといふのが驚きな温泉プール―本来は水着着用の模様―で、先にスッ裸で泳いでゐたアキ子と久美子に、真二と混浴に浸からうかとした裕子が加はる形で四人が交錯。一方、至極自然に煮詰まる状況を打開すべく、仲のいゝ嫁に対抗して「私達も楽しむべきだと思ふんですよ」、「ホモダチになるつていふのはどうでせう」と信一から郁夫に提案する。藪から箆棒な大技通り越した荒業をも、有無をいはせぬ目力で無理から通す、伊藤猛のある意味パワープレイ。
 北温泉旅館に計五名、人影程度に見切れる以外配役も残らない、サトウトシキ2000年一本きり作で正調国映大戦第四十二戦。扱ひが微妙な「尻まで濡らす」(1998)を二本目に数へた場合、サトトシ団地妻―今後大蔵がよもやまさかの電撃再召喚に成功でもしない限り―全六作中第四作、サトウトシキをさうは略さんだろ。
 適当に見進めて行く当サイト的には六分の五本目にして、漸くとりあへずの初日が出た。引き分けに、二三本毛を生やしたくらゐの白星ではあれ。真二が如何にも伊藤猛ぽく拗れ、一旦郁夫と決裂、仮称志牟田家を辞した末ふらりふらりと辿り着いたのは団地の屋上。悄然と真二が仰ぐ虚空から、無下か無芸にそのまゝ、正真正銘そのまんまティルトダウンしてへたり込む真二に再び戻る。条理を超えた、柳田友貴ばりの“大先生”カメラワークも繰り出しつつ、何はともあれアキ子と久美子の2ショットを狂ほしく愛ほしく、神々しいまでに可愛らしく捉へる撮影が出色。如何にも恋人同士ぽく映る、二人の絶妙な身長差もエモい。単なる横浜ゆきと林由美香の動くポートレイトに過ぎなかつたとしても、十二分に戦へる、永遠に戦へる。重ねて殊に前半は、偶さか体に墨を入れてみたりした割に、親の難色に力なく屈する真二の他愛ない白旗と、ホモ≒軟弱―劇中“ゲイ”の用語は使はれない―とする郁夫のステレオタイプな男性同性愛者観。それぞれの旧弊に異を唱へる裕子と真二のプロテストを起爆剤に、展開は加速感も伴ひ転がる。家の意向に囚はれる古い見識を、裕子が真二ごと湯の中に蹴倒すカットなど素敵に痛快。前半は、結構最高に面白かつた、のだけれど。みるみるかみすみす萎む後半、真二が腹を括るより先に裕子が匙を投げた二人の仲を、主に久美子が取り持つのが精々。団地の表で唇を重ねる郁夫と真二に、帰宅して来たアキ子と久美子が画面の遥か奥で歩を止めるロングは秀逸ながら、二組の夫婦が、元鞘に何となく納まるラストは随分心許ない。そもそも、チェックアウト前に温泉プールを再度キメたにしては、アキ子と久美子の帰京が時空を歪めてゐる。勤務先のまづ違ふ郁夫と真二が、何故か二人揃つて昼から出社とでもいふのでなければ。あと、結局この御仁達、劇中二日目も会社行つてないよね。さとう樹菜子の介錯役が、川瀬陽太に限定されるのは関係性上仕方ない。さうはいへ百合と、更には薔薇まで咲き乱れるにしては、満足に踏み込む素振りを端から窺はせない濡れ場に関しても、もどかしさかフラストレーションを募らせるばかり。真二と花枝、もとい裕子が最終盤、完全に蚊帳の外に追ひやられる構成は従来にせよ旧来と看做すにせよ、何れにしても堂々たる大団円からは些か遠い。何が足りないのか正直よく判らないが、確実に何かが足りない一作。だ、か、ら。吹くなら吹くで、それを言語化してから与太を吹け。
 と、いふかだな。さあて、我(わが)の田圃に水でも引くか。下田か島田とウエダ、二組の夫婦の修復を、即ち作劇に於いて最も難易度の高い段取りを、カット跨ぎでサクッと突入する夫婦生活のクロスカッティングで事済ます。それまで終始、質的にも量的にも女の裸を満足に撮りもせず、要はさんざぱら量産型裸映画を蔑ろか虚仮にしておいて、都合のいゝ時だけピンクの文法をのうのうと援用してみせる自堕落さ。足りないサムシングは誠実か、でなければ信頼である。


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