気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

わかめに至る

2007-01-31 20:13:32 | つれづれ
気を失う間際にひょいと思いしはこのまま死ぬには部屋がメチャクチャ
(山本照子)

小池光氏書きたる結社方針が電のごとくわれを撃ちぬく
指導することを拒める結社とぞ即入会をわれ決断す
六十七歳新たなる出発だ欣喜雀躍「短歌人」となる
(永井秀幸)

忘れもの思い出すため五十音をあからはじめてわかめに至る
(利根玉惠)

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バスの中で短歌人2月号を読みすすむ。きょうは会員2のところを読んでいて、あまりの面白さに声をあげて笑ってしまいそうになった。どなたにもまだお会いしたことはないが、このユーモアに拍手を送りたい。ちなみに、わかめはわたしの大好物です。
最近、短歌人会に入りましたという挨拶を、ネット上で聞くことがある。わたしも夢中でやってきて、五年がたった。いままで半年ずつ払い込んでいた会費を今年は、一年分払い込んだ。ずっと短歌を続けられるよう身体を鍛え、精進したい。


きのうの朝日歌壇

2007-01-30 18:12:18 | 朝日歌壇
歳末の日暮れははやし歯科医にて口あけている間に暗くなる
(高松市 菰渕昭)

家族してコンビニへゆく昼さがりうぶ毛のごとし元日の幸
(和泉市 長尾幹也)

妹の命奪いし兄の記事読みつつ火垂るの墓を思いぬ
(静岡市 安藤勝志)

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一首目。十二月の日暮れの早さを歌った。この「はやし」がひらがなであるのが面白い。「早し」とも読めるし、名前の「林」とも読める。こういうワザをちょっと見つけたときに嬉しくなる。
二首目。ささやかな幸せを「うぶ毛のごとし」と表現したのがうまい。わが家もそろって、ちょっと遠くのジーンズショップまで散歩がてら出かけて、みんなでお父さんにあれこれ買ってもらったのだった。すみません。
三首目。この事件の家族も歯科医だった。そこの患者さんはきっと別の歯科医に行くのだろうな。先生には申し訳ないが、わたしなら気分悪くて、やはり行けない。


牛乳

2007-01-28 00:25:34 | おいしい歌
牛乳を四合も飲みて青年のごとくになりぬ山の牧場に
(小池光 短歌現代12月号 鳥取秋天)

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きのうは朝日カルチャー小池教室の日だった。今回は、自作について作歌の秘密を聞かせていただいた。本人の口から聞く解説はまた格別の真実味がある。この一連は、去年の十月に腰痛に苦しみながら、鳥取に講演のため招かれたときの歌。
しぼりたての牛乳は、あっさりしていてどんどん飲めるらしい。そして力を得て、青年のようになったとおっしゃる。今年還暦ということだが、ご本人を見ていると、若々しくそんな年齢には見えない。髪も椿油の効果で黒々している。何より、まだまだ短歌を作るぞ!・・・という意気込みが若さの秘訣だと見た。


ステーキ

2007-01-25 23:37:25 | おいしい歌
二時間でひと世を終へし俳優が次のテレビでステーキを食ふ
(公募短歌館2月号 奥村晃作選 秀逸)

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角川短歌の公募短歌館もときどき投稿している。まだ特選になったことはない。こんなこと家族に話しても「それがどうした」という反応だろうから、言わない。けっこうお金と手間のかかる道楽である。でもいまのところ、楽しいから止めない。とくに人の歌を読むことが楽しい。どんどん出来る時期、スランプ・・・これからいろいろあると思うけれど、ゆっくりと続けたい。

現代短歌作法 小高賢 新書館

2007-01-18 21:00:10 | つれづれ
鴎外の口ひげにみる不機嫌な明治の家長はわれらにとおき
(小高賢)

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ふと新刊書店の短歌の棚で手に取った『現代短歌作法』が滅法おもしろかった。
小高賢が新書館から最近出した本。とくに、短歌自分史という章が興味ふかい。もともと短歌に興味の薄かった小高氏が、馬場あき子との偶然の出会いから、どんどん短歌にのめり込んで行く様子が、くわしく書いてある。短歌の入門書というのは、何冊も出ているが、現状を知るにはとにかく新しく書かれた本が、役に立つし面白い。本の名前は堅いけど、とれとれピチピチの短歌の本。おすすめです。


きのうの朝日歌壇と折々のうた

2007-01-16 18:37:34 | 朝日歌壇
あたたかき小銭を返すはじめてのおつかいに行った子は母の手に
(市川市 城戸真紀)

先生も子も免れぬ評価とう細かき網に親はかからず
(名古屋市 森由佳里)

捨てるなら捨ててごらんよと一束の黄ばみし手紙吾を凝視す
(東京都 松下ゑん)

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一首目。はじめてのおつかいという素材はテレビ番組にもなっていて、親も子もドキドキする。お釣りの小銭のあたたかさが、子どもの必死さを伝えている。
二首目。親になるのは簡単だが、優れた親でいることはむつかしい。親が立派すぎるとまた子どもは萎縮してしまうものだ。子どもがいくつになっても、親としてこれでいいんだろうかと悩むことは多い。うちの場合は、もういまは考えないことにしている。幸せに暮らしてほしい。
三首目。古い手紙を捨てるかどうか迷っている作者を、手紙の側から見た作りにしていて面白い。

新聞歌壇を読んでコメントをつけていて、歌の作り方より、内容への共感で選んでしまうことが多い。プロの歌人の歌集を読むと、難解でわからないが、ある種の言語感覚を刺激していて面白いと思わせるものがある。同じ短歌であるのに、フィールドによって、こんなに違うのかと思う。あれもこれも読みながら、自分らしいものが出来るようになれば・・と願っている。

今日の折々のうたでは、蒔田さくら子『サイネリア考』から一首が紹介されていた。
「ゆたゆたと有限(うげん)を無限につなぐ河灰となるべきひとの舟ゆく」
蒔田さんはますます円熟味を増して来られたように思う。次の日曜、新年歌会でお目にかかるのが楽しみだ。


歌会始

2007-01-15 20:55:25 | つれづれ
弓張りの月のかたぶくころほひに携帯メールはひそやかに来ぬ
(広島県 杉田加代子)

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新年歌会始めに杉田加代子さんが選ばれて出席されるとのこと、新聞で知って、その日を待ちつづけてきた。厳粛な雰囲気の中、想像通りうす桃色の着物姿が美しかった。
杉田さんとは朝日カルチャー岡井教室のお友達で、わたしは後輩。去年、岡井先生が歌会始めのお話しをされたとき、同じ教室で聞いていたが、彼女は応募し二万三千通あまりの応募作の中から選ばれた。すごいことだ。
上句の雅びな言葉つかいから一転して、携帯メールという現代的な素材を持ってきた取り合わせが巧み。本当におめでとうございます。
杉田さんの歌をもっと読みたい方は第一歌集『マクベスの妻』が砂子屋書房より出ています。


悲しきペコちゃん

2007-01-12 23:59:28 | つれづれ
ペコちゃんを遠くみてゐしポコちゃんの暗く切なき少年の季
(吉岡生夫 草食獣 第五篇)

舌出したまま直滑降でゆくあれは不二家の冬のペコちゃん
(穂村弘 手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ))

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不二家の不祥事から、思い出した歌。
私は、ミルキーが好きで以前一袋近くを一度にくちゃくちゃ食べていた。あと、ケーキドーナッツというのも好物だった。小学生のころは、パラソルチョコレートの棒をかなり集めていた。なんだかこういうことがあると、寂しい気持ちになってしまう。
私も、題詠マラソン2003のドーナツのお題で作っていました。


木馬

2007-01-10 23:00:34 | つれづれ
陽光に歓びのうたはじけつつアフリカアフリカちちふさゆるる

ボーイソプラノうたふ菩提樹 ざわざわと青葉梟(あをばづく)鳴く森の明るさ

幸福のしじまのごとき木馬の背にまたがり子らはとはに走れり

十本の色えんぴつの少女たちアイリッシュ・ダンス終へて一列

テラスにはフィッシャーマンズ・セーターの似合ふ老人新聞ひらく

(紺野裕子 マドリガーレ 砂子屋書房)

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陽光のうたは、白夜ー空想の旅へーという一連から。
四首目、五首目は、アイルランド空想紀行という一連から。
こういう短歌の作り方もあるのだと思う。

このブログで、読んでいる歌集からわたしの気に入った歌を取り上げているが、そこからその歌集に興味をもって、一冊を手に取って読んでもらえたら、すてきだといつも思っている。


マドリガーレ 紺野裕子

2007-01-10 00:50:18 | つれづれ
ヘロドトスの旅せしといふ王の道おもひつつ一人ひるのパン食ぶ

拝火教のたかき炎は照らしけむ夜の砂漠のかぜのゆくへを

ざんぶりと青菜洗へばあすゆかむ一枚の空たちあがりたり

精神科の医者の背後の窓にゐるカラスおまへはおほく知る者

エーゲ海の潮のにほひに洗はれし一千のまどの一つをひらく

(紺野裕子 マドリガーレ 砂子屋書房)

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紺野裕子さんは短歌人会の先輩。わたしがはじめて甲府の全国集会に出たとき、ホテルの部屋が同じでそれ以来親しくしていただいている。
歌集の題の『マドリガーレ』は、あとがきによると、十四世紀イタリアにおこった声楽音楽のことらしい。紺野さんが声楽をしていらっしゃるとは、いままで知らなかった。この歌集には、海外旅行の歌がとても多い。しかも旅に出るまえから、思いを馳せて歌にしている。空想の旅へ・・・という章もある。現実はキッチンで青菜を洗っていても、生活臭にまみれずいつも美しくいられるのは、この想像力のおかげだろう。何しろ憧れるような綺麗な方である。