真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「喪服妻 湿恥の香り」(2000/製作:多呂プロ/配給:大蔵映画/監督:荒木太郎/作・出演:快樂亭ブラック/撮影:飯岡聖英・堂前徹之・清水慎司/編集:酒井正次/助監督:田中康文/制作:小林徹哉/音樂:篠原さゆり/ポスター:木下篤弘/応援:松岡誠/めくり:春風亭昇輔/   タイトル:堀内満里子/名ビラ:春風亭昇輔/応援:松岡誠/協力:染屋冬香・吉行由実・大町孝三・快樂亭ブラ汁/録音:シネキャビン/現像:東映化学/タイミング:安斎公一/出演:時任歩・伊藤清美・前野さちこ・⦅特別出演⦆ターザン山本・岡田智宏/   出演:伊藤清美・前野さちこ⦅新人⦆・時任歩・⦅特別出演⦆ターザン山本・岡田智宏/エキストラの人々:今泉浩一・太田始・内藤忠司・小林徹哉・下ガイトジュン・田中康文・松岡誠)。複雑怪奇な表記は、アバンとエンドで情報量ないし肩書はおろか、ビリングからクレジットが異なつてゐる由。便宜上もしくは視覚的効果を狙ひ、三拍空けたスペース以降がエンド版。エンドでしかクレジットされないエキストラは、時任歩と落武者の間に入る。
 六年後、真打昇進にあたり瀧川鯉朝に改名する春風亭昇輔が、名ビラの形でクレジットを一枚一枚捲つて行くだけのアバンを経てタイトル・イン、ヒムセルフの快樂亭ブラックが高座に上る。葬式を終へたのち、「吉原に 回らぬ者は 施主ばかり」。喪服女の色気なる、無粋な当サイトがいまひとつもふたつも理解してゐない―兎に角固定されるのが苦手なのね―大定番嗜好を投げた上で、「実は私行つて来たんですよ、イメクラの未亡人喪服プレイに」。正しくモップみたいな頭の嬢・夢美(前野)と快樂亭が一戦交へるのは、風俗ライターの与田明(岡田)が記事を書く取材の一環。快樂亭と、後述するターザン山本。この二人が顔も体も汚い反面、前野さちこの柔らかみも感じさせる所謂ロケット乳はエモーショナル、つくづくぞんざいな髪型が惜しい。咥へて、もとい加へて。清々しく棒のターザン共々、口跡も商業映画に出演させるには、凡そ相応しからぬレベルで心許ない。
 配役残り、エキストラ隊は寄席の客と、中盤途轍もなく木に竹を接ぐ、往来ミュージカル要員。未亡人喪服プレイの火蓋を切る、遺影の男は手も足も出せず不明。そして時任歩が、この人も出版業界といふ設定に意味は別にない、与田の婚約者・麻里。先に浴衣で飛び込んで来る、伊藤清美が稲田の妻・泰子で、改めて振り返つておくと1996年の六月にベースボール・マガジン社を退社しただか事実上放逐された、ターザン山本は与田が仲人を乞ふ作家の稲田和弘。ちなみかついでに、劇中稲田と泰子の結婚も四年前。与田と麻里が二人ともバツイチ、麻里にはゐる息子・ショータ君役の男児も知らん。あと、カットの隙間を突くとシドニー帰りの与田を愕然とさせる、見出しと写真だけ差し替へた、稲田の死亡記事が実際には峰隆一郎の訃報。泰子の述懐によると稲田の享年は―ターザンの当時実年齢と同じ―五十五ゆゑ、峰隆一郎が六十八で亡くなつた文面と実は食ひ違つてゐる。
 荒木太郎2000年第四作は、種々雑多な名義で十数本のピンクに出演してゐる二代目快楽亭ブラックが脚本も担当した、快樂亭ブラック名義による最終作。かと、思ひきや。よくよく調べてみるに、狭義のピンクは確かに打ち止めながら、2005年に矢張り多呂プロの薔薇族「優しい愛につゝまれて」(脚本:三上紗恵子/主演:武田勝義)がもう一本あつた。量産型娯楽映画の藪は、マリアナ海溝より深い。
 快樂亭ブラックが快樂亭ブラックのまゝ高座から狂言回しを務め、何処から連れて来たのかあのターザン山本が、しかも伊藤清美相手に結構普通の絡みを敢行する、一大変化球もしくは問題もとい話題作。流石に荒木太郎も色物を自覚したか、序盤にして驚愕の十分撃ち抜く、分量のみならずテンションも完全に締めの与田と麻里の婚前交渉始め、腰を据ゑた長尺の濡れ場を三本柱各々放り込む、女の裸的には案外安定する。噺家相手に黙れといふのも何だが、快樂亭が至らぬ水を差しさへしなければ。さうは、いふてもだな。最終的に、与田の隣に誰がゐるのか最後まで判らない、見終つても釈然としない物語本体は大概へべれけ。中途半端な抒情をかなぐり捨て、泰子が仏前で与田によろめく急旋回の急展開には度肝を抜かれ、目撃した与田と、与田が部屋に呼んだ夢美との情事を体験取材で無理から不問に付す、麻里のバーホーベンならぬばか方便には呆れ返つた。そもそも、大して膨らみも深まりもしない物語をひとまづ起動させる、麻里のマリッジブルーから徹頭徹尾手前勝手か自堕落な他愛ない戯言で腹も立たない。散発的に闇雲な情感を―独力で―叩き込む伊藤清美と、前野さちこのオッパイが、映画と裸それぞれか精々のハイライト。事後そゝくさベッドを離れ服を着る麻里を追ふ、カメラは無駄か下手に動いた結果ピントを失し、終盤出し抜けに火を噴く、藪蛇な烏フィーチャは烏で何をしたいのか烏の何がそんなに好きなのか、1mmたりとて理解出来ない盛大な謎。要はそこそこ健闘してゐる筈の裸映画の足を、木端微塵の劇映画が引くやうな始末か不始末ともいへ、端からオチの顕(あらは)な小噺でなほ、一篇をひとまづ綺麗に括つてみせるのは快樂亭にとつて本業の、そこは流石に伊達ではない底力。

 春風亭昇輔が師匠の死に伴ひ移籍した結果、空白期間を挿みつつも長く荒木太郎映画で準レギュラーを務めた、ex.瀧川鯉之助(ピンクでは滝川鯉之助名義)の春風亭傳枝と同門とかいふ、意外か偶さかな世間の狭さに興を覚える。


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