真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「さかり荘 メイドちやんご用心」(2018/制作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/しなりお:筆鬼一/撮影監督:創優和/編集:有馬潜/録音:小林徹哉/音楽:OK企画・友愛学園音楽部/助監督:小関裕次郎/監督助手:植田浩行/撮影助手:武藤成美・江尻大/スチール:本田あきら/録音所:シネキャビン/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:佐倉絆・初美りん・里見瑤子・櫻井拓也・可児正光・森羅万象・太三・柳東史/エキストラ:生方哲・中村勝則・松島政一、ほか計六名)。エキストラの正確な位置は、可児正光と森羅万象の間。
 アイドルグループ「ビザールキャッツ」の一員・此花美留(佐倉)の握手会風景。ここでエキストラが、概ね手元しか抜かれないアイドリアン要員。正直EJDまで含めた、演出部で別に事足りる気はする。粘着に手を放して貰へなくなつた美留は、大勢の手に全身を弄られるイマジンに突入。最終的には失禁にまで至るエクストリームな妄想癖が、美留の悩みの種だつた。そんな最中、髪の毛一本見せない事務所社長が借金を残しトンズラ。センターの座をちらつかされ保証人に座つてゐたゆゑ忽ち詰んだ美留は、ネットで見かけた安らぎと幸福感に満ちた生活を謳ふ、ドロップアウター支援施設「風李江館」のサポートスタッフ募集に応募。しようとクリックしかけたタイミングで、料金未納の電気を停められ部屋がブラックアウト。懐中電灯で浮かび上がらせた佐倉絆のションボリ顔を、左右から挟む形でのタイトル・イン。装ひを見るに冬なのに、冬でも日傘を手放さない美留がやつて来たのは、栃木と福島の境目ら辺の田舎駅。ほてほて風李江館に辿り着いた美留を、「やあ!こんにちは」と底抜けに明るい太三が、但し全裸で出迎へる。当然仰天した美留は、脊髄で折り返す妄想癖を発動させつつ、サッポロ黒ラベルを常飲する着流しの可児正光と激突して失神。介抱するかに見せかけて、魔女ルックの里見瑤子に奇態な呪文を唱へられるトリプルクロスな洗礼に、風李江館の主・勇崎大和(柳)が介入、美留の足は漸く地に着く。強い風に靡いた状態をキープする、勇崎のマフラーは全体如何なるメソッドで固定してゐるのか。
 配役残り、勇崎が改めて美留に紹介する風李江館の面々。太三が苦しくて服を着てゐられないレベルの裸族・ヒロミで、可児正光は労働を厭ひ昭和をこよなく愛する流銀太に、里見瑤子は魔女気取りのリナ。勇崎が遺産込みの貯金と賛同者の支援で運営する、風李江館の住人は更に二人。櫻井拓也が、鳥に憧れる通称トリオこと音更昭。勇崎とは、枝の上から飛ばした紙コップ糸電話でコミュニケートする。初美りんは、ガチ引きこもりの真鍋あんり、ポテチが常食。そして軽く問題の森羅万象が、美留を追ひ片田舎まで現れる借金取り。その場に流が駆けつけ対峙するや、シネスコ風に画面の上下を圧縮する外連まで繰り出しておきながら、立ち回るでなく―しかも遠出ロケで―何しに出て来たのかスッカラカンに判らない。
 渡邊元嗣をも歯噛みさせるにさうゐないレベルでタイトル・インが画期的に洒落てゐる、加藤義一2018年第一作。気がつくと、加藤義一の二十周年(2022年)もぼちぼち見えて来た。三つ下の城定秀夫がその次の年で、二つ下の竹洞哲也が更にその次の年。話を戻して怪人揃ひのファランジュだかアジールに、メイドコス以外の洋服を処分した、元アイドルが新たに加はる。何故それを最後に残しておく、一番金になりさうなのに。とまれ場当たり的に推移する漫然とした変人譚を、闇雲に乱打される藪蛇にソリッドなショットと、ダバダバなOK劇伴が彩る。大しても何も面白くない物語本体を、バッキバキに現在の画と昭和な音との水と油スレッスレの力技な折衷で首の皮一枚補完する。これで眠たくならないのが不思議な一作、かと思ひきや。トリオを扇の要に、美留とあんりがドア越しに交す会話でギリッギリ徳俵を堪へると、よもやに飛び込んで来る切札がまさかの糸電話!鮮やかな火蓋でハイライトを大点火、羽毛舞ふ初美りんと櫻井拓也の絡みは、ビリングをも破壊する勢ひの決定力あるエモーションを撃ち抜く。さうなると逆に、主演女優の締めの濡れ場が蛇足に堕しかねない危機を、救ふのはギアをトップのその先に捻じ込んだ、創優和のカメラ。的確なライティングでキメッキメに陰影をキメた上で、なほかつ佐倉絆の肌の質感を美しく捉へた画は、ハイキーなあんり×トリオとの対照も効いた一撃必殺の二発目。妄想癖の克服をシレッと差し込むのも心憎く、全く以て類型的なものともいへ、銘々が各々羽ばたく大団円も心地よい、案外よく出来た娯楽裸映画の、ワーキャー激賞するほどではない良作。竹洞哲也が山内大輔と無双する一方、OPP+にはお呼びのかゝらない加藤義一ではありつつ、前作の更に一歩前に踏み出した復調傾向は心強い。荒木太郎を事実上放逐し、ナベが何故か本数を激しく減らす本隊が脆弱化する中、加藤義一の存在に、俄かにスポットが当たつて来たのではなからうか。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「団鬼六 縄化粧」(昭和53/製作:日活株式会社/監督:西村昭五郎/脚本:浦戸宏/プロデューサー:結城良煕/原作:団鬼六《『肉体の賭け』桃園書房刊》/撮影:前田米造/照明:熊谷秀夫/録音:高橋三郎/美術:徳田博/編集:西村豊治/助監督:伊藤秀裕/色彩計測:杉本一海/現像:東洋現像所/製作担当者:栗原啓祐/協力:浦戸宏/出演:谷ナオミ・中島葵・山田克朗・日夏たより・高橋明)。脚本がポスターその他にあるいどあきおでなく、恐らく緊縛指導と同義の協力のみならず浦戸宏になつてゐるのは、流石にミスクレジットか。クレジットはスッ飛ばす配給に関しては事実上“提供:Xces Film”。
 株式会社にっかつの製作配給でなく、日活株式会社製作限定ロゴの時点で刹那のヤバさが駆け抜けつつ、高層ビル群ロングのタイトル開巻に軽くでなく絶望。西村昭五郎も谷ナオミも欠片たりとて悪くない、そのこゝろに関しては後述する。
 新聞ばかり読んで満足に手をつけもしない、石野英一郎(山田)と妻・加奈子(谷)の朝食風景。英一郎は大欠伸しながら駐車場に、加奈子も腰にエプロンを提げたまゝボサッと外出する。正面からは抜かれないものの、どうにも石津康彦の声に聞こえる男が犬を訓練する様子に、加奈子は何となく心を奪はれる。ボサッと外出しボサッと帰宅した加奈子が郵便受けを覗いてみると、音信不通の間に結婚してゐた旧知の友江から、画家である夫の、個展の招待状が届いてゐた。滝田伊作(高橋)の個展に出向き友江(中島)と再会した加奈子は、貴女に見て欲しいものがあるといふ自宅にも招かれる。画業に行き詰まつた際、夫婦生活を通し責め絵に開眼したとかいふ滝田は、美大生の助手・河村か川村ユメコ(日夏)が到着するや、自動的にサクサク脱ぎだした友江を縛り始め加奈子の目を丸くさせる。プログラム・ピクチャーに余計な尺はねえとばかりに、ザックリした展開が清々しい。コミタマも紛れ込まないギャラリー要員以外に、見切れる者もゐないスマート布陣、御犬様はもう一匹出て来るけれど。
 「桃色身体検査」(昭和60/監督:滝田洋二郎/脚本:高木功/主演:滝川真子)と、「地下鉄連続レイプ」(昭和60/監督・脚本:片岡修二/主演:藤村真美)。に続く三番組連続で、地元駅前ロマンが特別に“大杉漣 出演作品”と銘打ち「団鬼六 美女縄化粧」(昭和58/監督:藤井克彦/脚本:中野顕彰/主演:高倉美貴)が来る筈で、劇場入口掲示のポスターも「美女縄化粧」であるにも関らず、実際に上映が始まると極々一部の律義か酔狂な観客の度肝を抜いた、西村昭五郎昭和53年第四作。「美女縄化粧」でなく「縄化粧」、“美女”が抜けてる、惜しい!

 惜しかねえ(゚Д゚)

 羊頭を掲げてといふと泉下の西村昭五郎が憤怒で蘇へつて来るかも知れないが、何がどう転べば斯様にアメイジングな現象が発生するのか、大杉漣も泣いてるぜ。因みに当サイトが確認してゐるだけで、十年ぶり二度目。パブとプリント、もとい皿がテレコで着弾してゐるのが、全体それは駅前が悪いのか、今回の場合エクセスが仕出かしたのか。どうせ満足な答へは帰つて来まいと、小屋の人間には何も訊いてない。
 気を取り直して、映画の中身に話を戻す。戻すにしても、呆気にとられたまゝ観てゐたからといふ訳でも必ずしもないのだが、これが如何に解したものかなかなか窮する代物。コロッと感化あるいは開眼した加奈子に続き、英一郎も滝田家でのサドマゾ夫婦生活教室に参加、執拗な人間犬プレイに終始といふか特化する。中盤以降尺の本気で大半を費やす犬プレイ自体は確かに質量とも申し分ないにせよ、個人的に然程その主題に琴線を激弾きされもしないのと、舞台が一応戸建の滝田家と、団地の石野家。何れも良くも悪くも我々自身日々の生活と完全に地続きな、俗にいふウサギ小屋感が色濃いロケーションは情念ないし情欲の惹起を妨げるといふか、兎にも角にもな画のせゝこましさにノレないものを感じた。縄化粧を知つた石野夫婦は、溌剌とした英気を取り戻す。さうはいへそこは西村昭五郎、ヒロインがヒモにブチ殺される出し抜けな凶行エンドが何処で火を噴くかと明後日か一昨日な固唾を呑みかけながらも、そもそもさういふ余地もしくは可能性を残した配役でさへなく。谷ナオミの肉体と、高橋明の眼力で映画は幾らでも形になる。形になるのをいいことに、ハウツーすれすれに啓蒙じみた、一言で片付ければ人を喰つた一作である。


コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )




 「裏ビデオONANIE 密戯」(昭和63/企画・製作:飯泉プロダクション/配給:新東宝映画/監督:北沢幸雄/脚本:荒木太郎/撮影:佐藤芳郎/照明:石垣悟/音楽:エデイみしば/編集:金子編集室/助監督:荒木太郎・田島政明・宇野伸一/撮影助手:古谷巧/照明助手:斉藤志伸/効果:東京スクリーンサービス/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:岸本かおる・井上真愉見・渡瀬奈々・乱孝寿・平工秀哉・伊藤正彦・佐々尾幸・内村宏・ゾンビ宇野・他力本願・高橋直子・山口肇・谷一郎・小林直人・小林伸一・藤原ふみ・木村健吾・奈良一美・劇団火の鳥・野上正義・今泉洋)。撮影助手の古谷巧が本篇クレジットでは、左右でなく上下に工と万が並んだレタリング、そんな漢字あるのかな。
 ピアノが起動してタイトル開巻、思ひのほか膨大な俳優部に、爆死を覚悟する。ビデオレンタル店「ジャンボシアター」に、ディストリビューターの大森(平工)が来店。洋画のコーナーに並ぶ、星空パッケージの謎テープを借りる。伊藤正彦が、髪に白いメッシュを入れてゐるのが老けメイクのつもりなのか何なのかよく判らない店長、客に半笑ひでガンくれんなや。帰宅後、レッドアイを用意しつつ大森がカセット自体も星空なビデオを再生してみると、タイトルは“黒印の女”、続けて“M子”。M子(岸本)がオナニーを漫然と始める内容に、呆れた大森が消さうとすると、M子はモニターの中から「消さないで」と哀願するどころか、大森の名前と素性をも口にした。
 配役残り大森と「ディストリビューターの大森さん」、「新聞配達の田中さん」と不自然さが爆裂する挨拶を交す田中が、特定出来ない最大の役。大森的には此岸に出現したM子が、他人には見えない描写を担ふ。ビリング推定で佐々尾幸が、清々しい口パクでシャンソンを歌ふ女?野上正義と井上真愉見は、不能のヤスシとその妻。ただでさへだだつ広い豪奢なラブホテルに、なほかつムード作りにシャンソン歌手を連れて来る財力を有す。今泉洋は娘を幼くして亡くしたボケ老人で、乱孝寿が配偶者と認識して貰へない妻。初見の渡瀬奈々は、彼氏のユージ(名前しか登場せず)を余所の女に寝取られた女。若いのか齢喰つてゐるのか絶妙に微妙なルックスながら、オッパイはマジ卍、意味知らんけど。残りの頭数はカットによつては過剰に潤沢な店員・客込み込みのジャンボシアター要員と、もしかすると今泉洋パート冒頭の公園に見切れる子役に、亡娘遺影の主も含まれてゐるのか。
 北沢幸雄昭和63年第四作は荒木太郎の初脚本作にして、荒木太郎2001年第四作「フェリーの女 生撮り覗き」(脚本:瀬々敬久/主演:中川真緒)に於けるナレーションを最後の仕事に、翌年死去した今泉洋最後の出演作。三次元M子と帰宅する大森がジャンボシアターの表を、台車にでも乗つて下半身を全く動かさずにスーッと平行移動する演出は、北沢幸雄の昭和を掘つてゐないゆゑ何ともいへないが、遅くとも前年には既に繰り出してゐる細山智明と、北沢幸雄のどちらがパクッたのか。それ、とも。二人を更に遡る、真のオリジネーターが存在する?
 実は大森を最もさて措き幸福ではない者の前に、裏ビデオの中から現れる女。濡れ場の種とロマンティックとを両立した、パッと見実に魅力的な設定である。下手な特殊撮影に割く袖すらない上で、ヤスシが嫁と浸かる湯船からブラウン管越しのM子と「私がシテあげようか?」、うんうん頷いて「ああ頼むよ」と会話するや、真右からフレーム内に飛び込んで来たM子がそのまゝヤスシにキスをする、大胆かつ素敵な力技には感動した。井上真愉見成分の薄さを無視すれば裸映画としてひとまづ以上に成立し、M子の正体といふ面では最低限の落とし処になら到達してゐなくもない。木に接いだ竹スレッスレで思はせぶる伊藤正彦の怪演を、ガクガク不安定に寄るムーブでカメラも加速する。尤も、大森篇を一旦締め括る“黒印”ルールは、以降思ひだす程度のラストを除けばスカッと等閑視。ヤスシが比較的綺麗に通過する一方、如何なる認識であつたのか星空謎テープを大森の手から拝借こそした乱孝寿が、叩き落される絶望の底は凶悪に後味が悪く、ついでに居丈高に徹する造形の果てに、傍迷惑に半壊する今泉洋の姿は琴線を激しく逆弾きする、いつそ全壊しろ。渡瀬奈々が合鍵で入つたユージの部屋にて、M子のビデオを見てゐるシークエンスに至つてはそもそも意味不明。見所もそこかしこにあるとはいへ、最終的には全般的なちぐはぐさが勝り、芳醇な果実を実らせ損ねた一作に映る。

 さて、前々から気にはなつてゐた、音楽担当のエディみしば。今回“エデイ”と表記したのは、あくまでさう見える本篇クレジットに従つた。幾分の差異もなくはないにせよ大体似たやうな名義で、何れも北沢幸雄作ばかり、jmdb準拠で少なくとも十五本の音楽を担当してゐるエディみしばであるが、エディでみしばとなると、脊髄で折り返すまでもなくex.三柴江戸蔵の三柴理を想起しない訳がない。因みに下の名前の江戸蔵が、愛称エディの元となつた所以。尤も初めからその点に狙ひをつけてもゐたものの、今作を見た限りでは、間違ひなく筋少なり特撮を通じて知る、ライブで実際の演奏を観たこともある“エディ”三柴理であると、確証を持つには至らなかつた。


コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )




 「地下鉄連続レイプ」(昭和60/製作:獅子プロダクション/配給:株式会社にっかつ/監督:片岡修二/脚本:片岡修二/企画:奥村幸士/撮影:志村敏夫/照明:吉角荘介/編集:金子編集室/助監督:佐藤寿保/監督助手:笠井雅裕・末田健/製作進行:岡村雅裕/色彩計測:下元哲/撮影助手:吉田敦彦/照明助手:河村和正/スチール:田中欣一/車輌:浦富真吾/録音:銀座サウンド/現像:東洋現像所/出演:藤村真美・岡村あきら・石坂恵理・早乙女宏美・下元史朗・有薗芳記・郷田和彦・狼狂二・外波山文明・池島ゆたか・ジミー土田・小幡一博・富沢隆也・笠松夢路・平口広美《特別出演》・大杉漣)。出演者中、笠松夢路は本篇クレジットのみ。配給に関しては、事実上“提供:Xces Film”。
 首元の蝶ネクタイとバニースーツの尻元を直すカットを連ね、大勢のバニーガールで華やぐパブ「レディーファースト」店内。男達が鼻の下を伸ばす喧騒を余所に、カウンターで気取つてグラスを傾ける野沢俊介(大杉)の煙草に、バニガの江藤倫子(藤村)が火を点ける。正直会話の糸口にしては大概素頓狂でもあるのだが、倫子がクイズにした特技は野沢が答へた男を悦ばすことではなく、一度来たお客さんの顔を、忘れないこと。これから仕事と杯を断る、野沢に倫子が一枚引かせたトランプはスペードのエース、ハートなら当たりでキスして貰へる。地下鉄の車載カメラに、無造作なタイトル・イン。タイトル明けは一台の車が停められた、見るから人気(ひとけ)のないロケーション。助手席に座るセーラー服の早乙女宏美を、ジミー土田が喰ふ。スタッフ・キャストの順で消化したのち、監督クレジットまで絡みの完遂を待つて九十秒空く間が、流石に奇異に映る。サイレンサー付きの銃を手に車に近づいた野沢は、それぞれ一撃でサオトメックスとジミ土を昏倒させ車を強奪。一方、CMディレクターとアフターする、百合の花香らせる間柄の同僚・圭(岡村)と軽く悶着しつつ、倫子は地下鉄で帰宅。へべれけなヒャッハー造形の、チンピラ三人組(車内スリーショットの並びで左から有薗芳記×狼狂二×郷田和彦)も同じ電車に乗る。実は同じ組の兄貴分・沼田(外波山)のアヘン取引現場を襲撃した(外波文の次にブチ殺されるのが、多分笠松夢路=笠井雅裕)野沢は、路駐した―本来ジミ土の―車が官憲に阻まれ使へず、倫子らが乗つた地下鉄に新宿四丁目の入口から下りて、西荻窪のホームから乗る。田舎民には判らないが、降りる駅もへべれけらしい。実車輌衆人環視の中、ヒャッハーズ(仮称)が倫子を凌辱する額面通りの地下鉄連続レイプが発生。その場に居合はせながら、アヘンの詰まつたアタッシュを抱へ野沢は動けない。
 出演者残り眉を剃り落とした下元史朗は、何者かにシノギの種を奪はれた一大事に動きだす幹部。定石だと佐伯恭司とならうところだが、佐伯の兄貴といつた風にも呼称されない。平口広美はシモシに常時帯同する子分、笠松夢路とで兄弟役も成立する気がする。石坂恵理は、重傷を負ふも元気な沼田の情婦。池島ゆたかは倫子の訴へを、通報がないだとか怠惰な理由で取り合はないレス・ザン・ヤル気の刑事。特定不能の小幡一博と富沢隆也は、サブウェイのハンカチと、シモシ子分もう一人か。小屋に来るからロマポも結構観てゐる割に、コミタマの禁断症状が出て来た。
 シネロマンの追悼企画を踏襲して、地元駅前ロマンが前番組の「桃色身体検査」(監督:滝田洋二郎/脚本:高木功/主演:滝川真子)と特別に“大杉漣 出演作品”と銘打つた片岡修二昭和60年第一作。片岡修二の昭和60年といふと全五作を発表する傍ら、この年まで助監督稼業も並行。「桃色身体検査」とナベの「ロリータ喪失」(渡辺元嗣名義/脚本:平柳益実/主演:松田ジュン)に、梅沢薫第七作「ザ・覗き 狙はれた女」(ミリオン)。
 ロマポ最晩年まで一年に一本づつ全四作が公開された、「地下鉄連続レイプ」シリーズの無印第一弾。火蓋を切つただけはあるのか、今回の追悼企画に際しても、概ね好評を博した風が窺へる。尤も俳優部も複雑に交錯する普通に充実した物語に比して、六十三分弱といふ尺はあまりにも短い。正しく矢継ぎ早に次の局面次の局面へと移行する、ザックザクした高速展開は心地よくなくもないにせよ、石坂恵理が野沢にカマをかけがてら膳を据ゑる件は切り口が甚だ雑などころか以降のフォローも皆無で、濡れ場のノルマごなしにしても木に竹さへ接ぎ損なふ。主に野沢絡みでキメのショットを乱打するのも、些か狙ひ過ぎカッコつけ過ぎ。配役が逆で野沢が下元史朗ならば形になつたのかも知れないが、少なくとも当時の大杉漣では些か役不足。一人の人間の死を悼む悼まないと、その仕事の評価とは全く別。ついでに女優部もビリング頭の藤村真美よりも、余程美人でオッパイも悩ましい岡村あきらの方が断然輝く。ところでそんな岡村あきらが、天下を取るでもなく今作以外の出演作が見当たらない件、名前を変へてゐたら知らん。売りの地下鉄連続レイプは確かに地下鉄連続レイプではあるものの、今となつては無茶してやがんなあ、昭和といつた程度の印象に止(とど)まる。パラノーマルに出現したスペードのエースが血に染まりハートに変る、ラスト・ショットが象徴的な如何せん少々あざとい一作。とはいへシリーズがex.DMMで網羅出来るのは魅力につき、ぼちぼち思ひだした頃合で見て行かう。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「フェリーの女 生撮り覗き」(2001/製作:多呂プロ/提供:オーピー映画/監督:荒木太郎/脚本:瀬々敬久/撮影照明:前井一作・横田彰司/編集:酒井正次/助監督:森山茂雄・石田朝也/制作:小林徹哉/録音:シネキャビン/現像:東映化学/挿入歌:『フェリーの女』 作詞:瀬々敬久 作曲:足達英明 アコーディオン:〃 トランペット:永島幸代 唄:野上正義・中川真緒/協力:佐藤選人・睦月影郎/パンフレット:堀内満里子/出演:中川真緒・佐倉萌・佐々木基子・縄文人・内藤忠司・石川雄也・野上正義/ナレーション:今泉洋)。
 青地に白い意図的にプリミティブな筆致と、今泉洋のナレーションで「昔々、男のロマンは女だつた」。久保チンより九つ上のガミさんより更に一回り上で、堺勝朗と同世代。昭和30年代中盤から昭和末期にかけてピンク映画で膨大な戦歴を残した今泉洋は、翌年没する。久保チンでさへその死を後々知つたといふから、内々に継続して親交のあつたガミさんが、いはば一種の花道を用立てたのか。それ、とも。今泉洋最後の出演作「裏ビデオONANIE 密戯」(昭和63/監督:北沢幸雄)の、脚本を担当したのが監督デビューを遥かに遡る初脚本となる荒木太郎!あるいは荒木太郎自身が、今泉洋とある程度以上近しい間柄にあつたものやも知れない。しかも、その「裏ビデオONANIE 密戯」がex.DMMで見られると来た日には、次に見る。
 一旦さて措き、行進曲が起動して日の丸。今度は荒木太郎の、ヤケクソすれすれに性急なナレーションで「オマンコ×オメコ×ヴァギナ、呼び方は色々だが男は必死にそれを追ひ求めた」、「これはそんな時代の物語である」。東京湾フェリー運航のかなや丸を正面から抜いて、如何にもこの時期の多呂プロテイストなイラストタイトル・イン。結構デカい軍船と飲み屋街、平成24年八月に閉館した金星劇場(神奈川県横須賀市)の画を連ね、ボンカレーを皮切りに、昭和な雑誌なりポスターがこれ見よがしに撒かれた部屋。裏ビデオ監督兼ビニ本カメラマンのフーやんこと藤川オサム(縄)が、ノリの悪い恵(佐倉)相手にビニ本を撮影する。悪戦苦闘の末に、とまれバナナを使つたワンマンショー完遂。第三者の気配にフーやんが気づくと、恵の義父・菊池(内藤)がマスをかいてゐた。荒木レーション曰くフーやん同じく“エロの虫”たる菊池とフーやんの関係は、菊池が経営する電気屋―キクチなのに屋号は「PANA PORT タジマ」―で、フーやんの裏ビデオをおまけにデッキを売り捌いてゐた。佐々木基子が恵の母親にして、パートの子連れ未亡人に菊池が手をつけた真紀子。客で広瀬寛巳が、完全無欠のクレジットレスで飛び込んで来る。菊池に話を戻すと、m@stervision大哥はフーやん役が佐野和宏の瀬々ver.を観たいと仰つておいでだが、さうなると菊池役は、諏訪太郎だと思ふ、目に浮かぶツーショットが超絶カッコいいぞ。菊池がフーやんに、製作費を出す老人が脚本も自分で書き、ついでに主演もその老人とかいふ、要は俺裏ビデオを撮る話を持つて来る。恵には逃げられつつ、とりあへず乗つた老人が住む島に渡るフェリーの船内、フーやんは鼻歌でローレライを歌ふ夢子(中川)に見惚れる。
 配役残り、最終的には佐々木基子の濡れ場を介錯する役得、もとい大役を果たす荒木太郎は、真紀子にソニーのベータを売りつけられる男。フーやんが、ベータでも裏ビデオを出してゐたのかは不明、店でダビングすれば済む話だけど。てか、そもそもベータ規格に手を出してゐない、松下の特約店なのに。兎も角石川雄也は、後を追ふフーやんの眼前、夢子と自販機の物陰で致す行きずりの絡み要員。よくよく考へてみると、瀬々が悪いのか荒木太郎の所為なのか、大概な力技ではある。そして野上正義が、島でフーやんと夢子を待ち受ける菊池。ガミさん登場で、展開が偶さか走り始めるラッシュは圧巻。電車で七十の婆に痴漢した菊池を逮捕するのと、菊池が口を割り、フーやんも追ひ駆ける刑事は小林徹哉と森山茂雄。コバテツは殆ど変らないが、森山茂雄が何か凄え若い。
 別れ際、「傑作を期待してますぞ」と波止場から全身を使つて手を振る菊池に、声など届かぬのをいいことに、フーやんが「早く死ね糞爺」と爽快に毒を吐くカットと、菊池が仕出かした恵との親子丼を知り、一修羅場起こした真紀子は荒木太郎を捕まへ、二人が本番する裏ビデオを撮るやうフーやんに強要。四の五のしながらもオッ始めたゆゑ、勢ひに吞まれるやうにフーやんがカメラ、夢子はライトを構へるカットは覚えてゐた、荒木太郎2001年第四作。如何なるものの弾みか、現状といふ限定も最早必要あるまい、最初で最後の瀬々敬久大蔵上陸とは、いふものの。生死が熱くか、真逆に冷たく立籠めるでなければ、政の気配が滾るでもなく。軽妙でリリカル、且つギミック過多の下町譚は、徹頭徹尾荒木太郎の映画にしか見えない。見えないのと、よくいへば穏やかな、直截にいへば硬度に乏しい演出の中に放り込むと、これまで絶対美人かに思つてゐた中川真緒の、案外間延び具合が際立つのはこの期に及んでの発見。もうひとつ興味深いのが菊池と夢子、あるいは野上正義と中川真緒が完パケ題は「戦場に燃ゆる恋」となる裏ビデオの歌パートとして披露する、挿入歌「フェリーの女」―劇中題は「人生裏表」―のメロディが、「恋情乙女」(作詞:三上紗恵子 作曲:安達ひでや 唄:牧村耕次)とほぼほぼ同じな件。なんて思つてゐたら、足達英明は安達ひでやの本名であつた、長い付き合ひなんだね。

 とこ、ろで。ナレーション特記はないまゝに、他の俳優部とともにポスターにも名前の載る今泉洋であるが、驚く勿れ仕事はラストで再度使用される、「昔々、男のロマンは女だつた」の正真正銘一言のみ。正直その口跡は、少なくとも力強さを感じさせるものではない。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「制服娼婦」(1992/製作・配給:大蔵映画/監督・脚本:小林悟/撮影:柳田友貴/照明:小野寺透/編集:フィルム・クラフト/助監督:青柳一夫/スチール:大崎正浩/監督助手:杜松蓉子/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/フィルム:AGFA/出演:大滝ゆり・冴木直・杉原みさお・白都翔一・浅間凌次・石神一・港雄一)。
 え、主人公これ?と軽く見紛ふ、パッとしない主演女優の背後に冴木直と杉浦みさお、三人ともセーラー服。野中マリ(大滝)を毛嫌ひする三田清子(冴木)と羽生世津(杉原)は、部活をしてゐなければ塾にも通つてゐない、マリの放課後を何やかや邪推する。何某か危ないアルバイトをしてゐるのではないか、それとも売春!?と二人が顔を見合はせたタイミングでタイトル・イン。クレジット明け、現にといふか何といふか、事そこに至るバックグラウンドは軽やかにスッ飛ばし、例によつて小林悟が不愛想なバーテンのスナックでホステスとして働くマリは、常連客と日常的に金を取り寝てゐた。港雄一が、女子高生―ぽくも限りなく見えないけど―の肉体に何時も通りフガフガ垂涎する医師の大村先生、フランケンか。もう二人、カウンターに見切れる客要員は不明。
 更に配役残り白都翔一と浅間凌次は、何故か一人暮らしのヒロシ宅にて清子×ヒロシ、世津×カズヒコの組み合はせで乱交を仕出かす仲の同級生・ヒロシと宮本カズヒコ。但し四人でギリッギリ挿入まではしない程度にマリをリンチする件では、一回カズヒコがヒロシに対しカズヒコと呼びかける。アフレコ時に、せめて俳優部は気づかなかつたのか。それと浅間凌次(a.k.a.畠山智行)は、高校生に見えるか否か以前に、そんなダブッダブの体で脱ぎ仕事すんな、甚だ見苦しい。気を取り直して石神一も、度々マリを買ふスナック常連客。リンチ後流石に沈むマリの肩越しに、心配さうに眉を八の字に寄せ覗き込む、マンガ顔を活かしたファースト・カットの構図が素晴らしい。ところでjmdbの今作の項では、杉原みさおが杉浦みさおに、ついうつかり通り過ぎかねない絶妙な誤記が瑞々しい。
 明後日か一昨日な見所に富んだ、小林悟1992年第四作。さう掻い摘むと、大御大仕事の大抵は片付けられるのかも知れないけれど。各々大村先生と石神一から、友達を紹介するやう乞はれてゐたマリは、そのことを逆手に取り清子らに逆襲。まづは和解を偽装し世津をマリもマリで一人住まひの自宅に招いた上で、遅れて大村先生到着。するや大村を世津に任せといふか押しつけ、マリはバイトに。リンチの件で“監獄行き”―劇中用語ママ―云々と脅迫した大村は、「オジサンに任せなさい」と泣きだした世津のブラのホックを外す。一方、清子に関しては。和解を偽装し自宅に招いた上で、遅れて石神一到着。するやマリは買物に、以下略。横着するにもほどがある、面子が違ふだけで、幾ら小林悟とはいへあまりの仕打ちにクラクラ来た。おまけにこの杉原みさお×港雄一、冴木直×石神一の濡れ場が何れも途方もなく長く、中盤元々稀薄なビリング頭の影は、忘却と二人のオッパイの遥か彼方に暫し霞む。かと思ひきや、対ヒロシ・カズヒコに際しては、マリが両親にほぼほぼ捨てられてゐた出し抜けな事実が大開示。「社会から捨てられた女つて、ドロドロに汚れないと生きて行けないのよ」だなどとやさぐれたメッセージが、木に竹も接ぎ損なふ。挙句の果ての、まるで口笛吹いて空地に行く類の道徳番組エンドは驚愕の一言。脈略といふ概念さへ心の棚に仕舞つてしまへば、女の裸―だけ―は確かに潤沢。とはいへリピートと右往左往に終始した末に、展開は花火玉の如く爽快に砕け散る。絶対値の大きさが、小林悟の中でもデカい方の衝撃作。ベクトルの正負は、さて措くに如くはない。全篇を貫く両義的に闇雲な校則批判には、これでリベラリストたる大御大の面目躍如も垣間見える、どれでだ。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「おつとり姉さん 恥骨で誘ふ」(2018/制作:Blue Forest Film/提供:オーピー映画/監督:竹洞哲也/脚本:当方ボーカル/撮影監督:創優和/録音:山口勉/編集:三田たけし/音楽:與語一平/整音:吉方淳二/助監督:江尻大/監督助手:平田圭一/撮影助手:酒村多緒・小山樹理/特殊造形:土肥良成/スチール:阿部真也/仕上げ:東映ラボ・テック/協力:恩田真弓・深澤浩子/出演:神納花・しじみ・白木優子・飯田浩次郎・世志男・櫻井拓也・イワヤケンジ・森羅万象)。
 山ん中のバス停にタイトル・イン、二時間に一本のバスを待ちがてら、坐骨神経痛に苦悶する遠藤一男(飯田)が、齢の離れた妻・愛子(神納花/ex.管野しずか)を木々に紛れて後ろから突く。痛いのに不自然といへば不自然だが、そこは開巻に絡みを叩き込まうとする、遮二無二な誠意を酌んで無粋なツッコミは呑み込むべきだ。飯田浩次郎の逆マグロはさて措き、何だかんだの末に完遂。茂みの中に潜んでゐた、通称か蔑称アパオこと、一男の幼馴染で白痴の麻田朝男(森羅)に驚いた二人は、バスを逃す。巨漢をプリミティブに包んだ森羅万象のエプロンもとい裸オーバーオールに、琴線が切れるくらゐ揺さぶられる薔薇クラスタの御仁もゐるのかな?足が痛くて長椅子に横たはる一男と、長男の嫁にしてはもう少し堂々としてゐても罰の当たらない愛子以下、寿司職人―但し店は潰した―の次男・二郎(世志男)と、体のラインに張りついたワンピがエロい妻の踊(白木)に、茸オタクの息子・長生(櫻井)。長女兼末妹の里奈(しじみ/この期にex.持田茜)が、母・トメ(何もかも一切登場せず)の死去に伴ひ揃つた遠藤家。アパオを伴ひ現れた弁護士の本村武也(イワヤ)は、“一部”の範囲は任意に設定し得る遺産の一部を、晩年世話をして呉れたアパオに。残り全てをトメが一番大切にしてゐるものを見つけた者一人に相続させるとかする、漠然とした飛躍が高い以前に、骨肉に争へといはんばかりの遺言を家族に告げる。未だ離婚には至らないものの、旦那に放置された結果ありがちな宗教に流れたと思しき里奈の立ち位置に関しては、例によつて小ネタ過多の始終の中、タイムライン感覚で情報が流れ過ぎて行く。内トラ一人配役は残らないが、土肥良成の仕事は、長生が見つけるLGBTなカラーリングの茸か。
 OPP+が大絶賛お祭り中の、竹洞哲也2018年第一作。ところでプラスの内訳が、竹洞哲也と山内大輔が六本づつ。外様五本に、ギネス級の電撃作戦を敢行しオープニングに飛び込んで来た城定秀夫。何だかなあといふラインナップでしかない、竹洞哲也&山内大輔による、ビッグショーならぬふたりの映画祭か。今作のプラス題が、「遠藤家遺産戦争」。訴求力に欠くニュートラルな題名にも思へるのは兎も角、尺が驚愕の98分!半時間違ふとなると何処までピンク版は削り込まれてゐるのかと、事前にはこれまでも踏まへ匙を投げかけたけれど、長生のオタクとしての未熟を除けば諸々のギミックも的確に配し、終盤は流石に粗さが際立つにせよ一応お話は成立する。俳優部に開いた唯一にして最大の大穴が、男優部の分際で、エクセスライクな何処から連れて来た感を爆裂させる飯田浩次郎。そもそもの魅力と表情とに激しく欠きながらも、ダーリン石川並の口跡は、良くも悪くも小松公典らしい歯止めの利かない会話劇を最低限繋ぐ。といつて特別に心を掴まれるほど面白くは全くないが、とまれ三本柱の濡れ場はひとまづ十全に見せる。その裸映画を決して疎かにはしない姿勢は、一般映画に浮気したプラス戦線の中では一際際立つ。何だか屈折したといふか何といふか、物凄くレベルの低い議論をしてゐるやうな気がして来た。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「セックス・メイド お掃除のあとで」(昭和59/製作:株式会社にっかつ・日本トップアート/配給:株式会社にっかつ/監督:林功/脚本:伴一彦/プロデューサー:村井良雄/撮影:倉本和人/照明:石部馨/録音:ニューメグロスタジオ 矢込弘明/美術:高槻彰/編集:JKS編集室 菊池純一/音楽:ペギー・ミラー/助監督:中村光徳/色彩計測:下元哲/現像:東映化学/製作担当者:マイケル・鈴木/出演:北原ちあき《新人》・真堂ありさ・遠山牛・伊藤正彦・水木薫・花上晃)。配給に関しては、事実上“提供:Xces Film”。
 遠目には鉄塔の映える構図で、手荷物を提げた北原ちあきが上り坂を歩きながらフレームに入る開巻。クレジットが先行、北原ちあきが到着した木村家の表札を抜いて林功の監督クレジット。ジャージ主婦・木村咲枝(水木)の、開いてゐるといふ声に従ひ玄関を開けた北原ちあきが、「森山栗子です、東京メイド倶楽部から参りました」と快活に御挨拶してタイトル・イン。全く以て過不足ない、完ッ璧なアバンが何気に煌めく。
 東京メイド倶楽部の五時間一万五千円といふ料金に、高いと難色を示した咲枝に対する栗子の返答が、顧客の大抵は単身赴任者かチョンガー族。腑に落ちた咲枝が栗子を誘つたのは、賞状の数々と旭日旗、老婆の遺影(北原ちあきの二役)が祀られた仏壇まではいいとして、枕元には無数のエロ本が散乱する和室。咲枝が栗子に世話させようとする、ex.帝国海軍少尉のex.小学校校長であつた堅物が、目下はすつかり惚けた義父の啓造(花上)は、案の定栗子を亡妻と誤認。劇中台詞ママでズロースの中の観音様を拝ませて呉れるやう要求されての、北原ちあきのお尻がプリップリで堪らない。
 配役残り、唐突な繋ぎと薄暗い画面に誰と誰が致してゐるのか暫し困惑した遠山牛と真堂ありさは、咲枝の夫にして啓造息子の啓介と、部下兼浮気相手の日野瞳。女の肌の柔らかさを届かせる、極接写が素晴らしい。それは兎も角日野家木村家何れも妙に本棚を舐めてみせるのだが、何某か生臭い含意の有無は、流石に三十有余年も経つてしまふと俄かには辿り着けない。伊藤正彦は、自身も女子大生である栗子の大学生の彼氏・マコト。終盤木にロンギヌスの槍を継ぐ、出し抜け極まりないカミングアウトを爆裂させる。啓介・瞳の勤務先要員と、大病した飯島大介のやうな、ラストに登場する二人目の老人は不明。だ、か、ら。小屋に来るゆゑ大概ロマポも観てゐるのに、どうしてコミタマが出て来ないんだ。サブや影英はまだしも、最後にコミタマッたのなんて四ヶ月も前だぞ。皆勤する勢ひで出演してゐるやうな気がしてゐたけれど、案外さういふ訳でもないのかな。
 ロマポ出演は四本目であるにも関らず、初主演だからか北原ちあきに―本クレのみ―新人特記が入る、林功昭和59年第二作。何はともあれ特筆すべきは、驚異の短尺五十分!そもそもデフォルトが十分短いピンクでさへ、五十五分前後ならば兎も角、五十分の代物なんて片手に余る程度しか観た覚えがない。さうなるとザクザクした純粋裸映画ともなりかねないところが、特に大した物語といふほどの物語もありはしないにせよ、小刻みな展開で銘々の言ひ分なり立ち位置を巧みに綴り、素面の劇映画としても結構普通に見させる。逆に、絡みを中途でブツ切りするのが目につかなくもなく、とりわけ折角力技で正方向のエモーションに点火した締めの濡れ場をも、乱雑に放棄して済ますのには臍を曲げかけた、ものの。死の淵から回復した啓造に咲枝が風神の速さで叩き込む、何の脈略もない蹴りの無造作な暴力性が爆発的に可笑しい、騒々しく復活した日常は側面から賑々しく撃ち込む大団円。シレッとアクチュアルに切り込んだオーラスまで、一気呵成に駆け抜ける。寧ろ超短尺がお話の薄さに奇跡のジャスト・フィットを果たしたのか、コンパクトな逸品、とすらいふのは褒め過ぎかも知れない一品。結果論にしても、要は丸々棒に振つたに等しい平成の末から振り返れば、昭和が眩く見えるのは気の所為か。口跡含めオールレンジにお人形お人形した北原ちあきもピッチピチで悪くはないが、水木薫の出来上がつた美人ぶりは、ビリング上の噛ませ犬に決して甘んじることなく華麗に咲き誇る。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 「痴漢電車 変態の夢と現実」(2017/制作:旦々舎/提供:オーピー映画/脚本・監督:山﨑邦紀/撮影:小山田勝治/撮影助手:宮原かおり/照明:ガッツ/録音:山口勉・廣木邦人/助監督:小関裕次郎/応援:山鹿孝起/編集:有馬潜/音楽:中空龍/整音・音響効果:若林大記/録音スタジオ:シンクワイヤ/ポスター撮影:MAYA/仕上げ:東映ラボ・テック/出演:東凛・水嶋アリス・黄金むぎ・山本宗介・細川佳央・永川聖二・吉田俊大・岡輝男・望月義夫・武子政信、他七名・荒木太郎)。出演者中、吉田俊大から他七名までは本篇クレジットのみ。照明のガッツは、守利賢一の変名。
 2050年、モノレールの車中で荒木太郎が述懐する。政府が電車痴漢対策に本腰で乗り出した結果、脳を侵す特殊なウイルスが発見される。一旦感染すると不治につき、痴漢師は“痴族”と名付けられ撲滅の対象となる。淡々とディストピアの蓋を開けた荒木太郎が、一応手袋で隠された、親指と小指の二本しかない右手を見やつてタイトル・イン。インジヤー・トウェンティトウェンティツー、2022年。東凛が山本宗介の電車痴漢を被弾し、その画面後方では、水嶋アリスも細川佳央の電車痴漢を被弾する。なされるがまゝ苦悶してゐるかに見えた東凛が、カッと目を見開くや起動。鉄道女子防衛局所属の痴族ハンター・狼牙(東)は痴族撲滅法三条第四号に基き、まんまウルヴァリンな鉄の爪―安いものだと数千円からあるみたい―で朝日リンクに勤務するヒノハラ比丘人(山本)の右手中指を、第二関節から切断する。現行犯の逮捕はおろか刑の執行までもが、痴族ハンターには認められてゐた。あるいは、痴族に対しては許されてゐた。指のみならず職も失ひ荒れる比丘人に、以前望月義夫からの痴漢を救はれてゐた詩音(水嶋)が接触。苛烈な痴族撲滅に絆されたのか単に山宗のジャスティス男前にチョロ負かされたのか、詩音は膳を据ゑる勢ひでコンビを組んでの痴漢美人局を比丘人に持ちかける。
 配役残り見慣れぬ名前揃ひの他七名は、二名女性も含む乗客要員。御大将の山﨑邦紀も、見切れてゐた気がする。白刃を抜いてのそこそこの殺陣も披露する永川聖二は、鉄道女子防衛局局長の満州九州男。女子高生時代に、当時法務大臣であつた父親に引き取られた狼牙とは、義兄妹の関係にある。黄金むぎが、九州男の妻・亜蘭。横浜の映画館でたまたまミーツした浜野佐知に声をかけられ、今作に参加する運びとなつた岡輝男は、美人局の最初のカモ。その場に居合はせ、詩音とは再会した格好のロザリ夫(細川)も比丘人の両脇ヘッドロックで連行される。吉田俊大も、美人局のカモ、但し介入した狼牙に逃がされる。武子政信は狼牙が痴族ハンターの足を洗つたのち、詩音と比丘人が開設した対痴族の民間組織「痴族撲滅 鉄の爪センター」最初の戦果。指を落としはせず、手の甲に引つ掻き傷をつけるのみ、歴然とした傷害罪なんだけど。
 岡輝男が「露出願望 見られたい人妻」(2014/脚本・監督:国沢☆実/主演:あいださくら)以来の電撃大復帰を果たす一方、かつての盟友の、ガチ痴漢師にしてエロ漫画家なる伝説のアウトロー・小多魔若史先生(a.k.a.山本さむ)は捜したものの見つからなかつた、山﨑邦紀2017年第二作。自身二十年ぶり四度目となる、大蔵伝統栄えある正月痴漢電車。この期に改めてよくよく考へてみると、目出度い新春を、クライム映画で寿ぐ爽快な底の抜け具合。それはさて措き、比丘人必至の制止も届かず、狼牙に手を出したロザリ夫は、サクッと指チョンパされる。事後の取調室、誕生時に遡る五感への執着を痴漢行為の源泉とし、処断も甘んじて受け入れる旨を説くロザリ夫に、狼牙は激しく動揺する。二本三本と性懲りもなく指を狩られ続けるロザリ夫の態度も、破滅的なマゾヒズムと解するならば理解出来なくはないにせよ、痴族は脳をウイルスに侵された、要は後天的な存在であつた筈だ。ロザリ夫が生まれついての痴漢であつた場合、果たしてウイルス自体が実在するのか?一般的な痴族をパートタイムと看做し、自らを運命の痴漢と称するロザリ夫は現実社会内に寄る辺の不在と、その外部の夢想なり幻想への志向をも口にする。即ち“うつし世はゆめ、よるの夢こそまこと”、乱歩が到達したひとつの真実に突入。終盤まで主演女優を温存する間も、ともに初陣ながら卒なく持ち堪へ得るそれなりの女優部を擁し、なほかつ山宗は現代ピンク最強のイケメンを弾けさせ、細川佳央はラッキョ感覚で皮の剝けた眼力を迸らせる。前年の、痴漢電車少なくとも今世紀最高傑作「痴漢電車 マン淫夢ごこち」(2016/監督・脚本:城定秀夫/主演:希島あいり・竹内真琴・松井理子)に続き、二年連続正月痴漢電車が超特急をカッ飛ばし、てゐておかしくなかつた、のに。山﨑邦紀が力を失する際の悪癖で、斯くも魅惑的にオッ広げた極大風呂敷を、ものの見事に畳みやしないんだな、これが。再三コンプライアンス的な反痴漢に尺を割いてみせる割に、ロザリ夫が開示した視座は何処へ辿り着くでなく、展開は狼牙の通俗的か表層的なアタシ探しに収束、より直截にいへば失速する。痴族ウイルスの存否といふ劇中世界の正否を左右する最大の疑惑は、九分九厘等閑視。ついでに比丘人と詩音が、御丁寧に火に油を注ぐ、あるいは傷口に塩を塗る。比丘人が岡輝男―とロザリ夫―に美人局を正当化する方便が、痴族ハンターが刑事裁判で、十万円を要求する痴漢美人局が民事裁判。刑事も民事もあるか、何時から国民一人一人に司法権が委ねられた。原則禁止の自救行為にすら当たらず、「鉄の爪センター」に於いて詩音が今となつては懐かしき「エルム街の悪夢」のフレディばりに武装する点に関しては、当然銃刀法といふプリミティブなツッコミも禁じ得ない。思ひだした、デジタルの簡便な果実を綺麗に享受した、東凛がセーラー服を着た後姿のセピア色回想ショットも、一欠片たりとて掘り下げないどころか、直後に―2022年時制で―オカテルが唐突に飛び込んで来る、無造作な繋ぎには正直面喰はされた。新年祝賀作といふのもあつてか、近年省力撮影づく山﨑邦紀にしてはロケーションの手数にも富み、勿論女の裸を愉しむには申し分なく、とりわけ出し惜しんだ分、東凛のゴジャースな裸身は締めの濡れ場で目乃至お腹一杯に堪能させて呉れる。とはいへ全体的な物語としては物足りなさを猛烈に残し、アバンとラストで思はせぶりなばかりの物憂げな風情を振り撒く、自作ごと封殺された荒木太郎の、打開を果たせない限り現状見納めといつた色彩が最も強い。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )