酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「昭和が終わった日」~青春にピリオドを打った頃

2010-01-08 00:56:25 | 読書
 21年前の昨7日、昭和が幕を下ろした。読み終えたばかりの「ドキュメント~昭和が終わった日」(佐野眞一/文藝春秋)については簡単に触れるにとどめ、俺個人にとってのXデーについて記したい。

 俺が同書にピンとこなかったのは、昭和天皇との距離が著者より遠いからだろう。第一章は「偉大なる君主の死」と括られているが、俺の目に昭和天皇が「偉大」と映ったことは一度もない。いきなりの「?」である。

 前半では昭和天皇の発病から新元号発表に至る経緯が、後半では1989年をメルクマールに様々な出来事が俯瞰の目で綴られている。美空ひばり、松下幸之助、手塚治虫の死、バブルと尾上縫、リクルート事件、ベルリンの壁崩壊、宮崎勤、オウム……。すべて昭和天皇と関連づけられているが、俺にとっては19年前(70年)の死――身代わりとしての三島由紀夫の自決――の方が意味は大きい。

 翼賛メディアは戦争中と同じく、〝すべての日本人は病状を心配している〟〝国民は悲痛な思いで喪に服している〟というまやかしをまきちらした。恥ずかしながら俺も、スポーツ紙の校閲担当として端っこでぶら下がっていた。各紙(誌)の中枢を占めた全共闘世代は不敬のポーズを取りつつ、「陛下」が「陸下」に化けていようものなら泣き出しそうな表情でヒステリックな声を上げていた。

 Xデーは土曜日だった。午後2時、俺は熱に浮かされて目が覚める。悪寒がして声が出ない。入社5年、初めての欠勤を伝える電話を入れる。風邪薬を飲んで布団に潜り、再び覚めた夕方5時。汗ぐっしょりで熱は下がり、喉の痛みは消えていた。 風呂に漬かってすっきりし、テレビをつけて異変を知る。

 近くに住む大学時代のサークル仲間に電話を入れ、先輩宅に集合する流れになった。 風邪の症状はすっかり消え、軽快な足取りで訪れたレンタルビデオ店では、貸し出し率が100%である。「第2弾、近いうちに起きないでしょうかね」とパンクロッカーの店員がホクホク顔で言う。江古田は「非国民村」かと思ったが、日本全国、どこも似たような状況だったらしい。

 ♪臨時ニュース カー・ラジオも番組やめて ニュース速報流しつづける(中略) 耳そばだてるおれに感じる いつもながらの街の鼓動 刺激を餌に太る街なら おれを肴に飲めようたえ喰らえ踊れ……

 Xデーの滑稽さを予言したのはPANTA&HALの「臨時ニュース」だ。「1980X」(80年)に収録された同曲の歌詞に、PANTAの知性が窺える。俺たち〝江古田組〟もまた、昭和と昭和天皇を肴に語り明かしたのであった。

 死後21年、昭和天皇はメディアによって<平和主義者>に祭り上げられた。01年ピュリッツァー賞受賞作「昭和天皇」(ハーバート・ビックス/講談社)とは真逆の論調である。メディアは昭和天皇だけでなく、俗情と結託して戦争を煽った自分たちをも、<軍国主義の犠牲者>と位置付けることで免罪したかったのだろう。

 メディアはともかく、年齢に比例して昭和天皇への厳しさは増す。保守派の母でさえ、俺の顔をまじまじ見て「天皇が責任を取らなかったから、日本の男はキンヌキになった」と繰り返す。俺の体たらくはむろん自己責任で、昭和天皇のせいにするつもりなど毛頭ないのだが……。

 元号で時を区切る習慣はないが、89年以降、大学時代、プータロー時代の友人と疎遠になった。結婚、Uターン、行方知れずと理由は異なるが、俺が青春と呼べる時期は終わったのだ。みんなマトモになっていった。それでも俺は、糸が切れた凧のように、低空で風に揺られ続けている。


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2 コメント

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青春の輝きはどこへ… (バジ・オ)
2010-11-30 16:53:20
はじめまして、バジ・オと申します。いくつかの記事を、興味深く読ませていただきました。

青春が終わってしまう原因は、自分にあるのでしょうか、それとも社会のシステムにあるのでしょうか…

僕の青春は16歳で終わってしまったように思います。
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16歳? (酔生夢死浪人)
2010-11-30 23:46:52
 私の場合、16歳の頃は果たして青春だったか微妙です。上京してからがスタートだったと思います。

 定義とか難しいですが、青春というのは誰かがそばにいないと不安に感じる時期なのかも。当時はメールとか携帯もなかったし。

 まあ、人それぞれですが……。

 芝居とかバンドを続けている人たちは、有名無名を問わず、死ぬまで青春を謳歌いるようで羨ましく思います。 
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