「森尾歩衣 聖水折檻」(1993/企画:吉満屋功/プロデューサー:久保新二/配給:新東宝映画/監督:若月美廣/脚本:田辺満・若月美廣/撮影:中本憲政/照明:隅田浩行/音楽:遠藤浩一/編集:酒井正次/助監督:四宮一志/監督助手:森木正己・藤原健一/撮影助手:鬼頭信行・岡宮裕/照明助手:渡部和成/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/効果:東京スクリーンサービス/スチール:田中欣一/協力:モルフェス・川村真一・梅原淑行・佐藤睦・小川純子・劇団『火の鳥』・歩衣ちやんのファン/特殊緊縛:濡木痴夢男/出演:森尾歩衣・伊藤猛・佐野和宏・斉藤桃華・荒木太郎・伊藤舞・遠藤由紀・久保新二《友情出演》・津崎公平・港雄一)。
森尾歩衣(終に役名は呼称されない)宅をチンピラじみた若い衆(火の鳥の皆さん)がガサ入れし、一味を率ゐる、太陽か大洋運送社長秘書・角田ハルヒコ(伊藤猛)は我関せずとばかりに、花瓶に挿された薔薇を愛でる、トーダイモトクラシー。探し物は見つからず、埒が開かないゆゑ森尾歩衣を拉致、角田は落ちてゐた佐野和宏のスナップ写真を拾ふ。角田がスナップを胸の内ポケットに納めたタイミングで、薔薇の花束にタイトル・イン。そのまゝ、カット跨いで伊藤舞女王様が隷女(遠藤)を薔薇束で打つ一幕に移行する繋ぎ―だけ―は、画期的に洒落てゐる。SMショーを大洋か太陽運送社長・瀬川エイジ(港)と、広瀬隆の『最後の話 死の灰と世紀末』を常時手放さないその息子(荒木)、若い衆が楽しむ席に、遅れて角田も顔を出す。すると瀬川の娘でもある婚約者・ユミ(斉藤)から婚前交渉ヤル気満々の呼び出しの電話―携帯が鬼のやうにデカい―が入り、角田はそこそこに中座。ユミも知つてゐた佐野和宏の正体は、鶴になつた瀬川の元秘書・岸川リョースケ。恋人である岸川が盗んだ裏帳簿の所在を求め、森尾歩衣は囚はれたものだつた。
配役残り、秋山駿名義でピンク監督作もあるとの津崎公平(1995年没)は、瀬川とよからぬ遣り取りを交す大物国会議員・角丸先生。久保新二はクレーンの現場に目立つ白ジャケット姿で花を添へる、瀬川の太鼓持ち的ポジション。
早過ぎる急な訃報が強い衝撃と深い悲しみとを呼んだ、伊藤猛を偲んで何か出演作を見るかとDMMを漁つてみた、久保チン御当人のブログによると「ザ・妊婦」(1992/監督:川村真一/脚本:友松直之・川村真一/主演:竹村祐佳)に続くプロデュース第二弾。全く馴染みのない若月美廣といふ名前に関しては同じく、シネマジックを主戦場にSMものを得意とするAV監督とのこと。さうしてみたところ、伊藤猛が何の毒なり闇も含まぬ堅気の役で片翼捥がれた印象が否めないのと、80年代の残滓を色濃く引き摺る、レス・ザン・シャープネスなスーツのダサさは如何ともし難く厳しい。倅に促された角田が、縛られ横たはる森尾歩衣を鞭打つ件。ピンク映画は女優の裸が映つてあればそれで事足りると一面に於いてはいへるものの、荒木太郎には問題ないフレームに伊藤猛の尺が収まりきらず、葛藤してゐる筈のハルヒコの表情が暫し切れる、間抜けな画角の悲運にも見舞はれる。兎にも角にも、もしくはそれどころではなく。要は裏帳簿は何処だの一点張りで女を責める地点から殆ど全く動かない稀薄な物語以前に、今作の致命傷は主演の森尾歩衣。鞭以外にも熱ロウを受けクレーンに吊られ聖水を浴びる、当時的にはそれだけのプレイを実際にこなしてゐれば重宝されたのか、キーキー耳障りな声で泣き喚くのが正しく関の山、貧しいお芝居にはせめてアテレコして呉れよと匙を投げるほかなく、乳も確かにある程度太いとはいへ、腰周りはなほ一層紛ふことなく太い。リアルタイマーならばメモリー補正でまだ見られたのかも知れないが、正直この期に及んで蓋を開けて、あるいは踏んでみる素材ではない。堂々とバレてのけると、角田が変心、息子から森尾歩衣を奪還し逃走する。「どうしてアタシを・・・?」といふ問ひに対して、「俺にだつて判らない」。心配御無用、斉藤桃華と約束された将来を捨て、森尾歩衣を選ぶ行動原理が観客にはなほ一層判らない。挙句に続けて、「ただアンタが美しく見えただけだ」などといふに至つて完全にチェック・メイト。闇献金が露見したにも関らず、瀬川と舞女王様の相変らずな劇中第二戦で締める謎のラストが、全篇を貫くマッタリ乃至モッサリ感を別の意味で完成させる。淀川長治先生いはく、どんな映画にも一箇所くらゐチャーミングなところがある。映画丸ごとチャーミングだとでも思はなければ最早やつてゐられない、お茶目さんな一作ではある。
タイトルにまで謳ふ聖水折檻―主は瀬川―に際して、さういふ演出でもあるのであらうが普通に嫌々浴びる森尾歩衣よりも、自らもビショ濡れになるのも厭はず森尾歩衣を固定した上に、最終的には尿塗れの顔をベロンベロン舐め回す猛ハッスルを披露する荒木太郎の方が、余程筋金入りの変態に映る。
結局、全く追悼になつてゐない件。佐々木麻由子と共演した、青シャツに黄色いタイの伊藤猛が本当に実写版ルパンに見えたピンクを探したのだけれど、見当たらなんだ。
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