気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

レプリカの鯨 野上卓 現代短歌社

2019-01-30 18:44:35 | つれづれ
ゴンドラに窓拭く男と目の合いぬ退職願に印を押すとき

両親にあてた特攻隊員の葉書サイズはわずかに小さし

原爆に死にしわが子がよく似ると牡蠣食む我に言いし人あり

トロ箱を這いだす蛸をおしもどし明石魚棚はつなつの午後

葬儀屋が祭壇生花を運び込み棺は隅に寄せられており

友情は具体的なる行為にて佐々木主浩法廷に立つ

アンモナイト億年かけて石となり小学生にさすられており

妖精はときにジジイで森にすむ宮崎駿・高畑勲

マンガさんバクさんゲタさんゾウさんの早春賦きく二月某日

あおあおとしたたる光三輪山に満ちて世界は夏と呼ばれる

(野上卓 レプリカの鯨 現代短歌社)

みづのゆくへと緩慢な火 白石瑞紀 青磁社

2019-01-14 19:45:47 | つれづれ
父の背がラッシュに紛れ地下鉄のどこかにあらむ黄泉平坂

行き先を巻き上げている路線バスが右折するまで眺めてしまう

天金の昏きをぬぐいやりたれば人差し指の腹がくすみぬ

「バン」「鷭」とスマートフォンに顔寄するヒトを見つめる鷭といふ鳥

ここまでの運転士さんが座布団をわきにはさみてホーム歩めり

自転車の鍵をさぐればポケットのなかで最初に触るるクリップ

俯きて図書館に来て俯きて出でゆく子らの手のひらの画面

ショーに出ぬイルカの尾びれ見えてゐるショーのプールの奥の水面

さみしいと言はばあなたは困るだらう凭れゐるドア次開きます

見てをらぬすきにとととと走るらむ尾羽揺らして若冲の鶏

(白石瑞紀 みづのゆくへと緩慢な火 青磁社)